たとえ心は許すまじとも体許せば孕むが道理じゃ・・・むふふ(多部未華子)
男女平等の世である。
しかし、神代から続く儒教的男尊女卑の傾向は男にも女にも深く根をおろしている。
男のようであろうとする女、女のようであろうとする男の気持ちはなかなかに想像力を要するものだ。
たとえば、男女雇用機会均等法が施工されて以来、少子化の波には拍車がかかっているという見方もできる。
そもそも、男女雇用機会均等法は男女平等の建前よりも、労働力の確保の本音の方が強いのである。
そうでありながら、既得権益の保守を考える男性側はなかなかに優秀な女性へと権力の移行をスムーズに行えない現状がある。
転じて、実力主義のスポーツの世界を見てみよう・・・日本が世界と対等に戦えるのは男子ではなくて女子という傾向が強いのである。
つまり・・・ある意味で、実力に男女差はないのだ。
一方で男女が戦えば男が勝つという論理もある。
しかし、ルールさえ、確立すれば・・・そういう性差による勝利というものも喪失されていく可能性はある。
男女に平等な就業のルールと出産・育児にまつわる優遇措置・・・それらを完備していくのは必然と言える。
優秀な人材として女性を起用すると同時に・・・人口の増減もコントロールしなければならない・・・実に厄介な問題だ。そして・・・何よりも・・・そういう新しい世の中に抵抗する通念というものが壁となって立ちはだかるのである。
そういう意味で・・・感染症によって男女比が著しくバランスを欠き、女性が世の主流にならざるを得ないというこの物語は・・・実に示唆に富んだ思考実験であると言える。
まあ・・・そう考えないでも・・・単なるメロドラマとしても面白いけどね。
で、『大奥 ~誕生~[有功・家光篇]・第5回』(TBSテレビ20121109PM10~)原作・よしながふみ、脚本・神山由美子、演出・渡瀬暁彦を見た。そもそも一夫一婦制からは逸脱している大奥の制度である。もちろん、正室というものはあるわけだが、後継者は側室からも生まれるので一夫多妻制と言っていいだろう。男女逆転すれば当然、多夫一妻制となり、男女比不均衡であれば・・・男系継承が困難となり女系が軸とならざるを得ない。DNA技術が発展するまで、あるいは血液型鑑定の技術が確立するまで・・・男系の維持には細心の注意が必要であり、そのための大奥なのである。現代だって・・・多くの男親は自分の子供たちが血縁であるのかどうか・・・半信半疑でいきているわけだしね。そうなのかよっ。
もちろん、出自にはこだわらないという考え方もある。親子関係の情はDNAのみが決するわけではないからだ。濃密な親子関係を築く養父母・養子や嫁姑・婿舅だってある。しかし、ここではあくまで血脈という非実力主義での権力の継承に主眼が置かれているのだ。
春日局(麻生祐未)の政策に問題があるとすれば・・・男子出産にこだわることだろう。
男子将軍の後継者を求めるからこそ、我が子、稲葉正勝(平山浩行)を家光の影武者に仕立て、女家光(多部未華子)を「将軍様」ではなく「上様」と呼ぶことになる。
逆転史の未来を描く映画版「大奥」の八代将軍・徳川吉宗の代には女・吉宗(柴咲コウ)が最初から女将軍であったことから・・・逆転史の中では当然、この矛盾は解消される定めにあると言える。
なにしろ・・・たとえ男子が出産されても生き残るのは基本的に女子なのだ。
また、同時多発出産ができない女系だから・・・結局、女将軍をたてるしかないわけなのだな。
それはおそらく・・・家光の代で起こるのだろう。
男子の死亡率が80%という奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が蔓延し、男家光(岩井秀人)は寛永十一年(1634年)に31歳で逝去する。十年近くが経過して・・・男子人口は激減・・・さらにその傾向は留まるところを知らないのである。人為的な処理があったとしても最終的には人口の五人に一人が男という社会に到達するのが自然なのだから。物語では地球規模の歴史は描かれないが・・・ちなみに奇しくも日本の戦国時代末期(16世紀後半)・・・地球の裏側のイングランドはエリザベスⅠ世女王が君臨していたのだった・・・庶民のレベルでは逆に一夫多妻が状態となるのである。結婚の平等を実現するには一夫四妻制度が妥当ということになる。イスラームの世界では男女比が同じでこうなっているわけで・・・つまり・・・五人に一人しか男が結婚できない社会なのだとも言える。
それに対して・・・逆転史の一夫多妻制は自然な成り行きなのである。
その中で大奥だけが多夫なのである。女将軍に対する女たちの憧憬いかばかりか・・・。
一夫一婦制の男子がハーレムを夢見るのとは全く違うはずである。
しかし・・・女家光の心にはまだ儒教的貞操観念が存在し・・・愛するお万(堺雅人)以外の男に抱かれるのは苦痛であるらしい。
よいではないか、よいではないか・・・という気分にはなれないのである。
一方で・・・種なしと判定され、お褥を禁じられるお万の心情はかなり分かりやすい。
