ご褒美はお祭りの後で(真木よう子)VS絆なんて信じない彼女(宮﨑あおい)
今季のフジテレビ系の火曜日のドラマは共に群像劇と言っていいだろう。
「遅咲きのひまわり」は地方都市の夢見る頃は過ぎたけれど現実を受け入れられない青春にしがみつく人々の物語である。
「ゴーイング マイ ホーム」は消えてしまいそうな家族と最初から消えているような小人族のファンタジーだ。
どちらも「帰る場所を求める人々」が集っている。
「遅咲きのひまわり」は競争にやぶれたヒロインと最初から競争をあきらめた主人公を軸に決められたレールを逃れようとするもの、見果てぬ夢をおいかけようとするもの、失くしたものをあきらめきれないもの、過去と現在の落差にいたたまれないもの、現実とはちがうなにかを求めるものなどがあがきもがきながら身をよせあっていくというせつないながらも楽しい人間の物語。
「ゴーイング マイ ホーム」は最初から指摘しているように仕事と家庭の両立を目指す主人公の妻が破綻して行く物語である。夫や娘は妻や母のすべてを支配しようとする自我から逃れ、幻想の森に魅了されてしまう。自分にとって理想の妻であり、母であり、職業人であろうとした主人公の妻は自分の帰る場所がなくなっていることにふと気がつくのだった。
主人公の妻は・・・誰もいなくなった「我が家」で仕事に熱中する。
それを素晴らしい事と感じるか、哀しい事と感じるかは他人とどういう距離感でいることが好ましいと考えるかによって人それぞれで違うと考える。
もっとも、主人公の妻以外は、主人公の父親の危篤という事情でそれぞれが休暇を過ごしているのであって、ここまでに述べたことはキッドの妄想に過ぎないとも言えるのだった。
だが、主人公の妻が孤独に直面していることは・・・千円札を賭けてもいいのだった。
で、『遅咲きのひまわり〜ボクの人生、リニューアル〜・第3回』(フジテレビ20121106PM9~)脚本・橋部敦子、演出・植田泰史を見た。足を負傷してしまい一時的に農作業ができなくなった大河内欣治(ミッキー・カーチス)のピンチヒッターとして三年契約の四万十市役所臨時職員の小平丈太郎(生田斗真)はついに稲刈りを完遂する。欣治に「慣れて来た」と褒められ喜ぶ丈太郎は無欲な男なのである。
近隣の老人たちの昔話から「失われた曽我野の村祭り」(フィクション)について知った丈太郎はお祭り男の血が騒ぐ、地域の子供たちのためと称して「村祭りの復活」を企画するのだった。
最初は渋い顔をする地域おこし課課長の日下哲也(松重豊)や丈太郎の世話役である世話役の藤井(桐谷健太)だったが、とある理由から丈太郎に好意をよせる年下のお嬢様・春菜(木村文乃)の協力を得て・・・村祭り復活に向けて動き出す。
祭りの夜といえば軟派の血が騒ぐらしい。
丈太郎は早速、好意を寄せる二つ年上の看護師・森下彩花(香椎由宇)に「今度、子供たちのためにお祭りを復活させようと思うんだ。もしも成功したらご褒美がもらえないかと思って・・・」どういう理屈か意味不明だが、謎めいた看護師・森下は「いいわよ・・・ご褒美、何がいいか考えておいて」とあっさり承諾する。
丈太郎は森下の同棲相手とは知らずにちょっと仲良くなったリハビリアシスタントの松本弘樹(柄本佑)にも協力を呼び掛ける。
丈太郎と同様の下心に目覚めた初恋の人を忘れられない世話役の藤井は人妻で二児の母親である島田さより(国仲涼子)がパートタイムで働くスーパーマーケットのレジで「今度、村祭りやるから遊びに来てよ」と口説くのだった。
