重ねたくちびるがつめたくなってせつなさなんか教えてくれるの(成海璃子)
建春門院滋子(成海璃子)退場である。
実に雅な姫であったことだなあ。
その名の示す通り、平安京の終焉に一瞬の「春」を建てた治天の君の妃・・・建春門院なのである。
それは王家(皇室)と平家(伊勢平氏)の憩う春であり、後白河院と平清盛の糾う春だった。
父・平氏、母・藤原氏の公家の一員とはいえ、清盛の祖父・正盛の娘・政子に育てられ、まさに平家の秘蔵の姫であり、聖徳太子の再来と謳われた才媛・上西門院に磨かれた王家の玉。
それが平滋子という国母だったのりである。
仁安3年(1168年)に皇太后となり・・・言わば国の頂点にたってから8年。
その「死」はあまりにも早すぎたと言えるだろう。
圧巻の平安絵巻であるこの物語で20才の成海璃子は見事な花を咲かせたと言える。
そして・・・春は去ったのだった。
まあ、長いシンデレラ・ハネムーンだったのだな。
激しく火花を散らした清盛と後白河院の束の間の休息の時は終り・・・絆を失った二人は燃えるような夏に身を焦がしていくことになるのだった。
さて・・・この「枠」は来週から・・・物語に先んじて「都落ち」の予定である。
おそらく「平清盛」の記事は(水)レビュー枠になる予定ですのでご了承くださりませ。
で、『平清盛・第40回』(NHK総合20121014PM8~)脚本・藤本有紀、演出・中島由貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は待望の後白河法皇出家ヴァージョン描き下ろしイラスト大公開でございます。武の清盛、文の後白河院・・・この両輪があってこその平安末期なのですな。時には対立し、時には抱擁して・・・腐敗しきった社会を変革した両雄。そして両雄は並び立たない・・・これは鉄則ですな。そして平和ボケした人々はすぐそこまで迫っている破局の序曲を聞く耳を持たない・・・これも定番でございます。あの大震災が何の薬にもならない為政者なんて・・・滅びるべくして滅びるのですな~。
蜜月はあっという間に過ぎ去るので時の流れは加速する。承安四年(1174年)に平清盛が大輪田泊に経ヶ島を築き、対宋貿易は軌道に乗る。宋銭の大量流通が始り、否が応でも経済活動は活性化するのだった。その年の三月、後白河院は滋子を伴い、厳島に御幸する。法皇が海路を渡り御幸することは破天荒なことだった。この一事を見ても後白河院の型破りな性格、滋子への執着、そして平家一門への信頼が窺がわれる。この御幸には従二位平権中納言宗盛、正四位下平左近衛権中将知盛、正四位下平左馬頭重衡らが供奉している。これにより、厳島神社の格式は高まったのである。承安五年(1175年)七月に安元に改元されると法然上人は比叡山延暦寺を降り知恩院にて念仏を説く。浄土宗の始りである。明けて安元二年(1176年)に後白河法皇は齢五十を数え、盛大な式典を開催する。平家一門は莫大な財をこの祝宴に投じたことは言うまでもない。まさに後白河院の春。平家の春だったのである。その後、有馬温泉に御幸した後白河法皇と滋子だった・・・。だが直後に・・・滋子は突然の病に伏し・・・一月ほどの闘病の後に享年35で世を去るのである。建春門院滋子の死は暑い夏の始りを予感させた。
賀茂川を下り、摂津国へと向かう御座舟が揺れる。
夕立であった。
都を一歩出れば言い知れぬ荒廃が村々に広がっている。
流行病によって離散した村落がそこにあった。
御幸とは言え後白河法皇の一行は軽装である。
西光は不吉な予感におびえていた。
嵐に遭遇し、御座船が沈む・・・その思いは夕暮れの朱色を消して広がる暗雲を見て急速に高まった。
