あの窓もこの窓も灯がともり強行帰国〜忘れ去られた花嫁たち〜(前田敦子)
さて・・・振り返ってみると今年の夏は・・・ほとんど戦争ドラマがなかったのである。
そういう意味では「ぼくの夏休み」がたとえどんなに奇作であっても・・・貴重だったということになる。
みんな、五輪に夢中で・・・67年前の戦争になんかかまっていられなかったのだな。
そのツケが秋になって「日中国交正常化40周年なんてみんな幻」となってやってきたのだな。
そういう意味ではNHKが春先にやった「開拓者たち」は先だしで大成功だったと言えるのではないか。
基本的にキッドは実話プラスドラマという形式は胡散臭さが極まると考えるのだが・・・まあ、ドラマ本編に感情移入しにくい・・・という実感もあります。
今回もまた・・・同様の悪路が展開されていて一同爆笑である。
もうちょっと・・・「独立愚連隊」(中国人2000人を引率して戦闘に加わる帝国軍人・国友忠をモデルにする)でドンパチする展開が前半はあってもよかったのではないか・・・できるかっ。
とにかく・・・これだけは言っておく・・・負ける戦争はするな・・・ということである。もう、敗戦しちゃうと大変なんですから。
で、『日中国交正常化40周年特別番組『強行帰国〜忘れ去られた花嫁たち〜』(TBSテレビ20121001PM9~)脚本・土城温美、演出・三城真一を見た。例によって、「霧の火」の如く敗戦、そして旧ソ連軍の悪逆非道な落ち武者狩り、非力な女子供の阿鼻叫喚である。今回は「大陸の花嫁」と呼ばれ満蒙開拓団に嫁いだ女性たちのうち地獄を生き抜き中国人と結婚して生き延びて中国残留婦人と呼ばれるようになった女性たちの戦後の悲喜劇の顛末である。
日中戦争の最中、浪曲師・国友忠(渡哲也)は麻布三連隊から北支に派遣され中国で中国人になりきって最前線で諜報活動に従事。昭和19年、戦火を潜り抜け、九死に一生を得て帰国した。戦後は浪曲師としてそれなりに成功をおさめたのだった。やがて残留婦人の存在を知り、その救済のために私財と生活のすべてを賭ける決意を固める。
中国残留邦人の一時帰国を助ける「春陽会」を主宰したのである。忠の浪曲の三味線を弾いていた沢村豊子(藤吉久美子)の娘・弘子(前田敦子)は独りで奮闘する忠の姿を見て、「春陽会」の手伝いを始めるのである。
戦後育ちの弘子にとって・・・日中戦争の戦果がどれだけ実り少ないものだったかを知ることは難しかったが・・・苦しんでいる人々を助けようとする忠に共感し、腰の重い日本政府に反感を抱くことはやぶさかではない。
しかし、なんだかんだと工作員を日本に送り込んでくる中国人の手口があるだけにうかつに門戸は開放できない政府の立場もあるのだった。
清濁併せ持つ忠は「囲碁と同じで・・・これはゲームなんだから・・・勝つ為の戦略がある」と諭すのである。
いわば・・・「賢民打布石(賢い民間レベルで布石を打ち)愚官作法案(馬鹿な官僚に法案を作らせる)必勝法」なのである。
しかし、身元引受人がいなければ中国残留日本人の永住は認めないという政府の姿勢により、一時帰国しか認められなかった老婦人(森康子)の覚悟の自殺により、ついに涙腺が崩壊するのである。
「日本で死ぬためには自殺するしかないなんて間違ってます・・・ぱふ」
呼んでも答えぬ人波にもまれて
まいごの子犬はひとりでないた
「耐えるのだ・・・チャンスは必ずやってくる」
「・・・」
そして・・・そのチャンスがやってきた。
1993年6月18日、宮澤喜一を首班とする宮沢内閣不信任案可決に伴う衆議院の解散、そして「新党ブーム」に乗って「さきがけ日本新党」を結成した細川護熙総理大臣(武村内閣官房長官)の誕生による政権交代のドサクサが発生したのである。
「いまは・・・みんな素人みたいなもんだからチャンスである」
忠は・・・残留婦人の一人、竹越リエ(倍賞美津子)に秘策を授けていた。
帰りたい帰れない中国残留婦人による・・・強行帰国である。
「私たちは中国には帰らない・・・日本に帰ってきたのだから・・・」と日本のパスポートをもつ12人の「中国残留婦人」が成田空港に籠城したのである。
「細川総理、永住帰国を認めてください」
この珍事にマスメディアの取材が殺到し、世論の同情が集まった。
まだ、人々の心にはゆとりがあったのである。
そして・・・仕方なく政府が動いたのだった。この「事件」が契機となって、1994年に「中国残留邦人支援法」ができたのだった。中国残留邦人の帰国と帰国後の援護は国の責務と明記されたのである。
「これでおばあちゃんたち・・・みんな日本で死ねますね」
「いや・・・おばあちゃんたちはこれから日本で生きるのだ」
「残留孤児の2世、3世とちがってマフィア化したりしないから安心ですね」
「お前・・・」
とにかく・・・あれから20年である。2005年(平成17年)に国友忠は逝去した。
いま、第二次日中戦争開戦前夜にあたって悲劇が繰り返されないことを祈るばかりの今日この頃なのであった。
関連するキッドのブログ→栞と紙魚子の怪奇事件簿
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