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2012年3月31日 (土)

カリオストロの城から愛をこめて

今回は「続・SPEC〜翔〜を待ちながら(戸田恵梨香)」を考えていたのだが・・・まあ、どちらにしろ、シーズン・オフの穴埋め記事なのである。

なんどめかのこれでも問題ないのだな。

どんなオリジナルにも原点はある。

たとえばルパン三世もアルセーヌ・ルパンを抜きにしては語れない。

情報の価値というものが法的に守護されるようになった場合にはそこにはまた別の問題が生じる。

たとえば、世界で一番有名なネズミなんかの場合、なかなか、その権利を自然権に戻さずに、著作権の法的延長などという離れ業を実行したりするのである。

情報の問題には、情報の独占の問題とか、情報の封殺の問題とか様々な問題があるが、キッドは悪魔として、そのあたりにあまりこだわらないで話を進めていきたい。

つまり、モーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」(1905年)とモンキー・パンチの「ルパン三世」(1967年)と宮崎駿の「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)を情報的に区別しないということである。

それはもちろん、創作とは何かと言う話になりますな。

で、『金曜ロードSHOW!ルパン三世 カリオストロの城』(日本テレビ20120330PM9~)原作・モンキー・パンチ、脚本・山崎晴哉(他)、監督・宮崎駿を見た。さて・・・たとえば、1979年以後、「お城に閉じ込められたお姫様を救出する話」といえばコレのことになる。軽いパロディーとなれば「カリオストロみたいに・・・」ですむわけである。逆にまじめにオリジナルで作ろうと思えば「カリオストロがあるじゃないか」ということで困難になるわけです。このあたりの微妙な空気の読み方が作り手の基本なのですな。

で、このくらいの作品になるとたとえば「ロリコン」ひとつにしても「伯爵かっ」というツッコミがひとつの流れとして成立します。まあ、もちろん、そういうことが一般的かどうかは別としてですな。

逆に「伯爵」の枕詞が「ロリコン」だったりするわけですな。

つまり、それが常識的な話かどうかは別として、そういうことがピンと来るか来ないかは非常に選別いたします・・・人をです。

逆に「奴はとんでもないものを盗んでいきました・・・あなたの心です」などという話になれば、心を時間に置き換えて駄作の代名詞にまでなってしまう恐ろしさなのですな。

さらに権力への反逆としてのマスメディアの役割ということでは・・・「これは偽札だーっ、どうしようーっ」的なことがたとえば「中国漁船が衝突だーっ、どうしよう」的に現実社会に反映されたりもいたしますな。

ま、それほどの原点だ・・・ということです。そんな原点についてこれ以上言及するのは・・・愚の骨頂というものなのですな。

しかし、お姫様を助けた後で・・・ルパンが「助けが必要な時は世界のどこにいたってすぐにかけつける」みたいなことを言うわけです。

で、「SPEC」では瀬文(加瀬亮)が当麻(戸田恵梨香)に「助けが必要な時は呼んでくれ」みたいなことを言うわけですな。

で、様々な事情で瀬文は闇の組織に消えようとするわけです。

その時、当麻は「ウソツキ、いつでも助けにくるんじゃないのかよ」と瀬文を詰り、引き留めにかかったりします。

瀬文は記憶捜査のSPECによって精神改造をされるのですが・・・「着替えない女の匂いは鼻がおぼえてるーっ」などと言って愛の力を解放するわけです。

つまり、こういうことなのですな。原点と派生というものは。

もうひとつくらい。ルパンは食えば治るし、当麻は食えばSPEC向上ですな。

ついでに、最近、ドラマ化された「家族八景」は「家族八景」→「七瀬ふたたび」→「エディプスの恋人」という三部作になっています。序破急の構成ならこれで終了ですが、起承転結なら結不足です。

で、この流れを一言でいうと、コメディー→シリアス→意味不明と言うこともできます。

で、「ケイゾク」シリーズは「ケイゾク」「ケイゾクスペシャル」「ケイゾク映画」で見事に派生しておりますな。

だから「SPEC」シリーズも「SPEC」「SPEC翔」「SPEC天」になってたりしますな。

まあ、「SPECけつ」があったりなかったりするにせよ・・・ですな。

さあ・・・そろそろ・・・原点に戻りましょう。

ルパンと別れたクラリスは「おじさまとはすぐにあえるような気がするわ・・・」なんて言うわけです。

・・・待ってましたぞ・・・その一言を信じて・・・ずーっとずーっとずーっとですな。

まあ・・・美少女の言うことをいちいち信じちゃダメということですな。

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第9地区

ルパン三世 セブンデイズ・ラプソディ

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2012年3月30日 (金)

SPEC〜翔〜を待ちながら(戸田恵梨香)

長期休眠期間にオンエアされた『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBSテレビ2010年秋ドラマ)の続編となるスペシャルドラマがまもなくオンエアである。

「ケイゾク」シリーズ(1999年~)の続編にあたる「SPEC」は脚本・演出などで共通項が多いが、中核となる登場人物は野々村光太郎(竜雷太)といえるだろう。

捜査一課弐係係長から未詳事件特別対策係係長に嘱託として再就職である。

妄想の彼方の存在であった醍醐雅(永田杏奈)は野々村雅となり、新しい不倫相手として正汽雅(有村架純・・・「11人もいる!」の次女である)が登場している。

スペック(超能力)として考えれば・・・柴田純(中谷美紀)やそのライバルである朝倉裕人(高木将大)は異常な天才的頭脳の持ち主だったわけである。

霧の彼方に消えたケイゾクの人々が怨霊のように蘇る「SPEC」シリーズ。

その超絶的な戦いぶりをざっとふりかえっておきたい。

で、『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜「甲の回」~』(TBSテレビ20101008PM10~)脚本・西荻弓絵、演出・堤幸彦(他)を見た。スペックは人知を超えた特殊能力である。前述のようにケイゾクシリーズの柴田刑事は規格外の頭脳で難事件に取り組んだわけだが・・・今回のシリーズでは犯罪者そのものが常識の範囲をはるかに超える特殊能力を保持している。これに対して、まともな警察では対抗できないために投入されるのが未詳事件特別対策係である。しかし、野々村係長や、瀬文焚流警部補(加瀬亮 )は所詮、一般人である。

唯一、「敵」に対抗できるのは当麻紗綾警部補(戸田恵梨香)だけなのである。

当麻は自身がスペック・ホルダー(超能力保持者)なのだ。その能力は・・・お習字すると真相が直感的にわかってしまうという・・・微妙なものなのである。

これに対して、敵対する能力者は当麻の左手を奪った一(にのまえ=神木隆之介)のタイム・ストッパーのように見えるスペック、占い師冷泉(田中哲司)の未来予知能力、死刑囚桂(山内圭哉)の千里眼のように見えるスペック、医学部助手・林実(村杉蝉之介)の人格憑依能力など・・・かなり強力なものなのである。

林実にダミーとして使われた托鉢僧の京女(おおつか麗衣)はその後、騎手と結婚して芸能界を引退するという恐ろしい結末なのである・・・それはかなり違うと思うぞ。

とにかく、ドラマの魅力は当麻の変人ぶりのコミカルさと・・・正義に対するシリアスさの絶妙なバランスによって成立していると言えるだろう。

「捜査に私情は禁物ですぞ・・・」と言いつつ、くそまじめに敵と対峙するパートナーの瀬文に「しかし・・・はい」と渋々、同調する当麻。

つまり、かわいいよ、当麻かわいいよなのである。

この他にも当麻のストーカーである地居(城田優)、謎の医師海野(安田顕)、公安部のSPEC狩りのリーダー津田(椎名桔平)、瀬文と因縁浅からぬサイコメトラー美鈴(福田沙紀)など善悪も定かでない登場人物たちが複雑にからみあう。

スペックもみせかけと実態が相違していたりと仕掛けも懇切丁寧なのである。

はたして、実態はどうなのか・・・いや、実態がはたしてあるのか・・・。

謎が謎を呼ぶスペックの世界・・・マジで楽しみなんですけど・・・。

関連するキッドのブログ→スペック~翔~

コード・ブルー

うぬぼれ刑事

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2012年3月29日 (木)

謎解きはディナーのあとで自家用ジェットで沖縄で(櫻井翔&北川景子)

休眠中のレギュラードラマ(フジテレビ2011秋ドラマ火曜PM9~)のスペシャルである。

久しぶりに1クールのドラマを批判的に見て・・・思うのはターゲット設定の難しさがさらに進化している感じである。

タレント・システムとドラマ・レベルのつり合いもかなり微妙なものになっている。

前クールでは「家政婦のミタ」という視聴率的なモンスターが出現したわけだが・・・とかく黒い噂のある日テレ系ドラマの視聴率だったことを割り引いても・・・幼児向けのドラマが「爆発する」恐怖みたいなものを感じるわけである。

その他ではどんなにわかりやすく作っても、一定レベルの数字しか確保できないし、ちょっとでも難解になれば潮が引くようにお茶の間が逃げていくわけである。

危機だなあ。

そういう意味で・・・ある程度知的で、ある程度難解で、ある程度スカスカの・・・このドラマが14.7%というのは・・・もうなんだか分析不可能なのである。

ま、吹けば飛ぶようなドラマなのでそれほどシリアスにならなくてもいいかな。

で、『謎解きはディナーのあとで スペシャル』(フジテレビ20120327PM9~)原作・東川篤哉、脚本・黒岩勉、演出・土方政人を見た。原作「謎解きはディナーのあとで2」収録の「完全な密室などございません」の登場人物を流用したほぼオリジナル脚本である。密室ものの本格ミステリを装ったパズル・ストーリーだ。全編にちりばめられたピースを集めると真相という完成図にたどり着く趣向になっている。そういう意味ではなかなかに骨太なミステリなのだが・・・ドラマとしてはやや・・・間延びしていると感じる方もいるかもしれない。

だが、登場人物としてはほとんど無意味な・・・美術雑誌のライター服部祥子(国仲涼子)、絵のモデル相原美咲(加藤夏希)、画廊のオーナー為永友江(堀内敬子)がそれなりに妖しいキャスティングだったりして・・・なんとなく・・・最後まで付き合わされることになるのだな。

しかし、パズルである以上、どんな登場人物にもそれなりに意味がある。

祥子、美咲、友江の三人は警視庁国立署警部であり風祭モータース御曹司でもある風祭京一郎(椎名桔平)と一晩で最初の最後のデートをした相手として事件解決のもっとも重要なピースとなるのである。この糸口がなければ事件の真相は闇に葬られていた。

超資産家の令嬢・宝生麗子(北川景子)は警視庁国立署刑事であるのだが、執事としては言動に問題のあるミステリ愛好家の宝生家執事・影山(櫻井翔)に夕食後のひととき、捜査中の事件を巧みな推理力で解決してもらうのが常の甘えん坊である。

キャラクター造形はみごとなのだが・・・この二人は何をみてもモップガール、何をみてもバンビの特殊なポジションにいるので、今回もモゲッといつか言うだろうと期待するし、やっさいもっさいはいつ踊るのだろうと考えてしまうのである・・・個人的事情はもういいだろう。

今回はスペシャルのために・・・影山は香港出張中に事件が発生し、麗子は影からの支援が受けられないという設定なのだが、超資産家である以上、影山不在の場合はそれに準ずるバックアッパーがいるはずである。それについて言及がないのはおそらくご都合主義なのであろう。お嬢様が泥酔して自由行動するなど、あってはならないことなのである。なぜなら、資産家にとって令嬢は資産の一部だからでごさいます・・・じいや的事情ももういいぞ。

影山不在の間の出来事は二つ。

一つは「世界的に著名な画家・松下慶山氏(宝生家にも重要作品のコレクションがあるほどの大家)が密室状態の自宅アトリエで焼死体として発見される事件」の発生である。なお、この世界には死体の身元特定のためのDNA鑑定技術は存在しない前提である。

もう一つは「国立署刑事課の沖縄慰安旅行の不思議体験」であった。

一方で影山は出張先の香港で世界的ピアニスト小鈴孔(北川景子・二役)の脱走事件に巻き込まれ、偶然、沖縄を訪れるのだった。そこで彼はある景色と遭遇する。

さて、「松下慶山焼死事件」では見当違いの直感で正解にたどり着く風祭警部が「松下慶山は生きている」と発言するが、すぐに訂正して「密室殺人事件」と発言する。しかし、捜査の結果・・・「自殺」と再訂正する。死体の右手には本人の指輪がはめられていた。

麗子の捜査で得られた情報は「松下慶山の唯一の自画像である左手に指輪をはめた男の描かれた場所が不明」というものだった。

麗子からの捜査のあらましを聞いた影山は「やはり自殺でございます」と結論して・・・最初のエンディングへ。結局、見せ場は麗子の幼稚園児コスプレだけのドラマだったと思わせておいて・・・第二部突入である。

風祭の発案で沖縄に慰安旅行に来た一行。宿泊先のホテルはSouthern Beach Hotel&Resort OKINAWAでオーナーは風祭の従妹の島袋(池田鉄洋)である。そのホテルのバーの経営者・手塚(佐野史郎)は有名人のサインのコレクターである。第一の事件としてサイン盗難事件が発生する。

ホテルでは麗子は312号室に宿泊し、風祭は315号室に宿泊する。

一行は流しの絵描き鈴木元気(國村隼)と知り合う。風祭は自分のとなりの部屋に鈴木画伯を招待する。

鈴木の下宿先である居酒屋「うちなー料理 あんまー」で一行は沖縄料理を楽しむ。女将(麻生祐未)の元の夫・田沼(高嶋政宏)が悪党であることが提示される。鈴木は女将にほの字である。鈴木は田沼に指輪を奪われたりしている。

飲みなれぬ泡盛で朦朧とした麗子はカラオケでAKBを歌おうと歌番号315を連呼する。

千鳥足の麗子はホテルで田沼とすれちがう。

部屋のベッドで麗子の携帯電話に着信があり、島袋の部屋に誘われる。

麗子は酔った勢いで島袋の部屋に直行し・・・誰かの死体を発見・・・失神する。

目覚めた麗子の目の前に風祭がいて麗子は風祭をノックアウト。

廊下に出た麗子は再び眠り込み、翌朝、312号室で目を覚ます。

島袋の部屋に直行するが、そこでは島袋が婦警の宗森あずみ(岡本杏理)と情交しており、死体は消えている。

麗子の着信履歴にも島袋からの受信歴はなく・・・「すべては夢だった」と風祭に諭される麗子。

しかし、カジキマグロ用の巨大な箱が消失する事件が発生する。

影山の推理でも「大学のサークルの合宿などでよく見られるぐだぐだの訳分からん状態における夢」という結論になり、第二のエンディングである。結局、酔っぱらった麗子のもげっな状態を楽しむだけのドラマだったと思わせておいて第三部開幕である。

レギュラーの時と同様に執事の暴言→クビクビクビ→じゃ、推理しません→説明しなさいよ展開があって謎解きである。

キーポイントは時系列で、「密室殺人」→「沖縄旅行」ではなくて「沖縄旅行」→「密室殺人」だったことである。

それでは各自、推理をお楽しみください。

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→もげっコース月の恋人~Moon Lovers~

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2012年3月28日 (水)

人間たちのいとなみに敗北して大人の階段を昇る乙女(木南晴夏)

なるほど・・・「七瀬ふたたび」へと続くルートではなくて・・・「続・家族八景」への含みを残したルートの選択かあ・・・。それはそれでありだなあ。

とにかく・・・木南晴夏版「家族八景」は原作を概ね忠実にドラマ化しつつ、オリジナル一話を追加して完結である。

なんていうか・・・快挙だったな。

ここまで来るのに42年が必要だった・・・ということなんだよな。

まあ、ある意味、進化系である「SPEC」の演出家が原点に敬意を払ったという「流れ」でもあったから、原作にある程度、忠実だったことは充分に「リスペクト」を感じられるものだった。

さて、原作者は同志社大学出身である。建学精神がキリスト教精神に基づく良心・・・という大学なのである。このあたりは来年の大河ドラマ「八重の桜」で詳しく語られるだろう。

とにかく、火田七瀬のキャラクター造形にあたり、こうした情報蓄積の流れがあることは確実であろう。

七瀬的道徳というものが・・・どこかキリスト教的であるということだ。

もっとも宗教的道徳などというものは古今東西大差なしという考え方もある。

仏教の五戒に「不邪淫」があり、モーセの十戒に「姦淫してはならない」とあり、中森明菜の十戒に「やわな生き方を変えられないかぎり限界」とあるようにだ。・・・最後、意味不明だぞ。

モーセの十戒の「隣人の妻を欲してはならない」という妙に具体的な戒めが・・・このドラマではストレートにそのまま七瀬のモラルなのである。

宗教として洗練されていったキリスト教では罪は「七つ」に収斂されていく。

「暴食」「色欲」「傲慢」「怠惰」「憤怒」「強欲」「嫉妬」である。

「怠惰」からは「澱の呪縛」が連想できるし、「傲慢」からは「青春讃歌」などが連想できるだろう。

ドラマではそれほど深く表現されなかったが・・・「暴食」に関する記述も原作では散見できる。

「色欲」「憤怒」「強欲」「嫉妬」はどの話からも大いなる罪として・・・匂い立ってくるだろう。

これに対して、七瀬は「潔白」を示す清教徒(ピューリタン)的であると原作では語られている。

だから「芝生は緑」が異質なのは七瀬が罪深い人間に対して神のごとき振る舞いをして罰を与えようとするところにあると解釈することもできるのだ。いわば「憤怒」や「傲慢」あるいは隠蔽されているが「能力をもたない者」への「嫉妬」などが・・・七瀬の言動に表出するのである。七瀬自身が大罪を犯すことになるわけだ。

そういう意味ではこの話は「七瀬」の人間的成長を一番物語る話であるのかもしれない。

本来は中盤の話をラストに設定したのは・・・なかなかに含蓄があると思われる。

そして、それが途中経過である以上・・・「七瀬ふたたび」に向けて・・・もう少し、話があってもいいだろうという展開が示唆されてくるわけなのだな。

原作は以下の通り。

① 無風地帯 ② 澱の呪縛 ③ 青春讃歌 ④ 水蜜桃 ⑤ 紅蓮菩薩 ⑥ 芝生は緑

⑦ 日曜画家 ⑧ 亡母渇仰

今回のドラマ版は次のように完結した。

無風地帯 ②水蜜桃 ③澱の呪縛 ④青春讃歌 ⑤紅蓮菩薩 ⑥日曜画家

オリジナル知と欲 ⑧亡母渇仰 ⑨芝生は緑(前編) ⑩芝生は緑(後編)

結局、一話一家族で「家族十景」という見事な形に落ち着いたのである。

原作に忠実でありながら・・・「家政婦時代の終焉」ではなく「これからも様々な家族たちと生きていくだろう・・・」という「延長戦」のモノローグでしめるのは・・・ある意味、商魂たくましいのである。

まあ、基本的に世の中は「強欲」で動いているわけです。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第十話・芝生は緑~高木家編~』(TBSテレビ20120328AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・上田誠、演出・堤幸彦を見た。原作では七瀬が最初に家政婦となるのは高木家である。高木家から市川家に一週間だけ出向することになるのだ。しかし、ドラマは市川家からスタートし、高木家にスカウトされるという趣向になっている。だが、基本的に大きな違和感はない。七瀬が心を読む時の表現は高木家では「顔が四倍になる」である。基本的に「心の声」は七瀬(木南晴夏)がボイスチェンジャーで変声して表現するのだが、心を読む相手の回想による場合は役者が実演するようだ。まあ、少し微妙だが、理にはかなっている。

また、遠隔読心で役者の実演の場合はお互いの意識にある相手の声を七瀬が読み取っているという理屈になるのだと思われる。

市川家の契約が終わり、高木家に家政婦として奉公することになった七瀬。

高木家のリビング・ルームには高木夫妻が顔をそろえているが・・・市川家からやってきた七瀬を認知するだけでたちまち、隣人についての妄想を展開する夫妻なのである。

主人で開業医の高木氏(大河内浩)は市川夫人(星野真里)について連想を繰り広げる。

≪清楚な市川さんの奥さん≫≪つつましい≫≪それにくらべ≫≪こいつは≫≪俺の妻≫≪浪費家≫≪また洋服を新調している≫≪俺の稼いだ金≫≪無駄遣い≫≪隣りの家のあの男に≫≪色目を使って≫≪マドレーヌだと・・・たいした料理の腕もないくせに≫≪あんな男に≫≪男を見る目もない≫≪嫉妬?≫≪馬鹿な≫≪こんな女はどうでもいい≫≪興味があるのは市川さんの奥さん≫≪市川さんの奥さんのつつましいセックス≫

高木夫人(野波麻帆)は市川氏(西村和彦)について欲情を高める。

≪市川さん≫≪マドレーヌ喜んでくれたかしら≫≪スマートな市川さん≫≪それにくらべ≫≪このデブ≫≪怠惰な男≫≪何事にも不熱心≫≪医学書もろくに読まない≫≪急患もことわる≫≪往診にもいかない≫≪なまけもの≫≪まあ、こんな男どうでもいい≫≪やり手の・・・市川さん≫≪市川さんとの情熱的でスマートなセックス≫

≪市川夫人とのセックス≫≪市川さんとのセックス≫≪セックス≫≪セセセセセックス≫≪セセックックスス≫≪セックス≫

七瀬も様々な夫婦の心を覗いてきたが心理的にここまで露骨に隣人の配偶者に欲情している夫婦は珍しかった。

そのことが処女である七瀬の心に潜む「なんらかのスイッチ」を押して、七瀬の「人間研究心」と言う名の「悪戯心」に点火したのである。

どんな性格の人間にも必ずいい面と悪い面がある

精神感応力(テレパシー)の能力を持つ七瀬はひとかどの人間学者になっている。

(しかし、これほどはっきりと互いの長所と短所を裏返しに見ている例は珍しい

隣人の配偶者を極端に求める二組の夫婦がもしも組み合わせを変えたらどうなっていくのか。

実験してみる価値がある・・・火をつけて観察しようか

七瀬は大いなる罪に陥るが・・・七瀬自身にとってそれは単なる探究心の発露にすぎなかったのだ。

七瀬は自分の能力で二組の夫婦をたやすくコントロールできるはずだと考える。

そして、それは想像以上に簡単なことだった。

七瀬は市川夫妻と個別に会話し、それぞれに隣人の個人情報を伝えていく。

高木氏には・・・「そうそう・・・市川さんの奥様は・・・午後になると喫茶店ひばりでジャスミンティーを嗜まれます」

ドラマでは炸醤麺(じゃーじゃーめん)に妙にこだわるわけだが原作ではもちろんこだわらない。ちなみにじゃじゃ麺は盛岡(岩手県)の名物うどんである。

高木夫人には・・・「そうそう・・・市川さんは商店街のスーパーで内装の仕事をなさるそうです・・・明日は現場にいらっしゃるとか・・・」

七瀬は巧みに夫妻の心のツボをつき・・・浮気の実行をそそのかし、煽りたてる。

しかし、高木夫妻は七瀬が努力するまでもなく、目的に向かって一直線なのであった。

おかげで七瀬は高木夫人が市川氏の現場に差し入れする「おはぎ二十人前」を作らされる破目になるのだった。

ドラマではおはぎに妙にこだわるわけだが、オンエア的な季節ネタとしては春のお彼岸なので牡丹餅にするべきだろう。念のため。

事の成果を研ぎ澄まされつつある遠隔読心能力で探知する七瀬。

ここは喫茶店とスーパーの現場にいる二組の夫婦交換カップルの言動をそれぞれの視聴覚を通じて認知するという高等技術を七瀬がマスターしていることが明らかになる。

高木氏と市川夫人は喫茶店で。

市川氏と高木夫人はスーパーマーケットの改装現場で。

お互いの親密度を高めていくのであった。

≪明日・・・東日本ホテルのレストランで食事の約束を≫

≪レストランで食事を≫

≪東日本ホテルでデート≫

≪デートで情事≫

≪≪≪東日本ホテルで≫≫≫

七瀬は驚いた。明日、夫婦は浮気現場で鉢合わせすることになったのである。

入浴シーン。ファイナルである。今回は生ひざ下サービスの後で潜水の上ブクブクなのだ。

検証してみよう。

Nanase01初期の透明度。










Nanase10_2最終回の透明度。

・・・ウソツキは泥棒の始まりです。








さて、それはそれとして・・・七瀬はほくそ笑んだ。

四人の男女はそれぞれに興奮していた。

たとえば市川夫人には高木夫人に対する優越感さえ芽生えていた。

≪夫にうすのろと呼ばれていた私≫≪それにくらべておとなりの奥さん≫≪自分よりスタイルがいい、背が高い、ずっと美しい≫≪私を無視している≫≪いつも≫≪私をバカにして≫≪でも≫≪しかし≫≪けれど≫≪高木先生は≫≪私に優しい≫≪私に≫≪私に≫≪私が勝っている≫≪今は私が≫≪おとなりの奥さん≫≪ざまあみろ≫≪もしもあした・・・食事した後で・・・ホテルの部屋で・・・そうなれば≫≪おとなりの奥さんに完全勝利≫

七瀬は実験の結果に満足した。

だが・・・結末は七瀬の予想を裏切るのである。

ホテルで鉢合わせした途端・・・うろたえた市川夫人はめそめそと泣きだした。

市川氏は不機嫌になった。

≪あんなに子供っぽいとは思わなかった≫≪泣きだすとはな≫≪泣くなんて≫≪呆れた≫≪それにしても・・・こいつがあんな男と本当に情事をしているとは≫≪医学的にみてもああいうタイプはセックスに淡泊だろうに≫≪俺の方がずっとねちっこい≫≪ずっといいはずだ≫

≪あの人≫≪意外だった≫≪あんなことぐらいでうろたえて≫≪急に不機嫌になって≫≪まるで頼りにならない≫≪それにしても・・・私にかくれて≫≪あんな女と浮気していたとは≫≪やる前だったのかしら≫≪やった後だったのかしら≫≪何回もやったのかしら≫

お互いに牽制して無言で過ごした高木夫妻は・・・夜になって爆発したのである。

≪どうだ≫≪あの男とくらべてどうだ≫≪どうなの≫≪あの女とくらべてどうなの≫≪ほらこのねちっこさはどうだ≫≪ああそんなふうにねちっこいことをしたの≫≪あの男よりすごいはずだ≫≪あの女にもこんなにすごいことを≫≪なめたのか≫≪なめられたの≫≪はげしくしたのか≫≪こんなにはげしく≫≪いいだろう≫≪いいのね≫≪うおうこれならどうだ≫≪あおうそれならこうよ≫≪お≫≪あ≫≪うおお≫≪あはん≫≪ずたずたにしてやるぞ≫≪ああ。あ

一瞬の歓喜と自我の崩壊。閃光。

七瀬は他者の嗅覚を通じて人間の生臭い匂いを感じた。

吐息。汗汗汗汗汗汗。

≪俺の俺の女だ≫

≪あなたのあなたのものよ≫

夫婦は愛をとり戻していた。

(負けたわ)

(私にはわからないような複雑な心理的機構が人間にはある)

(でも偉大なる夫婦愛に負けたわけではない)

(中年男女の貪欲さ)(中年男女の性行為の歓喜への執着心)(都合のいいすり替え)(そうだわ、わたしは中年の無意識的な狡猾さに負けたのだわ

七瀬は敗北感を味わいつつ・・・何故か清々しい気分だった。

そして、思い上がった自分の幼さに苦笑したのである。

七瀬は高木家を去る日、市川夫人を見かけた。

夫に暴力を振るわれたらしく、顔に痣を作っている市川夫人はかいがいしく掃除をしていた。

彼女は、今までになく幸せそうな表情をしていた。

七瀬はふと・・・家族たちの「空気」を回想する。

様々な家族がいた。

はだかの家族。獣のような家族。髭をはやした家族。お歯黒の家族。水着の家族・・・どの家族もそれぞれに独特の空気を持っていた。

そして・・・七瀬はそういう家族たちに漠然とした愛を感じているらしい。

このドラマの世界では七瀬の家政婦としての人生はもうしばらく続くのである。

関連するキッドのブログ→第9回のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の家族八景

さて、原作ではこの後は「七瀬ふたたび」に続いていく。

「邂逅(七瀬ふたたびを改題)」では孤独だった七瀬がはじめて読心者としての同胞と出会い、さらに時間に関係した新たな能力者と運命的な出会いをする。

やがて「邪悪の視線」では能力者同士の敵対関係が生じ、「七瀬 時をのぼる」ではついに時間を遡行することになる。「ヘニーデ姫」では人類と超能力者の対立が暗示され、「七瀬 森を走る」では悲劇の幕が閉じる。血沸き肉踊る展開である。

さらに長編「エディプスの恋人」では復活した七瀬が・・・その理由とともに世界の秘密を解き明かしていくことになるのである。

木南晴夏がすべての七瀬を演じることができますように・・・願ってやまないのである。

なぜなら、七瀬三部作とはシンデレラ・ストーリーなのだから。

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2012年3月27日 (火)

最後から二番目の恋の神話(小泉今日子)

さて、「最後から二番目のメルトダウン」「最後から二番目の東京大空襲」とお題に答えてきたのに「本題」について語らないのはなんとなく心苦しいのである。

「最後から二番目の・・・」と言う言い回しにはなかなか、使い出があるのだな。

オーソドックスに解釈すると・・・それは時系列的な問題で・・・「最後の恋の直前の恋」になるわけだが、「最後」という言葉には順位的意味合いもある。つまり、「最後」は「最下位」にも通じている。「最下位」は「最悪の結果」にも通じているので「最後」ということは「最悪」でもあるわけだ。

そう考えれば「最後から二番目の恋」は「最悪よりちょっとマシな恋」という意味も含んでいることになる。

しかし、物語の最後で主人公はモノローグでこう語る・・・。

最後の恋なんて思うと先がなくなる・・・次に恋をするときは最後から二番目の恋だと思うことにしよう・・・。

つまり、「最後」は時系列の「最後」だったらしい。

大人になれば「恋」は必ず終るものと考えるのが普通である。

「永遠の恋人」という言葉があるが、多くの場合、それは「片思い」である。

恋という現象は刺激的で麻薬的で依存的であるので多くの人は「恋」に恋する。

そして、多くの人はそう簡単に相思相愛の恋にはありつけない。しかし、「恋」を感じていたい。

だから、「恋愛ドラマ」がビジネスとして成立するのである。

夕方、西の空を見上げると三つの天体がかなり、印象的に見える。

惑星である金星と木星に衛星である月が割って入る構図である。

太陽の周囲をめぐる惑星と地球の周囲をめぐる衛星では目に見える動きにかなり差があるので面白いし、月は満ち欠けがあるためにさらに面白い。

星空もまた恋の対象である。時には忘れた恋というものがあることを思い出させる。

思い出があるということはすでに悲しいことなのである。

そういう意味で人生の終わりが近づく人々の恋はどこか哀れである。

その哀れさにひかれる人々もどこか哀愁である。

金星は美の女神・ヴィーナスである。木星は神々の王ジュピターだ。

二人の恋は権力者と絶世の美女の恋なのである。

そこに割って入る月は三人の女神で構成されている。生殖の女神ルーナ(満月)、狩猟の処女神アルテミス(半月)、死の女神ヘカテー(新月)である。

魔術的にはこのドラマはこの天体の運行に支配されているわけである。

ヴィーナスが小泉今日子、ジュピターは中井貴一である。ルーナは美保純・佐津川愛美(ルーナの胎児としてのダイアナ)の母子、アルテミスは内田有紀、ヘカテーは白木彩奈である。

では・・・坂口憲二は何かと言えば太陽神アポローンということになる。物語は昼間の間・・・アポローンに支配されるが・・・夜になればひそやかに恋が進行していくことになっている。ちなみにアルテミスとアポローンは双子だ。

ちなみに・・・飯島直子と浅野和之は単なる庶民である。まあ、星屑と言ってもいい。

中井貴一の娘である白木彩奈は亡き妻の面影でもあるが・・・禁断の恋の相手であることは言うまでもない。

で、『最後から二番目の恋・第1回~最終回』(フジテレビ20120112PM10~)脚本・岡田惠和、演出・宮本理江子、谷村政樹、並木道子を見た。脚本家は傑作『銭ゲバ』のあと、『小公女セイラ』『おひさま』などあまり印象に残らない作品を経由して、そこそこ面白いここである。・・・あくまで個人的な妄想です。少女マンガ大好きの人がもはや少女ではないけれど心は少女マンガの世界をコミカルに描いたわけである。

このドラマのもっとも良い点は仕事を自分でやめたことがない女・長倉万里子(内田有紀)が久しぶりに立っていたことだろう。・・・あくまで個人的な妄想です。

最近では『ギネ』とか『バンビ~ノ』とか『イノセント・ラヴ』とか・・・軽い役柄ばかりだったからな。・・・『イノセント・ラヴ』が軽いのかよっ。

主人公の吉野千明(小泉今日子)とは10才の年齢差だが、兄役の長倉和平(中山貴一)が父親的ポジションであり、ある意味、独身の千明の未開の母性の発露相手である。

脚本家役の栗山はるか(益若つばさ)いわく「捨てろと言われてもなかなか捨てられないボロボロのぬいぐるみ」である。それは萌える。つまり、ダンボールこと「クワコー」のホームレス女子大生ジンジン(桜庭ななみ)と同じジャンルなのである。15才も年上なのに同じジャンルをこなせるとは・・・内田有紀・・・さすがだ。

そのタブレット的端末を操作するしぐさはリスが檻の中で遊具を回転させるが如きである。

チョチョチョチョチョチョ・・・萌え~だな。

引きこもりなのだが・・・さびしがり屋の専業主婦である姉の典子(飯島直子)に引きずりまわされる図はまさに・・・等身大ぬいぐるみである。

千明は擬似母親として万里子の才能を招き、アシスタント・プロデューサーとして抜擢する。

「自分からやめると言わない限りやめさせない・・・って言われました」と兄たちに報告した万里子は「じゃ、お祝いしようか」と言われ・・・「一人でかみしめたい」と断る。

が、ひきかえしてきて「職場でほめられちゃいましたー」と悦びのおすそ分けをするのである。

あえて言おう。万里子、かわいいよ万里子である。

やがて・・・万里子は千明に恋をしてしまう。そして千明のボトルキープ的天使である真平(坂口憲二)と「おんなじだね~双子だから」と微笑み合うのだった。

二人そろってツンデレを続ける千明と和平がデレる時・・・そっと聞き耳を立てる万里子。

「要するに一人暮らしの女はおっさんになってくるわけで」と和平。

「なんだってえ」と千明。

「じゃ・・・お兄ちゃんはおばさんになってるのね」と万里子。

「だれがおっさんだっ、こら」と千明。

「誰がおばさんだっていうのよ、冗談じゃないわよっ」と和平。

・・・なのである。

最後は自分の気持ちに正直になった風に二人組は「年の差カップル」に自ら終止符を打つわけですが・・・見ようによっては「ふられる前にふる」という「自分中心主義」でございますねえ。まあ、このドラマの主題はあくまで「恋」であって「愛」ではないわけで・・・このこざかしい初老の男女はそれなりにファンキーだったといえましょう。

まあ・・・東日本大震災の後の東海大地震で鎌倉の皆さんが大変な目に合わないように心から祈りたい。

鎌倉市役所なんて修羅場になるんだろうなあ。

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2012年3月26日 (月)

逢いたくなったら逢いに行く(深田恭子)

