生死の境の深い穴を抜けると夢の国だった・・・もげっ(北川景子)
ドラマはフィクションのひとつのジャンルだが・・・フィクションは現実の影法師であると考えることもできる。
もちろん、現実がフィクションの影であることも疑いようのないことである。
それはともかく、ドラマには現実というフィクションの影がさしこんでいると言える。
最近、世界は人々に津波による原子力発電所のメルトダウンという恐怖を与えた。
目に見えない放射能は拡散し、人々は「死」を身近に感じたのである。
1906年に自殺したオーストリア人科学者・ルートヴィッヒ・エードゥアルト・ボルツマンは原子を実在の対象と考えた原子論を展開した。ウイーン大学でボルツマンの晩年に薫陶を受けたリーゼ・マイトナーはポーランドのキュリー夫人の下で放射能の研究を続けることを望んだが果たせず、ドイツ人の化学者オットー・ハーンとの共同研究を選択する。およそ40年後・・・物理学者であり、化学者である二人は「ウランの原子核に中性子を照射しても核が大きくならず、しかもウランより小さい原子の存在が確認される」という核分裂を発見し、それを証明した。核分裂は原子力爆弾を生み、原子力発電所を生んだ。
それはけして・・・ある日突然、起こるものではない。熱心な研究者たちが情熱を傾け、試行錯誤を繰り返した努力の成果として起こるのである。
しかし、新しい現象は突然、嵐のように人間の理解を越える。
核兵器の研究は着々と進み、1945年、核分裂の発見からわずか7年で広島にウラン235原爆が投下された。
一瞬で10万人以上の人命を奪ったこの爆弾についてリーゼ・マイトナーは「その爆弾の開発にはまったく関与していない」とインタビューに答えている。
しかし、人間が好むと好まざるとに関わらず、地獄ではあの日が無限に再現され・・・そこに至る科学的研究に携わった死者たちは皆、その地獄に招待され、永遠の苦悶にあえいでいる。それを理不尽と感じるかどうかは神でも人間でもない悪魔には関わり合いのないことである。
まあ、人間はそこが何かを知らないからこそ、恐怖の真っただ中に飛び込んでいけるなかなかにユニークな存在であることは間違いないだろう。
で、『悪夢ちゃん・第5回』(日本テレビ20121110PM09~)原案・恩田陸、脚本・大森寿美男、演出・佐久間紀佳を見た。人間の脳内から情報を取り出す研究は着実に進んでいる。しかし、それは当然の如く、人体実験を必要とするものである。だから、民主化された国家ではかなりの制限があり、秘密裏になら何をやっても許される独裁国家で大いに進展しているのである。そこでは人体に電極を差し込み、脳内の機能局在が分析され、発達したコンピューターによって人体の神経細胞の記憶を可視化するための解析作業が継続されている。もちろん・・・秘密を厳守できれば民主化された国家でも科学者が夢のAV化に成功している可能性は否定できないのだ。
上原翔(千葉裕太)の夢
緑の中を走り抜けていく罪悪感。翔はかって弟の隆(鈴木福)の演技力がありすぎるのを憎み・・・じゃなくて、視力が悪い弟に付きまとわれるのを嫌い、弟を車のトランクに閉じ込め、殺しかけた過去を持つサッカー好きの少年である。見知らぬ森の中で弟に深い穴に突き落とされた翔は・・・弟のけしかけるゾンビの群れに襲われるのだった。バ、バイオ・ハザー・・・・・・・・・・・・・・。
恐怖で目覚める悪夢ちゃんこと古藤結衣子(木村真那月)だった。
早速、担任教師の武戸井彩未(北川景子)に報告しようとする悪夢ちゃん。しかし、彩未は個人的事情で他人の無意識に関わっているゆとりがないのだった。
結衣子の祖父・万之介博士(小日向文世 )の助手・志岐貴(GACKT)のベッドからの監視により、彩未を誹謗中傷するブログを睡眠時遊行する彩未自身が書いていた事実が明らかになったのである。
「君の表層人格とは別の何か・・・つまり無意識の影のようなものが・・・君の睡眠中に活動したのだ。おそらく、君には封印された記憶があり、その抑圧に対する反抗が人格の分裂を引き起こしているのだろう」
「つまり・・・私は夢遊病で、統合失調症で、二重人格者ってことなのね」
「まあ・・・簡単に言うとそうなるが・・・病状としてはそれほど深刻なものではない・・・問題は失われた記憶の方だと思う」
「私は記憶喪失なんてしていないわよ」
「喪失した記憶を喪失しているからね」
「もげっ」
・・・というわけで、他人のことをどうこうする気分ではない彩未だった。
「悪夢ちゃん・・・あなたの見た悪夢なんだから・・・あなたがなんとかしなさいよ」
教師に指導されて仕方なく上原翔への接触を試みる悪夢ちゃんは・・・体育の授業中にひたすら上原翔を見つめるのだった。
たちまち、口からジャムを吐く小泉綾乃(白本彩奈)、キメラ使いの相沢美羽(木村葉月)という5年2組のおませプリンセス二人は悪夢ちゃんが上原翔に恋をしていると決めつける。無理矢理告白タイムである。
「古藤さんが上原に言いたいことがあるんだって・・・」
