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2013年2月28日 (木)

燃えろ、いい女~焦がせ、僕の魂を(中島裕翔)

コーンスープとミートローフといえば軽いもてなしの料理である。

質素といえば質素だが・・・急な客人のために用意する食事としてはそれなりに心がこもっていると言えるだろう。

急な客人といえば、結婚式帰りの二人である。

そうなれば・・・突然の嵐が襲来する。

性的にはまだまだ未熟な二人が・・・性の狩人が主をつとめる古城にやってくる。

もちろん、「ロッキー・ホラー・ショー」の幕が上がるのである。

その中でも異彩を放つのが地獄のロックライダー、超絶的な性の愛玩用モンスターの失敗作、エディ(ミートローフ)なのである。

屋敷の主の正体は・・・実は宇宙人だ。

なるほどね・・・そういうことがやりたいのでございますね。・・・いや、お前の妄想的にはな。

で、『シェアハウスの恋人・第7回』(日本テレビ20130227PM10~)脚本・山岡真介、水橋文美江、演出・南雲聖一を見た。束の間の正気を取り戻したヒロインの汐(水川あさみ)はドレスアップして友人の結婚式に出かける。例によって世間はせまいので友人の結婚相手は雪哉(谷原章介)がアルバイトしている「にっこり弁当」の社員である。参列者の中に雪哉に一方的に恋をしている明海(黒沢かずこ)と言う女がいて、汐と雪哉が友人だと知るとすり寄ってくる。常識的に考えれば「彼が妻子ある男であること」を遠回しに伝えるところだが、「プライベートなことだから」という理由で秘す汐であった。邪推すれば、汐は自分自身が雪哉の結婚をなかったことにしているのである。

つまり、汐の狂った頭では・・・雪哉の実子である空知(君野夢真)と父親の仲をとりもつことで自分が母親=妻になったように考えているわけである。

しかし、そういう妄想に支配されている一方で・・・汐の中にはどうやら、汐に愛を告白した辰平(大泉洋)が気になる心も生じているのであった。

客観的に見れば、妥協して辰平でもいいのではないかという打算が生じているわけだ。

恋と言う情熱とは違い、愛は時に計算高いのである。

帰宅した汐は妄想上の夫の手作りコーンスープ&ミートローフを楽しむ予定だったが、それは不詳の弟、シスターコンプレックスで、弱虫、へたれで知り合った日から何年すぎてもあなたって手も握らない赤いスイトピー・凪(中島裕翔)が美味しくいただいてしまったのだった。

そもそも、この年頃なら好きな女の子とはすべての体位を試した上にいろいろな禁断のプレーもやってみるのがノーマルだと思うし、それほど好きでもない女の子でも相手がその気になれば一応やっておくのが当然なのでよくわからないのだが・・・お前はな。凪は恋人のカオル(川口春奈)と性行為は新婚旅行先までお預けどころかキスもできないチェリー・ボーイなのだった。

挙句の果てにカオルが他の男と挑発的なキスをしたことで悶々としていたのだった。

サタデーナイトを思い出せよ

それなりに着飾って楽しんだことはないのか

宇宙の彼方から届いた光で

神様の存在を感じるようにさ

汐は自分以上に奥手な弟を持て余すのだが・・・同類相哀れみもする。

翌朝、カオルがやってきて・・・凪の贈り物を返すと主張する。

これまで凪はカオルに君のことを愛してるカップだの、鳩笛だの、ベスト・ラブ・ソングだのをろくでもないものをプレゼントしてきたのである。ラプソングを聞きながらベッドをギシギシいわせて夜明けのコーヒー飲まなければただのガラクタである。・・・笛はどうすんだよ・・・あ、あれか。昇天の合図用か・・・お前はな。

信じられないことにそれでもカオルは凪に見切りをつけることはできず、愛してもらいたいと未だに思っているのである。もちろん、凪もカオルを愛したいのだが・・・下半身に忠実になれない性格なのだった。

いかした女をドライブに連れて行き

いかれた音楽をラジオで聞いて

サックスでロックンロールをしまくって

ごきげんタイムを過ごせばバッチリさ

もどかしい二人に汐はショッピングを口実にしてこぶつきデートをもちかけるのだった。もう、その発想が理解できません・・・お前はな。

カオルは風船パフォーマーに「彼女と一発決めることもできないへなちょこ男」をリクエストするのだった。

なんとか、二人をとりもとうとする汐だったが、遅効性の告白されちゃったのでなんだか気になってきましたシンドロームを発症する。

何を見ても何を聞いても、辰平の記憶がフラッシュバックしてくらくらしてしまうのである。難儀な姉弟なのだった。

結局、凪は・・・。

「Hot Patootie - Bless my soul(情熱的な恋人よ、我が魂に祝福あれ)などと頓珍漢なことを口走るのだった。

通りがかりの三浦刑事はため息をついてつぶやくのだった。

「女の泣き言に分析は要らん・・・黙って聞いてやって・・・大変だったなって言ってやる・・・それだけでいいんだ」

まあ、相手がフランクリン・フルターなら「厄介者め」と斧で安楽死処分されるところである。

香水で鼻をくすぐられ

ジーンズを脱がすのももどかしく

ピンクの口紅を舌でとかして

耳元で愛をささやくだけなのさ

しかし、凪がカオルの恩寵を受ける日はまだ遠いらしい。

翌日はストーカーと化したブタゴリラが来襲する一幕があって、シェアハウスは蛇口とかホースとかを一方的な恋の思い出の戦利品として強奪されるのだった。

しかし・・・雪哉が「にっこり弁当」の正社員として採用されることがわかり、汐と辰平は祝福するのだった。

その夜、調子に乗った汐は実の母親の許可もとらず、幼稚園児を長距離バスで呼び出すという暴挙に出る。

もちろん・・・雪哉に引き合すという大義名分で押し切るつもりなのである。

しかし、まだ完全に「まともな父親」としての復活を果たしていないと感じる雪哉は頑なに面会を拒むのだった。

いや・・・大人なんだからさ・・・などと常識的な話をしても無駄なのである。

所詮、いい年してシェアハウスの住人なんだから。

結局、代理母、代理妻としての役割を演ずることがてきなかった汐は・・・辰平で妥協しようとする内面的葛藤をもてあましたあげく・・・なんだかつかれちゃって家出を敢行するのである。

ふ、ふりだしにもどるのかよっ。

あわてふためく・・・まだまだ駄目な父親、相当に駄目な弟、そしてそこそこ駄目な宇宙人。

しかし・・・ついに宇宙人は・・・その神秘な下半身を青白く発光させて・・・本人を含めた全員の度肝を抜くのだった。

な、なにが光ってたんだよお。

かわいい女に祝福を

マジで愛しいロックンロール

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2013年2月27日 (水)

書店員ミチルのでんぐりがえる胃の腑と呪いのフライパン(戸田恵梨香)

幸運と凶運は背中合わせだと考えるものがいる。

しかし、世の中には幸運に恵まれ続けて天寿を全うするものがいないわけではない。

そういう事実を前にすると・・・運命論者は「でも、結局、死んじゃうわけでしょ」とつぶやいたりもする。

あらゆる物語はどこかで運命論者に迎合するのである。

生れて以来、ずっとずっと幸福でした・・・では話にならないからだ。

宝くじの高額当選者であるにもかかわらず、この物語のヒロインは毎日、地道に働いて、その上、神経をすり減らし続けるのである。

そのストレスに精神失調する勢いなのである。

悪魔としてはニヤニヤするしかないのですなーーーっ。

で、『書店員ミチルの身の上話・第8回』(NHK総合201302262255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。長崎の宝クジ売り場の女(大島蓉子)は「この売り場から高額当選者が出ました」の貼り紙を恨めしく思う。奇妙な妄想にとりつかれた人々が次から次へとやってくるのだ。「私が当選したんですけど宝クジが見つからないんです。私、確かにここで買いましたよね」「私なんです。私が当選者なんです」「あなたでしょう。あなたが当たりくじを着服したんでしょう」「ははははは」「当選したのは誰なんですか」「この女が来ませんでしたか」「この女が宝くじを持ち逃げしたんです」

妄想にとりつかれた中年女・立石武子(濱田マリ)には「宝くじ売り場の女が言うのもなんですけど幸せはお金じゃ買えませんよ」とアドバイスしてみるのだった。

そして、「この傘・・・」と問う女・初山春子(安藤サクラ)には「忘れ物だよ・・・ずっと取りに来ないんだ・・・欲しけりゃあげるよ」と投げやりになるのだった。

職務として当選者情報はもらせないし・・・宝クジを買わないなら気安く声をかけないでほしいのである。

しかし、春子は疑問を感じる。「ミチル(戸田恵梨香)は東京で買ったと言ったのに・・・なぜ、ここにミチルの傘があるの・・・」

竹井輝夫(高良健吾)の叔母である沢田早苗(浅田美代子)が永年介護してきた老母が死んだ。早苗はたった一人の肉親である甥に電報・・・ではなくてメールを送った。

「ソボシンダ、スグカエレ」

「私は新聞を買いました。最近は新聞を定期購読しない人が多いと思いますが、知人が自殺したことを記事で確かめられないと困るので新聞は存続してほしいものです。ああ・・・竹井が電話で言った通りに高倉恵利香(寺島咲)さんが踏切で渋谷行きの特急電車に飛び込んだことが報じられています。どうやら自殺とみなされているようです。かわいそうな恵利香さん。私を守るために久太郎(柄本佑)をうっかりフライパンで殴り殺してしまい、そのために精神を病んでしまったのです。飛び込み自殺をするなんて他人の迷惑を考えない人だとばかり思っていたのですが。私には飛び込みたくなる理由がある人が身近にいたことに驚いて興奮したのです。恵利香さんはもういないのです。体はバラバラになってしまったのでしょうか。恵利香さんの首や手や胴体がそこらじゅうに撒き散らされたのでしょうか。私はおえっとなりました。恵利香さん・・・恵利香さん・・・どうか、神様、恵利香さんを御救いください。恵利香さんは確かに人殺しですが・・・悪気はなかったと思います。それなのにあんなに気を病んで・・・もう充分ではありませんか。どうか、天国の扉を開いてください。ふとうしろをふりかえるとそこには夕焼けがあるように天国の扉を開いてくださいますように。恵利香さん、ああ、憐れな恵利香さん。・・・そういえばと、私は竹井の部屋に恵利香さんの荷物があることに気が付きました。ひょっとしたら遺書のようなものがあるかもしれないと・・・私は荷物を開いてみました。すると・・・そこには私が一樹さんに渡した銀行の袋と・・・一樹さんのものとばかり思っていた置き手紙が入っていたのです。なぜ・・・こんなものが・・・私は眩暈をかんじました。クラクラと世界が廻っています。なんでなんでなんでなんでなんで・・・私は疲れ果ていつしか、眠ってしまったようです。ふと気がつくとタテブーが鬼の形相で立っています。私にはわかっていました。嫉妬にとりつかれたタテブーは生きながら地獄に落ちて生霊となってやってきたのです。タテブーは悪魔の蛇を体にまきつけながら私を呪詛するのです。アンタ、アンタガイナケレバ、一樹(新井浩文)サンハ、ワタシノモノダッタ、一樹サンニダカレルコトガワタシノ、タッタヒトツノ快楽ダッタノニ、ドウシタノ・・・ワタシノ一樹サンヲドウシタノ。知らないわ。知らないわ。ジャ、久太郎サンハドウシタノ。知らないわ。久太郎には会ってないもの。ウソツキ。久太郎サンハ死死死死死死死死・・・殺殺殺殺殺殺殺殺・・・ちがう、私は殺してない・・・ジャ、一樹サンモ殺シタノネ。知らない。私は知らない。死死死死・・・殺殺殺殺・・・遺棄遺棄遺棄遺棄・・・私は恐ろしくて覚醒しました。しかし、悪夢の恐怖よりも現実の恐怖はもっと恐ろしいのです。一樹さんも殺されてしまったのか。竹井と恵利香さんが始末してしまったのか。そして、恵利香さんも殺されてしまったのか・・・竹井が殺してしまったのか。私は急に竹井が恐ろしいモンスターであるように思えてきました。そして・・・私はそのモンスターの巣窟に潜んでいるのです。私は腰を抜かしそうになりましたが、やっとの思いで立ちあがりました。私も殺されてしまう。逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。とりあえず、誰かに助けを求めなければなりません。もう、頼りになるのは春子さんくらい。私は電話で助けを求めました。そして、荷物をまとめて逃走したのです。しかし、私はあっさり竹井につかまってしまったのです。・・・どうしてそんなに怯えた顔をしているの・・・と竹井が尋ねます。あんたがこわいからに決まってるでしょ。・・・などとは言えません。恐ろしくて恐ろしくて私はおえっとなりそうです。殺殺殺・・・殺殺殺・・・狂凶恐狂驚愕狂人嗚咽恐慌凶悪狂凶怯脅恐・・・・私は我を忘れて竹井を問い詰めました・・・恵利香さんは本当に自殺したの・・・僕は彼女の部屋で彼女を待っていただけだよ・・・あなたが殺したんじゃないの・・・僕はそんなひどいことはしないよ・・・じゃ、一樹さんをどうしたの・・・みんな、ミチルちゃんを守るためだよ・・・あの男はミチルちゃんのお金を狙っていたんだよ・・・お金って・・・ミチルちゃんが持ってる二億円だよ・・・私はもう我慢できませんでした。内臓が痙攣していました。私は嘔吐したのです。もうすべてゲロしてしまったのです。反吐を吐く私の耳に幼い歌声が聞こえてきました。おそろしげにのしかかる夜の闇の中で私は竹井の正体を思い知ったのです。・・・ほねまでとけるようなてきーらみたいなきすをしてよぞらもむせかえるはげしいだんすをおどりましょう・・・昔、ミチルちゃんが家に遊びに来た時に録音して遊んだでしょう。これはぼくの一番のおきにいりだったんだ。高倉さんに聞かせたら彼女も気にいってくれたみたい。いやされるよね、これからもずっとミチルちゃんを守ってあげる。ぼくとミチルちゃんはずっとずっと一緒だよ・・・はなびはまいあがりすこーるみたいにふりそそぐきらきらおもいでがいつしかおわってきえるまで・・・私はいつの間にか呪いのフライパンを手にしていたのです・・・恐怖は私を突き動かしていました・・・さよならずっとあもーれあもーれこのよであなたひとり・・・殺される前に殺すしかなかったのです・・・気がつくと竹井が床によこたわっていました。私は手ごたえを感じました。金属と骨がぶつかる音を聞きました。彼女もまたこんな気分だったのだろうか・・・私は息をするのも忘れて立ちつくしていたのです」

騎兵隊のようにかけつける春子。そして・・・ミチルへの敵意をむき出しにしていたタテブーは竹井の殺すリストにのり、チェック済なのか・・・どうか。そして一部、お茶の間待望のミチルの夫の職業は・・・。真犯人を殺したとしたらミチルは連続殺人犯になってしまうのでは・・・。次週、絶対に見逃せません。

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2013年2月26日 (火)

もしわたさぬとおっしゃればただではすまぬ(安田成美)

コミック「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」(1953年)は後の藤子不二雄、現在の藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐによる共作である。

当時の近未来を舞台にしたファンタジーであり、東西冷戦による最終戦争の勃発と、その後の人工生命による地球支配と旧人類の反乱を描き、最終的には無力なものが勝利するという結末を迎える当時としては一大スペクタクルだった。

現代の人々と違い、夢の中の古書店を持つ者ならば一度はコレクションに加えたいと思う幻想のアイテムである。

「そこに行けばどんな本も購入できるというよ・・・」と鼻歌を歌いながら、夢の街角を曲がれば、獣の匂いのする老夫婦が営む暗い店屋があり、棚にはそれが並んでいるわけである。

それは確かに手にとることができ、小銭で購入できるのだが、目覚めれば何故か、消えてしまう類のものである。

だが、時にはその店にもない「もの」というものがあり、入荷の日を待ちわびるのだが・・・けして、それが手に入ることはない。

だが、今や現実の世界では銀行にある程度の残高があれば、手に入らないものはないのである。

庶民の夢が高じれば復刻版なんかも出版されるし、素晴らしいインターネットの世界では大抵のものが電子化されている。

夢は現実となり、現実は夢となる。

それが本当に素晴らしいことなのかどうかは別として。

有名な話だが、「UTOPIA 最後の世界大戦」には女性がただ一人も登場しない。若きクリエーターが最初からその存在を想定しなかったからだという。それを恐ろしいと感じるか、物哀しいと感じるかはそれぞれの感性によるだろう。悪魔としては微笑むばかりである。

今回のタイトルは最終兵器の受け渡しを拒む科学者に対する政府高官のセリフからの引用である。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第7回』(フジテレビ20130225PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。姑息な引きで連続ドラマ展開をしたためにやや、ドラマとしての格調が破綻したように感じる。まあ、視聴率的に14.3%↘12.2%↘12.0%↘11.6%↘11.5%↗11.7%と月9としてはやや低迷しているので編集で可能な小手先の技を使わざるを得なかったのだろう。まあ、しょうがないよね。昔の常套手段を楽しむのも一興なのである。↘10.4%で結果は出なかったけどね。

「晩年」を求める狂気の男・笠井菊哉(田中圭)は病院の屋上にビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)を追い詰める。

だが、男の目前で栞子は「晩年」を焼却して捨てるのだった。

ここで追いかけた笠井が屋上から墜落すれば・・・まあ、いいか。

病院の玄関では晴れ渡り陽光さえ射していたがアルバイト店員の五浦大輔(AKIRA)が屋上にかけあがると魔界と化した超時空間は吹雪が吹き荒れるのだった。

「なんてことをするんだ・・・」

「本のためなら人も殺せるのさ・・・俺はそういう人種なんだ・・・この女だって同じさ・・・奪われるくらいなら大切なものを燃やすんだからな」

「ちがいます・・・私には本よりも大切なものがある・・・あなたと一緒にしないで」

「じゃ・・・大人しく・・・よこせばよかったじゃないか」

「太宰は・・・この本を誰かのためによかれと思って書いたのに・・・時を経て・・・本の存在が凶悪なものに変じていた・・・消してしまうしかなかったの・・・あなたの呪いも解けたでしょう・・・もう、執着するものがなくなってしまったのだから」

「作家が何を思って書いたのかなんてどうでもいい・・・作品と作家は基本的には無関係だろう・・・」

「見解の相違です」

予算の関係で、「ハンチョウ」から二人の刑事が長期出張したかのように、何者かの通報でかけつけた警察関係者が傷害罪らしき罪で笠井を逮捕連行したらしい場面は省略される。貧乏な時代なのである。

笠井の動機は笠井一族の没落に原因があった。

弁護士でもないのに面会を許された五浦は拘置所の笠井の語りを聞く。

「あの晩年は俺の祖父の持ち物だった・・・経済的危機がその流出を許した。あの本を回収することは一族の悲願だったのだ・・・もはや、その願いもむなしくなったよ」

「なんか・・・今年の正月に相棒で同じような話を聞きました」

「偶然ってこわいよな」

しかし・・・すべては栞子の罠だったのである。栞子は複製本を燃やし、「晩年」の喪失を擬装していたのだった。

真相を聞かされた五浦は戸惑うのだった。

「どうして・・・そこまで本にこだわるんです・・・」

「たかが・・・本だとあなたは思うんでしょう・・・」

「いいえ・・・そうは思いません・・・たかが栞子さんとは思いませんから・・・栞子さんが大切だと思うものは・・・尊重したいと思います」

「月9ですものね」

「月9ですから・・・」

家族や恋人よりも趣味が大切だという人は抹殺される運命なのである。

だが・・・結局、栞子は命より大切な「晩年」を凶悪なライバルから守りきったのだった。

しかし、そんなことであの笠井が騙されたかどうかは疑問である。

本をそれほど愛していない五浦のわだかまりを残して話は進んでいくのである。

ビブリア古書堂に新しい客がやってきた。

古書の買い取りを希望する須崎(井浦新)は栞子が店主だと知ると、「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」の初版本をいくらで買い取るかと問う。

「状態にもよりますが・・・100万円単位になりますね」

すると、男は書きかけた住所と古書を残し、立ち去ってしまう。

栞子は謎めいた男の言動に興味を持ち、男の家を探り当てる。

須崎が狂気の上皇クラスのハンサムであったために心中穏やかでない五浦だった。

いつの間にか、栞子の体が目当ての男になったらしい。

須崎は栞子の来訪を待ちかねていたのである。

「実は・・・あなたの母上は私の初恋の相手だったのです・・・」

五浦はよからぬ妄想にかられたのだった。

「あなたが・・・あの人にそっくりだから・・・きっと娘さんだと思ったのです」

栞子は十年前に家を出て消息不明になった母親・千恵子(安田成美)を思い出した。

キッドが安田成美を初めてみたのは彼女が18歳の頃だった。「風の谷のナウシカ」のイメージ・ソングを歌っていたころである。宣伝材料の視聴盤を受け取りながら・・・これはただならぬ美少女だと思ったことを今でも覚えている。

