もう一度夢をみてくれるといいな(松山ケンイチ)
偉大な父親だったと言えよう。
武家としては最上級の正四位上まで位階を昇りつめた父である。
伯耆の国をはじめとして、越前の国、備前の国、美作の国、尾張の国、播磨の国の国司となった平忠盛である。
それはつまり六カ国において・・・なんらかの影響力を行使したことになる。
この時、ライバルと目される源氏の頭領である源為義は万年検非違使に留まっている。
つまり、受領なしなのである。つまり、経済力が全くないのである。
平清盛の父と源義朝の父にはこのように・・・経済格差がありました。
で、『平清盛・第16回』(NHK総合20120422PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は本編のナレーターを勤める源頼朝の生母・藤原季範の娘・由良御前の描き下ろしイラスト大公開でございます。待賢門院の娘にして雅仁親王の姉の統子内親王に仕える女房だったとされる説もあり・・・今回はその線で描かれているようでございますな。夫・義朝との間には短期間に二人もしくは三人の男子と一人の女子を生んでおり・・・正室としての役割はきっちりと果たしていることが窺がわれます。保元四年(1159年)に亡くなるわけですが・・・彼女がもう少し長生きすれば・・・歴史は変わっていたのかもしれませんねえ。
平忠盛が死去するのは・・・仁平三年(1153年)のことである。急激に加速してまいりました・・・。藤原摂関家の内紛が表面化するのはそれをさかのぼる久安六年(1150年)のことになる。藤原忠通・頼長兄弟が不仲となり・・・父・忠実が頼長に味方をしたために、命を受けた源為義・頼賢が摂関家である東三条殿を急襲し、藤原氏の長者の証である朱器台盤を関白・忠通より強奪したのだった。頼長は異母姉で鳥羽院の忘れ去られた皇后・高陽院(藤原泰子・・・この年55才)の棲む土御門殿を譲られ・・・関白に準じる内覧の役職を与えられる。言わば総理大臣が二人いるという・・・非常事態となったのである。この期に及んで即内乱とならないところが・・・和をもって貴しとなす・・・平安貴族のなせるわざと言えるだろう。やがて、摂関家の事実上の長となった頼長は六世紀に生きた伝説の人、聖徳太子の十七条の憲法を政治の理想とし、強引な政治改革を実行することになる。もちろん・・・十二世紀に600年も前の政治を行うことは事実上不可能であり・・・いたるところに齟齬を生んでいく。鳥羽法皇の寵臣である藤原家成の屋敷を仁平元年(1151年)に強襲し、破壊するなど・・・もはや暴走の域に達していると言っても過言ではあるまい。やがて、摂関家に味方する源氏と・・・鳥羽法皇を代表する王家に味方する平氏という構図が描かれ始めるが・・・それを押しとどめたのが・・・平氏における平忠盛の逝去。そして・・・源氏における源義朝の下野守任官であった。義朝は父、為義を追い越して国司になってしまったのである。つまり、王家による源氏勢力の分断である。一方で・・・頼長は忠盛の弟・忠正を抱きこむことを計画していた。摂関家による平家切り崩しである。対立勢力の浸透と拡散により・・・静かなる緊張は高まっていくのだった。
清盛は二十歳で中務大輔兼肥後守に任じられたが、仁平三年には安芸の国司となっている。安芸の国府と京の都とは海路陸路ともに平氏の道とも言うべき、比較的安全が確保された路で結ばれている。清盛は任地と都を精力的に往還していた。
平氏の隆盛の理由の一つは父・忠盛の興した海運業であると清盛は理解していた。各地の流通が滞れば天災などで飢饉に襲われたものは食うにも困り、死ぬか、盗賊になるしかない。盗賊は豊かな地を狙い、豊かな地のものは収穫物を奪われ、餓死か、盗賊になるかを選ぶしかなくなるのである。こうして、民は雪だるま式に盗賊となっていくのだ。そこで一定の秩序を維持するためには有り余る場所からたらざる場所へものを動かしていくことが肝要なのである。
平氏は傘下に加えた海賊、山賊を組織化し、物流の拠点を確保し、海運で瀬戸内を支配していったのである。
時にはそれは血で血を洗う抗争にもなった。
幼い清盛は館における父親の優しさを不思議に思ったことがある。
それは自らが修羅場を体験したばかりの頃であった。死ぬか生きるかのやりとりの後で心は荒み・・・凶暴さを常に帯びていた。