脚本家は深田恭子の初主演ドラマ「鬼の棲家」(1999年)でデビューしている。

そして、連続テレビ小説「ちりとてちん」(2007年)の作者である。

「ちりとてちん」と言えば・・・A子(佐藤めぐみ)B子(貫地谷しほり)である。

女の子は比べられるのが大キライなの・・・と言うがつい誰かと比較してしまうのだな。

まあ、その、自分の得意なパターンを馴染みの女優にあてこんでいく。

それもまた・・・手法というものだな。

「雀」のたとえは・・・少し無理があるわけだが・・・イメージとしては分かる。

そして、高階明子(加藤あい)がA子なら平時子(深田恭子)はB子なんだな。

ま、今回、A子はあの世にいるわけですが・・・。

で、『平清盛・第12回』(NHK総合20120325PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の陰にひっそりと咲くB男・平家盛の描き下ろしイラスト大公開でございます。そこに来たかっ・・・でございますね。まあ、なんといっても正妻の実子で異母弟・・・出生の秘密でさらにツイストされてこのドラマでは隠れたキー・ポイント的人物。今回もギラッと一瞬の刃を覗かせて清盛の心を覚醒させていく。そもそも清盛がもののけの血を覚醒させるのもこの弟があってこそなのですな。母(池禅尼)とともにどの程度、清盛に対する悪の華を咲かせるのか・・・まあ、ある意味、無自覚的に、という描き方かもしれませんが・・・和田糸子の人(和久井映見)はこのあたりの天然だけど腹黒い演技は大得意ですからなーーーっ。

Tairakiyomori10小さい頃は神様(白河院)がいて毎日愛を届けてくれた待賢門院藤原璋子が出家したのが康治元年(1142年)、逝去したのが久安元年(1145年)である。その頃、平時子は平清盛の継室となり、清盛の三男・宗盛を生むのが久安三年(1147年)なのである。急に加速しているな。この間、元号は天養(1144年)がすっとばされている。この年、ハレー彗星が出現し、驚愕した陰陽師たちににより久安に改元されているのである。彗星は不吉の兆しとされるが、1994年に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星を思えば平安貴族たちの右往左往も非科学的とは言えない。1908年に起きたツングースカ大爆発は彗星衝突説が有力である。この時の爆発エネルギーはおよそ広島型原爆1000発分の破壊力であり、人口密集地帯でそれが起これば超大惨事である。この頃、平忠盛は正四位上播磨守右京太夫となっている。貴族にも様々な階級区分がある。受領というのは県知事相当の地方官である。美作守→尾張守→播磨守と出世した(治める国にもランクがございます)忠盛はすでに従三位という公卿の地位の一歩手前まで登りつめている。つまり、地方のトップから中央への参政に王手をかけているのである。一方、源為義は藤原摂関家に接近し、漸く従六位下左衛門大尉となっている。長男・義朝の異母弟である次男・義賢は正二位内大臣・藤原頼長の男色相手に差し出され、忠勤に励んでいるのであった。この頃、藤原頼長は兄の従一位摂政・藤原忠通と摂関家の継承問題で不仲となっていく。常陸国から上総国にかけての大型荘園・相馬御厨や相模国最大の荘園・大庭御厨を略奪し勝手に家臣団を形成する源義朝は・・・無冠であった。中央とのパイプは鳥羽院の乳母と正室の由良御前が親戚関係にあることぐらいである。しかし、すでに関東の覇者となった義朝は「手柄たてちまえばこっちのもんさ」と鼻息が荒かったのである。

夜空には箒星が不気味な尾をひいて浮かんでいる。摂関家屋敷の別棟では寝床から抜け出した藤原頼長が縁側で空を見上げている。背後では頼長によって執拗に菊門を責められた義賢が疲労困憊して眠りに落ちていた。

(天文博士の安倍成明は・・・吉兆定かならずというが・・・面妖この上なきものよな・・・)

淫行から覚めた目で頼長は一向に進展しない摂関政治改革に思いをはせる。

(律令を正し奉り、政道を清く導かんと候えども、坊主どもは騒ぎ立て、流行り病は衰えぬことを知らず、飢饉で年貢は減るばかり・・・笛吹けど民は踊らずとはこのことか)

頼長は兄・忠通の顔を思い浮かべる。藤原氏の長者として後継者に恵まれなかった忠通は弟・頼長を養子としている。しかし、二年前に右大臣・村上源氏国信の娘が実子・基実を生むと掌をかえしたのである。

その頃から・・・頼長の政策に異を唱えるようになり・・・ついに今年になって・・・頼長を廃嫡し、嫡男として基実を披露するという強行手段に出た。鳥羽上皇の正室である高陽院(忠通の同母姉)がその後見役となっている。

「しかるべき料簡も持たず異のための異を唱えて・・・」頼長は鈍重な顔の異母兄の顔を忌々しく思い出す。その背後にはあの女狐がいる・・・と頼長は思う。近衛天皇の国母・得子である。「たぶらかされておるのじゃ」いつの間にか頼長は恨み事を声に出している。

そこに寝ずの番を勤めている女童が知らせをもたらした。

「待賢門院様・・・ご危篤でございます」

頼長は息を飲んだ。

数日前から、内裏の内外では怪異が相次いでいた。

鵺が啼くというのである。

姿を見たものもいるという。翼を広げれば畳十畳ほどあり、胴体は虎で顔は猿、尾は狐のようであったという。はっきりいって怪物である。

(そのようなものが・・・)と心乱れた頼長が脈絡なく思い浮かんだその怪物を頭から打ち消そうとした刹那。

「ぎょおぇーっ」と闇に響く声があった。

その頃・・・喪に服した清盛の館は来訪者を迎えていた。室である明子を突然、失った清盛の心は暗く沈んでいた。

そこに桓武平氏の身でありながら公家であり鳥羽法皇の判官代を勤める平時信の娘が伴のものを二人ほど連れただけでやってきたのである。

執事の平盛国の話ではとにかく清盛に会わせろの一点張りだと言う。

仕方なく清盛は衣服をあらため、応対に出た。家格は時信の家の方が上だが、現在の身分は清盛が従四位上、時信は従五位下である。その娘風情が・・・という思いが清盛にはある。

平時子は暗がりの中で目が鋭く光るのが印象的な娘だった。おそらくまだ、二十歳前であろうと清盛は推測する。明子と比べてれば美しさは見劣りするが・・・夜目にも健康そうな肌つやが独特の華やぎを発散している。

「夜分に失礼つかまつります」

「何事であろうや」

「・・・奥方様は彷徨うておいでじゃ・・・」

「なに・・・」

「これなるは・・・高棟流平氏に伝わる秘本・源氏物語でございます」

「源氏・・・なんじゃと」

「世に伝わる源氏物語とは違い陰陽道の導書なのでございまする。書そのものに魂がこめられておりまして・・・巻により様々な効能を持っておるのです」

「・・・」

「これなる賢木(さかき)の巻は・・・言霊をもちまして預言いたします」

「書がもの申すというか」

「論より証拠でございます」

言うが早いが・・・時子は耳に馴染みない真言を唱え始める。

時子の言葉に不審を感じていた・・・清盛の口が大きく開いた・・・。

書物より人型が浮きあがったのである。そして、それはあろうことか・・・逝去した明子の姿をしている。

「・・・との・・・そこにおられるか・・・」

「明子なのか・・・怨霊となり果てたか・・・」

「さようではございませぬ・・・明子は黄泉の旅路にありまする・・・心残りはあやかしのこと・・・情けなきことに陰陽師の呪詛を払い切れず・・・命を尽くしましたものの・・・私の祓いし妖力がなにものか・・・妖しの力を呼び醒ましてしまったのです・・・妖と妖が合体して・・・もののけとなったと申したら・・・おわかりいただけましょうか・・・」

「そなたの祓いの力と呪詛の力が合わさってしまったということか・・・」

「そのようなものでございます・・・それには何か・・・この世ならざる依りしろが欠くべからずもの・・・それが何かはわかりませぬが・・・そのもののけは京の都に災いをもたらしまする・・・殿・・・なにとぞ・・・調伏なさってくだされませ・・・」

「明子・・・そんなことより・・・戻ってはこれぬのか・・・」

「殿・・・すでに・・・魂魄となった私にはこの世に戻る術はございませぬ・・・けれど・・・いつも・・・おそばに・・・」

「明子」

突然・・・明子の姿は消えた。

「よほどの・・・心残りであったのでしょう・・・賢木の巻にその心を移されたのでございます・・・」

「そうか・・・明子はもはや・・・去ったか」

叫ぶように清盛はひと泣きを漏らした。そして、徐に立ち上がる。

「汝・・・そのもののけのことをなんぞ・・・知っておるのか・・・」

「すでに澪標(みおつくし)の巻にて・・・八卦を立てました」

「案内してくだされ・・・そのもののけ・・・我が退治てくれようぞ・・・」

「・・・清盛様・・・よくぞ申してくださいました・・・」

よほど緊張していたのであろう・・・時子の瞳からは涙がひとしずくこぼれていた。

「盛国・・・雷神弓をもて・・・」

清盛が叫んだ。

その頃、待賢門院の殿上に鵺が姿を現していた。

怪異は一声啼くごとに人の命を吸い上げる。

流行り病の病床についていた待賢門院藤原璋子は恐ろしい啼き声を最後に聞いた。

駆けつけた清盛は一足遅かったのである。

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2012年3月25日 (日)

最後から二番目の東京大空襲

くりかえし言うことだが近代の国家総力戦において無差別爆撃の有罪無罪を問うことは無意味である。

もちろん、東京であろうと重慶であろうとドレスデンであろうとヴェトナムであろうとイラクであろうと・・・無差別爆撃にさらされた人々の怒りと悲しみは否定できない。

しかし、敵を撃破させ・・・沈黙させるための攻撃に軍需工場と小学校の区別を求めることは無意味なのである。

それが「戦争」というものだからだ。

で、『NHKスペシャル・東京大空襲583枚の未公開写真』(NHK総合20120318PM9~)を見た。大日本帝国の対外宣伝グラフ誌『FRONT』の木村伊兵衛をチーフとする報道写真家たちが撮影したと思われる東京大空襲の記録写真583枚が何処からか流出した。戦後秘匿されてきたこの写真がなぜ、今、流出したのか・・・不明である。とにかく・・・それを入手したNHKはそれを元に3月10日の空襲だけが・・・東京大空襲ではないという歴史的事実を再確認していく。実際に東京という街は昭和19年(1944年)11月から昭和20年8月の終戦間際まで100回以上の空襲にさらされたのである。

東京の市民たちが消火のためのバケツリレーを訓練していた頃、米国本土では東京の街を再現した巨大なセットが組まれ、東京の一般的な家屋を家具を含め忠実に再現、いかなる爆撃によれば効率よく東京を焼却できるかの爆撃実験が繰り返されていたのである。

まさに質量ともに圧倒的な戦力差である。精神力だけでは戦争に勝てないという証拠がここにあります。

そして・・・焼夷弾を搭載した米軍爆撃機の一部は東京郊外の軍用機工場に向かう。

だが・・・それ以外の爆撃機は無差別爆撃を開始するのである。民家が駅が学校が商店街が・・・次々に焼却されていった。

番組では写真に写る人々の遺族や、生存者を追い・・・証言を点描していく。

昭和19年11月・・・荏原に投下された爆弾は29発。死者は78人。

当時12才だった少年は防空壕を直撃した爆弾により息絶えた妹を見る。

妹の手には白い布でつつまれたコッペパンが握られていた。

空襲警報が発令され下校した妹は給食に出されたコッペパンを大切に持っていた。

そして、それを口にすることもなく死んだのである。

毎月の命日に兄はコッペパンを妹の墓前に捧げる。そして68年の歳月が過ぎ去ったのである。

「パンも食べないで・・・それが可哀そうで・・・」

写真に残る少女の遺体に写る白い布・・・68年の間、兄の涙は流れ続ける。

12才の一人の少女が唇をかみしめて焼け跡におかれたみすぼらしい棺桶のそばに佇んでいる。その中には彼女の肉親がいた。

彼女は戦後・・・母親となって・・・すでに帰らぬ人となった。残された二人の娘もすでに老境に近づいている。娘たちに母はくりかえし・・・その日の出来事を語ったという。

「あ・・・お母さん・・・」

「母です・・・」

写真の少女に母親の面影を見た二人の娘は語られてきたその日の母の姿を見て涙ぐむ。

爆弾の破片で体に穴が開いた少女がいた。

今、背中には醜い傷痕が残っている。

「手当らしい手当もなく・・・ただじっと寝かされていました。殺してくれと何度も何度も叫びました。背中の傷は腐り・・・死んだらどれだけ楽だろうという痛みがあったのです」

その痛みは68年間・・・耐えることはない。

やがて、原宿駅が、有楽町が、浅草が・・・東京中が黒煙に包まれていく。

番組は例によって年老いた米国爆撃機の搭乗員を探し出す。

「軍事施設であろうとなかろうと・・・とにかく爆弾は落としていく・・・敵に打撃を与えることが私たちの任務だったから」

正論なのである。何人も彼を責めることはできない。

それが「全面戦争」というものなのである。

10万人以上の死者が出た大空襲の後。

死体安置所に向かう人々はそれぞれの顔を覗きこむ。

もしや・・・生きて会えるのでは・・・そういう淡い希望を持って。

爆撃後・・・行方不明の父親を15才の少女は49日間待った。

そして・・・重い足取りで焼け野原の死体安置所へと向かう。

目の前に横たわる1万3000人の死者。

見渡す限りの残虐。

願いも空しく少女は変わり果てた父親の骸を発見する。

「・・・お父ちゃん・・・死んじゃったんだねえ・・・」

68年の時を経て老婆となった少女はたちまちあの日の自分に戻る。

しゃがみこみそこにはない父親の遺体を撫でまわす。

「お父ちゃん・・・こんなに焼けて・・・熱かっただろうね・・・痛かっただろうね・・・苦しかっただろうね・・・お父ちゃん・・・お父ちゃん・・・お父ちゃん・・・」

2012年・・・東京。

私たちは・・・好むと好まざるとにかかわらず・・・かって無数の焼死体が山と積まれた街の上で暮らしている。だから、この街が呪われていないとはとても思えないのだった。

そこそこ素敵な鎌倉ではそこそこおしゃれな人々がそこそこ美味しいディナーを食べたりしているわけだがそういう幸福がいつまでも続くとは限らないのである。

少なくともキッドはそう考える。

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2012年3月24日 (土)

天使の幸福は悪魔の不幸というものではありませんか(上野樹里)

映画としては未熟の一語に尽きる岸谷五朗の監督デビュー作である。

・・・とはいうものの・・・「ゴジラ FINAL WARS」のCGIディレクター・アベユーイチが監督補をつとめ、シーンにはそこそこ目をひくものがあるし・・・作品全体をそれなりの情念が包んでいるような気がする。

「ジョゼと虎と魚たち」「スウィングガールズ」「亀は意外と速く泳ぐ」「サマータイムマシン・ブルース」と傑作の残る上野樹里としては・・・最高傑作「のだめカンタービレ」(テレビ)と「のだめカンタービレ最終楽章」(映画)の隙間に残した一つの爪痕と言える。

冒頭を飾るデビルマンのフィギュア・・・「オーメン」のテーマに乗る魔犬ダミアン・・・絶対に死なない女・・・郷愁の暴走族・・・ブルース・ブラザーズのような殺し屋・・・ゴリラバタフライ・・・箱詰めの死体・・・樹海・・・純白のパンティーのような下着・・・東京都下の鬱屈した青春の残り香のようなものが匂い立つプライベート・ムービーなのだと妄想します。

で、『キラー・ヴァージンロード(2009年9月12日公開・東宝映画)』(TBSテレビ20120319AM0220~)原案・片岡英子(「贅沢な骨」助監督)、脚本・川崎いづみ(「源氏物語 千年の謎」)、脚本・監督・岸谷五朗を見た。もちろん、映画「月はどっちに出ている」やドラマ「みにくいあひるの子」でおなじみのアクターである。最近では「江〜姫たちの戦国〜」の豊臣秀吉が記憶に新しい。

美人OLである沼尻ひろ子(上野樹里)は寿退社をしたためにオールド・ミスの春日先輩(高島礼子)に呪いをかけられる。少女時代には何をやっても最下位で「どん尻ビリ子」(清水くるみ)と渾名されたひろ子がなぜ、笑顔の素敵なイケメンの「賢一くん」と結ばれるにいたったかは一切説明されない。

ともかく、呪いが成就したのか・・・結婚後に引っ越すためにアパートの解約を申し出たひろ子に大家であり、隣室の住人であり、実はひろ子のストーカーであり、ひろ子の純白のパンツを狙っている三太郎(寺脇康文)の胸をハサミで突き刺してしまう。

パニックに襲われたひろ子には「明日の結婚式で余命いくばくもないただ一人の肉親の祖父(北村総一朗)に花嫁姿をみせたい」という拘りがあったために・・・帰らぬ人となった三太郎の体をかわいいトランクにつめて街に彷徨い出る。

神秘のベールに包まれた魔犬ダミアンはその行方をほくそ笑みながら見守るのである。

グラビア・アイドルのAYAKA(小松彩夏)に夢中のパチンコ店従業員・小峰(小出恵介)は袋とじを反故にされた縁でひろ子と出会い、パチンコ店のキャンペーン・カーをひろ子に乗り逃げされてしまう。

「どうしよう・・・どうしよう」とのだめモードでパニックしまくるひろ子の幻の目に「富士の樹海で身許不明の死体が多数発見された」というニュースが飛び込む。

ため息をつきながら微笑む・・・得意のしぐさでカーナビを樹海にセットするひろ子だった。

樹海で待っていたのは・・・自殺しようとしても絶対に死なない女・小林さん(木村佳乃)だった。車に轢かれようが走行中の車から飛び降りようが無傷の小林さんは・・・ひろ子がキラー(殺人鬼)と知ると「私を殺して」と哀願するのである。

小林さんはその長い人生を男たちに捧げてきたがついに報われることはなくこの世に別れ歌を歌いたかったのである。

しかし、その不死身性から考えて・・・もはや人間とは思えない。

全編にはこの「人であって人でないもの」の抱える疎外感が渦巻く。ちょうど拉致事件が発覚した直後の在日半島人の心情を思わせるものである。・・・特に深い意味はありません。

ひろ子も唯一の肉親である祖父に花嫁姿を披露した後は自首するつもりだった。

しかし、その前に帰らぬ人となった三太郎をしばらくの間、人目につかない場所に安置しておこう・・・と思っただけなのである。

だが、そんなひろ子に・・・小林さんは・・・「あなたの言う真実なんて誰もわかってくれないわ」と脅迫するのだった。

樹海には様々な魔物が潜んでいる。「逃げているものを条件反射で追いかける」暴走族とヘッドの翔(中尾明慶)、「逃げるものの逃げる理由を知りたいだけ」のパトロール警官・利根川巡査(田中圭)、幻の蝶を追いかける妻子に逃げられた男(北村一輝)、その妻子、ゴリラーランド経営者などである。

小林さんにそそのかされて逃げ回るうちに・・・ひろ子の心は変転していく。

最下位人生をなぐさめる祖父は「ひろ子のおかげでみんながしあわせになれる」とひろ子の不幸を美化していた。

そのために「私が幸福になったら・・・みんなが幸せでなくなってしまう」と心を痛めるひろ子。

そんなひろ子に「いいえ、あなたのようにどうでもいい子が幸せになれるなら・・・誰もが前途に希望を見いだせる・・・あなたが幸せになることはみんなに幸せをあたえるの」と小林さんはアドバイスするのだった。

光明を見たひろ子は「ありがとう・・・」と伝える。

生まれて初めて他人から感謝された小林さんは「この人のために死のう」と決意するのだった。

このおかしな二人はやがてタバスコをこよなく愛する二人組の殺人者に出会う。

警察は実はこの二人を指名手配しているのだった。

結婚の祭壇へと続くヴァージンロードを目指すキラーであるひろ子は斜面激走も空中滑空もゴリラバタフライも空しく本物のキラーたちに拉致監禁されてしまうのである。

だが・・・絶体絶命のピンチがチャンスとなり・・・ひろ子はゴリラとなった三太郎から解放され・・・花嫁衣装を無断拝借して愛する人の待つ教会へと向かうのだった。

「小林さん・・・あなたのおかげで私・・・幸せになれそうです」

「あなたがピンチの時にはいつでも私を呼んで・・・世界のどこへでもかけつけるから」

二人の間には奇妙な友情が芽生えていたのだった。

ようやく教会でひろ子は愛するものの旅立ちを見送るのだった。

新婚旅行はハワイである。新郎の賢一(眞木大輔)はあくまでも爽やかなEXILEだったが、実はひろ子の純白のパンツをこよなく愛する変態だったのだ。

そして、不運にもひろ子はペーパーナイフで賢一を殺害してしまう。

「どうしよう・・・どうしよう」とうろたえつつ・・・ひろ子は胸がときめいてくるのを感じる。

一人殺せば二人目はスキップしたくなるものらしい。

絶望も希望もない

成功も失敗もない

始まりも終わりも無い

空のように透き通っていたい

今日という日を素直に生きたい

その頃、漂流の果てに海外で蘇生した三太郎は金髪の看護師のパンティーに新たなる人生の喜びを見出すのだった。

パンツとパンティーは同一の女性用下着ですが一部日本では女性が前者と呼称するものを男性は後者と呼称したがる風習があります。

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2012年3月23日 (金)

これも罪あれも罪たぶん罪きっと罪(水谷豊)

「六法全書」を一度でも読めば・・・そこに書かれる罪と罰の多さに辟易するだろう。

ま、多くの人は読まないと思われる。

しかし、実業に携われば無視するわけにもいかず、必要部分を検索するために書棚に六法全書は並ぶのである。

しかし、罪と罰はこれにとどまらない。

都道府県には条例というものがあり、これにも罪と罰はある。

たとえば、東京都には「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例」なんていうものがある。

街角で口論している人々は一歩間違えればこれで罪に問われる可能性があるのである。

そういう法律に恐怖を感じるか、安心を感じるかは・・・人それぞれの人格によるだろう。

キッドは多重人格なので両方感じます。

今回は「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年(2000年)法律第146号)に基づく、罪と罰の話である。

第三条は以下のように定めている。その罪は「何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない」であり、その罰は「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」である。

杉下右京(水谷豊)のようにこの「罪と罰」を諳んじることができる警察官ばかりでないことは・・・おそらく確実だろう。

クローン技術で誕生したヒト型生命体が・・・人間なのか・・・それ以外のものなのか・・・それはもちろん各自の認識によって異なるのである。

もちろん・・・どんな「神を恐れぬ行為」も悪魔である以上、応援しなければならないのだが。

で、『相棒・Season10・最終話(テレビ朝日20120321PM8~)脚本・輿水泰弘、演出・和泉聖治を見た。相棒・神戸尊警部補(及川光博)警視庁特命係・卒業スペシャルである。馴染んだ頃に去る・・・それが相棒というものなのだな。しかし・・・今回は警察という組織を去った前の相棒(亀山)や、人生から卒業してしまった真の相棒(官房室長)と違い、警察組織の極悪メンバーの一人、長谷川警察庁長官官房付(國村隼)の配下に移動である。ポスト官房室長の任を追う長谷川と神戸の・・・グレーなコンビが結成されたと考えるべきだろう。再登場は確実だな・・・。

神戸は・・・冤罪事件において訴追されない偽証者という十字架を背負っている。無実を主張した被告は自殺をしてしまい・・・神戸は謝罪さえできない自分を常に恥ずべき存在と考えるがそれでも警察官として生きていくのである。

死者を復活させる技術があるのなら・・・神戸は贖罪のために悪魔に魂を売ってもいいと覚悟しているのだ。

しかし、そのような技術はまだ確立されておらず・・・クローン技術もただ遺伝的に同一な別人を作り出す技術にすぎないことを認識している。

そういう技術は超独裁者が自国のサッカー・チームを強力にするために、名選手のクローンを計画的に製造し、飼育し、訓練し、脱落者は廃棄するような場合や、各国の人気アイドルのクローンを計画的に製造し、門外不出の性奴隷として取り扱うといった場合にのみ有効なのである。

もはや・・・人権とかそういう問題ではないのは明らかだろう。

悪魔ものけぞる仕業である。

そういう技術であることを認識しているからこそ、法律はそれを禁じ、右京はその罪と罰をあくまで肯定する。

しかし・・・神戸は思う。そうした技術によって生まれいずる人間に何の罪があるのだろう・・・と。

嘉神茜(浅見れいな)は水難事故により、夫と息子を同時に失い狂乱し、自殺未遂をはかる。

一命をとりとめた娘はクローン技術の研究者である母・郁子に息子のクローン人間製造を求める。

愛する娘と自分の科学的野心のために・・・禁断の行為を犯す郁子。

やがて、息子のクローン人間を体内に宿した茜。茜の兄であり、郁子の息子である隼斗はその事実に気付き・・・キリスト教的信仰心と、人道的立場、そして無垢な正義感に突き動かされて母と妹の罪を糾弾する。

しかし、「クローン人間の誕生」が世界的な倫理観から糾弾されるものである以上、国家はその実際的存在さえ認めないのだった。

万策尽きた隼斗は路上で「今、日本でクローン人間が生まれようとしている。それは絶対に許されない行為だ」と叫ぶ。

その演説を撮影したものにより、動画がインターネット上に掲載され・・・悲劇の歯車は回転を始める。

たまたま・・・現場に居合わせた右京と神戸はお互いの倫理観を賭けて雌雄を決する運命に追い込まれていくのである。

やがて・・・息子の再臨を熱望する茜は兄を殺害し、郁子は息子を殺害した娘と胎内のクローン人間を守るために身代わりとなって自首することを決意するのだった。

「被害者の着ていた黒いダウン・コートはどこへ消えたのか」・・・些細なことが気になる右京はじわじわと「真実」をあぶりだしていくのだった。

おっちょこちょいな月本幸子(鈴木杏樹)の珍推理、そして右京に頼まれれば朝食を作り、神戸に頼まれれば容疑者を匿うという・・・ふたまた愛人疑惑を残し・・・事件は解決するかに見えた・・・。

しかし、真実の追求のためには・・・「罪の子」は罪を背負って生まれるべきだと割り切る右京に・・・「罪の子の罪はなかったことにしてください」と神戸は哀願する。

右京に拒絶された神戸は・・・それなら「罪の子」を始末すると右京を脅迫する。

お互いの譲れない一線で向き合う上司と部下。

ついに右京は人命尊重の超法規的措置という妥協を余儀なくさせる。

そこまで右京を追い込んでしまった自分を許せない神戸は親友の警視庁警務部首席監察官大河内警視正(神保悟志)に特命係からの移動を求める。しかし、「断る」大河内だった。

右京も「君を説得できなかった罪が私にあるということです」と神戸の暴走を優しく抱擁する。

だが・・・右京の信念を挫いた実力を買われ・・・極悪政治家・片山雛子(木村佳乃)と接近する長谷川は警察庁長官官房付に神戸を引き抜いてしまうのだった。

そして・・・クローン人間が存在しないことを確実にするために・・・法廷に向かう茜にはクローン人間を流産させるための特殊な薬剤が注入されるのである。

こうして、クローン人間は闇に葬られ・・・神戸は無念の心を抱いて・・・特命係を去るのだった。

愛車に乗って別れの警笛を高らかに鳴らす神戸。

道路交通法第54条「警笛は警笛区間や危険な場合以外には使用してはならない」違反であり、「2万円以下の罰金又は科料に処」せられる場合があるのでご注意ください。

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1591年京都の旅(水谷豊)新・相棒の昔の恋人どすえ(檀れい)

やはり相棒はかかせない・・・というあなたはこちらへ→エリお嬢様の『相棒ten』

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2012年3月22日 (木)

クワコー(佐藤隆太)と食べられる野草を捜して食べました。(桜庭ななみ)

ふふふ・・・2012年冬ドラマレビューの最後を飾るのが・・・このドラマになろうとは・・・。

いや・・・まだ「家族八景」があるが・・・あれは別格だからな。

結局、神野仁美ことジンジン(桜庭ななみ)のダンボール生活萌えっていうか、ホームレス女子大生萌えっていうか、ななみ、かわいいよななみとしか言えないドラマだったけどな。

しかし、その一点で「ストロベリーナイト」も「ハングリー!」も「最後から二番目の恋」も「恋愛ニート」も「ダーティー・ママ」も葬り去るほどの破壊力を持っていたのだ・・・桜庭ななみの底力おそるべし・・・だな。

なんだろう・・・この尋常じゃない魅力・・・もはや、魔性の領域だな。

いや・・・まあ・・・要するに・・・原田知世の再来なのである。

だから20年後にはコーヒーのCMに出ているだろう。どんな予言だよっ。

恐ろしいことにキッドは「栞と紙魚子の怪奇事件簿 第6話」をごく短くレビューしているのだが・・・桜庭ななみのデビューを見逃しているのである。沢本冬実(桜庭ななみ)は「ゼノ夫人」のお屋敷に結構、重要なものを忘れている役なのにである。

見る目なーしっと叫びたい。で、録画をチェックしてみると・・・いましたーっ。しかもまったく今のまんまだーっ。

まあ、この日は沢尻エリカと黒木メイサを見たあとだからなーーーっ。

そしてその年(2009年)の夏「恋して悪魔~ヴァンパイア☆ボーイ」(フジテレビ)という史上最悪の吸血鬼もの・・・と「ふたつのスピカ」(NHK総合)という実に微妙な仕上がりのSFもので桜庭ななみ降臨である。

(まあ、当時、プロガー仲間のお気楽社長や、シャブリ様から強力プッシュがありましたからねえ・・・二人とも見る目あるなーーーーっ)

そして・・・「怪談新耳袋 百物語」でついにキッドは桜庭ななみにノックアウトである。結局、ホラーかよっ。

しかも・・・この直後・・・キッドのブログは長期休養体制なのである。

ちなみに「栞と紙魚子の怪奇事件簿」で共演していた松山メアリは「怪談新耳袋 百物語」でも共演している。

松山メアリは現在テレビ東京深夜の「牙狼<GARO> 〜MAKAISENKI〜」の魔戒法師・烈花として同じく魔戒法師・邪美(さとうやすえ)とともに新旧悩殺太もも攻撃を炸裂しているのだった。

レビューはしないが・・・見逃せません。

それに対して、ジンジンは赤ジャージ姿で悩殺である。一体どういうシステムなのだっ。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・最終回』(テレビ朝日20120129PM2315~)脚本・森ハヤシ、演出・石井裕也を見た。ついになぜ、ジンジンにはクワコーの妄想を見透かすことができるのか・・・その謎が解き明かされませんでしたーっ。まあ、どうでもいいもんな。「家族八景」の七瀬(木南晴夏)と同時期に「クワコー」のジンジンがエスパーとして存在したことを人々はすぐに忘れるどころか・・・まったく認識しないだろうことは充分に妄想され・・・まことに残念なことである。

リストラされてたどりついたたらちね国際女子大学でまたしてもリストラ候補になってしまったクワコー。ミステリー研究会に「なんとかバックアップを・・・」とお願いするのだが・・・「追試があるから無理」(木村部長=倉科カナ)とすげない返事である。

リストラ候補は四人・・・いずれおとらぬダメ教授・準教授陣である。

その中でもヒーローおタクの植松準教授(梶原善)はクワコーの最大のライバルと目されていた。

そんな折・・・クワコーの幼馴染雨宮千佳(原沙知絵)が学内に現れる。

初恋の人との再会に・・・クワコーの妄想は全開である。

いつも・・・思うのだが・・・妄想を具現化しない・・・このドラマ・・・どんだけチープなんだ。

そんなクワコーを・・・ジンジンは学内での拾い食いの合間に・・・ちら見するのだった。

実は、まもなく結婚する千佳は空手道場で知り合った植松準教授に披露宴で瓦割のアトラクションを頼みに来ただけだったのだが・・・クワコーは千佳の結婚相手が植松準教授だと勘違いし、空しい嫉妬に身悶えするのだった。

一瞬で真相を見抜くジンジンにはただただクワコーが哀れな人に思えてくるのである。

その頃、学内では謎の着ぐるみモンスターが出現。実はなんだかんだで沼袋(渡部秀)が中身なのだが、クワコーはあらぬ妄想で・・・中身が千佳だと思い込んでしまう。

そして・・・プライドのない戦闘でついにモンスターとドローに持ち込むクワコー。

さらに愛する千佳の結婚相手(妄想)の植松準教授がリストラされないために・・・自虐的自己卑下の演説を敢行する。

「女子大生諸君、俺は・・・妄想の中で君たちを全員抱いた・・・最低の人間です」

・・・ま、リアクションに困るわな。

結局、そんなクワコーのためにミステリー研究会は暗躍してくれるのだが・・・それでも結局、リストラされてしまうクワコーだった。

本当なら「どんだけ~」と言いたいところだがもはやスタイリッシュではないので・・・言えないのである。

みんなに・・・自殺か・・・と心配させるも・・・ただたらちね大仏に別れを告げるために屋上に佇むクワコー。

もう・・・ストーリーを追うのだけでも脱力する無内容である。

結局・・・クワコーはジンジンのダンボールハウスに居候である。

「いつまでいる気ですか」

「まあ・・・いいじゃないか」

二人はジャージ・スタイルで学内の野原へ食べられる野草採取に向かう。美味しいスープを作るためである。

「これはどうかな・・・神野くん」

「なんとか・・・いけるんじゃないかな」

「しかし、こういう生活も楽しいな」

「早く、再就職して出て行ってください」

「そんなつれないこというなよ・・・妄想でラスベガスに連れてってあげるから」

「・・・勝手に私をラスベガスに連れていかないでください」

「・・・」

「だから・・・勝手に大勝しないでくださいってば~」

もう、春だね。

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2012年3月21日 (水)

となりの芝生は青いとはいうもののマンションなので芝生がないことに困惑する乙女(木南晴夏)

嫉妬の根底にあるものは「ないものねだり」である。

所有欲に目を転じれば、「自分にないものを他人が持っていること」から生じる「うらやましさ」ということになる。

さらに「隣の芝生は青い」という警句には「それほど差のないものを過剰に意識する弊害」というものを暗示している。

七瀬は精神感応能力者(テレパシスト)であるから、「他人にはない力」を持っているのだが、逆に「無能力であること」に対して憧れをもっている。

それは「自分はおそらく、一生結婚しないままで終わるかもしれない、と、七瀬はもうだいぶ以前から、そう考えていた」と原作にもある核心部分である。今回は核心に迫っているのである。

超能力者の孤独は七瀬の心を暗く沈ませる。

一方で原作の「芝生は緑」はマンネリ化した夫婦関係をスワッピングによって解消するという「一夫一婦制」への消極的なアンチテーゼを含んでいる。

この主題そのものはたとえば・・・「季節のない街」(山本周五郎1962年)は「家族八景」と同じ連作短編で・・・黒沢明監督の映画「どですかでん」(1970年)の原作である・・・の一篇「牧歌調」にもある。二組の夫婦がいて・・・お互いに相手の配偶者に好感を持っており、やがて・・・という話である。

年代順に考えれば、「芝生は緑」は「牧歌調」のパロディーとして読むことができる。

「牧歌調」では二人の夫は親友同士で肉体労働者である。これに対して「芝生は緑」では一人は商店専門の設計士、一人は内科の開業医である。つまり、インテリ同士なのである。

このあたりの格差が結末に些少の差異を生じさせるが、教養があろうとなかろうと人間のやることはたかが知れているという皮肉にもとれるのである。

山本周五郎は作家の中で直木賞を受賞しながら辞退するという偉業をなしとげた唯一の人である。筒井康隆は「家族八景」で三度目の受賞候補になったが・・・受賞を逃し、現在に至っている。