とてもじゃないが・・・千恵子と栞子の親子関係は直感できないと思うが、狂気の上皇様クラスのハンサムが断言するのだから従う他はないのだった。

須崎は栞子の母親との出会いを語りはじめる。

・・・須崎の父親(でんでん)は藤子不二雄のコミックのコレクターだった。須崎が少年だった頃、「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」がかなりの高額で売りに出されたことがあった。須崎の父親にはそれを買うだけの経済力がなかった。そんなある日、父子はビブリア古書堂に古書を売りに出かけた。そこで父親は法外な安値で売られている「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」初版本を発見し、興奮して店を飛び出してしまう。栞子の母親は栞子と同様に、須崎の父親が置き忘れた本を届けてくれたのである。須崎の父親は栞子の母親を「善意の第三者だ」と言い、須崎は美貌の千恵子に懸想したのだった。

栞子は微笑んで・・・「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」は形見として残すがそれ以外の死んだ父親の残したコレクションを買い取ってほしいという須崎に同意する。

店に戻った五浦は「素敵なお母さんだったんですね」と栞子に語りかける。

「いいえ・・・そんなことはありません。あれは盗品です」

「え・・・」

「盗んだのは須崎さんのお父様だったのです。故人はうっかり、売却古書の中にあれを混ぜてしまったのでしょう。そして、あわててあれを持って逃げ出したのです。私の母はあれを見逃さなかったのです。母は須崎家を訪ね・・・取引を持ちかけたのです。窃盗罪を見逃す代わりに・・・おそらく・・・須崎さんのお父様のコレクションの一部を譲り受けたのです。その見返りとして盗品に安い値段をつけたのです。現在のように古物売買の規制が厳しくなかった時代に・・・盗品で商売をするのは普通のことでしたから。須崎さんのコレクションはそれなりに充実していましたが・・・ある時期のものが欠けていました。おそらく、それは母が引き取ったのでしょう。何より、母がそんな安値を・・・UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄・・・につけることはありません。母は私よりもっと厳しい古書商人だったのです」

「・・・」

「幻滅したでしょう」

「そんなことはないですよ・・・なんだか、プロフェッショナルな感じで憧れます」

「・・・」

「ところで・・・足塚不二雄って・・・他にはどんな作品を描いてるんですか・・・」

「・・・・・・・・・ドラえもんとか」

「えーっ」

「ドラえもんは知っているのですね」

「アニメで見ました」

「なるほど」

世界最終戦争における恐ろしい最終兵器「氷爆」により、凍りついた世界。

様々な苦難の果てに主人公の少年は死んだとばかり思っていた父親に再会する。

父親は息子に問いかける。

「科学も必要だが・・・大自然の理想郷(ユートピア)もなくてはね・・・戦争のない大自然の・・・」

息子は呑気に応じる。

「銀座のようなにぎやかな通りもよいけれど・・・月の田舎道を歩くのも人間にとっては必要だと・・・」

父親がパイプ煙草の煙を燻らせる。古き良き幼年期だった。

栞子と行方不明の千恵子との母娘関係はもう少し、緊張しているらしい。

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2013年2月25日 (月)

緋色なる恩賜の御衣の陣羽織、松平容保公は会津藩兵千名を率い建春門前にて天覧馬揃えに臨むのです(綾瀬はるか)

馬揃えは軍事訓練であると同時に示威行為でもある。

日本における先達は源義経であり、木曽義仲追討のための軍勢を浮島原(静岡県・原宿)に集結したことによる。

それを儀式的に洗練したのは織田信長である。信長は正親町天皇に京都御馬揃えを披露した。

圧倒的な軍事力の保持とそのショー・アップは抑止力としての効果を持つと同時に・・・周囲に脅威を与え、警戒心を強める。信長が馬揃えを披露した翌年・・・本能寺の変が勃発する。

徳川幕府三代将軍徳川家光は先代将軍・秀忠の死を受けて品川宿において馬揃えを敢行した。武断政治の続行を示すとともに将軍の権威というものを高めようとしたものと思われる。

そして・・・会津藩による天覧馬揃えが行われる。

企画者は因幡国鳥取藩12代藩主・池田慶徳だったと言われる。慶徳は徳川斉昭の五男で一橋慶喜の兄にあたる。公武合体推進の一手として、「武」の威力を示す意図が濃厚であったと思われる。

一方で尊皇攘夷に期待する人々は勅命により、それがなされることに新たなる権威を見出そうとしたのである。

結局、公卿たちは「武力」に恐怖し、天皇は「武威」に憧憬を感じたらしい。

会津藩の猛々しい武力はこの瞬間、政治に利用されるものに堕ちたのである。

で、『八重の桜・第8回』(NHK総合20130224PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は倒幕の推進者・革命家にして政治家であり逃げの小五郎こと長州藩士・桂小五郎(30)その人の信長も相棒も御免の陰謀スタイルと・・・未来予知能力者にして一家総自害の後も生き残っちゃう悲しい家老・西郷頼母(33)の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。毛利(天野)の血を引くものと徳川(保科)の血を引くもの・・・いわば・・・東西両雄激突ですな。両者から維新の後もそこそこ生きながらえるしぶとさが感じられまする。

Yaeden008 文久三年(1863年)三月、第14代将軍徳川家茂はついに上洛する。幕府と朝廷の間では「攘夷実行」についての綱引きが行われる。将軍継承問題に端を発し、黒船来航によって動揺した幕府、各藩、朝廷の様々な思惑が交錯し、幕末の混乱が始ったのである。これを機に壬生浪士組は京都守護職・平容保の預かりとなった。言わば、江戸幕府による警察組織と同様に汚れ仕事を行う岡っ引き、下っ引きの役割を担う新撰組の誕生である。幕府は朝廷より「攘夷」を命ぜられるが実際には実行が困難であることを承知していた。しかし、即刻攘夷を望む長州藩は五月に外国船への砲撃を開始、馬関海峡封鎖を実行する。朝廷における攘夷論の推進者であった右近衛権少将・姉小路公知は幕府に懐柔されつつあったが暗殺され、背後にいた薩摩藩の朝廷への影響力は後退する。三条実美を操る長州が我が世の春を謳歌したのである。七月には薩英戦争が勃発し、薩摩藩はますます退行する。孝明天皇はそうした風潮に危険なものを感じていた。若手貴族たちの越権行為が不快だったのである。お気に入りの松平容保が天覧馬揃えを実施し武を示したことに天皇は親政の活路を見出したのだった。

会津藩・京屋敷にしのびたちが集合していた。山本覚馬を棟梁とする会津しのびの密会である。その多くは家中の次男・三男でしのびになったものであり、また江戸屋敷に奉公する女中であるくのいちたちである。全員が覆面をして身分を隠している。

覚馬だけが素顔である。身分を明かすのは公用であることを示すためで、実際には覚馬に命令する上司の存在を暗黙のうちに了解させるためであった。

「皆の衆、これより、会津しのび組はそれぞれのお役目を果たすことになる。このように一同に会することは・・・殿が京に在する間はもはやなかろう。つなぎはそれぞれの小頭に命ずるゆえにおのおのそれに従ってもらいてえ」

覆面の忍びたちは面を伏せたまま、息を殺している。

「しのび名を呼ばれたものは前さ出てきてくれ」

覚馬は用意した密書を取り出す。

「小頭、木賊(とくさ)・・・東山、芦ノ牧、中ノ沢、早戸」

名を呼ばれたものたちは進み出る。

「にしらは温泉組だ・・・木賊の指示通りに励んでくれ」

覚馬は木賊に任務内容を記した密書を渡す。

「別れの盃じゃ」

覚馬は人数分の盃に酒を注ぐ。自分の分を最後に注ぎ、一気に呷る。しのびたちは飲むことはせずに酒を床にこぼす。盃が置かれるとしのびのものたちは去っていく。

「次は・・・小頭、只見・・・」

順次、五人ほどにわかれた数組が退出していき・・・やがてしのびとくのいちが一人ずつ残された。

「朝日・・・にしには・・・苦労をかける・・・」

くのいちは無言でさらに深く伏せる。

「しかし・・・お役目じゃ・・・」

覚馬は密書を渡し、他のものとは違い金杯を差し出した。

朝日と呼ばれたくのいちは覆面をとり、覚馬とともに酒を飲みほした。

少女の面影を残すくのいちは覚馬と一瞬、目をあわせると静かに去って行った。

最後に一人のしのびが残った。

「望月殿・・・」と覚馬が呼びかけるとしのびは覆面をとる。

「お久しぶりでございます」と挨拶した男は覚馬よりもひとまわりは若い年頃である。

望月は江戸において代々、潜伏する会津しのびの草のものだった。

「江戸においてはお世話になりました」

覚馬は江戸留学の時に望月に剣技を伝授していた。二人は聖徳太子流の秘剣を受け継ぐ同門のものだった。かって覚馬の会得したものを江戸で望月に伝えたのである。

「にしには・・・会津藩お抱えになった浪士組に潜入してもらう・・・」

「承ってございます」

「名は決めたか・・・」

「斎藤一と名乗ります」

「ふふふ・・・なかなかに良き名前じゃの」

「斎藤道三の末裔という筋立てでございますよ」

「・・・面白いのう・・・」

覚馬は脇差を取りだした。

「無銘じゃが・・・山本家に伝わる名刀じゃ・・・」

「ありがたきしあわせ」

男は立ち上がるとかなりの長身であった。

部屋には覚馬が一人残された。

文久三年の熱い夏がすぐそこまでやってきていた。

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2013年2月24日 (日)

究極のフィクションで、ごめんね。(薬師丸ひろ子)

海辺のかまぼこ工場に薬師丸ひろ子と、麻生久美子と、忽那汐里がお勤めしている。

それがすでにすげええええええありえない、マンガの世界なわけである。

しかし、ひょっとしたら・・・そういう奇跡もありえるかもしれない・・・と思わせるのがドラマなのである。

そうなると、趣味のマンガからギターをかかえた長瀬智也が飛び出してくることもあるかもねえ。

・・・ということになるのである。

それが理解できない、馬鹿馬鹿しいとなると・・・。

つまり、普通にドラマを見て笑ったり、泣いたりすること自体がすでにおかしいことになってしまう。

それどころか、現実の世界で感動したりすることも変なことになるのである。

「夢の世界」の虚しさと・・・それさえも失えばただ虚しいばかりの「現実」が残るだけだったり。

そういうギリギリのところで成立している恐ろしい物語でございます。

で、『泣くな、はらちゃん・第6回』(日本テレビ20130223PM9~)脚本・岡田惠和、演出・松山雅則を見た。恐ろしいことに・・・ふなまる水産の工場長・玉田(光石研)が死亡するととりあえずの工場長代理に指名されたのは越前さん(麻生久美子)だったのだ。工場における正社員は・・・玉田工場長、越前さん、田中くん(丸山隆平)、おそらく悪魔さん(忽那汐里)で・・・年功序列的にナンバーツーは越前さんだったのだ。

「そんな・・・私が工場長代理なんて・・・矢口さん(薬師丸ひろ子)お願いしますよ」

「なにいってんの・・・私はパートなんだから責任者になんかなれないよ」

「・・・一番偉いくせに・・・」

しかし、本部の指令には逆らえず、工場長代理は越前さんに決定したのだった。

責任者としての判断とか雑用とかが重圧となってのしかかり、ストレス発散の必要に迫られる越前さんだった。

【「冗談じゃないわよ、私は静かに何事もなく一日を終えたいだけなのよ」とユキ姉(奥貫薫)は鼻息を荒くするのだった。バブルの頃のボディコンシャルな水着も着こなし、アイドル冬の時代にアイドルを完遂しやがて女優となって薬師丸ひろ子と麻生久美子の谷間をつなぎ40代前半枠を埋める薄倖そうな女が爆発するのだった。「責任を押しつけられたり、何かを判断したり、誰かに何かを命じたり、そんなのごめんだわああああ」・・・「そうだ」とはらちゃん(長瀬智也)はマキヒロ(賀来賢人)やあっくん(清水優)と一緒の合いの手要員にレベルダウンである。造物主がキャラクターに対して恥じらっているからである。「どうする、たまちゃん」とユキ姉が尋ねれば、たまちゃん(光石研)は「破壊するしかないな」と応じるのだった。ユキ姉はハイパーバズーカ砲をとりだして・・・ぶっ放す。笑いおじさん(甲本雅裕)にいたってはたまちゃんとキャラクターがかぶっているために登場さえできないのだった・・・】

越前さんはスカッとした。

マンガ的宇宙では主役の座をユキ姉に奪われた、はらちゃんがちょっと唇をわなわなさせているとは神様もあずかり知らぬことなのである。

そんな越前さんの背後に・・・家宅不法侵入の悪魔さんこと紺野清美が迫っていた。

「なんで・・・ここに・・・」

「そのマンガみせてください」

「・・・これは他人に見せるようなものでは・・・」

「お願いします」

相手に下手に出られると弱い越前さんである。・・・まあ、高圧的な態度にも弱いわけだが。

マンガの中にマキヒロを発見した清美は興奮するのだった。

「出してください・・・出せるんでしょ」

「・・・ええっ」

清美に懇願されて・・・キャラクター呼び出しの儀式を行う越前さんだった。

夜空の星に

願いをかけて

祈ればきっと

夢は叶う

「マキヒロ~」

【マキヒロ】と【はらちゃん】が召還されたのだった。

造物主が目に入らず、【マキヒロ】は清美の元へ。ちょっと面白くない越前さんだった。

しかし、二組のカップルはそれぞれのデートを開始するのだった。

【マキヒロ】と清美は場末の遊園地へ。

【はらちゃん】と越前さんは本当の居酒屋へ。

しかし・・・【たまちゃん】も召還されていたのだった。【たまちゃん】を工場長のゴーストだと勘違いして絶叫する長沼さん(稲川実代子)だった。

そして・・・悲しい事に【たまちゃん】はゾンビの鉄則で・・・玉田工場長とは似て非なるものなのである。

居酒屋の料理に感動する【はらちゃん】・・・越前さんはデート気分でウキウキである。

しかし・・・レモンが目に沁みた後で「チューまたの名はキスもしたことだし、次のことをしましょうか」と言い出す【はらちゃん】にいろいろなナニのことを想像した越前さんは赤面するのだった。

「そんなこと・・・」

「結婚はダメなんですか」

「そっちかよ」

「越前さん、なぜ顔が赤くなっているんですか」

居酒屋の客たちはイチャイチャするカップルを見て見ぬふりをしているらしい。

そこへ・・・限りなく伝説の漫画家の矢東薫子本人だと思われる矢口百合子が登場する。

「おやおや、お二人さんアツアツだね~」

「そんな・・・」

「実はチューまたの名キスもしたんです」

「あらまあ、そうなの・・・」

「もう・・・」

「越前さん、また顔が赤くなってます・・・大丈夫ですか」

「うふふ」

「越前さん、結婚しましょう」

「あ・・・もう、約束の時間だ・・・そういうわけでごめんね」

ノートは開かれ、【はらちゃん】は帰還する。

「プロポーズされちゃったねえ」

「やめてくださいよ」

「なんだか・・・楽しそうだねえ」

「そんな」

「でも・・・せつないよねえ・・・ごめんね」

「なんで・・・百合子さんがあやまるんですか・・・」

「楽しければ楽しいほど・・・せつないんだよねえ」

「・・・」

「幸せな終りを考えてあげないとね・・・神様なんだから・・・」

お茶の間一同、神様の神様もなーっとつっこむのだった。

遊園地で楽しいひとときを過ごしていた清美も両思いの相手である【マキヒロ】が消えてしまいせつなさダイナマイトである。

いつもの神社で恋の歌を歌う清美。

「・・・でも恋をした・・・でも片思い・・・そんな私に笑う」

そこへ・・・運命に導かれてやってくる田中くん。

サングラスの歌手が悪魔さんだと知り、動揺するのだった。

しかし、清美は「もう遅い・・・あんたが悪いんだからね」とつぶやく。

理由も知らず「すいません・・・」と謝る田中くんだった。

「泣くな、はらちゃん」の世界では・・・たまちゃんが恐怖におののいていた。

長沼さんという恐ろしいものをみてしまったからである。

あっくんと同じように神様の臆病さを反映しているキャラクターらしい。

恋のせつなさに沈むマキヒロとはらちゃん。

ユキ姉は何かを知っているかのように囁く。

「神様との恋はあきらめた方がいいよ・・・深入りすると最後は殺されるから・・・」

「・・・?」

翌日・・・街は幽霊の噂で一瞬賑わうのだった。

マキヒロを諦めきれない悪魔さんはくのいちモードで越前さんの家に侵入。

ノートをふった勢いで二階の窓から転落・・・たまちゃんに続いて第二の犠牲者かと思いきや、【はらちゃん】の登場である。

命は無事だったが【マキヒロ】でないことにガッカリする悪魔さんだった。

そこへ・・・田中くんがやってくる。

「田中さん・・・教えてください・・・結婚とはなんですか」

「越前さんと・・・結婚するんですか・・・越前さんのお母さんに・・・娘さんをくださいって言ったんですか・・・」

「わかりました・・・それをすればいいんですね・・・ありがとう、田中さん。あなたは本当にいい人だ」

取り残された田中くんは「・・・いい人じゃ・・・だめじゃん」とぼやくのだった。

越前さんの家の前で・・・土下座する【はらちゃん】である。

「娘さんをください」

「いいわよ~」とあっさり了承する母親の秀子さん(白石加代子)だった。

秀子さんはお気に入りの【はらちゃん】にチャーハンを振る舞うのだった。

「皆さんは・・・どうして一緒にいるんですか」

「家族だから・・・かな」

「家族ってなんですか・・・」

【はらちゃん】の素朴な疑問にうれしそうに応える秀子さん。

アルバムで・・・越前さんの成長過程を見せるのだった。

「ああ・・・あんなに小さい人が越前さんになった」

生れた瞬間から【はらちゃん】だった【はらちゃん】には想像を絶することだった。

姉の【恋人】の出現に・・・生涯を寄生虫として過ごす覚悟らしい弟・ひろし(菅田将暉)はふてくされていたが・・・会話に割り込むのだった。

「こいつ・・・俺より馬鹿じゃないか・・・こんな男と結婚させられないよ・・・俺にメリットなんにもないじゃない」

「やめてよ」

たちまちおこる姉弟喧嘩・・・。

仕方なく【はらちゃん】を連れ出す越前さんだった。

「あのね・・・はらちゃん・・・私たちは結婚できないの」

「それは・・・私がマンガの世界の住人だからですか・・・」

泣くな、越前さんである。

「抱きしめましょうか・・・」

「抱きしめて・・・」

越前さんをそっと抱きしめる【はらちゃん】だったが・・・越前さんを自分が苦しめていると悟り・・・自らノートを開き・・・自主帰還するのだった。

越前さんはノートを拾い・・・胸に抱く。

「大好きだよ・・・はらちゃん」

そして・・・越前さんは工場長代理として前向きに仕事に挑むのだった。

心から願うのなら

欲張りすぎってことはない

運命の女神は

きっと微笑んでくれる

「泣くな、はらちゃん」の世界ではユキ姉がつぶやく。

「私たちの死に方は二通り・・・マンガの中で殺されてしまう場合と・・・書くのをやめられて・・・忘れられて・・・ひっそりと死ぬ場合があるのよ」

ごくつぶしの弟は小銭を求めて姉の机をさぐり、何気なくノートをとりだして古新聞の山に無造作に置く。

床に落ちてた100円玉を発見して喜ぶひろし・・・。

そして、ノートは資源(廃品)回収業者に引き取られてしまうのだった。

【はらちゃんと愉快な仲間たち】は放浪の旅に出たのである。

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2013年2月23日 (土)

夜行観覧車上のアリア(石田ゆり子)

「通りすがりの織田信長じゃ」(及川光博)にも笑ったが、「通りすがりの本願寺顕如にて御座候」(市川猿之助)にも一同大爆笑だったな。戦国武将たち・・・出歩き過ぎ。

誰が「信長のシェフ」の話をしろと・・・。

「そんな戦国武将はいない」と誰もが思うのだが・・・しかし、誰もが実際の戦国武将に出会ったわけではないので・・・一部時間旅行者を除く・・・「実はそうだったかもしれない」可能性は残るのである。

同じように、これほどまでに悪意に満ちた「ひばりヶ丘」はありえないと言う人はいるかもしれない。

しかし、お人よしの目から見た世界と極悪人の目から見た世界は全く違うとも言える。

人は優しかったり意地悪だったりするものだが・・・善意のみを見たり、悪意のみを見たりする場合があるわけである。

そして、夜行観覧車から街を見下ろすものはそれぞれの孤独なアリア(詠唱)を口ずさむのだった。

で、『・第6回』(TBSテレビ20130222PM10~)原作・湊かなえ、脚本・清水友佳子、演出・山本剛義を見た。2013年1月26日・・・事件発生から四日後である。ねっとりと時間が過ぎているので高橋淳子(石田ゆり子)はもう一ヶ月くらい逃亡している気がするが、事件発生翌日、病院から姿を消した淳子は3~4日逃げているだけなのである。しかし、事件当夜から逃亡している中学生の高橋慎司(中川大志)ともども、一年でもっとも寒い季節の逃亡生活である。普通・・・風邪ひくよな。

