土下座したらお情けをいただけますか(堀北真希)おもてをあげい(柴咲コウ)大奥・男女逆転(二宮和也)
この物語は誰にでも楽しめるが、爆笑したりニヤニヤしたりするためには本家の「大奥」を何度か見ておいた方がよいだろう。
どの世界にもハーレムとか、後宮とか、酒池肉林はあるものだが・・・大奥と言えば徳川幕府が築いた将軍家繁殖システムである。
男であれば「絶世の美女とたくさんたくさん寝たい」と思うわけであるが・・・初代はそうでも代を重ねるに連れ、とにかく後継者が求められるというのが世の常なのである。
そのためにある程度、義務としてたくさんのたくさんの女と寝るようになるわけである。
それでもそこにはまさしく男のロマンがあるわけだが・・・基本的に本家「大奥」の視聴者はどちらかと言えば女性でドロドロとした女の本性を鏡で見るように見たいと思うわけである。
で、男はそういう女心を覗くことでまた別の男のロマンを感じるという仕掛けになっている。
そういう奥行きを感じたものは・・・己の大奥を描きたいと思うわけである。
すると・・・もう・・・そこには変態の世界が広がるばかりなのであった。
屈折に屈折を重ねた女の性が描く・・・大奥ファンタジー・・・その新たな歴史の幕が開くのだった。
で、『大奥(2010年劇場公開)』(TBSテレビ20121003PM9~)原作・よしながふみ、脚本・高橋ナツコ、監督・金子文紀を見た。正徳五年(1715年)は徳川幕府・第七代将軍・徳川家継の御代だった。五歳で将軍職を継いだ史上最年少将軍だったが・・・この世では幼女だったのである。この世では「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という恐ろしい感染症が蔓延し、感染した男子は五人に一人しか生存できないという事態となったのである。このために男子の人口が激減し、この世は女性によって運用されるようになっていた。男子は貴重な子種として珍重されたが、もはや、社会の主力ではなくなっていた。
女性中心社会の誕生である。
時は過ぎ、女将軍が当たり前となり、大奥は将軍の威光の証として、希少な男子を囲いこみ、美男三千人人が将軍に奉仕する女人禁制の場となっていた。
そんな時代の貧乏な旗本の家に水野祐之進(二宮和也)は生きていた。
家には跡継ぎの志乃(白羽ゆり)があり、仄かな思いを寄せる幼馴染のお信(堀北真希)は大店の跡取り娘であるために身分違いで結ばれぬ定めである。
それでも、祐之進は剣術に打ち込み、子種を求める女たちには奉仕の精神で応じる健気な武家の男となっている。
やがて、祐之進はお信への思いを断ち切るために、家長である母・頼宣(倍賞美津子)に大奥へ奉公に上がることを申し出る。苦しい家計を助けることもその理由の一つだった。
神社の境内で交わしたお信との口づけを思い出に・・・祐之進はお目見え以下の身分の男・水野として大奥に上がったのである。
江戸城大奥、そこは一度上がれば・・・里帰りもままならぬ・・・禁断の地であった。
身分を同じくする大奥の男・杉下(阿部サダヲ)の手引きで大奥の暮らしに慣れていく水野だったが・・・そこには「上様に認められ将軍の父となること」を夢見る男たちの欲望と嫉妬が渦巻いていて、生粋の江戸っ子である水野は辟易することになる。
そんな、水野を大奥総取締の藤波(佐々木蔵之介)や、御中臈の一人・松島(玉木宏)は何故か生温かい目で見守るのだった。
松島のお気に入りだった鶴岡(大倉忠義)は水野に剣の試合で敗れ、嫉妬と屈辱で我を忘れる。
そして、殿中での抜刀闇討ちを仕掛けるのだった。
「抜け・・・水野」
「抜けませぬ・・・我が刀は上様をお守りするためのもの」
抜刀しない水野に敗れた鶴岡は大奥の片隅で一人切腹をする。
武士の情けである・・・水野は介錯をするのだった。
鶴岡に切られ浅手を負った水野だったが・・・鶴岡の殿中抜刀について口を閉ざす。
そんな水野を大奥総取締の藤波は「男の中の男・・・」と生温くほめそやすのだった。
この一件で一目置かれる存在となった水野は垣添(中村蒼)たち若者にとりまかれるようになる。
やがて・・・正徳六年、享年八歳で第七代将軍・徳川家継が逝去すると・・・暴れん坊将軍の異名をとる紀州家の芳胸・・・ではなかった吉宗(柴咲コウ)が八代将軍となる。
吉宗は幕政改革の志を秘める大器であった。
ここに藤波が権謀術策を練り、水野を将軍にお目見えできる御中臈の身分に引き上げるのだった。
吉宗の質実剛健の好みを知り、水野を将軍の最初の男に仕上げるのが藤波の狙いだったのである。
なぜなら・・・新将軍の最初の寝屋に呼ばれた男は「ご内証の方」と呼ばれ・・・将軍の処女膜を破瓜し出血させるために将軍に傷を負わせた罪で死罪とされるのが・・・大奥のしきたりだったからである。
そうとは知らぬ吉宗は水野の名を問い、そうとは知らぬ水野は名乗りを上げる。
こうして・・・将軍と寝ることにより死を賜る「ご内証の方」に水野は選ばれてしまったのだった。
垣添に思い出の口づけを与え・・・杉下によって身を清められ化粧した水野は死の床へと向かう。
「すまぬな・・・このようなことで若き生命を捨てさせることになろうとは・・・」
「もったいないお言葉・・・」
「なにか・・・のぞみがあるか・・・」
「おそれながら・・・おのぶと名をよばさせてくださりませ・・・」
「・・・なんと・・・」
二人はするすると一夜の契をかわすのであった。
事後、吉宗は新たなる公儀隠密としたお庭番・三郎左(金子ノブアキ)に何事かを命ずる。
やがて・・・斬首となった水野。その死は病死として実家に知らされる。大奥での出来事はすべて秘中の秘だったからである。
水野祐之進の母は武家の主として・・・粛々と見舞金を受け取るのだった。
水野家の墓に参ったお信。
「かってに遠くへ行ってしまい・・・帰ってこないなんて・・・ひどいわねえ・・・でも、男と違って女は強いんですから・・・平気です・・・ほら、おむすびこさえてきましたよ」
すると・・・そこに町人姿の水野祐之進が現れた。
「ふふふ・・・おいらは江戸城で死んで・・・進吉って町人に生まれ変わったのよ・・・」
「ええーっ、おばけじゃないの」
「おばけじゃないさ・・・その証拠におめえに子種だって授けてやれるのさ」
「・・・でも、どうして」
「おっと・・・それは口にできねえんだ・・・」
こうして・・・二人は晴れて結ばれるのだった。
すべては・・・吉宗が側近の大岡忠相(板谷由夏)や加納久通(和久井映見)にはからってしくんだ筋書きである。
水野を「ご内証の方」にした後で松島を「将軍の父」にしようとした藤波の陰謀は潰えたのだった。
吉宗は大奥の経費節約のために・・・松島を含む美男たち五十人に暇を出してしまったのだった。
吉宗の戦いはこれからなのだ・・・。
さて・・・この後はテレビドラマ版へ繋がっていくのだが・・・吉宗の今後の活躍ではなく・・・物語は大奥誕生の秘密をめぐる第三代将軍・家光の時代に遡上するのである。
「大奥 〜誕生〜」・・・間もなくである。
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