うなれ、潮風、逆巻け、怒涛、海賊王よ、いかりをあげろ(松山ケンイチ)
素晴らしい出来栄えである。
大和朝廷成立以来、最初の成り上がりである平清盛のおいたちを見事に描ききっているな。
途中、「宋船」を「からふね」という件がある。「から」とは「唐」を指すようであり、また「韓」をさすようでもあるが・・・実は加羅の国のことである。
大和朝廷は半島・列島を対馬で結んだ海洋国家、倭の国から分離独立した王家である。彼らの世界観ではかっての祖国を含めた列島以外の地はすべて「空」(から)の国であった。つまり、外国である。
つまり、「からふね」とは「外国船」のことなのである。
一方、佐藤義清と堀河局の百人一首コンビは待賢門璋子を評して「心が空っぽの人」と言う。天皇の性奴隷として造形された前中宮の心は異人のようである・・・と寝物語をするのである。つまり、心が外国人なのだな。
このようにセリフのひとつひとつがきちんと理にかなっているわけである。
やはり、祇園精舎の鐘の音はちりとてちんとなるのだな。
で、『平清盛・第6回』(NHK総合20120212PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は鱸丸を養子に迎える伏線が準備万端整った平盛康描き下ろしイラストを始め、裕福な高階家に養子に出たばかりに出世の道を一度は断たれて大陸伝来の科挙にあこがれる男、後の信西、藤原通憲「よーいっ」、そして清盛の対宗貿易の切り札になると思われる西海の海賊王・兎丸の三大イラスト展開、例によって男ばっかりじゃないですかーっ。そろそろ、姫を・・・。じゃないと、時子が淀になっちゃいます~。おい、プライベートな通信はコメントでやれよ。
時は1135年・・・長承4年と保延元年の間である。この頃、噂の鎮西八郎為朝はまだ生まれていないので・・・琉球はまだ王国以前の段階である。同様に、北海道のアイヌ庶民もまだ完全に大和朝廷の支配下にはない。日の本は東北の一部を除く本州と四国そして九州を一応傘下においている段階である。もっとも近い隣国である半島国家は高麗で第10代高麗王靖宗が代を継いだばかりである。そして、大陸ではすでに金が北宋を滅ぼして、南北分裂時代に突入している。つまり、ここで言う宋とは南宋のことである。「水滸伝」の原型である「宋江三十六人」の盗賊たちも今は昔の人になっているのである。北宋末期徽宗皇帝の退位から10年が経過しているのだな。南宋の初代皇帝となった徽宗の九男・高宗は金に対する朝廷内の融和派と交戦派のかじ取りに日々心を悩ませている。一方、金では第3代皇帝熙宗が即位したてである。ほぼ、中国の半分を手にした金だが・・・辺境一族の哀しさで人手不足と急速な漢化に悪戦苦闘中なのである。さらには自分たちの出身地である北の蛮地ではさらなる勢力が蠢動しているわけである。だが・・・それは後の世の話だ。
このように・・・日の本も乱世だが、アジア周辺諸国もまたなかなかに乱れた状況なのである。こういう時は逆に庶民にとっては自由を謳歌する良い時代と考えることもできる。それはもちろん、弱肉強食の実力主義を意味するのだが・・・自由は平等や平和とは対立する概念なのだから仕方がない。
平氏一族は一方で古い中央集権勢力の権威を利用しながら、一方では各地に着々と私的領地を獲得し・・・実力を蓄積していったのである。
ローマは一日にしてならずと言うように伊勢平氏もけして清盛一代で成り上がったわけではない。だが・・・清盛という麒麟児が生まれなければ・・・平氏が天下をとることもなかったのである。もちろん、日の本では天下をとることができても天にはなれないという恐ろしい呪いがかかっていることは言うまでもない。そういう呪いが「皇室を王家と言うのは許せない」などというあんぽんたんな主張を生むわけである。王家とは大王家の略でなんの問題もない。
それはさておき、平清盛は伊勢平氏の庶流であり、平家水軍の長である平忠康とともに瀬戸内海海上にあった。率いるのは河内源氏の村上水軍20艙であり、舟侍は20人。それぞれが10人ほどの郎党を率いているためにおよそ200人の軍勢であった。
後続している主力部隊は父・忠盛が500人ほどの手勢を率い、熊野水軍によって輸送されている。
忠康の一の姫、波音と一戦交えて意気の上がった清盛は忠康を舳先に呼び出した。
「そりゃ、潮の流れはよかろうが・・・このまま、賊の本拠につっかけたらどないやろ」
「しかし、若大将、お殿様は自重なされよと申しておったではありませぬか」
「お前も乳父の盛康のようなことを申す。この清盛、王家の血が騒いでならんのや。お前が止めるなら・・・我は一人でもつっかけたるわ」
清盛の眼に怪しい光が浮かびだす。こうなれば、この若者に逆らうことはできないのである。