キッドは「芝生は緑」がその原因に違いないと密かに妄想している。

誰でも「あげる」というものを「いらない」といわれたら「いやなきもち」になるものな。

候補作を読んだ選考者たちは・・・「これは危険だ」・・・と思ったにちがいないのである。

・・・あくまで妄想です。

とにかく、直木賞作家となった筒井康隆は「ない」のである。

さて・・・原作の残された一篇「芝生は緑」を前後篇に割ってきた今回。結局、オリジナルは第7回のみということになったな。

原作は以下の通り。

① 無風地帯 ② 澱の呪縛 ③ 青春讃歌 ④ 水蜜桃 ⑤ 紅蓮菩薩 ⑥ 芝生は緑

⑦ 日曜画家 ⑧ 亡母渇仰

今回のドラマ版はここまで、

①無風地帯 ②水蜜桃 ③澱の呪縛 ④青春讃歌 ⑤紅蓮菩薩 ⑥日曜画家

⑦オリジナル知と欲 ⑧亡母渇仰 ⑨芝生は緑(前編)

最終回は「芝生は緑(後編)」となるわけで・・・「家族十景の乙女」というタイトルは御蔵入りである。

読み切り形式とはいえ、「亡母渇仰」の後に「芝生は緑」は連続ドラマとしてはかなり変化球だが・・・まあ・・・仕上げがどうなるのか・・・楽しみたいと考える。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第九話・芝生は緑~市川家編~』(TBSテレビ20120321AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・上田誠、演出・堤幸彦を見た。原作では七瀬が最初に家政婦となるのは高木家である。高木家から市川家に一週間だけ出向することになるのだ。しかし、ドラマは市川家からスタートである。4DKのマンションで隣接する市川家も高木家とほぼ同じ間取りで、七瀬にあてがわれる部屋も同じ三畳の小部屋である。このあたり・・・実に忠実に再現されていて・・・「家政婦の部屋はせまいよ」である。

とにかく・・・ドラマでは市川家が先に家政婦の七瀬の奉公先になる。前篇だけではなんとも言えないが・・・構成の変更に特に違和感はない。

七瀬が心を読む時の表現は市川家では力士のぬいぐるみだ。ないものねだりの象徴として市川夫人季子(星野真里)がスレンダーなボデイ、高木夫人直子(野波麻帆)がグラマラスなボデイであることを強調しているのであろう。力士着ぐるみとはいえ、乳頭露出の星野真里・・・体当たりだな。

ついでに・・・高木家では「顔がでかくなっちゃう」である。同じ原作者による「富豪刑事」シリーズ」(テレビ朝日)でファンキーな性格の婦人警官を演じた後に女優としてはちょっと伸び悩み、「モテキ」(テレビ東京)で爆発した野波麻帆の抜群のスタイルがより強調される演出になっていると思われる。

市川省吾(西村和彦)は新しくできるスーパー・マーケットの内装の設計を仕上げるために自宅で一週間仕事にかかりきりになるという。仕事に熱中する市川氏は気難しくなり、扱いが難しくなるために家事手伝いが必要となったのだ。というのも、市川夫人はおっとりさんだからである。

そのために市川氏の要求にてきぱきと応じることができず、「このうすのろめ」と夫に罵られたりしている。

高木さんの奥さんを、ちっとは見習え≫ドラマではなぜか関西弁だが、妄想では原作に準じて標準語に変換してお届けします。まあ、今回は二話完結なので時間的な余裕があるらしく、いろいろと遊んでいる部分もあるのだが・・・そこが凄く面白いかといえば・・・そうでもなかったりするのである。ただし、大阪府豊中市出身の木南晴夏の心の声吹き替えはノリノリである。

市川氏がひそかに高木夫人に対して「自分の妻に不足しているもの」を求め、さらには性的欲望を抱いていることを市川夫人は見抜いている。

しかし、古風で暖かい家庭で大事に育てられた市川夫人はけしてそのことを夫に告げ、波風をたてるようなことはできなかった。だが、修羅場になると短気になってどなりちらす夫をもてあましていた。市川夫人は夫に不足している自分に対する優しい愛情を・・・となりの高木氏に求めていたのである。

≪どなりちらす≫≪男のヒステリー≫≪高木先生はちがう≫≪女性へのいたわりをこめた愛情のまなざし

夫婦そろって隣の配偶者を恋慕する市川夫妻の心理は・・・性体験のない七瀬(木南晴夏)にとってただ不潔なだけだった。

入浴シーンである。今回は潜水後・・・膝小僧をサービスか・・・もう、七瀬、かわいいよ七瀬というしかないな。

となりの高木夫人は手作りのマドレーヌを市川家に差し入れに来たりする。

市川氏は市川夫人を無視して玄関で高木夫人とのおしゃべりに熱中する。

≪マドレーヌ≫≪さすがだ≫≪うちのやつには≫≪無理≫≪高木さんの奥さんは≫≪グラマーだ≫≪うちのやつにはがっかりだ≫

一方、ふたりのいちゃつきぶりをさけるようにベランダで洗濯ものを干す市川夫人は同じくベランダで一服している高木氏にうっとりである。

≪やさしい高木先生≫≪やさしいやさしい高木先生≫≪やさしいやさしいやさしい高木先生≫≪おだやかであたたかいお顔≫≪夫とはまるで違う≫

七瀬はあきれると同時にちょっと面白くなってきた。

マドレーヌの皿を高木家に返却しに行った七瀬はさらに興味深い心理的な事実に遭遇する。

高木氏は高木夫人を≪でしゃばり女≫と思っていた。

そして高木夫人は高木氏を≪デブのなまけもの≫と思っていた。

高木氏は市川夫人を≪かわいい人≫≪白い肌≫≪抱きしめたい≫と恋慕していた。

高木夫人は市川氏を≪精力的≫≪スマート≫≪抱きしめられたい≫と恋慕していた。

高木家と市川家の夫婦は精神的な夫婦交換状態にあったのだ。

心の中で二組の夫婦は互いの配偶者と空想的性交をしていたのである。

欺瞞だ・・・欺瞞すぎる・・・)

七瀬の中に奇妙な感情が急速に形成されていった。

そして・・・それは・・・その夜に最高調に達したのである。

市川夫人は市川氏に抱かれながら心の中で高木氏のことを思い描いていた。

≪先生≫≪診察の時に私の胸をさりげなくみていた≫≪私の不眠症の悩みを≫≪優しく聞いてくれて≫≪薬を処方してくださった≫≪それから診察室で≫≪ああ≫≪私をやさしく≫≪私にそんなことを≫≪ああ≫≪いけませんわ≫≪そんな≫≪あああ~≫

市川氏は市川夫人を抱きながら高木夫人のことを思い描いていた。

≪高木さんの奥さん≫≪高木さんの奥さん≫≪高木さんの奥さん≫≪高木さんの奥さん≫

七瀬は心の掛け金をおろすことができなかった。

七瀬にもそれなりの好奇心があったからである。

そしてテレパシストにとってマンションの壁は何の意味も持たなかった。まもなく、高木家の夫婦の心が七瀬に流れ込んでくる。高木家でも性交が開始されていた。

≪市川さんの奥さんの薄い胸・・・でもつつましく美しいなだらかさ≫

≪市川さんの引き締まった尻≫≪ぎゅっとしたい≫≪激しい腰使い≫≪あのお尻を≫≪両手で≫≪ぎゅぎゅーっと≫≪ぎゅぎゅぎゅーっと≫

≪高木先生≫

≪市川さん≫

≪奥さん≫

≪おくさーん≫

七瀬は他人の心を読む能力者として常人とは違う良心(超自我)を持っている。

七瀬にとっては人間たちの「願望」と「実行」の間の隔たりはあってないようなものだったからである。

七瀬の奇妙な感情はついに一つの意思となって結実した。

実験してみる価値はある

(四人の願いを叶えてあげよう)

火をつけて観察してやるのだ)

自分の能力を使えばそれは容易なことだ・・・と七瀬は思った。

後編につづく・・・である。

関連するキッドのブログ→第8回のレビュー

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2012年3月20日 (火)

短いお別れ(松本潤)

「さようなら、愛しき名探偵」(瑛太)も用意しましたが・・・おそらく続編がありそうなので・・・こちらで・・・。

まあ、「さらば愛しき男よ」(夏帆)でもよかったけど・・・主役には敬意を払うべきなので・・・。

もちろん、元ネタは口にするのも恥ずかしい「長いお別れ」(レイモンド・チャンドラー1953年)である。

不在の友人を追うフィリップ・マーロウ・シリーズの六作目。「さらば愛しき女よ」も同じシリーズである。

不朽の名作というか、金字塔というか、空前絶後というか・・・そういうたぐいのものでございます。

まあ、ドラマの方は大人の鑑賞には耐えられないが、小学生向けの探偵ドラマとしては水準に達していたと思われますな。

けして、けなしているのではございませんぞ。子供向けのドラマだって立派なエンターティメントですからなーっ。

そして、十代であれ八十代であれ、心が子供の人はそれなりに楽しめるわけですし~。

で、『・最終回』(フジテレビ20120319PM9~)脚本・野木亜紀子、シリーズ構成・演出・佐藤信介を見た。謎のチンピラ集団に拉致されてしまった北品川ラッキー探偵社の社長・瞳子(松嶋菜々子)。妨害を試みた旭(大泉洋)は凶器による打撃で頭蓋骨陥没で帰らぬ人・・・重傷を追ってしまう。瞳子の死んだ父親が遺した黒い手帳を狙った二人組の泥棒の一人を捕らえた駿太郎(松本潤)だが、女は見逃す主義なのか、正体不明の史織(夏帆)を追わないのだった。繰り返すが窃盗の現行犯である。

チンピラのリーダー(永井大)から「社長と手帳の交換」メールが探偵たちに届き、筑紫(角野卓造)はついに秘事を明かす。

「ずっと社長の父親は事故死ではなく殺害されたと信じ・・・真相を求めて二人で調査を重ねていた・・・」と言うのである。

「つくし、そんなことは最初からいえよ」

「だって、社長が秘密にしようっていったんだっつーの」・・・おい、キャスティング表を確認しろよ・・・牧野つくし(井上真央)じゃなくて、筑紫昌義(角野卓造))だっつーの。

社長の父親は都市再開発を巡る不正を追及する渦中で不審な死を遂げたのだった。社長の父親が追求していたのは大手建設会社「八神コーポレーション」とその代表者八神(鹿賀丈史)であり、八神は裏ではいろいろと汚いことをしているらしい。

飛鳥が上野駅に手帳を持参すると、受け取りに現れたのは史織だった。

「社長はどこにいるの」

「そこまでは知らないの・・・手帳をちょうだい」

「成功報酬はいくら」

「あなたの月給より高いとだけ言っておくわ」

手帳を持って逃げ去る史織を追うパックアップの駿太郎。しかし、手帳はバイク便で持ち去られてしまう。

「あなたに言いたいことがある・・・一緒にいた時は楽しかった」

「ウソツキは泥棒のはじまりだぜ」

駿太郎は史織を置き去りにして筑紫・メイ(入来茉里)組に合流する。恋泥棒に心を盗まれた史織、お疲れ様である。

手帳に仕掛けられた発信器を追跡する探偵たち。

やがて、バイク便は港に停泊する巨大な廃船に到着する。

もちろん、そんな必然性はあまりないが、瞳子はこの船に監禁されていると断定する探偵たち。

さっそく、駿太郎と飛鳥は船内に侵入する。何故か、進入路には見張りはいないのであった。

たちまち、監禁されている瞳子を発見する駿太郎。

チンピラ・リーダーは発信器を発見し、侵入者の存在を知るが、何故か、見張りを一人残し、迎撃に向かうチンピラたち。

見張りをアクロバット・アクションで倒す駿太郎。止めは瞳子の回し蹴りである。

次々に襲いかかるチンピラたち。しかし、潜入捜査していた新田や病院を脱走した旭も参戦し、飛鳥の回し蹴り、駿太郎の回し蹴り、新田の回し蹴り、旭の回し蹴りなどで敵を撃破。みんな決め技は回し蹴りである。

廃船だが突然、エンジンが始動し、航海に出ようとする巨大船。船底には自爆装置が仕掛けられ、探偵たちの命は風前の灯である。

しかし、回し蹴りをしないメイや筑紫が「早く逃げてー」と絶叫したので間一髪、脱出に成功する探偵たち。東京湾で爆発炎上する謎の廃船・・・いい加減にしとけよ。一部、妄想でお届けしています。

瞳子の救出には成功した探偵たちだが・・・手帳は奪われてしまう。

しかし、コピーしてありました。

「二人では発見できなかった手帳の謎がみんなで考えれば解けるかも」ということで全員がコピーを熟読である。

「そういえば・・・チンピラがインクの色が違うと言っていた・・・父の誕生日に万年筆をプレゼントしたので・・・インクの色が違うのが最新よ」

「解析してみます・・・ここに重ね書きがありますね」と仕事の早いメイ。

「まあ・・・うっかり見逃していたわ・・・」「社長ーっ」と瞳子につっこむ探偵たち。

ジンジャにかくす

「神社か・・・」

「それとなぜか・・・手帳にはマイページに由香利(奥田恵梨華)の家の電話番号が書かれていたの・・・」

「それって・・・手帳を一度捨てて・・・誰かに拾ってもらうためじゃないのかな」

「なるほど・・・」

16年前の遺失物の記録が警視庁に保存されていたため、桐原警部補(吹石一恵)が一発検索である。まあ・・・これ以上ないご都合主義というものを見ましたな。

その手帳が落ちていたのは八神コーポレーションの本社ビル前庭だった。

メイが検索した地図を見て駿太郎が叫ぶ。

「神社だ、屋上に神社があるーーーーっ」

かくて、携帯電話の同時通話機能を宣伝するスタイルで敵のアジトに乗り込む探偵たち。

社員証を手に入れるために社員たちを次々と拉致監禁・・・はしないであの手この手で探偵たちは八神ビルに侵入するのだった。

同時に・・・八神に面会を申し込む瞳子・・・八神と瞳子の父はかって友人だったのだ。

「自首をすすめにきました・・・かって父がそうしたように」

「何を言っているのか、さっぱりわからんね」

「もうすぐ証拠が届きます・・・その前に父を殺したことを告白してください」

「馬鹿な・・・まあ、たとえ君の父親を私が殺したとしても・・・それがなんだね。私は神なのだ・・・人の命のひとつやふたつどうとでもなる」

「あなたは神ではないわ・・・ただの人間のクズよ」・・・いい加減にしときなさいよ。

屋上の神社の屋根裏で銀行の貸金庫のカギを発見した駿太郎と旭と飛鳥。

しかし・・・チンピラがやってきた。

駿太郎は鍵を投げ捨て・・・筑紫がキャッチ。セキュリティーの甘い銀行は鍵だけで開く貸金庫を差し出し・・・そこには恐ろしい秘密・・・談合なんちゃらが隠されていたのだった。

チンピラリーダーと一騎打ちで決着をつける駿太郎・・・「蹴っていいのは蹴られる覚悟があるものだけだ」と回し蹴りでチンピラリーダーを階段から突き落とし、頭蓋骨陥没で即死させた駿太郎は逮捕され、過剰防衛で刑期十年の懲役を・・・やめときな・・・無事、脱出に成功する。

北品川署の副署長は16年前から副署長だったらしく、八神の犯罪をすべて握りつぶしていたらしい。後藤警部(金田明夫)の内部告発で警視庁監察官が動き、取り調べが開始される。

やがて・・・瞳子の父親殺害の実行犯は東京湾に浮かび・・・事件は闇から闇に葬られることになると思うが・・・とりあえず・・・瞳子はすっきりしたのであった。

短いお別れの後で新田も探偵社に復帰し・・・ラッキーセブンが揃い踏みである。

探偵たちを七色の東京タワーが祝福している。

「俺たちの探偵家業はこれからだっ」・・・駿太郎は虚空にそうつぶやいてお汁粉缶を飲み干すのだった。

「私たちっていると思えばいるし、いらないと思えばいらないのよね」と駿太郎の母(岡江久美子)は誰にともなく囁くのである。

顔のない女を妻に持つ駿太郎の弟(小山慶一郎)は沈黙を守っていた。

そして・・・真壁リュウ(谷原章介)は第19シリーズに突入していた。第7シリーズじゃないかという人もいるが18年間も続いているのだからそんなことはないだろう。

ただ一つ言いたいのは子供はだませても大人はだませないっつーの・・・ということだな。

特にこの作品の脚本家たちは大人の探偵ドラマをやるには少し早すぎるかもね。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

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2012年3月19日 (月)

あなたの燃える手で私を抱きしめてほしいんですーっ。(加藤あい)

そこかっ。

古きよき日本では女性の名は伝わりにくい。

それだけ虐げられていたという考え方もあるが・・・奥床しかったという考え方もあるだろう。

高階基章の娘で、平清盛の最初の妻で、平重盛(清太)と平基盛(清二)の母・・・ドラマの上で明子と名付けられた女(加藤あい)もその名を知られていない。

いつ生まれ、いつ死んだかもわからない。

高倉天皇の中宮で安徳天皇の国母となった平徳子を生むことになる清盛(松山ケンイチ)の継室・平時子は天皇の母の母となったために名が残る。大治元年(1126年)に生まれ、文治元年(1185年)に死んだこともわかっている。死亡の日付は壇ノ浦の合戦当日である。お茶の間的には当然、その日が来ると思っている方も多いと思うが・・・ドラマは「平清盛」である。そこはないというか・・・頼朝(岡田将生)のナレーション・ベースだと推察する。がっかりなされないようにという老婆心である。だって治承五年(1181年)に清盛が病死したらこの物語はジ・エンドですからーーーっ。「織田信長」というドラマで江戸幕府誕生を描かない如しでございます。おそらく清盛が死んだら・・・ドラマ冒頭にもどって終了ですぞ~。

平重盛が保延四年(1138年)に生まれ、時子が久安元年(1145年)頃に継室となるので・・・明子はその前後の期間に清盛の妻だったことになる。

短くも美しく萌え・・・である。

で、『平清盛・第11回』(NHK総合20120318PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は待望の美福門院藤原得子描き下ろしイラスト大公開でございます。今更ですが・・・過去に女児誘拐犯だった二大女優競演・・・待賢門院藤原璋子(檀れい)は『八日目の蝉』、得子(松雪泰子)は『Mother』・・・前者はちょっとおバカでメルヘン・・・後者はちょっとひがみすぎでとことん・・・今回もそのまんまでございますよ~。一度ついたイメージってこわいなあ。

Tairakiyomori09時は流れていく。保延六年(1140年)佐藤義清出家。清盛は従四位上となる。永治元年(1141年)崇徳天皇退位。康治元年(1142年)近衛天皇即位。待賢門院出家・・・世は得子皇后時代に突入する。平忠盛一門は妻・宗子が藤原家成の母方の従妹にあたり、家成が得子皇后の父方の従妹であることから、またもや中央との太いパイプを維持し続けるのである。婚姻と出産はさすがに計算通りにはいかないものなので・・・このあたりの忠盛のツキはなかなかのものである。一方で忠盛は待賢門院系の雅仁親王の乳父となった高階通憲と同族の高階家から清盛の嫁を迎えている。どちらに転んでも大丈夫なように保険もかけているのである。後に清盛の継室となる平時子は・・・平高棟を始祖とする桓武平氏高棟流(後の堂上平氏)の平時信の娘である。忠盛は平高望を始祖とする桓武平氏高望流であり、坂東平氏から分離した伊勢平氏である。傍流だった伊勢平氏六波羅家は忠盛の父・正盛の代から頭角を現し、いつしか平氏の宗家を目指す趣をなしている。清盛と時子が結ばれるのは二つの平氏の融合という意味合いを持つわけである。一方、関東に下った源義朝は坂東平氏の三浦氏を傘下に収めるなど武士団の再編成を実力で行っていく。ついでに子種もばらまき快進撃なのである。義朝長男の義平は坂東平氏系三浦氏の女、次男の朝長は古代豪族大伴氏の血族とされる佐伯氏系波多野氏の女がそれぞれに生み落としている。まあ、全開バリバリである。

「母上様(藤原宗子)が重仁親王殿下の乳母になられたそうでありますね」

「うん・・・重仁親王様の養母となられた皇后陛下(藤原得子)がまたいとこやから、縁故採用つうこっちゃ」

「おめでたいことでございましょう」

「しかし、近衛帝の即位のおりの皇太弟の詔の件では重仁親王殿下の父であらせられる崇徳上皇様は納得できへんやろうなあ・・・母上も苦しいところや・・・」

平清盛の館である。寝処には清盛と妻の明子がいる。清盛の館は鴨川の東にある平忠盛館に隣接している。その隣には清盛の弟・家盛の館がある。別館で囲んで本館は要塞の態をなしているのである。

清盛の館にも清太小屋、清二小屋という別棟があり、それぞれの乳父一家とともに清盛の子らが生育されている。

清盛は明子を迎えるにあたり、明子の父で鰥夫暮らしだった藤原基章のために別宅まで用意している。清盛は基本、にぎやかなことがすきなのである。

「それよりも・・・統子(むねこ)内親王様の御頼みの件ですが・・・大丈夫でしょうか・・・」

「うむ・・・円位殿(佐藤義清=大伴服部半蔵)には伊賀の服部半蔵配下や伊勢のしのびを預けたが・・・今は比叡山を中心に探索を行っていると伝えきいておる・・・」

「円位殿も気かがりですが・・・相手は千年も万年も生きながらえているというあやかしござりますれば・・・手を貸している殿にも危険がおよぶのでは・・・」

「その心配は無用じゃろう・・・母上は得子皇后(九尾の狐)のおぼえめでたいという。よもや・・・こちらが尻尾をつかもうとしてることなど・・・気取られてはおるまいて・・・」

「ご用心なさりませ・・・噂によれば・・・陰陽師御三家に不審な動きがあるといいまする」

「不審な動きとは・・・」

「ご存じのように安倍晴明直系の陰陽頭安倍泰親様を筆頭に陰陽師一族は様々に分岐しておりまする。中には闇の陰陽師と化しているお方もあるとか・・・安倍の時親様より分家した晴道党の当代は二代目晴明を名乗り我こそは正統の名乗りをあげておられます」

「血が濃く出た妖術師は実力を盾に本家を追い落としたくなるものや」

「追い詰められていた本家が美福門院の保護を願い出たとか・・・」

「なるほど・・・得子皇后呪詛のからくりを仕組んだのはそのあたりかもやな」

「殿のお父上様をはじめ・・・武家である平家の皆さまは血なまぐさい実力の世界に生きる方々・・・公家のように陰陽師の力をあがめたてまつることはないでしょう・・・しかし・・・殿にもののけの力があるように・・・みくびってはならぬ闇の力がございまする・・・実は・・・この頃・・・なにやら、気分がすぐれぬのです・・・」

「なんと・・・いかがいたした・・・」

「このお屋敷も陰陽道による呪詛の標的になっているやもしれませぬ」

「しかし、明子には伝家の名器、厄祓いの琵琶、『和音秦鳳義唖』があるではないか」

「はい・・・夜ごと・・・魔除けの曲をつま弾いておりますが・・・ときおり、魔の気配を強く感じるのです」

「面妖な・・・」

しかし・・・平家六波羅屋敷に呪いをかけているのは九尾の狐ではなかった。

山城国葛野に地下御祈祷所を設置した・・・晴道党の当代二代目安倍清明は・・・嫡流家と組んだ美福門院の養子の乳母家となった平氏に仇なそうと・・・夜な夜な呪詛を続けているのである。

その呪いを祓うため・・・明子は琵琶を奏でる。

しかし、その妖と妖との争いは刻一刻と明子の命を削っている。

その余命がいくばくもないことを・・・清盛は知らなかった。

清盛は漠然とした不安を感じながら燈明の火を吹き消した・・・。

平安京の漆黒の闇が寝処に忍び込む・・・。

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2012年3月18日 (日)

ただそこにいるだけの母(遠山景織子)と慈愛とは何かを汝に問うウエディング・ドレッサー(山田涼介)

理想の母親とは何かに答えるためには東洋では慈愛について西洋では聖母について語ることになる。

聖母を代表するのが理想の息子(山田涼介)をもった鈴木海(鈴木京香)であるとすれば、慈愛を体現するのがダメな子(中島裕翔)を持った小林光子(鈴木杏樹)なのであろう。

そして、それらを統合した全世界的な完全なる理想の母親は息子を捨て、ついには若年性アルツハイマーで息子の存在さえ認知しない空虚な母親(遠山景織子)になるのだな。

ただ、そこにいるだけでいい・・・それが究極の理想の母親なのである。

実生活では未婚の母親として一児の母である遠山景織子はたぐいまれな美貌でそれを体現するのだった。

もちろん、全員が母子家庭であり、世界には父親は不在でよろしかろうというのが最大の結論である。

まあ、ある意味、それが男の生きる道なのである。なぜなら、母親から生まれた人間でありながら男性は基本的に母親にはなれないのだから。

もちろん、母親ほどの母親はない・・・という哲学的な大前提があるので、母親のような父親は存在するし、その場合は結局、彼は父親であって父親ではないのである。

脚本の上手下手を素人はとかく口にするものだが、熟練の職人技としての洗練された技巧という点ではこの作品は素人にも一目瞭然のテキストといえるだろう。徹頭徹尾、隙がなく、流石と書いてさすがである。

よどみなく最終回でございます。ほら、やっぱり「卒業」だったし。

で、『理想の男子・最終回』(日本テレビ20120317PM9~)脚本・野島伸司、演出・佐久間紀佳を見た。ドラマの中で異次元を象徴するのが・・・登場人物たちの使う動物の化身であることは間違いないだろう。本来、魔術者は進化の過程における過去種を自分の中に発見し、そこに自己を集中させることで人間プラスアルファの力を発揮する。狼男は狼に化身することで人間以上の存在になるわけである。で、ある意味、それは超能力(ザ・スタンド)である。コミック『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)の読者なら「スタンド」じゃねえか~とつっこむところだな。

ドラマのタイトルベースには様々な動物が登場し、最後は百獣の王と称されるライオンがしめる。ドラマにはライオンの「スタンド」を持つものは登場しないが・・・セリフ的には「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とし、這い上がってきたもののみを慈しむ」とあるので小林光子が本来、ライオン・スタンドの持ち主であることは明白だ。彼女のスタンドが登場しないのはメスライオンにするかオスライオンにするか迷った、スケジュール的にうっかり間に合わなかった、主人公のカンガルーより目立つために遠慮したなど様々な理由が推測できる。

「男子校」という設定で脚本家はストイックに振る舞おうとしたが・・・結局、三人の美少女が登場するこのドラマ。各自のキャラクター設定も実に明快な類型化を果たしている。

年下の「妹」的存在であるクララこと丹波さやか(三吉彩花)は遊んであげる相手としては楽しいが世代間のギャップで恋には発展しない。

性を入れ替えた双生児的存在の豹塚昌子(吉永淳)は遊び相手としては楽しいがあまりに相似しているために恋の対象にはならない。

おそらく年上の「姉」的存在である「ローマの休日」型プリンセスの篠田ソラ(石橋杏奈)は「理想の恋人」であるが、「ローマの休日」である以上、恋の思い出を持って宮殿に帰っていく宿命なのである。

どの定型にも甘酸っぱさがあり、わかりやすく萌えやすいのである。

また、「世の中には良く似た人間が三人はいる」という常識を破るために神父(金子ノブアキ=一人四役目)が登場する。これはとりあえずの斬新な発想というお約束です。

・・・このように万事が計算され、巧妙に仕組まれ、物語は主題である「マザコンこそが愛の原点である」に終結していくのである。

みなくても結果のわかるドラマではあるが・・・そこを見せてくれるのが脚本家の腕前というものなのだな。堪能いたしました。

熟成した肉体をもてあました鈴木海は隣人という手軽さでなし崩し的に倉橋実(沢村一樹)と肉体交渉を持ち、なんとなく流れで結婚宣言である。

ノイローゼの原点である息子の巣立ちという不安を解消するための海の選択に大地は自我崩壊の危機にさらされるのだった。

そんな大地を母親以上に母親視線で見守る理想の恋人・ソラである。

しかし、そんな大地のヒステリーを一気に鎮める・・・より不幸な蜜の味わいを持つ三船憲吾(藤ヶ谷太輔)の事情である。彼を捨てた母親は認知症を発症し、世界から見捨てられ病室に横たわっていた。

大地も海も自分たちの「くだらないことで悩む幸福さ」に暗澹たる思いを感じるのだった。

一方、理想の恋人は愚かなプリンスに教育指導的パンチを見舞う。彼女にはスタンドは必要ないのか・・・まあ、小林相手だからな。

「あなたは他人を思う涙と自分のために流す涙の区別もつかないのですか?」

「・・・小動物的本能が理解しましたーーーっ」

小林は自分の陰謀によって裏切りものの汚名を着た大地の濡れ衣を晴らすためにさらに嘘を重ねるのだった。

しかし、それで丸くおさまって豹塚はついにマスクをかぶり大地そのものに変身して記念のマルチーズである。

世界は変転し卒業式である。

三船は個人的事情をこらえ・・・小さな世界の健全な運営のために後継者を指名する。

とまどう小林に大地は優しく告げる。

「弱い奴ががんばることこそ美しいとパーマンにスーパーマンが言うではないか」

「どこまでもマンガなんだな・・・今回は」

男子校だから後継者に捧げられる第2ボタンを持ってママにほめてもらおうとする小林をライオンの女王は冷たくつきはなす。

「かわいそうじゃないですか・・・いつの世も独裁者よりは象徴としてのリーダーでしょう」という大地に光子は微笑むのである。

孤独をかみしめるマウス小林にそっとよりそうライオン小林。

「息子はあなた一人だから死なれると困るわ」

「僕は死にません・・・何度突き落とされても必ずはいあがってみせる」

お約束で噴水池に息子をつき飛ばしたママは立ちあがった息子をお約束で優しく抱擁である。

久しぶりの母親の性行為のために別居する鈴木母子。

プリンセスと一夜を過ごす大地は・・・素朴な質問をする。

「マザコンって女の子はやはり気持ちわるいのかな」

「はい・・・でも愛情が濃いのがわかって安心もできますよ」

大地は恥ずかしくも据え膳くわないのだった。そしてプリンセスの色気に窮し脱走である。

一方、事後の海にも漠然とした不安がぶりかえし・・・眠れぬ夜を過ごす。

求めあう母子はエレベーターホールでお互いの過去の蜜月関係を懐かしむのだった。

余談ですが・・・幼い頃の剣道の師匠(警視庁の偉い人・故人)の訓話を思い出したのでメモしておく。

「君たちは親の愛というものを感じにくい。なぜなら・・・親というものは眠っている君たちを優しく見守っているものだからだ。君たちが目を醒ませばそこに親はいない。しかし・・・君たちがなぜ安心して眠っていられたかを考えれば、親の愛を感じることができる」

実にいい話である。

そういう親の味を知らない三船のために海はレンタル母としてカレーライスを作りに行き、ウルトラデラックス超メガ盛りマックスのカレーを食べるのであった。

そんな母親に大地は深い尊敬と感謝を感じるのだった。

三船を案じる後輩たちははげましの儀式としてスタンド合戦を仕掛ける。

三船のスタンドは熊でした。格闘家に熊はお約束だからである。

三船は全員をノックアウトしつつ、豹塚に「(胸のために)牛乳を飲め」などとアドバイスするのだった。

そして「好きなものを見つけたらそのために恥ずかしいくらい努力しろ」と諭すのである。

そして・・・三船は何もかもを失ったやせた猫のためにリンゴの皮をむきつつ落涙なのである。

クララのために母親より先にウェディングドレスを来た大地だったが、人類の宿命である最後に勝つのはゴキブリというお約束のための敗北感を味わうのだった。

そんな大地に理想の恋人は「お母様を祝福しないのですか」と問う。

「だって・・・100%を母親のためにさけないなら・・・祝いなんて無意味さ」と応じる。

「私は・・・あなたという思い出を糧に・・・父の決めた許嫁に嫁ぎます」と宣言するプリンセス。

ようやく喪失感を感じた大地は「そうか・・・やるべきことをやらないで・・・あきらめるってバカだよね・・・母親にも100%、恋人にも100%・・・そういう過剰な男になればいいんだ」

プリンセスは微笑んだ。もちろん、恋人には君だけ100%と言うのが正解だからです。

そして、「エレ~ン」と叫ぶために結婚式場にかけつける大地。

しかし・・・健やかな時も病める時も富める時も貧しき時も・・・息子と過ごした時間があったと回想した海はようやく・・・母として生きる決心ができたのだった。

そのスタンドはカンガルーと化し・・・息子コアラを簡単収納するのであった。

どんなに息子が成長しても母親は母親なのだから・・・。

大団円である・・・念には念を入れて今回二度目の決めゼリフ。

母と新しい父が「マザコンじゃないの?」とふり、

「俺はマザコンじゃない・・・ただ、母ちゃんが大好きなだけさ」でオチて終幕。

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2012年3月17日 (土)

第9地区の歩き方

シーズン・オフに突入である。

もっとも、連続レビュー中の2012年冬ドラマはまだ「理想の息子」(本日最終回)「ラッキーセブン」(残り1回)「家族八景」(残り2回)「クワコー」(残り1回)が残っているし、大河ドラマの「平清盛」もある。

ただ気分的には大きな山を越えた気がする。・・・山Pだろ。

ブログの連続更新再開からここまで来たことは一応の成果だし、シーズン・オフに突入することもくすぐったい感じがする。

毎日、記事を更新できることは幸せなことである。なにしろ、生きているのである。

長期休養の後で・・・常連の皆さんの中にはまだ再開を知らない方もいるだろうし、もう少しは更新を続けたい。

アナログテレビの終焉以後は・・・蛇足のようなものだが・・・もうしばらく、おつきあいくださるとうれしいです。

で、『金曜ロードショー・第9地区(2009年アメリカ・南アフリカ・ニュージーランド映画)』(日本テレビ20120316PM9~)脚本・テリー・タッチェル(他)、監督・ニール・プロムカンプを見た。断るまでもないことだがあくまでテレビで放映された映画に関する妄想である。映画は劇場で見るべきものだし・・・そういう環境にある人は特に・・・作品としてはDVDなどのコンテンツの方が完成度が高いだろう。しかし・・・このブログはそういうことにはあまり言及しないのでございます。

南アフリカ共和国出身の監督で、映画の舞台は南ア最大の都市・ヨハネスブルグである。ヨハネスブルグの行政区はA~Gの七つの地区に分類されている。それでは第8の地区とは何かといえば・・・1990年代までこの国に存在したアパルトヘイトと呼ばれる人種隔離政策に妄想を広げなければならない。乱暴に思えば「白色人種」と「それ以外の有色人種」を差別した法律である。二つの人種は隔離され・・・それぞれの地域で優遇・不遇の時を過ごしたのである。ナチス・ドイツのユダヤ人を隔離したゲットー、米国が日系人を隔離した強制収容、ロシアが日本兵を隔離したシベリア抑留と同様にそれは隔離された人々に傷痕を残すのが普通であり、アパルトヘイトその後でも「幻想の8番目の地区」が存在するのだろう。

さらに1982年、突如、出現した巨大宇宙船とその乗員と思われるエビ型地球外生命体を宇宙難民として収容した強制収容施設が第9地区であることは皆さんもよく御存じでしょう。

