時々吠えることがある・・・一人で吠えることがある(松山ケンイチ)
世の中が腐敗し・・・悪臭を放つ。
その匂いに耐えかねて・・・鼻をつまむものがいる。
自らが身を清め、匂いの元から遠ざかろうとするものがいる。
とりあえず、フタをするものがいる。
自らも穢れに身をまかせ、腐乱していくものがいる。
醜いものの中に美しいものを求めるものがいる。
そして、火を放ち、すべてを焼き尽くすものがいる。
腐り果てたものは敏感に・・・それに「死」の匂いを嗅ぐだろう。
そして・・・警告するだろう・・・そんなことをしても無駄なことだ・・・と。
しかし、自らが炎であるものに・・・どんな説得が通じようか。
かって・・・父は・・・革命の理想に燃えていた。
その炎は息子に燃え移った。
たとえ・・・父の炎が消えてしまっても・・・息子の炎は燃え続けるのである。
かって関東の革命児・・・平将門を葬った平貞盛の末裔が・・・平忠盛である。
敵を討ったものに炎が飛び火するのが因果というものなのでございます。
しかし・・・焦土から生まれた新しい命もたちまち・・・腐敗していく。
それがこの世の実相である。
そして・・・母親というものは・・・腐敗するものも・・・燃やしつくすものも生み育てる宿命を負っているのだ。
その果てに待つ運命の哀れを思えば思うほどに涙の止まらない今回でした。
で、『平清盛・第15回』(NHK総合20120415PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに出た怨霊の帝王、崇徳上皇の描き下ろしイラスト大公開でございます。意表をつかれましたぞ~。坊主になった信西や西行でも薄倖の姫君・由良御前でも愛されすぎた美少女常盤御前でもなくて・・・ひっそりと忘れ去られた待賢門院の忘れ形見兄弟・兄の方とはーーーっ。しかし・・・これで兄弟そろってめでたし・・・でございますなーーーっ。実は・・・松田兄弟画像にしなくて失敗だったな・・・とずっと思っていたので正直ホッとしましたぞ・・・なんのこっちゃで相すみませぬ~。だから私信はコメント欄でやれってば。松田兄の崇徳もなかなかに良い味だしそうですがーーーっ。そういう意味では柄本兄弟もありですな。鳥羽法皇は柄本明になりますけれど~・・・おいっ。
久安五年(1149年)に平家盛が病死したことにより、平家は御家騒動を免れた。神のサイコロの怪しさである。一方、藤原摂関家では父・忠実の描いた兄・忠通から弟・頼長への氏の長者の兄弟相続が難航する。男子不在のために弟を養子にした忠通には46才で基実、48才で基房、52才で兼実と次々に男子が誕生したのである。このため、弟を廃嫡し・・・摂関家を我が子に継がせようという親心が芽生えたのであった。こうして・・・忠通は父や弟と袂を分かつのでございます。そして、その火花は久安六年(1150年)に近衛天皇が元服すると・・・入内競争となって華々しく散るのだった。頼長が養女・藤原多子を近衛天皇の皇后とすれば、忠通も養女・呈子を近衛天皇の中宮にするのである。多子は亡き待賢門院と同じ閑院流の出身であり、対する呈子は美福門院の従兄弟の娘である。まさに仁義なき戦い内裏戦争頂上決戦なのであるが・・・鳥羽法皇は藤原摂関家の内紛を面白おかしく高みの見物なさるのである。先に男子を生したものが勝利するこの抗争に神のサイコロは無情にふられる。どちらに味方したものか・・・公家も武家も頭を悩ませ・・・やがてそれは一つの巨大なうねりとなっていくのだった。
馬鹿な兄上様じゃ・・・と頼長は宇治の父親から届けられた美少年を愛でながら思う。
父親の前関白・忠実こそが頼長に男色を手ほどきした・・・師匠である。同じ血を分けた兄弟だが・・・後ろから前からつながっている絆が違うのである。その証拠に・・・父・忠実は近在の美少年を賞味した後で・・・是非、息子にも味あわせたいと都に送ってくるほどなのである。
「最近・・・なかなかに美味これあり、ぜひともご賞味あれ・・・父」なのである。
そうした父と弟の仲の良さに嫉妬して・・・頼長を廃嫡し・・・自分の子供を摂関家後継とするため・・・様々に画策している兄である。
そういう兄が・・・頼長は哀れに思えるのである。
