哀しいのは将軍だからではないのです(多部未華子)
かってはサイエンス・フィクション(SF)とファンタジーとの区別はなんとなくあった。しかし、一部の作家がSFとファンタジーとは違うということに拘泥し、スペキュレイティブ・フィクション(SPF)と言う言葉でSFの高尚化を試みた。しかし、たかがエンターティメントのジャンルの話である。たちまち、そういう「流れ」は消滅した。その後はSFとファンタジーはなんとなく棲み分けたのであるが、最近では・・・こういう現実離れした話の総称をスペキュレイティブ・フィクションと呼ぶという傾向もある。つまり、かっての個称が総称にすりかわってしまったのだ。なんとなく微笑ましい話だ。
まあ、たとえば「時間旅行」という絵空事に「時空の歪み」だの「亜空間飛行」だのというもっともらしい理屈をつけるのがSF、「魔法なのです」という一言で片付けるのがファンタジーということになる。
そういう意味ですでに起こってしまったことを物語るという形式のイフ(もしもの話)はこれまたSFともファンタジーとも判別しがたいジャンルである。
しかし、そこに「正史」に対する強烈な風刺を感じ取るとなんとなく、ファンタジーとは言い難くなる時もある。
結局は知的好奇心の満足のさせ方の話なのである。
まあ、この物語を「異世界ファンタジー」と考えるか、「歴史改変SF」と考えるかは・・・お茶の間の教養の問題なのだな。
キッドはできれば後者の方向で楽しみたいと考えている。
で、『大奥 ~誕生~[有功・家光篇]・第3回』(TBSテレビ20121026PM10~)原作・よしながふみ、脚本・神山由美子、演出・金子文紀を見た。猫好きの人が悶え苦しむ第三話である。ちなみに物凄いネタバレであるが、若紫(たま・こたま)殺害の真犯人である玉栄(田中聖→映画「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]」西田敏行)はこの男女逆転史では後の五代将軍綱吉(菅野美穂)の父・桂昌院である。綱吉と言えば正史では「天下の悪法」として知られる「生類憐みの令」の発布者なのである。綱吉はこの法を桂昌院に孝養をつくすために発するわけで・・・つまり、仏教徒として極限まで後生を大事にする殺生戒の延長なのである。だから玉栄の猫殺しは一同爆笑ポイントなのである。
ここで正史と逆転史(大奥~誕生~的歴史)を比較してみよう。
正史では三代将軍家光は慶長九年(1604年)に生れ、元和九年(1623年)に数え二十歳で三代将軍に就任し、慶安四年(1651年)に死亡している。享年48であった。
逆転史では三代将軍に就任した年に町娘・お彩(永田沙紀)を暴行し、お彩は後の女家光となる千恵(多部未華子)を懐妊する。
男子の死亡率が80%という奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が蔓延し、男家光(岩井秀人)は寛永十一年(1634年)に31歳で逝去する。
この年、春日局の采配で密かに養育されていた千恵(庵原涼香)は11歳で大奥に移され、母のお彩は始末されてしまう。すべては将軍家の血筋を絶やさぬためであった。
正史では春日局の実子・稲葉正勝は寛永十一年に享年38で病死している。
逆転史では正勝(平山浩行)は死なず、頭巾をかぶって表向きの偽家光となるのだった。このために妻の雪(南沢奈央)とは生き別れの身である。
14歳の千恵/女家光は寛永14年(1637年)に大奥を抜け出したところで城内で若侍に性的暴行され懐妊する。母娘二代に渡る一発必中である。
正史では家光の側室・お振りの方(自証院)がに家光の長女・千代姫を生んでいる。千代姫は尾張藩主・徳川光友の正室になるがお振りの方は産褥により死去している。
逆転史では千恵/女家光は女児を出産するが死産であった。
正史では御三家は尾張徳川家の徳川義直が慶安三年(1650年)まで存命し、紀州徳川家の徳川頼宣が寛文十一年(1671年)まで存命し、水戸徳川家の徳川頼房が寛文元年(1661年)まで存命した。
逆転史では春日局が男家光の死にあたり、御三家の男子血統がすでに絶えていることを言明している。
このように正史と逆転史は微妙に絡み合っているのである。
映画「大奥」では一世紀近くを経て女将軍である八代吉宗は女装である。その世界では男女逆転が進行し、すでに女が将軍であることは当然のことになっている。それに対し、寛永十七年(1640年)の17歳の女家光は男装を余儀なくされている。それはこの時代が正史→逆転史の分岐点に近いことを示しているのである。
正史では家光の側室たちは家光の晩年に至って次々と男子を出生する。
驚くべきことに四代将軍・家綱、五代将軍・綱吉、六代将軍家宣の父・綱重はすべて家光晩年の出生なのである。