ヨハネスブルグ上空にはつい最近まで、その巨大宇宙船があったわけです。

30年近い、研究によっても巨大宇宙船のテクノロジーは根本的に解明されておらず、研究者によれば1000年以上のテクノロジー格差が存在するらしい。

また、収容されたエビ人間たちの社会がかなりの階層社会を構成しており、上流階級のエビ人はなんらかの事情で死滅・・・下層エビ民だけが生存していたと推測される。

しかし、エビ人間が言語を有しており、現地の地球語をある程度、解することは下層階級でもある程度の知性を保有している証拠である。

その「知性」に反応した世界の人権団体や環境保護団体が運動し、エビ人の保護が叫ばれた結果・・・第9地区が誕生したのである。現地の人間にとっては不気味なエビ人なんかどこか他の土地へ移転してもらいたいというのが本音だが、難民キャンプや、強制収容所にも利権やビジネスチャンスが存在するのが人類の宿命であり、様々な物議をかもしながら第9地区はより郊外に設営された第10地区が完成する2009年までヨハネスブルグの中心部に存在したのである。現在は再開発が進み、当時の面影は薄れているが・・・世界の注目を集めた「ヴィカス(シャールト・コプリー)事件」にゆかりの場所はいくつか観光ポイントとして残っている。

ヴィカスについてはさまざまな憶測が流れているがはっきりしていることは第10地区への移転事業における現場責任者だったということである。国連から委託され第9地区を管理していたNGO団体MNUについてもさまざまな憶測が流れているが、その一部機関がエビ人の科学的分析と称し、異星のテクノロジー研究・・・主に武装について・・・を独占し、また世にも恐ろしいエビ人の生体解剖を含む非人道的行為を行っていたことは各種人権団体の調査で悪い噂程度には明らかになっている。

私はエビ人研究所の生存者とコンタクトをとり、当時の事情をある程度、理解していると考える。

ヴィカスがMNUの実力者の娘と結婚したことにより大抜擢され、第9地区から第10地区へのエビ移住作戦の指揮官になったことは今となっては不幸な出来事だったと言えるだろう。

結果として新妻は愛する夫を失ってしまったのである。それはヴィカスが指揮官として第9地区に実際に足を踏み入れ、実は生存していたエビ人の支配階級所属者と接触したことによって起こった出来事である。

エビ人のテクノロジーはエビ人のDNAと非常に関係が深いことは周知の事実である。エビ人なら誰でも使えるエビ武器が・・・地球人には誰にも使えないこともよく知られている。上級エビ人はひそかに宇宙船を再起動するためのエビエキスを抽出していたのである。しかし、その採取は困難を極めたらしく、ヴィカスの残した手記によれば・・・知人あてにメールされたものだ・・・20年以上の歳月がかかったらしい。ともかく、エビテクノロジーによって抽出されたエビエキスが人類にとって恐ろしい副作用を持っていたのだ。

事故によってエビエキスを顔面から吸収したヴィカスは体内でDNAを変換され、エビ化症に感染してしまったのである。恐怖!エビ人間の誕生である。

しかし、このことはエビ軍事テクノロジーを研究するための千載一遇のチャンスであった。

ヴィカスはエビ研究所に隔離され、生体解剖されることになったのだ。

しかし、研究員の不手際により、ヴィカスは逃走に成功し、そのおりにも彼だけに使用可能となったエビ兵器の使用によって、多数の死傷者が発生したのである。

このことはヴィカスに犯罪者の烙印を押すに充分だとする一部識者の意見もあるが、あの研究にかかわったような人間の屑はどれだけ死亡しても人類に益するのみだという識者もいる。筆者はどちらかといえば後者の意見に賛同する。

脱走したヴィカスはエビ上級者のクリス(地球名)を訪ね・・・地下に隠匿されていた巨大宇宙船の指揮艇の存在を知る。

「エビエキスを取り戻し母星に戻れば体内からエビエキスを除去する復旧施術が可能だ」

「人間に戻れるのか」

希望を取り戻したヴィカスは第9地区のブラックマーケットを支配するナイジェリア・ギャングが隠匿していたエビ武器を奪取し・・・エビエキスを保管しているエビ研究所に殴りこみをかけるのだった。

ヴィカスに関する人物評は妻の「とても優しい人でした」以外は「ダメ人間」「優柔不断」「底の浅いゲス野郎」「小心者」「ドジでノロマなカメ」「ブタ野郎」と散々なのであるが・・・人間の尊厳をかけて彼のとった行動を非難することは何人にもできないだろう。

しかし、ナイジェリア・ギャングの生存者によれば・・・「わしらのボスのオビサンジョ(ユージーン・クンバニア)は心底・・・エビ人間になりたがってたよ。あのアバターのゲスな主人公と同様に五体不満足な身体だったからね」という例外もあったようだ。

エビ研究所を爆破して300人ほどの研究者を殺害したヴィカスとクリスはエビエキスを入手し追撃をふりきって第9地区に戻ってきたが、冷酷非情のクーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)が率いるMNUの軍事部隊とナイジェリアギャングがヴィカスの身体を入手しようと急襲をかける。

クリスのエビ子であるリトルクリスの活躍で・・・エビガンダムに乗り込んだ「はやく人間に戻りたい一心」のヴィカスは彼としては精一杯果敢に戦ったと何人かの生存者が証言している。

その結果、巨大宇宙船はコントロールを取り戻し、エビ父子は母星に去って行ったらしい。

ヴィカスの手記によれば「彼らは3年後に帰還すると約束した」という。

クーバス大佐をはじめとするMNU軍やナイジェリアギャングがほとんど全員死亡した第9地区戦争の後・・・ヴィカスの行方は不明である。

ただ・・・戦地には今もクーバス大佐がバラバラに引き裂かれエビに食われた血痕が生々しく残っている。

事件後・・・ヴィカスの妻の元へ・・・エビ人間の工芸品である一輪の造花が届いたという。

第9地区よりさらに過酷な環境と噂される第10地区でエビ人間はさらに繁殖を続けている。その中に造花作りが得意なちょっと変わったエビ人間がいるらしい。

撮影された彼の写真は日本のとあるアニメの1シーンを彷彿とさせる。

そのアニメは日本ではまもなく放映されるそうだ。

どこかで誰かが「なんどめだ」と叫んでいるにちがいない。

Movie001

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2012年3月16日 (金)

強くなければ送れない優しくなければ送る資格がない~最高の人生の送り方(山下智久)

どんなドラマでも楽しめる。そのためには強くなければならないし、優しくなければならない。

終わってみれば素晴らしいドラマだったのですが、ある程度ハードボイルドタッチで鑑賞しなければならないという・・・高いハードルもございましたな。

しかし、ここまでたどり着けば・・・もう安心。ゴールまでは翔ぶがごときスピードで駆け抜けるわけです。

まあ・・・へとへとでゴールと同時にぶっ倒れる方もいるかもしれませんが・・・給水に失敗したのかもしれませんな。

いろいろな要素をつめこみすぎ・・・とか、主役が誰だかわからない・・・とか・・・様々なご意見もあるでしょうが、いろいろな要素があるからこそ面白く、主役は山Pに決まっていると申し上げる他はないのですな。

家業を嫌って家を出た青年が・・・運命によって一生の仕事を再発見する・・・そして運命によってゴーストと出会い、運命によって愛する人とめぐりあう。

気がつくと・・・冬が終わり春が来ていた。

ひとときの夢というフイクションとしてはなかなかの出来栄えでございました。

ゴーストの岩田さんと真人が育てるイチゴは漢字で書けば草冠に母である。ついに登場しなかった井原四兄弟の実母のシンボルと考えることもできるし、良い血の子で・・・子孫繁栄を暗示するいちごという和名は・・・真人と坂巻刑事の子沢山ぶりの暗示でもあるだろう。

そして「甘い」と言われてたべてみて「酸っぱい」としても・・・それを楽しめる真人というキャラクターの素晴らしさを示していることは間違いない。

たまにはこういうあなどれないドラマがなくては人生の醍醐味は味わえないのでございますよ。

そして・・・岩田さん殺しの犯人の好人物すぎるキャラクターと冷酷で残忍な犯行というアクションの落差・・・これこそがドラマを通じて首尾一貫した・・・人間なんて単純じゃなくて複雑なものだろうという反骨のテーマでございます。

つまり、良い子ほどの良い子はなく、悪い子ほどの悪い子もない・・・という哲学です。

キッドも時にはそう思いますぞ。ま、時には単純明快でもいいと思いますけどね。

なにしろお茶の間の目というのは基本的に節穴ですからな。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・最終回』(TBSテレビ20120315PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・石井康晴を見た。本当にお化けがこの世にいるとは思わなかったな・・・。俺(真人=山下智久)は心からそう思う。で、そのお化けは俺にしか見えないのだから始末が悪い。あなただけ今晩は・・・って言われてもな。で、その岩田さん(山崎努)の存在を信じることができず、坂巻刑事(榮倉奈々)は怒って庭を飛び出していった。ここで俺が追いかけるのはラブ・コメならフラグであるが・・・「孫に伝えて欲しいことがある」と生前は坂巻刑事の祖父だった岩田さんから頼まれて伝言を届けにいくのだから・・・これは別のフラグなのである。

伝言内容は「かっての部下だった木野原刑事(塩見三省)を頼れ・・・あれはいい刑事だから」というものだった。お茶の間の重要参考人に頼れっていうことは岩田さんのゴーストとしての記憶障害がかなりのものであることを意味するし、たったフラグは坂巻刑事の死亡フラグなのである。

まあ、人生なんて恋愛フラグと死亡フラグの追いかけっこみたいなものなんだけどね。

思えば・・・親父の死に始まって、店長の実の子とめぐりあったり、生きている嫁と姑を和解させたり、死んだ姑のダイイング・メッセージを解読したり、ヤクザの組長のタイムカプセル掘り出したり、ストーカーの妹の心臓の行方を追いかけたり・・・尋常でない展開もすべて心霊現象だったと言われればゾッとする他ないんだな。

まさに・・・出たよっである。

だけど・・・岩田さんのおかげで俺は随分、救われたよな。

こうなると、行方不明の健人兄貴(反町隆史)が帰ってきたのだってけして偶然じゃなかったわけだしね。

妹の桃子(大野いと)の愛人だった不倫教師(黄川田将也)の耳元で岩田さんが不倫旅行の行き先を囁いている姿を想像するとちょっと笑いを禁じえない。

それから健人兄貴が港で手伝いをする羽目になるために漁師の息子に呪いをかけて体調不良にしたりと・・・岩田さんは大活躍してたんだな、これが。

俺が岩田さんからの伝言を伝えると早速、坂巻刑事は木野原刑事にコンタクトをとった。

坂巻刑事の話では「祖父は手帳の岩田と呼ばれるほど、不屈の刑事でささいなことでもメモをとり、犯人を追及していた」らしい。

「二人でよく、喫茶店でコーヒー飲みながら捜査について夜更けまで話し込んでいたんだって」

「ふうん」

「でも・・・木野原刑事、今はハーブティー派なのよね」

「健康志向なんだね」

「でも・・・おじいちゃんを疑っているのかと聞いたら・・・真相なんてわからない方がいいこともあるなんてお茶を濁してた・・・やはり、おじいちゃんは容疑者みたい・・・それに・・・私には言わなかったけど・・・捜査会議を立ち聞きしていたら・・・おじいちゃんは木野原さんに借金してたみたいだし・・・違法カジノに客としてきていた形跡があるらしいの・・・もう・・・信じられない・・・私の思っていたおじいちゃんはそんな人じゃなかったのに・・・」

オンエアでは省略されているけど、酔いつぶれた坂巻刑事を台車で宅配した後で、俺は岩田さんを問いただした。

「どうなんです・・・やはり岩田さんが犯人なんですか」

「わからない・・・肝心なことの記憶がないってのはつらいな・・・」

ゴーストにそんなこと言われてもこっちが困るよね。

そういう岩田さんというか坂巻刑事がらみのゴタゴタが続いている間にも不治の病に冒された兄貴はどんどんと衰弱して行った。

そろそろ・・・遺影をどれにするかとかも考えなきゃいけない。

最後の写真ということになれば・・・みんなと撮ったバーベキューの写真。

半分泣きそうな兄貴が精一杯に微笑んでいて・・・俺はそれを引き延ばす日が来ることを想像するだけで苦しくなってくる。

兄貴はもうほとんど口もきけなくなっているんだ。

在宅看護専門の看護士さん(入山法子)の説明では・・・「呼吸困難になってあごがあがってきたら・・・そろそろ」らしい。そろそろってなんだよっ。

俺は哀しくて哀しくて坂巻刑事に電話をかけました。哀しくて哀しくて電話をかけちゃう相手が坂巻刑事なのは恋愛フラグそのものだけどね。

そして・・・兄貴の知り合いみんなに集まってもらった。

一種のお別れ会だよ。でも部屋がいっぱいになるくらいたくさんの人がやってきて・・・俺は健人兄貴がいかにみんなに愛されているかを知り、ちょっと嬉しくなったんだ。

「まさぴょん、大丈夫?」

坂巻刑事に心配されたのもちょっと嬉しかった。

「またくるよ・・・兄貴に会いに・・・」

「一人で帰れる?」

「これでも刑事ですから・・・」

これは死亡フラグだが・・・どうやら坂巻刑事の寿命はまだまだあるらしい。

一方・・・兄貴の命は風前の灯だ。

妹の晴香(前田敦子)や桃子、弟の隼人(知念侑李)の顔も記憶が定かではなくなってしまったらしい。

「兄貴・・・わかるかい、弟の健人だよ・・・大丈夫だよ・・・みんないるよ・・・だから・・・心配しないでいいよ・・・」

兄貴は俺の手を握った。

なんだ・・・兄貴・・・何か言いたいのかい。俺にできることならなんでもするから・・・言ってくれ。

兄貴の視線の先にあるのは富士山だった。

「そうか・・・富士山に行きたいのか・・・わかった・・・みんなで富士山に行こう」

「何言ってるの、真人兄ちゃん」

「そんなの無理よ」

と反対する弟妹たち。

しかし、さすがは実の母である美奈子さん(長山藍子)には兄貴の最後の願いを察することができたらしい。

「いいじゃない・・・富士山・・・健人・・・きっと・・・よろこぶよ・・・」

兄貴は俺の手を強く握った。

実の母親と自分の家との間で・・・最後に兄貴が愛したのは富士山だったんだな。

そして・・・俺たちは・・・兄貴にとっての母親のシンボルである富士山の見える場所にやってきた。

「うわあ・・・俺、こんなに近くで富士山見たのはじめて」

「私も・・・」

とはしゃぐ隼人と晴香。しかし、桃子だけはお腹が鳴るのである。

それで美奈子さんはドライブインにお弁当を買いに行った。

「今度は夏に来てバーベキューをしようね」

「それから花火だよな・・・」なんて言っている間に健人兄貴はあごがあがって息をひきとった。

「兄貴・・・逝くなよ・・・」

俺は兄貴をひきとめたかった・・・でもそれは無理だったんだ。

美奈子さんは息子の死に目に会えなかったんだな。美奈子さんはお弁当をかかえて・・・俺たちの様子を見て・・・すべてを悟ったようだった。

俺たちは泣きながら・・・兄貴の亡きがらと一緒に東京に戻ったよ。

親父(蟹江敬三)の葬式に比べたら・・・兄貴の葬式は我ながらうまくできたと思う。

なにしろ・・・お母さんもいるし・・・弟妹たちも立派になった。

恒例の遺言コーナーは兄貴版だ。

おふくろ おれをおぶってくれたひと

ももこ すえっこ くいしんぼう かわいい

はやと ひねくているようにみえてほんとうはまっすぐなやつ

はるか ちょうじょ しっかりもの だけどほんとは なきむし

まさと みんなのにいちゃんだ

おれのかぞく さいこうの 

じんせい

兄貴・・・コタローのこと忘れてるぞ。

兄貴・・・兄貴のようにはなれないかもしれないけど、俺もしっかり兄貴をやってみるよ。

こわい夢を見た時、添い寝してくれてありがとう。キャッチボールを教えてくれてありがとう。おいしいごはんを作ってくれて、俺を大学にいかせてくれて、酒の飲み方を教えてくれて、そして、葬儀屋という最高の仕事を残してくれて・・・本当にありがとう。

兄貴がいなくなって俺は心から悲しいよ。

田中さん(大友康平)は葬儀の後で涙をこらえてこう言ってくれた。

「真人さん・・・立派でしたよ・・・健人くんは安心して天国に旅立ちましたよ」

井原家は健人兄貴の法名(戒名)「釈照健」でわかるように浄土真宗だから・・・天国ではなくて極楽浄土に往生したんだけどね。

岩田さんが見えるくらいだから兄貴も見えないかと庭で探したけど見当たらない。

岩田さんがやってきて・・・「目にみえなくてもあると思えばあるし・・・ないと思えばない・・・ゴーストなんて愛みたいなもんだ」って言う。

結局・・・俺が特別なんじゃなくて・・・岩田さんが特別なゴーストなのかもしれないな・・・そんな風に思ったよ。しかし、人間も他人のことはよく見えるっていうけど・・・ゴーストも自分のこととなると途端に見えなくなるらしい。

そこへ・・・坂巻刑事がやってきた。

「私・・・今日・・・幼馴染のえっちゃん・・・木野原絵津子(吉田羊)さんに会ったの・・・オムライス食べながらちょっと話したんだけど・・・あ・・・えっちゃんは木野原刑事の娘さんなのよ・・・で、えっちゃんの旦那さんは・・・養子なんだけど・・・複雑な家庭の事情があるらしくて・・・隠し子だったらしいのね・・・それで・・・その生みの母親っていうのが・・・大林恭子さんだったの・・・」

「じゃ・・・大林恭子さんは・・・」

「木野原刑事の娘の夫のお母さんなのよ・・・」

「ええと・・・つまり・・・木野原刑事と白骨死体の女性は赤の他人じゃないってことだよね」

「そうなのよ・・・でもそのことについて木野原さんは何も話してないの・・・これって変でしょう」

「うん・・・変だね」

「とにかく・・・私、頭が混乱しちゃって・・・」

「それで俺に会いにきたと・・・」

「・・・」

「で、落ち着いた?」

「うん・・・私、もう一度、木野原さんと話してみる」

そう言って坂巻刑事は帰って行った。

もう完全なる死亡フラグだが・・・どっこい、ここにはすでに死んでいる岩田さんがいるのである。

「俺は・・・思い違いをしていたかもしれない」

「・・・」

「胸が重い・・・」

「・・・」

「孫を・・・優樹を一人にしないでくれ・・・危険だ」

つまり、オリコンヒットチャート初登場1位の「愛・テキサス」がかかって俺が走る時間ってことなんだな。

もちろなん、絶対に坂巻刑事・・・優樹が死ぬってことはないと思うけどこの世界は結構、狂っちまった感じがあるから、ちょっとドキドキハラハラしたよ。

そして・・・もちろん、優樹は殺人鬼の影に付きまとわれていたんだ。

でもね、俺はいつもの北新宿駅(フィクション)で優樹を無事に捕まえることができたんだ。

「どうしたのよ・・・」

「一人にしちゃいけないって・・・」

「また・・・おじいちゃんの話?・・・そんなことばっかり言って・・・」

「あのさ・・・岩田さん・・・コートの胸のあたりを押さえて重いって言ってた・・・なんか心当たりないのか・・・」

優樹はとても大切なことを忘れていたらしい。・・・この記憶障害は遺伝なのか・・・。

「あの日・・・おじいちゃん・・・黒いコートを着てた・・・暑いって脱いで私に持たせて・・・私、おじいちゃんとケンカして・・・それでおじいちゃんが事故にあって・・・黒いコートそのまま持って帰っちゃったんだ・・・それきり・・・家にしまったまま・・・」

「とにかく・・・それだ・・・」

とにかく・・・俺は初めて優貴の部屋に入った。いつの間にか、名前呼び捨てになっているけど・・・もう・・・部屋にあがっちゃうような仲だから・・・いつまでも坂巻刑事って他人行儀でしょう。深い理由はないんだよ。

それはともかく・・・手帳はありました。

そして、すべての謎はとけたんだ。

ここからはゴースト~北新宿の幻・・・山P・ゴールドバーグ編の開幕である。だれがウーピーだって。

その喫茶店は・・・優樹と岩田さんの思い出の喫茶店で・・・呼び出された木野原刑事と岩田刑事にとっても思い出の場所だったらしい。

木野原刑事の向かいに優樹。優樹のとなりに俺。俺の向かいに岩田さんである。

これから凶悪な殺人犯を追い詰めるのにこの布陣で大丈夫なのか・・・と思ったが・・・みんな忘れているかもしれないけど・・・優樹は一本背負いの達人なので一安心なんだな。これが。

「私・・・祖父の手帳を発見したんです・・・手帳の岩田の手帳です・・・」

優樹は緊張すると笑うタイプらしい。多分、武道家特有のリラックス法なんだな。

「いろいろなことが書いてありました・・・たとえば」

ゆすられる 借金 1200万円

追い詰められて殺害

あわてて置き手紙を代筆

あとでさしかえるつもりだったか?

「こんなことが書いてあります」

「それがどうしたと・・・」

「大林恭子さんのことをなぜ隠していたんです・・・あなたは・・・地下カジノで・・・大林さんを発見した・・・というか・・・居合わせてしまったんですよね」

「・・・」

「娘の夫の母である大林恭子さんはカジノにはまっていて火の車だった・・・それは木野原さんも同じだったのでしょう・・・客としてカジノにはまっていた刑事は祖父ではなく木野原さんだったから・・・そして・・・あろうことか・・・大林さんはあなたにゆすりをかけてきた・・・刑事としてカジノに出入りしているのはまずいだろう・・・密告されたくなかったら・・・」

「何を言ってるんだ・・・どこにそんな証拠が・・・」

その時・・・岩田さんが俺に言った。

「アイリュッシュ・コーヒーを二つ、注文してくれ・・・」

アイリッシュ・コーヒーは昔、流行したウイスキーと砂糖と生クリーム入りのコーヒーというか、一種のカクテルで・・・ウイスキーはアイリッシュ・ウイスキーに限るらしい。

まあ、バーで飲んだらカクテル、喫茶店で飲んだらコーヒーなんだな。

そんなうんちくを岩田さんに聞かされているうちに優樹は本題に入っていた。

「手帳に・・・大林恭子が書いたとされる・・・遺書のようなものが挟んでありました・・・でもこれを書いたのは・・・筆跡鑑定の結果・・・こちらの報告書を書いた人間と同一人物だということが判明しました。報告書は木野原さん・・・あなたが書いたものです・・・動かぬ証拠です・・・そして祖父が死んだあの日・・・あなたは祖父と待ち合わせをしていた・・・手帳に日付とあなたの名前がありました」

「そんな・・・俺は待ち合わせなんか・・・」

そこへアイリッシュ・コーヒーが運ばれてきた。

岩田さんの指示で俺はその一つを木野原刑事の前に置いた。

「どうぞ・・・あちらの方からです」

木野原刑事は青ざめた。

岩田さんはつぶやく。

「昔、事件解決の時には被害者の冥福を祈って・・・二人で飲んだ」

岩田さんが促すので俺は同じことを言う。原稿代を稼ぐにはなかなかの手法だよね。

一つのセリフで倍稼ぐって。

「昔、事件解決の時には被害者の冥福を祈って・・・二人で飲んだ」

今はコピペで楽だしね。

で、結局、その一言は・・・木野原刑事が檻の中に封印していた心を解き放ったらしい。

「俺は・・・弱い人間だった・・・」

俺にはわかったよ・・・だって木野原さんは本当にいい人だったんだ。そんないい人が・・・何年も何年も・・・自分のしでかした凶悪な犯行を隠匿して生きていくのはまさに生き地獄に違いないってね。

「ギャンブルに溺れ・・・挙句の果てに借金までして・・・その上・・・身内にゆすられて・・・気がついた時にはあの女の首を絞めていた・・・。それから・・・死体を隠して失踪したことにしようとした・・・しかし、俺は初めて殺しをしたことで動転していたんだ。最初は置き手紙を偽装しようとした・・・しかし、そんなことをしても筆跡鑑定でばれる可能性があるとすぐに気がついたんだ。で・・・俺は死体を運びだすことに専念したんだ・・・そして・・・あろうことか・・・手紙のことを失念したんだ。あの女の部屋に置き忘れたんだよ。それをあの女の弟に発見されて・・・そして・・・手紙は岩田さんの手に・・・」

ああ・・・俺は思ったよ。目の前に人を殺した人がいるって。まったくそんな風には見えないのに人は人を殺すんだなあって。

「俺は・・・岩田さんがおそろしかった。岩田さんは絶対・・・俺の犯行を見抜く・・・そう思うともう目の前が暗くなったよ・・・そして、あの日・・・優樹ちゃんと岩田さんがケンカして離れ離れになった一瞬の隙をついて・・・岩田さんの車イスを電車に向かって押し出したんだ」

うわあ・・・俺は思ったよ・・・目の前に二人も人を殺した人がいるんだって。まったく、そんなことをする人とは思えないんだけどね。

「それから・・・俺は毎日、おびえながら暮らした。せめてもの罪滅ぼしだと思って優樹ちゃんが刑事になった後も優樹ちゃんの面倒を見ながら気が気ではなかったよ・・・いつか、ばれる・・・ばれたら・・・何もかもおしまいだ・・・そしてあの女の白骨遺体が発見されて・・・長峰刑事が俺にたどりつきそうになった・・・俺は思わず長峰刑事を刺した」

うわああ・・・俺は思ったよ・・・目の前に三人も・・・一人殺せば、二人も三人も同じってこのことなのかよっ。っていうか・・・木野原さん・・・殺しすぎです。

優樹は冷めた目をしていた。刑事の目だった。しかし・・・そこに涙がにじんでいた。

もし、俺が恋をしたんだとすれば・・・それはきっとこの瞬間だったんだな。

「祖父は・・・おじいちゃんは・・・あなたに自首をすすめようとしたんだと思います」

木野原刑事は微笑んだ。

「優樹ちゃん・・・いや・・・坂巻・・・いい刑事になったな・・・さあ、手錠(わっぱ)かけろ・・・確保だ」

木野原刑事の差し出した手を・・・優樹はよどみなく拘束した。

「あなたを・・・文書偽造・・・および殺人の容疑で緊急逮捕します」

俺は・・・アイリッシュ・コーヒーのクリームで口元を白くした木野原刑事を本当に哀れだと思ったよ。潔いとも思ったし・・・ちょっとおかしくもあったけどね。人間は本当に様々な顔を持っている。それは富士山と同じ。でも・・・富士山は一つだし・・・人間も一人。

自分勝手な動機で三人も殺したら・・・木野原さんは死刑は免れない。そして・・・木野原さんの守ってきたものすべてが・・・今度は地獄となっていくんだよね。

本当に人が生きていくのは惨いことだと思うよ。

死んでいる岩田さんは・・・孫娘の晴れ姿と元部下の転落人生を見比べながら・・・ゴーストらしく顔をしかめていた。ゴーストになっても心が晴れないなんて・・・刑事の執念って恐ろしいし、たいしたもんだよね。

さあ、俺の話はそろそろおしまいだ。まあ、話は終わるけど・・・俺の人生はまだまだ続いていくけどね。

どうやら・・・俺が死者を見る目(岩田さん限定だけどね)を持っていると信じてくれたらしい優樹は俺を介して岩田さんと最後の会話をした。

「私・・・おじいちゃんにひどいこと言って・・・ごめんなさい」

「大丈夫・・・岩田さんかってないくらいに笑顔だし・・・孫娘と話せてうれしいって言ってるよ」

それから岩田さんは・・・実は俺と優樹が結ばれる運命だとか、なんだとか言いだしたがそこは通訳しなかった。じじい、キューピッド気どりかよっ。

「こいつはなかなかな奴だぞ・・・どうした・・・言えよ・・・ま・・・それはおいおい・・・いつか必ず言ってくれ・・・惜しむな」

「惜しむな・・・てさ・・・生まれてきてよかった・・・優樹に会えてよかった・・・優樹が笑ってくれてよかったって・・・」

「おじいちゃん・・・ありがとう」

「I love you」

「I love youだって」

「私もI love you」

「ああ・・・成仏できそうだ・・・逝ってきます」

「ああ・・・成仏できそうだ・・・逝ってきます」

「おじいちゃん・・・」

「逝ってらっしゃい」

岩田さんは・・・去った。俺は泣きじゃくる優樹の肩をそっと抱いたよ。

今、ようやく優樹は岩田さんの死を悲しんでいるんだからね。葬儀の井原屋五代目としてはそのお手伝いを真心こめてしなくちゃね。

人はいつか必ず死ぬ。

でも、それがいつなのかはわからない。

でも・・・人は死んでも・・・それで終りじゃない・・・なぜなら、世界は続いていくからね。

自分のいない世界が続いていくことを考えると不思議な気がしないかい。

世界の不思議なんてそんな風にどこにでも転がっているんだな。

で、とにかく、生きている人間は世界を楽しむことが大切さ。

生きていれば世界がウインクしたり・・・すれちがったり・・・クレープのクリームをくっつけたりしてくれるかもしれない。

そして・・・映画のチケットを持った彼氏のいない彼女と彼女のいない彼氏が・・・未来に向かって歩きだしたりする。

そしてコタローはけして吠えないが・・・フレンドリーでウソつきのゴーストが庭で待っていたりするんだよ。

お願いだから枕元とかには立たないでほしい。

そして、あなたともいつかどこかで・・・また会うでしょう。・・・なーんてね。敬具。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

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山Pをこよなく愛する皆様はこちらへ→エリお嬢様のレビュー 

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エンプラのすべて

第1話 隠されたファンタジー

第2話 泣かないと決めた女神たち

第3話 不倫する人もしない人も最後は遺体

第4話 岡部組の跡目抗争

第5話 溺れる隼人の人命救助

第6話 桃子の不倫の果て

第7話 晴香の恋のスマイル

第8話 健人兄貴の余命を知る

キッドのブログを引用してくださったブログ→くりくりぼうず様の桜の花びらにのって

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2012年3月15日 (木)

最後から二番目のメルトダウン

究極の谷間である。なにしろクワコー(桜庭ななみ)が一回休みなのである。

で・・・いよいよ「最後から二番目の恋」・・・なのかと思ったが・・・さすがにおいそれと語れないボリュームなのですな。

そこで・・・とくになんていうことのない記事を書いておくことにする。

キッドが一番、好きな歌は「言論の自由」である。

それはこんな歌だ。

本当のことなんか言えない

本当のことなんか言えない

言えば殺される

作詞は忌野清志郎である。

もう、この世の人ではないから、本当のことを言っても殺されることはなくて幸せだ。

もちろん、本当のことなんか今となっては本当に言えないのだが。

で、『NHKスペシャル 3.11 あの日から1年南相馬 原発最前線の街で生きる』(NHK総合20120309PM10~)を見た。三月十日(1945年)の東京大空襲に遺恨の残るものにとっては東日本大震災はよりによって三月十一日(2011年)でなくてもよかっただろうとつぶやく災厄なのだが、相手は天災である。人知のおよぶところではないのだな。もちろん、人知のおよぶ部分もあったわけだが、テレビでは原発は危険だとは口がさけても言えないのである。

とにかく、東京大空襲では米国はどう弁護しても鬼畜なのであり、東日本大震災ではトモダチなので日米両国の友好のためにも3・10が3.11に吸収合併された方が望ましいと言える。

福島県南相馬市は放射能漏えい原発から半径20キロ以内が立ち入り禁止になった後も、20~30キロの広い範囲で国が居住可能と判定したために・・・福島原発事故の後も多くの住民が居住する・・・「原発にもっとも近い人の住む街」になったのである。その人々のいたたまれなさはまことにいたたまれないのである。

だが・・・そういう悲劇を招いた人々を裁く法律がない以上、法治国家ではそういう人たちは無罪放免である。

一体、なぜ、そんな不条理なことが起こるのだろうか。

もちろん・・・みんなバカだからだ。

「この歌って・・・みんな本当のことですよね・・・みんなに聞かせたいですよ」

現地のとある住民が語る。現地のとあるスピーカーから・・・その歌は流れてくる。

何言ってんだ ふざけんじゃねえ

核などいらねえ

何言ってんだ よせよ だませやしねえ

何言ってんだ やめときな

いくら理屈をこねても ほんの少し考えりゃ俺にもわかるさ

放射能はいらねえ 牛乳を飲みてえ

何言ってんだ 税金かえせ

目を覚ましな

たくみな言葉で一般庶民をだまそうとしても

ほんの少しバレてるその黒い腹

何やってんだ 偉そうに 世界の真ん中で・・・

2009年、忌野清志郎は癌性リンパ管症により死去した。

1988年、会社の事情でこの歌を発売中止にした人々はまだ存命である。

いつ・・・切腹するのだろうとキッドは胸をときめかせているのだが・・・そういうニュースはない。まあ、腹が黒いのだから仕方がないのである。

鎌倉の喫茶店では感情を表にだすのが苦手なタイプの彼女が・・・ヒロインにこうささやく。

「どのくらいか・・・しりたいですか」

「そんなことしりたくないわ」

「・・・」

「・・・何基よ」

「55基です」

「え~そんなに~」

となりの席では若者が言う。

「宇宙飛行士は宇宙で放射線あびても長生きしてるから・・・俺たちも大丈夫だと思いたい」

誰の責任でもなく、土地を奪われ、誰の責任でもなく仕事を奪われ、誰の責任でもなく将来の放射能障害におびえる若者たち。

仕事が欲しくて彼らが赴くのは・・・原発周辺のもっとも放射線を浴びやすい除染作業である。

粉塵がまいあがる。

鮭もセシウムとともに。

愛する人に愛してないかもと言われた女は愚痴をこぼす。

「子供が生まれて障害があったらどうしようって考えるといろいろ痛いのよ。

でもさ・・・そういう痛いことが人生だと思ってた。

ね、違うの? そうじゃないの?」

ヒロインは仕方なくやけ酒である。

ラジオから歌が聞こえてくる。

それでもTVは言っている

「日本の原発は安全です」

さっぱりわかんねえ 根拠がねえ

これが最後のサマータイム・ブルース

きみに子供を産んでほしい

ベトちゃんドクちゃんみたいじゃないのがいい

年長者が年少者に言う。

「今はそんなこと言ってるけど、あんたもいつかこうなっちゃうのよ」

「私はなりませんよ~、そんなに長生きしませんから~」

恐ろしい事が起こってしまった

もう だめだ 助けられない もう遅い

メルトダウン メルトダウン メルトダウン

科学の力を信じていたのに

メルトダウン メルトダウン メルトダウン

関連するキッドのブログ→ヒロシマ、ナガサキ、そしてフクシマ

哀しい男の詩です。(忌野清志郎)

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2012年3月14日 (水)

早すぎた火葬に沈黙した乙女(木南晴夏)

原作「家族八景」のクライマックスである。

おいおい、これをここでやっちゃっていいのかよっ・・・と七瀬(木南晴夏)とともに声なき絶叫をあげたわけだが・・・まあ、ドラマ化だからな・・・いろいろあっていいのである。

少なくとも・・・ここまで、実に原作に忠実にAV化しているこのシリーズ、話数変更は大目にみたい。

後で順序変更してもう一度見ればいいだけの話である。

ここで、七瀬はある意味で殺人者となり、ある意味で大人になっていく。

自分を守るために他者の命を奪い、それでも生きていくのが大人というものだからである。

しかし、そういう哲学がお茶の間向きではないことは確実なので・・・ここで終わるわけにはいかなかったという推察もできる。

文学的には充分な内容だが、娯楽としてはこのままではすまない側面があるのだな。

「家族八景」がこの幕切れであるからこそ・・・なぜ七瀬が人命を尊重しなかったのかを・・・超能力者VS旧人類というわかりやすい対立の「七瀬ふたたび」で描く必要が生じたといってもいい。