「摂関家のかっての栄光を取り戻せるのは麿だけじゃ・・・」と頼長は強烈なエリート意識で思う。
そもそも、天皇家と摂関家は名誉と実利でつながっているべきなのである・・・と頼長は思う。
かって、天皇家と大伴家、天皇家と物部家、そして天皇家と蘇我家と・・・シンボルとシンボル保護者の関係でこの国はまわってきた。異質だったのは聖徳太子で・・・彼は王家の一員でありながら・・・実務に手を出した最初の一人である。院政はこのバリエーションなのである。帝が早期退位し、上皇として帝を保護する。このような動きがあれば・・・シンボル保護者は相対的に地位が下がるのだ。
上皇や法皇が政治に口出しすれば・・・摂関家の利が薄くなってしまうのである。
頼長は・・・院政を廃し、摂関家の支配するこの世を再現しようとしているのである。
「しかれども・・・」と頼長は思う。兄・忠通は・・・身分低き藤原傍流の女狐(美福門院)などに阿るとは・・・法皇(鳥羽)の思うツボではないか・・・と頼長は憤るのだった。
その怒りの矛先がついつい・・・家畜である平家の御曹司の菊門に注ぎこまれ・・・貴重な手駒を失うことになったのだ。
頼長は貴族独特の唯我独尊により・・・自分の失策をも・・・兄の失策に転嫁するのだった。
六波羅の平家一門屋敷では家盛の法要が厳かに行われていた。
その席に清盛の姿はない。
家盛が死んだ久安五年、高野山の根本大塔は落雷にて焼失した。鳥羽法皇は謹慎中の清盛に業務復帰の命として根本大塔建立奉行の職を与えるのである。
これに応じて、父・忠盛には刑部卿の職が与えられることが内示される。
刑部卿の職は正三位相当である。忠盛は正四位上と武家の位階としては最高位に達していた。つまり、先に職を与え・・・職に準じて位階をあげる・・・忠盛が公卿に列するための布石である。
高野山の根本大塔再建工事はその発端なのである。
しかし・・・その裏では鳥羽法皇の愛娘統子(むねこ)内親王の指示による妲己守護結界の封印解除が策動していた。
それを知ってか知らずか・・・沙汰の席で美福門院は鳥羽法皇とともに・・・平忠盛に微笑む。
清盛は・・・清盛家一族とともに高野山に移住していた。
そして・・・建立事業のかたわら・・・高野山周辺を探索していたのである。
もちろん・・・高野山を修行の地に選んだ西行こと大伴の忍び服部半蔵も同行している。
九世紀の空海の開山より300年・・・数々の歴史を刻んだ高野山で・・・清盛は日々を過ごしている。
しかし、西行配下の王家忍びたちの努力もむなしく・・・封印の地は発見に至らない。
そこで・・・都より・・・時子が呼び出された。秘本・源氏物語の機能を試すためである。
「殿・・・お元気そうでなによりです」
「ふふふ・・・都より離れ山中にいれば生気がみなぎるのじゃ・・・都は相変わらず陰々としているだろう」
「殿は・・・なぜ、さように都をお嫌いなのですか」
「わからぬ・・・わからぬが・・・狂おしいほどに・・・すべてを焼き尽くしたい・・・滅ぼしたい心にかられるのだ・・・」
「亡き方への・・・未練ではございませぬか・・・」
「そうではない・・・明子のことは・・・そういえば・・・明子の占いによれば・・・我には遠き後生の魂がさかしまにながれているそうだ。なんと・・・もうしたかの・・・そうそう、著下馬羅とかいうからくにのいくさのきみらしい・・・」
「まあ・・・後世の御霊が心に宿るなど・・・聞いたこともございませぬ・・・やはり、明子様は面白きお方」
一瞬の沈黙の後・・・清盛は本題に入った。
「さて・・・波音から仔細は聞き及んだと思うが・・・」
「役に立つかはわかりませぬが・・・二十の帖・朝顔をお持ちしました。これは妖気探索機でございます」
「なるほど・・・封印の妖を察するか・・・しかし」
「はい・・・高野のお山は広うございます・・・そこで、今日から・・・時子は・・・清盛様と山を駆ける所存でございます・・・」
「そうか・・・それはまた面白かろう」
こうして・・・清盛夫妻は高野山に入った。そして、仁平二年(1152年)、時子は平知盛を出産する。
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