逢いたくなったら逢いに行く(深田恭子)
脚本家は深田恭子の初主演ドラマ「鬼の棲家」(1999年)でデビューしている。
そして、連続テレビ小説「ちりとてちん」(2007年)の作者である。
「ちりとてちん」と言えば・・・A子(佐藤めぐみ)B子(貫地谷しほり)である。
女の子は比べられるのが大キライなの・・・と言うがつい誰かと比較してしまうのだな。
まあ、その、自分の得意なパターンを馴染みの女優にあてこんでいく。
それもまた・・・手法というものだな。
「雀」のたとえは・・・少し無理があるわけだが・・・イメージとしては分かる。
そして、高階明子(加藤あい)がA子なら平時子(深田恭子)はB子なんだな。
ま、今回、A子はあの世にいるわけですが・・・。
で、『平清盛・第12回』(NHK総合20120325PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の陰にひっそりと咲くB男・平家盛の描き下ろしイラスト大公開でございます。そこに来たかっ・・・でございますね。まあ、なんといっても正妻の実子で異母弟・・・出生の秘密でさらにツイストされてこのドラマでは隠れたキー・ポイント的人物。今回もギラッと一瞬の刃を覗かせて清盛の心を覚醒させていく。そもそも清盛がもののけの血を覚醒させるのもこの弟があってこそなのですな。母(池禅尼)とともにどの程度、清盛に対する悪の華を咲かせるのか・・・まあ、ある意味、無自覚的に、という描き方かもしれませんが・・・和田糸子の人(和久井映見)はこのあたりの天然だけど腹黒い演技は大得意ですからなーーーっ。
小さい頃は神様(白河院)がいて毎日愛を届けてくれた待賢門院藤原璋子が出家したのが康治元年(1142年)、逝去したのが久安元年(1145年)である。その頃、平時子は平清盛の継室となり、清盛の三男・宗盛を生むのが久安三年(1147年)なのである。急に加速しているな。この間、元号は天養(1144年)がすっとばされている。この年、ハレー彗星が出現し、驚愕した陰陽師たちににより久安に改元されているのである。彗星は不吉の兆しとされるが、1994年に木星に衝突したシューメーカー・レヴィ第9彗星を思えば平安貴族たちの右往左往も非科学的とは言えない。1908年に起きたツングースカ大爆発は彗星衝突説が有力である。この時の爆発エネルギーはおよそ広島型原爆1000発分の破壊力であり、人口密集地帯でそれが起これば超大惨事である。この頃、平忠盛は正四位上播磨守右京太夫となっている。貴族にも様々な階級区分がある。受領というのは県知事相当の地方官である。美作守→尾張守→播磨守と出世した(治める国にもランクがございます)忠盛はすでに従三位という公卿の地位の一歩手前まで登りつめている。つまり、地方のトップから中央への参政に王手をかけているのである。一方、源為義は藤原摂関家に接近し、漸く従六位下左衛門大尉となっている。長男・義朝の異母弟である次男・義賢は正二位内大臣・藤原頼長の男色相手に差し出され、忠勤に励んでいるのであった。この頃、藤原頼長は兄の従一位摂政・藤原忠通と摂関家の継承問題で不仲となっていく。常陸国から上総国にかけての大型荘園・相馬御厨や相模国最大の荘園・大庭御厨を略奪し勝手に家臣団を形成する源義朝は・・・無冠であった。中央とのパイプは鳥羽院の乳母と正室の由良御前が親戚関係にあることぐらいである。しかし、すでに関東の覇者となった義朝は「手柄たてちまえばこっちのもんさ」と鼻息が荒かったのである。
夜空には箒星が不気味な尾をひいて浮かんでいる。摂関家屋敷の別棟では寝床から抜け出した藤原頼長が縁側で空を見上げている。背後では頼長によって執拗に菊門を責められた義賢が疲労困憊して眠りに落ちていた。
(天文博士の安倍成明は・・・吉兆定かならずというが・・・面妖この上なきものよな・・・)
淫行から覚めた目で頼長は一向に進展しない摂関政治改革に思いをはせる。
(律令を正し奉り、政道を清く導かんと候えども、坊主どもは騒ぎ立て、流行り病は衰えぬことを知らず、飢饉で年貢は減るばかり・・・笛吹けど民は踊らずとはこのことか)
頼長は兄・忠通の顔を思い浮かべる。藤原氏の長者として後継者に恵まれなかった忠通は弟・頼長を養子としている。しかし、二年前に右大臣・村上源氏国信の娘が実子・基実を生むと掌をかえしたのである。
その頃から・・・頼長の政策に異を唱えるようになり・・・ついに今年になって・・・頼長を廃嫡し、嫡男として基実を披露するという強行手段に出た。鳥羽上皇の正室である高陽院(忠通の同母姉)がその後見役となっている。