「承知しました。この忠康とて腕が鳴っておりまする・・・このまま一気呵成に賊を討ちとってごらんにいれましょうぞ」
潮に焼けた忠康の顔にも血の気がさす。
まもなく、清盛の前衛軍は目当ての海賊衆の縄張りに足を踏み入れる。
水夫百人を乗せた巨大な海賊船は元は宋の交易船、青龍号であった。それを唐津の海でのっとったのは河野水軍の流れを組む藤原兎丸である。兎丸は自らを藤原純友の生まれ変わりと称し、父である盗賊・朧月から習い覚えたしのびの術で安芸海賊の頭領におさまっている。
「かしら・・・都の軍勢がやってきましたぜ」と呼びかけたのは一の子分の油谷だった。
「ふん・・・どうせ、ふ抜けの貴族くずれじゃ・・・生け捕って裸にむいちまえ」
「それじゃ、あっしが先手をひきうけますわい」
するすると青龍号から小舟に移った油谷は巨漢である。力士のようにでっぷりと太った体は意外なほど俊敏な動きを見せる。
「我は藤原兎丸様の侍大将、大和の油谷じゃ。腕に覚えがあるものあれば相手になるで」
「ふふん、こしゃくな奴め」と清盛は言うより早く、ひらりと体を踊らせる。
「あっ、若大将」と忠康たちが茫然とするうちに、清盛は超人的な跳躍力で敵船に移っていた。その時にはもう、愛剣である宋剣「北斗七星の剣」を抜刀している。
振り下ろした剣が油谷の体を真っ二つに切り裂いたと見えた時、ぷるんと身を震わせて油谷は剣を滑らせるようににかわしている。
「なんと・・・」
「あっはっは、わしに剣はきかんのじゃ」
「面妖な奴」
気がつけば・・・油谷は全身からぬるぬるとした体液を分泌していた。これが潤滑油となり、さしもの名剣も切り口を得られないのである。
「さあ、わしの番じゃ」油谷は清盛につかみかかった。
その気味悪さに清盛の心眼が開く。
「このもののけめ」
清盛がさけんだ時には油谷の体が炎に包まれていた。
「おお・・・王家の血じゃ・・・日の御子様(みこさま)の御術(おんわざ)じゃ」
忠康が讃嘆の声をあげる。
「うわあ、燃えてる・・・わしが燃えてる」
油谷は叫びながら海に体を投げ出した。
「見たか・・・清盛が秘術・・・炎の眼差し・・・それ、ものども突撃じゃあ・・・つっかかれい」
たちまち水軍勢は宋船に殺到する・・・。
王家の血と巫女の血の融合が・・・清盛に先祖がえりの能力を与えていたのである。
多勢に無勢である。追い立てられた兎丸は海に投げ出される。
「たっ、助けてくれ」
「なんじゃ・・・」と清盛は兎丸を見下した。
「俺は・・・泳げんのや・・・」
「・・・」
関連するキッドのブログ→第5話のレビュー
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コメント
どうもです
いやぁ一応女性陣はたま子様と得子様までは描いてるんですけどねぇ
どこで公開しようかなと
明子は今日から、その次に時子ってな具合ですかね
この後、王家の方々に摂関藤原家に平氏の家人に源氏の家人と描くネタは豊富
・・・そんなこんなで描く方としては先が思いやられる今日この頃
西海にて海賊討伐という名目で
海賊など王家に不満をもつ者たちを取り込み
勢力を強めていく平氏に対して
平氏の勢力が及ばない東国にて勢力を拡大を図る源氏
これが今の日本の構図を示すものではないかと
思えるような感じがしますねぇ
なんにしてもこの先も楽しみでございますわな
投稿: ikasama4 | 2012年2月14日 (火) 12時51分
ふふふ・・・平家物語は姫の消費率たかめですからな・・・。
御苦労さまでございます。
あくまでマイペースでお願いします。
例によって改良姫・改良武将の無断登場を
事前におわび申し上げまする。
平安時代は神話時代と歴史時代の
ひとつの境界線というか・・・暗黒時代でございます。
歴史的資料は豊富だが・・・客観性を欠くというか・・・。
一種の個人史の集合体で
何が嘘やら誠やらなのでございますよね。
そこをさすがにちりとてちんと
独自の解釈とあそびごころで
それなりにつじつまあわせてくるという
キッドは今のところ、
その腕前に舌を巻いておりますな。
ある意味、将門、純友リフレインなのですな。
平氏はどんどん西へと進み、貿易で富を得る。
源氏はどんどん東へ進み、開拓し、土地と人と馬を得る。
どちらも地方豪族とはそれなりに手を結ぶ。
そして最後は紅白歌合戦というか
東西決戦で優勝者決定という運びです。
そういう意味で尾張の勢力や難波の勢力は
今も昔も侮れんということですなあ。
平安京も東京都も一緒ですなあ。
とにかく・・・ふるきものたちの
血も戦国時代よりも濃厚なこの時代・・・。
どんなもののけがとびだすのか・・・
もう楽しみでたまりませんな~。
女子衆にはわからない
男子の血が沸騰でござりまする・・・。
投稿: キッド | 2012年2月14日 (火) 15時32分