百年の時は一瞬に過ぎぬのでございます(綾瀬はるか)
さて、前にも述べたが、数え年の問題である。
現在は満年齢が日常的で・・・数えで何歳になるかは問われない。
しかし、1902年に年齢計算ニ関スル法律が定められ、ゆっくりと廃れてていくまで、年齢と言えば数え年であった。
現在の八重の時代はもちろん数え年である。
数え年は零歳というものがなく、生れた年が一歳である。
何月生れでも翌年の正月が来たら二歳となる。
十二月三十一日に生れたら翌年の一月一日には生後二日で二歳なのである。
八重は弘化二年十一月三日(1845年12月1日)生れである。
そのために安政三年(1856年)の十月には満十歳だが、数え年では十二歳である。
もちろん・・・10~12歳を演じるには綾瀬はるか満27歳は育ち過ぎだが、大河ドラマではお約束がある。
主人公が今、何歳かは外見で判断してはいけません。特に女児についてはね。
だからせめて数え12歳と考えて・・・ギリギリじゃないかと思った方が身のためなのである。
吉田松陰も百年は一瞬だと言っているわけだしね。
きっと安政七年で数え16歳くらいになれば気にならなくなりますから~。
で、『八重の桜・第2回』(NHK総合20130113PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は本作のヒロイン・山本八重の描き下ろし第一弾イラスト大公開でお得でございます。画伯は歴代綾瀬はるかを描き続けておりますれば・・・流石でございます。あ、あいくるしい・・・。
嘉永七年(1854~1855年)は十一月に安政元年に改元される。この年、吉田松陰は伊豆下田にてペリー艦隊に密航しようとして失敗。自ら自首したことにより事が露見して長州藩で幽閉の身となる。明けて安政二年には松下村塾の主催者となり多数の過激派を育成することになる。一方、弟子である松陰の罪に連座して佐久間象山も信濃松代藩にて幽囚の身となる。かくて私塾憎山書院は解散の運びとなった。勝海舟はこの年、長崎海軍伝習所の一期生となって江戸を離れる。こうして数え二十九歳になっていた山本覚馬は安政三年に会津に戻るのである。この時会津藩主は第9代・松平容保となっている。美濃高須藩第10代藩主・松平義建の子として生れ、会津藩に養子となり、先代藩主の娘・敏姫十四歳と婚義が整っていた。一方で上総飯野藩第9代藩主・保科正丕の娘として生れ先代藩主の養女となり豊前中津藩第8代藩主・奥平昌服に嫁いだ義理の姉・煕姫が離縁となって会津に戻っている。ちなみに中津藩は新政府軍の一員として会津攻めに参加することになる。しかし・・・それまでにはまだ十余年の間がある。尊王攘夷の嵐はまだ・・・会津には訪れていなかった。
山本家当主・山本権八と八重は北の山に入っていた。会津磐梯山である。
鉄砲術は平地での戦いを主とするが、鉄砲しのびの術は基本的に山岳戦である。
山の気に触れ、自然と一体化することにより、己の本性を磨くことが肝心となる。
下手な鉄砲も数撃てば当たるというが、上手となるためには一撃必殺でなければならない。
その鍛錬の相手は熊である。急所を射ぬかなければ射手に危険が及ぶことは言うまでもない。
山本権八は武士であったが山の民との交流があった。
際の神を跨ぐと言われるマタギの民は古くからの狩猟民である。鉄砲伝来の後には弓矢を銃に変え、独自の鉄砲文化を築いている。
山を越え密林に踏み込んだ父娘は陸奥国のマタギ小屋にたどり着く。
「おや・・・山本様、今年は早い御着きだんべな」
マタギの狩りの本場は冬である。
八重は男装をしている。マタギの一族には女人禁制の掟を守るものが多いからである。
「倅に山を教えねばならぬ」
「おや・・・まだ倅様のおられたか・・・」
「年の離れた恥かきっ子だ・・・」
「今年はオヤカタの若いものが二、三頭出ているで・・・お気をつけくだされなんしょ」
「さすけねえ」
マタギの伝蔵は権八の古い馴染みだった。
マタギにとって神聖な狩り場に入るために武士といえども儀式を受けなければならなかった。
「クマイカムイ、オオカムイ、カムイシカ、トイセコッチャカムイ、カムイノシシ、ヤマノカムイ、ヤチノカムイ・・・」
マタギの古き神へ捧げる祝詞を唱え、ススキで邪を払うと許しが出た。
「オヤカタはこの山の主のような熊だ・・・その息子が成獣になって山さ出没するということだ」
「それを撃つのげ」
「撃つ」
父娘は再び獣道に足を踏み入れた。
すでに山に入って三日三晩が過ぎている。
獣の残した糞を追い、野宿を重ねることで二人からは人里の匂いが消えている。
権八は娘の初めての獲物を狙い定めていた。
三頭の若熊のうち、ジロウと名付けた熊を追い詰めて行く。
「若い熊だが用心せねばならぬ。風下から近づき火縄の匂いを消せねばな」
「わがた」
「おめの鉄砲ならば間は詰めねばならね。必中せねば命さないと思え」
「・・・」
八重は頷いた。その瞳に獣性が浮かぶの確かめた権八は「行け」と指示する。
八重は待ち伏せのための位置に着いた。その動きは野生の猿の如く、俊敏である。
生い茂る梢の音もほとんどたてない。娘の動きに舌を巻きながら権八は援護の位置につく。娘がしくじれば、援護射撃は間を置かずなさねばならなかった。
八重の気が揺らぐのを研ぎ澄まされた父の神経が感じ取る。
「来たか」
次の瞬間、銃声が響いた。
森は静寂に包まれている。八重は一撃で熊を射殺していた。
「見事だ・・・」
思わず讃嘆の言葉が父の口から洩れる。
「かたじげね」
恥じらうように八重が頭を下げた。
二人は獲物に祈りの言葉を捧げ解体作業にとりかかった。
猛烈な臭気を浴びながら二人は激しく唾液を分泌した。
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