ただそこにいるだけの母(遠山景織子)と慈愛とは何かを汝に問うウエディング・ドレッサー(山田涼介)
理想の母親とは何かに答えるためには東洋では慈愛について西洋では聖母について語ることになる。
聖母を代表するのが理想の息子(山田涼介)をもった鈴木海(鈴木京香)であるとすれば、慈愛を体現するのがダメな子(中島裕翔)を持った小林光子(鈴木杏樹)なのであろう。
そして、それらを統合した全世界的な完全なる理想の母親は息子を捨て、ついには若年性アルツハイマーで息子の存在さえ認知しない空虚な母親(遠山景織子)になるのだな。
ただ、そこにいるだけでいい・・・それが究極の理想の母親なのである。
実生活では未婚の母親として一児の母である遠山景織子はたぐいまれな美貌でそれを体現するのだった。
もちろん、全員が母子家庭であり、世界には父親は不在でよろしかろうというのが最大の結論である。
まあ、ある意味、それが男の生きる道なのである。なぜなら、母親から生まれた人間でありながら男性は基本的に母親にはなれないのだから。
もちろん、母親ほどの母親はない・・・という哲学的な大前提があるので、母親のような父親は存在するし、その場合は結局、彼は父親であって父親ではないのである。
脚本の上手下手を素人はとかく口にするものだが、熟練の職人技としての洗練された技巧という点ではこの作品は素人にも一目瞭然のテキストといえるだろう。徹頭徹尾、隙がなく、流石と書いてさすがである。
よどみなく最終回でございます。ほら、やっぱり「卒業」だったし。
で、『理想の男子・最終回』(日本テレビ20120317PM9~)脚本・野島伸司、演出・佐久間紀佳を見た。ドラマの中で異次元を象徴するのが・・・登場人物たちの使う動物の化身であることは間違いないだろう。本来、魔術者は進化の過程における過去種を自分の中に発見し、そこに自己を集中させることで人間プラスアルファの力を発揮する。狼男は狼に化身することで人間以上の存在になるわけである。で、ある意味、それは超能力(ザ・スタンド)である。コミック『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)の読者なら「スタンド」じゃねえか~とつっこむところだな。
ドラマのタイトルベースには様々な動物が登場し、最後は百獣の王と称されるライオンがしめる。ドラマにはライオンの「スタンド」を持つものは登場しないが・・・セリフ的には「獅子は千尋の谷に我が子を突き落とし、這い上がってきたもののみを慈しむ」とあるので小林光子が本来、ライオン・スタンドの持ち主であることは明白だ。彼女のスタンドが登場しないのはメスライオンにするかオスライオンにするか迷った、スケジュール的にうっかり間に合わなかった、主人公のカンガルーより目立つために遠慮したなど様々な理由が推測できる。
「男子校」という設定で脚本家はストイックに振る舞おうとしたが・・・結局、三人の美少女が登場するこのドラマ。各自のキャラクター設定も実に明快な類型化を果たしている。
年下の「妹」的存在であるクララこと丹波さやか(三吉彩花)は遊んであげる相手としては楽しいが世代間のギャップで恋には発展しない。
性を入れ替えた双生児的存在の豹塚昌子(吉永淳)は遊び相手としては楽しいがあまりに相似しているために恋の対象にはならない。
おそらく年上の「姉」的存在である「ローマの休日」型プリンセスの篠田ソラ(石橋杏奈)は「理想の恋人」であるが、「ローマの休日」である以上、恋の思い出を持って宮殿に帰っていく宿命なのである。
どの定型にも甘酸っぱさがあり、わかりやすく萌えやすいのである。
また、「世の中には良く似た人間が三人はいる」という常識を破るために神父(金子ノブアキ=一人四役目)が登場する。これはとりあえずの斬新な発想というお約束です。
・・・このように万事が計算され、巧妙に仕組まれ、物語は主題である「マザコンこそが愛の原点である」に終結していくのである。
みなくても結果のわかるドラマではあるが・・・そこを見せてくれるのが脚本家の腕前というものなのだな。堪能いたしました。
熟成した肉体をもてあました鈴木海は隣人という手軽さでなし崩し的に倉橋実(沢村一樹)と肉体交渉を持ち、なんとなく流れで結婚宣言である。
ノイローゼの原点である息子の巣立ちという不安を解消するための海の選択に大地は自我崩壊の危機にさらされるのだった。
そんな大地を母親以上に母親視線で見守る理想の恋人・ソラである。
しかし、そんな大地のヒステリーを一気に鎮める・・・より不幸な蜜の味わいを持つ三船憲吾(藤ヶ谷太輔)の事情である。彼を捨てた母親は認知症を発症し、世界から見捨てられ病室に横たわっていた。
大地も海も自分たちの「くだらないことで悩む幸福さ」に暗澹たる思いを感じるのだった。
一方、理想の恋人は愚かなプリンスに教育指導的パンチを見舞う。彼女にはスタンドは必要ないのか・・・まあ、小林相手だからな。
「あなたは他人を思う涙と自分のために流す涙の区別もつかないのですか?」
「・・・小動物的本能が理解しましたーーーっ」
小林は自分の陰謀によって裏切りものの汚名を着た大地の濡れ衣を晴らすためにさらに嘘を重ねるのだった。
しかし、それで丸くおさまって豹塚はついにマスクをかぶり大地そのものに変身して記念のマルチーズである。
世界は変転し卒業式である。
三船は個人的事情をこらえ・・・小さな世界の健全な運営のために後継者を指名する。
とまどう小林に大地は優しく告げる。
「弱い奴ががんばることこそ美しいとパーマンにスーパーマンが言うではないか」