しかし・・・今、自らが子を持った清盛にはあの頃の父の心が分かっている。
血の匂いに包まれた後・・・幼子の乳臭い香りは心を慰めるものだった。
時に父・忠盛は幼い清盛を抱いて、子守唄代わりに御伽話などを物語ってくれたものだ。
仮の宿としている厳島神社の小屋で・・・ごろりと横になった清盛は父の話を思い出そうとした。
「今は昔のことじゃ・・・都の東に近江の国があってな。そのさらに東が美濃の国じゃ。若い男が上の者の使いで近江の国から美濃の国に急ぎの旅をしておったそうな」
父親は話上手だった。幼い清盛は夢中で話に聞き入る。
「急ぎの旅だったために夕暮れにも里で宿を求めず、人里はなれた場所でとっぷりと夜がくれてしまった。星のない夜でな、ついには雨もふりだした。若い男はさすがにしもうたと思ったが時、すでに遅しじゃ。雨にぬれて身体は冷えるし、闇夜のために行く足もはかどらぬ。困り果てたところにちょうど、墓穴があったのじゃ」
「墓穴・・・?」
「人の命が消えた時に、人の身体を捨てるところよ。まあ、山に横穴を掘ってあると思えばよい」
清盛は心に浮かんだ情景におそろしげなものを感じる。清盛の心を察した忠盛は微笑みを浮かべる。
「やがて、墓穴で人の身体は獣や虫に食われて風に晒され、根の国に帰っていくのじゃ。さて・・・その墓穴を覗いてみると中は真っ暗闇ではあったが、幸い空であった。男は身分の低いものではあったが、なかなかに度胸のすわったものでな。雨に濡れるよりはましとばかりに墓穴に身を入れたのよ」
清盛はおそろしさの中にも・・・男の思い切りの良さに憧れに似た気持ちを感じる。
「中は真っ暗であったが、なかなかに奥行きがあり、何より乾いておった。男はほっと息をつき、身体を奥の壁にあずけて身体を休めたのじゃ・・・なかなか豪傑であろう」
清盛は幽かに頷く。
「夜のことじゃ、居心地のよさに男がうつらうつらとしておると・・・突然、物音がして、何やら目の前を動く気配がある。・・・男はぞっとして、目を見開いた。闇の中だが、気配は分かる。獣のような荒い息遣いが耳元に届く。男はたまげて身をすくめた。えらいことだ・・・こりゃ、鬼の棲家に入り込んでしまったか・・・雨を逃れて鬼に食われてしまうのかと・・・な」
清盛は目の前に鬼が現れたような気がして口をあけ、次に歯をくいしばった・・・。
「すると・・・鬼と思うたものが、何やら、経文を唱える声が聞こえてくる。さらさらと蓑傘を脱ぐ音がする。それから、担いでいた荷を下ろす物音がする。やかで鬼は人の声でしゃべりだした。・・・ここにお住まいの神に申し上げます。夜の旅で雨に降られてしまい、難儀いたしましたおり、こちらの棲家を見出してしかたなくお邪魔しました。なにとぞ・・・ご無礼をおゆるしくださるよう・・・そういうと鬼と思ったが、実は人だったものは荷物から何やら取り出して男の前に置いた。男は闇に眼が慣れていたので男のしぐさがぼんやりと分かるが・・・二番目に入ってきた人は男には気づかないらしい・・・と男は悟ったのじゃ。二番目の人は御供え物のつもりか・・・切り餅を三切れほど地面に置いている。若い男は腹がへっていることに気がついて、おもわず、手をのばし、餅をとった。二番目の人はそれが闇の中からぬっと飛び出た鬼の手だと思ったのじゃな・・・ぎゃっと一声叫ぶと・・・後退り、穴から飛び出すと雨の中を水しぶきをあげて駆け去ったのじゃ・・・」
清盛は二番目の人のあわてぶりに面白おかしさを感じる。
「若い男は墓穴から外を覗いてみたが・・・近江の国の方に駆けていった二番目の人は逃げ足速く・・・すでに闇の中に消えている・・・男はなんとなくおかしくなり・・・墓穴の中を見れば、上等な蓑傘は脱ぎ捨てたままだし、荷の中には上等の布など、結構なお宝があるのが見て取れた。男は墓穴の奥を臥し拝むと、おもむろに蓑傘を身につけ、荷を背負うた・・・そして美濃の国へと歩き出したわけじゃ。のう・・・清盛・・・夜の道で雨に打たれても・・・先に墓穴に入ったものが得をして後に入ったものが得をすることがあるものじゃ・・・そしてな・・・後に入ったものももう少し肝がすわっておれば・・・損をすることもなかったのじゃ・・・のう・・・清盛・・・ふふふ・・・寝入ったか・・・」
夢の中で清盛は荷を背負い笑いながら夜の山道を駆けていく・・・。
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