そこに行けばどんな夢も叶うと言うよ・・・だけどあなたは感謝知らず(松山ケンイチ)
ひとつの時代の終りは言いかえれば乱世である。
乱世には英雄や革命者も現れるが根強い抵抗勢力も現れる。
滅びの予感におびえ、人々は右往左往する。
天皇家は聖と俗の統一を目指す。
仏法者は信仰による支配を目指す。
武家は実力による軍事独裁を目指す。
この世の矛盾に遭遇し、もがきあがく人々はそれぞれの生活や家族、時には信念を懸けてサイを振る。
出た目によって喜怒哀楽しながら・・・それぞれの決着の日がやってくる。
海賊王・兎丸、源氏の棟梁・源義朝、天才・信西・・・共に夢を見た友は去り・・・最大の敵・後白河法皇に対する革命家・平清盛は孤独である。
その血にまみれた手に今日も呪われた汗がにじむ。
終焉は近い・・・その時、清盛は何を思うのか・・・。
そして、滅びの風が吹きすさぶ。
で、『平清盛・第42回』(NHK総合20121028PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は阿波忌部氏麻植為光の子、信西の乳兄弟、中納言・藤原家成にして俗名・藤原師光こと西光の断末魔イラスト大公開の圧巻でございます。複雑な人間関係の果てに後白河法皇の第一の近臣となった故の増長・・・その果ての断罪。西光もまた憐れな時代の犠牲者と申せますな。まあ、自業自得とも言えますが・・・。
安元3年(1177年)五月、朝廷は天台座主・明雲を伊豆国へ配流した。しかし、比叡山の大衆は源伊豆守の護送する明雲を近江国で奪還。延暦寺勢力は朝廷との完全対立の様相となる。仏法と王法の抗争に危機感を覚えた後白河法皇は平家一門に明雲の処刑を命じる。これに対して平清盛は兵力を増強するも明確な動きを見せないまま、事態は硬直化する。後白河法皇が平家と延暦寺派の慣れ合いを疑う中、白河院所縁の真言宗・法勝寺僧都で村上源氏出身の俊寛は鹿ケ谷山荘に後白河法皇を招き、平家打倒の密議を行ったとされる。密議に参加したのは後白河法皇の近臣である藤原成親、西光に加え、中原氏出身で清盛の弟・平頼盛の子の平保盛の郎党・平康頼、摂津源氏の多田行綱などであったという。後白河法皇は威信を賭けて源平の武者に平清盛暗殺を命じたのである。しかし、多田行綱は源満仲より八代を経た源氏の傍流であり、平康頼に至っては平家傍流の家臣である。その密議は戯れの域を出ていなかった。しかし、この企てを多田行綱は清盛に通報。後白河院の権勢を削ぐ好機と捉えた清盛は六月、密議に参加した西光を捕縛、拷問の末、自供を得ると斬首に処した。そして、関係者各位の一斉捕縛に踏み切ったのである。
守りの勾玉が砕け、危険を察知した西光は西へと向かった。乳兄弟であり、恩師でもある信西が東に向かって討たれたことが念頭にあったことは言うまでもない。西光は西の山を越え、丹波国から丹後へ、そして何処かで南下し、瀬戸の海を渡り、故郷である阿波国に逃れるつもりであった。行脚のために行者装束を身にまとい、身体には宋銭と玉を身につけている。西光の出自である阿波忌部氏麻植家は玉造部であった。日本列島特産物の翡翠を用いた勾玉は古代より大陸への輸出の目玉だった。
アマテラスの時代には呪術力も発達し、様々な効能を持つ珍品として高貴な人々に受け入れられたのである。しかし、それも今は昔の話。勾玉から呪術力は失われ、そこに神宿る信仰も廃れてしまった。しかし、鬼の棲む国と呼ばれた死国では古の玉が継承されている。西光は父より守りの勾玉と称する玉を受け取っていた。それが砕けた時に持ち主に死が近づいていると伝えられている。
平家への危うい陰謀が進む中、それが砕けるのを見た西光はなりふり構わず内裏を捨てたのである。
王室の姫たちの間の暗闘が鳴りをひそめた瞬間から・・・西光の仕える法皇は魔性の気配を漂わせるようになっている。時々、夜の灯りの中で法皇の鼻がするすると伸びて行くのを目撃したこともあった。
天狗・・・と西光は背筋が凍りついた。
一方で義兄弟の平重盛の父・平清盛は時々、顔が二つに割れることがあった。
王家と平家の確執はもはや魔性のものの争いであるかのように西光には感じられる。
そんなものにまきこまれてはかなわぬ。
西光にとって命あってのものだねだった。様々な縁によって後白河院第一の寵臣とまで言われるようになった身だが・・・元をただせば地方豪族の末裔である。きらびやかな都に未練はなかった。朝廷から見れば犬と呼ばれる平家にもどこの馬の骨かと案じられる生れなのである。
闇を走る西光の足取りは軽かった。
しかし、丹波の山中にたどり着いた頃から梅雨の雨が滴りはじめた。
道なき道を歩む西光にも疲労が目立ち始める。
しかし、里を避けての逃避行であり、近隣に身を休める場所はない。
その時、一本の大木に空洞があるのを西光は発見する。
闇に慣れた目はそこに先客があることがわかった。
それは涸れ果てたような老婆だった。
老婆が粗末な衣を纏い、蹲っている。
屍・・・と思った時、老婆が顔をあげた。
「行脚のお坊様でござりまするか」
その声は雨音の響く森の中に韻々と響き渡った。
「そうじゃ・・・」
「この婆は穢れた身の上近寄ってはなりませぬ」
「なんと・・・病か・・・」
「いいえ・・・飢えをしのぐために人を殺め、糊口をしのいだ畜生婆なのでござりまする」
「なんと・・・穢れを払うためにこの森に捨てられたか・・・」
「いかにもさようでござりまする」
「憐れな・・・」
「このような婆を憐れんでくださるか・・・」
「民を顧みぬまつりごとに罪があるのだ・・・」
「それでは・・・この婆の命たえし後は菩提を弔ってくださるか・・・」
「何を言う・・・まだいかなりとも生きていけようぞ」
「いいえ・・・この婆はもはや・・・虫の息でございます。脚も萎え、目も見えませぬ。どうか、息たえし後には念仏なりと唱えてくださりませ」
「婆・・・しっかりせよ」
思わず西光は骸のような老婆に手を差し伸べた。
その手をなにやら黒く毛深い手がとらえた。
「なんじゃ」
一瞬の驚愕があり次の瞬間、西光は背中を押され、老婆に抱きすくめられたような姿勢となる。
老婆の顔のあった場所には大きな牙を持った口が開いていた。
「うわっ」と叫びをあげる。
「だから近づくなと言ったではないか」
「お前はなんじゃ」
「この森に古くから住む土蜘蛛よ・・・年経て身体も弱り餌にも難儀していたところ・・・うまそうな坊主がやってきたのは幸いなこと」
「・・・」
断末魔の叫びをあげた西光に魔物の口が食い付いた。
西光は生きたまま土蜘蛛に貪り食われたのである。
逃走した西光を追った朱雀の犬追い衆は森の中で・・・半分肉の殺げた西光の頭蓋骨を発見し、回収する。
清盛の命でその髑髏はさらしくびとなった。
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