悪夢ちゃん・・・悪魔くんではありません的幻想の夢判断はもげっ(北川景子)
「高校入試」と「悪夢ちゃん」の真っ向勝負である。
なんという・・・究極の選択を迫る残虐非道な各局編成である。
そして・・・「悪夢ちゃん」を選択するキッドだった。
人生は虚しいな・・・お前、悪魔だろっ。
さて・・・「夢判断」とはオーストリアのジークムント・フロイトによる夢に関する精神分析学の研究書である。発表されたのは1900年なので・・・今から112年前の話である。
つまり、昔、昔の話なのである。
その中でフロイトは夢の機能をいくつか考察しているが・・・特に「欲望の充足としての夢」について次のような解釈を展開している。
夢における意識と無意識の葛藤である。ここで意識とは理性的な心的存在を示し、無意識とはそれ以外のすべての心的存在を示している。
「欲望」は理性的なものではないので「無意識的な心」に属するわけである。
夢の中で人は「性欲」や「支配欲」あるいは「死への渇望(現実逃避)」などといった邪な欲望を解放しようとする。しかし、意識は絶えず無意識を監視しており、そういう欲望の解放を妨げるために検閲を行っているのである。
そのために無意識は理性に対し欺瞞的な防衛を試みる。
それが・・・「歪曲」や「寓意」による欲望の装飾化・・・つまり、象徴化である。
たとえば・・・本当は「女を抱きたい」のだが・・・夢の中では「楽器を弾く」というようなことだ。
こうした理論はあくまで・・・人間の精神構造を解明するためのアプローチなのだが・・・一般人にはそういうことよりも・・・「夢」を「神託」としてとらえ、何か有益な情報を得たいと考えたりするわけである。
「夢」を「神のお告げ」であると考える人々はフロイトの前にも後にも続いていく。
そして・・・フロイトが懸命に理論化しようとした「夢」よりも・・・町の占い師の夢判断の方が多くの人に好まれたりするのが・・・この世界というものなのである。
やがて・・・フロイトの反逆的な弟子であるスイスのカール・グスタフ・ユングは精神分析学を発展させ、分析心理学を構築する。
その中で無意識に集合的無意識という概念が導入される。無意識の中には各個人ではなく、家族、あるいは民族といった集団に共通の部分があるというわけである。
それは情報の共有という面では至極当然の話であるが・・・そこから怪しい人々は各人の無意識が接続されているという幻想を展開していくのである。
つまり、「夢通信」の夢想である。ここまでくるとかなり時空を超越してくるので・・・「過去」や「未来」が夢によって認知されるという妄想にたちまちたどり着く。
「予知無」なんていうのは・・・そういう怪しさを内包していることを夢々疑うことなかれ・・・。
まあ・・・フロイトやユングよりも遥かな昔から夢占い師たちはあることないこと占ってきたわけですが。
で、『悪夢ちゃん・第1回』(日本テレビ20121013PM9~)原案・恩田陸、脚本・大森寿美男、演出・佐久間紀佳を見た。帝都工科大学夢研究所のマッド・サイエンティスト・古藤万之介(小日向文世)は孫娘の古藤結衣子(木村真那月)を用いて驚愕の人体実験を繰り返していた。すでに実用化しているらしい脳内記憶のAV化装置を使い、結衣子の脳内から記憶を抽出しているのだった。明らかに児童虐待だがこの世界では不問にふされるらしい。
その虐待を肯定化するのが・・・結衣子の特殊能力である「未来の出来事を夢見る力」を解明することなのである。
そんな理由で夢を覗かれてたまるか・・・とちょっと気のきいた小学生なら人権を主張するところだが・・・母親が死亡し、父親が消息不明の結衣子は保護者である祖父の意向に従うしかないのであった。
万之介は結衣子の夢を「夢札」と呼ばれるメディアに記録しコレクションしているわけだが・・・人間として良心の呵責を感じることがあった。
せっかく、結衣子が悪しき未来を予知しても、口下手なためにより良き未来に改変することができない・・・ということである。
つまり・・・3月11日に巨大津波が発生することを予知していたのに誰も救えなかったということなのである。
まあ、分からない話ではないが・・・小学生女児の夢を勝手に覗いていることの方が問題だとキッドは考えます。おいっ・・・。
