地の果てるところは国の果てるところ(満島ひかり)
満島ひかりのドラマであり、じっくりと記述したいところだが・・・スケジュール的に困難なのである。
また、「日中国交正常化40周年記念ドキュメンタリードラマ」という妖しいフレームがいろいろと問題ありそうだ。
さらにBSで先行放送された総合テレビのおさがりオンエアであるのもなんとなく・・・気がそがれるのだな。
だから極めて短く触れておくことにする。
で、『開拓者たち・第一回・幸せはいつまでも続くはずだった』(NHK総合20120403PM10~)脚本・坪田文、演出・岸善幸を見た。悲惨な出来事を見せるために悲惨の前の幸福を可能な限り高めておく・・・というフリオチの王道によるフリの部分である。大日本帝国の大陸進出政策の一環として満蒙開拓民が帝国本土から入植し・・・文字通りの植民地化を計画するわけである。しかし・・・実際は植民地計画は時代とあまりにも逆行していたわけである。
張り子の虎と言うべき関東軍は・・・敗色濃厚の帝国の旗色とともに・・・送りだした移民を見捨てる。
そして悪魔の帝国であるソ連やその配下である中国共産党軍がこの世の地獄を生みだす物語である。
こういうドラマが成立することが・・・すでに中国との国交がちっとも正常ではないことを物語るわけだが・・・そんなことを言っていると誤解を招くおそれがあるのでこれ以上の言及はさける。
「モテキ」で共演した満島ひかりと新井浩文が夫婦役で再び共演である。
昭和11年、貧しい農家の口減らしとして移民団の花嫁たちが・・・満州に渡る。
ハツ(満島ひかり)、梅子(芦名星)、チエ(徳永えり)、鶴子(前田愛)はすぐになかよしになる豪華メンバーである。
彼女たちは実在する人々の証言から造形されたキャラクターであり、実話に基づいたフィクションという妖しさを醸し出す。
なぜならそれは嘘を巧妙に本当らしさで覆う仕掛けだからである。
ハツは初対面の男・浅野速男(新井)と夫婦になる。
「まあ・・・いい」が口癖の男に宮城の貧農出身のハツは淡い希望を打ち砕かれてガッカリするわけだが・・・浅野はやがて「それは・・・生きていればなんとかなるということだ」と真意を告げる。
広大な満州の大地にたちまち根付くハツ。
「地平線の向こうまで国境線が見えない」のだった。しかし、地の果てには悪魔が支配するソ連の領土が広がっていたのである。
ハツたちが開拓する千振(ちぶり)は現在の中華人民共和国黒龍江省にある実り豊かな土地であった。最初の一年は幸せのうちに過ぎ・・・翌年から始まる日中戦争、昭和16年から始まる太平洋戦争の泥沼の戦況にもかかわらず・・・ハツたちは幸せな九年の歳月を過ごしていく。
もちろん・・・あくまで生き残った人々の語る言葉である。
死者に口はないということを念頭に置いておきたい。
ドラマ製作にあたり証言した人々は戦後、引き上げて栃木県那須町に再び入植した人々なのである。
そういう証言によって創作された花嫁たちは子供を生み、育て、希望に燃えていたのだ。
しかし・・・敗戦と同時にすべての状況は一変する。ちょうど・・・安全神話に欺かれた福島県民のメルトダウン以前と以後のように。
次回はすべての幸せが消失する「わたしたちは見すてられた」・・・阿鼻叫喚の地獄の開幕なのである。
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コメント
はじめまして、いち満島ファンです。
ファンを名乗りながらも不徳の限りですが、やはり戦中物だと話のテーマがずれてしまう感が見る前からしていたので、
気分がなかなか乗らずに細切れにしか見てなかったのですが、
ある程度落ち着いたら客観的な視点でいずれもう一度見たいと思います。
冷静な分析、助かりました。
ありがとうございます。
投稿: 中原経太 | 2012年4月20日 (金) 20時37分
お気に入りのキャストならなんでもと言う方もいますが
お気に入りだからこそお気に入りの作品にでてもらいたい。
そういう気持ちもございますねえ。
キッドは戦後の混乱時にこういう現実があったことを
描くドラマには賛意を惜しまないのですが
今回のドラマは
女優が当事者にインタビューするドラマの裏側的部分が
あまりにも肌触りが悪いのですな。
もちろん、素に近い女優が見られるということで
ファンにとってはうれしいかもしれないのですが・・・。
テーマがテーマだけに・・・
女優がドラマの登場人物以外の顔を見せるというのは
それだけで邪道だと思うのですな。
そういう志の低さが気になるわけでございます。
とはいうものの本編そのものは
満島ひかりは渾身の演技・・・なかなか鑑賞に値するドラマだったと考えます。
投稿: キッド | 2012年4月20日 (金) 21時07分