神奈川県警察・坂留警察署の結城哲也刑事(高橋克典)は高橋家周辺をマークするつもりだったが、早朝の一瞬の隙をついて遠藤真弓(鈴木京香)は近所の階段上で淳子との邂逅を果たすのだった。

「慎司を捜してほしいの・・・」

「落ち付いて」

「良幸(安田章大)と比奈子(宮﨑香蓮)にごめんなさいと伝えて・・・」

「夫と密会してたわよね」

「あなたを裏切るようなことはしてない」

「このままじゃ・・・世間から誤解されたままよ」

「私を・・・信じて」

何を信じていいのかわからないが・・・真弓は淳子を信じる。生れて初めてできた女友達だからである。

何かをかくしている夫は出勤していく。

「何してたんだ・・・朝から」

言葉を濁す真弓は明らかに夫を信じていないのだった。

遠藤彩花(杉咲花)は敵意に満ちた世界で味方を捜す。見果てぬ恋をしている彩花は頼りない母親に頼ることを考える。どう考えても頼れなかった。頼れば頼るほど事態が悪化するような気がするのだった。

無言で家を出た彩花は母親と同じように中傷ビラで埋め尽くされた高橋家の無惨な姿にショックを感じるのだった。母娘である。

ひばりヶ丘自治会婦人部の集いでも「そのこと」が話題になる。

「ひどいことをする」と同情的な声に対して「本当のことだから仕方ない」と自らの犯行を暗示する婦人部長の小島さと子(夏木マリ)・・・。部員たちが小島夫人の夫や息子の件で冷やかな目配せを交わすのを彼女は気付かない。

長く頂点にたったものは皆、はだかの王様になるからである。

京都で熟睡する良幸の恋人・野上明里(滝裕可里)と眠れぬ夜を過ごした比奈子だった。

大学から戻った良幸は明里に攻め立てられるのだった。

「とにかく、僕は東京に戻る・・・」

「事件に巻き込まれるようなことしてどないしはるの」

「巻き込まれるも何も・・・親父が死んでるんだよ」

「東に下りはるんやったら、うちはもうようつきあえん」

「・・・」

「ママからも犯罪者の家族とかかわったらあきまへんと言われてるのどす」

「・・・」

「えらいことや、やはり、京の女は東夷のお方には合いしまへんのやなあ」

「・・・」

「ほな、この辺でお暇いたします。これまでおおきに」

明里は根っからの京都人だった。

京都から新横浜は新幹線のぞみで二時間弱である。

遺体安置所で良幸は父・弘幸(田中哲司)の冷たい頬に触れるのだった。

弟の慎司が溺れかけた時でさえ微笑みを絶やさなかった優しい父親だった。

後妻を迎えた父親に何のわだかまりも持たなかったわけではないが・・・良幸は大学入試のお祝いに父親から贈られた腕時計をそっと撫でる。良幸はようやく父親の死を実感する。

そして、腹違いの妹をそっと抱きしめるのだった。

そんな二人を駅前で待ちうける真弓。

「私、お母さんに会ったの・・・二人にあやまってくれ・・・って言われた・・・慎司くんを捜してくれって」

「・・・慎司から電話があったんです」

「慎司くん、無事だったのね・・・これからどうするの・・・」

「一度・・・家に戻ります」

「家に・・・」

無惨な高橋家では小島夫人が待ち構えていた。

「悪いことは言わないから・・・もうお家には戻らない方がいいわ」

「なんで自分の家に戻ったらいけないんですか」

「あなたたちがひばりヶ丘にいたらひどい目にあうから」

「私たち地域の住民が力をあわせて護ってあげれば・・・」

「住民・・・まあ、どなたのことかしら」

「・・・」

小島夫人の狂気はすでにあふれんばかりの状態である。

兄妹はとりあえず市内のホテルに落ち着いた。

彩花にも探りを入れる結城刑事。

「観覧車苦手なんだ・・・生き別れになった息子と最後に乗った時も・・・震えちゃってね」

「息子さん・・・喜んだと思いますよ」

「優しいね・・・お母さんとよく似てる・・・」

「似てませんよ・・・」

「いいや・・・君のお母さんは・・・いざとなったら・・・他人に優しくできる人だよ」

「つまり・・・利用されやすいと・・・」

「・・・」

「あなたのおかげで誰かさんの出番がなくなっちゃったじゃありませんか」

「・・・申し訳ない事だ」

真弓は淳子からのフリーメールを受け取った。

慎司に電話をかけたくてもかけられない彩花とは違い、無造作にメールを慎司に転送する真弓だった。

事件から四日目、ついに捜査体制も整った。

刑事に尾行された真弓は約束の場所であるショッピングモールに向かう。

淳子は逃げていた。淳子の逃げ足は速かった。警官や刑事たちの足が遅いわけではないのだろう。慎司の運動能力は母親譲りらしい。きっと淳子は駅伝の選手か何かだったのだろう。・・・と思うしかないシーンの後で。

「ごめんね・・・何度も呼び出して・・・」

「良幸くんのところに慎司くんから電話があったって」

「慎司・・・無事だったんだ」

「これ・・・マフラーとカイロ・・・」

「ありがとう・・・」

「私・・・あなたがたった一人のともだちだから・・・いつもあなたに助けてもらったし・・・今度は私が助ける番・・・」

「子供たちのこと・・・頼むわね」

その時、二人の前に慎司も姿を現す。

しかし、二人はすでに包囲されていた。

「あのね・・・私がやったの・・・主人を殺したのは私なの」

「・・・淳子さん」

慎司は再び、姿を消す。

整形外科病院開業医の妻、逮捕のニュースは世間を駆け巡る。

「おにいちゃん・・・」

「比奈子は・・・僕が護るから・・・」

腹違いの兄妹は固く抱き合った。

再び、高橋家前に集う報道陣。

ついに錯乱した小島夫人は叫ぶ。

「出て行ってちょうだい・・・これ以上、私のひばりヶ丘を汚さないで」

帰宅した遠藤啓介(宮迫博之)は妻の制止を振り切って再び外出する。

彼が被害者から借りた金はなんだかんだで300万円ほど消えていた。

車の助手席には血痕のついた【何か】が置かれている。

取り調べ中の淳子。

「私がやりました・・・」

「凶器は・・・」

「・・・」

淳子は心の中で囁く。

隣にいい人たちが引っ越してきた。

気取りがなく誠実な人たち。

きっと、大丈夫。

あの人は助けてくれるだろう。

遠藤さん(夫)・・・私たちの運命をあなたに委ねます・・・。

啓介は隣の美人の奥さんに妻には内緒の【何か】を託されて夜の街を疾走するのだった。

しかし、真弓はひたすらに淳子の無実を信じる。

もしも、淳子が犯罪者になったらたった一人の「ともだち」がいなくなってしまうからだ。

事件発生から四日目の夜が更けて行く・・・。

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2013年2月22日 (金)

涙で綴りかけたお別れの手紙を破っちゃう女(尾野真千子)

「ああ、これは破っちゃうな」

「また、そんな風に先回りして・・・」

「だって恥ずかしいだろ・・・こんな本心書いちゃったら」

「だとしても・・・流れを楽しみなさいよ」

「手紙はいつも卑怯なんだよ」

「未来の明日香のために明日香は生きます」

「クリームソーダは飲み物です」

「綴り終えたら終わりですものね」

「何が悪いのか、今もわからない」

「だれのせいなのか、今もわからない」

ビリッ、ビリッ、ビリビリッ。

で、『最高の離婚・第7回』(フジテレビ20130221PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。1810年、絶頂期のナポレオン・ポナバルト皇帝は大陸封鎖令で自らの首をしめつつあった。協定違反を犯したロシアに対し、戦争で白黒つけることを決意したのである。同盟諸国から徴兵した兵力は六十万人に達し、補給困難の問題が予想された。そのために発案されたのが缶詰である。これにより食料調達の問題は解決したに見えたが、缶詰の開封のために使用した銃剣が折れるという事態が発生する。飢えと寒さに襲われたナポレオン軍は大敗を喫し、ナポレオンは破滅の坂を転げおちる。やがてセントヘレナ島に幽閉されたナポレオンは失意のまま1821年に死去する。米国で便利な缶切りが発明されたのは1858年である。ナポレオンの辞書に缶切りという文字はなかったのである。

濱崎光生(瑛太)は「昔の恋人と赤いソファでハリー・ポッターを見ようとして賢者の石(2001年)と謎のプリンス(2009年)の時の涙が不一致する」夢を見て目覚めたのだった。

実は光生を愛している以上に光生に愛されていない疑惑に包まれている星野結夏(尾野真千子)はたちまち・・・光生の心が紺野灯里(真木よう子)に傾いていることを察知してしまうのだった。

「元カノが破局したら・・・よりを戻そう的な・・・」

けして・・・結夏とは別れたくない光生だったが・・・それはそれなりに邪心がないわけではないために硬直するのだった。

そんな二人が離婚したことをそれとなく察していた光生の祖母・濱崎亜以子(八千草薫)は「大切なものが遅れてやってくることはあるので・・・もう一度考え直してくれないか」と結夏に老婆心を伝える。

結夏は光生の心を得ようと拙い料理に挑戦するのだが・・・食材買い物中に灯里と遭遇するのだった。

「ナツメグってなんですか・・・」

「ハンバーグとかに・・・」

「そうなんだ・・・」

元カノと元妻は「光生の好きな動物年代別ベスト10の秘密のメモの話」で盛り上がるのだった。

上原諒(綾野剛)はなんとか灯里の心を取り戻そうとするが、押せば引くの法則で灯里は頑なに諒を拒絶するのである。

ついには部屋から追われるように出て行く諒。

いざ・・・そうなると灯里の心は揺れる。

街を彷徨う諒を目撃する光生。

しかし、放置である。

そして、初島淳之介(窪田正孝)と結夏のツーショットを目撃してしまうのだった。

心がざわつく光生である。

次に灯里を目撃した光生は猫の缶詰めを放り捨て尻尾をふりふりアタックを開始するのだった。

一方、淳之介から熱烈なプロポーズを受ける結夏。

二組のカップルは桜並木の川沿いを川を挟んですれ違う。

「桜が好きなの」

「桜なんて嫌い」

「私も・・・」

「私・・・あなたとじゃだめなのよ」

「僕は誰かにがんばれなんて言うのは言った人をぶんなぐっちゃうほど嫌いなんです」

「くそばばあ」

「でも・・・がんばってください」

「くそがき・・・」

「ありがとうございます」

光生への愛のために淳之介をふりきる結夏。

くすぶっていた灯里への思いが燃えあがる光生。

ほろ酔い機嫌で戻った光生の心を女の直感で見抜く結夏。

死んでもあなたと 暮らしていたいと

今日までつとめた この私だけど

最後の最後に光生好みの女になるために全身全霊を賭ける結夏。

「いってらっしゃい」と笑顔で送り出された光生は両手に花気分でウキウキしてくるのだった。

しかし・・・荷物をまとめた結夏は渾身のハンバーグを作り、置き手紙を書きはじめるのだった。

光生さんへ・・・光生さんだって・・・今、自分でそう書いててびっくりしました。あなたのことを名前で呼ぶのはちょっと記憶にないぐらい久しぶりな気がして、何か緊張します。あのね・・・光生さん。私、やっぱり、このまま一緒に住んでいるのは変だと思いました。離婚して結構たつし・・・何かと支障があると思うのです。どんな支障かはうまく説明できないのですが、最近どうも・・・あなたのことを見てると変にざわざわとするのです。私なりに・・・その・・・ざわざわを打ち消すとか、あるいは元に戻す努力を検討してみたのですが・・・どちらもうまくいきませんでした。・・・私、あなたのことを変だとか言いましたが・・・どうやら、誰より変なのは私なのかもしれません。私はいろんなことの調整がうまくできないのです。好きな人とは気が合わない・・・気が合う人は好きになれない。私・・・あなたの言うことや、することには何一つ同意できないけど・・・でも、あなたが好きなんですね。あなたへの愛情とあなたとの生活はいつも ぶつかって・・・何というか、それは、私が生きる上で抱える・・・とても厄介な病なのです。前に・・・映画見に行きましたよね?・・・ほら、私が・・・10分遅刻したとき・・・横断歩道を渡ったら、待ち合わせのところにあなたが立っていました。寒そうにしてポケットに 手を入れてました。・・・この人は、今、私を待ってるんだ・・・そう思うと何故か嬉しくなっていつまでも見ていたくなりました。それは私にとって映画を観るよりも・・・ずっとずっと素敵な光景だったのです。・・・・・・・・あなたをこっそり見るのが好きでした。あなたは照れ屋でなかなかこっちを向かないから盗み見るチャンスはたびたびあったのです・・・目黒川を二人で並んで歩くとき、こっそり見てました。DVDを一緒に見てるとき、別々に本を読んでるとき、いつもあなたを盗み見て・・・気持ちは 自然と弾みました。桜が見える家にお嫁にきて・・・桜が嫌いな人と一緒に暮らして・・・だけど、あなたが思うより・・・ずっと私はあなたに甘えていたし、包容力っていうのとは少し違うけど・・・あなたの膝でくつろぐ心地よさを感じていました・・・一日中、日向にいるような・・・そんな・・・まるで猫のように。もしかしたら私はこの家に住む3匹目の猫のようなものだったのかもしれません。・・・おいしいご飯ありがとう。温かいベッドを ありがとう。膝の上で頭をなでてくれてありがとう。あなたを見上げたり見下ろしたり盗み見たりまじまじ見たり・・・そんなことが何よりかけがえのない幸せでした。・・・光生さん、ありがとう。・・・お別れするのは自分で決めたことだけど少し淋しい気もします。でも・・・もし、またあなたをこっそり見たくなったときは・・・あなたにちょっと話しかけたくなった時はまたどこかで・・・

・・・と可愛い便箋に書いてみたけれど・・・最初はちょっと消してみて・・・それからすべてを破棄する結夏だった。

そして・・・チラシの裏に「冷蔵庫にハンバーグあるからチンしてね」と書いて部屋を出たのである。

黄昏は夕闇に包まれ、のほほんと帰宅する光生。

結夏の不在を感じてたちまち不安な気持ちに・・・。

そこでチャイムが鳴り、ハンバーグの皿を抱えてドアを開けた光生は捨てられた猫のような・・・諒を発見するのだった。

「にゃあ・・・」

「にゃあ・・・って、今、別の猫がね」

寒い駅のホームで震える雌猫が一匹。

さ、再現率高すぎ~。

仕方ないじゃないか・・・凄いんだものっ。

は、はっくょしおおおおい。

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2013年2月21日 (木)

東京の宇宙人(大泉洋)

私事で恐縮ですが・・・ココログのログイン画面・リニューアル問題である。

「変えるよ~」と言っといてずっと変えない日々。

そして、予告もなく昨日、突然、変更である。

そして・・・なんだか不具合が生じて・・・各方面で恐慌が生じたらしい。

キッドも記事投稿に失敗したが・・・このブログとの付き合いも8年目である。メモで下書きコピーペースト作戦を実行したので・・・「へっへっへ」と悪魔のドヤ顔をすることができたのだった。

一夜、あけると・・・ログイン画面は旧画面に戻っていたのだった。

ココログさん、がんばって・・・と囁いておく。

・・・で、水曜日のレビュー対象もかなり・・・困難な状況だと察する。

視聴率は11.6%↘*9.6%↘*7.4%↘*6.8%↗*9.2%と先週、やや持ち直したものの・・・平均視聴率*8.9%は前季の「東京全力少女」の平均・*7.6%より些少まし・・・という程度なのである。前々季の「トッカン」は五輪の夏ドラマでありながら平均10.5%だったのだ。・・・まあ、ドングリの背比べだけどな。

しかし、「トッカン」「全力」は連続レビュー対象にもならなかったので・・・「シェアハウス」にはもう少しがんばってもらいたい気持ちでいっぱいだ。

「水川あさみ」「木南晴夏」「川口春奈」と個性派女優を三枚も使って・・・こ、これではっ・・・なのだなあ。

で、『シェアハウスの恋人・第6回』(日本テレビ20130220PM10~)脚本・水橋文美江、山岡真介、演出・中島悟を見た。水橋は「ホタルノヒカリ」や「ビギナー」の脚本家、山岡は「セクシーボイスアンドロボ」の脚本家である。もう少し、底力を出してもらいたよなあ。もっとも水橋は「トライアングル」、山岡は「赤鼻のセンセイ」とかなりガッカリさせられた過去もあるのだ。まあ、共同脚本体制というのは基本、失敗の要素が高いものなのである。いわば、シェアハウスみたいなものだから。

さて・・・バレンタインデーを挟み、「ローマの休日」の系譜の展開をしたわけだが・・・「~の~」という主題には対象を絞りこんて行く方向性がある。「シェアハウス・・・の・・・恋人」というように漠然としたものから具体性を導き出す手法なのである。「の」の持つ神秘の力である。

で・・・今回の記事のタイトルはもちろん「巴里のアメリカ人」(1951年)のパクリである。ミュージカル映画の金字塔なのであるが、キッドは志田未来を見るとレスリー・キャロンを思い出すのである・・・意味不明だぞ。「異国の人」というのは常にさびしい存在であり、それがテーマになりうる。「異星の人」ならそのさびしさは格別なわけである。最近、深夜映画で「グリーン・カード」(1990年)が放映されていたが、その物語の骨格は「ニューヨークのフランス人」である。外国人永住権「グリーンカード」を求めて米国女性と偽装結婚をするフランス人の話なのである。水と油のような二人だが結局、恋におちる・・・実に「よくわかる話」に仕上がっている。

もちろん、「映画」と「連続ドラマ」を同列に扱うことはできないが・・・話も中盤にさしかかり・・・「よくわからないまま」続いていく「シェアハウスの恋人」は・・・ものすごくもどかしい。

もちろん・・・登場人物の気持ちがもどかしいなら構わない。しかし、「シェアハウスの恋人」はドラマそのものがもどかしいのである。

なぜなら・・・「東京の宇宙人」の存在があまりにも不明確だからである。

もう一方の日本テレビのドラマが「マンガの世界からやってきた、はらちゃん」をストレートにぶつけてくるのとは対照的なのである。

もちろん・・・そういうテクニックはある。そうであるような、ないようなそぶりで興味を引くというやり方である。しかし・・・そうだとしたら・・・宇宙人である必要はないんじゃないのかな。

最初に裸で登場した辰平(大泉洋)である。これは宇宙人であることを明示していると思われる。その後でヒロインの汐(水川あさみ)や三枚目の雪哉(谷原章介)が辰平が宇宙人であることを信じないことは問題ではない。しかし、お茶の間に対してはもう少しサービスがあるべきだろう。おそらくシェアハウスは「空飛ぶ円盤」(宇宙船)なのだろうし、来週はようやく発光するみたいなのだが、もう少し早くから眠ると目が光ったり、ゲル状のものが耳から出てきたり、時々、空中浮遊したりするべきではないのか・・・と思う。

「グリーンカード」ではお高くとまってフランス人を下品と見下していた米国人に対して、ピアノを弾いて詩を朗読するという並々ならぬ教養を披露して異国の人が度肝を抜くというシーンが序盤にある。フランス人を演じるジェラール・ドパルデューに米国人を演ずるアンディ・マクダウェルが魅かれ始める瞬間である。その後も紆余曲折はあるが・・・そういう意味では「圧倒的な魅力の提示」はラブ・コメでは絶対に必要なのである。

もちろん・・・奥手なヒロインに対し、主人公がひたすら優しく癒しを与え続けるというのも「話」としては成立するが・・・面白いかと言われるとつまらないと言うしかないのだな。

ともかく・・・前回、辰平が汐に愛を告白したことにより、物語はターニングポイントを迎えたのである。

おそらく、様々な事情で望月メグ(木南晴夏)が消えていた回があったわけだが、今回は錦野カオル(川口春奈)が完全に消えている。ものすごくバランスの悪い脚本である。つまり、お約束の場面が全く作れていないということである。

今回は望月メグ(木南晴夏)が本当はお嬢様という設定により「物凄い簡単な事務作業をこなす」だけで一同万歳というコントが展開するわけだが、こういうお約束を作り、エスカレートさせていくというオーソドックスな作り方がないのでもたないのである。

汐は辰平に告白されたショックで失語症になってしまう。

しかし、津山凪(中島裕翔)の出番を捏造するために・・・弟だけには話せるという展開である。もちろん、それはそれでコミカルなのだが・・・演出・演技ともにスムーズではないため邪推の介入を許すのである。

雪哉を加えた・・・片思いの男と片思いの男に片思いの男と姉思いの弟が三人で汐が言葉を取り戻すための作戦を練る。

その中で、汐の父親が相撲の後援会の会長で汐も相撲ファンであるという設定が突然、提出されるのである。そんなこと・・・最初から匂わせておけよ。

で、それは置いておいて・・・家族旅行でスキーに行った汐が樹木に衝突しそうになって大声をあげたという思い出から・・・一同は突然、スキー・ツアーに出発するのだった。

スキー・ブームが去って、スキー場はガラガラだから行こうと思えば行けるわけである。

その人気の絶えたスキー場で・・・なんと、汐はかって勝負下着の赤いランジェリーを購入したショップの店員・秋穂(工藤里紗)と再会するのである。もうすぐ三十路のグラビアアイドルもタニショーのおしゃれ小鉢として出番を確保するのだった。