・・・まあ、それを言ったら始らないし、悪魔的にはどちらもたいした問題ではないので話を進めます。
そんな・・・古藤家のジレンマに救世主として福音をもたらすものが出現する。
結衣子の夢世界に登場した明恵小学校5年2組の担任教師・武戸井彩未(北川景子)がその人なのである。
武井咲と上戸彩と剛力彩芽と三輪麻未を合成したような・・・星屑なのになぜ神槍そろえなんだよ・・・ネーミングだがまあ・・・いいか。
意味不明にも見える言動は慎みたまえ。
武戸井彩未は遺棄児童の過去を持ち、施設育ちである。とても構外できないような陰湿な虐待の過去を持つのであろう。その性格はねじくれ曲がっているのであるが・・・一周して元の位置のような正義の女神の心を内在しているらしい。
しかし、本人は全くそういう意識はなく、笑顔をふりまきながら心の中では不平不満が渦巻く凶悪な人間だと自覚しているのである。
もちろん、それは彼女の表層意識がそうであるに過ぎない。
どんな凌辱にも穢れなかった性なる魂・・・いや聖なる魂が彩未には宿っているのだった。
直近の結衣子の予知無では「表札にカプトムシがとまった老夫婦の家が炎上する」のである。
これ以上・・・結衣子に「悲劇をとめられなかった悲哀」を味わせまいと決意した祖父・万之介は娘を明恵小学校に転校させるのだった。
悪夢ちゃんと聖教師・彩未の運命の出会いだった。
おりしも・・・明恵小学校・裏サイトでは・・・彩未の正体を暴露する書き込みがなされていた。
曰く「彩未は笑顔の仮面をかぶっている。しかし・・・その笑顔はすべていつわりで・・・実は心のない女である。彼女はサイコパス(精神病質の反社会的人格者)なのだ」
この告発に対し、周囲の教師は「なんてひどい・・・先生がそんな人ではないのは・・・教職員一同が知っています」と擁護するのだが・・・本人は「ズバリ当たっている」と認識するのだった。
一方、愛読書が「あなたの隣にモンスターがいる」の凶悪な養護教諭(保健室の先生)である平島琴葉(優香)だけは「ひっひっひ、そうじゃないかと思ってた」と告発に対して激しい共感を抱くのであった。
曰く「美人で性格がいいなんて・・・あってはならぬこと」なのである。
まあ・・・脚本家は「風林火山」の人なので基本的にゾクゾクするわけである。
ついでに・・・彩未の夢の中には夢王子(GACKT)が登場する。古の上杉謙信である。
彩未は過酷な現実から逃避するために夢の中に夢の世界を構築していたのである。
そこで彩未は夢王子とともに永遠の幸福に酔い、スイーツ・ハウスを食し、ペガサスに乗って虹の彼方に旅立つのである。
捜しものはなんですか
見つけにくいものですか
また夢獣(声はファンが聞けば誰だか分かるももいろクローバーZのメンバー・・・番組宣伝番組を視聴した人にもわかります)と書いて「ゆめのけ」は「君は凄い力を持っている・・・あらゆる夢がかなう究極の力の持ち主なんだ・・・君ならきっと世界を救うことができる」と魔法少女を誘惑するノリである。
幸せが棲むという虹色の湖
幸せに逢いたくて旅に出た私たち
そんな・・・腹黒い登場人物の一人、5年2組の女子児童・・・相沢美羽(木村葉月)が「先生、生きるために必要なのは嘘ですか・・・真実ですか・・・」などと言って彩未に迫るために・・・すっかり、告発を書き込んだのはこの子だと推定する彩未なのであった。
一方、悪夢ちゃんは・・・「老夫婦を助けて」と彩未に懇願するが・・・彩未は「予知無」を信じない。なにしろ・・・彩未は人間というものを信じていないのである。
結果として・・・老夫婦は焼死・・・。
介護に疲れた老いた夫が認知症の妻に火を放ち無理心中したのである。
美少女ブラックジャック・・・ではなかった先天的白メッシュの悪夢ちゃんは絶望するのだった。
いきなり、転校生に不登校されて窮地に立つ彩未である。
仕方なく・・・古藤家を訪問するのだった。
すると・・・そこには夢王子とそっくりな古藤教授の助手・志岐貴がいたのである。
夢の中へ
夢の中へ
行ってみたいと思いませんか
うふふ
しかし、現実の夢王子は古藤教授の研究に対して邪悪な欲望を抱いている模様である。