いや、もちろん、もう一度七瀬に会いたいという読者の猛烈な希求もあったわけだが。

原作は以下の通り。

① 無風地帯 ② 澱の呪縛 ③ 青春讃歌 ④ 水蜜桃 ⑤ 紅蓮菩薩 ⑥ 芝生は緑

⑦ 日曜画家 ⑧ 亡母渇仰

今回のドラマ版はここまで、

①無風地帯 ②水蜜桃 ③澱の呪縛 ④青春讃歌 ⑤紅蓮菩薩 ⑥日曜画家

⑦オリジナル知と欲 ⑧亡母渇仰

次週予告は「芝生は緑」だったので10話完結なら最終回はオリジナルということになる。

例によって原作のもっとも重要な要素「もうすぐ二十歳の誕生日だった。七瀬は女としての肉体的成熟とそして美貌とを否応なしに認めなければならなかった」は欠損している。

今回はドラマの中でより幼い七瀬を木南晴夏自身が演じている場面があるわけなので・・・この点は原作を忠実に追ってもよかったのではないかと今更ながらに思うのである。

なにしろ、それができる女優なのだから。

同時に「一ヵ所にながくとどまって周囲に自分の能力を見せびらかしてしまう結果になることを避けるため」の家政婦稼業の終焉はさらにスムーズに描けたはずである。

スティーブン・キングは短編『第四解剖室』のあとがきで「およそ作家たるもの、いつかは『早すぎた埋葬』テーマに挑戦するべきだと思う」と語っている。それはおそらくこれがもっとも想像のたやすい恐怖のひとつであるからだろう。

このテーマの結末は二つある。一つは映画「キルビル2」のように間一髪助かるというハッピー・エンド。そして、もうひとつは本当のジ・エンドである。その中でもテレパシストという設定がこれほど生かされた原作のプロットは空前絶後だろう。この一作だけでも原作者の「生」は充分に輝かしい。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第八話・亡母渇仰』(TBSテレビ20120229AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・前田司郎、演出・藤原知之を見た。いわゆるひとつのマザーコンプレックスが描かれるわけだが・・・実はエディプスコンプレックスよりも母親に依存する息子と、息子に依存する母親の共存性の問題が描かれているのであり、どちらかといえば息子の極端な母親依存症の色彩が濃い。もちろん、ドラマ『ずっとあなたが好きだった』(1992年TBSテレビ)の冬彦さんは・・・この原作から生じているといっても過言ではない。まさに先駆者の偉業なのである。

亡き主が貿易協会の会長だったという屋敷だけでもひと財産の清水家。それが今回の家政婦・七瀬の奉公先である。七瀬が心の掛け金を外して他人の心を読む時の描写は今回は男女を問わずひげ面になるというものである。好みにもよるだろうが・・・今回は回想シーンでもヒゲ面だったりして・・・おそらく脚本家の幼児性の発露なのだろう・・・違和感がございました。もちろん、そこがいいという考え方もございます。

夫亡きあと・・・息子を女手一つで育てあげた清水恒子(宍戸美和公)の通夜から舞台の幕はあがる。

息子の信太郎(黄川田将也)は36歳(原作では27歳)のエリート社員だが・・・心が涙でふやけていた。

≪お母さん≫≪なぜ死んだ≫≪お母さん≫≪僕を残して≫≪お母さん≫≪ひどいよ≫

母親である恒子が死んでから一昼夜たっても信太郎の涙は枯れることがなかった。

≪お母さん≫≪ぼくはこれから、どうすれぱいい≫≪お母さん≫

信太郎の涙は甘い悲しみの涙である。信太郎は死んだ母親の追憶に浸り、泣き続けることによって、自らを甘やかしていた。

(本当に・・・これが・・・一流大学を卒業して・・・一流の会社に勤める男の意識なのか)と七瀬は自分の精神感応力に疑いを持つほどだった。

七瀬は・・・病床についた恒子の介護のためにこの家に雇用されて、まもなく、恒子は他界したのだが、その間に恒子と信太郎の異様な親子関係は察していた。しかし、これほどまでに信太郎が退行し幼児化するとは思わなかったのである。

通夜が終わり入浴である。浴槽が小さくなった上に半身浴せずに潜水する七瀬だった。

翌日の葬儀も徹頭徹尾、泣きじゃくる信太郎。

七瀬だけでなく・・・葬儀に参列した親戚や勤務先の関係者も信太郎の泣きっぷりにはあきれていた。

≪恒子さんが甘やかしすぎた≫≪なんだこいつ≫≪異常だ≫≪いつまで泣いているつもりだ≫≪本当に愛していたんだな≫≪近親相姦≫≪母親と寝ていたのか≫≪お嫁さんが哀れ≫

僧侶の読経の声も聞こえなくなるほどの大泣きをしている夫に困惑もし、消え入りたいほどに恥じている妻の幸江(東風万智子)は三十路に足を踏み入れたばかりである。≪あなた≫≪しっかりして≫≪お義母さまが死んで≫≪ようやくまともな夫婦になれると思ったのに≫≪しかし≫≪これでは≫≪あまりにも情けない≫

七瀬はすでに・・・信太郎と幸江の異様な夫婦生活にも気がついていた。

幸江は恒子の遺影を見つめている。

≪お義母さま≫≪あなたにはだまされた≫≪息子が一目ぼれをした≫≪そうおっしゃって突然、実家にいらっしやった時には≫≪うれしかった≫≪結婚するまでは≫≪本当に優しくしてくれた≫≪まるで観音さまだった≫≪私も愚かだった≫≪ちやほやされて≫≪その気になった≫≪だまされた≫≪結婚したとたん≫≪鬼≫≪夫との性交に嫉妬≫≪病気になってからは≫≪ののしられた≫≪毎日≫≪毎日≫≪私を殺す気か!≫≪この鬼嫁!≫≪この人殺し!≫≪どなられた≫≪私は玩具≫≪息子にねだられたお義母さまが≫≪買い与えた≫≪玩具だった

七瀬はそれでも夫婦生活を続けた幸江の忍耐力をいぶかしんだ。

(一体、奥様は何を期待していたのだろうか)

(奥様もお嬢様なので世間を知らなかったにすぎない)

(苦労を背負いこむ性格)

かわいいデザインの喪服を来た七瀬は泣き崩れ続ける信太郎とうつむいて夫の醜態に耐える幸江を交互に見た。やがて、読経は終わったが信太郎の泣き声は途切れなかった。

≪これで娘も救われる≫

幸江の実父の意識が聞こえる。

≪さすがにあの男も≫≪これで立ち直るだろう≫

幸江の父親は異常な姑の存在による娘の苦労をある程度察していた。しかし、七瀬は本当の幸江の苦労はこれから始まるのだと洞察する。

(母親に完全に同化した息子にとって・・・世界は敵なのだ・・・奥様もその敵の一人にすぎない)

しかし・・・と七瀬は思う。幸江なら・・・信太郎の母の代役ができるかもしれない。そのためには恒子の死は福音と言えるだろう。

その時、七瀬は暗闇をよぎる光のようなものを感じた。

≪・・・≫雑音のような意識の呻きが聞こえる。

その感覚に異様なものを感じて七瀬は意識の追跡を開始したが・・・それは消失してしまう。

(なんだろう・・・誰の心なのか?)

七瀬は告別式の参列者の心を探ったがそれらしきものは発見できなかった。

それよりも七瀬は人々が自分に関心を持っていることを感じ・・・狼狽する。

≪誰だ≫≪幸江さんの妹?≫≪親戚か≫≪家政婦か≫≪いい女じゃないか≫≪グラマーだ≫≪なぜ、こんな美人がお手伝いなんかしてるんだ≫≪処女か≫≪処女じゃないだろうな≫≪もったいない≫≪やりたい≫

七瀬は男たちのねっとりした欲望の意識に耐えられなくなり・・・給湯室に逃げる。

ここでドラマ・オリジナルの回想シーンが挿入される。

天涯孤独の身の上となった七瀬は近隣のスーパーマーケットで働いていた。

客(勝平ともこ)の心を読み、巧みなセールスを展開する少女時代の七瀬はある同僚(種子)には利用価値があると思われ、別の同僚(おのさなえ)には読心能力を疑われ恐怖される。

能力を駆使すれば人間をあるいは巧妙にあるいは恐怖で支配することも不可能ではない。

七瀬の中にそうした荒みが入り込む余地はあった。

しかし、賢い七瀬は「私は神ではない」と洞察し・・・家政婦として放浪することを選択したのである。

しかし、成人となった今。それもまた限界に近付いているのである。

未婚で美貌の女が勤めていても誰からも怪しまれることなく、勤め先に身許を知られないですむ職業。

そんな仕事があるだろうか・・・七瀬は前途に不安を感じる。

ナナちゃんっていったね

突然、声をかけてきたのは恒子の弟の茂蔵(佐藤二朗)だった。

≪(この娘はいい)(姉さんの看病の用がなくなった)(家の女中に)(そしててごめに)(俺が女にしてやる)(おぼこだ)(おぼこはいい)(未通女)(きっといい声で啼く)≫

七瀬はぞっとした。

「私、やめるんです」

「あ、そう、じゃ、ウチにくればいいよ・・・本家と違い、ウチは気楽だよ」

≪(そうだ楽にして)(力を抜いて)(いれるよ)≫

「いえ・・・家政婦をやめて・・・故郷に帰るのです・・・結婚するんです

≪(えー)(えー)(むむむー)(そりゃないぜ)(えー)≫

激しい欲望ですでに下腹部を充血させていた茂蔵は性欲を憎悪に変容させていた。

≪(えー)(せめて尻だけでも)≫≫≫なおも七瀬に接触しようとする茂蔵を避けて七瀬は式場に戻る。

喪主の挨拶のために信太郎がマイクの前に立っている。

「うえ、うえ、おおん、ご愁傷さまでしたあーん、あんあん」

沈黙に包まれた式場で再び、七瀬は一瞬の意識の呻きを感じた。

≪・・・幸江≫≪おぼえていろ・・・≫

幸江を恨んでいるものがこの式場にいる。七瀬は意識のサーチを開始したが・・・再び【その意識】は途絶えてしまった。

(あの大人しい奥様が人に恨まれているなんて)何か釈然としない七瀬だった。

そこへ・・・幸江がやってきた。

「ねえ、ナナちゃん、あなたも一緒に火葬場に行ってくれないかしら」

≪夫が手におえない≫≪私一人では≫≪ナナちゃんにたよるしかない≫

七瀬は妻ではなく嫁であることを強要され清水家で孤立していた幸江に同情していたので即座に承諾する。

「かしこまりました」

火葬場では笑い続ける怪しい男(入月謙一)がいたが≪やさしかった恒子おばさん・・・笑顔で見送りたい≫という単なる変人だった。

あの声はなんだったのだろうと七瀬がいぶかしむうちに棺桶は火葬炉に搬入される。

その時、七瀬の心に衝撃が走った。

≪幸江≫≪あの女≫≪私は殺される

微弱な精神力は・・・病人のものに違いない。そして、それは七瀬にとってよく知ったものの精神波だった。

しかし・・・恒子が死んでいるという先入観が・・・それをそう感じさせなかったのだ。

棺桶の中で・・・恒子が蘇生しているのだ。

読書家である七瀬は「早すぎた埋葬」という事例については知っていた。しかし、よもや自分がそのような場に居合わせるとは思わなかった。

しかも・・・恒子が生きていることを知っているのは七瀬ひとりなのだった。

だが・・・それを七瀬が誰かに伝えれば七瀬は人々に不審に思われるだろう。

わたしひとり

(わたしが教えない限り)

七瀬は迷った。このままでは自分が殺人行為を犯すことになる。しかし、なぜ、恒子が蘇生したことを七瀬が知ったのかは問われても説明できないのである。

だめよ、それはだめ、絶対にだめ、何のために今まで精神感応力(テレパシー)をひた隠しにしてきたの

七瀬は覚悟を決める。

わたしは知らない。私は何も知らないのだ。何も聞こえなかったのだ

熱い≫火葬炉は点火していた。≪熱い≫≪煙が≫≪喉を≫

≪燃えている≫≪殺される≫≪幸江≫≪熱い≫≪焼き殺される≫≪あつ≫≪熱≫≪助けて≫≪信太郎≫≪しんちゃん≫≪たす≫≪たすけ≫≪あつ≫≪助けて≫≪幸子に≫≪あの女中≫≪あいつも≫≪グル≫≪殺される≫≪あつ≪い≫熱≫≪わたし≫≪火≫≪ひ≫≪≪≪ひー≫≫≫≪ぎゃ≫≪ぎゃぎゃ≫≪わたしが≫≪わたしのからだが≫≪もえて≫≪灰になる≫≪助けて≫≪焼ける≫≪焼け≫≪おうおうおう

(死んで)(死んではやく)(おねがい)(ゆるして)(早く死んで)(死んでください)

自分の身を守るために生きている人間を見殺しにするという大それた行為への罪悪感は消えることがない筈だった。

しかし、七瀬は断末魔の叫びを歯をくいしばって耐えるしかないのだ。

南無帰命無量寿仏 (ナモそはすべての源へあらゆる尊いものも戻るなり)

南無帰命無量光仏 (ナモそはすべての源へあらゆる光あるものも戻るなり)

火葬場の虚空に七瀬の声なき絶叫がこだまする。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の家族八景

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2012年3月13日 (火)

ストリート・キッス(松本潤)

・・・だじゃれかよっ。

元ネタは言うまでもなく『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ(1991年)である。原題は「A Cool Breeze on the Undergroud」で「地面の下のひんやりしたそよ風」・・・悪魔としては本能的に郷愁に誘われますな。

いわゆるひとつのストリート・チルドレン・・・キッドには浮浪児という言葉の方がしっくりときます。路上生活するガキほど・・・いたたまれないものはありませんが、そういう階級出身の若者が拾われてプロの探偵に仕込まれていく。このアイディアだけで・・・胸が騒ぐというものでございます。

で・・・ドラマの拾われたフリーターの方はめきめきと腕前をあげ・・・アクロバットなアクションを展開・・・。

ふと気がついたのだが、第一話のレビュー「フリーターには向かない職業」は元ネタを提示していなかったのだな。

今更だが、もちろん『女には向かない職業』P・D・ジェイムズ(1972年)のパクリです。

まあ・・・本当は元ネタを語るというのは・・・スタイリッシュとは言えないが・・・時には解説も大切だよなあ。

あえていえば・・・一回でいいから・・・格闘道場で腕を磨く駿太郎のシーンを挿入すればいいのに・・・汗くさくて月9にそぐわないと考えるのかもしれないが・・・その汗をシャワーで流す駿太郎は充分に月9向きじゃないのかな?

回想シーンを使うなら・・・「これ、新田くん(瑛太)があなたにって・・・」という社長(松嶋菜々子)という場面を使って・・・「新田」という親友や、「社長」という愛すべき上司のために・・・懸命に心身を鍛錬する駿太郎を描かないと・・・「仲間のために」「社長のために」というセリフだけでは空虚な感じがするんですよお。

まあ・・・もう・・・とりかえしはつかないことですけれども~。

だが、まあ、微妙に面白いドラマなんだよな。今回も「さらば愛しき女泥棒」(夏帆)とか「夏帆のK」(夏帆)とか「黒のタイツを持つ女」(夏帆)とかゲストでのタイトルを思い留まるほどには。

で、『ラッキーセブン・第9回』(フジテレビ20120312PM9~)脚本・野木亜紀子、演出・成田岳を見た。女たらしの駿太郎はここまで・・・人妻(松本若菜)、女結婚詐欺師(紺野まひる)とその娘(畠山紬)、新田の姉(西山繭子)、老婆(水野久美)、ホステス(釈由美子)とその守備範囲の広さを披露してきたわけだが・・・最後は謎の女・史織(夏帆)である。

ついにメイ(入来茉里)の回がないまま・・・ま、あったと考えてもいいですが・・・第六話ね・・・ここまで来たわけだが・・・女事務員は夏帆くらいでバランスとれたんじゃないかな。ま、バスト的に飛鳥(仲里依紗)とかぶるけどな。メイの場合、事務員と・・・ハッカー的な戦力を兼ねるので・・・現代の情報戦ではほとんど主力なわけだから。

そういう意味で「探偵もの」としては最初からキャスティング・バランスが悪かったと言える。

しかし・・・まあ、貴重なメガネっ娘だからな・・・一部愛好家はこれで満足なのかもな。

で、物語の方はいよいよ・・・大詰めである。「ラッキー探偵社」の創立に隠された秘密と・・・その秘密の捜査をこころよく思わない謎の巨大組織との暗闘が開始されたのだ・・・まあ、こう書くとものすごい話だが・・・敵対組織は今のところ・・・ショッカー・レベルでございます。

「みんなに迷惑をかけたくない・・・」と秘密について言葉を濁す社長(松嶋菜々子)だが、その秘密に危険な匂いがつきまとう以上、情報開示するべきなのではないか・・・と誰もが感じるだろう。「爆発するなら爆発するといってくれよ原子炉」なのである。

で、その秘密とは地上げにまつわる・・・建設会社と社長の父親の弁護士との対立と・・・社長の父親の不自然な死の定番である歩道橋からの転落死にあるらしい。

うかつに歩道橋を歩くな・・・ということである。

そして・・・今回もまた・・・依頼者はダミーなのだ。まあ、着手料金先払いとしてもだ・・・ただでさえ・・・ろくな仕事してない・・・ラッキー探偵社、結局、弁護士だった社長の父親の遺産を食いつぶしているんじゃ・・・そして、社長は弁護士になれなかったダメな子なんじゃ・・・。

そのような様々な心の声は無視して話を進めていく。

「現金喫茶」のウエイトレス、史織はストーカーにつきまとわれている・・・とボディ・ガードを依頼する。護衛役に選ばれた駿太郎はデートを重ね、史織はたちまちメロメロになるのである。

さりげなく依頼者の頭をなでたりしても・・・セクハラにならない駿太郎はどんな特権階級なのだろうか。

一方、16年前の事件に固執する桐原刑事(吹石一恵)は署内で孤立、旭(大泉洋)との水族館での偽装デートで出番を確保である。頭をなでようとしたした旭はこれはどうでしょう?的な失態を演ずる。

すっかり、史織と恋人気分だった駿太郎だが、一瞬の隙をつかれて、史織は凌辱されてしまう。屋上で肌をさらされる史織だが・・・必然性はほとんどないのである。というか、どう考えても凌辱速度が速すぎる。犯人、加速装置ついているのかよ。

業務上の過失を気に病む駿太郎だが・・・警護のために迎えに行った史織の自宅前で・・・路上の口づけをかわし・・・その唇に違和感を感じる。

「なんて・・・冷たい唇なんだ・・・低体温症か・・・」

女たらしならではの勘で史織を尾行する駿太郎。史織は黒タイツから黒いジャンプスーツに着替え・・・ラッキー探偵社に侵入である。なんて・・・セキュリティーが甘い・・・もういいか。

まあ、お菓子とともに盗聴器を持ち込んだ史織は・・・その時点で探偵事務所なら慣行であるはずの盗聴器などの定期検査で引っ掛かるのが普通だが・・・ここでは飛鳥がチーズ・ケーキを作って失笑されるだけなのである。

とことん、うかつだぞ・・・ラッキー探偵社。

女スパイである史織の狙いは社長の父親の古い手帳。

しかし、それをはばむ駿太郎。そこへ・・・グルだった史織のストーカーが現れアクション開始である。

・・・長い時間を我慢して・・・一瞬で終わる楽しみ・・・まあ、これが人生と言う奴ですな。

ストーカーを確保するが・・・史織は逃がす駿太郎だ。窃盗の現行犯ですけど・・・。

「私の秘密には手をふれないで」と社長に拒絶された旭だが・・・密かに社長の護衛を開始している・・・みんな・・・仕事しろよ。

しかし・・・今回のショッカーは前回の議員の警護者よりも荒事には慣れているらしく、旭はほとんど殺傷されてもおかしくない打撃で昏倒である。

そして・・・社長は拉致されてしまう。

ともかく・・・社長宅へ急ぐ駿太郎・・・うかつな探偵たちだがみんな社長の自宅だけは知っているんだな・・・。

ま・・・来週はきっと面白いでしょうとも。

今回の教訓・女たらし相手のうかつなキスは命取り

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2012年3月12日 (月)

止めど流る清か水に身を捨つる人(松山ケンイチ)

出家というものを武士がするのには様々な理由がある。

王家の血脈から言えば・・・佐藤義清(のりきよ)は公家のそれも支流の支流の支族である。

それでも・・・藤原鎌足の血を受け継ぐ貴族の末裔には違いない。

王族の護衛官ではあるが従七位上相当の左兵衛尉である。

そうした現世の地位を一切捨てて、自らの意思で出家するのは・・・ある意味、自殺行為なのである。

「死にたいけれど死ねない」・・・仏教とはそういう現実逃避をしたい者のためにある宗教であるといっても過言ではない。

なにしろ・・・創始者のブッダが・・・親を捨て、妻子を捨てて没我の森に逃げ込むことからスタートするわけですから。

つまり・・・出家とはそういう非情のライセンス獲得の道であり、けしてきれいごとではございません。

そのぐらい・・・義清の失恋の痛手は大きかったわけです。

そして・・・失恋したら髪を切るのは定番なのですな。

こういう青春の彷徨は現代なら庶民でも可能ですが・・・当時は貴族だから許される特権でございます。

そこはどうかお含みおきください。

失恋くらいで大袈裟な・・・という人は本当の失恋を知らないだけなのですな。

さて・・・あれから一年である。彼岸の彼方にさったものを供養することは惨事ゆえではないだろうが・・・時には量は質を圧倒する。未だ癒えぬ傷跡に何かを思うのは生あるゆえである。非業の死を遂げたものに恥じぬ生き方を捜して・・・今日がまた始まる。

で、『平清盛・第10回』(NHK総合20120311PM8~)脚本・藤本有紀、演出・中島由貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに待賢門院璋子様描き下ろしイラスト大公開でございます。まさに男殺し・・・魔性の女・・・しかしてその実態はただの美女・・・。まさに恋とは幻想そのものなのでございますな~。はたして・・・いと惜しいのは・・・セクサロイドなのか・・・童女のような熟女なのか・・・素晴らしい役柄を次々に与えられ・・・人はいつしか大女優と化していくのですな。

Tairakiyomori08時は保延(ほうえん)五年(1139年)である。この年、平家は興福寺宗徒の強訴に対応して、大和国山城国の国境である宇治に出動。僧兵の平安京侵入を阻止する防衛線を展開する。ちなみに興福寺は藤原宗家が檀家の寺である。このような暴挙の裏には藤原一族が暗躍しているのは言うまでもない。しかし、分家に分家を重ねた藤原氏はもはや・・・一族内の内紛が日常茶飯事になっている。たとえば藤原宗家を自任する摂関家は村上源氏の保護者である。傍系である閑院流が藤原璋子によって鳥羽帝を継ぐ崇徳帝を生む以前に村上源氏の末裔である源顕仲の娘・六条局を璋子に出仕させる。これが待賢門院堀河なのである。つまり、堀河局は摂関家の目付なのだな。堀河が必ずしも璋子の味方をしないのはこのためである。璋子の父閑院藤原公実は三条実行、西園寺通季、徳大寺実能の父親でもある。藤原北家傍流である秀郷流の佐藤義清はこの閑院分家の徳大寺家の郎党なのである。いわば、璋子は主家の姫君なのである。大河ドラマで登場人物の年齢を問うのは禁じているのだが、今回は未登場の人物紹介のために・・・元号と世代をまとめておくことにする。

康和(死者数万人の大地震発生と疫病流行のために改元)三年(1101年)藤原璋子誕生。

康和五年(1103年)鳥羽院誕生。(つまり璋子は年上の女である)

おそらく康和地震の余波が続き、天変により長治に改元(1104年~)・・・またもや天変で嘉承(1106年~)に改元。

高階通憲は嘉承元年に誕生。

藤原家成は嘉承二年(1107年)に誕生。

鳥羽天皇即位(数え年で六歳)により天仁(1108年~)に改元。

彗星が出現したために天永(1110年~)に改元。

天変、怪異、疫病、戦乱など大混乱で永久(1113年~)に改元。

永久三年(1115年)、藤原璋子の兄の子であり、佐藤義清の主でもある徳大寺公能が生誕。

永久五年(1117年)、藤原得子(美福門院)生誕。この時、璋子は数え年で17歳。

元永(天変、疫病流行で改元)元年(1118年)、平清盛誕生。同年、佐藤義清誕生。(つまり二人は同級生なのである・・・そして璋子は数え年で18歳である)

元永二年(1119年)崇徳天皇誕生。(つまり平清盛の異母弟である)

保安(御厄運御慎・・・つまりあまりにも運気が悪いので人心一新のため改元)元年(1120年)、藤原頼長誕生。(平清盛、数えで三歳である)

保安四年(1123年)、源義朝誕生。(平清盛、数えで六歳)

崇徳天皇即位のために天治(1124年~)に改元。

大治(疱瘡流行のために改元)元年(1126年)統子(むねこ)内親王(璋子の娘)誕生。

同年、平時子(平清盛後室)誕生。

大治二年(1127年)、後白河天皇(雅仁親王)誕生。

日照りにより天承(1131年~)に改元。

疫病・大火により長承(1132年~)に改元。

そして保延(洪水・飢饉・疫病により改元)五年(1139年)に近衛天皇(体仁親王)が生誕である。この時、母の得子は数え年で23歳である。

璋子は39歳。

鳥羽上皇は37歳。

高階通憲は34歳。

平清盛と佐藤義清は22歳。

崇徳帝は21歳。

藤原頼長が20歳。

源義朝は17歳。

統子内親王が14歳。

雅仁親王が13歳である。

・・・ということである。佐藤義清の失恋相手は璋子とされるのが一般的である。璋子が絶世の美女であり、義清は年上の女が好きだったということだな。

しかし・・・璋子の娘である統子内親王が母を上回る絶世の美少女だったので義清は統子内親王に惚れてしまったのだという説もある。この場合、義清は年下の女の子が好きだったということになるのである。・・・それが言いたかっただけなのかよっ。

鳥羽上皇の側近である藤原家成は保延五年八月・・・春宮権大夫(みこのみやのつかさ)となった。父・長保の兄・長実の娘・藤原得子の産んだ体仁親王が崇徳帝の中宮・藤原聖子を准母(身分の低い生母に代わる養母)として皇太弟となったからである。

一方で、藤原家成の母は藤原道隆流の藤原隆宗の娘・宗子である。宗子の兄に藤原宗兼がいて、その娘がまた宗子と言う。平忠盛の正室である。

高貴なる王家に父方の従妹がいて、実力ある武家に母方の従妹がいる。出世した藤原家成の公家としての地位は絶妙なバランスの上で成立している。

宇治での平安京防衛戦を無事、終えて戦果報告をした従妹の夫・平忠盛を春宮の執務室に呼んだ家成は浮かぬ顔をしていた。

「何用でございましょうや・・・」と忠盛は10歳ほど年下の貴族に尋ねた。

「・・・後宮のことです・・・」と口重く家成は答える。

「それは・・・」

「恐れ多くも末は国母となられる・・・わが従妹の得子のことなのです」

「・・・」

「どうも・・・別人のようなのです」

「なんと・・・」

「確かに・・・我が従妹は藤原氏の娘として末茂流という傍系ながら・・・寝屋の術には長けておりましたが・・・最近ではほとんど・・・妖術めいておるのです」

「しかし・・・それは修練の賜物というものではありませぬか・・・」

「いや・・・こなたさまの奥方同様・・・得子様にも幼い頃より親しんでいたこの家成には理屈抜きでわかる・・・と申した方がよろしかろう・・・あれはもはや・・・得子様ではない・・・いや、人ですらないかもしれませぬ・・・」

「それは・・・一体・・・」

「どうやら・・・もののけにとって代わられたようなのです」

「・・・」

「しかし・・・もはや・・・雲の上に登られたお方・・・たとえ・・・正体がもののけであろうともうかつに手出しはできませぬ・・・ただ・・・武門の長たる忠盛殿にはお含みおきいただきたくお伝え申し上げたのです」

「・・・」忠盛と家成は無言のまま、互いを見つめあっていた。

その頃、清盛は内裏では中御門屋敷と称される待賢門院に招かれていた。

応対するのは・・・璋子ではなく・・・ひめみこながら聖徳太子の再来と噂される璋子の産んだ皇女・統子(むねこ)内親王である。さすがの清盛も入室ははばかられ、板の間で平服する。

「顔(かんばせ)をあげなされ」凛とした声が聞こえる。その鈴やかさに清盛は痺れるような快感を覚えた。御簾ごしに後光がさしており、顔をあげた清盛はまぶしさに顔をしかめる。

「お初にお目にかかります」

「ふふふ・・・先日は弟の雅仁がお世話をかけたそうじゃな。あれはスサノオのようなもの・・・宮の者たちも手をやいておる・・・」

「いや・・・なかなかの豪のお方にて・・・」

「そなたは・・・我が兄・崇徳帝にとっては異母兄じゃ・・・そのように礼を尽くさずともよい・・・我ら姉弟にとっても大伯父にあたるお方であろう・・・等しく白河帝の血を引くもの同志・・・面白おかしく参ろうぞ・・・」

「・・・ははは・・・これはこれは噂にたがわぬ姫様よのう・・・」

「そなたも・・・噂通り・・・けだもののような気迫に満ちておいでじゃ・・・さもたわむれも過ぎ遊びも過ぎる日々をお過ごしなされたのじゃろう・・・機会があれば・・・ゆっくりと話などせがみたいものじゃ・・・」

「それがしの話など・・・さして・・・」

「まあ・・・いい・・・ところで、にしの海の彼方、からの大陸の彼方には・・・花に言の葉があるそうじゃ」

「ほほう・・・」

「水仙の言の葉は・・・うぬぼれ・・・だとか」

「それはまた」

「なんでも・・・昔、若者が水鏡に映る自分の顔にうっとりばかりしておると・・・妖魔に水辺の水仙に変えられてしまったと言い伝えがあるらしい」

「それはまた・・・小憎らしい妖魔がおったものですな」

「まあ、わが母やわが父を見ていると・・・水仙の魔は洋の東西を問わぬと思えてくる」

そこで・・・ひめみこは言葉を切り、しばらくもの思いに沈む。だが、それは一瞬のことで・・・鈴音のような声は再び清盛の耳を熱くする。

「さて・・・そのように王と后が見果てぬ水仙を追ううちに・・・いつのまにやら宮に妖異に入りこまれてしまったようなのじゃ・・・」

「なんと・・・」

「童の占いでは心もとないが・・・それによると・・・あやかしは・・・古くからの国から渡ってきたもののようなのじゃ」

「それは・・・まさか・・・妲己(だっき)とか妖狐(ようこ)とか申すものでしょうか・・・」

「おやまあ・・・さすがじゃ・・・よくご存じであられたな・・・」

「いや・・・博多の湊で小耳にはさんだ程度やけど」

「そうですか・・・さて、さすがに千年の昔より・・・人とまじわるもののけだけに用意周到で・・・人に化けるために・・・格別なる護符を・・・各地の鎮守の森に秘めてきたようなのじゃ・・・」

「つまり・・・術式に結界を張っておるというのですか・・・」

「話が早くてよいの・・・そういうわけで・・・もののけの正体を見破るためにはその・・・護符を破棄しなくてはならぬ・・・」

「それをそれがしにお命じになるのか・・・」

「いや・・・さすがにそれは清盛殿の自由にはなるまいて・・・あれに控えておるものに命ずるつもりじゃ・・・」

清盛は背後を見た。いつの間にか忍びよっていたのか。そこには清盛の見知った顔のものがいた。北面の武士の一人、佐藤義清である。

「これはいにしえの忍びの頭領で大伴の服部半蔵と申すもの。今は母上のご実家の分家、徳大寺家に、佐藤義清と名乗り、仕えておる」

「・・・なるほど・・・大伴忍びの頭領でござったか・・・」

「で、清盛殿には手の者を召し出されるなど・・・援助をお願いしたいのじゃ・・・」

「この清盛・・・出来る限りのことをいたしまする」

清盛は再び平服した。

こうして、武士・佐藤義清は歴史の表舞台から姿を消すのだった。

その頃・・・源義朝は・・・関東で武名を馳せていた。すでに戦乱の兆しをみせていた相模国や上総国などで叛乱勢力をあたるをさいわいなぎ倒し・・・着々と源氏の勢力を広げていたのである。

そして・・・行く先々で女を犯し・・・源氏の血を広めているのだった。

やがて・・・その青春の因果が後の世にいろいろと応報するのである。

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2012年3月11日 (日)

大和撫子(石橋杏奈)と執着とは何かを汝に問うフライト・アテンダント(山田涼介)

執着とは不思議な言葉で・・・愛と憎悪が共存しているわけである。

執着がなければ愛はないし、執着があるから愛はないのである。

この場合、問題があるのは執着ではなく愛の方である。

理想の息子・大地(山田涼介)の邪悪な母親(鈴木京香)の愛が限りなく愛以外の何かに見えるとしても・・・それもまた愛の問題なのである。

このドラマは愛に満ち溢れている。

たとえば・・・親友の小林(中島裕翔)の小動物的策略を甘んじて成就させる大地の挙動は西洋的なフィーリア・・・いわゆるひとつの友情という愛である。

隣人の倉橋(沢村一樹)が亡き妻に捧げる妄執は東洋的な「渇愛」ともそれが凝縮したいわゆるひとつの慈悲という愛でもある。

大地と海がそれぞれに抱く近親相姦願望はまさしく西洋ではエロス、東洋では性愛と呼ばれる愛に他ならない。

いわば・・・このドラマは愛の万華鏡なのである。

様々な愛を経験したものであればどの愛も思い出深く・・・侮れないのであるが・・・やはり・・・愛する相手のためにすべてを投げ出す令嬢・篠田ソラの一途な愛こそがローマです。ロマンス(理想)です。ローマの休日です。

で、『理想の男子・第9回』(日本テレビ20120310PM9~)脚本・野島伸司、演出・森雅弘を見た。さて石橋杏奈である。驚くべきことに・・・まだ19歳なのである。なんだか・・・凄く昔から・・・このまま存在している気がする。しかも・・・ひっそりとだ・・・。ほぼ、女子中学生~女子大生の役柄で連続ドラマの若い女の子役をゲストあるいは脇役レギュラーし続けているんだな・・・。

デビューの2007年には『受験の神様』で成海璃子演じるヒロインの天才・女子中学生にハーバード大学を蹴らせて共に高校生活を送ることを選択させる魅力的な普通の女の子を演じるわけだ。圧倒的な存在感の成海を萌えさせるヒロインのヒロインである。これを難なくこなしてしまうところがすでにただものではない予感である。

次は『斉藤さん』(2008年)である。頑固一徹のヒロインを演じる観月ありさを陰に日向に応援する普通の女子高校生役である。コンビを組むのはあの高橋みなみである。高橋みなみがかなり個性的なのであるが・・・普通でありながらそれを上回る存在感を示すのだな・・・これがっ。

そして『銭ゲバ』(2009年)なのだ。主人公である松山ケンイチに普通の女の子だけど貧乏に負けて売春を持ちかけるというものすごい役柄を体当たりである。銭ゲバで「私の体を買ってください」である。まさにメイン・テーマの体現者ではないかっ。

この年には深夜で「トリハダ5」があり、谷村美月とともにホリプロ女優としても存在感を出している。

さらに『ギネ 産婦人科の女たち』(2009年)ではカイザーカイザーの波に乗り、子宮を失ってねじれていく普通のティーンズである。

2010年なると『ヤンキー君とメガネちゃん』でヒロイン仲里依紗と赤点メイトになったり、マイナー枠とは言え、今をときめく尾野真千子を従えて『MM9-MONSTER MAGNITUDE-』で連続ドラマの主演を果たしている。しかも・・・役柄は普通の怪獣退治の専門家である。