しかも・・・人気の絶えたスキー場で秋穂の婚約者として登場した大久保(林泰文)はなんと・・・汐の昔の恋人なのであった。

お・そ・ろ・し・い偶然というか、くたびれた脚本家の前頭葉なみに狭い世間なのだった。

・・・まあ、その点はいいじゃないか。

恋人との再会で図らずも言葉を取り戻した汐。

そして、汐から・・・大久保がふたまたをかけたうえに汐をふったと聞いた辰平と雪哉は突然、義憤にかられ、大久保に正義の鉄槌を下すことを宣言するのだった。

いやあ、ジオンの総統による戦意高揚演説なみに安易で唐突な展開と言う他ない。

・・・おいっ。

「なぜ・・・汐は失恋せねばならなかったのか・・・」

「お嬢ちゃんだからだよ」とつぶやく他はないではないかっ。

突然、任侠精神に目覚めた雪哉はゲレンデの恋人たちのリフトに割り込んで・・・大久保を恫喝するのだった。

「おい・・・あんた・・・ウチの(相撲の後援会)会長の娘と知って・・・お嬢にあんなことしたんかい」

「えええ」

「それなりの覚悟はあるんだろうな」

「えええええ」

「あの頭がもじゃもじゃな男な・・・あれ・・・ああ見えて・・・刈り込んだらパンチパーマやで・・・近頃はいろいろとあるんで・・・とぼけた顔してるが・・・きれたらみさかいない鉄砲玉じゃ」

「えええええええええええ」

蒼白になった大久保は汐に土下座してわびをいれるのだった。

汐も調子にのって「このうそつきのふたまた野郎、月の出る晩ばかりじゃあらへんで」と決めるのだった。

林泰文ファン涙目の一幕である。

汐は辰平はタイプじゃないと言い切るのだが、辰平と大久保、かなり同じタイプだとおもうんですけどーーーーーっ。

・・・もう、いいか。

突然の日帰り弾丸ツアーの決行で披露した汐は風邪を発症、発熱して寝込んでしまうのだった。

そんな汐を徹夜で看病する辰平である。

ケーキの保冷剤を汐の首筋、脇の下、股間に配置した辰平は・・・氷嚢を手でぶら下げつつ・・・「僕は君の悲しみを癒すためにこの星にやってきた・・・君が幸せならそれでいいんだ・・・」と看病&告白をするのだった。

寝たふりをしていた汐だったが・・・その言葉に聞き入っていたのである。

そして・・・おそらく・・・汐の心は少し揺れ始めたのである。

物凄く説得力はないが・・・明らかにそういう流れですので承認してください。

なぜ、急に男を愛し始めたのか、全く説明のないまま、妻子ある雪哉もまた、その告白を聞いてもの思いに沈むのである。

だからってなんだとしか思えませんがーーーっ。

とにかく・・・まとめとして「シェアハウスって凄い」とつぶやく姉思いの弟だった。

だれか・・・シェアハウスの凄さがわかった人いますかーーーっ。

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2013年2月20日 (水)

書店員ミチルと憂鬱な訪問者と恐怖の殺人者と静かな同居人(戸田恵梨香)

ほぼ真夜中に心臓をしめつけるような上質のサスペンスである。

時にじわじわと時にはらはらと・・・異常な緊張感が漂うのだった。

状況もとんでもないのだが・・・そういう事態を引き起こしたものが・・・ほとんど無作為なのである。

なんとなく火遊びをして、なんとなく破滅して、なんとなく追いかけて、なんとなく殺して、なんとなく後始末をして、なんとなく追い詰められていく。

しかも、ヒロインは常に残高が2億円に限りなく近い預金通帳を持ち歩いている。

このグロテスクな状況は・・・いわば、なんとなくエネルギーがいるので原子力発電をして、なんとなく放射性廃棄物をためこみ、なんとなく自然災害におそわれて、なんとなくメルトダウンして、なんとなく汚染されて、なんとなくガンを発症する・・・現代の日本に生きるものそのものに相似しているのだ。

しかし・・・そんなこんなで人々はなんとなく生きて行くのである。

で、『書店員ミチルの身の上話・第7回』(NHK総合201302192255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。東京の書店員となったミチル(戸田恵梨香)だが、不倫相手の一樹(新井浩文)は浮気費用の捻出のために犯した使いこみが発覚して破滅し、東京の新生活の拠点とするはずだった部屋では昔の男・久太郎(柄本佑)を幼馴染の竹井(高良健吾)の交際相手である恵利香(寺島咲)が殺害してしまう。そのために・・・ミチルは部屋を放棄せざるをえなくなってしまったのである。事件の隠蔽に同意したために不安な日々を送るミチルの元へ仕事も家庭も失った一樹がやってくるのだった。

「すべての元凶は・・・きっと私なのかもしれません。私が退屈な日々に耐えて故郷の街で暮らしていれば何の問題も起こらなかったでしょう。ただ、私はそうしなかったのです。職場の先輩が私に宝くじの購入を頼まなかったら私は宝くじの高額当選者にならなかったでしょう。そういう意味ではおつかいを命じたタテブー(濱田マリ)にも原因はあります。タテブーは私が当選金を盗んだと妄想をふくらませているわけですが・・・ハズレクジを手にしていながらどうしてそう思えるのか・・・不思議です。一樹さんとタテブーはどうやらおえっとなりそうなただれた関係を結んでいるようですが・・・若くて美しい私に激しく嫉妬してあることないこと言いふらし・・・ついに久太郎が一樹さんを訪ねることになったのだから・・・かなり責任があるわよね。しかし、一樹さんがもう少し実のある男性なら、久太郎に私の住む部屋を教えたりしなかったはずです。私を守る気なんかまったくなくて・・・ただただ、責任の所在を明らかにしないことに長けた男。私を厄介払いする気だった男。そう思うとそんな男に夢中になっていた自分の愚かさが嫌になってきます。けれどそんな男よりも久太郎の方がよかったかと言えばとてもそうは思えないのです。久太郎が私を満足させていれば久太郎は死なずにすんだはずです。だから久太郎の死には久太郎自身が関わっていると思うのです。しかし、やはり、一樹さんが久太郎を私の部屋に導いた責任は重いでしょう。そのために久太郎は私を連れ戻そうとして私はそれを拒み恵利香さんが私を救うためにフライパンを振りかざすこともなかったのです。しかし、女子大生にフライパンで殴られたくらいで死んでしまう久太郎も久太郎なのです。とにかく・・・久太郎が死んでしまい、私が事件をなかったことにしようという竹井のアドバイスに同意したのは・・・一樹さんがだらしない男だったという事が一因なのです。そんな男・・・一樹さんはすでに私にとって触れられたくない汚らわしい男になっていました。破滅した一樹さんは「ぼくには君しかいない」「君のために破滅した」「一緒に逃げてくれ」などと言うのですが・・・とんでもないことです。やたらと二人になりたがる一樹さんはとにかく抱いてしまえば女なんてどうにでもなるという男にありがちな傲岸ささえ感じさせました。だから・・・とりあえず竹井の部屋に連れていったのです。「どうして・・・君の部屋へ行こう」とくいさがる一樹さん。何を言ってるの。そこでは人が死んでいるのよ。その人はあなたがそこによこしたのよ。そんな部屋であなたに抱かれて私が蝶になれるとでも思うの・・・と言ってやりたかったのですが・・・そんなことは言えません。なにしろ、久太郎は死んでいないし・・・部屋にさえ来なかったことになっているのです。「僕を捨ててあの男と故郷に帰る気なんだろう」って・・・そう望んだのはあなたじゃありませんか。何言ってんだか・・・しかし、家庭がありながら出張先の職場の女と関係を持つような男です。そういう男に心を奪われた私です。誰かが完全に悪いわけではありません。しかし・・・実際に手を下した恵利香さんは私が思う以上に罪の意識に苦しんでいたのでした。私が一樹さんと別れ話をする間、恵利香さんは心労でやつれた顔を伏せて一心に梨を剥いていたのです。白髪鬼となった恵利香さんが包丁をにぎっているだけで周囲が暗くなるような感じです。「使いこみがばれた」梨を剥く。「妻は家を売って出て行った」梨を剥く。「借金に追われている」梨を剥く。「一緒に逃げてくれ」梨を剥く。「いくら必要なの」梨を剥く。「とりあえず500万円」梨を剥く。「そのお金用意するわ」梨を剥く。「別れる気か」梨を剥く。「それで終りにしましょう」梨を剥く。・・・それは無謀なことだったかもしれません。しかし、とにかく私は一樹さんを追い払いたかったのです。恵利香さんの剥いた梨がクリスタルの果物皿からこぼれおちた時、今度は一樹さんの皮を剥き出すのではないかと恐ろしい予感がしたからです。部屋の鍵を渡されて一樹さんはようやく思い腰をあげました。本当に私がそんな大金を用意できるのか・・・半信半疑だったでしょう。しかし、私の部屋で眠れることは野宿するよりましだ・・・と思ったにちがいないのです。なにしろ一樹さんはそこで久太郎が血を流したとは夢にも思っていないのでした。入れ違いに帰ってきた竹井に恵利香さんが状況を耳打ちしていました。私は殺人者となった恵利香さんが恐ろしかったのです。しかし、やつれ果てた恵利香さんを見て少し気持ちが変わりました。なんといっても彼女は私を守るために人を殺してしまったのです。そして、その罪の意識に責めさいなまれているのです。彼女のことを憐れに思う心が私の中にありました。それは何故か、私の幸せを一心に祈っていた母の姿を私に思い出させるのです。次の日、私は銀行で現金500万円をおろしました。みつば銀行お客様サービス課の山本さん(堀杏子)は大金の使い道をそれとなく尋ねてきましたが・・・男と別れるための手切れ金などとは言えません。それにいまとなってははした金です。私にはまだ一億九千五百万円ほど預金残高があるのです。私は身体を求められたらどうしようか・・・などと考えていたのですが・・・部屋に一樹さんはいませんでした。前の夜に竹井の車がそのあたりを通りかかっていたことなど私にはわかるわけがありません。そして・・・翌日、部屋からは置いておいた五百万円が消えていました。私は一樹さんが持ち去ったのだと思いました。もしかしたら一樹さんも竹井が始末してしまったのでは・・・などとは夢にも思いません。ただ、二人の恋は終ったのね・・・とさっぱりした気分だったのです。・・・その夜、ますますやつれて元気のない恵利香さんと話しました。彼女は思いつめたように言うのです。「みんな私が悪いと思っているんでしょう」・・・そんなことはないよ・・・「私がさがしてきた部屋で」ありがとう・・・「私がプレゼントした果物皿」素敵だったよ・・・「フライパンであんなことを」仕方ないよ・・・「私さえあんなことをしなければって・・・」そんな・・・こと・・・は・・・ないよ・・・しかし、私は何一つ恵利香さんを慰める言葉をかけなかったのです。「私は竹井先輩がこわい・・・」「竹井は恵利香さんのこと心配してるよ・・・私に恵利香さんのそばにいてあげてよって言ってたし」「それはお互いを監視させあっているんですよ」「そんなまさか」「ミチルさんは竹井さんのこと小さい時のままだと思っているから・・・竹井さんは恐ろしい人なのに・・・でも好きなんです・・・怖いけど好き・・・」そんなことを言われても私にはどうすることもできません。「私、どうしたらいいんですか」「・・・竹井に電話してみなよ・・・」「・・そうですね・・・そうします」そして恵利香さんは竹井と電話でしばらく話していたようです。それから・・・「今夜は竹井先輩と私の部屋に行くことになりました」・・・そう言って恵利香さんは部屋を出て行きました。まるで今にも消えてしまいそうな恵利香さんが私には可哀相に思えていました。そして・・・それが私が恵利香さんを見た最後の姿になったのです。夜遅く・・・竹井から電話がかかってきました。「おどろかないでね・・・恵利香が死んだんだ・・・」・・・ああ、何ということでしょう。一体何があったのでしょう。私は茫然として竹井の声を聞いていました。眼の前に暗闇が広がっています。それはきっと夜だったからなのでしょう」

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2013年2月19日 (火)

ああ、もう僕を信ずるな。僕の言ふことをひとことも信ずるな(田中圭)

死にたがる人、太宰治の処女短編集「晩年」(1936年)の一編、「道化の華」は服毒心中に失敗して一人だけ生き残った男の物語である。太宰治は1930年に鎌倉の海岸で銀座のカフェ「ハリウッド」の女と心中をはかり、自分だけ生き残った実体験がある。彼は自殺未遂、心中未遂を繰り返し、1948年に38歳でようやく目的を達成するのだった。

そういう人の「自信モテ生キヨ 生キトシ生クルモノスベテ コレ 罪ノ子ナレバ」という言葉にどんな説得力があるのかは・・・謎である。

「鴎」(1940年)では「罪の子」を「おれは悪い事を、いつかやらかした、おれは、汚ねえ奴やつだという意識」を消すことのできないものとして語っている。

悪魔としては同意せざるを得ない。こういうところがこの困った男の魅力なのであろう。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第6回』(フジテレビ20130218PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・長瀬国博を見た。ビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)が何者かによって階段から蹴り落とされる。物凄い階段落ちなので「はぐれ刑事」シリーズなら致命的だったが、足首の骨折のみで助かったのである。

しかし、入院中の栞子は何故か、「事件」ではなく「事故」を装うのだった。

それにはなんらかの秘密の事情があるはずなのだが、秘密を隠しているという演技・演出が未熟なために・・・なぜ、警察に通報しないのか・・・という疑問で一部お茶の間は騒然とするのである。まあ、基本的に作り手が警察の介入を面倒くさいと感じているからと解する他はないのである。

だが・・・栞子は犯人に心当たりがあって・・・その推察を何故か、アルバイト店員の五浦大輔(AKIRA)にだけは語るのだった。それにも理由があるはずだが、現時点では「月9」だからと邪推するしかないのだった。

とにかく、栞子は正面から蹴り落とされているので犯人を見ている可能性まである。

そうでなければ、単に若い女性を狙って階段から蹴り落とすのが趣味の異常性欲者の犯行かも知れず、第二、第三の犠牲者を出さないためにも警察に届けるのが市民の義務というべきであろう。それを怠るのなら・・・栞子もまたちょっと異常な人になってしまうわけである。

栞子は「私が個人的に所蔵している太宰治の自筆献辞付の『晩年』、自己評価額400万円を狙っている・・・謎の人物からの脅しだったと思うのです」と例によって奥歯にもののはさまったような推測を述べるのだった。

大輔は「場合によっては死んだかもしれないのに・・・何、呑気なこと言ってるんですか・・・警察に通報しないのなら・・・もう、『晩年』売っちゃえばいいじゃないですか・・・たかが本なんですから・・・」と意見する。

この言葉に栞子はあきらかに反発を覚えたようだった。

「この本を失うくらいなら・・・私は殺されてもかまいません・・・それもやはり異常なんでしょうね」

大輔は「本のためなら死ねる」と言われてもピンとこない様子だった。

栞子の内心は「道化の華」で言えば「青年たちはいつでも本氣に議論をしない。お互ひに相手の神經へふれまいふれまいと最大限度の注意をしつつ、おのれの神經をも大切にかばつてゐる。むだな侮りを受けたくないのである。しかも、ひとたび傷つけば、相手を殺すかおのれが死ぬるか、きつとそこまで思ひつめる。だから、あらそひをいやがるのだ」と言うところだろう。

ついには・・・あえて秘匿していた本を売りに出して犯人をおびきよせるという意味不明の罠を仕掛ける栞子だった。新たな犯人候補を増やしてどうする。

犯人についての情報が少なすぎるために・・・周囲の人間たちに疑いの眼差しを向け始める大輔である。

「何が何でも欲しい」とメールをする男を求めて、大輔が目星をつけたのは失神した栞子を発見した「CAFE甘庵」の店長・藤波(鈴木浩介)だった。

その後、「ビブリア古書店」に放火しようとした犯人を目撃したのも藤波だったのである。

藤波なら人を見下す眼付で「犯人は俺にきまってるじゃあああああああん」と叫びそうな気がする大輔だった。

しかし・・・放火犯は第2話で女子高校生・小菅奈緒(水野絵梨奈)の告白を一蹴した男・西野(浅香航大)だった。

西野は女子高校生に対する悪行を噂好きの藤波に言いふらされ、学校で孤立してしまったのだった。そして、その元凶を大輔だと勘違いして・・・逆恨みし、恋人風な栞子ともども抹殺しようと謀ったのだった。

再び、犯行に及んだ西野を・・・格闘の末に緊急逮捕した大輔だった。

これにて・・・一件落着と思った大輔だが、居合わせたせどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)の仲間である笠井菊哉(田中圭)の一言が新たな疑惑を生じさせるのだった。

「階段から突き落とすなんてひどいことをするな・・・」

その事実は・・・栞子と大輔の秘密だったのである。

栞子への脅迫メールが途絶えたのが三ヶ月前。

志田と笠井が知り合ったのも三ヶ月前。

そして・・・笠井は古CD、古ゲームソフトにしか興味がないフリをしながら、小説『せどり男爵数奇譚』(梶山季之)が連作短編であることを知っていた。

せどり男爵こと笠井菊哉と同姓同名なのは・・・偽名だから。

うかつにも笠井に「栞子の病室の金庫」に「晩年」があることを話してしまった大輔はあわてて笠井を追う。

大輔の連絡を受けた栞子は何故か、病院の屋上に退避するのだった。

魔王」では魔王に殺され、「銭ゲバ」では銭ゲバに殺された男である。その名を見ればすでに殺されるのか・・・と連想される男である。

「俺だってたまには殺したい」と決意を秘めてドジっ娘・栞子が屋上から落したストールを拾い上げる男だった。

「人間失格」とか叫びながら屋上から落ちるのか・・・。まさかな。

「晩年」を求める二人の男と女の秘密は次回に持ち越しである。連続ドラマか・・・連続ドラマだよ。

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2013年2月18日 (月)

言路洞開を宣布して軽挙妄動を戒慎せしむのです(綾瀬はるか)

文久2年、朝廷は国事御用掛を発足し、「言路洞開」を合言葉に掲げる。

言路とは上層部に対する意見具申であり、洞開とは解放することである。

つまり、「言いたいことがあるなら言ってみろ」ということなのである。

過激なテロリストに対して「話せばわかる」と言いたがるのは「和をもって尊し」とするお国柄と言えるだろう。

しかし、結局は「問答無用」ということになるのである。

「核なき世界を作るために核拡散を抑止するが核兵器は保持する」という前提で「そりゃ、おかしいじゃねえか」と言われても「まあね」という態度なのである。

「じゃ、俺んところでもつくるよ」ということになり、結局、「テロリストとは交渉しない」と結論するしかなくなる。

まったく、人類ってやつは・・・それでも、必ず会津へ帰ってくると手をふる人に笑顔で応えるのが武士の道なのである。

人間は命令に従うもよし、逆らうもよし・・・それぞれが生きる道なのだから。

で、『八重の桜・第7回』(NHK総合20130217PM8~)作・山本むつみ、演出・末永創を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はもったいなくもかしこくも第121代天皇・孝明帝統仁陛下の御真影描き下ろしイラスト大公開で喜びに堪えません。いよ、高麗屋。七代目。松たか子の兄貴!・・・なかなかに色っぽい明治天皇の父でしたな。どうせなら、和宮様を松たか子にやってもらいたいくらいでございます。そうなると家茂はギターが上手くないといけませんな・・・なんのこっちゃでございますがーーーっ。あの日あの時あの場所で画伯に会えなかったら・・・でございます。

Yaeden007 文久二年(1862年)、会津藩主で京都守護職を拝命した松平容保はついに京都に到着。明けて文久三年正月。新年の祝賀を兼ねて、容保、御所に立つ・・・のである。第121代天皇は眉目秀麗な正四位下左近衛権中将源容保を熱烈に愛したとされる。一方、前年に上洛した薩摩藩は藩主・島津久光が公武合体を推進したため、内においては尊皇派の藩士を寺田屋騒動で粛清、外にたいして英国人を殺傷する生麦事件を引き起こし物議を醸す。京都においては長州や土佐の尊皇攘夷主義者が過激さを増し、倒幕の萌芽が発生する。土佐勤皇党の武市瑞山は岡田以蔵らの刺客に命じて目明し文吉から幕府同心・与力に至るまで天誅と称する暗殺テロを展開していた。容保は朝廷の言路洞開の方針に従い、平和的に京都の治安回復を目指す。しかし、実際は権力闘争と賄賂攻勢の応酬で沸騰する京都では焼け石に水であった。文久三年(1863年)二月、京都等持院所蔵の室町幕府初代将軍・足利尊氏、2代・義詮、3代・義満の木像の首が賀茂川の河原に晒されるという前代未聞の足利三代木像梟首事件がおこり、首謀者の国学者・三輪田元綱(後に奥貫薫の出身校となる三輪田学園中学校・高等学校の創設者・眞佐子の夫)の元に密偵として潜入捜査していた会津藩士・大庭恭平が洗脳されて実行犯となるという事態に発展・・・人道的治安維持を断念した容保は過激派粛清の実力行使を決意するのだった。将軍家茂の上洛は目前に迫っていた。

