最後から二番目のお願い聞いて(芦田愛菜)永遠のおねだりか(豊川悦司)
最後から二番目のお願いの次は最後から三番目のお願いをするわけである。
最後から1706122番目のお願いとかをする時はもう数字は何がなんだかだけどな。
数字に弱いと損をするのだ。
だから「最後の最後のお願い」である。
「最後の最後の最後のお願い」もある。
「最後の最後の最後の最後の最後の最後の・・・お願い」もする。
これを可愛い娘にやられたらお願いを聞くしかないのだ。
様々な子供たちがいて、様々な親がいる。
幸せは人それぞれだが・・・幸せをひとつも知らずに死ぬものもあるだろうし、生きていくものもあるだろう。
「助けてください」と頼んでも誰も助けてくれない世界もある。
誰も助けられない事情もある。
それでも、地球は回っていく。独楽のように・・・バレリーナのように・・・頭の回転のように。
で、『ビューティフルレイン・第10回』(フジテレビ20120902PM9~)脚本・羽原大介、演出・水田成英を見た。美雨(芦田愛菜)の夏休み最後の日に「若年性アルツハイマー病が治らないためにずっと別れて暮らすこと」を伝えようと決意した圭介(豊川悦司)だった。しかし・・・老いた養父母が美雨の転入手続きの書類を確認しているところを目撃されてしまう。美雨に鋭く問いただされた母方の祖母・愛子(岩本多代)は問われるままに「美雨だけが沼津で暮らすこと」を話してしまうのだった。祖母としては孫が自分たちと暮らすことを厭うとは思いもかけないことだったのだろう。
物語上の年齢は定かではないが・・・祖父の一夫を演じる浜田晃(70)、岩本多代が72才である。統計的には浜田の余命はあと10年くらい、岩本は14年くらいあるわけだが、美雨(8)なので美雨の成人まで面倒見るにはギリギリの年齢なのである。それでも後、五年で養育者としては廃人となる圭介よりは将来的展望があると考えたということなのである。
希望的観測と絶望の境界線は常に隣り合わせているな。
・・・ともかく、父親が理不尽な決断を下したと認知した美雨は一人で長距離バスの乗客となるのだった。「mother」以来、おなじみの芦田愛菜一人旅である。世界の果てまで行けそうな存在感だからな。
「一人でバスに乗っちゃったみたいなの・・・バス会社の人がそう言ってるの・・・私が余計なこと・・・言っちゃったから・・・もしものことがあったらどうしましょう」
「とにかく・・・すぐに迎えにいきます・・・」
圭介は美雨を迎えた。
「着きました」
「よかった・・・よかったあ・・・」
「おばあちゃんたちに心配かけちゃダメじゃないか・・・」
「父ちゃん・・・私に何かをかくしているでしょう・・・」
「・・・」
仕方なく、圭介は美雨の一時帰宅を認めるのだった。
今回は予想通りの「遠くの親戚より近くの他人」という昔ながらの人情話展開である。
木下家で圭介は美雨に「事情」を話す。
「美雨の将来のことを考えて・・・おじいちゃんとおばあちゃんに・・・美雨を育ててもらうことにした・・・」
「なんで・・・そんなこと・・・」
「父ちゃんの病気が治らないからだ・・・」
「どういうこと・・・」
「父ちゃんはずっと忘れん坊になっていって・・・もっともっと忘れん坊になって・・・車の運転の仕方も忘れるし、ごはんの作り方も忘れるし、仕事の仕方も忘れるようになる。そして最後には父ちゃんだってことも忘れてしまう」
「美雨のことも忘れちゃうの・・・」
「美雨のことは・・・父ちゃん死んでも忘れない」
「うそつき・・・」
「ごめんなさい」
黙り込んだ美雨を説得できたと思った圭介は翌日・・・美雨を沼津に送っていくつもりだった。
しかし・・・美雨は自分の部屋に籠城である。
「美雨・・・あけなさい」
「いや」
圭介は困惑する。困った時にはアカネ(中谷美紀)である。
早速、アカネは持論によって説得に乗り出す。
「圭介さんは美雨ちゃんのことを思って・・・決めたのよ・・・わかってあげて」
「どうして・・・どうして・・・別れて暮らすのが私のためなの・・・」
「私・・・圭介さんと同じ病気の人と暮らしたことがあるの・・・」
「それは・・・誰?」
「私の旦那さんのお母さん・・・。この病気はとても大変なのよ」
「だから・・・何?・・・大切な人が大変だったら・・・助けてあげなくちゃいけないでしょ」
「・・・」
「それに・・・私はそんなことちっともつらくないよ・・・私がつらいのは・・・父ちゃんと一緒にいられないことだもの」
(そんなこと言ったってアホになった父ちゃん見たら気が変わるのよ・・・)とは言えないアカネだった。ひょっとしたら義母ではなく・・・認知症になったのが・・・実の父だったら・・・実の母だったら・・・私も違うことを考えるのかもしれないと思ったからである。
そして・・・アカネは深く傷心したのだった。
もっとも血のつながった両親祖父母兄弟が全裸で路上で脱糞し始めると「いっそ死ねばいいのに」と思うことは肉親でもあります。
アカネは説得に失敗した。
「私・・・間違っていたかもしれない・・・美雨ちゃんにとっての幸せは・・・彼女にしか決められないって忘れてた・・・」
頼みの綱を失って圭介はさらに困惑するのだった。
中村産業では「美雨残留派」が息を吹き返すのだった。
馬鹿の秋生(三浦翔平)「もう、このままでいいじゃないですか」
社長夫人(丘みつ子)「そうよねえ・・・」
「美雨放出派」はリーダーを失って混乱する。
宗さん(でんでん)「アカネちゃん・・・どうしたんです」
社長(蟹江敬三)「なんだか引き籠っちまった・・・」
