ニュートンのゆりかごと臨時収入と真犯人(玉木宏)と私(戸田恵梨香)と彼(大野智)
ぶっちゃけた話だが・・・原作的には密室トリック解明おタク・・・榎本は泥棒である。
つまり、窃盗犯なのだが・・・重要参考人でも容疑者でもなく取り調べられたこともない。
だから・・・犯罪者として彼を認知しているのは彼だけなのである。
あくまでフィクションなので彼が殺人鬼であろうと窃盗の常習犯であろうと違いはないわけだが・・・お茶の間に供する娯楽としてのドラマでは公共性の問題がある。
あまり・・・犯罪者をヒーローのように描くのは好ましいものではないという不文律が働くわけである。
悪魔としてはちゃんちゃらおかしいし、虚構に対する冒涜だと思うが未熟な人間というものが存在すると考える未熟な人間がいる以上・・・自主規制というものは常に安全策の一つとして成立するのだな。
だから・・・このドラマでは榎本の正体をギリギリ曖昧にして幕を閉じるわけである。
すべてはお茶の間の想像におまかせします・・・ということだ。
ま・・・そういうことなのです。
で、『鍵のかかった部屋・最終回(全11話)』(フジテレビ20120625PM9~)原作・貴志祐介、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。もはや、弁護士というよりも探偵となった新米弁護士・青砥純子(戸田恵梨香)はすべてを捧げた彼が何者かも知らないガードの甘い女なのである。まあ、そういうことはよくあります。
なぜなら・・・誰もが・・・交際相手の私生活や経歴を即座に調査する機関を持っているとは限らないからです・・・普通、みんなそうだろう・・・そうなんだ。
しかし、闇の世界に生きるものにとっては・・・それらは生きる基本であり、欠かせない生活の知恵なのですな。
通りすがりの窓ふき職人・佐藤学(玉木宏)は実は闇の世界に生きていてターゲットの周辺情報の収集には余念がないのだった。
彼は介護サービス会社ベイリーフの穎原昭造社長(佐々木勝彦)のすべてを知っていたのである。
そのために・・・東京総合セキュリティの解錠職人にして密室トリック解明おタク・・・榎本径(大野智)と昭造社長の関係を知り・・・密室を破る技術とみせかけの動機がある榎本を濡れ衣を着せるために密告するのである。
しかし・・・最初の容疑者・久永専務(中丸新将)が過酷な取り調べによって自暴自棄になり虚偽の自白をしたために榎本は釈放されてしまうのである。
榎本と対峙した佐藤は「あんたも・・・こっち側の人間なんだろう」と問いかける。
しかし、榎本は無言である。
この場合、佐藤は犯罪者として榎本に共感を求めたわけである。
しかし・・・榎本を密告した時点で・・・佐藤はその資格を失っているわけである。真の犯罪者であれば・・・事件後に周辺にうかつに介入しないものなのだ。真の犯罪者である榎本は佐藤とは違い用心深くけして尻尾をつかませない。そういう意味で・・・佐藤は・・・どちらかと言えば青砥や芹沢弁護士(佐藤浩市)の側にいる人間であり、実はダーティー・ヒーローであり、今のところ完全犯罪者であり、真の悪人である榎本とは違う側にいるわけである。
ただし、榎本はゴルゴ13とは一線を画しているらしい。
つまり、「盗み」はするが「殺し」はしないのである。
まあ・・・人の命を奪うのも一種の泥棒なんですけどね。
結局・・・佐藤の動機は・・・復讐だった。
その本筋解明の前に・・・この複雑な事件の被害者・昭造社長の犯罪を・・・青砥が解明する。
昭造社長は会社の金を着服して・・・時価六億円相当のダイヤに換え社長室の秘密の保管庫に隠匿していたのである。
ベイリーフの介護ロボットはその保管庫を持ち上げるためのシステムだったのである。
そして・・・保管庫のダイヤは消えていた。
さて、佐藤の動機の解明は・・・またしても青砥が解明する。
佐藤の本籍地を入手した青砥は佐藤の過去を調べ上げる。しかし・・・佐藤は実は佐藤の同級生・椎名章であり、椎名の両親は昭造社長にそそのかされて投資に失敗、自殺していたのである。
しかし・・・復讐を果たした佐藤は己の罪に悩む善人に過ぎなかった。
その心理を読みとった真の悪人である榎本は佐藤を心理的にコントロールするのだった。
「結局、最後のガラスを破って・・・傷だらけになってしまったのでしょう。あなたは人を憎めても罪を愛することはできない善人です。どうしますか・・・私が通報しましょうか。それとも自首しますか・・・。刑に服し・・・罪を償えば・・・あなたの心は自由を取り戻せるでしょう」
「・・・自首します」
真の悪人である榎本は悪の機会を逃がさない。
すでに・・・佐藤が強奪したダイヤのうち、1億円分はダミーにすり替え換金していたのである。
榎本にとって盗みこそ本業だからである。
うかつにも・・・名探偵・青砥は恋人である榎本の正体には全く気がつかない。
「どこへ行っていたんです?・・・彼女の私がこんなに心配しているのに」
「連絡が遅れてすみません・・・旅支度に忙しかったものですから」
「旅ってどこへ行くんです?」
「さあ?」
「いつまで・・・?」
「さあ?」
ガラスの向こう側の青砥を残し、榎本は臨時収入で一人バカンスに旅立つ。
善良で憐れな愛人にそれを告げる榎本はもちろん・・・魔王の微笑みを残すのである。
取り残された青砥に芹沢は問う。
「なんだって?」
「さあ・・・?」