京都駐留軍となる会津藩兵に先駆けて会津藩家老の一人田中土佐は下級藩士に脱藩浪士を装わせ、忍びとして京の都に潜入させていた。田中氏は伊勢北畠一門の出身で甲斐武田氏を経て松平(保科)家に臣従した経歴を持つ一族である。表向きは藩大老職につき、裏では会津藩の忍びを操作している上忍である。そして、山本家は当然のように代々中忍として役目を果たしてきた。

「京の都は・・・なかなかに面妖な趣きだべな」

言葉とは裏腹におどけた口ぶりで雪の夜に上洛した山本覚馬を居室に招いた田中土佐は酒を勧める。

「ま、暖をとれ」

二千石の家老を前に覚馬は畏まって酒盃を取る。

「それほど怪しきものがおるのでごぜえますか」

「いたるところに魑魅魍魎がわいておる・・・」

「・・・」

「大庭恭平を存じておるか」

「下忍としてはなかなかの腕達者と聞いております」

「それが・・・たばかられおった」

「たばかられた・・・」

「朱に交わればあかくなる・・・と申すであろう」

「敵中工作には・・・偽りの心を持って事を為すのは手管でござりまするが」

「それじゃ・・・大庭には伊予国出身の神主あがりの国学浪人の一派の探索を命じておったのじゃ・・・それがの・・・あろうことか・・・尊皇攘夷とやらに・・・かぶれたと申すか・・・たぶらかされたと申すか・・・」

「なんと・・・」

「しまいには大庭の家は坂東平氏の家柄、源氏の下で働くのは筋違いだなどと申してな」

「それは・・・」

「お上の元に武士は上士も下士もなく平等だべなどと口走るのだ・・・」

「狂気の沙汰でごぜえますな・・・」

「京の祇園の廓に・・・女狐が棲んでいるらしい・・・」

「帝のくのいち衆でごぜえますか・・・」

「おそらく・・・」

「噂では前の公方(将軍)様に嫁いだ薩摩の姫は魔眼の持ち主と聞いておりやす。薩摩の島津家は京の近衛家と通じておられるとか・・・さすれば・・・京にも同じような妖術使いがおるやもしれませぬな・・・」

「山本家は・・・砲術の家だが・・・軍師流の破魔の法を密かに伝えていると聞く・・・どうじゃ」

「それは・・・秘伝なれば・・・」

「とにかく・・・方策はまかせるでな・・・会津忍びの指揮はお主にとってもらう・・・よいな」

「は、かしこまってごぜえます」

「江戸屋敷からも・・・会津くのいちを呼び寄せておる・・・これも使え・・・」

「御意・・・」

「とにかく・・・牢に幽閉しておる・・・大庭をなんとかせい・・・」

「早速・・・」

拝領した屋敷を急造の忍び屋敷にしつらえたために地下牢は簡単なものだった。

その土間に縛られたまま大庭が転がされている。

暗闇に覚馬は火をともした。

眩しげにしかめられた恭平の眼が開くとそこに明らかな狂の色が浮かぶ。

「潔く・・・死を賜りたい・・・」と恭平がつぶやいた。

覚馬は手に蝋燭を持っている。

「見よ・・・」と覚馬は囁く。

蝋燭の影が揺れ、恭平の視線が泳ぐ。覚馬はそれに応じて光源を操りながら「忍びの真言」を唱え始める。会津忍びの心を支配する秘めた言の葉だった。

「光明、光明、会津磐梯山、宝玉、宝玉、岩代猪苗代・・・」

幼き頃より刷り込まれた言葉によって恭平の心が誘導され始める。

「それ、申せ、やれ、申せ・・・」

恭平の眼に宿る狂気が色合いを変える。

「・・・おかみにさからうのはおっがねえことだときかされやした・・・」

「・・・んだか・・・」

「・・・神罰さくだると・・・」

「・・・んだか・・・」

「夷狄さ、うだねばならね・・・」

「・・・んだか・・・」

からめとられた恭平の心の縄目をほどくように覚馬は応じて行く。

時が立ち・・・やがて・・・恭平は首をたれる。

催眠状態に落ちたのである。

「誰に教わった・・・」

「三輪田先生・・・」

「どこでじゃ・・・」

「祇園・・・鳳凰楼・・・」

「美しい女子がおったか・・・」

「吉田屋の幾松・・・」

「・・・」

覚馬は頷いた。京にはやはり恐ろしい女狐が潜んでいるようだった。

尊皇攘夷の花が開いては散る文久三年の春が近づいていた。

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2013年2月17日 (日)

神様、ねえ涙拭く木綿のハンカチーフください(長瀬智也)

ラブ・ストーリーの金字塔「ローマの休日」で秘密を持つ二人は「真実の口」の前に立つ。

「嘘をついたものが手をいれたら噛みつかれるという嘘」が二人の心を妖しく捉えるのである。

夢が現実になるのは奇跡なのである。

人々は奇跡を求めて夢の世界に旅立っていく。

東へと向かう列車で。

天国はいいところで、酒は美味いし、姉ちゃんは綺麗で・・・旅立った人は帰れないのである。

棲む世界が違うものの恋はいつだって難しい。

それでも恋しい時は・・・泣くしかないじゃないか。

逢いたいと願うから。

けれど・・・神様は・・・禁断の魔法のノートを開くのである。

で、『泣くな、はらちゃん・第5回』(日本テレビ20130216PM9~)脚本・岡田惠和、演出・菅原伸太郎を見た。かまぼこ工場で働く白衣の人々は天使のようである。そこはかまぼこ天国なのである。その中に一人・・・神様が混じっているのだ。世界の裂け目から神様に逢いに来た、はらちゃん(長瀬智也)は赤い子供である。「不死の世界」から「死の世界」へと旅に出たのだった。

自分の描いたマンガのチョコレートを持った【はらちゃん】を目撃した越前さん(麻生久美子)はバレンタインデーの翌日も熱にうなされるのだった。

「この子は熱によわいのよね・・・何度も死にそうになったの」と母親の秀子(白石加代子)は【はらちゃん】に語りかける。

「死にそうになった・・・ってなんですか?」と疑問を感じる【はらちゃん】だった。

「死ぬかもしれない・・・ってことかしら」

「死ぬ・・・ってなんですか」

「もう、逢えなくなるってことかしら・・・」

「それは・・・困ります」

「そうね・・・困るわね」

【はらちゃん】は神様の不在を思い恐怖した。

目覚めた越前さんは超近距離の【はらちゃん】の存在にうろたえるのだった。

「その・・・チョコレート・・・どうしたの・・・」

「越前さんにもらったんです」

「だって・・・そんな・・・もう降参します・・・トリックを教えてください」

「トリック・・・ってなんですか」

【はらちゃん】がノート内宇宙と自分の関係を説明すると越前さんは腹をたてるのだった

「じゃあ、私がノートを開くと・・・あなたは消えるってーの」

ノートは開かれ【はらちゃん】は帰還してしまうのだった。

「えええええええええええええええええええええええええええええ」

ノートを叩くと【はらちゃん】再登場である。

システムを何度か試した越前さんはその不思議さに思わず微笑むのだった。

激しく振動するコミック「泣くな、はらちゃん」の世界ではユキ姉(奥貫薫)は叫ぶ。

「神が世界を弄んでいる」

超常現象を前にして越前さんの思考は停止したのだった。

かまぼこ工場「ふなまる水産」のパートリーダーで・・・神様の神様である漫画家・矢東薫子となんらかの関係がある矢口百合子(薬師丸ひろ子)に相談を持ちかける越前さん。

「そうなんだ・・・」

「信じるんですか」

「だって・・・信じてもらいたいんでしょ」

「だからって・・・そんなにあっさりと」

「夢のない人ね・・・」

「そんな・・・まるで私が夢がない人みたいな・・・」

「だって・・・生きてないはずのものが実は生きていたなんて・・・よくある話じゃない」

「・・・」

「で・・・どうするの・・・」

越前さんの実演によって・・・飛び出す【はらちゃん】・・・そして【マキヒロ】(賀来賢人)だった。

越前さんは矢口と話を続けるために【はらちゃん】を工場長の玉田(光石研)に預けるのだった。

越前さんの住む世界の住人は基本的に善人ばかりなのである。

直感に優れた悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)は【マキヒロ】と遭遇すると【彼】が【はらちゃん】と同じ【マンガの人】だと察知する。

「名前は・・・?」

「マキヒロ・・・」

「私は・・・清美・・・清くて美しい・・・」

「ぴったりの名前です・・・」

「・・・そんなこと言われたの・・・はじめて」

「だって本当にそうだと思いますから」

「あなた・・・彼女とかいるの」

「彼女・・・ってなんですか」

「それってすごく正解・・・」

渾身の一作である勝負チョコが田中くん(丸山隆平)にまるで通じないために失意のどん底にいた悪魔さんは【マキヒロ】に癒されるのを感じた。

田中くんはせっかくの片思い相手をまったく知らない間に失ったである。

それは悲しいのかどうかもわからない出来事だった。

玉田工場長は【はらちゃん】とジュルビアン(再会)という名の喫茶店でエビピラフを食べる。

天涯孤独の男は・・・自分と同じような境遇の【はらちゃん】に親しみを感じる。

そして・・・「チューまたの名をキス」についてレクチャーするのだった。

「俺なんて・・・死んでも誰も泣いてくれないからな」

「死ぬというのは会えなくなることなんですよね・・・玉田さんと逢えなくなったら悲しいです。玉田さんが死んだら私は泣きます」

「そうか」

「死んだら人間はどうなるのでしょうか」

「消えて・・・なくなるのさ・・・いのちがなくなるんだから」

「マンガの世界の人間も死ぬのでしょうか」

「マンガの世界・・・死なないだろう・・・いのちがないんだから」

「・・・」

「なんで・・・俺はお前と死について語り合ってんだろう・・・それより、キスだよ・・・キスの奥義を知りたくないか」

「知りたいです」

・・・すっかり意気投合した玉田あらため、たまちゃんから【はらちゃん】を引き取った越前さんはキスを迫られてノートを開くのだった。

【マキヒロ】も召還されてしまい・・・悪魔さんはつないだ手のぬくもりを失うのだった。

ノートを閉じた越前さんに百合子が囁く。

「私・・・前に【はらちゃん】と越前さんの交際はやめた方がいいって・・・アドバイスしたけれど・・・あれは取り消す・・・だって神様にも責任があると思うんだ・・・生んでしまった責任がさ・・・【はらちゃん】・・・かわいそうだよね・・・あんなに一途に・・・子供よりもピュアだよねえ・・・」

越前さんの心は揺れるのだった。

ノート内宇宙では・・・はらちゃんとマキヒロが恋に胸を焦がす。ユキ姉は二人を慰める。

女はここにもいるのに・・・

しかし、スルーされてしまうのだった。

そして・・・「死に至るフラグ」をたてまくった玉田は月光に導かれ海底へと旅立つ。

星のダイヤも海に眠る真珠も

あなたのキスほどきらめくはずない

・・・と思ったのか、パートの長沼さん(稲川実代子)は玉田の死を悼んで慟哭するのだった。

「よよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよ」

泥酔して溺死・・・それは悲しい出来事だった。

悲しみに沈むかまぼこ工場。

越前さんの心も揺らぐのだった。

この世界、唯一の汚点のような越前さんの弟・ひろし(菅田将暉)は母に聞く。

「そんなに親しかったっけ・・・あの人と・・・」

「お父さんが死んだ時のこと・・・思い出しちゃったのかもねえ」

「俺・・・バカだから覚えてないや」

「そうよねえ」

「俺・・・慰めてこようかな」

「いいのよ・・・あの子には慰めてほしい人がいるんだから」

「・・・」

ひろしが人間になった瞬間だった。

越前さんは【はらちゃん】を召喚した。

何故かあなたに甘えたくなって

心がほのかにたかまってゆくのよ

「いやらしくないように抱きしめて」と越前さんは命じる。

神様の導くまま、涙にくれる越前さんを抱きしめる【はらちゃん】だった。

「どうしたんですか」

「工場長が亡くなったのよ」

「亡くなった・・・」

「死んでしまったの」

「それでは・・・もうたまちゃんに会えないのですか」

「会えないの」

「それは・・・悲しいです」

「・・・」

「明日になったら会えますか」

「もう・・・ずっと・・会えないの」

「いつになったら会えますか」

「もう・・・二度と会えないのよ」

「それは・・・とても悲しいです」

越前さんは【はらちゃん】の顔を見上げた。そして【はらちゃんの涙】を指でぬぐった。

そして、神様は【はらちゃん】にキスをした。

淋しがりやどうし そっと寄りそい

感じあうのよ 熱い恋の芽ばえ

「これは・・・キスですか・・・私たちは両思いですか」

「そうよ・・・あなたのこと好きに決まってる・・・私が作ったんだもの・・・一番好きなキャラなんだもの・・・」

「うれしいです・・・みんなに話してあげたいのです」

「そんな・・・絶対、話しちゃだめよ」

「でも・・・たまちゃんに御礼が言いたいです」

「・・・」

「あ・・・たまちゃんはいなくなっちゃったんですね」

「・・・」

「これが・・・死ぬということなんですね」

「・・・」

「あ・・・いいこと思いつきましたよ」

「・・・」

「神様、お願いがあります」

「・・・」

【はらちゃん】の願いは神様に聞き届けられた。

「・・・というわけでマンガ居酒屋に新しい仲間が増えました」

「犬じゃないよね」

「嫌な奴だったら殺すしかないわね」

「たまちゃんです」

「たまちゃんでーす」

そして、ノートに一滴の雨が降る。

愛が昨日を消して行くなら

私明日に歩いて行くだけ・・・

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Mk003 まこ☆かま工場~銀河鉄道の歌。

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くうまさか・・・本当に死ぬとは・・・飲んだら海辺の散歩禁止でお願いします・・・

シャブリはたして・・・元々・・・故人だったのは・・・①はらちゃん、②ユキ姉、③笑いおじさん・・・なんて妄想したのでありましたーーーっ

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2013年2月16日 (土)

夜行観覧車のロミオとジュリエット(高橋克典)

ラブ・ストーリーの金字塔である「ローマの休日」はもちろん「ロミオとジュリエット」の系譜に属する。

王女と新聞記者が敵対関係にあることはあの王妃とパパラッチの関係からもあきらかである。

当然のように・・・坂の上の男の子と坂の下の女の子はすれ違う運命にあるわけである。

しかし、殺人事件を捜査する刑事と事件の起きた家の向かいの家の主婦もロミオとジュリエットなのだ。

あえて言えば愛し合う息子と母親は全員、ロミオとジュリエットなのである。

「ローマの休日」が偉大なのはそういう特殊な愛はあまり推奨しないことなのだな。

つまり、ロミオとジュリエットが恋をしたとしても・・・調子にのらないで良い思い出にした方がいいという手引きになっているのである。

しかし・・・夜行観覧車の人々にはそういう賢さは無縁なのである。

友達がずっといなかった母親の娘に友達がいないのは・・・王女の娘が王女であるのと同じようによくあることなのである。

せめて・・・母親はそのことを娘に伝えないとなあ。王女が王女の生き方を伝えるように。

まあ、結局、男と女はみんなロミジュリだし、男と男でも女と女でも基本は変わらないのであるけどね。

「ああ、娘よ、私の娘、どうしてあなたは私の娘なの」

母親と娘はいつでも敵対しているものなのである。

星と星なんて引力で魅かれあうだけで大惨事なのである。

観光客と現地人だって一瞬即発なのである。

放射性廃棄物と処理施設も、日本の国境と中国の国境も、核なき世界と核保有国もみな、「ローマの休日」見習うべきだと考える。・・・もう、いいんじゃないか。

で、『・第5回』(TBSテレビ20130215PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・塚原あゆ子を見た。遠藤真弓(鈴木京香)の学生時代の友人である結城哲也警部補(高橋克典)は聴きこみを続ける。情報の獲得は常に取引である。情報を得るためには情報を与えなければならない。

結城刑事は真弓の学生時代の思い出を餌として投げる。

「君は人の嫌がることを引き受ける優しい人だったね」

優しいなんて・・・私は他にやる人がいなかったから仕方なくやっただけ・・・本当に優しい人って高橋淳子(石田ゆり子)さんみたいな人のことよ・・・あの人は私をいつも助けてくれた・・・あの人のおかげで私がどれほど助かったか・・・私、恩返しがしたいの・・・

「やはり・・・君は優しい人だ」

真弓と別れた結城刑事は同僚と連絡を取る。

遠藤夫人は高橋夫人を友達と思っていたようだ・・・昔から・・・友情を求め過ぎて利用されるタイプだったからなあ。結局、いつも友達がいない人だったけどね。文化祭でゼミの屋台を担当して焼きそば焼いてたな・・・ずっと一人で・・・

結城刑事は真弓に対して特に感情を持つことはない。

犯罪者を追うのが仕事で、そのために利用できるものは利用するのである。

高橋夫人が遠藤夫人を援助していた以上、その貸しを取り立てようとすることはあり得るだろう。高橋夫人の身柄を確保するために遠藤夫人は手掛かりの一つにはなるはずだと結城刑事は考える。

小島さと子(夏木マリ)は町内の有力者の一人である。

新興住宅地を開拓してきた夫人たちは住まいのステータスを高めて来た自負がある。

周囲の地域住民から憧れられる土地にすることが生きがいだったのである。

小島夫人たちの作りあげたひばりヶ丘は一種の輝きを放ち、誘蛾灯に誘われるように高橋夫人はやってきた。

結局、高橋夫人が夫や娘を燃やし焦がすように・・・小島夫人も家族を燃焼させているのだろう。

小島夫人の最愛の息子・マーくんこと小島雅臣(小泉孝太郎)は帰国し、ホテルに滞在している。本格的に帰国するにあたり・・・妊娠中の妻の実家に滞在することを望んでいるらしい。「リナさんに問題があって孫ができないと思ってた」などと息子の顔をしかめさせる過干渉ぶりを示す小島夫人。マーくんは明らかに母親よりも妻を優先している気配である。しかし・・・母親を説得するためにあえて「殺人事件がこわいから・・・」などとひばりヶ丘に戻ってこない理由をつけるのである。

小島夫人も息子が自分を疎んじる気配を感じているが・・・だからこそ・・・高橋家にすべての責任を押し付けたいと感じるのだった。

そして・・・それは第三者から見れば狂態なのである。

遠藤啓介(宮迫博之)はおっとりとした妻に失望し、娘を生贄として捧げる。そして・・・高橋夫人に憧憬を感じる。その手には「凶器のようなもの」が握られている。いかにも誰かから預けられてしまったようである。流れからその相手は高橋夫人なのだろう。

遠藤彩花(杉咲花)は警察の捜索を逃れている高橋慎司(中川大志)を恋する女の直感で発見してしまう。

小学生時代に初めて会った時に一目惚れをして以来、三年間、片思いしてきた相手である。もしも・・・清修学院に入学出来ていたら・・・もっと親密になれたかもしれなかった。一緒にキャンプに行き・・・浦浜中学の村田志保(吉田里琴)にも気楽に紹介できただろう。メールも頻繁に交換し、志保にも余裕でメルアドを教えてやったに違いない。しかし・・・メールは打てなかったし、メルアドを志保に教えるのも憚られたのである。母親がずっと同性の友人を得られなかったように・・・娘もまた友人関係の距離感がつかめないタイプなのであった。しかし、結局、今は・・・慎司は父親が殺害されたのに家に戻らない息子なのである。

「慎司・・・逃げないで・・・私・・・あなたを助けたい・・・私、何をすればいいの」

「・・・」

父親の死についてなんらかの事情を知っている慎司は・・・おそらく彩花を巻きこむことはできないと考えていたようである。

事件の前日、心がすれ違い口論した時が最後のチャンスだったのだろう。

慎司と彩花は・・・少なくともその夜は結ばれない運命だったらしい。

翌日、彩花は我を忘れて慎司に初めてのメールを打とうとする。

しかし・・・それを村田志保は許さない。

「なんだ・・・慎司のメルアド知ってるじゃない」

「ごめん・・・でも」

「慎司の住む家も知ってたよね」

「ごめん・・・」

「慎司の事知らないとか言って一緒に写真に写って」

「ごめん・・・」

「別に・・・慎司はもうどうでもいいのよ・・・犯罪者だし」

「・・・」

「あんたが・・・ともだちに・・・嘘ついてた・・・ってことがマジやばいじゃん」

「ご、ごめん」

「ごめんごめんごめん・・・あんた、本当にあやまってるの・・・口だけじゃないの」

「そ、そんなこと」

「じゃ・・・あんたのあの空気読めない母親のパートしているスーパーから・・・私にお詫びの品物を取ってきてよ・・・そのぐらいはしてくれるでしょ・・・友達なら」

彩花にはそれを断る理由はない。志保を最初に裏切ったのは彩花なのだ。

母親に乗せられて坂の上に行き、坂の下の仲間を捨てようとしたのは彩花だった。

結局、坂の下に戻るしかなかった彩花がどうして志保に逆らうことができるだろう。

今でも充分、みじめな彩花だが・・・志保の気分次第ではもっとひどいことにもなりかねない。彩花にはそれが充分予想できたのである。

そして・・・万引きはみじめな失敗に終わった。

彩花には恋も友情も家庭もなかった。ただ昇るのも苦しい坂道があるだけだ。

そのすべての現況は現実を見ない自分の母親が作り出している。

母親は彩花の帰りを待ち伏せていた。

そして・・・こう言う。

「万引きなんか・・・してないわよね」

(目の前でみていただろう・・・私が万引きするのを見ていただろう・・・どうしてそれをなかったことにしようとするのだ)

