テトリスの如く嵌めまくる男(綾野剛)と内縁の妻(真木よう子)と会話したい男(瑛太)と最高の離婚(尾野真千子)
ああ、デリカシーのない男と何千回言われたことだろうか。
父親はよく「頭に浮かんだことをそのまま口にしてはいけないよ」と諭してくれたが・・・まったく効果なかったのだな。
だって言いたいことを言わないと気持ちが悪くなってしまうんですもの。
そういう意味で・・・このブログという奴はそこそこ無責任で、そこそこ一方的で、精神安定剤としては申し分ないのである。
いつだってよかれと思いアドバイスしてもそれが常に最善とは限らない。
もちろん、悪魔の言うことなので最悪の方がふさわしいわけである。
だが、「クラシック/JUDY AND MARY」が「やすっぽい花柄の便座カバーのような音楽」に聞こえる一瞬はきっとあると考える。そして、時にはそういうカバーを愛しく感じるのだ。デリカシーのない花が開いているから。
で、『最高の離婚・第3回』(フジテレビ20130124PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。たとえばインタビュアーというものは他人の話を聞くのが役割である。さらに言えば聞き出すわけである。概ね、人は話たがるものであるが・・・そうでない人も多い。また、話したいことと聞きたいことは概ね食い違う。たとえば「恥ずかしい話」を聞きたい時にはまず、「その話をすでに知っている」ことが好ましい。つまり、相手がどこかで誰かには話しているわけである。次に第三者、もしくはインタビュアーがそれに類した話を先にすることである。ただし、あくまでインパクトは話し手の方があることが肝心である。「より面白い話」を持っていると相手に思わせることが必要だからだ。そして「話」を聞きだした後で、「さすがにそんな面白い話は他にはないですよね・・・」と付け加える。そこからが本題なのである。もちろん・・・そういう基本が常に成功するとは限らない。懇切丁寧にインタビューしても「君とは二度と仕事をしたくない」とか「今度会ったらただしゃおかない」とか怨みのこもった目で見られることはままあるのだ。ただただ真面目に仕事をしていただけだったとしても。
連続ドラマでは継続的な視聴が望ましいが・・・記憶力があった方がより好ましいだろう。
たとえば・・・合コンで男と知り合った星野結夏(尾野真千子)がはじめてのデートで映画に一分遅刻する場面。
「一分なら・・・いいじゃないですか」と結夏が言うと男は「その一分の間にとても重要なことがあるかもしれないじゃないですか」とデートそのものを中止する。
当然、別れた元夫の濱崎光生(瑛太)の結夏が「いつも映画に遅刻する」ことを愚痴っていた場面を想起することで一つの「流れ」ができる。
それは世界一うざい男である光生にも賛成する男がいるということだったり・・・結夏という女はつくづくルーズな女だということだったり・・・光生よりも新しい男の方が結夏に対して淡泊だったり、冷酷だったり、どうでもいいと考えていたりするということだったり・・・映画を途中から見て平気な女なんて死ねばいいのにだったり・・・もっといい女だったら映画が終わる頃に来ても平気だよなあということだったりするのだな。
離婚してすぐに故郷に帰り、昔の男(波岡一喜)を訪ねたりした結夏だったが、実家にはなんとなく居づらくて、元夫の祖母(八千草薫)の誕生祝い出席を口実にしばらく奇妙な同居生活を始める。
近所に元夫の同棲相手の上原灯里(真木よう子)が夫婦で引っ越ししてきたためになんとなく知り合って行く二組のカップル。
特に元夫は灯里の主人である上原諒(綾野剛)とはやたらと遭遇するのである。
そして、諒にもてる秘訣を聞き出そうとしていた元夫は懲りずに草野球に参加したためにまたしてもぎっくり腰を再発してしまう。癖になるのだな。
芋虫と化して自宅に戻った元夫と諒。そこに元夫の祖母に気に入られた灯里と元妻が立ち話もなんだからと戻ってくるのである。
ついに実現した元夫と昔の同棲相手とその夫と元妻の記憶力のない人にはかなりややこしい同席の場である。
しかも・・・上原灯里が知ってか知らずか、上原諒は婚姻届を未提出らしい。
つまり、元妻と元夫と昔の同棲相手とその内縁の夫の同席なのである。
話の流れから・・・元妻は灯里が元夫の昔の恋人と気がついて「別れてすぐに昔の女とヨリを戻そうとするなんて最低」と言うのだが、自分が昔の恋人と和気藹々していたことはもちろん異次元の彼方なのである。
ささいなことで喧嘩する元妻と元夫は「喧嘩なんてしたことがない」という上原夫妻を疑いの眼差しで見つめる。
なんとか、そういう話をしようと・・・上原諒は内縁の妻の昔話にたどり着く。
「そう言えば・・・昔の彼氏にすごく怒っていた話があったよね・・・死ねばいいのに・・・とか思ったって酔った時に話してたよね」
「その話は・・・」
「・・・」
危険な方向に口をつぐむ賢い女が二人。
しかし、愚かな男は火の中に飛びこまずにはいられないのだった。
「どんなひどいことを・・・その人はしたって言うんですか・・・」
覚悟を決めて思い出を語りはじめる灯里だった。
「私は青森県八戸の漁師の娘として生を受けました・・・」