正史とは違う歴史を歩みながら、何故か正史に相似して行く逆転史。この辺りは歴史改変SFでは「歴史」そのものを神格化し、「歴史の復元力」などと称して有り難がるものなのである。つまり・・・この後、女家光は・・・。
ちなみに正史では藤原北家近衛流支流鷹司家より鷹司孝子が家光の正室となって延宝二年(1674年)まで存命する。
逆転史では正室も含めて男家光の愛妾たちはすでに始末されてしまったわけである。
家光の妹・千姫なども寛文六年(1666年)までは存命なのであるが・・・逆転史では一体どうしているのやら。もちろん、家光の姉妹は勝姫、珠姫など他にも多数いるわけである。ドラマには登場しないが彼女たちも逆転の徳川家の存続にそれなりに寄与したのだろうと妄想できるのだ。
ついでにドラマでは残虐無比の春日局は正史では寛永20年(1643年)に享年64で死去する。余命わずかなのである。誠に人の世は儚いものなのだなあ。
いつしか・・・女家光は万里小路有功ことお万(堺雅人)に心を寄せるようになっていた。
千本ノックで吹っ切れたのかお万は女家光から贈られた仔猫の若紫を心の慰めとして日々を穏やかに過ごしている。
そんなお万を狙う御中臈の角南重郷(戸次重幸)が若紫から女家光の匂いを嗅ぎ取ろうとしているのを目撃した玉栄は一計を案ずる。
玉栄はお万の方一途なのである。
心を鬼にして重郷の脇差で若紫を殺めたのだった。
濡れ衣を着せられた重郷は女家光に手討ちにされるところをお万が身を挺して守り、切腹を許される。
これにより、城中でのお万の人気は高まるのだった。
やがて、女家光は己が過去をお万に語るようになる。
ところが・・・男装のために髪を切らねばならない女家光が城下の娘の髪を剣術指南役の澤村伝右衛門(内藤剛志)に斬らせて鬱憤を晴らしていることを知ったお万は義憤にかられて女家光を叱責してしまう。
ちなみに将軍家指南役の柳生宗矩(柳生十兵衛の父)は正史では正保三年(1646年)まで生存している。家光は遊び心から宗矩に能の舞いを舞わせることを命じたという。
女家光はお万を手討ちにするかと春日局(麻生祐未)に問われるがいつしかお万に心を奪われているために返答に屈する。
そこで春日局はお万たちに女装をさせて罰することを提案する。
女装を命じられたお万は稲葉正勝から女家光の過去をすべて聞き出す。
その哀しい過去を知ったお万は菩提心を発するのだった。
「人を救おうと出家した身でありながら・・・己の境遇を嘆き・・・目の前に救いを求めるものがいるのを見逃すとは・・・なんという傲慢だったろう」
お万は・・・名実ともに女家光に人生を捧げることを決意したのだった。
お万の女装を待ち望んだお茶の間の一部愛好家落胆である。
澤村伝右衛門も女装する狂乱の宴のあとでお万は女家光の髷をおろさせ・・・女装のための衣装を着せかける。
「私が着るよりも上様が着た方がお似合いでございます」
その夜・・・女家光は身も心もお万によってほどかれていった。
関連するキッドのブログ→第2話のレビュー
ごっこガーデン。大奥・春日の間セット。まこ「ぼぎゃあああんっと金田一さんちを爆破してから家光マスクをつけてやってきたのでしゅ~。哀しい過去を乗り越えて今、仮面を脱ぎ捨てた上さまはお万の方の胸に飛び込む五秒前なのでありましゅ~。その前に若紫にナムナムしなければなりましぇ~ん。お墓ガーデンに行くのは面倒なのでスマホでネット参りですませましゅ~。じいや、この後はどこのガーデンのスケジュールでしゅか~。忙しくて目が回るじょ~」くう「来週は窪田正孝くん登場でございます」ikasama4「大河の出番終る→民放ドラマの法則ですな」シャブリ「庵原涼香ちゃんだ!!美形すぎる~」
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→mari様の大奥~誕生~
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コメント
キッドさま
素晴らしい回でした。こんなに心震わされたことは
仁 1stシーズンの前半以来な気がします。
残念ながら歴史改変SFと考える教養は持ち合わせていないんですが(゚ー゚; そんな私でも十二分に楽しかったです。脚本も演出も完璧だった気がします。前半のネコ殺しの逸話だけでも玉栄のしたたかさとBLがうまく表現されていて(この部分が生類憐れみ・・云々の面白さに続く部分だけは 私でもなんとか理解できました)脚本が秀逸だと思っていましたが たたみかけるように女家光の過去、悲しみを表現させる演出が素晴らしかった
多部ちゃんに泣かされました
ファンタジー部分だけでも満足度100%なんですけれど後からキッドさんの歴史改変のレビューをちゃんと理解できたら どれだけ楽しめちゃうんだろうo(*^▽^*)o
ずっと保存しておきたいと思う第3話でした!