真弓の言葉は娘を傷つけるために紡がれる。

「私は知りたいの・・・あなたが何に怒っているのか」

(あんたにだよ・・・あんたのすべてに・・・あんたの存在そのものに・・・何一つわかろうとしないあんたのおろかさにだよ・・・)

彩花の胸は張り裂けた。

突き飛ばされて泣き崩れる真弓。

彩花の顔に母親への憐れみが浮かぶが・・・それを上回るやりきれなさが感情を突き動かす。

(嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌・・・・・)

真弓は結局、母親にはなれない。なぜなら・・・真弓が求めているのは娘ではなくて・・・ともだちなのである。

だから・・・明らかに真弓を駒として考えている淳子から連絡が入ると・・・娘の存在も忘れ・・・女友達という甘い幻想に飛び付くのである。

「私・・・あなたを助けたいの・・・私・・・何をすればいい」

似たもの母娘なのである。

優秀な若者はテレビのワイドショーを見ない場合がある。ネットのワイドショー的なニュースもクリックしない。だから・・・研究に没頭していた医学生の高橋良幸(安田章大)は父親の死を妹・比奈子(宮﨑香蓮)のメールを盗み読みした野上明里(滝裕可里)から聞かされる羽目になるのだった。

「どういうことなのよ」と問い詰められても良幸は茫然とするしかない。

そこへ・・・学校の担任教師(大谷英子)、親友の歩美(荒井萌)、叔母の晶子(堀内敬子)とその夫(榊英雄)、向かいの家の母と娘から・・・様々なプレッシャーを受けて居たたまれず深夜バスで京都に逃げて来た比奈子がやってくる。

動揺した良幸は研究室に逃げ戻るのだった。

「なんか・・・いろいろな人が君を捜しているようだ」と呑気な仲間が言う。

「ああ・・・父親が死んだみたいなんだ・・・」

「・・・え」

良幸には家庭の事情を推察していた気配がある。そしてその面倒から逃げ出した様子であった。

そこへ・・・弟の慎司から着信がある。

「兄さん・・・」

「慎司・・・」

「もう・・・家に帰れない・・・」

「どうした・・・慎司・・・今、どこにいる」

「もう・・・帰れない・・・」

「やめろ・・・慎司・・・どこにも行くな・・・そこにいろ・・・」

兄は弟の目前に「死」が横たわっているのを直視した。

マーくんの偽りの理由を信じるしかない小島夫人は狂気に包まれる。

たったひとりの女友達から呼び出された遠藤夫人は玄関を出ると唖然とする。

高橋家は悪意による中傷アート表現で包まれていたのだった。

どこまで面白くすれば気がすむのか。

もちろん・・・ひばりヶ丘にはまあまあの悪魔が棲んでいる前提で。

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Mk002 まこちゃんランド・まこ☆ポリス出動!

まこラスト・シーンが遠藤家だったのか、高橋家だったのか、わからなかったという全国のみなしゃんの疑問をテッテイ的に追及するのでしゅ~。ポイントはシンジくんご愛用のバスケットのゴールをチェックだじょ~・・・真弓の外出時をよく見ると遠藤家の車は無事なのデス

くうずいぶん高いところまでイタズラしてるんだね~

シャブリ悪質なのでありました~

ろーじーサキの仕業やないねん・・・

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2013年2月15日 (金)

たいしたことのない女がいつも男の大切なものを奪って行く(綾野剛)

ラブ・ストーリーの金字塔である「ローマの休日」に登場するオードリー・ヘプバーンは実年齢が二十代前半で、グレゴリー・ペックは三十代半ばである。二人の年齢差は観客の感性によって変わるだろうが、少女のような女性と大人の男性の組み合わせと言えるだろう。

少女は背伸びをして、大人は失くしたものを取り戻すように恋をするわけである。

お互いのベクトルが交差して・・・一瞬の輝きを見せて・・・後は遠ざかっていく。

永遠には結ばれない二人だからこそ・・・あまりにも美しい恋が成立する。

それが二人の合意なのだ。

しかし、もう一つの選択があるわけである。年齢差も身分もおかまいなしで・・・なりふりかまわず、駆け落ちしたり、結婚したりしてしまう二人。

だが、世界においてはそれが自然の成り行きなのである。

そして・・・そうなると多くの場合はそれほどの輝きがある人生にはならないらしい。

それでも、アーニャとジョーが結ばれた未来、さらに離婚した未来。

そこにもある種の輝きがきっとあるのかもしれない。

で、『最高の離婚・第6回』(フジテレビ20130214PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。上原諒(綾野剛)と紺野灯里(真木よう子)の結婚の証人になるために徹夜で待った濱崎光生(瑛太)と星野結夏(尾野真千子)は体調を崩してしまうのだった。光生はさっそく生姜湯を飲んで症状の悪化を制御しようとするのだが、来るなら来いの結夏は発熱してしまうのだった。

「元気ですか」と出勤途中の光生はジョギング中の灯里に声をかけるが「すごく元気な人間なんてそんなにいないと思うしいちいち元気の状態を尋ねられてもまともに応えることのできる人間なんていないでしょって昔言ってました」と応じられてしまう。

光生はできれば灯里といい関係になりたいのだが、結夏ともやりなおしたいと思っていて自分で自分がどうにもこうにもエグザイルなのである。

仕事先でバスケットボールか、バレーボールか、阿波踊りか、ロッククライミングに誘われるうちに風邪っ気が抜け、スキップして帰宅するが、離婚後同居中の結夏は発熱してしまう。経営するクリーニング店の助っ人として呼んだのが結夏の年下の恋人・初島淳之介(窪田正孝)だった。レッド・ベルベッド・ケーキ的に如才ない淳之介の社交力に打ちのめされた光生はせっかく餃子の味をほめられたのに素直に応じることができない。

「餃子って昆虫のさなぎににてますよね・・・芋虫から蝶になる前にさなぎになってドロドロになってスープになるのです」と知識を披露してしまうのだった。

その頃・・・ついに諒は愛人の一人、日野明希(遊井亮子)にファミレスで過去を物語るのだった。

バレンタイデーの季節に上野駅から寝台車に乗って北へと旅立ったフレンズな二人。高校生のシオミカオルさんと高校生の諒。シオミさんは担任教師と性的に交際していて凌辱的な歪んだ関係に疲れ、諒を駆け落ち相手に誘ったのだった。憧れのシオミさんとの逃避行に諒は気分が最高で「18才になったら結婚しよう」とプロポーズするのだが、シオミさんは「あなたでは不足」と拒絶する。結局、三日で連れ戻され、シオミさんと教師は学校を追われてしまう。諒は不足分を補おうと教師を目指すのだが、シオミさんは二十歳の時に別の男と結婚してしまうのだった。諒の純情可憐な時計は止まり、シオミさんと結婚して幸せになった自分の幻影に呪縛されてしまったのだった。心の中は毎日、吹雪吹雪氷の世界らしい。

面倒くさい男コレクターの歯科衛生士・海野菜那(芹那)はついに光生に愛を告白し、ホテルでの肉体交渉を求めるのだが、いざとなると腰が引ける光生は応じることができないのだった。心の準備がないと体が準備できない男なのである。

ファンキー・モンキー・ベイビーな結夏は年下の男の子である淳之介に夫のパジャマを着せてベッドに寝かせている間にシャワーで汗を流しているところを光生の祖母・濱崎亜以子(八千草薫)に目撃されてしまう。「孫の嫁が間男とナニしている」ショックで茫然とする亜以子に離婚していることを隠している結夏は言いわけの言葉も浮かばないのだった。

ラブなホテル街で菜那に去られた光生は明希と諒に遭遇する。

ファミレスで諒が眠りこんでしまうと・・・光生は明希から諒のトラウマ事情を聞かされるのだった。

「・・・この人は幸せになるのが苦手なのよ」

「・・・なんてうらやましい性格なんだ・・・僕なんか・・・幸せになりたくてもなれないのに」

「・・・」

結局、諒と二人きりになる光生。

そこへ・・・一日中走り続ける灯里がやってくる。

「走り過ぎでしょう」

「ほっといて」

「ほっとけません・・・話し合ってください」

結局、一度は結婚の証人になろうとしたことを盾に・・・灯里と諒を自宅に連れ込み、関係修復を手伝おうと考えた光生だった。

顔をそろえた四人。

「二度と浮気はしないから許してください」

「許すとか許さないじゃなくてもう終わったことです別れてください」

「まあまあ・・・そう言わないで」

「あなたには関係ありません」

「そうだよねえ」

「でも・・・怒ってるってことはまだ心があるってことでしょ」

「いやなんですよ・・・正しいことしか言えないんです。好きで裏切られて自分が悪くないから正しい事ばかり云う。愛で負けているのに負け惜しみを言ってるようなもんなんです。そういう自分が悲しいとか苦しいとかじゃなくて嫌なんです」

「わかるわあ・・・」

「わかるのか・・・」

「お願いだから別れてください」

「いやだ・・・二度と浮気をしないって誓うから・・・愛のコリーダ的に」

「じゃ、今すぐ愛のコリーダ的に」

「いいとも」

「だめ・・・やめて・・・僕の家で去勢しないで・・・」

「まあまあ・・・」

「みんな大人になって一人で生きていけばいいんです」

「・・・」

「・・・」

「だめですよ・・・そんなの・・・だめです・・・ファミリーになれなきゃ・・・ハッピーになれないんですよ・・・ベイビーズがいなかったら少子化社会で老後が心配になるだけじゃないですか」

「そこかっ」

「そこかよっ」

「そこですかっ」

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2013年2月14日 (木)

告白するのもされるのも時の彼方に消えて行くさだめ(水川あさみ)

ラブストーリーの金字塔「ローマの休日」ではジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)が「君に話したいことがある・・・」と言いかけるとアーニャ・スミス(オードリー・ヘプバーン)が「何も言わないで」と言う。

そして、キスをするのである。

今度はアーニャ(実はアン王女)が「なんて言ったらいいのか・・・言葉が見つからない」と言うとジョーが「うん」と言う。

そして、キスをするのである。

告白したり、告白されたりしなくてもいいのである。

愛し合っていれば・・・。

キスをするのである。

で、『シェアハウスの恋人・第5回』(日本テレビ20130213PM10~)脚本・水橋文美江、山岡真介、演出・南雲聖一を見た。思った通り、いろいろと痛い展開になっているな。そもそもシェアハウスなんてものはラブ・ストーリーの舞台にはならないのである。だって男と女がすでに一緒に暮らしているんだから。やることやるに決まっているのである。それなのにあえてハードル高くすればぐだぐだになるに決まってる。もちろん・・・そういう変な人々がいたっていいわけだが・・・それならそれで・・・もう・・・想像もつかない変態の集まりにしないことにはどうにもならない。登場人物一同・・・変な動物を飼っていたり、西海岸の黒人とメールを交換したり、バスの窓からヒモ付フィギュアを投げ捨てたり、インチキな商品をセールスしたり、部屋に閉じこもってちょっと練習すると妙にダンスが達者になったりすると言う感じである。・・・誰が「バス男」の話をしろと言った。

キャスティング的には津山汐(水川あさみ)と川木辰平(大泉洋)が結ばれることが明らかなのである。

つまり、「ローマの休日」で言うとアーニャが汐で、ジョーが辰平なのである。

すでにかなり困難な感じがします。

じゃあ、櫻井雪哉(谷原章介)は誰なんだということになる。なんとカメラマンのアーヴィング(エディ・アルバート)なのだ。

もちろん、辰平は星の王子様なので・・・実はアン王女であるというひねり方もある。

そうなるとアーヴィングもアーニャが好きだったというひねりになっている。

この散漫な感じ・・・お分かりいただけるだろうか。

まあ、とにかく、性別的にアーニャは汐ということにしておく。

突然、カメラマンが新聞記者のジョンに愛の告白を始めているわけである。それで面白くなるわけがないだろう・・・。

だが、ひねりというのはそういうものなので・・・ひねり方によってはそこそこ話にはなっていく。もちろん・・・物凄く面白くはなりにくい。なにしろ・・・つかみどころがない。

全編にもやがかかっているような話になるわけである。

たとえば・・・前回は雪哉(谷原章介)の妻である櫻井真希(須藤理彩)がやってきた。

物事の本質というか、普通の人間の感性ならば・・・気になることはただ一つである。

「なんで・・・彼女は・・・彼のことをつまらない男と言ったのか」・・・ここである。

ところが・・・その点については汐も辰平も一切問いたださない。ただ、あわてふためくだけである。

挙句の果てに「誰かに好意を寄せられたら雪哉が自信を取り戻す」という結論に至るのである。

もう・・・意味不明だ。

そして・・・突然、汐が「玉砕覚悟で愛を告白する」と言い出すのである。

なぜなら、バレンタインデーだからである。

この後は・・・要するに雪哉が好きな汐が勇気を出して告白しようとして・・・そんなことしたって無駄だと知っている辰平がそれをなんとか回避しようとするドタバタが展開する。

その上で汐を愛するために地球に降下した異星人である辰平は二人の破局を避けるために「玉砕覚悟で愛を告白する」という着地なのだ。

何をしたいのか・・・まったくわからない。

で、「告白したことがないし、告白されたこともないが何人かとつきあったことがあるというよくわからない過去を持つ汐」が・・・告白されたショックでフリーズ状態になるわけである。

痛い・・・痛すぎる。

そんな主軸に対して、いかにもダメ人間である汐の弟の凪(中島裕翔)を何故か愛している錦野カオル(川口春奈)の暑苦しい話もたどたどしい。

まして・・・汐の職場の男たちのてんやわんやぶりは物凄い低温なのである。

こうした・・・ブリザードの吹きすさぶ中・・・淡々と場違いなお嬢様を演じる望月メグ(木南晴夏)だけが超絶的な存在感なのである。

「この話・・・面白いの・・・私はすごく面白いとは思えないな」という感じが思わずホッとするほどに伝わってくるのだった。

いやあ・・・窒息するところだったよ。メグ、かわいいよ、メグなのである。

普通の人間である宇宙人。

つまらないと言われて男を愛し始めた男。

そして・・・そんな男を・・・一方的に恋する女。

「ローマの休日」の残骸のようなこの物語をどのように収拾して行くのか。

谷間にしてもいいような失敗作だが・・・とにかく・・・本筋である汐と宇宙人の恋が始る次回。広大な宇宙空間を彷徨う難破船を見るような気分で楽しみたいと考えます。

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2013年2月13日 (水)

書店員ミチルの東京の休日の責任の所在はありません(戸田恵梨香)

ラブ・ストーリーの金字塔「ローマの休日」で24時間の「自由と青春と恋」を得たプリンセスは生れついての義務を選択して・・・緊縛された日常へと戻っていく。

あらゆる「恋の話」はこの映画の「話」から逃れられないのだが・・・書店員ミチルもまた同様である。

ミチルは地元・長崎の御曹司との婚約、地元の書店員としての地位、地元の父親の庇護を離れて、東京貴族との一夜の夢に「青春」のすべてを捧げたのである。

しかし、ミチルは日常への帰還を拒み、休日の延長を申請する。

その結果、ささやかな幸せは破綻し、「2億円の貯金」という身に危険が及ぶほどの幸運、犯罪と背中合わせの生活という悪夢を手に入れる。

もちろん、その方が面白いのである。

で、『書店員ミチルの身の上話・第6回』(NHK総合201302122255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。気がつけば東京の書店員ミチルなのである。書店員はどこにいても書店員なのだな。しかし、2億円の貯金を持つ女なのである。それがあれば無敵のように見えるが、実力が上がれば敵の実力も上がるのがこの世の真理なのである。2万円を狙うこそ泥と2億円を狙う怪盗とでは用意周到さの次元が異なるのである。息子を愛する母は偉大だが、年間一億円超のお小遣いを与えられたりすると息子次第では日米間の信頼関係を損ね、日中間の緊張状態を過熱させ、国家存亡の事態を招くハトポッポを育成したりするわけである。親バカは死ななきゃ治らないということだな。その危うさを草葉の陰で反省したりはしないだろうと邪推できるところがまた一同爆笑ポイントである。

「従順な家来だったはずの竹井(高良健吾)がなんだかこわいんです。忠実な下僕が実は傷付きやすいモンスターだったなんてことがありえるのでしょうか。王女の前では伯爵夫人だって跪くべきなのに・・・それとも、私がプリンセスとして一番大切なものを失ってしまったとでも言うのでしょうか。竹井の自称・交際相手の恵利香(寺島咲)が私の可愛いフライパンで衝動にまかせて久太郎(柄本佑)をぶっ殺した時に気が動転してガクガクブルブルしすぎてしまったことがよくなかったのかも知れません。奴隷の前で主人がビビるのは禁物だと悪魔を使役するエクソシストが深夜アニメで言っていたことをもっと真面目に考えるべきでした。でも、自分の部屋で自分と体を重ねたことがある男が死んでいるとなるといろいろと穏やかではないのです。私がうろたえても仕方なかったと思います。プリンセスはソルジャーでもナイトでもないのですから。それでも竹井は家来として面倒な後始末は引受けてくれたのです。私が殺したわけでもないのでなんだか腑に落ちない気もしましたが、宝くじの高額当選の秘密がばれることには注意しなければならないと高額当選者の手引きに書かれていたのでそうする他はないのでした。警察だって2億円を前にすればどんな悪人に変貌するかわかったものじゃないのですから。そうなのです。貯金が2億円あるということは世界に信じられる人が一人もいなくなるということなのです。たとえ、お互いの秘部をぬらぬらと濡らし、時々昇天するほどの快楽を共有した相手だって心を許せないのです。それはそれとして死体や血ぬられた部屋で一人寝できるほど私は大人ではありません。こわくて一人じゃトイレにもいけない気分です。竹井はとにかく竹井の部屋に私を避難させました。私としては新しい部屋に引っ越したいと願いましたが、引っ越したばかりの部屋をまた引っ越すというのは不自然だと言われると確かにそうです。久太郎が死んだことよりも2億円のことがバレてはならないからです。竹井の部屋につくといろいろなことがあってすっかりくたびれた私はぐっすりと眠っちゃいました。それでも夢は見ました。何故か夢の中で久太郎を殺していたのは私でした。久太郎をぶんなぐって殺してやりたいと心の中では願っていたんだなあ・・・と私はびっくりしました。目覚めると竹井が久太郎の死体の始末を終えて戻っていました。本当の人殺しである恵利香は姿を消しています。私としてはカッとなって人を殺すような人間にはなるべくかかわりたくないのです。なにしろ、私の下僕である竹井と交際していると言うような女の子です。私がいつぶっ殺されてもおかしくないではないですか。とにかく・・・竹井の指示通りにいつもと変わらない日常を送るしかないようです。夜にはとても怖くて近寄れない死体のあった部屋に風を通しに行き、洗濯物を干し、ミステリーでおなじみのルミノール反応との虚しい戦いを展開して、新しいクーラーの取り付け作業を見守ったりします。そして・・・一樹さん(新井浩文)の紹介してくれた街の書店で働く。夜は竹井の部屋で過ごす。ほとぼりがさめるまではそういう窮屈な生活も仕方ありません。なぜなら、私は預金額ほぼ2億円の貯金通帳を持つ女なのです。しかし、さすがに殺人事件の現場に居合わせた後遺症は大きいのです。大好きだったワインもあの日にたまたま飲んでいたというだけでおえっとなっちゃう対象になってしまいました。ワインを注いだ竹井にその無神経さを指摘すると・・・一緒にすんでいた竹井が仕事を変えたのにも気付かない私の方が鈍感なんだと言われてしまいました。家来にそんなことを言われるとは心外です。飼い犬に手をかまれるとはこういうことなのでしょうか。まるで使用人に対等な人間として扱ってくれと言われたマダムになったような気がしました。部下に命令を無視されたら独裁者もこんな気持ちになるのかもしれません。日本にもディズニーランドがあるんだから平壌にも作れと命令したのにそれは無理ですと拒否されたみたいな。そんな時に一樹さんから連絡が入ったのです。私は久太郎に私の新居を教えた一樹さんに不信感をもっていました。信じていた人に裏切られた気分です。私の下半身はまだ一樹さんを受け入れ可能でしたが上半身が拒否反応を示すのです。だってそうでしょう。一樹さんが久太郎に私の部屋を教えなければ、久太郎も死なずにすんだのだし、私は今でもワインを美味しく飲むことができたのですから・・・私を久太郎と逢わせて、①別れ話をさせるつもりだった②長崎に連れ戻させるつもりだった・・・どっちなのと私がクイズを出すと・・・それは君が選ぶことだからという一樹さん。なんだよ、それ、責任回避かよ。臭いものには蓋かよ、私は漬物かよ。きゅうりかよ。大根かよ。エンディングのスローモーションでそれなりに揺らせてみせる努力は無視かよ・・・とまでは詰りませんでしたが・・・妻と別れたいと思っているという言葉を吐いた口から自分は家庭がある身だからとか言っちゃう一樹さんは心底腐った男なのです。腐ったその心身でどうやらタテブー(濱田マリ)も抱いちゃってるみたいなのです。私はまたしても吐き気におそわれました。おえ~~~っなのです。私は知る由もなかったのですが・・・使いこみが発覚し、それが奥さんにもばれて離婚を迫られ、すべておわったと愚痴る一樹さんにタテブーは嘔吐するような汚い行為の後で・・・私には2億円の高額当選金を盗んだという噂があるなどと・・・とんでもないことを言いだしていたのです。自分が確かにハズレクジを受け取っているのにその底辺の人間の悪意たるや恐ろしいものではありませんか。だって当たっているんですもの~~~っ。故郷の長崎にはのほほんと私の帰りを待つ父親(平田満)がいます・・・そして、一番の理解者かもしれない堅実な妹(波瑠)もいるし・・・そこそこ信頼できる元同僚の春子(安藤サクラ)もいます。できれば故郷にかえってそういう身近な家来たちに囲まれて一息つきたい気分の私でした。しかし・・・2億円の銀行預金がある以上・・・そういう人たちに近付くこともうかつにできません。困り果てた私は・・・タテブーが私に宝クジのことや久太郎のことや一樹さんのことを攻め立てる悪夢までを見る始末。宝くじが当たったのは私の幸運だし、久太郎を殺したのは恵利香だし、一樹さんは生まれつき不実な男なのです・・・最高の離婚でいえば擬似夫です・・・テトリスのような性行為というよりはぷにょぷにょみたいな性行為かもしれませんが・・・私はなにひとつすごく悪い事はしていません。宝くじの当たりくじとハズレクジを分けたことが罪ですか、久太郎のことをうざいと思った事が罪ですか、妻子ある一樹さんと不倫したのが罪ですか・・・でも、私にはそういうことも罪だと思っている良心があるみたいなんです。そうでなければ悪夢なんてみないですから。できれば悪夢ちゃんに頼んでいろいろなことをなしにしてもらいたい・・・私は本気でそう思いました。少し、テレビの見過ぎなのかもしれませんが・・・自分の部屋で人を殺されたら大人しく竹井の部屋でテレビを見るくらいしかないのです。それなのに・・・竹井ったら・・・恵利香と一緒に暮らしたいと言い出したのです。人殺しだから精神が不安定になって・・・自首とかされたら・・・確かに困ります。死体の遺棄を知っている私も共犯を疑われますし・・・なにしろ、高額当選のことが表沙汰になるかもしれません。私はほとほと困ってしまったのです。どうして・・・こんなことになってしまったのでしょうか・・・誰か助けてくださいよお」