そして、つい最近では『妖怪人間ベム』(2011年)のベラ(杏)の親友、小春役である。

なんていうか・・・若くして・・・助演女優の鏡なのであるな。今回は理想の息子の理想のフィアンセである。ある意味・・・超難役ですが・・・軽々と淡々と飄々とこなしてますなあ。

なんか・・・もう・・・メジャーで主役する必要がないほど・・・キッドの中ではスターですな。

さて、ドラマの方は熟練の腕前で様々な要素を組み合わせ、まったく隙がない展開で進行していきます。

前回のG7巨大ビジネス争奪戦における替え玉大地の優勝は各方面に様々な波紋を広げる。

百獣の王ライオン・マザーの小林夫人は・・・トロフィーである令嬢・ソラを小林のフィアンセとして迎えたい意向である。あの小林夫人が絶賛するソラ・・・只者ではないのである。

しかし、ソラは・・・真の勇者である大地を直感で見抜き・・・たちまち恋に落ちているのである。

そして・・・押しかけフィアンセを決行する。

大地を密かに思う豹塚(吉永淳)は「あんなの女の常套手段」と嫉妬という愛の炎を燃やすがそぼふる雨に濡れるお嬢様ソラを小さな子猫を拾うように家にお持ち帰りの大地だった。

パート軍団に例によって洗脳され、新たなノイローゼ(嫁と姑になって息子に邪険にされたらどうしよう)に感染していた海は・・・息子の恋人出現に卒倒寸前である。

しかも・・・目的達成のためには手段を選ばない世界の住人でもあるソラは「妊娠」というウソでさらに海を追い詰めていくのである。

一方・・・海王工業ではニセ大地が出現し、愉快な仲間たちを次々に病院送りにしてしまう。

大地に不信感を抱く仲間たちをダークサイドに落ちた小林は巧みに誘導していくのだ。

そうとは知らない大地は友情の証として小林と丹波兄妹(脇知弘・三吉彩花)のコスプレ・コーナーで客室乗務員スタイルをダブルできめる。東雲クララは「いよいよ来週は立ちます」と衝撃の最終回予告である。

小林が堕ちたのは母親に千尋の谷に突き落とされたからなのであるが・・・それもまた愛でございます。

おそるべきはマルコバグループの超技術と社員層の厚さなのだ。

(⌒(´・▲・`)⌒)もびっくりである。

しかし・・・ストーカー的素養も持つお嬢様は愛する大地のためにすべての陰謀をお見通しなのである。

だが・・・ヒーローである大地はゲスト・ヒロインの愛の杯を素直には受け取らないのである。

彼が取るのは無償の愛に続く友情の道だったのだ。

その頃、「嫁さんなんて一生不要宣言」から「貧乏に幸福なし断定」「妊娠中絶を未成年者に強要」とノイローゼによる悪のフルコースを経て母親の黄昏に達し・・・手軽な隣人と酔いにまかせて結婚を決意する海だった。

母親にストルゲー的な従順すぎる愛を尽くした大地はまたしてもどんな愛も懐疑する母親に裏切られてしまうのである。

はたして・・・海が・・・悟りを開き・・・アガペーに目覚め、聖母となる日はやってくるのか・・・。

あ・・・三船(藤ヶ谷太輔)の極悪非道の母親が登場するのかどうかも・・・ついでに楽しみたい。

次週、いよいよ・・・「愛の結末はいつでも卒業」に乞うご期待なのだな。

・・・勝手にサブタイトル決めるなよ。

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2012年3月10日 (土)

未来の俺も俺なのだ(松岡昌宏)

私たちは1+1が2であることを知っている。多くの人が1+1=であれば2となると予測する。

そういう当然の帰結は予定調和の一種である。

しかし、認識される情報としてのそれは1+1=2として表象されるモナド(とある存在)なのである。

モナドには因果律は存在しない・・・つまり1+1が2になるわけではない。単に1+1=2なのである。

なぜなら・・・1+1が2になる瞬間には・・・時間の流れが存在する。

個人差はあるものの因果としての時間が流れているのである。これがモナドに対する人間の認識能力の限界である。

1+1=2は宇宙そのものである。とある存在は全体そのものなのである。

同様にとある時間は経過しない・・・なぜならとある時間は時間全体だからである。

こういう世界観に支配されればすべての事象は改変不能である。

あらゆる努力は無駄であり・・・意思さえもただの成り行きとなる。

だが・・・ライプニッツとは違い、私たちは思う。

予定外の不調和こそ・・・生きることの歓喜の源であると。

しかし、私たちは思う。とある存在のゆらぎが最初で最後とは限らない・・・と。

時には、1+1=0でありますように。

で、『13歳のハローワーク ・最終回』(20120309PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・大石哲也、演出・髙橋伸之を見た。ドラマの中にもルールがあり、そのルールは当然、反則によって破られる。たとえば「他言無用・・・他言した場合は死刑」というルールは「他言」で「死刑」にならないとルールそのものが無用となるわけである。まあ、法務大臣が死刑を執行しないというルール無用の国家なのでなんでもありといえばそれまでだが・・・あまりルールをやぶってばかりいると・・・ドラマそのものが見捨てられる危険性があります。

しかし・・・まあ・・・それもきっと試練なのかもしれん・・・それが言いたかったのかよっ。

さて、最終回である。ここまでフィールド、スケジュール、キャラクターと分析してきたので今回はテーマとなるわけだ。もちろん、それもまた予定調和の一種である。

神の予定調和にもの申す立場の悪魔がそれでいいのかと問われれば無視するわけだな。

テーマとはドイツ語で英語ならタイトルである。日本語では主題とも題名とも訳される所以なのだな。

というわけで・・・このドラマのテーマは「13歳のハローワーク」である。・・・以上。

ということなら簡単なのだが・・・結局、それでは分析にならないことは言うまでもない。

ここで問題となるのがテーマの表現ということである。

そして表現とは「たとえ」であり「くりかえし」であると言うことになる。

つまり、言いたいことは何なのか・・・と言うことが問われるのだな。

もちろん・・・それは一言で言えるのだが・・・それをあえて増幅していくのが・・・予定調和のなせるわざなのである。

①解題・・・テーマを解き明かしていくことにしよう。13歳のハローワークとは・・・人は13歳くらいで職業について深く考えるべきだという一種の啓示なのである。なぜなら・・・日本では中学生は義務教育の最終段階だからである。国家としては・・・中学を卒業した後の人生はご自由に・・・という態度を示しているのである。にもかかわらず人々は多数が卒業後の進学を選択し、さらにまた進学する。つまり、就職という段階への長いモラトリアム(執行猶予期間)が黙認されているのだな。キッドは四年生大学を卒業した後でさらに専門学校に進学した学生を指導した経験があるが・・・本心では・・・いい加減に働けよという気持ちでいっぱいだった。だが、それが仕事である以上・・・教えることは教えるのである。そういう意味で13歳のハローワークとは実にキッドの気持ちにフィットするテーマであるのだな。

②テーマのセリフ化・・・で、ドラマの場合、テーマのもっとも具体的な表現はセリフである。13歳のハローワークと叫ぶことはもっともシンプルな主張なのだが・・・なかなか、口にしづらいテーマではある。そのためにドラマでは「13歳の」少年少女が叫んだり、怪しい「ハローワーク」職員(滝藤賢一)が恫喝したりするわけである。これは言わばテーマの分離化でもある。その中から・・・13歳のハローワークには「仕事とは何か?」という問いかけが潜んでいることが明らかになっていく。

少年時代の鉄平(田中偉登 )は言う。「刑事ってなんだよ・・・人から未来を奪うのが仕事なのかよ」・・・もちろん、それは一つの真理である。

妖しいハローワーク職員は言う。「ここに来ても仕事はありませんよ。世の中に自分の望む仕事に就いている人がどれほどいるとお考えですか」・・・そういう側面もあるだろう。

「仕事とは何か」の正解を表現することは難しいため・・・とにかく、いろいろと例をあげて・・・たとえば「コック」たとえば「ホスト」たとえば「ナース」などと手を変え、品を変え・・・結局、「仕事にはいろいろある」という難解な正解を出したりするわけである。

③テーマの展開・・・で、結局は説明に説明を重ねていくのがテーマというものの本質である。「理想の仕事がみつかるといいね」「そのためにはかなり若い時から仕事について考えるといいね」「そしていろいろな仕事をためしてみるのもいいね」「それから一つの仕事にうちこむといいね」「仕事が楽しいとは限らないけど楽しいといいね」「さんざんなめにあってもさんざんなめにあっても」「金が欲しくて働いて眠るだけ」「こんな事いつまでも長くは続かないいい加減明日の事考えた方がイイ」・・・おい、冥界からのメッセージ届いてるぞ。

④テーマの帰結・・・で、最終回ともなれば・・・テーマのまとめをしなければならないのである。まあ・・・このドラマのテーマはあってないようなものなので・・・最後はわかったようなわからないような点に帰結する。まあ・・・「テーマについては各人がもう一度考えてください」というのはよくあるテーマなのである。

前回・・・目的達成のために手段を選ばないのは間違いである・・・というのと正しいのだというのを同時に表現しているのがこのテーマの複雑さを物語る。少年(中川大志)の暴力はNGだが、大人(松岡昌宏)の暴力はOKだったりするわけだ。

さらには「仕事とは金を稼ぐこと」「金を稼ぐことは楽しい」「金儲けは趣味と実益を兼ねる」という手段が目的化してしまう東(風吹ジュン)がかなり肯定的に描かれているのもこのドラマのテーマの一つと言えるだろう。

こうした様々なテーマの洗礼を受けて・・・主人公が到達するのは・・・「どんな仕事でも本人の気持ちひとつでやりがいのある素晴らしいものになる」ということなのだな。

突然、巨大化したように見える佳奈(沢木ルカ)が「やりたいことをやってみる」と言うのはそのためなのである。なにしろルカはもう14歳なのだ。

もちろん・・・ゲストが「希望の職種につけないからといって暴走したりするのは絶対にみとめられないこと」と釘を刺すために登場するわけである。

子供たちに教えたいから進学塾の教壇で警官から略奪した拳銃を片手に叫ぶ若松信也(細田としひこ)・・・「もうだめだ」という若松に「そんなことはない」と断言するタイムトラベラー小暮鉄平(松岡昌宏)・・・「そんなことはないことはないだろう」とも思うが・・・そういうテーマ外のことには言及しないのが大人というものなのだな。

こうして・・・小暮は「将来に悩む青少年の手助けをすることが・・・自分の本職である」という一つの結論に達する。だが・・・たちまち・・・さらに未来から小暮がやってきて・・・「老後のことを考えたら・・・もっと金を稼がなくちゃだめだ・・・」と主張するのである。

つまり・・・「13歳のハローワーク」は「生きがいとなる職業について高収入」を推奨するのだな。

そんなことは言われなくてもわかってる・・・というのは穢れた14歳以上が言うことですから。

まあ・・・どんな職業に就こうが・・・愛する人(桐谷美玲)がいればそれなりに幸せになれると高野(横山裕/古田新太)はこっそり言う。言わば裏テーマである。

そして・・・そうなると・・・このドラマがもっとも言いたかったことは「美味しいものを食べれば人は太る」ということなのだ。

ま、それでいいのかどうかは別として。

以上でテーマとしての分析を終了します。

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2012年3月 9日 (金)

なだらかな坂道を早春が通りすぎていく・・・坂の下には俺たちの家がある(山下智久)

「第一の母帰る」である。

まったく、丁寧なフリがあって・・・当然、予想された「母」の正体。

これで・・・健人の母の謎と放浪中の噂の美人ママの謎が一挙に解明である。

しかし・・・どのくらいのお茶の間が・・・ああ・・・そうだったのか・・・と素直に頷けたのか・・・定かではないよね。

遠い昔に息子を捨てた母。同じように捨てられた父と・・・新しい母と・・・異母兄弟たちともに過ごした日々。

しかし・・・こっそりと母親・美奈子(長山藍子)とあっていた健人(反町隆史)・・・。

もう、これだけでも充分に葛藤に満ち満ちているわけだが。

死病を宣告されて・・・実の母親と弟妹との板挟みになる兄貴を思いやる真人(山下智久)・・・。

一方では殉職刑事の最後の電話に出てしまい・・・坂巻刑事(榮倉奈々)の捜査に協力する真人。

そして・・・ついに岩田さんが・・・真人にしか見えない特殊な存在であることが・・・確定。

もう・・・何をどう受け止めていいのか・・・右往左往でございますなーっ・・・ああ、面白い。

あの世のことを持ち出すと・・・もう・・・それだけでリアルに感じられないお茶の間の皆さまも多数いる今日この頃。

あの世の実在とか・・・成仏とか・・・困ってしまう方も多いわけで。

霊的現象に一定のルールを求める人もきっといるだろうしなぁ。

しかし・・・そんなこと言ったら・・・ドラマなんて・・・基本、フィクションですからーーーっ。

脚本家、基本、ルール無用の悪党系ですからーーーっ。

もう、覚悟を決めて・・・楽しんだものが勝利するのだ、ワン( コタロー)・・・。

犬人格まで動員か・・・いや、それはもう人格じゃないだろう。

ついにかなりマイナー・ソングのパクリなので・・・「私の家」とか六文銭とか・・・。一応。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー・第6回』(TBSテレビ20120308PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・川島龍太郎を見た。あの世がフィクションである以上、あの世は人の数以上存在するって誰かが言ってた。そうかもしれないね。あの世なんてないさ、すべてウソさ・・・というのもあの世なら・・・ゴースト・ニューヨークの幻みたいなあの世もあるし、ビートル・ジュースみたいなあの世もある。・・・で、あの世があれば彷徨う魂っていうか、地獄のハイウェイの長距離バスを途中下車した幽霊がいたってちっとも不思議じゃないっていうか・・・でもさ・・・葬儀の井原屋の四代目(※公式では五代目らしい・・・四代続いた井原屋が俺の代で・・・云々というセリフがあったのだが・・・これは五代目という意味だったのかもね)としてはアレですが・・・俺(真人=山下智久)はマジでオバケとか苦手なんですけど・・・。

「岩田さ~ん、時間ですよ~」・・・じゃなくてだな。本当に幽霊なのかどうか・・・確かめようとしたら突然消えてしまった岩田さん(山崎努)である。この時、俺はまだ、半信半疑だった。だって年齢の割に足が速い人だっているでしょう。

で、岩田さんの替わりに出現したのは・・・死んだ親父(蟹江敬三)の最初の奥さんで健人兄貴の生みの母でもある美奈子さんである。・・・俺が生まれる前に親父と兄貴を捨てて男と駆け落ちしたっていうことは・・・口さがない町内の皆さんの噂話で知っていたが・・・まさか、本人に逢うとは思ってもいなかったので、マジ、驚いたよ。

しかし、井原家のことならなんでも知っている田中さん(大友康平)が保証するのだから・・・間違いなく美奈子さん本人なのだろう。

「田中さん、老けたわね~」などと軽いノリで毒を吐くタイプの美奈子さん。老いてなお、奔放な女と言えば加藤治子さんの領分でございますが・・・加藤さんももう89歳だからな・・・70代の長山さんがそのポジションにやってきたのでございますねえ・・・などと誰かがささやく気がする。

もし、岩田さんが幽霊だとすると・・・それはそれとしてびっくりだけど・・・俺の頭がどうにかなっちゃってる可能性もあり・・・それはそれでこわいよな。

でも・・・考えてみれば・・・井原屋を継いで以来・・・俺はなんとなく・・・ご遺体の声がそれとなくわかるっていうか・・・岩田さんのアドバイスで・・・ご遺体の無念を救いあげてきたわけで・・・これって・・・葬儀屋の息子として備わった特殊能力なのかもね。

しかし・・・とにかく・・・突然、現れた美奈子さんは幽霊以上に厄介な存在感を醸し出すのである。

母親の突然の訪問に驚く兄貴・・・茫然とする晴香(前田敦子)、隼人(知念侑李)、桃子(大野いと)の弟妹たち。

そして亡き親父に線香をあげた美奈子さんは・・・「今晩泊めて・・・」と言いだすのである。

晴香は「何のお構いもできませんが・・・」と早くも火花を散らし始める。

夕食はお客様用すき焼きである。

いきなり「それにしても晴香ちゃんはよく・・・葬儀屋なんて辛気臭い稼業を継ぐ気になったわね。あたしなんか・・・大の苦手で・・・だから浮気しちゃったのよ」と美奈子さん。

「なんですってーっ」と桃子。

「私は誇りを持って葬儀社を営んでいるです」と晴香。

健人兄貴をめぐり・・・美奈子さんVS晴香・桃子連合軍が結成され・・・久しぶりのぶっかけチャンスが・・・今夜・・・ついに・・・来ませんでしたーーーっ。

なんてったって・・・美奈子さんは兄貴の実の母親なので・・・晴香たちもつい遠慮してしまうのである。

なにしろ兄貴が「ごめん・・・ウソのつけない人なんだ・・・」と美奈子さんをフォローするのである。

俺は美奈子さんがシラスのお土産を持ってきた時に察したのだが・・・今回の兄貴の放浪先って・・・静岡の美奈子さんの現住所だったわけだ。

それどころか・・・兄貴が時々、ふらっといなくなるのは・・・美奈子さんのところに行ってたってことになる。

つまり・・・駆け落ち同然で家出した美奈子さんはとっくに独り身になってたんだな。

それにしても・・・ホスト遊びが過ぎて最後はホストと心中同然の事故死をした花屋の夕子さん(磯野貴理子)のお姑さん(草笛光子)に「町内一の勝手女(※脚本では無責任女ですが再現性はあえて低めに設定しています)」と呼ばれた美奈子さんて・・・。

「晴香ちゃんたちには感謝してもらいたいくらいよ・・・私が家を出たから・・・あなたたちのお母さんがこの家に入って・・・めでたくあなたたちが生まれたってわけだから・・・」

「なんだって・・・」と桃子。

「一体、辛気臭い井原屋に今更、何の用があるんです」と晴香。

「もちろん・・・健人を連れ戻しにきたのよ・・・こんな家より・・・静岡の方がいいに決まってるでしょ」(美奈子のお茶の間高感度↘)

俺はドキドキした。きっと・・・美奈子さんは兄貴の病気のことを知っているのだ。

兄貴も顔色を変えて・・・美奈子さんを別室に連れ出した。

「母さん・・・真人以外には・・・病気のことをまだ言ってないんだ」

「あら・・・そうなの」

「だから・・・今回はひとまず静岡に帰ってくれないか」

「でも・・・手術のこととか・・・」

「手術はどうやら・・・難しいらしい・・・」

「・・・そうなの」

美奈子さんの顔が暗く沈んだ。

俺には分かったよ・・・あっけらかんとしているように見えて美奈子さんが本当は苦しんでいることが。

すると・・・様子を見に来た俺に美奈子さんが気付いた。

「わかった・・・とにかく・・・今夜は・・・パッと飲もうか・・・真人くんも一緒にどう?」

そして・・・俺と兄貴と美奈子さんは夜の街に出かけた。

初対面なのに・・・美奈子さんは俺たち兄弟のことをよく知っている。

つまり・・・兄貴が・・・美奈子さんの家で・・・その後の井原家のことをよく話していたってことなんだな。

俺たちが兄貴に甘えていた頃・・・兄貴もきっとこっそり美奈子さんに・・・甘えていたんだなあ。

そう考えると・・・俺は晴香や桃子のようには率直に美奈子さんを敵視できないのだ。

「こんな女だけど・・・母親なんだねえ・・・健人の病気を知った時・・・バチがあたったと思ったよ・・・できたら・・・代わりに病気になってやりたいと・・・本当に・・・そう思うんだよ」

そんなこと言われたら・・・俺はどうしていいのかわからない。

「真人・・・俺は・・・静岡に行こうと思う・・・本当は最初から戻らないつもりだったけど・・・きっと・・・親父によばれたんだなあ・・・」

俺には老いた母親への思いと・・・慣れ親しんだ井原家への思いで健人兄貴が板挟みになっているのがわかったよ・・・。

酔いつぶれてしまった美奈子さんを背負っての帰り路。

「昔は・・・俺がおんぶされてたのになあ・・・おふくろ・・・こんなに軽くなっちまって・・・」

「健人兄貴が・・・富士山の写真ばかり撮ってた意味がようやくわかったよ・・・」

「おふくろが・・・家を出ていく時に言ったんだ・・・自分が富士山の見えるところに行くって・・・富士山を見たら母ちゃんを思い出せって・・・な。それから・・・俺は富士山が好きになっちまった・・・」

健人兄貴の背中で美奈子さんが涙ぐんでいるのがわかったので・・・俺はそれ以上何も言えなくなってしまったのさ・・・。

翌朝・・・みんなが起きる前に・・・朝食の用意をして美奈子さんはひっそりと静岡へ帰ってしまった。(美奈子のお茶の間高感度→)

狐につままれたような顔の弟妹たち。

しかし・・・美奈子さんの作った朝食は心のこもった本当においしいものだった。

その美味しさに桃子なんかすっかりわだかまりが解けてしまったらしい。

そして・・・兄貴は言った。「今度の友引の日(葬儀社の休日)・・・みんなでバーベキューをしないか・・・」

俺は思ったよ。ああ、兄貴はみんなに本当の話をする気なんだって・・・。

さて、一方で殉職した長峰刑事( 水上剣星)は「警察官殺し」であるので、警視庁が本格的な捜査に乗り出しているらしい。これは後に坂巻刑事から聞いた話です。なにしろ、身内を殺された場合、普段の10倍くらい本格的な捜査が行われるみたい。本庁から捜査一課の刑事がやってきて、所轄の坂巻刑事は顎で使われているんだって。長峰刑事の最後の通話相手である俺も再度の事情聴取に呼ばれました。「電話の向こうで・・・なんか・・・聞いたことのあるような音がしてました」と言うと・・・それじゃあと言って科学捜査研究所だか捜査支援分析センターだとかに連れていかれ・・・「日常的に耳に残る音声サンプル」という奴をものすごい時間をかけて聞かされました。もう・・・どんな音だか・・・思い出せないくらい・・・「いろいろな音」を聞いたけど・・・ふと・・・「ああ、この音だ」という音が耳に残ったので・・・「これみたいです」と証言したわけです。

「これは・・・スロットマシーンの音ですね」

長峰刑事は・・・白骨化して発見された女性の死因をめぐって・・・当時、女性が違法カジノにかかわっていた件を追っていたので・・・坂巻刑事にはピンときたのである。

つまり・・・白骨化した女性の件と長峰刑事殉職の件は無関係ではない可能性があるってことだけどね。

でも、直感で動く刑事が流行中なので・・・坂巻刑事もその線で動いたらしい。

ちょうど・・・東新宿署(フィクション)に移動した木野原刑事(塩見三省)の管轄で違法カジノの摘発が行われ・・・床にルミノール反応があり、血痕から採取されたDNAが長峰刑事と一致したため・・・殺害現場が特定されたのである。

さらに坂巻刑事は白骨女性の弟の大林健一(榊英雄 )に再度話を聞き・・・自分が席をはずしている間に「白骨女性の遺書のようなものを車いすの元警官が持ち去った」という話を長峰刑事が聴取していたことを聞き出す。写真を見せて確認すると・・・それは坂巻刑事の祖父・・・岩田さんだった。

こうして・・・白骨女性の件の被疑者として・・・岩田さんが浮上したらしい。いや・・・動機とか・・・不可解な点は多いけどね。

容疑者の身内ということで・・・坂巻刑事は事件の捜査からはずされてしまったのである。

それを・・・申し渡すのはなぜか・・・木野原刑事である。

神様の視点を与えられているお茶の間の皆さんはお気付きだとおもうけれど・・・。

木野原刑事は・・・長峰刑事から・・・その話を聞いていたはずなんだよね。それなのに・・・まったくその点に触れないのは何故か・・・という疑問がわきます。

さらに・・・岩田さんは死の直前、妻の三回忌をさぼって・・・昔の仲間に会いに行ってたと坂巻刑事が言っていたことがある。そして・・・木野原刑事は・・・岩田さんのかっての部下だったわけ。

つまり・・・岩田さんは・・・誰かさんに会った直後に車イスのロックが外れて・・・電車に・・・なのである。

お茶の間の皆さんが知っているけど登場人物が知らないことをなぜ、俺が知っているかといえば・・・これが回想だからなんだよ。つまり、すべては過去形なんだな・・・これが。

ともかく・・・木野原刑事はなんだか怪しいわけだけど・・・坂巻刑事も俺も・・・岩田さんの方が怪しいとこの頃は思っていたわけなのさ。

で、噂をすれば影である。岩田さんが登場した。

「あの・・・岩田さん・・・幽霊なんですか」

「・・・うん」

そう言われても信じられない俺だが・・・そこに田中さんがやってきて・・・俺以外には岩田さんが見えないことを証明してしまったのである。

俺はゾッとしたよ。本当にぞぞぞぞーっとしたよ。

「真人くん・・・どうしたんです・・・最近、庭で一人言が多いみたいたけど・・・何か悩みがあるなら相談してください」と田中さん。

「あ・・・ああ・・・あのそのあの・・・最近、ストレス解消法として・・・一人芝居ごっこをしているんだ・・・」

「そうなんですか・・・」

首をかしげながら田中さんが去った後で・・・とにかく・・・俺にしか見えないらしい岩田さんはまだいた。

「・・・そうだ・・・お前の親父さんと違い・・・なぜか・・・成仏できないみたいだ」

「まさか・・・生前・・・悪いことをしたとか・・・」

「わからない・・・なにしろ・・・俺は自分がなぜ死んだかもわからないんだ・・・」

つまり・・・お茶を飲まない岩田さんは遠慮していたわけではないことだけはわかった。だけど・・・「幽霊本人にも死因が不明」って・・・きっと・・・岩田さんの「死」にはまだまだ謎があるってことだよな。

だからといって「この世の迷子の岩田さん」を俺にはどうすることもできないのです。

とはいえ・・・坂巻刑事に呼びだされた俺はやきとり屋でよせばいいのに・・・岩田さんの話をして・・・捜査をはずされて苛立つ坂巻刑事に生ビールをぶっかけられる。突然のぶっかけタイムである。

ここでかよっ。

しかし・・・俺は言いたいことは言うことにした。

「はいはい・・・そりゃ・・・信じられないかもしれないさ・・・俺だって・・・信じられないもんな。だけど世の中にはこういう不思議なことがあるってことなんだ。俺は実際、岩田さんと話して・・・随分、助けられたんだよ・・・岩田さんは言ってた・・・惜しむな・・・って。それはさ・・・どんなに困難でもあきらめるなって・・・ことだと思うんだよ。落ち込んでいる場合じゃない・・・あきらめなきゃ・・・やれることはまだあるはずじゃないかって。だから・・・俺は兄貴のことをあきらめない。そのために俺は惜しまないんだ・・・お前も・・・惜しむなよ・・・そして、あきらめるな・・・いつか、あきらめなくてよかったと思える日がくるまで・・・できるだけのことをしろよ」

俺の言葉を・・・坂巻刑事はかみしめていたようだが・・・結局は台車である。

そして・・・友引の日がやってきた。

真実を知らないからはしゃぐ・・・弟妹たち。

「肉だ肉だバーベキューだ」「でもバーベキューなんて初めてだよね~」「でも寒い~バーベキューの季節じゃないよね~」「でも昔、ここで夏になるとキャンプしたよね~」「ええーっ、そんなことあったの?」「桃子は赤ちゃんだったから覚えてないかも~」「そんなのずーるーい」

弟妹たちの一言一言が兄貴の目がしらを熱くする。そんな兄貴の心情を思うと俺はせつなくてせつなくて心臓がはりさけそうだよ。

そして・・・涙をこらえた記念写真・・・あ、ごめん・・・コタローを忘れてた。隼人・・・ここはお前がかかえてやるところだろ・・・アドリブでさ。

「はい、チーズ」

そして・・・満腹感にひたり・・・ハッピーな弟妹たちは悲しみのどん底に突き落とされる。

がっかりさせないでくれ・・・といくら叫んでもどうしようもないことはあるからね。

「みんな・・・聞いてくれ・・・兄ちゃんもみんなと夏にもう一度キャンプしたいし・・・バーベキューもしたい・・・でもそれは無理なんだ。俺は病気で・・・もう長くないから・・・」

「うそでしょ・・・」

「病気ってなんだよ」

「なんとかなるんでしよ・・・手術とかして」

「ごめん・・・どうにもならない・・・」

「そんなのやだ・・・」

「俺は・・・静岡の母さんのところへ行こうと思う」

「やだやだ」

「向こうには腕のいい主治医がいるんだ」

「やだやだやだ」

・・・そうだ。俺だってやだよ。だから・・・俺はどうすればいいかをあきらめないで考えた。

ターミナルケア・・・家で死ぬということ・・・風のガーデン・・・参考書を読んで・・・専門のお医者さんを訪ねた。

「ご自宅での看取りは・・・相当な覚悟が必要ですよ」と言われても「覚悟はある」と答えるしかないのである。

兄貴は父親と生きたこの家と・・・母の待つ静岡の家のどちらも愛していて・・・困惑しているのは間違いないからだ。

その迷いを何とかするのが・・・家族ってもんだろう。

兄貴には内緒で俺は弟妹たちを集めた。

「兄貴を家で看取りたい・・・みんなはどう思う?」

「健兄ちゃんと一秒でも長くいたいよ」

「俺、がんばるよ」

「健兄ちゃんが優しくしてくれたことを少しでも返したいよ・・・」

「それから・・・もう一つ」と俺は健人兄貴の迷いについて話して・・・弟妹たちにある了解を得たのである。

そして・・・静岡の美奈子さんを訪問したのだ。

兄貴の大好きな富士山の下・・・。俺と美奈子さんは話をした。

「ごめんね・・・せっかく泊めてくれたのに勝手に帰ってしまって・・・私、勘違いしてたみたい・・・あの子が私のところにくるのは私を慕ってのことだと思ったんだけど・・・ただの責任感だったみたい・・・そういうところのある子だから・・・」

「そんなことはないですよ・・・世話をするのも・・・心配なのも・・・あなたのことを好きで好きで仕方ないからでしょう・・・今日はお願いがあってきました・・・健人兄貴を・・・家で看取りたいんです・・・つきましては・・・お母さんにも家に帰ってきてもらえないかと・・・だってお母さんも家族ですから・・・」

「真人くん・・・ありがとうございます」(美奈子のお茶の間高感度↗)

こうして・・・俺たちは兄貴の最後の日に向けて・・・できるだけのことをすることになった。

在宅看護専門の看護士(入山法子)さんから看護方法を習ったりもした。

その人が・・・「患者さんが思いを残せるものがあるといいですよ・・・たとえばノートとかでも。そういうものがよき人生の手がかりになるのです」とアドバイスしてくれた。

やがて・・・美奈子さんがやってきた。

「真人くんが迎えにきてくれたの・・・」

「兄貴・・・最後まで・・・この家にいてほしい・・・家族みんなの総意だ」

「俺は・・・みんなのことがわからなくなるかもしれない・・・兄貴らしいことをしてやれなくなる・・・」

「どんな兄貴だって・・・兄貴だぜ・・・」

「健兄ちゃん・・・もうどこにもいかないで・・・」ひしと抱き合う五人兄弟姉妹である。

それを涙で見守る美奈子さん。

その夜。俺たちは真人、桃子、隼人、晴香、美奈子、健人で//////の字になって寝ました。

そうやって穏やかに過ぎていく残された日々。

しかし、兄貴の痛みは去ってくれない。そして痛みが去る日は・・・。

庭でコタローが吠えている。駆けつけた俺は倒れている兄貴を発見する。

まだだ・・・まだ行かないで・・・行きませんでした。

すでに・・・痛み止め麻酔を貼る病状である。

安静にしている兄貴に・・・俺はノートを手渡した。

「気分がよくなったら・・・何か書いてよ・・・」

一人になった兄貴は・・・家族たちの写真を切り張りして・・・それぞれのメッセージを書いたノートを見た。

「アニキがアニキでよかった」

兄貴は泣いた。

「冬にバーペキューとは粋(いき)ですな~」(コタロー言)

「優しい健兄はワシにまで焼きそばをお恵みじゃ~」(コタロー泣)

兄貴は涙ながらに微笑んだ。

こうして、兄貴の終わりの日々は始まったのだ。

岩田さんの家に家宅捜索が行われた日・・・坂巻刑事が井原家にやってきた。

「惜しむな・・・ってまさぴょんが言ってたでしょ・・・だから・・・私できることはしてみた・・・だけど・・・単独捜査を叱責されたし、手掛かりはないし・・・もう、私にはどうしていいか・・・わからない。白骨死体の女性の死についての容疑がおじいちゃんにかかって家宅捜索されたけど・・・私にできることがないのよ」

「岩田さん・・・ここにいるけど・・・」

「じゃ・・・聞いてよ・・・何があったのか・・・」

「わかないんだ・・・」と岩田さん。苦渋の表情だ。

「わからないって・・・」と言うしかない俺。

「なんじゃあ、そりゃあ・・・・まさぴょんのバカバカーっ」

と言いながら・・・岩田さんを通りぬけていく坂巻刑事。

うわあ・・・今のちょっと凄かったぞ・・・すごいもの見ちゃったぞ・・・とにかく・・・成仏しているらしい親父・・・不思議なことは確かにあるだろうけど・・・。

どうすりゃ、いいんだよお。この場合。

恒例の遺言のコーナー。

真人

お前は勝手に生きろ

自由に生きろ

ただ人生が好きだったと思えるような生き方をしろ

とにかく・・・テキーラでも飲みますか?