「どこまでもマンガなんだな・・・今回は」
男子校だから後継者に捧げられる第2ボタンを持ってママにほめてもらおうとする小林をライオンの女王は冷たくつきはなす。
「かわいそうじゃないですか・・・いつの世も独裁者よりは象徴としてのリーダーでしょう」という大地に光子は微笑むのである。
孤独をかみしめるマウス小林にそっとよりそうライオン小林。
「息子はあなた一人だから死なれると困るわ」
「僕は死にません・・・何度突き落とされても必ずはいあがってみせる」
お約束で噴水池に息子をつき飛ばしたママは立ちあがった息子をお約束で優しく抱擁である。
久しぶりの母親の性行為のために別居する鈴木母子。
プリンセスと一夜を過ごす大地は・・・素朴な質問をする。
「マザコンって女の子はやはり気持ちわるいのかな」
「はい・・・でも愛情が濃いのがわかって安心もできますよ」
大地は恥ずかしくも据え膳くわないのだった。そしてプリンセスの色気に窮し脱走である。
一方、事後の海にも漠然とした不安がぶりかえし・・・眠れぬ夜を過ごす。
求めあう母子はエレベーターホールでお互いの過去の蜜月関係を懐かしむのだった。
余談ですが・・・幼い頃の剣道の師匠(警視庁の偉い人・故人)の訓話を思い出したのでメモしておく。
「君たちは親の愛というものを感じにくい。なぜなら・・・親というものは眠っている君たちを優しく見守っているものだからだ。君たちが目を醒ませばそこに親はいない。しかし・・・君たちがなぜ安心して眠っていられたかを考えれば、親の愛を感じることができる」
実にいい話である。
そういう親の味を知らない三船のために海はレンタル母としてカレーライスを作りに行き、ウルトラデラックス超メガ盛りマックスのカレーを食べるのであった。
そんな母親に大地は深い尊敬と感謝を感じるのだった。
三船を案じる後輩たちははげましの儀式としてスタンド合戦を仕掛ける。
三船のスタンドは熊でした。格闘家に熊はお約束だからである。
三船は全員をノックアウトしつつ、豹塚に「(胸のために)牛乳を飲め」などとアドバイスするのだった。
そして「好きなものを見つけたらそのために恥ずかしいくらい努力しろ」と諭すのである。
そして・・・三船は何もかもを失ったやせた猫のためにリンゴの皮をむきつつ落涙なのである。
クララのために母親より先にウェディングドレスを来た大地だったが、人類の宿命である最後に勝つのはゴキブリというお約束のための敗北感を味わうのだった。
そんな大地に理想の恋人は「お母様を祝福しないのですか」と問う。
「だって・・・100%を母親のためにさけないなら・・・祝いなんて無意味さ」と応じる。
「私は・・・あなたという思い出を糧に・・・父の決めた許嫁に嫁ぎます」と宣言するプリンセス。
ようやく喪失感を感じた大地は「そうか・・・やるべきことをやらないで・・・あきらめるってバカだよね・・・母親にも100%、恋人にも100%・・・そういう過剰な男になればいいんだ」
プリンセスは微笑んだ。もちろん、恋人には君だけ100%と言うのが正解だからです。
そして、「エレ~ン」と叫ぶために結婚式場にかけつける大地。
しかし・・・健やかな時も病める時も富める時も貧しき時も・・・息子と過ごした時間があったと回想した海はようやく・・・母として生きる決心ができたのだった。
そのスタンドはカンガルーと化し・・・息子コアラを簡単収納するのであった。
どんなに息子が成長しても母親は母親なのだから・・・。
大団円である・・・念には念を入れて今回二度目の決めゼリフ。
母と新しい父が「マザコンじゃないの?」とふり、
「俺はマザコンじゃない・・・ただ、母ちゃんが大好きなだけさ」でオチて終幕。
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
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コメント
>ただ、そこにいるだけでいい・・・それが究極の理想の母親なのである。
確かに、そういう存在になっちゃってました。
しかも美しい。ただそこにいて支えてくれる存在は野島ドラマの幹ですね。
キッドじいやの記事は、やっぱり面白いわ。
これを読むと、ますます私はこのドラマを好きだった、と納得出来ます。
本当にただこのドラマが好きなだけさ、なのです。
解らないやつには解らなくてもいいのです。
楽しい3か月でございました♪
投稿: くう | 2012年3月18日 (日) 15時35分
そうですな・・・母親を思うだけで
心が落ち着くことのできるものは
ただそれだけで幸せなのでございますよね。
野島ドラマの切り札的ヒロインですからな。
もちろん、クドカンでも切り札的ヒロインだし
コントでも切り札的ヒロインです。
ギヨンギョンは不遇なのか優遇なのか
不明の女優の代表でございます。
遠山氏の諱である景が入っているので
お姫様の一種ですけどな~。
じいめのそこつな記事をおもしろがっていただき
恐縮でございます。
また・・・再開後に
よたよたと更新しているキッドに
数々のはげましのコメントをいただき
誠にありがとうございまする。
最終回シーズンには
どのドラマもみんな素晴らしい気がしてくる年頃。
みんながんばって仕事しているんですものね~。
生活かかっているんだし~。
言いたい放題で申し訳ない~・・・でございます。
そんなキッドでございますが
どうかこれからもよろしく
おつきあいくださりませ~。
投稿: キッド | 2012年3月18日 (日) 21時20分