何を考えているのかわからない男(小栗旬)とわかりやすいふにゃふにゃの岳 -ガク-(長澤まさみ)
連夜の片山修演出作品である。
脚本はデビュー作「君といた未来のために 〜I'll be back〜」(1999年)で才能を使い果たしたように見える人だが、人気の原作コミックにあやかってそこそこ書けている。
山岳を舞台にしたドラマというものは意外に少ない。
そのために夏ドラマの「サマーレスキュー」のような底の浅い作品が仕上がるのである。
そういう意味では「岳」もかなりの底の浅さは否めない。
たとえば映画「クリフハンガー」(1993年)はアクション・サスペンス映画ではあるが、山岳救助隊員の活躍はそれなりに描けている。
それに対して日本の山岳ものは・・・山岳を舞台にしたヒューマンドラマでありながら山岳そのものが描けていないのがひとつの限界点になっている。
たとえば山岳映画とは言い難いが織田裕二主演の映画「ホワイトアウト」(2000年)では吹雪によって視界が失われる現象がとりあげられるのだが・・・そういう自然現象ひとつだけでも一本の映画になるほどの極地としての山は深みがあるわけである。
そういう意味ではやはり山岳映画ではないが黒沢明監督の「デルス・ウザーラ」(1975年)が一種の水準点なのだろう。要するに極地の描き方のノウハウの問題なのである。
日本にも「孤高の人」(新田次郎)や、北杜夫の「白きたおやかな峰」、さらには夢枕獏の「神々の山嶺」や谷甲州の「遥かなり神々の座」などの文学的系譜がある。
それが・・・映像化の段階まで波及しないのは・・・所詮、山の物語が孤高だからなのであろう。
それを前提とすれば・・・山男というものは一種の恥じらいを表現することが基本になる。
山への愛を語ることはかなり・・・恥ずかしいことなのである。
なにしろ・・・普通の人々になじめないから・・・山に行くのが・・・真実なのだから。
そういう意味では・・・ものたりないところもあるが・・・ちょっとシャイな小栗旬は恥ずかしい「山男」をそれなりに体現していると言えるだろう。
山の魅力は平地の生活では味わえない極限状況にある。
その魅力にとりつかれた人間はみんな・・・こころのやまいにとりつかれていると言えるのだ。
そういう脳内麻薬的なものを醸し出す山岳映画が望まれる。
実は「岳」は序章である。ここを出発点としてさらに高みを目指してもらいたいと心から願う今日この頃です。
だって、雪山遭難が好きだから。
で、『日曜洋画劇場特別企画 岳 -ガク- (2011年劇場公開)』(テレビ朝日20120923PM9~)原作・石塚真一、脚本・吉田智子、演出・片山修を見た。主人公の島崎三歩(小栗旬)は山岳救助ボランティアであるが、北部警察署山岳遭難救助隊の新人隊員である椎名久美(長澤まさみ)よりも山岳についてプロフェッショナルなのである。なにしろ・・・世界の山を知り尽くした男なのである。そんな男が・・・国内の山岳をうろつきまわっているのが・・・山男の悲哀というものなのだがエンターティメントなのでそこはスルーである。ちなみに警察所管の山岳救助隊は山岳警備隊。山岳救助隊と名乗るのは主に消防署である。この他にも航空自衛隊には航空救難団救難隊が存在する。警視庁には山岳救助レンジャー部隊があり、長野県警には機動隊山岳救助部隊がある。
部隊となるのは日本でも有数の山岳遭難者を出す北アルプスである。
危険なところに行くのもバカだが、そのバカを救助するのもバカなのである。
山に入る
久美は脚線美を売りにしていないのでミニスカポリスを嫌い山岳救助隊に転属願いを出した変わり者である。しかし、実際はかっての救助隊の隊長を父に持ち、山岳遭難者の救助中に死亡した父の跡を追うように山に入ったのである。紅一点の入隊に隊員一同は色めき立つのだった。
配属初日にして遭難事故が発生。命じられるままに出動した久美だった。