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≪残された謎のコーナー≫

まさぴょんとあずあず(美馬怜子・・・海外に留学しているまさぴょんの彼女)の件だが・・・予測してみる。

①自然消滅

②あずあずが帰国後、朝ズバッのお天気キャスターになっている

③忘却の彼方

④あずあずが客死→葬儀

⑤その他(ご自由に妄想してください)

(※本記事に一部残留しました)

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2012年3月 8日 (木)

料亭の残飯にありついています。(桜庭ななみ)

いたいけないとは・・・いたいけ(凄く愛しいしぐさ)+ない(いっぱいにあふれている)で「愛しすぎる」という意味である。

ダンボールとあだ名されたり、ゴミ箱あさったりする美少女ホームレスのジンジン(桜庭ななみ)・・・このいたいけなさはどうだろう。そうなのだ・・・お腹をへらした子猫ちゃんを見捨てることのできない心情こそ・・・人間の愛の原点なのだな。

今回も・・・容疑者の一人・飛田玲子(白石美帆)の事情聴取をするクワコー(佐藤隆太)のとなりでクワコーのおごりとなる喫茶店の軽食をもりもりと食べ、事件の舞台となる料亭「たらちね」の料理の残飯をおよばれして、食べ残しのケーキまで黙々と食べ、依頼人である入院中の女将・益恵(りりぃ)のお見舞い品のお菓子をモグモグと食べる・・・かわいいよ、ななみ、かわいいよ炸裂である。

なんだか・・・ちょっぴり太った気がしますが・・・まさか・・・実食かーーーーーっ。ほどほどにね。

今回、ようやく・・・クワコーがみだらで低レベルの妄想をしていると、それを超能力といえるほど直観力に優れたジンジンがすべてお見通ししているというこの物語の核心が見やすいレベルで描かれている。つまり・・・このスタッフは第6話まで・・・この物語の本質を見誤っていたということである。・・・それでいいのかよっ。

そう言う意味では・・・今回初登場の演出家が鋭い・・・ということなのだな。

そして、いたいけないジンジンのはっきりとしたサービス満載。

「第7妄想」こそがこのドラマの標準サイズなのである。今回の脚本・演出コンビで最初からやり直してもらいたいくらいだ。

しかし・・・無情にも時はけして巻き戻らない。だからこそ、すべてのサービスマンは全身全霊をあげて今をご奉仕しなければならないのだ・・・なんのこっちゃ。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・第7回』(テレビ朝日20120304PM2315~)脚本・山岡真介、演出・石井裕也を見た。ちなみに演出家は満島ひかりの夫君である。さすがは天才女優の選んだ男だけのことはあるな。死んでいたこのドラマに魂が吹きこまれている。相続問題で揺れる老舗の料亭「たらちね」・・・老いた女将と二人の娘・飛田晶子(大家由祐子)、飛田紀美子(春木みさよ)は伝統保守と進取革新の立場で対立する。末娘の玲子は女将の夫の愛人の子で女将とは血縁関係がなく・・・二人の異母姉とは確執がある。そんな最中・・・女将は食事中に卒倒し・・・毒殺未遂疑惑が浮上する。

一方、学内での特別講演会を間近に控えたクワコーの元に・・・自転車型タイムマシン・でろりあん号が届く。坂道を猛スピードで下ることで時間旅行を可能にするタイムマシンに乗り、クワコーは飛翔し、地面に激突、全身打撲で失神する。

2月28日から3月1日に時間移動したクワコーは病院で目を覚ます。

そして・・・同じ病院に入院中の女将の依頼で事件解決に乗り出すのである。

資産10億円という女将の言葉に目が眩み、「結婚したい」と心でつぶやくクワコーに激しく舌打ちするジンジン。ジンジンにはクワコーの心の中はなぜかすべてお見通しなのである。

そこへ見舞にやってきた毒薬混入が疑われる三女の玲子。クワコーは玲子の白石美帆的な美貌に心を奪われ、ただちに美人容疑者と探偵の妄想恋愛モードに突入。

そんなクワコーをジンジンは険しい軽蔑の目で生暖かく見守るのだった。

とにかく・・・今年はうるう年である。2月29日を通過して3月1日にやってきた時間旅行者のクワコーは「バック・トゥ・ザ・なんとか」他のAVの延滞料金を支払わなければならないのだった。

「多額の延滞料金を支払わねばならない」そんな覚悟のために恐ろしい形相となったクワコーに睨まれたレンタルビデオ店員(吉谷彩子)は恐怖におののく。しかし、何故か、延滞料金は請求しなかったのだ。

つまり・・・その日は3月1日ではなく、2月29日だったのである。

しかし・・・そんなことにはまったく気がつかないクワコーだった。

ミステリー研究会のアメリカ(河北麻友子)が入院書類を記入したために桑潟幸一が帰国子女的変換によって桑潟辛一となっていたので・・・もはやクワシンとなったクワコーはすべては時間旅行の余波と勘違いするのである。

しかし・・・もちろん、それはニセ女子大生・木村部長(倉科カナ)の意味不明の画策による陰謀だったのである。

クワコーに時間を越えさせたと錯覚させることで妄想の暴走を引き出し・・・すべての真実を明るみに出す・・・それが木村部長の深遠な計画だったのだ。もちろん、ある意味、意味不明であるが・・・そこがいい。

事件解決のために過去へと向かい全身打撲で失神するクワコー。

そんなクワコーに謎の清掃員・耳島(升毅)は「なぜ・・・3月1日がくりかえされるのか・・・それはやりのこされた愛の告白があるからだ・・・クワコー、今を生きること・・・それがスタイリッシュってことだろう」とまったく意味不明の助言をする。・・・だが、そこがいい。

やがて・・・本当の3月1日がやってくる。その日は女将の誕生日だった。女将は今年がうるう年であることをうっかり忘れていたのである。そのことに気がついた玲子。

すべては重病の手術のために希望を失った女将のために・・・玲子が計画した誕生日が2日ある作戦だったのだ。

クワコーは女将毒殺犯を玲子と断定するが・・・ジンジンは「犯人という意味では間違っていないのです」と優しくフォローする。彼女の直観力はストロベリーナイトの主任をはるかに凌駕しているのである。むしろ、家族八景の七瀬に準じている。

「なんで・・・そんなことをしたんだい・・・」

「血の繋がっていない私のために・・・お母さんは・・・誕生日を祝ってくれた・・・それがとてもうれしかったのです・・・あの日のようにみんなで仲良く誕生日を祝いたかった・・・」

血のつながった二人の姉も頷いて・・・母を見る。

「なにをいまさら・・・」と気色ばむ女将にクワコーの下から目線の説教が始まる。

「何を言ってるんです・・・素直になってください。私なんか・・・家族ともうまくやれないダメ人間なんです。でも・・・そんな私をあなたは頼ってくれた・・・他人に頼れるくらいなら・・・もっと家族に頼りなさい。他人なんてどうなってもいい・・・でも家族がいれば・・・それで充分じゃないですか・・・どうして家族に心を許さないのです・・・そんな哀しいことはありませんよ」

クワコーの自虐的説得に心を動かされる女将。

「でも・・・私はもう・・・先がない身・・・」

「おまかせください・・・時空探偵クワコーが・・・未来を見てきます。そして・・・覚悟しておいてください・・・玲子さんとボクはおそらく結婚しているでしょう」

クワコーの意味不明の言動に思わず視線をそらす玲子だった。

こうして・・・クワコーは再び未来に向かって飛翔し・・・全身打撲で失神である。

そんなクワコーにジンジンは「全部、ウソだったんです」と告げるのだった。

だが、クワコーは微笑む。「三回死にかけてわかったことがある・・・つまり、こんなボクでも・・・死にたくない・・・生きていたいと心の底では願っているってことだ」

その日は女将の手術当日である。しかし、クワコーは「安心してください・・・一年後の未来でたらちねは三人娘で大繁盛していました。そして女将さんはいつものように娘たちに元気で小言を言ってました」と女将を優しく励ますのだった・・・大団円である。

講演会当日。会場の聴衆はミステリー研究会のメンバーのみである。

しかし、彼女たちの瞳にはクワコーに対する軽蔑と慈愛が満ち溢れている。

そして・・・クワコーの気分はスタイリッシュに晴れやかだった。

ほら・・・今回はちゃんと・・・ドラマだったのである。

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2012年3月 7日 (水)

「家族九景」の乙女(木南晴夏)

今回はドラマ版のオリジナル脚本である。

次回予告では「亡母渇仰」が放映されるようなのでまたもやシャッフルである。

とにかく・・・全10回なら2話不足だが・・・最後がオリジナルなのか、「芝生は緑」かで大分、印象は変わるな・・・。

まあ、木南晴夏で「七瀬ふたたび」をゴールデンで・・・という夢は見続けたい。

その先には木南晴夏で「エディプスの恋人」を映画で・・・というけしてあってもおかしくない路線を希望である。

原作は以下の通り。

① 無風地帯 ② 澱の呪縛 ③ 青春讃歌 ④ 水蜜桃 ⑤ 紅蓮菩薩 ⑥ 芝生は緑

⑦ 日曜画家 ⑧ 亡母渇仰

今回のドラマ版はここまで、

①無風地帯 ②水蜜桃 ③澱の呪縛 ④青春讃歌 ⑤紅蓮菩薩 ⑥日曜画家

⑦オリジナル

となっている。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第七話・知と欲』(TBSテレビ20120307AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・前田司郎、演出・深迫康之を見た。脚本家は原作執筆時の原作者とほぼ同年代である。天才の過ごした時間とそれ以外の人の過ごした時間に差異があるかどうかは視点によってもことなるが、宇宙全体の時間に比して考えれば誤差の範囲内とも言える。戯曲『生きてるものはいないのか』(2008年)で岸田國士戯曲賞を受賞し、小説『夏の水の半魚人』(2009年)で三島由紀夫賞を受賞した新進気鋭の作家には充分に「家族八景プラスアルファ」に参与する資格があると言うことだろう。演出家はドラマ第五話の「紅蓮菩薩」担当者である。

火田七瀬(木南晴夏)が七件目に家政婦を勤めるのは脚本家の山崎潤三郎(本田博太郎)のお宅である。

山崎家は潤三郎と職業不詳・ギターを持った人造人間風のフーテン息子・洋司(鈴木一真)の二人暮らしらしい。

潤三郎は人気脚本家で代表作に「犬をけしかける少女」・・・まあ、説明するのもなんだが「時をかける少女/筒井康隆」のもじりらしい・・・などがある。しかし、老境に入って最近は創作意欲に欠けると言う設定である。

ちなみに山崎潤三郎というネーミングは谷崎潤一郎のもじりであると推測できる。

倒錯趣味の大家である谷崎潤一郎の小説に妻と若い男性の情事を覗き見て快感を覚える男の話である『鍵』があるのは言うまでもないだろう。日本がさらに文化的になるためには小学生の「こくご」の教科書に文豪のこの作品を掲載するべきなのだな。・・・しないと思うぞ。

今回、七瀬が心を読む時の登場人物のコスチューム・チェンジは体操服である。

それというのも潤三郎の書き下ろし脚本を求めて訪問を重ねる美人テレビ局員・遠藤恵理(阿部真里) にブルマをはかせるためなのだな。

演じる阿部真里と言えばかっては「完売クイーン」の異名で知られたグラビア・アイドル矢吹春奈である。

・・・矢吹春奈の代表作と言えば『美少女戦麗舞パンシャーヌ 奥様はスーパーヒロイン!』(テレビ東京2007年)である。『美少女仮面ポワトリン』(フジテレビ1990年)系の実写版魔法少女の奥様版なのだが、一部愛好家には対象年齢外であることが仇になったな。なにしろ、キッドがレビューしていないのである。ちなみにキッドの愛猫ちびっけが時々餌をもらっているトリ猫家族のきこり様がレビューなさっているので興味のある方はそちらまでどうぞ。→そちら

まあ、今回の見どころは彼女の濡れ場と七瀬の恒例の入浴シーンのみと言っても過言ではないな。・・・おいっ。

ついでに矢吹春奈は「キミ犯人じゃないよね?」(テレビ朝日2008年)にもゲスト出演している。こちらもキッドはレビューしていないので興味のある方はこちらへ→シャブリ様のキミ犯人じゃないよね?

さて・・・話は前述の「鍵」のパロディーとして展開していく。

潤三郎と息子の洋司は相思相愛の友達父子である。最近では珍しくないが、父と息子がお互いを深く愛し合い・・・同じ趣味を分かち合うのは趣味人の世界ではトラディショナルなスタイルなのである。キッドの知人にも父子で宝塚歌劇団の全公演を一緒に観覧しているという凄い親子が実在します。

その和気藹々ぶりに七瀬は心を読むことで眩暈を感じるのである。

≪おやじ≫≪スランプかな≫≪心配だ≫

≪息子≫≪俺を心配している≫≪俺の息子≫

≪おやじ≫≪年をとったのか≫≪俺のおやじ≫

≪息子≫≪心配するな≫≪俺はまだまだお前のおやじだ≫

≪おやじ≫≪長生きしてほしい≫≪いつまでも俺のおやじ≫

≪息子≫≪おやじ≫≪息子おやじ≫≪お息や子じ≫

そんな似たもの親子は七瀬もあっけらかんと性的対象と見るし、同様に遠藤恵理も親子で性的興味津々なのであった。

≪恵理いい女だ≫≪七瀬いい女だ≫≪恵理足首がいい≫≪恵理尻もいい≫≪七瀬若さがいい≫≪七瀬ものを知らないところがいい≫≪いい≫≪いい≫≪いいいい≫

オリジナル・ストーリーの世界で七瀬はのほほんと過ごしているのだな。

しかし・・・潤三郎には苦渋もある。加齢とともに創作意欲が薄れていると感じることがしばしばあるのだった。

≪なによりも≫≪性的興奮に≫≪肉体的衰え≫≪欲望の炎が≫≪消火≫≪鎮火≫≪衰弱しつつある陰茎≫≪縮小に転じた宇宙≫≪女を抱く気がなくなればものを書く気もなくなる≫≪なぜなら≫≪知力とは≫≪欲望の発露≫≪それに他ならない≫≪欲望なきところに知性なし≫≪知は痴なり≫

そして・・・潤三郎は創作の準備段階として二通のラブ・レターを書き下ろすのである。

一通は恵理から洋司への熱烈な恋文。

一通は洋司から恵理へのロマンチックな恋文である。

「犬をけしかける少女」の脚本家は「若い恋人たちをけしかける老人」だったのである。

そして・・・準備を整えた潤三郎は恵理を自宅に招待し鍋料理で歓待するのだ。

「すごくでかい犬だった」

「そんな犬はいないでしょう」

「じゃ・・・すごく小さい犬だった・・・いや・・・こんなに小さい犬はいないか」

「いますよ」

「そうか・・・いぬのにいるとはこれいかに・・・ははは・・・」

「おやじ・・・年をとっても元気だな」

「いやいや・・・年をとるなんていうのは幻想だな」

「ほほう・・・そうかい」

「そうとも・・・時なんてものは本当は過去も未来も星座も越えてただの一枚の褪せた写真のように止まっているものなのだ・・・時が流れて行くなんていうのは哀れな人間の錯覚にすぎないのだ」

「つまり、時間は犬の排泄物のようなものなのだね」

「その通り」

≪さすがだ≫≪さすがは俺の息子≫≪さすがは俺の親父≫≪さあ≫≪頼んだぞ≫≪愛は輝く舟だ≫≪おう≫≪わかったよ≫≪空は宇宙の海だね≫

「恵理さん、泊っていきなさい」

「あらまあどうしましょう」

≪洋司さんと≫≪ひとつ屋根の下≫≪燃え上がる夜≫

≪抱こう≫≪抱こう≫≪恵理さんを≫≪抱いて≫≪抱いて≫≪欲望の火の山へ≫

≪いいぞ≫≪いいぞ≫≪愛しい恵理さんと≫≪愛しい息子が≫≪濡れて立つ≫

七瀬は激しい欲望の渦に精神感応酔いとも言うべき酩酊感を感じた。

アルコールが七瀬の掛け金を甘く緩ませていた。

七瀬は危機感を覚え・・・席を立った。

その夜・・・≪キスうまいヒゲいたい≫≪もうおっぱいいいかな≫という展開があり恵理の勝負下着は床に落ちる。

そして・・・息子と恵理の情事の一部始終を覗き見た潤三郎は妖しい創作意欲に着火し、かいてかいてかきまくるのだった。何をかいたかはお茶の間の欲望に準じます。

(作家って大変だな)と携帯している登別カルルス温泉の素をいつもより濃い目に投入して半身浴もせずにのほほんと入浴する七瀬だった。

湯上りの七瀬は潤三郎の創作現場を目撃する。

すると洋司がそっと寄り添ってくるのだった。

「親父のやつ・・・俺たちの愛で刺激されたみたいだな・・・七瀬ちゃん、君には意外かもしれないけど、作家の創作意欲ってものは100%性欲なんだよ」

「えーっ・・・そうなんですか」

乙女である七瀬は半信半疑だが・・・とりあえず洋司と潤三郎の仲の良さだけは認めないわけにはいかなかった。

オチである。作品が完成し、恵理の上司である大藪満寿夫(徳井優)が潤三郎に作品の率直な感想を述べる。ちなみに大藪春彦と池田満寿夫の・・・まあ、いいか。

「少し難解ですなあ・・・このままではちょっと」

「没ですかな」

「没でございますねえ」

キッドはあまり率直ではないので今回のオリジナル回についての出来栄えの言及はさけることにする。

関連するキッドのブログ→第6回のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の家族八景

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2012年3月 6日 (火)

なでしこなローリング・ソバット・アルガルベカップ2012の守護天使(松本潤)

おい・・・タイトルになんか混ぜんなよ。

いや・・・「アルガルベカップ」(ファーロ=ポルトガル)第三戦でサッカー女子日本代表なでしこジャパンが後半38分、キャプテン宮間あやからの華麗なるピンポイント・コーナーキックにフォワード高瀬愛美が豪快にヘディングであわせて決勝点をあげ、米国代表に歴史的初勝利(通算・日本の1勝21敗4引き分け)し1-2位決定戦に進出したことなど無関係です。

・・・言いたいことは言ったようだな。

元ネタは「汚れた守護天使」リザ・コディ(1992年)である。異色といえばものすごい異色の探偵だ。主人公のエヴァ・ワイリーは「ロンドンの女暗殺者」というリング・ネームを持つ現役バリバリの悪役女子プロレスラーなのである。で、プロレスだけでは食えないので探偵もやっちゃうのである。しかも強くて優しいヒロインが守るのはかよわい女の子である。・・・いやあ、このまま、仲里依紗で・・・映画化しちゃえばいいのに・・・と思う。

なぜなら、キッドの頭の中では仲里依紗はエヴァ・ワイリーなのである・・・なんのこっちゃ。

ちなみに「掟破りのリターンマッチ」「闘う守護天使」と続編もございます。

で、『ラッキーセブン・第8回』(フジテレビ20120305PM9~)脚本・早船歌江子、演出・平野眞を見た。ゲストに美人ホステス(釈由美子)を迎えての水野飛鳥(仲里依紗)回である。もう、完全持ち回り制らしい。まあ、連続ドラマにはよくあることなので咎めはしないが・・・なぜ・・・仕事の枠を超えて友情とか仲間意識の話に持っていくのかは謎である。そういうものは滲みだしてくるものであって、全面に押し出してくるものじゃないと思うのでございます。

前回、あれだけ恋の始まりを描いたくせに千崎陽子(中越典子)と旭(大泉洋)の「二人の恋は終わったのね・・・」ということで陽子の影も形もありません。ま、ゲスト行政的なことをこれだけストレートにネタにされるといっそ潔いというか・・・なんだかなあでございます。

だって、今回、登場する飛鳥の自然消滅した元恋人・誠(細田よしひこ)も結局はそういうことなんだろう・・・となって物語の求心力が低下するだけですからな。

まあ、そういう細かいことを言っているとドラマを楽しめないので見ざる聞かざる言わざるモードで話を進めましょう。

調査対象を失尾(尾行に失敗)した上に、相手に調査されていることを気付かれるという大失態を犯した飛鳥・・・悔しさにううーっとなっているところを叱咤ベタの旭が追い打ちをかけて気分がダウンである。こういう時に女霊能力者とかが・・・その話題は禁止。そんな飛鳥の前に元カレが突然のプロポースである。「米国に栄転するんでワシントンに一緒に来ないか?」なのである。

「私、この調査が終わったら結婚するんだ・・・」はフラグだが・・・「飛鳥が死んでいる」展開は月9には無理なんだな。

新たなる調査依頼は高級クラブのホステス・月子(釈)によるもので「自宅が盗聴されている可能性がある・・・」と言うのだな。

そのために・・・「大物代議士との熱愛」がスキャンダルとして報道されてしまったらしい。

ラッキー探偵社が月子の自宅を捜索すると盗聴器を発見。駿太郎(松本潤)と飛鳥が盗聴者を確定するために送信機の受信範囲にて張り込みを開始。まあ、最近の装置は高性能だから受信側を特定することはまず不可能だが・・・これみよがしに盗聴している三流記者を確保である。

しかし、盗聴者は匿名の第三者からの情報を利用していただけだったのである。

普通のミステリなら「真犯人」は月子に恨みを持つものか、スキャンダル報道で利を得る第三者と推理していくわけだが・・・ここでは誠の出番確保のために・・・飛鳥が「政治の話は難しくてわかんない・・・だからお・し・え・て・く・れ・る?」展開である。本当に意味不明だよな。

誠は飛鳥を何故か突然猛烈に愛している設定なのでものすごい直観力で「月子に月の権利書(3000円)をプレゼントしてくれた本当の愛人代議士が・・・スキャンダルの大物代議士の派閥に属しているが最近、グループ離脱を画策しているので、月子を利用したのではないか」という今回の話の核心を全部解明してしまうのである。・・・本当に本当に意味不明だ。

まあ、全くプロフェッショナルな場面がないまま、旭は退社した同僚(瑛太)の現在をこつこつ調べたりしている。すべてはラッキー探偵社の謎(主に社長=松嶋菜々子に限定される)を最終回周辺で解明するための伏線だが・・・ドラマツルギー的には・・・もういいか。

とにかく、月子の身辺に不審な動きがあったので・・・駿太郎は家族の出番確保サービスのために自宅を避難場所として選択する。

そして・・・何故か、月子と飛鳥は手作り料理対決である。

そして・・・料理は大失敗なのだが・・・ストーリーの方がもっと失敗しているので気にならない程度である。

で、黒幕のはずの愛人代議士が手下を連れて突然、愛人月子宅に乱入。

証拠となる月の権利証を回収に来たらしい・・・意味不・・・ま、いいか。

そして、たまたま訪問した飛鳥を誘拐してアジトにしている自宅マンションに拉致監禁である。もう、プロット構築が幼稚園児の発想だな。

だが、ここで、駿太郎が格闘道場で確実に腕をあげている見せ場が挿入されるので問題ないのだった。

階上から絶対に切れちゃいそうなロープで階下の窓辺へ。執念深いカラスの逆襲がとてもユーモラスである。いや、このトーンで全編まとめてほしいくらいだ。

とにかく落下寸前の駿太郎と落花狼藉寸前の飛鳥の友情のアイ・コンタクトである。

そして、侵入した駿太郎はフェイントを交えて、蟹鋏捕(かにばさみ=柔道技)やら、フライング・ローリング・ソバット・キック(おフランス風跳び回し蹴り=プロレス技)を炸裂させて、飛鳥を連れての脱出成功である。秘儀・ピンポンダッシュ作戦もそこそこ有効だった。

しかし・・・悪党議員とその仲間たち・・・白昼堂々何やってんだ。

地下駐車場の倉庫らしき一室に隠れる飛鳥と駿太郎・・・白昼堂々、なぜそんな袋の鼠になる必要があるのか・・・いや・・・これはそういう風には描かれていないが・・・旭と連携した拉致監禁犯人を警察に一斉検挙させるための罠なのだな。

とにかく・・・桐原警部補(吹石一恵)と後藤警部(金田明夫)は出番を確保して、ついでに罪状不明な悪党を確保したのである。

まあ、大暴れしないで逃げ回るのが探偵ドラマのミソなのかもしれないが・・・エンターティメントとしては・・・どうなんだい?

とりあえず・・・後藤警部のお薦めは「福島の飯坂温泉」である。

取材でコメントを求めた後で相手が母親を救出に低地に向かい、津波で間一髪で死亡したために「もしも、俺があの時、コメントを求めていなかったら、あの人は亡くならずにすんだのではないか」と鬱になるカメラマンのドキュメンタリーを見た後だけにこの軽いセリフ回しはギリギリアウトだったな。

ホステス人生に見切りをつけて「故郷に帰ってやりなおす」という月子。

その必要性が・・・もう、いいよね。

とにかくドラマは黒革の手帳とともにつづく・・・なのである。

今回の教訓・探偵は厄介事にはなるべく関わらないこと

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

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2012年3月 5日 (月)

サイコロころがし有り金なくしすってんてんのあの皇子様~(松山ケンイチ)

ここで、この歌を歌うことになろうとは・・・(松田翔太)・・・でもよかったが・・・とにかく、今回の大河はあまりにも面白いので主役にも敬意を表しておきたい。

高校生総理大臣に続いて小学生皇子の登場である。まあ、あんな子供はいない・・・と思うのは一般的ですな。

結局、知能指数の問題ですからな。現実に知能指数150~200の子供なんてごろごろいるわけで逆に、現代では知能指数が100に達しない大学生もごろごろいる・・・ただそれだけのことなんですな。

もちろん・・・人間の脳はよくできたもので・・・神童も20歳過ぎればただの人になるのが一般的です。

ただし、真の天才というものは死ぬまで成長がとまらない恐ろしい代物なのですな。

そういう人が原子爆弾を思いついたりしちゃうのがこの世の醍醐味なんですなーーーっ。

たとえば超絶的な知能は知能検査では測定できないもの。

言わば会話さえ不能な超天才が本当はごろごろしているのでございます・・・。

人々はもはや、個の時代ではなく組織の時代だといつの時代でも思いたがるものではございますけれどーーーっ。

それが衆愚というものなのですから~。

で、『平清盛・第9回』(NHK総合20120304PM8~)脚本・藤本有紀、演出・中島由貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は後の第77代後白河天皇こと雅仁親王描き下ろしイラスト大公開で大サービスでございます。毎回のように新・登場人物登場で馬車馬のように描く画伯の疲労困憊ぶりに涙を禁じえませんが・・・あくまでマイペースで励んでいただきたいところです。展示場にまことの姫が揃うなんて贅沢な夢はけしてみていませんから~。キッドは画像工場のサルベージが進展し、一服ついておりますぞ~。・・・だから私信はコメント欄でやれってば~。

Tairakiyomori07平重盛の誕生が保延四年(1138年)で体仁親王の誕生が保延五年(1139年)である。時代はゆっくりと流れて行くのである。傍若無人の青春を過ごしていた平清盛もすっかり大人びて・・・いい感じに仕上がってきている。やがて清盛は腐乱した藤原京に決別し、新京を築くというアクションで世に一石を投じることになるわけだ。そこで今回は藤原だらけのこのドラマの血縁関係を整理しておきたい。さて、時は七世紀の大化の改新にまでさかのぼる。ちなみにやたらと面倒くさい元号もこの日本では大化が記録に残る最初の元号とされている。もちろん、あくまで正史の話である。当時の大王家には蘇我氏という豪族がついていたわけだが、これを葬り、成り上がったのが中臣鎌足・・・後の藤原氏の祖である。以来、王家に対する公家の代表として藤原氏は大繁栄することになる。そして分家に分家を重ねるのである。鎌足-不比等ときて、その子、武智麿が藤原南家をたて、房前が藤原北家をたてる。他にも式家、京家がたつが省略する。北家は房前-眞盾-内麿-冬嗣ときて後に藤原純友を生む長良や、後に紫式部を生む良門の兄弟に良房がありこの系譜が基経-忠平-師輔-兼家と続いてこの世をわが世とぞ思う道長摂関家の春を築き頼通-師実-師通-忠実となるわけである。基本は帝に姫を奉り次の帝を生ませるという外戚戦略である。忠実の祖父である師実は白河帝に娘(養女)の藤原賢子を嫁がせ堀河帝を生している。しかし、妊娠出産には運が作用する。鳥羽帝を生したのは閑院流藤原苡子だった。閑院流は兼家の弟・公季の系譜である。実成-公成-実季-公実と続く。実季の娘が苡子である。さらに公実の娘が藤原璋子となる。璋子は鳥羽院の后となり白河院の子と噂される崇徳帝を生す。閑院流は二代続いて天皇の外戚となったのだ。しかし、白河院と鳥羽院の確執により摂関家が息を吹き返すわけである。崇徳帝の后は摂関家・忠実の子・忠通の娘藤原聖子となる。この対立に乗じたのが眞盾の兄弟魚名の子・末茂に始まる末茂流の一族である。総継-直道-連茂-佐忠-時明-頼任-隆経-顕季と続き、長実の娘が藤原得子となる。ちなみに長実の兄弟に家保があり、その子が藤原家成(佐藤二朗)なのである。つまり、得子と家成はほぼ同族なのである。崇徳帝の後は兄弟相続となり、末茂流の体仁親王が近衛帝、さらに閑院流の雅仁親王が後白河帝となる。まあ、恐ろしいことが起きるのは充分に想像できる成り行きなのである。ちなみに末茂の兄弟に藤成がありその系譜に秀郷流が生じその子・千常の流れから佐藤家が生じる。佐藤義清はその一族である。また高階家に養子に入った通憲は元は藤原南家の一族であり、熱田大宮司の藤原季範(源頼朝母の父)とは同族関係にある。藤原一族のはびこりぶりには恐れおののくよ。

平安京に火事はつきものである。都となれば燃えやすい上に不審火、怪火は後を絶たない。帝の棲む内裏も例外ではない。内裏が燃えれば焼け出された王家の人々は復旧までの仮設の内裏に住むことになる。それを里内裏と呼び、平安京にはそうした里内裏が点在する。仮とは言え内裏である。それなりの格式が求められ・・・時の有力者がその財を賄うわけである。内裏が復旧すればそのまま別邸となる場合もあり、その他の貴族に下げ渡される場合もある。時にはそのまま空き屋敷となる。治安が乱れればそうした空き屋敷は妖しのものの巣窟となり・・・また火を発して焼け跡にもなるのである。

そうした見捨てられた廃墟には里の民も近づかぬが・・・それでも賤しい身分のものは惧れを知らずに足を踏み入れる。そして博打に興じたりするのである。

そこに一人の童が入りこみ、大勝をしていると・・・平盛国の妹のくのいち波音(はね)が聞きこんできた。盛国が清盛の郎党となったために水軍くのいちである波音も都に常駐し、伊賀忍びによる女衆を束ねている。

清盛は興味を覚えて・・・その賭場へ足を向ける。春の宵である。

暗闇の中にそれとわかる灯が見える。耳を澄ませば賤民の嬌声が漏れ聞こえる。

「おいおい、また・・・こいつの一人勝ちだぜ」

「なんてえ、ガキだ」

かわらけのうつわに賽を投げるちんちろりんという音が響く。

「うわっ、また親の総どりやないけ」

「やってられんわな」

罵声の中に殺気がみなぎりはじめた。

「小僧・・・てめえ・・・いかさましてやがるな」

「ほう」と突然甲高い声が聞こえた。

「こんなものにしかけなどしたら・・・なんの興もないではないか」

声は確かに童の声だが・・・言葉は大人びている。

「なんだとっ」

「薄気味悪いガキだぜ」

「我はただついているだけよ・・・汝らとはもっているツキが違うのじゃ」

「この野郎」

おそらく、男の一人がついに手を出したのだろう。物音がして灯が揺れる。

次の瞬間、どよめきが起こった。

清盛と波音は現場に踏み込んだ。

男が一人、童の足に頭を踏みつけられていた。

「いてて・・・こ、こいつ」

「汝は・・・ちと頭が悪いようだ・・・そのような頭・・・無用であろう」

清盛は息を飲んだ。

どのような術なのであろうか・・・童が足を踏み下ろすと男の頭に足先がのめりこんだ。

頭蓋骨を踏みぬかれた男は一瞬で絶命した。うつ伏せになった全身が痙攣する。

童は足を抜く。その足はまさに血みどろであった。

「ふむ・・・つまらぬものを踏んでしもうたことよな・・・はははははは」

男たちは「化け物」「もののけ」などと口々に叫び逃げ出していく。

「ははは・・・何がばけものじゃ・・・たわいもない・・・おや・・・そこにいるのは・・・」

清盛はひやりとする。物陰で気配を消しているのに悟られたのである。

「ふふふ・・・まさにもののけがおったようじゃな」

「殿下・・・悪戯が過ぎまするぞ・・・」

「清盛か・・・我は遊び足りぬぞ・・・汝の屋敷に参ろうかの・・・」

「構いませぬが・・・家のものを踏みぬくのはなしですぞ・・・」

「ふふふ・・・それはその時の気分じゃからのう」

鳥羽院の皇子雅仁は波音の差し出した布で足をぬぐいながら、何事もなかったように微笑んだ。

闇の中でその瞳は赤く光る・・・。

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2012年3月 4日 (日)

赤い疑惑の運命の衝撃の絆とは何かを汝に問うミニスカポリス(山田涼介)

血縁とは便利なもので・・・ある程度、近親者に自分の未来を視ることができる。

ただし、兄弟姉妹のいるものなら、必ずしも全く同じということはないという実感があるはずである。

一人っ子はフィギュア・スケートの浅田姉妹を参考にするといいだろう。

たとえば・・・近親者にガン患者がいれば、遺伝的な恐怖を感じることができるのである。

天涯孤独のものは・・・先行形のイメージ獲得が難しい。

未来はまさに暗黒である。しかし、逆にどんな光も見出すことができるのだ。

つまり、血縁とはその程度のものだ。

このように断ずるのは血縁に恵まれているものの発想かもしれない。

この場合の恵みとは「もてるもの」という意味である。

近親者に恐ろしい社会的不適合者がいるとしてもそれは「もてるもの」で恵まれていると考えるのだな。

もちろん、性的不能者を除外すれば血縁に希望はある。

どんな手段を使っても子供を成せばいいわけだ。

そういう意味では「遺伝子の研究」とは「もたざるもの」の大いなる意思を感じる分野である。

誰もが「己が何者か」のたくさんのヒントを求めているからだ。

まあ、たかが血縁、されど血縁です。

で、『理想の男子・第8回』(日本テレビ20120303PM9~)脚本・野島伸司、演出・佐久間紀佳を見た。裏でイストリゲームの宣伝のためにエデンの園ゲームがばぁかだよねぇぇぇぇっ、そんなはずないじゃぁぁぁん、フクナガさん、まただましたんですか、あきやまぁぁぁぁぁ、お前はナオにだまされたんだよ・・・ふっ・・・的な大金争奪ゲームが繰り広げられていたのだが、こちらはイストリゲームからアダムとイブゲームに流れ込む展開である。まあ、アダムとイブは恥じらいを知らないからいきなりずっこんばっこんである。・・・おいっ。

こちらのイストリゲームはゼネコン大手七社・・・和泉川グループ、金剛寺組、名棟建設、プラムハウジング、新江戸ビルディング、天王寺グループ、株式会社マルコバ建設が政府の極秘プロジェクトの受注をめぐり、激しく水面下で争奪戦を繰り広げるのだ。

その発注者は三人目のそっくりさん(金子ノブアキ)である。まったく斬新な出番獲得方法だな。この点だけでも見応えがありました。

そして、その決定方法は・・・各グループの後継者による知能・体力・根性対決なのである。

しかし、天王寺グループの次期当主・天王寺鷹(風間俊介)は事前に対立相手を粉砕してそれでも生きてゆく悪辣さを見せるのだった。

だが、マルコバの女王(鈴木杏樹)はそれを上回る非道さを見せつけるのだった。

頼りにならない息子(中島裕翔)の代役として・・・金にものを言わせて乳児取り違え事件を捏造し、鈴木大地(山田)を実子登録するのだった。

ドジでノロマな亀である鈴木海(鈴木京香)はただでさえ揺らぎやすい母親としてのアイデンティティーを失い、激しく動揺するのだった。

「えーっ・・・あの素晴らしい息子が自分の息子じゃないなんてー・・・なんだか納得・・・でも、それってすごく残念無念でございますーっ」なのだな。

もちろん、隣人倉橋(沢村一樹)の「血は肉の中にあるから血縁と肉親はどっこいどっこい」という奇妙な理屈は幽かな慰めにしかならないのである。

ついに断ち切られそうになる鈴木親子の絆。

しかし、海への愛に満ち溢れた大地はついに「イストリゲームに勝ったら、母ちゃん・・・いや海さんのお婿さんにしてください」と女王に願い出るのだった。

晴れて近親相姦達成なのである。

そうはさせじと油ぬるぬる攻撃、画鋲攻撃など姑息な手段に訴える鷹。

「ぼぼぼぼくは、エエエエエリートなんだな、きききききき君のようなマママママジ高校生にはママママママ負けるわけにはいかない、だだだだってぼぼぼぼぼくはジジジジ実年齢にににににににに28歳のななななななんちゃって高校生なんだから」

かっての母校である明風学園でピンチに陥る大地。

しかし、心の愛人、三船(藤ヶ谷太輔)にバイクで送られて海が到着すると「マザコン・コアラ・カンガルータブルパワーお前をのせるおひざはねえーっ」で腕相撲大会に決着をつけるのだった。

もう、語る言葉はないところだが・・・忘れてはいけない丹波兄妹(脇知弘・三吉彩花)のコスプレ・コーナーである。今回はミニスカポリスであなたのハートを逮捕しちゃうぞで丹波兄妹をおひざにのせちゃう勢いである。もうキャイーンでクウーンでワンワンなのだな。脇はともかく、山田と三吉はこれでいいのか。もちろん、いいよな。っていうか、「13歳のハローワーク」の桐谷美玲に続いて連夜のミニスカポリスで「逮捕しちゃうぞ」攻撃かよっ。

鼠、鳩と小動物的転生を繰り返す真のマルコバ御曹司はまたしても千尋の谷の彼方に・・・次回、覚醒なるか・・・?

