人は誰もただ一人で生きていくもの・・・人間関係なんてすべて悪夢のようなものなのもげっ(北川景子)
「人は一人では生きていけない」という「甘え」を克服する必要がある人は多い。
もちろん・・・「世界」があってこそ誰もが「生きている感じ」がするわけだが・・・そこに「他者」は必要不可欠なものではない。
母の胎内より生れ、「自己」を認識した以上、すでに人はみな孤独なのである。
親子関係やら、友人関係やら、恋人関係やら、師弟関係やら、夫婦関係やら、職場関係やら、地域社会関係やら・・・そんな人間関係なんてなくても人は立派に生きていけます。
逆にそういう関係に依存することはすべて「甘え」なのです。
どこまで続くかは不明だが・・・そういう主張のヒロインである。
もちろん、悪魔は「まったくもって然り」と言う他はございません。
胸を吹き抜ける寂寥感こそ、わが最愛のパートナーでございますからな。
当然、キッドは人類が滅亡してもまったく困りませんぞ~。
で、『悪夢ちゃん・第2回』(日本テレビ20121020PM0915~)原案・恩田陸、脚本・大森寿美男、演出・佐久間紀佳を見た。まずは簡単にこの世界の構造を垣間見る必要があるようです。例によってイラストはikasama4様画伯のお世話になっています。
まず・・・このドラマの中の現実世界がございます。その中では登場人物たちが日常生活を営んでいるのです。多くの登場人物が眠れば夢を見ます。この夢というものはなかなかに厄介なもので・・・何が厄介かというと「夢」そのものの共通認識が成立しないのです。誰もが「物凄く面白い夢を見た」としてもそれを他人に説明するのは至難の業ですからな。たとえばドラマの中でまことしやかに語られる「明晰夢」なるものがありますが・・・それは科学的にまったく立証が困難なのですな。なにしろ、「私は自分の見る夢をコントロールできる」と断言されても「はあ・・・そうですか」と頷くしかないわけですから~。しかし、そこはフィクションですからこのドラマ世界では「夢札」マシーンによって夢物語を現実に取り込んでいるわけです。で、現実に認識できる世界とは違う「夢」の世界では人は「無意識的神話世界」に接触できるという幻想は大昔からございます。「心」が「意識」と「無意識」に分別されてからというもの、「意識」がないんだら「無意識」なんじゃね・・・と短絡する人は掃いて捨てるほどいたわけですな。
無意識の世界は個人を超越するという幻想もまたここから生まれるわけです。
さらに・・・無意識の世界は時空間も超越するという幻想もございます。
ま、基本、すべては妄想でございますけどね。
ただし、意識が限定された時空間で発生している以上、無意識が時空間を超越しているというのは簡単に否定できないことでもあるのです。まあ、ここが妄想家たちの付け入る隙と申せます。
で、この世界では「夢札」があるために「明晰夢」の実在も簡単に明らかになってしまいます。
さらに言えば「夢」だから許される邪悪な欲望もすべて白日の下に明らかにされてしまうということも付け加えておきましょう。
その中で「予知夢」という幻想もまた現実化します。
そのシステムは以下の通り。
万人の夢は無意識的神話世界とリンクしている。
無意識的神話世界はすべての時空間が存在するために地球もアンドロメダー星雲も隣接しているし、過去も未来もへったくりもないのです。
しかし、万人の多くは「夢」を「現実」に持ち帰ることはできない。
ただし、悪夢ちゃん(木村真那月)は無意識世界にリンクした他者の時空を超越した夢を現実に不完全ながら持ち帰る超能力を持っている。
そして、悪夢ちゃんは「予知夢」を見ることはできるが「未来改変」を実行することはできない。
けれど、主人公の明恵小学校5年2組担任の武戸井彩未先生(北川景子)だけは悪夢ちゃんの「予知夢」を利用して現実世界に介入することが可能。
・・・いかがでしょうか。彩未先生が恐ろしい「力」を有していることがご理解いただけたでしょうか。
つまり、悪夢ちゃんが予知した未来は確実に起こってしまった未来なのです。
その未来を改変できるということは・・・彩未先生は実は神に等しい存在だということです。
物語の世界では禁じ手の一つに「夢オチ」というものがあります。
この物語では最初から「夢オチ」が含まれているわけです。
なぜなら・・・このドラマの現実世界そのものが彩未先生の「夢」であることは明白だからです。
考えてみてください。彩未先生は明晰夢で自分の望んだ夢を見ることができるのです。現実世界も同様に彩未先生が改変できるのですから、これはまさしく「現実もまた夢」なのでございます。
今回、物語の重要な舞台としてスナック「うわばみ」が登場します。「大切なものは、目に見えない」という名言で知られるサン=テグジュペリの「星の王子さま」の冒頭が「うわばみ」についての記述であることは御承知でございましょう。
帽子にみえるけれど・・・それは象を飲んだ蛇(うわばみ)・・・ということです。
つまり、現実世界に見えるけれど・・・お茶の間が見ているのは・・・現実世界を飲みこんだ彩未先生の夢に過ぎないのですな。
さて・・・超能力で未来を変える・・・このドラマ。
実は・・・名作ドラマ「モップガール」と全く同じ構造であることも指摘しておきます。ね。
悪夢ちゃんが新たに見た夢は【5年2組神田冬馬(原田一輝)が沼部で鴨を捕獲し、父であるうわばみに供物として捧げ、その隙にうわばみを刺殺し、腹から女子中学生を取り出す】というものだった。