しかし、原作では後に結婚することになる・・・なぜ、そんなネタバレをここで・・・まあ、いいじゃないか・・・救難ヘリの乗員・青木誠(森廉)、パイロットの牧(渡部篤郎)、隊長のラクダじゃなくて安藤(佐々木蔵之介)、若手の阿久津(石田卓也)らと現場に駆け付ける久美。
しかし、遭難者はすでに・・・「山馬鹿」と言われる三歩が救助していたのだった。
「なんなんです・・・あの人・・・」
「まあ・・・山の人だよ・・・いや・・・山の化身かな」
「妖怪なんですか・・・」
山を教えてもらう
まだまだ山に関してはアマチュアの久美は休暇を利用して登山にチャレンジしてみる。
そこで三歩に遭遇、滑落の仕方を教えてもらうのだった。
「滑落・・・って落ちたら死んじゃうじゃないですか」
「死なないように落ちることも覚えないと」
「覚える前に死ぬじゃないですか・・・」
「山には捨てちゃいけないものがあるよ」
「ゴミですか・・・」
「それと命だよ」
「・・・」
「死体は重いからね・・・拾って帰るの大変なんだ」
「だから意味わかりません」
千尋の谷に突き落とされる久美だった。
死体を投げる
遭難者救助に向かった久美は絶壁の途中で遭難者の死に目に合う。背中の重みが「死」を実感させ・・・久美は恐慌に陥る。そこへやってきた三歩。
「死体は投げ落とすよ・・・他にも救助しなければならない人がいるから」
「そんな・・・」
「要救助者と遺体は区別しなきゃだめなんだ・・・」
投棄された死体は無残に砕け散る。
遺族に「お前が殺した」と詰め寄られる三歩。
三歩は土下座して謝るのだった。
久美は釈然としない気持ちを抱く。
そんな久美に隊長が説明する。
三歩が最初に救助したのは滑落して五体バラバラになった親友の遺体(波岡一喜)だった。
遭難する
納得のいかない久美はうっかり滑落して遭難してしまう。
たちまち、駆けつける三歩。
三歩は赤いマフラーをプレゼントする。
「遭難した時、見つけやすいから・・・」
「これ・・・どうしたの・・・」
「ひろったの・・・でも暖かいでしょ」
警官として久美はバカに言う言葉を持っていないのだった。
父と娘を助ける
季節は巡り・・・少し雪焼けをしてたくましくなった久美。
「遭難救助に無理は禁物だ・・・二次遭難の危険が分からないうちはアマチュアだ・・・」とベテランの牧は諭す。
しかし・・・久美の父親は隊員にそう諭した後で単身救難に向かい帰らぬ人になったのだった。
父は最後に「花嫁姿が見たかった」と遺言していた。
久美は救援のジレンマを感じるがなんとか克服したのだった。
そんな折、父娘の登山者が雪山遭難してしまう。
多重遭難事故発生で・・・単身、救助に向かう久美。娘(中越典子)の救助には成功するが、タイムリミットとなる。久美は父(光石研)を見捨てられず、自ら命綱を切断するのだった。
爆弾と呼ばれる低気圧が発生し、吹雪に包まれる北アルプス。
久美の危険を感じ取った三歩はダッシュで救援に向かうのだった。
雪崩に遭う
その時、雪崩が発生し、すべてを包み込む。
久美は遭難者とともにクレバス(割れ目)に落下してしまう。遭難者は足を雪片に挟まれていた。
遭難者を生きて返すために足を切断し登攀を開始した久美だったが力尽き、心臓が停止してしまう。久美の立ち往生である。
絶体絶命のピンチだが・・・三歩が神の一撃で久美の心臓を復活させるのだった。
「あなたは・・・神様だったのね・・・」
「ちがうよ・・・バカだよ・・・原作では最後は君のお父さんみたいなことになるよ」
こうして・・・三人は奇跡の生還を遂げるのだった。クレバスからの脱出シーンがないのがエンターティメントとしては痛恨の極みだな。
そして・・・今日もまた山ではバカかバカとすれ違う。
誠に喜ばしいことである。
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