「しかるべき料簡も持たず異のための異を唱えて・・・」頼長は鈍重な顔の異母兄の顔を忌々しく思い出す。その背後にはあの女狐がいる・・・と頼長は思う。近衛天皇の国母・得子である。「たぶらかされておるのじゃ」いつの間にか頼長は恨み事を声に出している。
そこに寝ずの番を勤めている女童が知らせをもたらした。
「待賢門院様・・・ご危篤でございます」
頼長は息を飲んだ。
数日前から、内裏の内外では怪異が相次いでいた。
鵺が啼くというのである。
姿を見たものもいるという。翼を広げれば畳十畳ほどあり、胴体は虎で顔は猿、尾は狐のようであったという。はっきりいって怪物である。
(そのようなものが・・・)と心乱れた頼長が脈絡なく思い浮かんだその怪物を頭から打ち消そうとした刹那。
「ぎょおぇーっ」と闇に響く声があった。
その頃・・・喪に服した清盛の館は来訪者を迎えていた。室である明子を突然、失った清盛の心は暗く沈んでいた。
そこに桓武平氏の身でありながら公家であり鳥羽法皇の判官代を勤める平時信の娘が伴のものを二人ほど連れただけでやってきたのである。
執事の平盛国の話ではとにかく清盛に会わせろの一点張りだと言う。
仕方なく清盛は衣服をあらため、応対に出た。家格は時信の家の方が上だが、現在の身分は清盛が従四位上、時信は従五位下である。その娘風情が・・・という思いが清盛にはある。
平時子は暗がりの中で目が鋭く光るのが印象的な娘だった。おそらくまだ、二十歳前であろうと清盛は推測する。明子と比べてれば美しさは見劣りするが・・・夜目にも健康そうな肌つやが独特の華やぎを発散している。
「夜分に失礼つかまつります」
「何事であろうや」
「・・・奥方様は彷徨うておいでじゃ・・・」
「なに・・・」
「これなるは・・・高棟流平氏に伝わる秘本・源氏物語でございます」
「源氏・・・なんじゃと」
「世に伝わる源氏物語とは違い陰陽道の導書なのでございまする。書そのものに魂がこめられておりまして・・・巻により様々な効能を持っておるのです」
「・・・」
「これなる賢木(さかき)の巻は・・・言霊をもちまして預言いたします」
「書がもの申すというか」
「論より証拠でございます」
言うが早いが・・・時子は耳に馴染みない真言を唱え始める。
時子の言葉に不審を感じていた・・・清盛の口が大きく開いた・・・。
書物より人型が浮きあがったのである。そして、それはあろうことか・・・逝去した明子の姿をしている。
「・・・との・・・そこにおられるか・・・」
「明子なのか・・・怨霊となり果てたか・・・」
「さようではございませぬ・・・明子は黄泉の旅路にありまする・・・心残りはあやかしのこと・・・情けなきことに陰陽師の呪詛を払い切れず・・・命を尽くしましたものの・・・私の祓いし妖力がなにものか・・・妖しの力を呼び醒ましてしまったのです・・・妖と妖が合体して・・・もののけとなったと申したら・・・おわかりいただけましょうか・・・」
「そなたの祓いの力と呪詛の力が合わさってしまったということか・・・」
「そのようなものでございます・・・それには何か・・・この世ならざる依りしろが欠くべからずもの・・・それが何かはわかりませぬが・・・そのもののけは京の都に災いをもたらしまする・・・殿・・・なにとぞ・・・調伏なさってくだされませ・・・」
「明子・・・そんなことより・・・戻ってはこれぬのか・・・」
「殿・・・すでに・・・魂魄となった私にはこの世に戻る術はございませぬ・・・けれど・・・いつも・・・おそばに・・・」
「明子」
突然・・・明子の姿は消えた。
「よほどの・・・心残りであったのでしょう・・・賢木の巻にその心を移されたのでございます・・・」
「そうか・・・明子はもはや・・・去ったか」
叫ぶように清盛はひと泣きを漏らした。そして、徐に立ち上がる。
「汝・・・そのもののけのことをなんぞ・・・知っておるのか・・・」
「すでに澪標(みおつくし)の巻にて・・・八卦を立てました」
「案内してくだされ・・・そのもののけ・・・我が退治てくれようぞ・・・」
「・・・清盛様・・・よくぞ申してくださいました・・・」
よほど緊張していたのであろう・・・時子の瞳からは涙がひとしずくこぼれていた。
「盛国・・・雷神弓をもて・・・」
清盛が叫んだ。
その頃、待賢門院の殿上に鵺が姿を現していた。
怪異は一声啼くごとに人の命を吸い上げる。
流行り病の病床についていた待賢門院藤原璋子は恐ろしい啼き声を最後に聞いた。
駆けつけた清盛は一足遅かったのである。
関連するキッドのブログ→第11話のレビュー
| 固定リンク
コメント