あまやかし・・・あなたの心をさだめてあげる(谷村美月)
古来、人は適切なアドバイザー(助言者)を求めて来た。
師と名付けられる人はある意味、助言を職業とする者と言ってもいいだろう。
医師は医学的なアドバイスをする者だし、看護師は看護学的なアドバイスをする者である。
美容師は美しい外見についてアドバイスする者である。
教師なんていうものは助言者のふきだまりのようなものだな。
なぜなら、人は自分自身について・・・客観的になりにくい生き物だからである。
しかし、他人に自分を委ねることは恐ろしさも含んでいる。
脳外科医は脳を切り刻むし、看護師は毒薬を点滴できるし、美容師は前髪を切りすぎる・・・かもしれない。
魔道師にいたっては甘言を弄したり、国を危うくしたり、ゾンビ的なものに変化させられたり命がいくらあってもたりない状況である・・・それは現実的ではないがな。
その中で・・・特異なものが・・・親友のアドバイスというものであろう。
だが・・・損得抜きの人間関係などというものが・・・実在するのかどうか・・・悪魔としては微笑むしかないのである。
で、『たぶらかし-代行女優業・マキ-・第8回』(日本テレビ20120412PM2358~)原作・安田依央、脚本・西田直子、演出・白川士を見た。誰が悪いというのではないが、「ものたりなさ」というものはたやすく生じる。今回も物語としては一応、筋が通っているし・・・わからなくはない話なのである。しかし・・・決定的にあるものが不足している。それは・・・「時間」というやつなのである。
たとえば・・・「日食」を説明しようとすれば・・・太陽と月と地球について説明する必要がある。そのためには恒星と衛星と惑星について説明しなければならないかもしれない。さらには軌道とか、宇宙物理学とか、日面通過とか、天照大神とか、天の岩戸とか、直射日光とか、裸眼で盲目とか・・・もういろいろと説明しなければならないのである。
で、論より証拠なのが、「ほら、あれが日食だ」と現実を指差すことなのであるが・・・それでは何の説明にもならないのである。
今回はドラマの中で・・・「医は仁術」と「医は算術」のどちらに比重をかけるべきかという古典的で深遠なテーマが展開される。
このテーマをこの「時間」で語るのはほとんど「無理」だと思う。
そういう場合、脚本は「いつかどこかで見た展開」で説明を省略していくわけである。それは「赤ひげ」から「37歳で医者になった僕」までとあらゆる医療ドラマで語られてきた算と仁の葛藤の歴史の挿入であり・・・結果として「とってつけた感じ」はどうしてもぬぐえない。
こういう場合は何か一つに例を絞るのが得策なのだが・・・日本テレビにはそういう前例が・・・つまり、誰もが知っているたとえとしての医療ドラマが・・・皆無なのだった。
残念なことだな。
で、ものすごく複雑な状況をどんどん説明していって最後まで面白みに到達しないという結果が生じるのだった。・・・以上、分析おわり。
マキが今回、演じるのは小児科医であり、私立病院の跡取り娘でもある加奈(浅見れいな)の架空の親友である。役割は合コンで加奈がターゲットとしている脳外科手術の名手で若きエリート医師・一の瀬(田中幸太朗)との仲を取り持つことなのである。
・・・ねえ、もうすでにこの設定に無理があるでしょう。
仲間の水鳥モンゾウ(山本耕史)のアシストもあり、マキは道化師として泥酔作戦を展開、見事に加奈と一の瀬の気のないキス・シーン到達に導くのだった。
同じ、深夜ドラマである「モテキ」と比べても実に濃密さのかけらもないキス・シーンだったな。
つまり・・・このドラマでは結局、「お色気」は売りにならないのだ。
美少女の香りが残る女優・谷村美月だから許される軽さであることを失念しているのだな。
もちろん、ゲスト女優である浅見れいなにも責任はない。つまり、このスタッフの限界の露呈にすぎない。
で、ここから二人の男女の心の綾が説明されていく。
加奈は父親から引き継いだ病院が経営難に陥り、資金繰りに苦しんでおり、医療ミスによる裁判もかかえて・・・いい婿を捜している。
一の瀬は野心家であり、経営改革によって病院を自分好みのものに改造していくことが加奈との結婚によって可能になると積極的なのである。
この中で、加奈は父親の理想とする・・・良心的な地域医療、そのための病院の存続、患者に献身的な医師、娘の愛する男性との幸せな結婚など・・・いくつもの兎を追いかけて・・・すべてを失いかねない状況に陥るのだった。
本来はそれも人生であるが・・・そもそも、これだけの規模の病院なら経営スタッフは別にいてしかるべきなのである。
加奈の依頼によって、二人の結婚式の準備を仕切る親友を演じ続けたマキは・・・加奈の中に投影した自分の理想を押さえきれなくなっていくのである。・・・もちろん、ドラマはそういう奥深さでは描かれていません。
本来、私立病院を持つほどの資産家なら、専門の業者に依頼します。しかるべく。
まあ、自家製豆腐の跡取り娘が、合理的経営を目指す婿と対立するくらいの話ですからな。
患者よりも金を愛し、妻以外の女も愛す、若き野心家一の瀬との結婚よりも・・・病院なんかつぶしても、目の前の患者の笑顔を大切にして、優しい人と結婚するべきだ・・・。
例によって気のないシャワーシーンを経過して親友に化身したマキは「真心のおためごかし」を語るのであった。
そして・・・加奈は・・・すべての打算を清算して・・・目の前の患者の笑顔を選択するのだった。
「終わりよければすべてよし」と得意満面のマキである。
しかし・・・その後、加奈の病院が経営不振でつぶれることは言うまでもないのである。
そこまで、描いて・・・女優としてなんら恥じることのない悪魔の展開でなければ・・・面白くはならないのが深夜という「時間」でもあると考える。
直前にローカルで再放送中のアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年TBSテレビ)では悪なる魔女と戦う善なる魔法少女が描かれるわけだが・・・その仕掛け人である地球外生命体であるインキュベーターが恐ろしい真実を語る#8「あたしって、ほんとバカ」の回であった。
「この国では・・・やがて女となるものを少女と呼ぶのでしょう」
この一言のために第1話~8話までを実にゆったりと使ってフリを作っていくのである。
純真無垢な少女たちは「魔法少女として自分たちが闘っている魔女」の正体に気がついた時・・・心が震えるのだった。
「たぶらかし」も一回くらいそういう回があることを期待しています。
関連するキッドのブログ→第7話のレビュー
| 固定リンク
コメント