こんにちは赤ちゃん、私が外祖父よ(松山ケンイチ)
「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」は明治維新の原動力となり、最終的には帝国を太平洋戦争で滅亡寸前まで追い込んだ頼山陽の著書「日本外史」にある平重盛の言葉である。
もちろん、尊王攘夷的な信仰がその土台にあり、その立場において反逆者を父親に持つ忠臣の苦渋を言い表している。
二者択一というものはたとえば「日米同盟」か「日中友好」かと必ずしも二律背反しない選択肢でも可能である。
しかし、「革命」か「保守」かはなかなかに妥協点を見出しがたい命題であると言えるだろう。
歴史は常に勝者の側から語られるものであり、敗者に属する平清盛はあくまで悪として語られるが、その中で重盛は清盛に抵抗した勢力として生温い目で評価されるのである。
しかし、現実主義的立場で言えば「優柔不断」の最たるものとも言える。
「忠孝どちらを選ぶのか、はっきりせよ・・・泣きごと言ってんじゃねえよ」なのである。
さらに・・・重盛が立ちはだかったことにより、清盛は「最後の手」を誤り、ついに革命に失敗したとも言える。
非情の革命者が・・・親子の情に溺れてすべてを失う。
これがまた・・・「平家物語」の醍醐味でもある。
清盛は義母の情けにより、宿命のライバルの子らを助命し、息子の嘆願により、革命を断念する。
まさに・・・悲劇の英雄にふさわしい甘い男なのだった。
逆に言えば・・・情に流されたらとんでもないよという警句であるとも言えよう。
しかし・・・その場その場は・・・子として親として期待にこたえることが気持ちよかったのだから・・・仕方ないのである。
で、『平清盛・第43回』(NHK総合20121104PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はファン待望、平筑後守家貞が一子・平田入道家継の弟、平清盛の嫡男重盛が次男・平資盛の乳父、平肥後守貞能の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。まあ、レアアイテムでございますれば。平家軍団制があったとすれば伊藤忠清が関東方面軍ならば、平貞能は九州方面軍の軍団長と言えますし・・・。近江攻防戦では大将軍平資盛の侍大将として勝利し、清盛の臨終の期待に応え、清盛死後も九州の反乱者・菊池隆直の軍勢を鎮圧するなど活躍もあり、最後は出家して平忠正の嫡男長盛の娘の嫁ぎ先である源氏方の宇都宮家を頼って関東で隠居生活・・・12世紀末まで生きる・・・実に渋いですな。ちなみに壇ノ浦で死んだはずの平資盛の末裔が織田信長でございます。貞能の気配り天晴です。
安元三年(1177年)六月、鹿ヶ谷の陰謀を未遂に終わらせた平清盛は陰謀参加者を捕縛、嫡男・平重盛の義兄だった藤原成親を備前国に流罪とした。備前国は重盛の異母弟・宗盛の子・清宗の領国である。成親を待っていたのは七月には餓死という末路だった。他にも清盛の異母弟・平中納言頼盛の義弟である村上源氏出身の俊寛僧都が薩摩国鬼界ヶ島に流罪となっている。俊寛も治承三年(1179年)に断食により自害して果てた。平家一門における平時子系以外で後白河法皇よりの派閥、重盛の小松殿家、頼盛の池殿家は完全に反主流派となったのである。暗殺未遂の陰謀の処理が終わった安元三年八月、治承元年に改元が行われる。翌、治承二年(1178年)春、平安京に大火が発生する。前年の安元の大火と合わせて、平安京の朱雀大路以東は壊滅的な打撃を受けている。平安京の終焉が接近する予兆の中、高倉天皇の中宮・平徳子は懐妊し、十一月に言仁親王を出産する。そして十二月には立太子される。平清盛に帝の外祖父に成れるチャンスがめぐってきたのである。同時にそれは言仁親王の祖父である後白河法皇との対立が最終局面に入ったことを意味していた。清盛が夢見る武家の世・・・平家王朝の成立は目前に迫っていたのだ。
「それは・・・恐れ多い・・・ことだ」