そして、ついに・・・古藤教授と孫娘の暗黒の夢が彩未を冒涜し始めるのであった。
「夢は内から来るのではない・・・外から来るのだ」
「先生・・・私の夢札を見てください・・・」
白日夢を見る悪夢ちゃんはレム睡眠時の眼球運動の如く、不気味に眼を揺らしながら彩未を見つめるのだった。
夢の教室では・・・霊的時空の歪みにより・・・近未来の出来事が混入する。
宇宙情報と結合した無意識界には過去も未来も現在もすべて同時存在するからである。
もちろん、現実世界でそれを認識するのは困難だが夢の世界では不可能は可能なのである。
悪夢ちゃんは他者の無意識と全無意識をリンクさせ、自分の無意識に反映できるスペック所有者なのである。
悪夢ちゃんは同級生の美羽の無意識と夢王女・彩未の無意識を融合しつつ、これから起きるであろう出来事を再構築する。
美羽こそが告発者だと誤解した彩未は美羽を殺害し・・・そして赤い鰐の餌食となってしまうのである。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
「夢はあくまで現実の解釈なのです。そこには隠蔽された事実が潜んでいます」
「つまり・・・神の領域に手をつっこんでわけのわからないものをつかみだしたのね」
「そうです・・・たとえば単純な例では甲という名字がカブトムシに変形されたりします」
「つまり、スーパーコンピューターの復元処理で修正されたヴァーチャル未来ってことね」
「凄いな・・・あなたの理解力は・・・まるで神のようだ」
「この世界が私の夢でないと断言できないのと同じことよ」
彩未は直観力を総動員して予知無の解釈を試みるが・・・結局、わけがわからないのだった。
そのあげく、美羽と直接対峙した彩未は家族問題で悩む美羽の心を読み間違えてしまう。
告発者の濡れ衣を着せられ傷心した美羽の母親(相田翔子)は彩未の責任を追及し始める。
「悪夢だわ・・・」と切羽詰った彩未は彩未を憎悪するあまりに崇拝するようになった保健室の琴葉先生を使い魔として悪夢ちゃんとともに美羽の元へと向かわせる。
おりしも悪夢ちゃんはヒッポグリフが火の矢で墜落する夢を見るのだった。
やがて・・・美羽の母親が美羽を置き去りにして不倫旅行に旅立つことを美羽が知ってしまったことが判明する。
ヒッポグリフは馬とグリフォンのキメラ(合体獣)である。
グリフォンは鷲とライオンのキメラである。
グリフォンは七つの大罪の傲慢を示し、美羽にとって母親の象徴である。
美羽にとってヒッポグリフは母親と愛人が合体した姿なのである。
グリフォンの好物は馬であり、食用馬と捕食者が婚姻して混血獣が生まれることは「ありえないこと」と推定され、ヒッポグリフは「存在の否定」そのものなのであった。
「二人の乗った旅客機が墜落するんだわ」
ついに・・・夢王女の解釈者としての能力が開花したのである。
空港に駆け付けた夢王女は母親をコンパスで刺そうとした美羽に刺されてしまうが・・・冷え症のため腹巻きをしていたので無事だった。
そして、ものすごい剣幕で旅客機の再点検を命じたのである。
「ものすごく感のいい教師、旅客機事故を食い止める・・・単なる被害妄想のお手柄」
読売新聞なら記事にするかどうか・・・今はとにかくナイーブなので・・・躊躇するだろう。親会社の不幸を子会社予知ドラマである。
簡単に説明しよう。
無意識の世界の正しい情報→
空港で美羽が彩未をコンパスで刺す
意識界への情報の転送→
ノイズ・・・ノイズ・・・ノイズ
悪夢ちゃんの夢の情報→
教室で彩未が美羽をガラスの破片で刺す
このように変換ミスが発生するのが悪夢ちゃんの予知夢の限界なのだ。
もう・・・勢いで持っていっちゃってるから説明なくても分かる人には分かります。
そして、その後・・・彩未は現実の夢王子に拉致され夢を盗まれそうになるのであった。
とにかく・・・物凄いドラマ始っちゃいました。
関連するキッドのブログ→みをつくし料理帖
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→mari様の悪夢ちゃん
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