「舟を停め・・・近隣で難を避けてはどうか」
問われたのは護衛を担当する平知盛であった。清盛の四男であり、齢二十四ながら平家一の武勇を謳われている。知盛は家人として控えている若武者に目配せをした。
男装をしているがくのいちの朱雀姫である。
朱雀姫は舟の奥屋に控える女官に伺いをたてさせる。
舟輿の御簾を開け、建春門院滋子が姿を見せた。
「嵐が近い・・・西光の申す通りにせよ・・・」
鶴の一声である。舟は河岸に身を寄せる。
控えの舟から舟武者が水面に降りて渡しの板を張る。
「陛下・・・お急ぎなされよ・・・」
滋子に急かされ法皇は下船する。
平家武者、平家忍びが二重の警護体制をとり、法皇と皇太后の乗る輿を守護する。
朱雀は知盛に囁く。二人は従兄妹の間柄である。
「この先にあるのは廃村なれど・・・古い御堂がありますればそこで雨風をしのげましょう」
「うむ」
一行は知盛の指図で道なき道を進む。
廃寺の傾きかかったお堂が視界に入ったと同時に風雨が激しく襲いかかった。
御座をしつらえる間もなく貴人を御堂に入れた時には雷鳴が轟いていた。
「これは・・・恐ろしげな」
西光は濡れた身体を震わせた。
その時、周囲を警戒する武者が悲鳴を上げた。
「鬼じゃ」
「鬼が出た・・・」
「あれは・・・」
風雨を突いて出現した鬼神の姿を見て西光は叫んだ。
「鎮西八郎!」
凄まじい殺気を放つその姿は保元の乱で敗れ、伊豆に流罪になった後、数年前に討ち果たされたと噂される源鎮西八郎為朝であった。
しかし、押し迫る闇の中でその目は赤く光る。
「この匂い・・・平家の腐れ武者であろう・・・うらめしや」
陰鬱な声が豪雨の中に響き渡る。
「もののけじゃ・・・」
平安京で亡霊武者と戦った朱雀は・・・それが何者かの呪力で蘇ったこの世ならぬものであると悟る。
知盛の配下は矢を放つが鬼武者には通用しない。
邪悪な霊気を放ち、鎮西八郎鬼は平家の武者をなぎ倒す。
一撃で絶命する若武者たち。
「これは・・・」
朱雀姫は依然戦った亡霊武者とは比べものにならぬ破壊力に絶句した。
「皆のもの・・・さがれ・・・」
その時、お堂から凛とした声が響き渡る。
「建春門院様・・・なりませぬ」
「さがるのじゃ・・・汝らの敵する相手ではないわ・・・」
十二単を脱ぎ捨て白衣一枚となった滋子が法具を持って姿を現した。
「ほっほっほ・・・これは見目麗しき女子じゃの・・・」
巨大な鬼神の声なき声が雷鳴轟く中にもはっきりと聞こえる。
朱雀の眼にはその姿から巨大な竜が立ち上るのが映る。
白竜である。
一方、滋子の体からも竜が生じていた。
「主驚恐怖畏、火神凶将陰」
滋子の唱える陰陽呪文とともに朱色の竜は真っ赤な炎を吐いて翼を広げた。
「こしゃくな・・・」
鬼神の赤い目に驚愕と微笑が浮かぶ。
白竜と赤竜はもつれあった。
神霊の戦いである。霊視のきくものだけが見える戦だった。
赤竜の燃える炎はやがて白竜を圧倒し、その炎は鬼神にも降り注ぐ。
「おのれ・・・我が恨み・・・果たせもせず奈落へと戻ることできぬ・・・汝も道連れじゃ」
「滋子様・・・」
思わず朱雀は叔母の名を叫んだ。
大地に暗黒の穴が開き・・・すべてが飲みこまれていく。
白竜に引きずられ赤竜も闇に沈みこむ。
すべてが終わった後で・・・雨は小降りになっていた。
朱雀は走る。お堂の前では白衣の滋子が倒れ伏していた。
「建春門院様」
「しげこ・・・」
お堂の中から法皇が姿をみせた。
倒れた愛妃を抱き起す。
しかし・・・滋子の命はすでに散っていた。
法皇は冷えていく温もりをたぐりよせようと滋子を抱きしめる。
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