そこからかよっ。
「私は父親が大好きでした。海の香りのする父の帰りを待って海をずっと眺めているような娘だったのです。そんな父は私が14歳の時に亡くなりました。海で鮫に襲われ船から投げ出され八時間後に遺体となって発見されたのです。それから私はぼんやりすることが多くなりました。世界から太陽が消えたような気分だったのです。そんなある日、とある有線放送で当時流行していた歌が流れてきたのです」
恋しい人 震える想いは 今も 生きてるわ
この街の どこかで 強く風が吹いたら
切ない日々も キレイな空の色に 染まる
恋しい人 震える想いを のせて いつまでも 夢の中にいて
「その歌は私の心に陽光のように注がれたのです。私はその光を頼りにこの世に戻ってきたのでした。それ以来、私には彼女のような歌手になるという大それた夢が芽生えたのです。大学生になった私は歌手になるという夢とそんなの無理に決まっているという諦めで揺れていました。逃げるように男の人と付き合ってみたりしたのです。でも・・・どうしても夢は捨てがたく・・・思い切って恋人に話してみようと思ったのです。その日、私は思い出の曲を乙女チックにエンドレスで聞きながら恋人の帰りを待ったのです。恋人は帰ってくるなり言いました・・・なんだか、やすっぽい花柄の便座カバーのような音楽だね・・・と」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「思わず、部屋を飛び出してしまった私です・・・しかし、恋人にとってその曲がそう聞こえてしまったのは仕方のないことだったと思うしかありません・・・気をとりなおして部屋に戻ると彼は映画「ジョーズ」を見ていました・・・そして、笑いながら言ったのです・・・鮫に食べられて死ぬのだけは絶対いやだよねーーーって」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「私は・・・思いました・・・恋人が悪いわけじゃない・・・結局、恋人だって他人なんだから・・・で、その日のうちに荷物をまとめて部屋を出たのです」
「・・・」
「・・・」
「・・・帰ろうか」
「うん」
まあ、大抵の惨事というのは間が悪いことで発生するんだけどね。
地震とか、津波とか、飛行機事故とか、武装勢力の襲撃とか、貿易赤字とかありとあらゆる禍は・・・間が悪いんだよね。
そして・・・間の悪さは生まれつきだったりもするんだな。
やればやるほどストーカーであるにもかかわらず・・・どうしても本人に謝罪したい元夫。
しかし・・・その謝罪の仕方が「全く記憶にないんだけど・・・ごめんなさい」である。
当然、ドアもあけない灯里だった。
元夫がすごすごと引き上げようとすると・・・内縁の夫の愛人の一人で、内縁の夫の教え子でもある有村千尋(小野ゆり子)が石を投げて逃げ出すのである。
「愛人たちよ・・・はばたくのだーーーっ」とは言わずに無言で逃げ出す千尋。
うかつな元夫にもまるでストーカー的な自分が窓ガラス割っちゃいました的誤解を受けることが直感できたのです。
仕方なく犯人を追いかける元夫。
「どうしてあんなことを・・・」
器物破損である。しかし、それを咎めることは灯里にとってどうなのか・・・もはや元夫には判断つかない。
「あの人が自分は特別みたいな顔してるから・・・」
「・・・」
「あの二人・・・結婚してないのよ」
「ええっ」
「だから・・・私も不倫じゃないし・・・あなたが略奪しても不倫じゃないわけ」
「・・・」
「どうなのよ・・・やる気あるの・・・ないの」
「・・・」
やる気はあるのだがやり方のわからない元夫なのである。
フェイスブックも暇を持て余す小牧歯科医院の歯科衛生士の海野菜那(芹那)に教えてもらわないとできない男なのである。
その頃、生れついてやり方を知っている内縁の夫は愛人の一人である雑貨屋の光永詩織(大谷英子)・・・と思ったらさらに新しい愛人(遊井亮子)とラブホテルで交接したあとのまどろみで悪夢を見ていた。っていうか今度は人妻相手かな。
「どうしたの・・・浮気に罪悪感でもあるの・・・私は爽快感しかないんだけど」
「さあ・・・ただテトリスをしているみたいに果てがないんだよね・・・ゲームとしてこれは」
「・・・」
「はめては消して、またはめて」
冬の中目黒に落ちて消える冷たい雪が降っている。
これ以上、サイコパスのストーカー行為がエスカレートしないように石を間違った相手に返す怖いもの知らずの内縁の妻。
元夫はなすすべなくそれを受け取る。
「大回しの縄とびをみんながとんでいるのに・・・ぼくが入るとつっかえてしまう・・・ぼくにはどうしたらいいのか・・・わからない・・・ぼくは・・・どうしたらいいのかわからない男」
発達障害の人だったのか・・・と茫然とする・・・あるいは戦慄を感じる内縁の妻だった。
再現率高いぞ・・・し、仕方ないだろう・・・も、文句のない出来栄えなんだから。
爆笑、爆笑、また爆笑だもんな。
ところで・・・この流れだと・・・元妻の提出した離婚届、書類に不備があって受理されなかったんじゃ・・・。
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