新婚旅行から一年、新妻が懐妊しないと・・・性交禁止になってしまうのである。ま、三年くらいだと・・・それはそれで・・・おいっ。夫婦間にセックスを持ちこまないタモリ以外はかなり不便なことになるだろう・・・おいおいっ。
いや、お万の場合は・・・女・家光に心底惚れてしまったので・・・愛する女が別の男に抱かれるのが公式決定というのは舌かんで死にたくなるくらいの心痛をもたらす状況らしい。
微笑み侍は唇かみしめ侍となったのだった・・・なんのこっちゃ。
そのうえ・・・お万の方の能力を認める春日局は・・・新しい種・古着屋の倅・捨蔵(窪田正孝)の教育係をお万に命ずるのであった。
「上さまがこの男と無理なく性交できるよう万事教育せよ」なのである。
お万の耐えがたき日々は続くのだった。
そして・・・捨蔵は庶民丸出しの馬の骨なのである。
なにしろ・・・士農工商の世なのである。町人として十八年も生活してきたものに武家作法を叩きこむのは至難の業なのだった。
「馬子にも衣装といいますが・・・」
「まあ・・・お褥はどうせ裸ですし」
お側衆も投げやりである。
女家光とお万は夜の生活は禁じられていたが・・・仲睦まじく逢瀬を重ねている。
「いつか必ず一緒に死んでくれますね」
「もちろんでございます」
そういう会話を知らぬ正勝やお万の世話役・村瀬正資(尾美としのり)は安堵を覚える。
しかし、そんな折、正勝の妻で事情を知らぬまま未亡人となった雪(南沢奈央)が後継者である鶴千代(西山潤)、娘の野乃(荒田悠良)を伴って登城。その姿を見た正勝は・・・「愛するものと引き裂かれる思い」が簡単には割り切れぬことを思い出す。
ちなみに・・・正史において・・・寛永十一年に死亡した正勝は小田原藩八万五千石の初代藩主である。鶴千代は稲葉正則を名乗り二代目小田原藩主となっている。
男子病没の相次ぐ逆転史でははたして・・・このまま無事成人できるものなのか・・・。
奇跡の生存率を誇る六人衆・・・松平信綱(段田安則)を筆頭に下総佐倉藩初代藩主・堀田正盛(菅原卓磨)・・・母は正勝の異母姉である・・・、忍藩主・阿部忠秋(柴田善行)、岩槻藩主・阿部重次(浅田祐二)、浜松藩主・太田資宗(井上久男)、勝山藩主・三浦正次(朝良晃三)なのであるが・・・後継者はやはりおぼつかない。
松平信綱の妻(生稲晃子)が嘆いていたように川越藩主となるべき松平輝綱は死去している。その代は女・家光同様・・・女・輝綱が継いでいるらしい・・・次回のお楽しみである。
このように逆転史は着々と進行しているのである。
微笑みの影の暗い怨念を襖にぶつけるお万であった。
そして・・・お万のために若紫を殺めた玉栄(田中聖)は心の鬼を払おうと無心で木刀を振る。
二人の哀しい男は道場の片隅で慰め合うのだった。
一方、勝手に名乗ってはならぬのに名乗り、目を合わせてはいけないのに上様をとくと見定めた捨蔵は馴れ馴れしい態度に出て「おまえがわしを抱くのではない。わしがおまえを抱くのだ」と一喝されるのだが・・・滞りなくお褥は務めたのである。
上様、ご懐妊~なのであった。
そして寛永十九年(1642年)夏・・・上様は無事、千代姫を出産なされるのだった。
「石女ではなかったのか・・・」と愛娘を得て母となった女・家光、家光の娘の父となった捨蔵改めお楽の方・・・そして苦悶するお万と玉栄・・・時代は新しい局面を迎えるのである。
史実では・・・寛永十四年(1637年)に千代姫が生まれ、寛永十八年(1641年)に家綱が生まれている。
逆転史では女・家光の最初の女児は死産・・・そして千代姫が生まれるのである。
もちろん・・・千代姫が四代将軍・女家綱になることは間違いないのだろう。
新たなる後継者を得て・・・将軍家は・・・そして上様の愛はどこに向かうのだろうか。
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ごっこガーデン。紫の薔薇の間セット。まこ「ボギャあああ~ん、女・家光様は出産、出産また出産なのでしゅか~。きびしかね~。なになに・・・正史では徳川将軍は三代・家光→四代家綱(母・お楽)→五代綱吉(母・お玉)と続くのでしゅね~。むつかし~。乙女心はさておいて両手に花で・・・まあ、よいではないか、よいではないか~なのでありましゅた~。もはやお万は紫の薔薇の人ポジションなのだじょ~・・・ぐへへ」くう「お楽の方~・・・かわゆいわ~・・・もう典型的なバカな子ほどかわゆいのパターンですの~。そして玉栄・・・ほんまに・・・ええ子や・・・しかし・・・その汚れちまった悲しみは・・・やがて・・・なんだね~」シャブリ「金曜の夜は見るものありすぎ~。じいやに代わって申しましょう・・・殺す気か~」ikasama4「御意~」
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コメント
大奥と言えば、毎晩酒池肉林の大騒ぎ。
殿様は、若いおねーちゃんを選り取り見取りで
「あ~れ~~~~」の帯ぐるぐるごっこし放題かと
思ってたのに、何とも切ない男女逆転大奥・・・
あ~れ~~~ごっこをしようにも、殿方の帯では
ぐるぐるの甲斐も無く・・・
つか、寝所に上がる際はあの白い着物が勝負服?