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2013年2月12日 (火)

アレックスはなぜデボチカをフィリーしてトルチョックするのか?(生田絵梨花)

「時計じかけのオレンジ/アンソニー・バージェス」(A Clockwork Orange/Anthony Burgess)が発表されたのは1962年である。

アンソニー・バージェス(1917-1993)は英国の作家で母は早世し父親はろくでなし、彼は酒と煙草の店を営む叔母によって育てられたという。

1960年代初頭、合衆国の大統領はジョン・F・ケネディであり、東西は冷戦中。ソ連では広島に投下された原爆3300発分の威力があるというツァーリ・ボンバという人類史上最大の水素爆弾の実験を行っていた。ドイツでは東ベルリンと西ベルリンを隔てるベルリンの壁が「時計仕掛けのオレンジ」発表前年の1961年に建設されている。暴力と貧困そして戦争が世界を恐怖のどん底に叩き落としていたのである。

そのような時代に、暗い近未来を描いたのがこの小説である。

そこでは全体主義の匂いが漂い、ロシア語と英語は融合している。

英国の若者は暗黒時代を生きているのである。

若者たちはナッドサット(ティーンズ)と呼ばれるスラングで会話を交わす。

デボチカと言えばたわわな巨乳と濡れたご機嫌な穴を持つ性器の所有者であり、フィリーはそれを仲間たちと交互に堪能すること、トルチョクは使用済みの性器の所有者を容赦なく撲殺すること・・・というような暗示を含んだ描写がてんこ盛りされている。

そんなものを小学生時代に堪能していたヒロインに萌えるか萌えないかはそれぞれの感性によるだろう。

削除された最終章があった方がいいのか、なくても別にかまわないのかもそれぞれによるのである。

スタンリー・キューブリックによって1971年に映画化されているわけだが、それが不朽の名作なのかどうかも人それぞれなのである。

とにかく、あらゆる表現になんらかの制限をかけようとするバカは死ねばいいとキッドが考えることだけは間違いない。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第5回』(フジテレビ20130211PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。情報入手の適齢期の問題である。しかし、個人差がある以上、適齢期の規定は非常に困難だ。そして、小学生の責任能力を問うのも困難である。つまり、人は何歳になったら聖書を読んでいいのか。何歳になったら殺せるようになるのか。そういう問題なのである。・・・その辺にしておいたらどうかね。中学生じゃないんだからな。

篠川栞子(剛力彩芽)は聖桜女学館の図書館に書籍を寄贈するために出張して・・・ついでに必要図書の注文を受けるのだった。地道な営業活動なのである。

担当職員の杉浦(阿南敦子)は中高生に「読ませたくない本」を選別する。

栞子としては「読ませたい本」を選別してきたために些少の摩擦が生じる。

「時計じかけのオレンジ」は有害図書に指定されてしまった一冊だった。

「文学的評価が高い作品を性描写や暴力描写があるだけで除外するのは検閲的じゃないですか」

「公序良俗を守る立場からある程度の情報制限は必要でしょう」

「その限度は誰が決めるのでしょうか」

「私が神なのです」

栞子は大人なので図書館警察相手の無用な抗争は避けるのだった。

搬入を手伝った中等部の図書委員はアイドル歌手のような美少女・田辺美鈴(生田絵梨花)だった。栞子は一目見て彼女が「毒入りオレンジ」であることを直感する。美しいものはそれだけで悪だからである。

ビブリア古書堂の常連客となったらしい小菅奈緒(水野絵梨奈)は悩み相談をもちかける。

売春婦になったら一財産稼げるほど大人気になるらしい外見の持ち主である高校生の奈緒にはちびまる子ちゃんが似合う地味な中学生の妹・結衣(森迫永依)がいた。その妹が「時計じかけのオレンジ」の読書感想文で「悪を肯定」した問題生徒になり、その上、万引きをしてしまったというのである。

それほど勉強の得意でなかった姉にとって妹は成績がよく自慢の存在だった。

そんな妹が不良化してしまい、姉としては困惑しているのであった。

せどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)や、その他のレギュラーを交えてさっそく結衣の感想文をチェックする。

もちろん、書物が読めない五浦大輔(AKIRA)のためには誰かが読んできかせる必要がある。しかし、栞子は黙読すると顔を赤らめるのだった。

仕方なく「CAFE甘庵」の店長・藤波(鈴木浩介)が代読するのだった。

「暴力と音楽を愛する中学生アレックスは仲良し四人組と麻薬に溺れ、ウルトラヴァイオレンスを競うために悪の限りを尽くすのです。敵対グループを襲撃し、ホームレスの老人を襲撃し、白い天狗面をかぶって人妻を凌辱した上で撲殺してしまいます。しかし、仲間に裏切られついに逮捕されてしまいます。警察で薬物を使用した洗脳処理を施されたアレックスは歩く植物人間に改造されてしまうのです。暴力にも音楽にも激しい拒絶反応を起こす体となり人畜無害になったアレックスは釈放されますが・・・非暴力体質になったためにかっての被害者からリンチなどの復讐を受けることになります。そしてついには自殺に追い込まれるのです。しかし、一命をとりとめたアレックスは政治家の美談に利用されて再び悪の人格を取り戻すことになります。物語はここで終ります。無理矢理、時計じかけのオレンジにされるよりもオレンジジュースに麻薬をまぜて飲む方が人間らしいかもしれない。私は善は強制されて行うものではないと教えられたような気がしました。暴力と音楽を失ったら人間なんて面白みがない時計じかけのオレンジなのですから・・・まあ、恐ろしい中学生だわ」

「猫カフェとかにいくようになるのよ」

「悪いアプリで人をおとしめるようになるわね」

「最後は多量摂取でおだぶつね」

「・・・私の妹を勝手に殺さないでください」と涙ぐむ奈緒だった。

しかし、奈緒が妹のために買った「時計じかけのオレンジ・完全版」を見た栞子は疑惑が確信に変わるのを感じたのだった。

「妹さんは・・・その本を読んでいないし・・・おそらく・・・読書感想文も書いていないと思います・・・」

唖然とする一同だった。

「なぜなら・・・完全版では最後にアレックスが・・・昔の俺は結構ワルだった・・・と懐かしむつまらない大人になるために悪行からの卒業を決意する・・・今なら少年Aですむ・・・的世間とのおりあい部分があるからです。それを読むと読後感は全く違うものになるはずです。ひょっとしたら感想文なんて書く気もおこらない蛇足のような結末ですからね」

「そ、それは人それぞれだけどね」

「ある意味、その方が本当に悪なのかもよ」

やがて、栞子の母校の小学校で読み聞かせのボランティアをやっている田辺美鈴と再会し、田辺美鈴と奈緒がクラスメートだと知ると・・・ヒロインは事件の真相に迫っていくのだった。

二人の中学生を呼び出した栞子は追求を開始する。

「美鈴さんは小学校の文集で・・・奈緒さんの感想文とそっくりの感想文を発見したのですね」

「え・・・私がなんでいちいちそんなものを読むんですか」

「おそらく、暇だったのでしょう」

「そして美鈴さんは万引きをしたのですね」

「え・・・なんで私が」

「犯人は逃げ足が速かったのです・・・奈緒さんはどんくさいので逃げ切れません」

「・・・」

「そして・・・感想文の盗作を内密にする代わりに万引き犯役を奈緒さんに押し付けたのです」

「・・・」

「何の証拠があって・・・」

「あの感想文は小学生の時に私が書いたものだからです・・・どうして・・・盗作を隠して万引き犯になったのか・・・教えてください」

「中学生なのに・・・小学生の作文を盗作したなんて・・・最高にみじめじゃないですか」

「まあ・・・ちびまる子ちゃん的にはそうかもしれませんね・・・」

「そうですよ・・・ちびまる子ちゃんがある程度幸せなのは・・・自分よりお姉ちゃんの方が美人だと気がつかない時までなんですよ」

「え・・・私のせいなの」と絶句する妹より美しい姉だった。

「じゃ・・・私はこれで・・・」と一番美しいかもしれない真犯人は去ろうとした。

「彼女にはおとがめなしですか」

「証拠がない以上・・・優等生と問題生徒では・・・ね・・・本当の悪は常に裁かれることはないのよ」

「あの・・・」と姉の方が美しい妹が言った。「私も帰っていいですか・・・私、潔癖症なんで・・・この古本の匂いが・・・もう、限界なんですけど・・・」

古本の匂いが平気な人々はうつむくしかないのだった。所詮、臭いものが平気な人間の集まりなのだから。

作家たちは皆思っている。図書館で借りたり、古本屋で購入せずに・・・新刊を買ってください・・・と。

関連するキッドのブログ→第4話のレビュー

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2013年2月11日 (月)

会津松平(保科)家・家訓、一つ、大君の儀、一心大切に忠勤を存すべし、列国の例をもって自ら処すべからず(綾瀬はるか)

江戸幕府二代将軍徳川秀忠の落胤である保科正之は兄である三代将軍家光によって会津藩祖となった。

この恩に報いるために定めたのが家訓(かきん)十五ヵ条である。

その第一条は「将軍の恩義に報いるために心を一つにして忠誠をつくし、他藩の動向に左右されることがあってはならない」と将軍家第一主義を謳っている。

つまり、常に将軍の命に従い、将軍家が滅びる時にはともに滅びる覚悟を求めているのである。

会津松平家の歴代藩主たちはこの教えを忠実に守ってきたわけだが・・・婿養子である第九代藩主・松平容保は頑ななほどにこれを順守したと言われる。

会津23万石は黒船来航以来、様々な任務を遂行し、国力は疲弊していた。

結果論として京都守護職を拝命したことが失敗だったということではなく、東山道の一国で陸路しかもたない会津藩にとって一千名の京都出兵は最初から過酷な負担だったと言える。

これに対し、薩摩藩は77万国の大国であり、さらに海運国として密貿易の利がある上に京都への道も海路が開けていた。一千名の動員は容易だったわけである。

薩摩の兵一千名と会津の兵一千名では領民に対する重圧が明らかに違うのだった。

家訓第十四条には「民飢えればこれを救うべし」とある。

一条をたてて十四条を捨てたことが会津を滅亡へと導いたのだ。

で、『八重の桜・第6回』(NHK総合20130210PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はちょい悪親父風第16代越前福井藩主にして幕府政事総裁職・松平春嶽とついつい唆されてしまう純情可憐な乙女風・会津藩主にして京都守護職・松平容保の二大松平描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。画伯~っ、憐れ敏姫スルーでございますな・・・言ってみたかっただけなのであくまでマイペースでお願いします。

Yaeden006 安政七年(1860年)、桜田門外で大老が暗殺されたために万延元年に改元。譜代大名家が動揺し、政権は親藩・外様による雄藩同盟の巻き返しが起こる。五月に渡米していた勝海舟が帰国。万延二年(1861年)二月、陰陽道的に文久元年に改元されると老中首座の安藤信正は公武合体政策を推進、将軍家茂への和宮降嫁が決定される。まもなく米国ではリンカーン大統領の北軍と奴隷州の南軍の対立によって四年におよぶ内戦に突入する。所謂、南北戦争である。十月、会津藩主・容保の正室・敏姫が19歳で逝去。四年間の結婚生活で子は生さなかったという。明けて文久二年(1862年)一月に坂下門外にて安藤信正襲撃事件が発生。幕政は混乱を極める。四月、薩摩藩主・島津久光が兵を率いて上洛。圧倒的武力を背景に幕政に関与し、春嶽を総裁に、一橋慶喜を将軍後見職と定める。文久の改革と呼ばれる政変で安政の大獄によって処分されていた土佐藩の山内容堂も復活する。開国派と攘夷派で揺れる長州藩も参戦し京都では政争の嵐が吹き荒れることになる。尊王攘夷派による天誅テロリズムの発動である。幕府は将軍上洛で体制回復を目指し、京都守護職を設置する。度重なる要請を受け・・・ついに松平容保はその大役を拝命するのだった。風雲急を告げる京へと会津藩は出兵する。その中に山本覚馬の姿もあった。

会津藩には大東流と呼ばれる武術が伝えられている。その流派は甲斐武田に源流があり、会津武田氏がその流れを伝承し、発展させたものとされる。幕末においては馬庭念流と北辰一刀流の対決に見られるように秘伝の型を伝授する古武術と合理的な竹刀稽古を主流とした新武術とか融合し、爆発的な武術の発展があった。

大東流も直心影流、小野派一刀流、鏡新明智流、宝蔵院流など様々な流派を統合し、相撲、柔術、剣術、棒術、槍術、薙刀術、鎖鎌術、弓術などあらゆる武術を盛り込んだ総合格闘技の様相を呈している。

武家の女のたしなみとして十六の春を迎えた山本八重も薙刀の稽古に励んでいた。

山本家が会津藩国産化を目指す改良ゲーベル銃を発達した膂力により反動なしで立撃ちできる八重の薙刀は剛腕の冴えを見せる。

それに対し、会津藩家老・内藤信順の次男で一千石の名家梶原家を継いだ梶原平馬に嫁ぐことになった山川家の長女・二葉の薙刀は柔である。

豪快に二葉の足元を狙う八重の薙刀を受け流し、気がつけば八重の足元につけいっている。

「まいりやした」

控える八重に二葉は微笑みかける。

「なんの・・・型通りの試合なれば、私にも勝てましょうが・・・実戦となれば八重殿の豪力に敵うものはありますまい・・・一撃で頭を割られてしまいますものね。八重様は片手で薙刀を振れますもの・・・」

「はい・・・両手に二本の薙刀を持てば必勝間違いなしでごぜえます」

「ふふふ・・・それでは女武蔵でございますねえ」

「薙刀の二天一流でごぜえます」

「面白い人・・・どれどれ・・・その力の源を拝見」

「あんれ・・・こそばゆうごぜえます」

「すごいわねえ・・・この肉づき・・・」

「ひゃひゃひゃ・・・おやめくだされませえ」

「ねえ、得意の鉄砲も二刀流で撃てるのかしら・・・」

「いえ、さすがにゲーベル銃では無理でございます。片手では撃ったあとの反動がおさえきれませぬ。けんど、短筒ならば西洋に二丁拳銃という流儀があるそうでございます」

「短筒?」

「はい、我が家に居候なさってる川崎様の話では連発式の短筒なるものがあるそうでございます。西部の女拳銃使いには名を為したものもあるとか・・・いつかは勝負をいどんでみてえものでごぜえます」

「ほほほ・・・八重殿は本当に面白いお方・・・」

しかし、西部の名うての女ガンマンたちは八重よりもまだ若い。山賊女王ベル・スターは13歳、平原女王カラミティ・ジェーンは5歳、射撃名人アニー・オークレイは生れたばかりである。

八重は女ガンマンとして世界に先駆けているのだった。

この年、ワイルド・ビル・ヒコックはネブラスカ州で保安官になり、バッファロー・ビルは金鉱を掘っていた。そしてドク・ホリデイは酒の味をまだ知らない少年だった。

季節は夢のように過ぎ去り八重は京へむけて出征する兵たちをいつもの木の上で見送っていた。

「ゲーベル銃・・・間に合わなかったな」

兄の兵制改革の夢は破れ・・・会津武士たちは旧態依然のまま戦地へ旅立っていく。

陸奥の早い冬が迫っている。

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2013年2月10日 (日)

私ははらちゃんがわからない(麻生久美子)

現実がつらいと感じるから逃避するのか。

逃避するから現実が辛いのか・・・。

分岐点が遥かな過去すぎて、もはや、よくわからない。

だが・・・幼い頃には現実と非現実の境界線は曖昧で自分が逃避しているのか、してないのかも曖昧だっただろう。

そういう意味ではは現実と非現実の境界線は今も曖昧である。

なにしろ、すべてはフィクションなのだから。

それでも、たとえば恋をし続ければ・・・現実であろうとなかろうといつかは叶うのが当然なのである。

そうでなければ・・・これほどまでに人間は増えなかっただろう。

そうでないとすれば・・・もうすぐ人間は減るだろう。

で、『泣くな、はらちゃん・第4回』(日本テレビ20130209PM9~)脚本・岡田惠和、演出・狩山俊輔を見た。矢口百合子(薬師丸ひろ子)が深く関与している矢東薫子の漫画を模倣して極私的漫画を描く越前さん(麻生久美子)・・・いかなる超常現象でか・・・そのキャラクターはらちゃん(長瀬智也)は越前さんのいる世界で実体化してしまう。そして・・・はらちゃんは自分がマンガの世界の住人であることをついに知ってしまうのである。

「私たちはみんな越前さんの描いたマンガなんです」

「えーーー・・・意味わかんない」

はらちゃんが直感した世界の秘密をその他の登場人物は理解できない。

ただ、ユキ姉(奥貫薫)だけは何かを知っているような表情を見せる。現実世界について、はらちゃんに教えたのもユキ姉なので・・・何かを知っているかもしれないし・・・ただそういうキャラクターなのかもしれない。なにしろ・・・マンガなんだから。

「そうだ・・・越前さんに教えてもらおう」・・・決意した、はらちゃんだった。

しかし・・・およびがかからないのである。

なぜなら・・・越前さんは【はらちゃん】のことが気になってマンガどころじゃなかったのだった。

おりしも、かまぼこ工場「ふなまる水産」はバレンタイデーはかまぼこ強化週間なのだった。

突然、現れて、突然、消えてしまう。

どこの誰かもわからない。そして自分のことを好きだという。

そんなこと言われても困ると思うけれど・・・なんだか気になってしまう。

いつもなら関係ないと思うバレンタインデーにも心が騒ぐ・・・。

そして、いつも【彼】を求めてふりむいてしまう。

「それは恋だね」と断言する全知全能の百合子さんだった。

「でも・・・その恋はやめておいた方がいい」と諭すように言う百合子さんなのである。

私は彼がわからない

彼の心がつかめない

私は一体どうなっちゃってるの

一方で越前さんに片思いしている田中くん(丸山隆平)は盛んにチョコレートが好きだを連発するのだが・・・反応したのは田中くんに片思いしている悪魔さん(忽那汐里)なのだった。

膠着状態に陥った二次元/三次元世界だった。

それを打破するのは例によって越前さんの性悪な弟・ひろし(菅田将暉)だった。姉の経済力で生きて行きたいひろしは・・・姉に漫画家の才能があるならそれもよかろうとノートを漫画喫茶「漫画王国」の漫画家風住人に鑑定に出したのである。

