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2013年1月22日 (火)

自分の生れつきをそんなに悲しんではいない(水野絵梨奈)

じゃ、悲しいことは悲しいんだな・・・。

小山清は明治四十四年(1911年)の生れである。

つまり、生きていると数えで103歳になる。しかし、享年53歳で亡くなっている。

亡くなる7年前に失語症になり、まもなく幼い娘と息子を残し夫人に先立たれている。

「落穂拾ひ」は失語症になる数年前に発表され、その前後三年連続で芥川賞の候補となったが受賞は逸した。

まあ、いろいろな意味で悲しむべき事象はあったと思われる。

どちらにしろ、半世紀前の話である。

自己憐憫は愚か者のすることだが、他人の感傷に浸るのは読書のたしなみの許容範囲となる。

そんなに悲しんではいないが悲しんでいる人は他人の悲しみを求めている人に受けるものなのである。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第2回』(フジテレビ20130121PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。「落穂拾い」といえば19世紀のフランスの画家・ジャン=フランソワ・ミレーの油彩作品である。いろいろな意味で貧しい人々が収穫の終わった麦畑で落穂を拾い糧とするという題材である。落ちこぼれそうな人が落ちこぼれているものを拾うのだ。それを皮肉と感じるか、醍醐味と感じるかは人それぞれでいいと思う。

ビブリア古書堂の住居部分に棲むせどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)は一冊の文庫を通りすがりの女子高校生・小菅奈緒(水野絵梨奈)に盗まれてしまう。

新潮文庫の「落穂拾ひ・聖アンデルセン/小山清」は志田にとってお守り代わりの一冊だった。

失職し、家族にも去られた志田がホームレスに転落する直前、自宅から持ち出した唯一の品で・・・幸福だった頃の記憶につながる愛読書だったのである。

しかし・・・女子高校生にとっては縁のなさそうな古書がなぜ盗まれたのか。

活字恐怖症のアルバイト店員の大輔(AKIRA)は例によって店主の栞子(剛力彩芽)と一冊の本にまつわる謎の解明に乗り出すのだった。

もちろん、この話で一番、超常現象的と言えるのは次の部分だろう。

志田の友人である笠井菊哉(田中圭)が女子高生が衝突したために転倒した志田の自転車の積荷を拾い集めていると・・・。

「すみません・・・ハサミをお持ちではないですか」

「・・・持ってますけど・・・」

「ちょっと貸していただけますか・・・」

このように見ず知らずの女子高生にハサミをねだられるわけである。

生れてから一度もそういう体験はないな。まあ、ハサミはほぼ持ち歩かないわけだが。

ま、それはそれとして・・・盗まれた本が新潮文庫だったことから・・・栞はひとつの仮説を提示する。

新潮文庫は公式ホームページで自ら解説するほど本の中に焦げ茶色の紐が入ってることを特徴としている。所謂、スピン(栞紐)付なのである。

「女子高生がバスストップに向かって走る理由はただ一つ・・・好きな人にお手製のお菓子をラッピングして誕生祝いに届けるためです」

「え」

再び・・・超常現象が発生するが・・・ここは恐ろしいラノベの世界なのでこういうことは日常茶飯事と言ってもいいのだ。

「アクシデントで転ぶのは定番ですが・・・現実的には好きな相手ではなくて変なおじさんの自転車にぶつかっちゃうこともあるのです」

「はあ」

「そのために・・・ラッピングが壊れてしまい・・・彼女はかわいいヒモが必要となったのでしょう。新潮文庫のスピンは充分にかわいいヒモとして代用できます」

「・・・」

「笠井さんは貸したハサミが冷たく濡れていたと言いました。ホラーではないのでゴーストの仕業ではなくお菓子の鮮度を保つ為の保冷剤の上に置かれていたと考える方が自然でしょう」

「自然」

「そして・・・おそらく・・・彼女は失恋しています。好きな人にバカじゃねえのとか言われて泣きながらその場を走り去ったので本を返しそびれてしまったのです・・・彼女はそんなに悪い子じゃないと思う」

「・・・・・・」

不可解に思いながらも問題のバスストップを捜索した大輔は性格に問題のあるイケメン高校生(浅香航大)を発見してしまうのだった。

「あの・・・まさか・・・ここで誕生日のプレゼントをもらってませんよね」

「もらわないよ・・・あんなブスからもらえるかよ」

「あ・・・それはラノベの世界では・・・」

「えーと、クラスでは浮いてるというか、好みのタイプじゃないから拒否しましたけど・・・なにか」

クラスメートは浅墓で残酷な性格だったので見ず知らずのうすらヒゲをはやした男に小菅奈緒の個人情報を面白がってもらすのだった。

仕方なく、大輔は「本を返してください・・・待ってます」とメールするのだった。

それぞれの出番確保のための喫茶店シーンを割愛して・・・しばらく、間を置いて本を返却にくる悲しい女子高生だった。

「この本の作者って私小説家のくせに願望丸出しですよね」

「私小説というのは私のフィクションということだからね・・・ありのままじゃないんだよ」

「でも欲しいものが手に入らないことが分かっていて欲しがるというのは泣けますよね」

「そうだね・・・私も悲しい元ホームレスだから・・・その意見には賛成だ」

「これ・・・おわびの気持ちです」

悲しい女子高生は悲しいせどり屋に悲しい小説家が作中で理想の女性から贈られる爪切りと耳かきをプレゼントするのだった。

「主人公はきっと・・・爪がのびて先が黒ずんで、耳垢がたまった不潔な感じの貧しい小説家だったんでしょうねえ」

「悲しいよなあ」

「悲しいですね」

そして・・・二人はさめざめと泣き濡れるのだった。

ちなみに悲しい女子高生は準レギュラーらしいがダンサーなのでそのうち踊りださないかと心配である。

関連するキッドのブログ→第1話のレビュー

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