圭介がなすすべもなく・・・オロオロしていると一計を案じた美雨が自ら交渉に応じるのだった。
「父ちゃん・・・最後のお願い・・・叶えてくれたら・・・美雨は沼津に行く」
「お願い・・・」
「四つのお願い、聞いて、聞いてくれたら」
「ちあきなおみか・・・」
美雨の四つのお願いは・・・。
一つ、一緒に料理を作ってください。
二つ、二人で記念写真を撮ってください。
三つ、美雨の好きな絵本を読んでください。
四つ、四輪車(補助輪付き)でない自転車に乗れるようにしてください。
・・・である。最後、ゴロ合わせがちょっと苦しかったな。
こうして・・・「美雨の二人で楽しいことができなくてもいいのかなアピール作戦」が開始されたのである。
二人で散歩に行き、記念写真を撮影する。
「何してるの?」
「父ちゃんと記念写真を撮ってるの?」
「まあ・・・素敵ね」
バレリーナ仲間の菜子ちゃん(吉田里琴)、出番を確保である。
ショッピングでドレスを買ってもらい父ちゃんを悩殺する美雨だった。
二人で餃子をつくる。
「この辺りの出来がもうひとつだな」
「今度はもっとうまく作るもん」
「そうかあ」
「今度は・・・いつ一緒に作るの?」
「・・・」
・・・困らせ上手である。
そして・・・父ちゃんに絵本を読んでもらう美雨だった。
今夜の本は「エラは小さなバレリーナ~エラと『白鳥のみずうみ』/ジェームズ・メイヒュー」である。バレエの大好きな少女エラがバレエを踊っているといつの間にか、バレエの物語の不思議な世界に転移してしまうというファンタジーである。秀逸なアイディアでもちろん「エラと『眠れる森の美女』 」といったシリーズ展開でウハウハである。
バレリーナに憧れる美雨にとってはお気に入りの作品ということになるのだろう。
「白鳥の湖/チャイコフスキー」といえば古典バレエ中の古典バレエと言えるのだが、物語はハッピーエンド展開とバッドエンド展開の双方に分岐している。
言わずもがなだが・・・ざっと物語を紹介しよう。
美少女のオデットが花畑でルンルンしているとわが悪魔仲間のロッドバルトが魔法で呪いをかけオデットを白鳥に変えてしまう。なぜ、そんなことをするかというと白鳥萌えだからである。
その「呪い」は「勇気を出してはじめての告白」をされなければ解けないのである。
こうして、オデットは昼は白鳥、夜は人間という変則的な生活を強いられるのだった。
そんな時、湖に狩りに来たジークフリート王子は夜のオデットを見染める。事情を知った王子はお城の舞踏会にオデットを招待する。王子は21才だが童貞だったのだ。
しかし、悪魔ロッドバルトは愛娘のオディールをオデットそっくりに変身させ、王子に求愛させてしまう。騙されたことに気がついた王子はオデットのもとへと走る。
王子の失敗を嘆くオデット。そこにのこのこと悪魔ロッドバルトが現れたので王子は怒りの剣で悪魔に勝負を挑み、これを討ち果たすのだった。
しかし・・・呪いを解くことができず、「生まれ変わって一緒になろう」と二人は湖に身を投げるというバッドエンドが通常版である。
しかし、悪魔の死とともに呪いが解けるというハッピーエンド版も生まれるのである。
いつの時代もハッピーエンドを好む大衆というものがいるのだから仕方ない。
一応、申し上げておくが・・・そもそも悪魔は永遠に不滅でございます。
さて・・・当然、これは「ビューティフルレイン」の幕切れにもかかわってくる。
特効薬が開発されて「若年性アルツハイマー病」が完治するというミラクルな展開はさておき・・・圭介が美雨を忘れる時、どのようにして忘れるか、そして最後は・・・という各段階のどこで終わるかは・・・作品の完成度を左右することになるだろう。
今回は一つの山を越え・・・家族的な地域社会による介護の方向へストーリーは導かれたわけである。おそらく・・・残り二回・・・どんな結末で終えるのか・・・お手並み拝見なのである。
最後の願い・・・父ちゃんと自転車の練習は中村産業一同の見守る中、つつがなく終る。
馬鹿の秋生の「ずっと乗れないフリをすればいい」案は却下されたらしい。
「父ちゃん・・・願いを叶えてくれてありがとう・・・最後の最後のお願いを聞いてください」
「・・・」
「みんなと一緒にごはんが食べたいです」
中村産業一同号泣である。
その席でアカネが語りだす。
「このまま・・・ここにいれば・・・いいんじゃないのかな」
「アカネちゃん」
「美雨ちゃんは・・・どうしたい?」
「父ちゃん・・・今日はとても楽しかった・・・でも、それは父ちゃんと一緒だったから・・・父ちゃんは楽しくなかったの・・・」
「だけどな・・・美雨・・・父ちゃんは・・・」
「圭介さん・・・私は一人で介護してたけど・・・美雨ちゃんは一人じゃない・・・私は介護の経験があるし・・・どうすればいいかを勉強してきたつもり・・・みんなだって・・・」
「そうだよ・・・」
アカネを支持する中村産業一同だった。
「皆さん・・・美雨を・・・よろしくお願いします・・・」
東京残留の決まった美雨だった。
沼津の祖父母がっかりである。まあ・・・自ら招いたミスだからな。
今回はうっかりさんが許されない展開なのです。まあ、うっかりさんはけして本当にうっかりさんではなかったわけですが・・・「mother」見てない人には分からない話はそこまでだ。
こうして人々の奇跡の善意に支えられて美雨と父ちゃんの物語は延長線に突入したのです。
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