戦う人の心を誰もが分かっているなら戦う人の心はあんなには燃えないだろう(松山ケンイチ)
「武力」と「統治」は切っても切れない関係で結ばれている。
もちろん・・・現代人は「信義」というものが「武力」以上に重要だ・・・と言うだろう。
それは「信頼」に基づく一種の相互不可侵条約のようなものである。
しかし、この国とて、生存を賭けてつい67年前まで残虐な戦争をしていたのである。
世界にいたっては未だにどこかで戦をしているのだ。
列島にまがりなりにも国家ができたのは「和」によるものではなく・・・侵略者による蹂躙の果ての結果である。
もちろん、雅なる皇室がその残虐な征服者の末裔であることは言うまでもない。
現代の「平和憲法」さえもが広島や長崎に原爆を投下し、沖縄を焦土と化し、東京を焼け野原に変えた連合軍によって制定されたものである。
しかし、寄せては返す波のように戦の世と和の世はせめぎ合う。
平安が長く続いたから源平の合戦があった。
戦国時代が長く続いたから太平の世が築かれる。
平清盛もまたその流れの中に生きた一人の男に過ぎないだろう。
しかし・・・清盛がいなければまったく違う世が出現していたのかもしれない。
人にそのような感慨を抱かせるものを・・・人は英雄と呼ぶ。
平清盛はまさに英雄なのである。
で、『平清盛・第49回』(NHK総合20121216PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は燃えに燃えて真っ白な灰になる寸前の平清盛入道描き下ろしイラスト大公開でございます。「もはや王家の犬ではない」「もはや平安ではない」「我が身さえこそ動がるれ」「熱いの・・・」「わしにもわからぬのじゃ」この世とあの世の間で・・・幽鬼と化した英雄の末路にただただ涙でございますなーーーーーっ。ご臨終まで後一週間です。
治承四年(1180年)の年の瀬、平清盛は平安京・六波羅に戻った。東国の源氏の乱は清盛自慢の子供たちによって近江・美濃国境で一応の防衛戦に持ち込むことが可能となる。関東の制覇に乗り出した源頼朝は関東北部に残る平氏勢力の制圧にかかり、佐竹秀義を下している。頼朝は御家人制度を創設し、朝廷の命令抜きで領土の拡大と分配を開始したのである。平将門以来、繰り返し夢見られた関東武士の独立の悲願に再び火がついたのだった。これに呼応するように鬼が棲むと噂される四国では水軍を率いる河野氏が反乱の狼煙を上げる。明けて治承五年(1181年)正月、独立の気風強い九州各地の豪族が勢力争いを開始する。本格的な源平合戦の序章が始ったのである。甲信越地方では甲斐の武田氏と信濃の木曽氏が鎌倉の源氏の棟梁に応じて領土での割拠を開始する。これに対し清盛は越後平氏の城資永に信濃・甲斐の賊軍討伐を命じ、奥州の藤原秀衡には源頼朝追討を命じる。さらに東方派遣軍、西方派遣軍を編成するために近畿地方の惣官職を創設し、後継者の平宗盛を任じて臨戦体勢を整えようと考えた。しかし、傀儡とした高倉天皇が一月十四日に崩御し、万事に窮したのである。それでも、源平の勝敗の行方はまだ定かではなかった。だが・・・清盛自身が二十七日病を発する。そして・・・閏二月四日・・・64年の生涯の幕を閉じるのである。
平安京は寒気に包まれていた。
内裏にも火の気はあったが・・・高倉天皇の回復を願い、力を使い果たした上西門院統子の居室には暗闇に包まれている。
浅い眠りから目覚めた統子は室内に妖気を感じて身を起こす。
回廊に八条院暲子が佇んでいた。
陰陽師の装束の一つである黒衣に身を包んだ八条院は青白い燐光に包まれている。
「姉上・・・決着の時が参りましたぞ・・・」
「・・・」と上西門院は無言で立ち上がった。祈祷のための白衣を着たままである。
黒と白・・・二人の姉妹は闇の中で対峙する。
先手をとったのは八条院だった。その手には真の宝鏡の一つ、ニニギの鏡が握られていた。「あめにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎ」とニニギの真名を唱える八条院はアマテラスが天孫降臨させた神将軍の呪力で、上西門院の動きを呪縛しようとしていたのである。
しかし・・・霊力にかけては上西門院が数段の上手である。
この日の「こと」はすでに予測されており、動じる気配は微塵もない。
上西門院は白衣の胸元をはだけると、胸乳を露わにした。
虚をつかれた八条院は姉の胸元から発する光に目を焼かれる。
「おのれ・・・」叫びをあげたのは八条院ではなく・・・八条院に憑依していた何か禍々しいものである。
上西門院は首から勾玉によってつりさげられたもうひとつの宝鏡である真経津鏡をかざした。「やくもたつひさすあまひさすてらしてかむいさりましやつばしげりおおみたま」と上西門院は照魔の呪を唱える。
金色の光が八条院を包み込んでいた。
のけぞって倒れた八条院の身体から黒い瘴気が立ち上る。
それは異形の神の姿の影を一瞬示すと発散した。
上西門院は気を吐いた。
呼吸を整えると「小宰相」とおのれに仕える女房の名を呼んだ。
おそらく、八条院の結界に呪縛されていたのであろう小宰相は乱れた呼吸で返事をする。
「妾の妹が伏しておる・・・看取れ・・・」
「これは・・・八条院様・・・」
「大事ない・・・気を失っておるだけじゃ・・・ようやく・・・妹をこちらに取り戻したところじゃ・・・」
上西門院は南東の方角に目を転じた。東の妖魔からの刺客はそちらにも出現しているはずだった。
その頃、六波羅の平氏殿では屋敷内に現れた亡霊武者と平氏の武者たちが斬り結んでいた。
奥の院では清盛が熱にうなされていた。
平時子が枕頭で結界を張っている。その手には清盛の前の妻から送られた琵琶が握られていた。
「お力をお貸しくだされませ・・・」
時子は姉と慕っていた高階御前の真名を唱える。
それに応じて琵琶は退魔の音色を奏でるのだった。
その周囲では平氏の武者たちが攻めよせる幻影の軍勢と白刃をきらめかせ合っている。
「父上と母上をお守りせよ」と宗盛が叫ぶ。
「輪になるのじゃ・・・まんまるになって・・・盾となれ」と知盛が命ずる。
その先に平通盛、平教盛の兄弟が火炎弾を投じながら群がる悪霊をなぎ倒す姿がある。
平家屋敷の各所で火の手が上がりつつあった。
郎党どもは主のつけた火を消すのに大わらわである。
その騒ぎは朝が訪れるまで続くのだった。
清盛は朦朧とした意識の中で呟く。
「ものども・・・かかれ・・・ひいては・・・まけぞ」
その老いた顔には微笑が浮かんでいる。
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