さよあけてゆくえあやまつからのふねめざめしきみのひとりゆれけむ(松山ケンイチ)
夜が明けて朝になってみると、行く先を間違えた空の船である。目が覚めた清盛は迷子になって、一人でさびしく波にゆられている・・・恐ろしい情景である。
やはり、加藤あいはこうでないとな。「平家の御曹司に口説かれちゃったんですーっ」(加藤あい)にしたいところであるが自重しました。「なんだかまだまだおさない胸がときめいてしまいました」(深田恭子)だってありますからーーーっ。
夢の堀越高校2002年度卒業生共演である。・・・そこかよっ。
大河ドラマで年齢のことを問うのは禁じているが・・・二人とも実年齢29歳だからな。年齢不詳の明子はともかく・・・時子は9~11歳くらいの童女である。しかし、見事に童女を演じきった深田恭子おそるべし・・・というかみごとなキャスティングだ。まもなく三十なのになんちゃって小学生を演じられる女優は他にいないものな。なにしろ、深田恭子はギリギリまで絞ってきているし・・・みあげた役者根性である。
で、『平清盛・第7回』(NHK総合20120219PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の二人の妻・高階近衛将監(従六位上)基章の娘・明子と平兵部権大輔(正五位下)時信の娘・時子の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。ちなみに明子は関白・藤原忠実のご落胤という噂もありますので・・・清盛と明子は世紀のご落胤カップルなのでございます。まあ、この作者だとその点にふみこみかねないので楽しみです。
で、今が何年かが定かではないのである。清盛が従四位下になったのは保延元年(1135年)のことであるし、美福門院藤原得子が叡子内親王を出産したのはその年の暮れである。清盛と明子の間に長男の重盛が誕生するのが保延四年(1138年)であるから・・・清盛と明子の婚姻はその間の出来事となる。というわけでおそらく、今回は保延元年から二年(1136年)にかけての出来事であろうと思われるのである。まあ、ここまで平安時代は常春の国みたいな感じだからな。いつ、越年したのかも定かではないということである。
さて、お茶の間では身分の差がちんぷんかんぷんという方もいると思うので・・・基本的なところを記してみる。もちろん、身分は時代によって流動的な部分もあるし、各人は昇進したりする。なのであくまで目安の話です。まず、位階というものがある。官吏の序列を示す等級ということだ。一番上が正一位である。次に従一位がくる。この下は正二位、従二位、正三位、従三位と来る。ここまでは公家が独占している。つまり、武家は三位には昇進できないわけである。平忠盛は正四位下まで昇進していて・・・通常ならば残りは正四位上しかないのである。ちなみに四位からは正従に加えて、上下がついてさらに等級が分かれている。正四位上、正四位下、従四位上、従四位下となっていくのである。これは・・・従八位下まで続いていく。さらにその下には大初位上、大初位下、少初位上、少初位下がございます。これが律令制に基づく身分差別なのです。さて、これとは別に官職につくとそこにまた職種による身分が生じてくる。清盛は保延二年春には中務大輔に任命される。天皇の補佐をする中務省のナンバー・ツーであり(トップは中務卿)位階は正五位上相当になるのだが・・・清盛はすでに従四位下なので資格があるわけである・・・19歳にしてこの出世はもちろん・・・もののけの血がものを言っているわけである。縁談ともなれば両家の親の官位が問題となってくる。平家は忠盛が正四位下、高階家は基章が従六位上。この間には従四位上、従四位下、正五位上、正五位下、従五位上、従五位下、正六位上、正六位下がそびえている。平家の家人たちが顔をしかめるのはものすごい身分の差があるから・・・仕方ないのでございますよ。
海賊退治・・・実際には安芸の水軍との提携・・・の功で出世街道を歩む清盛だった。しかし、宮仕えの実務は平忠康の子・鱸丸が実務に優れているのを頼りに乳父の右衛門尉盛康の養子縁組で身分を引き上げて任せきりである。昼は無頼仲間の藤原兎丸やら、北面武士の佐藤義清と遊び・・・夜は・・・この頃は下流貴族の高階家の娘、明子と過ごしている。
びろん・・・びよろん・・・びろん。明子の奏でる琵琶の音色は荒んだ清盛の心に沁みわたるのである。清盛はくつろいで明子と物語る。
「明子の父上は・・・元は源氏じゃそうな」
「はい・・・醍醐源氏の末、源家実の子で高階の家には養子で参ったそうでございます」
「琵琶は父の手ほどきか・・・」
「ええ・・・源の家は・・・代々風雅を好んでおったそうです。ご先祖には源博雅という雅楽の名手があったとか・・・」
「ほう・・・」
「あの高名な陰陽師、安倍晴明ともご縁があったとか・・・」
「陰陽師とな・・・明子は占いの才もおますのか」
「星は少々・・・読みまする・・・」
「星をな・・・我ら水軍忍びも星を読むんや・・・夜も船は漕がんとならんでな」
「今日の星は妖星が凶星にからんでおりますゆえ・・・ご用心いたしませ・・・」
「それは面白いのう・・・」
夜明け間近・・・春の気配の漂う都路を清盛は郎党一人連れず平家屋敷に戻ってゆく。
烏丸小路と梅小路の辻にさしかかった時に清盛は殺気を感じた。周囲は荒廃の色濃い廃墟である。火事で焼けた屋敷が何棟かそのままになっている。その暗がりにぼんやりと青白い光が浮かんだ。
「ふ・・・怪異か・・・」
清盛のつぶやきに応じるごとく、風に乗って声が聞こえる。しわがれた老人の声であった。
「もののけがもののけにもののけと申すか・・・けったいやのう」
のそりとたちあがったのは・・・老人ながら大男だった。白拍子のような装束の若い娘が一人、従っている。
「殿さま・・・無理をなさってはいけませぬ・・・」
「不知火いいのじゃ・・・我はいささかつかれたわ・・・この平家の御曹司と命のやりとりをして最後に面白い目をみたい・・・お前はその後は好きにしろ・・・東国にまいるのもよかろうて」
「名のあるお方とお見受けいたすが・・・」清盛は殺気を受け流しつつ問うた。
「わしはのう・・・汝が祖父、平正盛に一敗地にまみれた源悪対馬守義親よ・・・流浪の果てに都に舞い戻ったわ・・・」
「なんと・・・怨霊か・・・いや・・・まだご存命でおわしたか」
「こわっぱ・・・いざ勝負じゃ」
義親が引き抜いたのは薙刀だった。驚くほどの素早さで間合いを詰めた法師姿の巨漢は振りかぶった薙刀を一閃させる。旋風が巻き起こった。しかし、すでに清盛の姿は義親の背後にあった。
「ほう・・・見事なり・・・」息を吐いた義親の上半身がぐらりと揺らいだ。そのまま、地面に落ちて音をたてる。遺された下半身からは血がわきあがっている。
清盛は宋剣を振った。幽かな血の匂いが鼻をつく。
「よせ・・・御大将の遺言を聞いたであろう・・・どこへなりと去るがよい・・・御大将の躯は郎党に手厚く葬らせるよって・・・」
「・・・」両手に手裏剣を構えた若い娘は無言で宙を舞った。
暗闇を滑空する刃を清盛は星明りでとらえていた。
キーンと鋭い金属音を残し・・・手裏剣は宋剣に撃ち落とされていた。
新たな血の匂いがする。
すでに娘は自害して果てていた。
「・・・哀れな」
清盛は宋剣を腰に収めると・・・押し黙ったまま、家路を急ぐ。
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