さよりの妹で四万十中央市民病院の医師・二階堂かほり(真木よう子)は森下が年下の男と同棲中であることを知っているために・・・有頂天の丈太郎を危ぶむが・・・森下の相手が高校時代の恋人である松本だとは気付いていないのだった。
それよりも・・・かほりには気になることがあった。研究医として渡米することを目標にしていたかほりは・・・東京医療科学大学がん研究センターの岡島教授(中丸新将)に因果を含められ島流しになった現在も・・・教授が大学に呼び戻してくれるのではないかと淡い期待を抱いているのだった。
しかし、教授は音信不通だった。電話をかけてくるのは丈太郎くらいなのである。
「ご褒美って何がいいかな・・・彼女に手料理をごちそうしてもらうとか・・・」
鬱屈していたかほりは丈太郎の軽さに脱力するのだった。
そんなある夜、丈太郎の住居にワインを持った春菜がやってくる。何故か、丈太郎に好意を寄せる春菜は抱いてもらう気満々で狸寝入りをするのだが、地元の女と噂になることを極度に恐れる丈太郎はかほりを呼び出すのだった。
「なんで私が呼び出されなきゃならないのよ・・・」と不平を述べるかほりだったが・・・両親が自分のために用意した見合い相手がオードリー春日似なのを確認すると家を出るのだった。
春菜の陰謀は失敗した。・・・どうやら春菜は故郷から誰かに連れ出して欲しいと願っていようだ。それにしても相手が丈太郎ってどうなんだ・・・。
祭りの準備にいそしむ丈太郎たちのところへ、さよりが芽衣(庵原涼香)・結衣(高嶋琴羽)姉妹を連れてやってくる。藤井は有頂天になり、さよりは手際よく準備を手伝うのだった。
合流したかほりが寄付金として五千円を渡すのを見たさよりは主婦として鬱屈した思いをかほりにぶつける。
「五千円なんて・・・私の一日のパート代より高いじゃない・・・良い御身分ね」
「そんな・・・私だってそれだけの働きはしてるから」
「そうね・・・私なんて誰でもできる仕事をしてるだけですものね」
「姉ちゃん、いつからそんなにひがみっぽくなったの」
「私のどこがひがんでるっていうの」・・・逆ギレするさより。ある意味「ゴーイング マイ ホーム」の主人公の妻と対角線上に位置しているのだな。
臨床医として経験不足のかほりは優秀な看護師・森下のフォローでなんとか業務をこなしている。
しかし、森下のいないところでは点滴の投薬量を間違えるなどというミスもおかしてしまうのだった。
「まったく・・・中途半端で使えないドクターだよ」と看護師の青山薫(田口淳之)に陰口をたたかれ、それを耳にして悲哀にかられるかほりである。
そんなある日、四国を台風が直撃する。
沈下橋を渡り、橋向こうの三郷の村(フィクション)に入った丈太郎と急患の往診に出かけたかほりは降雨によって水面下に消えた橋のために陸の孤島に閉じ込められてしまう。
16日が誰かの月命日であるらしい看護師森下は松本を一人残し、嵐の墓参りに出かける。
停電である。
蝋燭に火をともす丈太郎・・・。
「あんた・・・すっかりここに馴染んでるわね・・・うらやましいわ」
「そんな・・・俺なんか・・・君こそ・・・立派なお医者様じゃないか」
「私は望んでここにきたわけじゃない」
「でも・・・俺から見ればそれって贅沢な悩みとしか言いようが・・・」
さすがに底辺の丈太郎にそう言われては返す言葉のないかほりだった。
台風一過。もう一度病院の様子を見に行ったかほりは「先生の顔みたら・・・ほっとした・・・ありがとうね・・・先生・・・いてくれてありがとう」と感謝されて悪い気はしないのだった。
丈太郎は微笑んだ。
帰り道、遅咲きのひまわりの世話をする丈太郎の姿に前より暖かい眼差しを送るかほりだった。