投稿: chiru | 2012年10月27日 (土) 13時17分
ふむふむ・・・正史と逆転史のお勉強・・・
う~ん、まこ☆ミキには難しすぎデス。
出てくる人物も多過ぎて、角田美代子事件並みの
相関図で人物名も覚えきれましぇん
なので、お万の方に抱きついて、ヨヨヨと涙する事に!
じいや~、ウソ泣き用の目薬ちょうだい!!!
投稿: まこ | 2012年10月27日 (土) 14時14分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファン
他人の気持ちになって考える。
人が人間になるもっとも基本の要素ですな。
壊れかかっている上様のおいたちを知り
自分の未熟を悟るお万。
この時、お万は観音菩薩となったのでございます。
ジェンダーの問題もまた同様で
女が生む機械なら
男ははらます機械ということになりますからな。
この男女逆転の世界では
そういう皮肉が散見できます。
さらに生類憐みの令ともなりますと
ペット愛好家では
「人よりペット」的な人もいますし
お犬さまを傷つけた人間を拷問するという
本末転倒に見える出来事も
正当化されうるわけでございます。
植木の事で刃傷沙汰でございます。
そういう人間の個性というか
手前勝手なところの面白さにみちあふれた大奥の世界。
しかし・・・そんな世界にも
愛があるじゃないか・・・
ここがうるうるポイントですな~。
じゃじゃ馬セブンティーンを
メロメロにさせるお万の方。
さすが、堺さまさすが~でございまする。
投稿: キッド | 2012年10月27日 (土) 15時31分
●no choco●まこ☆ミキ様、いらっしゃいませ●no choco●
お勉強も大切ですが
ものごとをあるがままに感じ取ることも
大切ですぞ~。
まこ様はその点は万全でございまする。
(じいやバカ発動中)
角田事件は悲惨すぎて
手のつけようがありませんな~。
ゴキブリは見たら
たたきつぶすのが一番かもしれませぬ~。
お屋敷にはゴキブリ退治用の
若紫ロイドが多数配置されていますので
ご安心くださりませ~。
基本、獲物みせびらかしモードは
オフにしておりますぞ~。
オンにしますとゴキブリとかネズミとか
みせびらかしにくるのでご注意ください。
まこ様、ごっこガーデンにいりびたっていないで
学習室にもお立ち寄りくだされますように。
もうすぐテストですぞ~。
投稿: キッド | 2012年10月27日 (土) 15時58分
おひさぁ~!
&& TB さんきゅきゅ~
庵原涼香ちゃんは、とっても気になる子役ちゃん。
とある学生時代に似た顔の後輩が居て、
「あ~、こういう感じの美人になるのか」と
ようちえんドラマで脳に焼きついちゃったからなの。
>逆転史では正勝(平山浩行)は死なず、頭巾をかぶって表向きの偽家光となるのだった
次回の「チューボーですよ」にご出演ですw
投稿: シャブリ | 2012年10月29日 (月) 01時12分
▯▯black rabbit▯▯シャブリ&飯綱遣い様、いらっしゃいませ▯▯black rabbit▯▯
いつもお世話になっています。
最近、リピートの時間が足りなくて~。
庵原涼香ちゃん、浅見姫香ちゃん
・・・と渋い子役の連夜登場ですな。
本当に最近は層が厚い。
子役だけならハリウッドレベルなのでは
と思う今日この頃です。
和風の美人顔も
かなりヴァリエーションが
揃っているので
将来が楽しみですねえ。
なにしろ、全員そのままではないのが
醍醐味ですから~。
「チューボーですよ」のゲストも
最近、のってますよね~。
投稿: キッド | 2012年10月29日 (月) 04時11分