清盛の意図を悟った重盛は驚愕した。清盛は平家系天皇の誕生を確実にするために後白河法皇を幽閉しようと計画していたのである。
すでに、平家六波羅屋敷には後白河法皇を幽閉するための御殿が建立されている。
福原から上洛した清盛は時子の屋敷である西八条院に逗留していた。そこには時子の産んだ宗盛もいる。宗盛は母・時子の異母妹で、亡き建春門院滋子の同母妹ある平清子を妻としていたが、妊娠中の清子は夏に急逝した。喪に服すために宗盛は右大将を辞任している。
全盛を極める平家一門にも「死」の暗い影は落ちていた。
その最中の言仁親王(後の安徳天皇)の誕生なのである。
清盛は狂喜して・・・そのまま、正気を失ったかのようである。
霊力高い高階家出身の母の血を引く重盛には父・清盛の真の姿が霊視できる。
八条院の奥の間で重盛と面会した清盛には顔が二つあった。
穏やかな仏の顔と・・・苦悶し憤る鬼の顔である。
その鬼の顔が重盛を睨みつけている。
白河院の落胤として生を受け、平正盛、忠盛と三代続く平家の野望を完遂するために、身内(平忠正)を斬り、友(源義朝)を斬った修羅のすべてがその鬼の形相に込められている。
その目は疑心暗鬼に囚われ、実の息子である重盛をも猜疑の眼差しで見つめる。
その圧力に抗いながら、重盛は鬼と化した父の意に逆らった。
「反平家の力を削ぐために法皇様を幽閉なさるなど・・・愚策でございます」
「・・・」
「そこまでなされずとも・・・立太子された言仁様は次の帝に成られましょう」
「・・・」
清盛は無言で拒絶の意志を示す。
重盛は後白河法皇が清盛を暗殺しようとしたことを知っている。それどころか・・・その企てへの参加を呼び掛けられてもいたのである。もちろん、重盛は拒絶し、反乱に参加しようとする義兄・成親をいさめている。
しかし、事は露見し・・・成親には餓死という残酷な末路が与えられた。
それを未然に防げなかった重盛も苦しい立場に置かれていたのだった。
それでも重盛は臣下による法皇幽閉という前代未聞の清盛の企てには反対するしかなかった。
「急いては事をし損じると申します」
切羽詰った重盛は戦略的立場から説得を試みることにした。
「王家の代示する八嶋(日本)の六十六国のうち、もはや平氏の知行国は十七国に登っています。しかし、過ぎたるは及ばざるが如しで、残り四十九国の勢力が結集されれば平家の望みは潰えまする」
漸く、両面宿禰である清盛の仏の目が開く。
「ここは後白河法皇と和し、高倉天皇と結びつつ・・・自然な流れで言仁親王の帝位継承を待つべきです。さすれば、秋津島六十余州はつつがなく平家の手の内に入る道理でございまする」
鬼の顔と仏の顔が融和し・・・清盛は人に戻ったようだった。
「重盛・・・祖父・正盛、父・忠盛がどれほど仏の教えに背き殺生を行ってきたか・・・汝(な)にわかるか・・・」
「我(わ)もまた父上と同じくこの手を血に染めてきましたれば・・・」
「すべては病み乱れ切った王朝の幕引きをするためぞ・・・」
「それゆえに・・・でございます。最後は血を流さずに終わらせましょうぞ・・・親王のあの小さな手にこの国のすべてを握らせるために」
「平家三代の望み・・・四代目としてしかと受け継ぐか・・・」
「如何様にも」
清盛の目から涙がこぼれる。
「我の定命ももはや尽きようとしておる」
「父上・・・」
「すべてを汝に託すぞ・・・」
父と子は和解した。
その頃、後白河院の奥の間には闇の陰陽師が集っていた。
後白河法皇の顔には狐を思わせる異相が浮かんでいる。
「呪え・・・呪い殺すのだ・・・王家に仇なす不埒な輩に神罰を下せ」
陰陽師たちの呪詛の真言は高まりを見せる。
護摩壇の向こうに置かれた人形には梵字で名が記されている。
六波羅魔王平清盛・・・白河殿悪女郎平盛子・・・そして小松殿悪鬼平重盛。
炎の灯りに照らされ天狗と化した後白河法皇は凄惨な高笑いを放った。
夜の闇に閉ざされた妖気漂う平安京に初雪が舞い始めている。
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