このままでは・・・神田くんが殺人犯になってしまうという悪夢ちゃん。
現実世界はあくまで睡眠時間を確保するためにノルマを果たす場所と考える彩未先生は神田くんがどうなろうと知ったことではないし、悪夢の教室持ち込み禁止を発令したいところだったが・・・悪夢ちゃんの父(小日向文世)は甘澤校長(キムラ緑子)に「このままでは娘が不登校になる」と訴え、搦め手から彩未先生を追い込んでいくのだった。
そんな折・・・ついに冬馬は同級生のプラダくずれフェラガモもどきの財布を盗んでしまう。
仕方なく、彩未先生は手下の養護教諭・平島琴葉(優香)に神田家の内情を探索させるのだった。
その結果・・・冬馬の母は二年前にさすらいのシンガー・ソング・ライターSIONと結婚したが、SIONが飲んだくれて暴力をふるうので最近、離婚したばかりだったのだ。
そんなSIONの連れ子で・・・血のつながらない姉である「ホットマン」シリーズの七海や「ギャルサー」のモモでおなじみ日向ななみ(旧芸名:山内菜々)15歳の演じる女子中学生に冬馬は激しい慕情を抱いていたのだった。
母と義理の父の新婚イチャイチャぶりにゲンナリしていた冬馬に「家族だと思わないでチームだと思えばいいんじゃないかな」と優しく接してくれた義理の姉だった。
そんな姉が飲んだくれの父親のために・・・スナック「うわばみ」で年齢を偽って働いていることを知り、思わず盗みに走った冬馬だった。
一方、夢王子にそっくりな悪夢ちゃんの父の助手(GACKT)は無断で他人の夢を覗く人でなしであることは百も承知の彩未先生だったが理想のタイプに「俺とチームを組まないか」と食糧持参で誘惑され心が揺らぐのである。
やがて・・・レム睡眠の眼球グリグリ運動で白日夢を見まくり、ついには彩未先生の夢/現実境界線を揺さぶる悪夢ちゃん。
仕方なく、彩未先生は夢判断に乗り出すのだった。
これは「スサノオのヤマタノオロチ退治の神話が影響している」と断定する彩未先生。
【乱暴狼藉の罪で高天原を追放されたスサノオは出雲国で生贄に捧げられるクシナダに一目惚れをする。そこでクシナダを食べようとする龍神ヤマタノオロチを退治することを決意する。スサノオはスサノオ軍団に大量の薬物を入手させ、龍神の領地に散布しヤマタノオロチが麻痺したところを殺戮したのだった。こうしてスサノオはクシナダと結婚した】
「それでは・・・義理の姉を助けるために義理の父親を殺すつもりなのか・・・」と悪夢ちゃんの父は嘆くのだった。
「父親は娘に依存し、娘も父親に依存する・・・そして弟もまた姉に依存し、姉も弟に依存する・・・結局、みんな甘ったれなのよ・・・」
人間の依存関係を全否定する孤児院で何一つ不自由なく育った彩未先生だった。
そんな彩未を悪夢ちゃんはもう一つの原型神話である「ペルセウスとアンドロメダーの結婚の悪夢」にいざなうのだった。
【神々の王ゼウスとアルゴス王の娘ダナエーとの不義密通で生まれた半神半人の勇者ペルセウスは睨まれると石化してしまう怪物メドューサを退治した帰り道、絶世の美女だったために女神たちの怒りを買い海神ポセイドーンの生贄にされかけたアンドロメダーと出会い一目惚れをする。海神の使いである無数の触手を持つ巨大な鯨獣に襲われるが持ち帰ったメドューサの首で鯨獣を石化し難を逃れるとアンドロメダーと結婚。ペルシャ帝国の礎を築くのだった】
どうしても・・・冬馬は義理の姉と結婚したいらしい。
白日夢を手掛かりにスナック「うわばみ」に乗り込む彩未先生。
店のママはスリットさん(高橋ひとみ)だった。
「女子中学生をただちに解雇しなさい」
「そんこと言ったってあの子は父親の元に舞い戻り・・・今度は身体を売るようになるよ・・・そうならないように私は保護してるのさ」
「父親なんていなくたって人間はいくらでも生きていけるのよ・・・それを教えてあげるのが大人の役割でしょう・・・あんたのお節介は中途半端なのよ」
「あんた・・・言うわね」
その頃、冬馬は酒好きの父親に酒を嫌いになってもらおうと酒に不味い漢方薬を混ぜて持って行く。
しかし、義理の息子に毒殺されそうになったと思った父親は暴力に訴える。
止めに入った彩未先生は逆襲され生命の危機に陥るのだった。
そこへやってきた冬馬の姉。父親に請け出した質草のギターを叩きつけるのだった。
「別に私はお父さんに依存なんてしていないわ・・・私はただチームの一員として・・・お父さんに自立を促したかっただけなの・・・お父さん・・・音楽を捨てたら、おしまいだよ」
たたみかけるスリットママだった。
「この娘は私が預かるよ・・・二年後あんたが真っ当になって帰ってこなかったら私の養女にもらうからね」
うなだれる父親は再起をかけて歌い出すのだった。
うわばみのブルース
おれは飲んでた
忘れたいから
何を忘れたいかって
それは恥ずかしい気持ち
何が恥ずかしいって
飲まずにはいられないことが
なにがなんだかわからない
うわばみのブルース
父親が音楽で生きていけるかどうかは別として・・・とにかく・・・息子の父親殺しは回避されたみたいだった。
人間関係なんて本当に「必要ない」としみじみ思う彩未先生なのだった。
関連するキッドのブログ→第1話「任夢」のレビュー
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