「なんだよ・・・」
クラスメートたちが期待が高まる中・・・。
「弟がいますか・・・」
「いるよ・・・」
「弟にひどいことしましたか」
心の傷に触れられた翔はサッカーボールを結衣子に蹴り込むのだった。
思わず鼻血の結衣子、かわいいよ結衣子なのである。
実は本当のサイコパス(異常人格者)である養護教諭・平島琴葉(優香)の待つ保健室に運ばれた結衣子だった。休憩時間のこととはいえ、少し責任を感じた彩未は謝罪に来た翔と結衣子の仲をとりもつ。
「アドバイスをしてあげなさい」
「あの・・・穴に気をつけて・・・けして落ちないように」
「・・・?」
意味がわからない翔だった。しかし、立ち聞きするサイコパス琴葉の邪眼は騒動の気配を感じて色めき立つのだった。
一方、彩未の睡眠時遊行症について万之介に報告する志岐。
「彼女は無意識に支配されて行動し、逆に夢の中では自我による明晰夢を見ることができる特異な存在です・・・先生は彼女の何に注目しているのですか」
「それについてはもう少し待ってくれ」
「いつまで待てばいいんです」
「夢を可視化することはやはり危険なことなのだ・・・」
「今更、何をおっしゃってるんです」
「これを世間に公表すれば・・・予想もつかない混乱を社会にもたらすかもしれない」
「そんなことを恐れていたら科学者なんてやっていられませんよ・・・わかりました・・・私は科学者として独自に研究を進めることにします」
「・・・」
決裂する博士と博士の助手だった。
科学的発見が秘匿されることは許されない。それは万人に共有されるべきものであるからである。たとえ・・・それによって世界が滅びるのだとしても・・・なのである。
それがマッド・サイエンティストの正しい心意気というものだ。
一方、上原の家では難病のために失明の危機にある隆の手術をめぐって両親が夫婦喧嘩を展開中だった。
気分が重くなる翔に弟の隆は「宝」の話をする。
車のトランクに閉じ込められた隆は見知らぬ別荘地に運ばれて発見され騒動になるのだが、家族が迎えに来るのを待つ間、付近を探検した隆は森の中で箱に入った札束を発見するのだった。隆はスボンのベルトを巻き付け目印にして・・・宝の箱を森の中に埋めてきたのだと言う。
「なんでそんなことを・・・」と思わないでもない翔だったが、演技力のある弟に説得され、宝探しの旅に出ることにする。用意周到な弟は別荘の住所をメモしていた上に、インターネットでルート検索も終えていたのである。
二人がたどり着いた別荘地では何やら事件が起こったらしく、立ち入り禁止のテープの貼られた森の中には巨大な穴が掘られてあった。
首尾よく宝物を発見した兄弟だったが・・・不可解な穴にそそられ・・・結衣子の注意も虚しく、ボール、弟、兄の順番で・・・穴に落ちてしまうのだった。
兄弟の行方不明が伝えられ騒然となる職員室。
仕方なく博士の研究所を訪れる彩未だった。
「君は・・・志岐くんといつから関係しているのだ」
「そこですかっ」
「彼は危険な男だと言ったはずだ」
「あなたの方から私にアプローチしてきたくせに・・・勝手なことを言わないでください」
「私は・・・」博士は彩未についての何かさらに重大な秘密を隠している気配である。
悪夢ちゃんの「第二の夢」によって兄弟がそろって穴に落ちていることを知った彩未は学校に戻ると保健室で仮眠を獲るのだった。
責任を感じた悪夢ちゃんも後を追う。
待ち構えていた邪悪な保健室の先生は睡眠導入剤を悪夢ちゃんに飲ませ、志岐から託された携帯型夢枕の上に悪夢ちゃんを眠らせるのだった。
ついに・・・夢を通じて他人の無意識に潜入する秘術を持っていることを明らかにした彩未である。もはや、スペックと言っても過言ではない。
夢王子(GACKT=二役)の介入を拒絶して、謎の異次元生命体ゆめのけ(声=玉井詩織)に教導させ、彩未の無意識→共有無意識→翔の無意識経由で別荘地を確認した彩未は覚醒すると、現実世界の上原家→捜索願を受理した所轄警察をめぐり・・・兄弟の落ちた穴を特定したのだった。
その穴は(隆が金を隠匿したことによって)金をめぐって仲間割れをした詐欺グループが殺し合い、生き残ったものが仲間の死体を埋めた穴だった。
こうして・・・二人は地元の警察に無事に救助されたのだった。
「あの夢には続きがあった」と悪夢ちゃん。
「その夢では・・・弟の目は治っていたかしら」
「治っていたみたい・・・」
そして兄弟は地中から大金を掘りだしていた。
しかし・・・その夢は志岐によって盗まれていた。
志岐は兄弟に先回りして手下の山里(和田正人)に宝を発掘させたのである。
予知夢による現実の改変・・・どれほど時空を歪ませるのか想像もつかない悪魔の領域に恐れを知らない邪なものたちは足を踏み入れたのだった。
そして・・・彩未は封印された過去から自分自身の影によって追求を受ける運命らしい・・・。
夢と現実の境界線は今や風前の灯なのである。
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