ちなみに・・・榎本がビリヤードにたとえて語る昭造社長の頭蓋骨・窓ガラスのハンマー・ボーリングの凶器は運動量保存則と力学的エネルギー保存の法則の実演のために作られたニュートンのゆりかご(カチカチ玉)と呼ばれる装置に象徴されるものである。
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○ ○○○○
・・・こういう奴です。
さすがに・・・唯一の帝国タイトルを確保した魔王様である。
悪の微笑みに痺れたぜ。
ニュートンのゆりかごの反対側の鉄球のように・・・心をゆらされるモラリストたちの受けただろう衝撃がうふふ・・・でございましたね。この脚本家ならでは・・・でしたな。
まあ・・・旅先でリゾートスタイルに変身した青砥が榎本に合流するという大どんでん返しはさすがにありませんでしたけど~。
その場合は知らぬは芹沢ばかりなりで多重人格一同爆笑でしたけど~。
今回、芹沢が正解らしきものにたどり着いた時の夜の世界を連想させる青砥のヨイショぶりに・・・そういう予感を感じさせる戸田恵梨香のパフォーマンスもさすがでしたな。
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コメント
私は原作を知らなかったので、まさかまさかまさか…と思いつつ、
彼を信じてしまいました~。
そう。ぎりぎりお茶の間にお任せします的に描くのに素晴らしいラストだったと思います。
ボーゼンとしましたもん。
トリックは色々と無茶でしたが、楽しかったですね。
3人の掛け合いがとても良い感じだったのでした。
「鹿男」の脚本家さんなら確かに余韻を残すのはお手の物。
楽しめた3か月と衝撃のラスト…という事で…
また、面白いドラマが1つ終わってしまいました。
明日はリーハイ最終夜。
投稿: くう | 2012年6月26日 (火) 01時47分
テレビドラマとしてはギリギリの
インモラルな結末でございました。
まあ、寅さんならそれをやっちゃあおしまいだろう・・・
的な部類ですが・・・
たまにはこういうのも来ないと刺激不足ですからねえ。
小説やコミック、そして劇場映画やアニメなら
許されてテレビドラマには許されないもの・・・
それは主役が泥棒ということですな。
つい最近も上川隆也が火傷してましたけど。
そう言う意味ではこの作品は
匙加減がパーフェクトだったのではないでしょうか。
もちろん・・・素知らぬ顔をして
旅先から戻ってくれば・・・続編でもSPでも
OKですしね。
つまり・・・青砥がモラル側に残っているように
見えるのもそういう配慮だと思われますな。
このように「悪」と「善」の境界の曖昧さを
お茶の間に楽しく届けることができるのは名手と言わざるをえないでしょう。
ある意味、明るい「白夜行」ですからねえ。
まあ、あまり大手をふって「善も悪もない」をやりすぎると
それはそれで本質を損ないますがね。
やはり、悪はひっそりとうしろめたく感じながら行うことで喜びを感じるわけですし。
ともかく・・・今季はそれぞれが
特色あふれる傑作ぞろい・・・トレビアンの連呼です。
そして・・・いよいよ、明日は「リーハイ」のフィナーレ。
「もうプロ」「都市伝説」「アタル」「鍵」と続く
ゴールデンラインナップの終焉です。
こんなシーズン、今度はいつやってくるのか・・・。
感慨深い夜になりそうです。
投稿: キッド | 2012年6月26日 (火) 02時38分
キッドさん、こんにちは♪
あー、鍵部屋の感想書く前に、次のシーズンに突入しちゃいました(^_^;)
だって夏なんだもん〜中学の期末が終わったら今度は高校の期末。。。
小学校はプール授業もはじまり、洗濯の回数も増えます(>_<)すんません〜グチでした。。。
純子と径の
「いきましょう」
「どこへ?」
の掛け合いが今回最大のじゃれあいでしたかー
私たちの想像以上に、睦みあっているということですかね(^-^)v
続編が楽しみだなー(^-^)
今季は、旬くんとさとみちゃん〜さとみちゃんのかわゆさはピカイチでした☆
やはり月9は、ヒロイン大事ですねー♪
投稿: ゆきみき | 2012年7月11日 (水) 10時43分
ふふふ・・・小中高の三拍子そろった
なつやすみ直前はか・な・り刺激的ですな。
まあ・・・高校生ともなれば家族よりも
その他の関係重視かもしれませんが
それはそれで心配ですからな~。
一方、フィクションの世界の大人の二人は
それなりにラブラブの世界で楽園に旅立ったものと思われます。
はらいそ~(パラダイス)でございますねえ。
原作小説よりもドラマの二人の方が親密だったと
キッドは確信しておりますぞ~。
はたして・・・続編はいつになりますかね。
案外・・・すぐだったりして~。
キャラクター・プリンセスの戸田恵梨香はともかく
大野智は次から次へと
当たり役に恵まれ・・・個性の勝利を謳歌してますな。
やはり、魔王役が見事だったからですな。
さて・・・2シーズン連続で月9をレビューしたので
今回はオフにする予定・・・。
谷間でとりあげるかどうかも未定です。
石原さとみはかわいいけど・・・代表作のない女。
パンチにかけるんですな~。
不思議なことでございますねえ。
それは小栗旬にも言えるので
もはや二線級となった二人が意地を見せることが
できるのか・・・
やや温い目で見守りたいと考えます~。
投稿: キッド | 2012年7月11日 (水) 16時32分