あれではあ~れ~~~ごっこが出来ないでおじゃるヨ
有功さまは紫のバラのひと・・・
家光さまはマヤだったのでしゅね!
確かに多部ちゃんの演技が神がかって
マヤ、怖ろしい子・・・白目レベルに達してる~~~!!!
投稿: まこ | 2012年11月10日 (土) 15時31分
女家光とお万
二人が一緒にいる ただそれだけのシーンで涙が。。
原作が素晴らしすぎですね!もう一気に読んでみたい衝動にかられています
今回のお話は 源氏物語 若菜の紫の上のことが思い起こされ なんだかお万の気持ちを思うと切なくてたまりませんでした。紫の上は源氏の一番の寵愛を最後まで受け ある意味救われた最期だったように思いますが このドラマ これからもお万にはつらいことばっかりが待ち構えているような気がして胸がはりさけそうです
高貴な方が男子をお生みになるのを求められる。
それは現在でも続いている気がしますが男女逆転だからこそ当事者のその辛さがよくわかります。
千代姫が女家綱になるんですか?言われてみれば確かにそうですね!
役者さんの演技もいいし(捨蔵もいい味出してました!)本当に見ごたえのある大好きなドラマです
投稿: chiru | 2012年11月10日 (土) 22時05分
はっ、ただ今、御中臈帯ぐるぐるごっこロイドの
開発に着手いたします~。
殿方の「あ~れ~」もなかなかに風情のあるものですからな~。
「お許しくだされませ~」などのセリフも完備ですな。
帯も長めにしておきますぞ~。
白い着物は時代劇定番の「お寝間着」ですな。
まあ、一種の浴衣でございますな~。
帯をば長めの赤にすれば
紅白で縁起がよろしゅうございましょう。
なになに、まこ様がぐるぐるまわりたい・・・と。
さすがはまこ様、逆さにすればこま様でございますっ。
まわりたいお年頃なのですな~。
(じいやバカすぎて意味不明)
結ばれそうで結ばれない
家光様さまと有功さまは
まさにガラスの仮面状態。
春日局月影夫人の愛のムチがビシバシなのですな。
そして・・・マヤには心を寄せる
桜小路くん。
紫の薔薇の人には紫織さまが~。
まあ、多部ちゃん以外にはまる女優が
思いつかないほど・・・女・家光はまり役でございます。
まさに|||()ノ()|||状態で口元からヨダレのレベルですな~。
投稿: キッド | 2012年11月10日 (土) 22時25分
まあ・・・恋多き男や女に惑わされる
純情な人々の話はよくあるわけですが
今回はやむにやまれず他の男に身を許す女と
それに耐える男の話。
ある意味、女郎の艶話のようなもので
一週まわって元の位置~なのですな。
しかし、源氏物語の逆パターンでもあり
お万の心は「乙女心」なのがポイントです。
まあ・・・この辺が一部婦女子の皆々様の
ハートを鷲掴みなのでございましょう。
キッドは悪魔なのでまったく平気ですが
世の男性陣にはなかなかに受け入れがたい展開なのではと推察いたします。
心と体は別々だと・・・
割りきろうとしても割りきれぬ思い
まさにこの世の生き地獄でございますから
二人にとっては「死」こそ
極楽浄土への旅立ちの至福なのですねえ。
しかし、それでも二人は相手の幸せを思って
生きて行くのが物語なのですな。
史実と逆転史は糾う縄のごとしですからな。
おそらく・・・お楽の方の産んだ子が家綱(史実)
お楽の方が孕ませた子が女・家綱(逆転史)に
なるのではないでしょうか。
あくまで予測でございますぞ~。
よし、これでネタバレ対策バッチリだっ・・・今更なにを・・・。
捨蔵の町人風もパーフェクトでしたね。
陰と陽の調和がとれていて
なかなかに美しい絵巻でございますな~。
女流の描くこういうお耽美はよろしいですな~
投稿: キッド | 2012年11月10日 (土) 22時45分