さあ・・・ほぼ完成した恋の数珠つなぎ・・・。丈太郎→森下→松本→かほり→丈太郎である。まあ、春菜→丈太郎と、藤井→さよりはなんだか別枠だな。
祭りの日。丈太郎の手作りの神輿は子供たちにかなり喜ばれたようだ。
春菜は季節外れの浴衣で無駄な勝負を挑むのだった。
人は誰も愛される誰かを求めているとか丈太郎が一人言をつぶやいていると森下は丈太郎の唇を奪う。
突然のご褒美に硬直する丈太郎だった。
四万十市・・・も丈太郎ものどかだなあ。
で、『▲ゴーイング マイ ホーム▼・第4回』(フジテレビ20121106PM10~)脚本・演出・是枝裕和を見た。人間の無意識が夢を通じて時空間を超越した情報の森につながっているのは悪夢ちゃんで、筒井康隆なら「ヘル」に直通なのだが、この物語の主人公風(ふう)の良多(阿部寛)の夢はクーナ風の世界へ通じてしまったらしい。クーナ風の長老風の小人はタクシー運転手徳永(阿部サダヲ)のそっくりさん風で、クーナの風俗は借りぐらしのアリエッティ風なのだった。・・・まあ、夢だからな。
良多の父・栄輔(夏八木勲)の意識が戻った。
しかし、危険な状態は続いているらしい。
栄輔の妻・敏子(吉行和子)は「私、誰だか分かる。最初はと・・・」
長女の多希子(YOU)は「私、誰だか分かる。最初はた・・・」
と騒がしい。
朦朧としている栄輔は「良多・・・」と息子の顔と名前は一致する。
多希子はそれが悔しくて悔しくてならないのだった。
しかし、菜穂(宮﨑あおい)がやってくると「くみ・・・」と呼びかけ、菜穂の息子の大地(大西利空)を良多と呼びかけるのだった。
生死の境を彷徨いながらとぼけたじいさんであることは間違いないようだ。
その生き様は傲岸不遜であり・・・病床にあってなお・・・家族を穏やかならぬ気持にさせるのだった。
栄輔の秘書である山下(清水章吾)にはこっそり、「夢の中でくみと結婚していた」と明かす栄輔。
すると山下は「そういう夢は口に出さないことです」とたしなめられる。
実際の妻である敏子はそんな栄輔をもう憎めなくなっているらしい。
一方、くみが自分の母の名だと知っている菜穂は相変わらずポーカーフェイスで栄輔との関係もあやふやなままの表現を続けている。
そんな菜穂を相変わらず疑いの目で見る敏子と多希子だった。
「どういうご関係ですの・・・」
「クーナ関係です・・・」
「クーナ?」
狐につままれる母娘だった。
その頃、亡き久実の実の夫であり、栄輔の幼馴染であり、菜穂の実父でもある歯医者の鳥居治(西田敏行)はクーナの森にいた。
亡き妻に共通の友人である栄輔の無事を報告していると・・・幻想の少年少女が背後を通りすぎる。
それは幼い日の栄輔と久実と治だったらしい。
良多の妻であり、級友に母の手作り弁当を売ったことを担任教師の園田(千葉雅子)に問題視され自宅謹慎処分になった萌江(蒔田彩珠)の母親でもある沙江(山口智子)はフードスタイリストの仕事を優先し、夫の父の危篤時も駆けつけなかったのだが、仕事が一段落したのでようやく病院に顔を出す。
トンネルを抜けると田舎だったのである。
冥界タクシーに乗って生死の境界線を越える。
おそらく・・・ここにはラインがあります。
夫にも娘にも絆を感じられない沙江にとっては夫の父の生死はまさに他人事だった。
沙江はそういう自分を隠しとおしているつもりだったが・・・夫はともかく、肉親である娘は敏感に紗江の心のなさを感じ取っているのである。
すぐに仕事のために長野から東京へ戻るという沙江に萌江は愛情への飢餓感の裏返しであるそっけない態度で応じる。
沙江はそういう娘の態度に違和感を感じ、はじめて危機感を持つのだった。