そして・・・謎のフィアンセ(石橋杏奈)登場である。『MM9-MONSTER MAGNITUDE-』(2010年)の朏万里(尾野真千子)は現在大活躍である。がんばれ、気象庁特異生物部対策課機動班・藤澤さくら!

この枠のレギュラーって言うか常連さんとして・・・。

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2012年3月 3日 (土)

昔の俺も俺なのだ(松岡昌宏)

時間が加速するのは過去の記憶の堆積によるものだという考え方がある。

小学生の夏休みの長さに比して、大学生の夏季休暇の心理的な短さを多くのものが体験するのはその証である。

しかし、それも一つの幻想で・・・今を生きる人種には一時間は一時間に過ぎなかったりするのだな。

キッドはよく気分屋だと言われるが、そうではなく単に多重人格なのであるということに似ている。

しかし、単純明快な性格・・・つまりバカ・・・であることが必要な時はあるのだ。

なにしろ・・・バカはわかりやすいのである。

なにしろ・・・世の中はバカばかりなのである・・・などと言うと「やめときなさい」と良識派は大合唱なのである。

だが、キッドだって充分バカなのだ。

バカがバカについて語ることは少なくとも馬鹿馬鹿しくはございます。

人間はだんだん利口になっていくと思っているバカもいる。

昔のキッドがバカなら・・・今のキッドもある程度バカだし、未来のキッドもきっとバカなのだ。それでいいのだ。

で、『13歳のハローワーク・第8回』(20120302PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・大石哲也、演出・塚本連平を見た。前回からのルール変更によって、ついに2012年の高野(古田新太)が小暮鉄平(松岡昌宏)との因縁を匂わすようになった。これは鉄平が1990年にタイムスリップしたルートあるいは時系列に高野が乗っていることを示す兆候である。しかし、それは鉄平の過去改変の成果なのかどうかは不明である。このあたりの一番単純なタイムパラドックスについては・・・このドラマはスルーする気満々なのであまり触れないでおくことにする。

さて、フィールド、スケジュールと分析してきたので、今回はもっともポピュラーなキャラクターの分析をしてみたい。

登場人物と言ってもいいわけだが、そうなると・・・通行人の一人一人も分析しなければならないのでキャラクターと言っておくのである。

今回の主要なキャラクターは九人である。一人は主人公の2012年の小暮鉄平と、1990年の小暮鉄平(田中偉登)に分離が可能である。

ここでは①小暮35歳と②小暮13歳としておく。

同じように③高野管理官と④高野チンピラ(横山裕)も分離する。

次に佐々木課長(小松和重)も2012年と1990年に分離可能だが今回は⑤1990年の防犯課の佐々木刑事のみを残す。

⑥はヒロインの翔子(桐谷美玲)。

⑦はゲストの中学生・三上(中川大志)。

⑧は東社長(風吹ジュン)。

⑨はその他である。ここには敵役のチーマーだとか、三上の姉の友人なども入る。

今回は②の小暮13歳と⑦の三上の人間関係が一つの主軸になっている。

凡庸な小暮13歳は優秀な三上との関係を非常に重要に考え、そこにこだわるあまりに周囲を困惑させることになるのだ。

一番、困惑するのは小暮13歳が自分の記憶にないことをすれば消滅の危機にある小暮35歳であることは言うまでもない。

ここで問題となるのが記憶の問題なのである。小暮35歳が小暮13歳の延長線にあるキャラクターだとすれば・・・小暮13歳の身の上にあったことは・・・小暮35歳の記憶にあるはずだ・・・という矛盾だ。

ここで投入されるのがバカという要素なのだな。それは「忘却」という手段でもある。

つまり、あったことを覚えていないのはバカには普通のことだからなのである。

そういう意味で小暮13歳はバカだし、当然、小暮35歳もバカだということなのだな。

そういうキャラクター設定なのである。

今回の職業は警察官と犯罪者である。犯罪者を職業と考えるのは非常に問題があるという見方もあるのだが、金を稼げる以上、職種の一つと考えることは可能だ。ルパン三世はまさに泥棒が職業以外の何者でもないだろうし。

早熟の犯罪者である⑦三上は・・・無垢と言う名のバカである②小暮13歳を利用しまくるわけである。

しかし、②小暮13歳はバカの力で三上を更生させようと努力するわけである。

これに対してその他のキャラクターは困惑するわけだが・・・警察官である①小暮35歳はバカであるが順法精神にのっとり、たとえ②小暮13歳(過去の自分)が巻き添えになっても⑦三上に贖罪を求めるわけである。

このままでは物語が破綻するために⑧東社長は賢い選択として、⑤佐々木刑事を利用してご都合主義的なタイミングで⑦三上だけの確保ですませるという荒業を完遂させるのである。

ここで辛うじて話をもたせるのが・・・キャラクターの一貫性である。

①の小暮35歳は身を張って「暴力の痛み」を三上に悟らせようとするバカであり、過去の自分をも犠牲にできる献身的バカなのである。

②の小暮13歳は自分がどうなっても三上を助けようとするバカであり、三上の裏切りを知っても献身的バカなのである。

つまり・・・小暮13~35は「バカ」いう一点でキャラクターを継続しているのだ。

もちろん・・・そのために馬鹿馬鹿しくて話についていけないバカもいるわけだが・・・多くのバカはバカにちょっぴりは共感してくれるはずというバカの計算なのである。

まさにバカの有効利用なのだなあ。

そう言えば、前回はその他で翔子の先輩の田中さん(大村彩子)がいたんだな。うっかり見逃してたよ。

以上でキャラクターの分析を終了します。

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2012年3月 2日 (金)

如月が惑えば雪雲が近づく俺の瞳も濡れたまま乾く間もなくて春近し(山下智久)

春(弥生三月)は別れの季節である。冬ドラマは一気にこの流れに乗らなければならない。

ワンクールで終わるドラマの宿命だが・・・せっかく・・・馴染んだ井原家とも・・・もう愛と青春の旅立ちの予感なのである。

その上での卒業シーズンなのである。前回は長女・晴香が「青春をあきらめて」から卒業したわけだが・・・今回は前半から「この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ」的なフラグをたてまくり・・・デカワンコのデークじゃなかったデュークじゃなかった長峰刑事(水上剣星)が人生を卒業してしまったのである。そして、ついに治療不可の脳腫瘍告知で健人の余命も卒業間近であることを知った主人公・真人。まさに悲しみに彩られた第八話ですな。

すでに・・・仕出しの村内の緑さん(松本じゅん)にさえ愛着を覚える今日この頃・・・もうすぐ警視庁高円寺署(フィクション)周辺ともお別れかと思うと・・・なごり雪もふる時を知り、駅前に落ちてくるんだな・・・と目がしらが熱くなります・・・まあ、耄碌じじいですからな。

とにかく・・・長いフリが終わって・・・ここからが本番なんですな。きっと。準備万端ですかな?

残された謎は・・・岩田さん。そして、あずあずです。

まあ、健人の母(来週、登場か・・・)や、真人たちの母、健人が放浪中に噂のあった美人ママ、晴香の幼少の頃の事故の詳細、デーク刺殺犯の正体、桃子の進路問題、隼人のバイト先、村内弥生の独身生活、田中さんの家庭問題、ぶっかけその後で・・・など知りたいことは山Pだけに山ほどありますが~。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第8回』(TBSテレビ20120301PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・石井康晴を見た。いきなり、めでたい・・・で始まるのだな。仕出しの村内は結婚式もやってるので「鯛」はつきもの。そして、出入りの業者として弥生(橋本真実)さんはサービス、サービスなのである。ついでにさりげなく出番を確保する香川生花店の夕子(磯野貴理子)さんである。ながら見のお茶の間では未だにこの二人の女性が何者なのか定かでない人もいるかもね。お葬式には仕出し弁当も、生花もつきもの・・・っていうことなんで、よろしく。つきもの・・・って便利な言葉だよね。とにかく、なしくずしに関係をせまってくる感じで。で、「鯛」を知らない無知はいまどきの大学生の隼人(知念侑李)にはつきもので、「お肉がよかった~」と贅沢を言うのは体はもう大人の女子高生の桃子(大野いと)にはつきものなんだな。そして、俺(真人=山下智久)には岩田(山崎努)さんが憑きもの・・・おっと、これ意味違うし、今回のオチだから先走りしすぎでした。

で、外回りから戻る俺。まあ、葬式帰りとも言います。健人兄貴(反町隆史)がまたまた所在不明になったんで・・・葬儀の井原屋店主としては・・・葬儀の後始末など最終責任者として一番最後の帰宅になるわけ。お腹もペコペコだよっ。

と、そこへ・・・不審なカップル登場である。なんか・・・理由(わけ)ありって感じで・・・なんと健人兄貴と坂巻刑事(榮倉奈々)がしっぽりなのだ。

そそくさと家に戻った兄貴。思わず、俺は坂巻刑事を問い詰める。いゃ、別に坂巻刑事を兄貴に取られたって感じじゃなくて、むしろ、兄貴を坂巻刑事にとられた気分。わかるかな・・・俺はものすごい兄貴っ子なんだぜ。

「なんで・・・兄貴と一緒なんだよ」

「あれあれ・・・その顔は・・・嫉妬かな。うんうん、失いそうになって初めて大切なものがわかるってあるある・・・だよね~」

「そりゃ・・・美しい誤解だね。まったく、ちがうから」

「またまた~。じゃ、私はこれで」

しかし、俺には分かる・・・坂巻刑事は何かを隠しているんだな・・・きっと。

もちろん・・・それが何か、まではわからない。レントゲン・アイはもってないからね。ああ・・・それは服の上から裸が見えるってやつか。

とにかく、今回はショートで兄貴が帰還したおかげで、おいしい鯛料理にありつけた。

まったく・・・葬儀屋の跡取り息子なのに魚を捌けるってのは凄いことだよね。俺たちの母親がいつから不在なのかはまだ明らかではないけれど・・・兄貴が母親代わりで晴香が大きくなるまでは食事を作ってたってことは・・・充分、想像できるでしょ。そう、つまり、俺にとって兄貴はおふくろ的存在でもあるわけなんだ。俺が兄貴っ子なのは胃袋をつかまれてるからなんだよ。

時は三月。桃の節句だけど・・・晴香の恋の始まり、桃子の恋の終わり、隼人の片思い継続中といつになく和やかな早春なのだった。

兄貴は「親父にこんな立派な雛人形を買ってもらったんだ・・・晴香も桃子もたくさん食べて、健康に育てよ・・・」なんておふくろきどりである。まあ、実は意味深なんだけどね。

しかし、事情を知らない弟妹は「桃子はもうでかいからいいよ」「なによ、チビ」「兄さんに向かってその言い方はひどいでしょ」などとぶっかけチャンスを匂わすのだが・・・なにしろ、健人兄貴のいる我が家は・・・ほのぼの家族なのである。全国、一千万人のぶっかけファンをがっかりさせる展開です。

しかし・・・兄貴の言葉に何故か胸騒ぎを感じる俺は・・・坂巻刑事の事情聴取に向かうのだった。念のために言っておくけど・・・二人の仲がどうこうではなくて・・・なんとなく兄貴のことが気がかりなんだからね。俺は。

たまたま、居合わせた長峰刑事に袖の下を渡すと・・・何故か上機嫌の長峰刑事は俺と坂巻刑事を食事に誘うのだった。

有線放送でビートルズの流れるとんかつ屋に俺たちを連れ込んだ長峰刑事は刑事としては危険な旗を次々とたてはじめる。

「俺、結婚しました~」

「刑事みたいな危険な仕事に娘をやれんと言われて苦節三年、ついに結婚指輪をはめました~」

「ただ今、ダイエット中なのでダブル・とんかつ控えてます」

「長生きしなければならないのです。なぜなら子供が出来たから~」

「無事、出産を祈って願懸け中なのです」

ああ、長峰刑事、このドラマでそんなフラグをたてまくったらだめだよおって俺はアドバイスしたいくらいでした。

でも、この日、俺たちはとんかつ定食を食べながら結婚した、子供もできたっていう長峰刑事の話を笑って聞いてたんだ。

で、肝心な兄貴の話を聞き損ねた俺だった。

さて、高齢の・・・じゃなかった恒例の親父の遺言チェック。今回は健人兄貴のリクエストなんで脚本通りです。

健人・・・一生懸命葬儀屋を手伝ってくれたな。

お前の家はここだ。

それを忘れるなよ。

「オヤジの奴・・・なに、当たり前のことを書いてんだ・・・」

そう言うと兄貴はふらりと家を出て行った。それって当り前じゃないことを書いていたってことなのかい。一体・・・兄貴は何を隠しているのかな。

すると、晴香がやってきて「洗濯物出して」って言うから、俺はなんとなく兄貴の部屋へ言って・・・恐ろしいものを発見してしまった。脳外科の処方薬。そして・・・ものすごくやばい感じのするたくさんのクスリ・・・いや・・・誤解なきように。つまり・・・なんだか・・・重病って感じがしたってことだからね。

こうなったら・・・やはり・・・坂巻刑事をとことん問い詰めなければならないのだ。

「一体、何を隠してるんだ・・・」

「ごめん・・・それは兄貴に聞いて・・・」

兄貴って・・・お前の兄貴かよっ・・・とつっこみたいところだけど・・・俺がまさぴょんだからな。きっとまさぴょんの兄貴は自分にとっても兄貴ってことなんだろう。坂巻刑事めぇぇぇぇぇぇっ。俺にぞっこんなんだな。

兄貴が俺に隠しごとをするなんて、絶対、絶対に許せない。絶対、絶対にだっ。

ということで、家に帰るなり、兄貴に「おりいって話がある」と切り出す俺。

「なんだよ・・・まさか、まさぴょん、好きな人ができましたーっとかかぁ」

兄貴の一言にのって騒ぎ立てる弟妹たちを制して、俺は四代目葬儀の井原屋店主として、兄貴と「二人だけでまじめな話がしたい」と切り出した。

で、兄貴が俺をさそいだしたのが・・・きれいなお姉さんがいるガールス・バーである。

「こんなとこじゃ、話にならないだろ」

「そんなにいきりたつなよ」

「ま~、こちら弟さんでしょ~。兄弟そろってイケメンさんね~」

「あ・に・き」

店内が静粛になってしまった。

「わかった・・・すまないけどちょっと席をはずしてくれないか」

「あら・・・しんねこ(ご親密)ね・・・」

「昭和の生まれかよっ」

「兄貴、坂巻刑事に話は聞いたんだぜ・・・」

「そうか・・・」

店内の全員が聞き耳を立てている。

「病気ってなんだよ」

「脳腫瘍だ」

「の・・・のうしゅよう・・・」

店内の全員に緊張が走る。

「難しいところにあるそうだ」

「そんな冗談だろ・・・」

「本当だ」

「でも薬とかで・・・治るんだろう」

「症状は緩和されるが・・・根本的には治療できないそうだ」

「でも、手術とか・・・」

「できないそうだ」

「日本一の奇跡の名医とか」

「いないそうだ・・・日本全国の医者を訪ねたが答えは同じだった」

「そんな・・・」

俺は戸惑い、絶望し、怒り、そして悲哀に包まれた。

俺は涙をこらえようとした。でも、無理だった。

「なんでだよ・・・なんでだよお」

俺は泣いた。店内のみんながもらい泣きした。

号泣する俺の肩を兄貴がそっと抱いてくれる。

嘘だろ・・・俺の優しい兄貴がずっとずっといなくなるなんて。

しかし、本当だった。

兄貴と一緒に西荻病院にいった俺は医者から説明されてしまったのだ。

医者に言われたらもう信じるしかないんだな、この国では。

「深刻な状況だし・・・麻痺とか、記憶障害とか、そして、いつ最後のその時が訪れてもおかしくない状態です」

なんだよ・・・その言い方・・・まるで兄貴が死んだも同然みたいじゃないか。

「そういうわけなんだ・・・このことは隼人や桃子・・・そして晴香にも内緒にしてくれないか」

「だって」

「そうすれば・・・最後までいつもの兄貴でいられるだろう」

「・・・」

「最後まで楽しくすごしたいんだ・・・それに死ぬまで葬儀屋の仕事を続けたい」

「・・・」

「親父の言う通りに・・・あの家が俺の家だ・・・最後は俺の家で・・・」

俺はまためそめそと泣きました。

一人になってコタローを見ても泣いてしまう。

すると、岩田さんがやってきた。

「おやじさん・・・幾つで亡くなったっけ?」

「享年六十五だったかな・・・」

「健人くんはいくつだ・・・」

「俺と九つ違いだから・・・三十五かな・・・」

「年をとると・・・死ぬのがこわくなくなる・・・よくしたもんだ・・・まあ、そうならない命根性の汚い人もいるが・・・でも・・・若くて死ぬのは・・・普通はこわくてこわくてたまらないだろう。まあ、若い時から命知らずもいるけどな」

「例外の話はいいですよ・・・」

「とにかく・・・大好きな兄貴のためだ・・・めそめそしていても・・・しょうがないぞ。しょうがないからしょうがないじゃないだろう・・・」

「・・・」

「願いをかなえてやればいいだろう」

「はい」

雛祭りの夜は晴香がちらし寿司を作るのだ。

「うまいなあ・・・晴香のちらし寿司は・・・」

「うれしい・・・さすがは健兄ちゃん」

「やはり、女は料理のうまいのが一番だよ」

「えー、そうなの」

「そうだよ、顔なんてたとえ松嶋菜々子くらい美人でもいつかは飽きるしさ、やはり家政婦のミタさんみたいにおいしい料理を作れた方がいつまでも愛されるさ・・・胃袋つかみが最高の必殺技なんだぞ~」

兄貴が言うと説得力があるけど・・・無邪気に喜ぶ晴香や桃子の顔を見ていると・・・俺はまた泣きそうになってしまう。でも兄貴がウインクするから・・・ぐっとこらえたよ。

そうだ・・・俺だって兄貴なんだからな。顔で笑って心で泣くくらいできなくてどうする・・・だ。

なにしろ・・・兄貴はきっともっともっともっと辛くて痛くて哀しいはずなんだから。

雛祭りがすんだら・・・早めの片づけは・・・嫁入りが遅くならないようにという心得である。

まあ、本当は出しっぱなしだと邪魔だからだけどな。

まあ、娘も片付かないと邪魔だった時代があったということだよね、きっと。

「私は結婚なんてずーっとしたくない」と桃子。

「何言ってんだ・・・どんどん、結婚して、幸せになれ」と兄貴。

「いつか・・・みんな・・・この家からいなくなるのかな」と隼人。

「でも、健人兄ちゃんがいるから・・・この家はいつまでも私たちの家だよね」

理屈はともかく・・・晴香、やめてくれ・・・俺は泣くのを我慢してるんだ。

兄貴は励ますように俺を見て微笑んだ。

もう・・・駄目だ・・・と思った時に電話が鳴った。

とにかく・・・助かったよ。

電話の相手の長峰刑事に呼び出されて、駅前の居酒屋にいくと・・・坂巻刑事が酔いつぶれていた。

「俺にお祝いのファースト・シューズくれたんだけど・・・なんだか・・・兄貴のことでまさぴょんに悪いことしたとか、くだまいてるうちに泥酔だ・・・」

「しょうがないやつ・・・おいっ」

「はーい、あ、先輩、あれあれ・・・」

「ああ、あれね~」と胎児のエコー画像を取り出す長峰刑事。

もう、出入りの業者としてはヨイショのしどころである。

「男ですかー女ですかー」

「これが目にはいらぬかー」

「わー、立派なおチンチン~」

「立派、立派ーーーっ」と叫んで坂巻刑事ふたたび沈没である。

その時・・・長峰刑事に電話が入り、「急用ができたんで・・・すまないが・・・こいつの面倒みてやってくれ」と頼まれる。

「かしこまり~」である。

ああ、なんだか久しぶりに台車を押してると思うかもしれませんが・・・ただ、省略されているだけで坂巻刑事の休日前夜はいつも押しているんですよ・・・念のため。

そして、夜の街には雪が降っていたのだ。坂巻刑事がいつものゲロ・ポイントで嘔吐した後で俺たちは冷たいベンチで肩を並べたよ。

「流れ星はありませんかーっ」

「雪だよ、雪」

「・・・まさぴょんは何をお祈りしたの・・・」

「願い事は人に言ったらだめなんだよ」

「ちぇっ・・・」

「今日は悪酔いの度が過ぎてるかな~」

「あたしさ・・・おじいちゃんも刑事だったんだ」と突然、坂巻刑事の問わず語りである。

「尊敬してた・・・あの駅で死んだ人って言ってたの・・・おじいちゃんなんだ・・・私が殺したようなもんなのよね・・・おじいちゃん・・・車いすに乗ってたの・・・私がホームでストッパーかけ忘れて・・・」

「でも、事故なんだろう・・・」と言いつつ俺はそんなに簡単に車イスは電車の線路にとびこまないとも思ったな。誰かが押さなくちゃ・・・ね。

「あの日、私、ケンカして・・・おばあちゃんの三回忌なのに・・・おじいちゃんが昔の仕事仲間に逢うとか言ってこなくてさ・・・私におこられて・・・おじいちゃん、哀しい顔してた・・・そして・・・その後すぐに・・・」

いや・・・想像しただけで恐ろしい。坂巻刑事・・・よく立ち直れたな。尊敬するぜ。

「これ・・・私のおじいちゃん」と坂巻刑事はふるびた写真を取り出した。

・・・え・・・ええっ・・・ええーっ・・・この人は岩田さんじゃありませんかっ。

「俺・・・この人知ってる・・・生きてるし・・・」

「えー、なんてこと言うんだよ、いくらゲロの始末をしてくれるまさぴょんでも、言っていい冗談といけない冗談があるぜーっ」

「でも・・・岩田さんだし・・・」

「だって、私、遺体見たもん・・・おじいちゃん、死んでたもん・・・おじいちゃん・・・」

「ごめん・・・悪かった・・・きっと・・・他人の空似なんだろう」

「・・・」

でも・・・似ているよ・・・岩田さん・・・坂巻刑事の母方の祖父なのか・・・。

いや、その人は死んでいるから・・・別人。そうでない場合は・・・ゆ、幽霊とかですかーっ。

で、坂巻刑事を宅配してから自宅に戻ると夜更けの岩田さんである。

いや・・・もう、この時点で・・・不気味ですから。

雨上がりの月光に照らされた岩田さんは朧な姿が見え隠れである。

「あの・・・幽霊ですか?」

「違う」

「ですよね~」

そこへ・・・長峰刑事から電話である。振り返ると岩田さんはいない。なんというか・・・背筋がピンとした・・・じゃなくてヒヤリとしました。

それはそれとして、実は長峰刑事たちはある事件を追っていた。ここで・・・後で坂巻刑事に聞いたりした事件の経過をまとめておきます。

①造成地で白骨遺体が発見される

 

②六年前に失踪した阿佐ヶ谷のイタリアンレストラン経営者の大林恭子と判明

 

③大林恭子は失踪直前に地下カジノでの賭博行為にはまっていたことが判明

 

④捜索願いを出した恭子の弟・大林健一(榊英雄)は「もうなにもかもイヤになった」と書かれた遺書のようなものを車イスに乗った元・刑事に渡したと証言。

ただし、最後の部分は・・・岩田元刑事であることが推測され・・・長峰と坂巻の上司でもあり、岩田のかっての部下でもあった木野原刑事(塩見三省)のアドバイスで・・・坂巻刑事には知らされていなかったらしい・・・。

とにかく・・・長峰刑事はそういう事件も捜査中だったのだ。

まあ・・・もう・・・城壁の上は旗だらけなんだな・・・・。

「あれから・・・坂巻の奴どうした・・・そうか、大人しく帰ったか・・・襲われたりしなかったのか・・・それはよかった・・・じゃ・・・そういうことどぇ・・・うげっ・・・ズッ、ジジジ・・・」

「長峰さん、長峰さん、どうしたんですかーっ」

翌日、長峰刑事のご遺体がジョギング中の人によって発見された。血痕その他から、殺害現場はどこか別の場所だったらしい。持ち物は・・・坂巻刑事のプレゼントしたファースト・シューズも含めてご遺体とともに放置されていたという。

まさに「長峰刑事が死んでいる」だな。

事情聴取された俺は長峰刑事に最後に会い、長峰刑事と最後に電話したのが自分だと知る。うわあ・・・すごく・・・ブルーな感じだ。いや・・・その時、酔いつぶれて爆睡していた坂巻刑事なんて・・・想像するのも恐ろしいダーク・ブルーな気持ちだろうけどさ。

せっかく、「お清め」というか袖の下のビール券をさりげなく渡せる仲になったのに・・・一から営業しなおしだ・・・とか言っている場合じゃないな。

こんな時、頼りになるのは兄貴・・・でも、その兄貴がもうすぐこの世からいなくなるんだぜ・・・俺もやっぱりダーク・ブルー。

遺体安置所に現れた長峰夫人(西原亜希)は新婚で、身重で、未亡人だ。もう、何と声をかけていいかわからない。

しかし、さすがは兄貴。

「葬儀の井原屋と申します・・・長峰さんには生前大変お世話になりました。奥様、どうか長峰さんのご葬儀をまかせていただけないでしょうか。従業員一同、心をこめてお見送りのお手伝いをいたします」

「・・・お願いします」

本当にさすがは兄貴なんだぜ。

とりあえず新婚のご自宅へ遺体を搬送。田中さん(大友康平)や晴香もかけつけて・・・葬儀の相談に入ったが・・・長峰夫人は茫然自失だ。

「奥様・・・」と兄貴が呼びかけても・・・「ごめんなさい・・・結婚したばかりで・・・奥様と呼ばれても自分のことだと思えなくて・・・」

ああ、いたたまれない。

「もっと・・・優しい言葉をかけてあげればよかった・・・」

坂巻刑事ももらい泣きである。

「私も赤ちゃんプレイにもっとのってあげれば・・・」

長峰夫人と坂巻刑事、この二人は昔、さつき高校でダンスドリル部に所属していた親友同士なのだ。

一同、しのび泣きである。

俺は思わず、席をはずしてしまった。気配を読んで俺を追いかけてきた兄貴。

「大丈夫か・・・」

「あの時、どこに行くのかとか・・・どこにいるのかとか・・・俺がちゃんときいてれば」

「そんなの、無理だよ・・・真人のせいじゃない・・・それより・・・う」

あ、兄貴~。やめて、まだ、逝かないで・・・。

俺は倒れかかった兄貴を抱きとめた。

「大丈夫だ・・・真人・・・俺たちの仕事は・・・ご遺族に心から悲しんでもらえるように・・・」

「わかったよ、わかったから・・・ちょっと休んでくれよ」

「・・・うん」

そこへ坂巻刑事がかけつけた。

「まさぴょん・・・兄貴・・・」

だから兄貴はやめてくれ。俺の兄貴なんだから。

「坂巻刑事・・・君もつらいだろうが」

「わかってます、私の仕事は犯人を・・・グス・・・逮捕・・・ヒック・・・することです・・・・・・・グルグルキュ~」

俺と坂巻刑事は空腹だった。だから二人であの店へ行ったんだ。

ヒレとロースのダブルとんかつ。

俺たちは死者を悼むように食材を悼む。命をいただいてそれでも生きていくしかないからだ。

「トンカツ食べて」

「パワーもらって」

「葬式成功」

「犯人逮捕」

「う、うまい」

「おいしい」

・・・どんなに哀しくても美味しいものは美味い。これが若いってことなんだな。

そして・・・長峰刑事の葬儀にはダブルとんかつをお供えした。

田舎の敬虔な仏教徒には意外かもしれないが東京では葬儀の後に美味しいお寿司を食べるのが習わしなんだよ。

彼の無念は大きすぎて・・・俺の手にあまることは確かだけど・・・。

涙をこらえて署員を代表して弔辞を読み上げる坂巻刑事はすごく立派だった。

「かならず犯人を検挙します」

長峰刑事のご遺体に誓う署員一同である。

俺たち、葬儀の井原屋も全員で長峰刑事の旅立ちを見送るのだ・・・逝ってらっしゃい・・・と。

一体、長峰刑事は誰に・・・何のために・・・殺されたのか・・・。

それはまだ・・・これからの話なのだが・・・最後の最後に黄昏時は逢魔時である。

岩田さんの再々登場なのである。

「彼は犯人を追っていたのか?」

「いや・・・なんだか・・・女の人の白骨死体について調べていたとか・・・検索してみます?」

「してくれ・・・」

「杉並区松庵の道路拡張工事で・・・白骨遺体発見・・・これです」

「・・・」

「何か知っているんですか」

「追ってた女だ」

「えっ・・・」

「俺は刑事だったんだ」

「それじゃ・・・坂巻刑事のお祖父さんですか・・・」

「そうだ」

「・・・じゃ・・・死んでるんですか・・・」って。

い、いなあああああああああああい。お、俺は、こ、腰がぬけそうなよろりをしたよ。

親父・・・あのよ・・・。

でも、まあ・・・双子とか・・・別人が整形してなりすましてるとか・・・単なるそっくりさんとか。

それとも・・・本当に・・・。

ジーザス、ヴィーナス、麻婆茄子。

ほら。もっとよく見て。

う、うろたえるな。俺。

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2012年3月 1日 (木)

ゴミ箱をあさっています。(桜庭ななみ)

2月下旬は東京に雪の降る季節である。

226事件も雪の東京で起こった事件である。

しかし、たらちね226事件は単に寒い事件なのである。

滅多に弱音をはかないキッドだが・・・このドラマのレビューは本当にどうしようもないな。

だが・・・「ストロベリーナイト」は延々と話を引き延ばした挙句、罪の意識にさいなまれる暗殺者だの、死体に添い寝した女だの・・・あまりにも日常的な話でテレビ東京でプラピとトムクル(いつ誰が略せと言った・・・)のヴァンパイア競演を見た後では何も語る気になれないんだな。4夜連続「O-PARTS(オーパーツ)」にいたっては最終回を前にオーパーツと化しているのだな。最近、どうしてこのドラマを製作する気になったんだろうと・・・製作者の正気を疑うドラマが増えているよな。なんなんだ・・・一体。

どうしようもないのか・・・日本。

かといって・・・「相棒」は陣川公平(原田龍二)ものであり、今回の一目ぼれ相手は松本莉緒なので・・・ちょっと触手が蠢いたが、月本幸子(鈴木杏樹)ほどの味わいはないからな。しかも意外すぎる犯人オチで・・・ちょっと正気でない動機である。犯人に泣いてもらっても困るのだ。だって機知外ってことだろう。

来襲はハセベバクシンオーものなのでちょっと期待したい。

「ダーティーママ」にいたっては・・・まだやってたのか・・・って感じだし。う、撃たないで~。

深夜のミステリも何本か、あるのだが・・・「家族八景」にのめりこんでいる以上、今更~なのである。

えーと、釈由美子は来週のラッキーセブンだったよな。「デカ黒川鈴木」の第8回には水崎綾女がゲストにでているのだがあまりの吉本劇場にちょっとげんなりするのだな。なんていうか芸達者な幼稚園児による学芸会を見ているような気になってしまう。

アニメも語る気になるほどの作品は今季はゼロである。「銀玉」は主題歌変わったとたんにすごく面白くなくなった気がするぞ~。「GARO」となると片手間に語れない。しかし、男ものはあれだな「キューティーハニーTL」に比べるとやはり萌えないな。もう、男の子じゃないからだな。

NHKのドラマは大河一本で充分だし・・・関東地方では「Mother」の再放送中だが・・・他の追随を許さないよなーーーーっ。

「ハングリー!」ももうなんか、アレです。言葉を濁すなよ。

いよいよ・・・「最後から二番目の恋」か・・・でも一番面白いのは長倉万理子(内田有紀)だしな。

日曜の9時は二本ともなんだかダラダラしているし、「聖なる怪物たち」はピュアな主人公が軽佻浮薄すぎて苦笑だ。

ほら・・・こうやって消去していくと・・・クワコーが残っちゃうじゃねえか。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・第6回』(テレビ朝日20120226PM2315~)脚本・演出・及川拓郎を見た。二・二六事件とは昭和11年(1936年)の二月二十六日に発生した歴史的大事件である。帝国陸軍の青年将校たちが1500人ほどの兵を率いてクーデター未遂を起こしたのである。武力をもって元老重臣を殺害し、天皇親政を実現しようとしたわけである。しかし、この国ではとことん・・・本当の革命を目指す輩はいないのだな。いや、いたのだが・・・記憶に残らないっていうか。いやいや、226事件だって忘却の彼方にすぎようとしているのだな。今回のこのドラマのパロディーだって・・・ほとんど原形を想起させないものなあ。斎藤實(内大臣)、高橋是清(大蔵大臣)、渡辺錠太郎(陸軍教育総監)は実際に殺害されているわけだし、首謀者は叛乱罪で十六名も死刑になっているのだが。

どうせ、オーパーツなら226クーデターが成功した未来と現代との壮烈な時系列争奪戦ぐらいをみてみたいよね。

向こうの世界では青年将校の支配する日本が原爆を先に完成して太平洋戦争に勝利し、世界の半分は大日本帝国に支配されてたりなんかして・・・。第三帝国との世界最終決戦での人類滅亡をさけるためにターミネーターが・・・もういいかい。

IQ515超の天才的マッド・サイエンティスト敷島教授(吉田鋼太郎)はたらちね大学の44号館地下深くにレクター・スタイルで拘束されていたのである。

そうとは知らず謎の男・ミスターたらちねに監禁されてしまうクワコー。

「タスケテ・・・カンキンされた クワコー」というメモを壜にいれて強化ガラスの窓の外に捨てると・・・それはジンジン(桜庭ななみ)の知るところになる。ジンジンは排水溝もあさっています。

たちまち・・・スタイリッシュに敷島教授を訪ねるジンジン。

しかし、教授は「すでに答えは出ている」とジンジンを惑わすのだった。

その頃、監禁されたクワコーや木村部長(倉科カナ)はミスターたらちねに心の秘密を打ち明けるように強要されている。

そして・・・木村部長はついに偽学生であることを告白するのである。

たいした秘密をもたないクワコーはしょんぼりである。

しかし・・・ミスターたらちねの真の狙いは鯨谷文学部長(賠償美津子)だった。

敷島教授が拘束される原因となった「人体実験の果ての女子大生火達磨事件」の真相は鯨谷教授の無責任な示唆による「火の輪くぐりに熱中して燃えちゃいました事件」だったのである。はあ…………………・・・・・(吐息です)

ミスターたらちねことたらちね国際女子大学心理学部助手・山内康夫(高橋一生)は恩師の冤罪を晴らすためにものすごい予算で監禁室を構築したのである。

とにかく・・・ジンジンは「クワコーはどうしようもない人間だけど・・・私に守ってあげたいと思わせる何かを持っているんだ」と愛の告白である。

いや・・・気持はわかるけど・・・意味不明だよ・・・ジンジン。

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