「私、母親として期待されてないみたい・・・」
「・・・そうかな」
言葉を濁す良多だった。
すでに良多の心はクーナに一直線なのである。
ホテルの一室で萌江をなだめる良多。
「ママは仕事だからな」
「ママは仕事が好きだよね」
「でも自分な好きなことを仕事にできるのは選ばれた人だけなんだぞ」
「そうなんだ」
「萌江は将来、何になりたい」
「科学者」
「じゃあ・・・パパと一緒だな」
「そうなんだ」
「パパは科学者になれなかったけどな」
良多は治に歯の治療を受けている。
「父は・・・どこまで本気でクーナを捜していたんでしょうね」
「この年になると・・・やり残していたことをしたくなるもんだ」
「やりたい放題やってたぞ・・・」
「そうでもない・・・栄輔は本当は科学者になりたかったんだが・・・父親が重病になって薬の仕事についたんだ・・・」
「へえ・・・」
良多の家系は科学者になりそこなうらしい。
治は娘の菜穂に栄輔の病状を聞き出そうとするが・・・他人には優しい菜穂は父親には手厳しいのだった。
「自分で聞けばいいじゃない・・・」
「病院に行くと母さんのことを思い出すから・・・」
「何言ってんの・・・肝心な時にはいなかったくせに・・・」
久実の死をめぐり、なにやら確執のある父と娘風である。
親友の恋人を妻にした治と、恋人を親友が妻にした栄輔は病院で顔を合わせる。
二人にしか分からない情感の漂う中、興奮させてはいけない患者に無理矢理葡萄を食べさせようとする治。
あわてて止めに入る患者と家族に感情移入し続けたために表情を失った七生総合病院看護師・堤千恵子(江口のりこ)だった。
すっかりクーナ事務局でくつろぐ萌江を迎えに来た良多はクーナの像が消えていることに気がつく。
「時々、散歩にでるんですよ」とおだやかに応じる菜穂だった。
クーナ誘拐犯の萌江は心和むのだった。
その頃、沙江は一人で仕事に熱中している。
その姿は充実しているようでもあり、わびしくもみえる。
いよいよ良多は栄輔にクーナについて問うのだった。
「クーナはいるんですか・・・」
「いるさ・・・」
「古事記に書かれたように・・・」
「そうさ・・・オクニヌシノミコトの国づくりをスクナヒコネが手伝った・・・歴史的事実だ」
「神話的にね」
「スクナヒコネはニライカナイ(常世の国)とこの世をつなぐことができるのだ」
「行ったきり帰ってこないのでは・・・」
「実際、帰ってきている」
「恐山にですか・・・」
「ダイコクとエビスは親子のようなものだ・・・だからプライスレスにはエビスビールのパロディーでダイコクビールが登場する」
「美術さん、いい仕事してましたよね」
「スサノオ、ダイコク、エビス・・・いいツナギだろ」
「まあ、脱サラ中華料理店風ですからな」
「で・・・私は話したい死者がいるのだ」
「ツナグを見たのですね」
「なんだそれは・・・」
「公開中の映画です」
「そんなものは知らん・・・クーナの話だよ」
「ツナグ風な・・・」
「とにかく・・・つないでもらいたいのだ・・・斬るのは簡単だがつなぐのは大変だぞ」
「それは・・・死んだじいさんですか・・・それとも死んだくみさん?」
「みなまで言うな・・・」
男親と男の子は以心伝心なのである。だから全く男ってやつはと女はみんな言うのだな。
とにかく・・・栄輔のクーナ捜しには立派に下心風がありました。
そして良多は栄輔に胸の痛む千円札を渡されるのである。
萌江はクーナの話をする度に栄輔に千円もらっていたのである。
父と娘は祖父によってつながったのだった。
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