そのあおりを受けて、【あっくん】(清水優)がこちらの世界に実体化し、犬恐怖症になってしまう事件も発生するのだった。

ひろしはかまぼこ工場にあらわれて「かわいいは正義」の力でおばちゃんたちを魅了しつつ、姉に「姉ちゃんの漫画は金にならないって・・・だからもう漫画なんか描かない方がいいよ」と独自の主張を展開する。

そのはずみで【はらちゃん】降臨である。

「越前さん・・・教えてほしいことがあるんです」と迫る【はらちゃん】にドキドキが止まらない越前さんは・・・思わず【彼】を拒絶してしまう。

そんな【はらちゃん】に親近感を感じる田中くんは【彼】を外回りの仕事に連れ出すのだった。

「僕はマンガの世界の人間なんです」という【はらちゃん】・・・。

「僕もそうだよ・・・(マンガを読んで現実逃避しているの意)」と田中くん。

「そうなんですか・・・誰が描いたマンガなんですか」

「荒田ヒトシ先生さ・・・(荒田ヒトシの描くマンガが好きなのである)」

かみあっていないのにかみあう会話の妙である。

【はらちゃん】はもちろんそれが誰だか見当もつかないのである。

その時、【はらちゃん】は救急車と遭遇し・・・病気の存在を知る。

工場に戻ると越前さんは風邪で早退していた。

田中くんから風邪も病気だと知らされ、あわてて救急車を捜す【はらちゃん】だったが・・・救急車をキャッチすることはできなかった。

「誰か・・・助けてください」

「セカチューかっ」

悪魔さんがやってきた。悪魔さんは越前さんの家を【はらちゃん】に教えるかわりに・・・田中さんについての情報を得るのだった。

そして・・・ついでに【はらちゃん】に「地獄へ落ちろ」のサインqを教えて・・・荒田ヒトシの漫画を買い、チョコレートの材料を買いこみ、いそいそと自分の家に帰る悪魔さんだった。

越前さんの家には百合子さんが待っていた。

すでに熱にうなされて寝込んだ越前さんのために・・・越前さんの母親・秀子(白石加代子)に頼まれて昔なつかし氷枕の準備をしている百合子さんなのである。

「それはなんですか・・・」

「氷枕よ・・・風邪をひくと熱が出るからこれで頭を冷やすの」

「氷枕さん・・・」

「はらちゃん・・・こっちの世界は楽しい?」

「はい・・・でも・・・楽しいけど悲しいです」

「どうして・・・」

「こちらの世界は私の世界とはあまりに違うので・・・」

「そう・・・」

「越前さんが病気になって苦しんでいるというのに・・・私は病気になったこともない・・・越前さんのつらさがわからない・・・それが悲しいです」

思わず涙ぐむ百合子さんだった。

「私にできることはありませんか」

「じゃ・・・看病だね」

「看病・・・それはなんですか」

「ずっと一緒にいてあげることかな」

「それなら私にもできますね」

「がんばって・・・はらちゃん」

すべての事情を把握している様子の百合子さん。やはり・・・神様の神様なのか・・・。

「せつないことになっちゃったなあ」と自分で自分の頭をポカスカするところがもうセーラー服を着せたいくらいのかわいいよ、【薬師丸】かわいいよなのであった。

【彼】を娘の初めての恋人と思いこんでいる母親公認で看病にはげむ【はらちゃん】だった。

熱に弱いタイプらしく、身悶えて、あえぎまくる越前さん。【はらちゃん】は闘病する越前さんと氷枕さんを精一杯応援するのだった。

そしてうなされて助けを求めて差し出された越前さんの手を思わず握り締める【はらちゃん】だった。

そして・・・バレンタインデーがやってきた。

工場長の玉田(光石研)は百合子さんから義理かまぼこをもらい有頂天となり、田中くんはツンデレ女王の悪魔さんからあくまで偶然、心のこもりすぎた荒田ヒトシ風スペシャルでたったひとつのあまったチョコレートをもらい心が少し温まる。

街ではいつもの警官(小松和重)が賄賂の前払い的チョコをもらい万歳を叫ぶのだった。これは・・・ある意味、死亡フラグかもしれないなあ。

今日、家に帰ったら女子高生にもらったチョコレートを食べるんだ」でかっ。

目覚めた越前さんは目の前の【はらちゃん】に驚愕する。

母親に「熱が下がったのは【彼】が徹夜で看病してくれたおかげ」と言われ恐縮する越前さんだった。

「それは・・・ありがとうございました」

「ありがとう・・・ということは何かもらえるんですか」

「・・・何が欲しいんですか」

「何もいりません・・・だって今日は越前さんからチョコレートをもらう日ですから」

「・・・」

「両思いの人はもらえるんですよね」

「あげますよ・・・もう熱が出そう」

思わず、越前さんの母親から学んだおでことおでこで熱を測るテクニックを使う【はらちゃん】に越前さんはヒートアップするのだった。

「熱はさがりましたか」

「下がるかっ・・・とにかく・・・チョコレートはもらっておどろいてよろこんで食べるんです」

「・・・そうなんですか・・・じゃあもらったらおどろいてよろこんで食べます」

「もう・・・あなたは一体だれなんですか」

「はらちゃんです」

「また・・・私に気持ちを言わせておいて・・・自分はふざけてばかり・・・結局、からかっているのね・・・そうなのね」

怒りだす越前さんに・・・悲しむ、はらちゃん。

「馬鹿にしないでよ・・・【誰】が私の描いたマンガのはらちゃんよ」

越前さんの描いたマンガの【はらちゃん】なのである。

怒りにまかせてノートを開く越前さん・・・消失する【はらちゃん】・・・。

「え・・・」

一人残された越前さんは自分の正気を疑いつつ・・・昔なつかし水銀式体温計を咥えてノートのはらちゃんにチョコレートをプレゼントするのだった。

なぜこんなにも彼のことを好きになってしまったの

この胸の苦しみをどうすればいいのかな

彼をなじって傷つけてみようかしら

彼にすがって泣いてみようかしら

それとも愛してるって叫んでみようかしら

そんなこと私にできるはずもない

いつだってクールに誰にも関わらないように

生きて来た私だもの

けれど今・・・彼の愛が真実かどうか・・・私は答えを求めている

そして・・・答えを知ることがこわくて仕方ない

だって私には彼の愛し方がわからないもの

はらちゃんたちは神様から贈られたチョコレートを食べておいしくて驚いて喜びを分かち合う。

ノートの外の世界ではまたしても弟が現れて世界に衝撃をもたらす。

そして・・・越前さんは見た。

自分の描いたマンガの【チョコレート】を食べる【はらちゃん】を・・・。

「えええええええええええええ」

ショックで卒倒する越前さんを抱きとめておでことおでこを寄せ合う【はらちゃん】だった。

越前さんが聖母マリアなら、はらちゃんはジーザス・クライスト・スーパー・スターなのか。

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Mk001 平成財閥特区・まこかま工場。

まこしょれしょれ~。先週は恵方かまぼこで稼ぎまくったのでその売上をしゅべてつぎこんでバレンタインデーかまぼこを増産するのでしゅ~。やっちまいな、ノルマ達成しちまいな、達成しないとおしおきだじょ~、急がないと次のひなまつりかまぼこが間に合わないのデス!」

くうオリジナルのはらちゃんもいたのかしらねえ・・・百合子さんと恋におちてたりして・・・一方、相思相愛のはらちゃんと越前だけど・・・神様と人間だからねえ・・・どうなるんだろ・・・とにかくノルマは達成しなくちゃね~

シャブリ気がつくと毎日が自分の手作りのかまぼこなのでありました~・・・現物支給ですかーーーっ・・・っていうか自給自足・・・

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2013年2月 9日 (土)

夜行観覧車から降りない女の娘に生れて(杉咲花)

夜行観覧車に乗ったら夜景を見ずにはいられない。

そして、時々は一緒に乗っている家族や恋人と微笑みを交わすものだ。

しかし、女が見つめるのは少し先を昇るゴンドラだけなのだ。

その異常さを反対側の席で見つめているものが穏やかな気持ちでいられるはずはない。

おかしいよ・・・あんた・・・おかしいよ・・・。

だが、その気持ちは女には伝わらない。

女は食い入るように・・・自分のゴンドラの窓に顔をつけてうっとりと他人のゴンドラを見つめる。

その背中を同乗者は見守ることしかできないのだ。

女が興味があるのは頂点を目指すゴンドラだけ。

やがて・・・一つ上の観覧車は頂点に届く。

女は思う。

さあ・・・今度は私が・・・一番高い場所にいくのだわ。

で、『・第4回』(TBSテレビ20130208PM10~)原作・湊かなえ、脚本・清水友佳子、演出・山本剛義を見た。脚本家が変わっても強固な世界観によどみなしである。ちょっとした歯車が狂って登場人物全員が悪に染まっていく素晴らしい世界である。まともな人間はほんの一瞬・・・影のようにゆらぐだけなのである。たとえば・・・高橋家の長女・比奈子(宮﨑香蓮)は亡き父親の在りし日の姿を思い浮かべ涙ぐむ。しかし・・・事件の当日も弟と母親の間の感情的なもつれに耐えきれず友人の家へ逃避していたのだし、隣の家の娘の素行が荒れている原因に自分が一役買っているとは夢にも思わない愚鈍さを持っている。驚いたことに遠藤家の妻・真弓(鈴木京香)と大学の同窓生だった無理矢理な設定の結城哲也刑事(高橋克典)も娘の反抗期に手を焼く旧友に離婚した後五年間も逢っていない小学六年生の息子の話をしたりして和む・・・とみせかけて冷酷な捜査官の目で事件関係者である女を疑り深く見ているのである。

誰ひとりとして・・・好ましい人間は登場しないのである。それが世界のあるべき姿だからである。

刑事たちは高橋弘幸(田中哲司)殺害後から消息不明になっている妻の淳子(石田ゆり子)と次男の慎司(中川大志)を追うと同時に、被害者に借金していた遠藤啓介(宮迫博之)にも疑いの目を向けている。

借金のことを聞かされた真弓は真相を確かめるために夫の勤務先であるヤマベ工務店を訪ねるが夫は不在。直後に順子と啓介が同じ喫茶店から前後して出てくるのを目撃する。どちらを追うべきか・・・躊躇した真弓は結局、二人を見失ってしまう。

順子の妹である田中晶子(堀内敬子)の家に引き取られることになった比奈子を発見した真弓は我が子のように比奈子を慈しむ。

(ああ・・・可哀相な比奈子さん・・・この子が自分の子だったらどんなにかよいことだろう)

帰宅した真弓は実の娘に頼まれたヨーグルトを買い忘れている。

夫からは会社に泊まるとメールが来る。それを目ざとく見つける娘。

「なに?・・・夫婦喧嘩・・・どうせ、あんたがイラッとすること言ったんでしょ」

(いやだ・・・こんな子はいやだ・・・)

真弓は幸せだった頃の写真を見る。隣の一家とキャンプに出かけた記念写真。そこに娘がいないことには気がつかないし、それを飾っていることがどんなに残酷なことなのか・・・思いもおよばないのである。

今日も完璧な悪い女子中学生の志保を演じる吉田里琴である。

犯罪に巻き込まれてしまった慎司に対して手のひらを返すのだった。

そんな志保に精一杯の抵抗をする彩花を演じる杉咲花。

年上としては負けられない演技合戦である。

「慎司はそんなに・・・悪い子じゃないよ」

「ふうん・・・セレブ同志・・・わかりあえてるのね」

CLUB Rico会員一同、女優魂に拍手喝采と同時にお茶の間受け的前途に不安も覚えるのだった。まあ・・・女優は与えられたポジションで戦い抜くしかないわけですが。

一方、世間はエリート医師の殺害と家族の行方不明に猟奇的な匂いを嗅ぎつけ好奇心を炸裂させる。

たちまち晒される高橋一家なのであった。

しかし・・・京都大学の研究室にこもる高橋家の長男の良幸(安田章大)は父親が殺されたことも知らず研究に没頭・・・恋人の明里(滝裕可里)からの差し入れをのんびり受け取っていたのだった。

比奈子は叔母の晶子からラーメンを与えられ、庶民の家の狭さに愕然とする。

血の近い順子に犯人でいてほしくない叔母はそれとなく甥の慎司の犯人説を口にする。

しかし、晶子の夫は・・・父親側の親戚にとって母親が犯人だろうが・・・その子が犯人だろうが関係ないと断定するのだった。心配するのは殺人犯の身内であることが発覚することなのである。

比奈子はいたたまれない気持ちになった。

清修学院高等部では教師やカウンセラーが腫れものに触るように彩花に接する。

被害者の家族であれば残留できるが加害者の家族になれば追い出される空気が充満するのである。

比奈子の友人である歩美を演じる荒井萌も関わりたくない感じを精一杯醸し出すのだった。

慎司への思いを秘めた彩花はマスコミの殺到する家へと向かう比奈子を発見する。

「よしなよ・・・あんなところで袋叩きになるのは」

「ほっといて・・・」

(怖い・・・家庭内暴力の・・・凶悪な中学生・・・昔は可愛がってあげたのに・・・やはり坂の下は獣の棲む世界)

(そうなのね・・・そんなにお高くとまるのね・・・自分の立場がわかってないのね)

「知りたくないの・・・昨日何があったのか・・・」

「何か・・・知ってるの」

「行きましょう」

「どこへ」

「坂の下に・・・一緒に坂を下りましょう」

暗い坂の下の地獄のようなカラオケ・ルームに連れ込まれる比奈子。

(こわい・・・)

(高校生のくせに中学生におびえているなんて・・・なんなの)

「私をからかってるだけなんでしょう」

「それが人からものを聞く態度・・・お嬢様・・・でもあなたの家は大変なんだから・・・私が大人になるしかないわね」

「・・・」

「昨日の夜、慎司とあんたたちの母親が大声あげて喧嘩していたのよ」

「嘘・・・」

「嘘じゃないわ・・・私の母親に聞いてみたっていいよ・・・一緒に聞いたから」

「じゃ・・・どうして・・・止めてくれなかったの」

「あのさ・・・私の家にあんたの家の誰か止めにきてくれた・・・?」

「・・・」

「そういうことでしょ・・・」

「私・・・帰る」

「せっかくだから記念写真撮ろうよ・・・もしも制服を着れなくなったら・・・メールしてあげるわ」

それが復讐であるとも気付かずに不気味さのあまり思わず中学生の彩花を突き飛ばす高校生の比奈子だった。

「ひどいよね・・・そうやって私を馬鹿にしてるんでしよ・・・慎司と二人で見下して・・・」

「見下してなんて・・・それはあなたの僻みでしょう・・・」

「僻み・・・って、あんた・・・もうこっちの人間じゃないの・・・私・・・帰るね・・・元気を出してくださいなっと」

「・・・」

彩花の棲むこの世の地獄に引きずり込まれた比奈子は唯一の希望である兄の棲む京都へと縋るように向かうのだった。

同類を憐れむ気持ちと復讐を果たした気持ちを胸に帰宅した彩花。

比奈子に会ったことを彩子から聞いた真弓は頬を薔薇色に染める。

「元気だった・・・比奈子ちゃん・・・」

彩花は記念写真を見せる。

「なんてことをするの・・・比奈子ちゃんは今、すごく大変な時なのに・・・こんなことをするなんて・・・」

彩花は母親の愚鈍さに幾度目かの絶望を感じる。今、地雷を踏んでるよ。お母さん。私のすごく大変な時に入れなかった中学の制服を着た記念撮影を楽しい旅先から送ってきたのは誰だったのかなあ・・・。

「比奈子ちゃんは家族がバラバラになりそうなのよ・・・こんなひどいことをするなんて・・・」とさらに声を荒げる真弓。彩花の堪忍袋は破裂しました。

激昂して瓶を投げつける彩花。

「何言ってんだ・・・自分の家族がバラバラじゃないか・・・他人の家の心配している場合かよ・・・あんたの目はひばりヶ丘しか見えてないのかよ。そんなに外面よくしてどうするつもりだ・・・本気でこの街の一員になれるとでも思ってんのか・・・このくそ婆」

怯えて我を失う真弓だった。彩花は正解しか語っていないのだが、それを理解する能力は真弓にはなかったのである。

玄関では室内の気配に気がついた啓介がマイカーというシェルターに避難していた。

娘の正しさを受け止めることもできず、妻の誤りを正すこともできない男なのである。

そして・・・啓介は秘密を抱えていた。

娘は夜の街に飛び出した。

母親は父親を発見した。

「あなた・・・なにしてるの・・・」

「別に・・・」

啓介は車に何かを隠していた。

「借金ってどういうこと」

「そんなのしてないよ」

「警察がそんないい加減なこといわないでしょ」

「独立資金として一千万円・・・」

「独立って・・・」

「しないよ・・・でも高橋さんが熱心に勧めてくれるんで借りただけさ・・・銀行にそのままにしてあるし・・・折を見て返すつもりだ・・・」

「・・・」

「どうして・・・順子さんと一緒にいたの」

「なに・・・いつのことだ・・・」

「喫茶店に・・・」

「知らないな・・・俺は客と打ち合わせしてたんだ・・・たまたまじゃないのか・・・順子さんがいたなんて全然気がつかなかった・・・」

「あなたがあの事件現場にいたって小島夫人(夏木マリ)が・・・」

「何言ってんだ・・・いたのは小島の婆さんだよ」

もう、啓介の話は真偽のほどが不明すぎるのだった。

小島夫人は・・・ひょっとすると・・・異物である遠藤家を追いだすために・・・遠藤家犯人説の捏造をする気満々なのかもしれないのだった。

その頃・・・街を彷徨った彩花は土手の上に慎司を発見する。

「慎司」

慎司を見上げるその目には清々しさが浮かんでいる。

(やっと・・・対等になれた・・・ただの男と女に)

慎司は途方に暮れていぶかしげに彩花を見下ろす。

その脳裏には狂ったように成績表を切り裂く母親の姿が焼き付いている。

夜の家で夜の街に出て行った中学生の娘を捜しに出ようともせず真弓は鈍感な視線を彷徨わせる。

(私は何一つ悪くないのに・・・どうしてこうなってしまったの)

昇る夜行観覧車のゴンドラはまだ頂上には届かない。

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R001 CLUB Rico開催中まこちゃんランド・スピーク・イージー。

まここんなところで秘密の集会が・・・

くうやっぱり・・・

シャブリ来週も出番は確保されているようで・・・ホッとしたのでした~

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2013年2月 8日 (金)

妹(平田薫)に面倒くさい女と言われてごんぼほる(だだをこねる)女(真木よう子)

面倒の意味が面倒くさいのだが、ストレートに考えれば顔面を倒すことである。

つまり、お辞儀である。

頭を下げることの意味は東洋人なら基本的に、感謝や陳謝、屈服、降伏、恭順などの態度を示すことである。

どうか、お気のすむまで頭ぶんなぐってくださいという気持ちを顕わにしているわけだ。

それが転じて、あやまりたくないのにあやまる。礼儀正しくしたくないのにしている場合に・・・面倒(おじぎ)を厭う気持ちが生じる。その気持ちが面倒そのものになってしまったのである。

なにしろ、面倒となれば面目を失うことになるのである。

つまり、面倒くさいということは感謝したくないのに感謝したり、謝罪する気もないのに謝罪するのが嫌だという気持ちの表現なのである。

面倒くさいでしょう。

この気持ちが高じると会釈すら面倒くさくなり、挨拶を返すのも億劫になります。

散歩していたり、乗り物に乗っていたり、買い物していたりすると時々、他人の子供が駄々をこねている場面に遭遇する。

もちろん、他人の子供のすることなので笑ってすませればいいのだが、時々、泣きわめく子供を恫喝したり、ぶんなぐったり、蹴り飛ばしたりしたい衝動にかられることがある。人前で感情を露わにすることなど面倒を心得ぬことだからだ。そういう面倒に縛られない自由な子供に嫉妬し、義憤にかられるからである。

もちろん、駄々をこねる子供を放置していた保護者は蒼白になって抗議してくるだろうから、それも場合によっては半殺しにしてもいい。しかし、そうなれば誰かが警察に通報したりするだろうから、警察官とも大立ち回りを演じなければならない。場合によっては殺すか殺されるかの事態になるだろう。

逮捕でもされたら「面倒をおかけします」と面倒をしなければならないのである。

それはあまりにも面倒くさいので耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ばねばならない。

生きて行くのは面倒くさいことだなあ。

で、『最高の離婚・第5回』(フジテレビ20130207PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。元夫の濱崎光生(瑛太)のコートを着て外出した元妻の星野結夏(尾野真千子)は擬似妻の紺野灯里(真木よう子)と擬似夫の上原諒(綾野剛)の婚姻届を発見してしまい、居合わせた擬似妻との気まずい空気をごまかすためにカラオケに誘い、その後で大学生に誘惑される。そこほ擬似夫と合流した元夫がやってきて、元妻への嫉妬に燃えた元夫は大学生と対決しようとして転倒、肋骨を骨折したのだった。

普通の人になれないのには二つの方向性がある。頑張っても普通のことができない方向と、普通であることを拒否している方向である。後者は人とは違うことをやって世界一を目指したり、人のしないことをして刑務所に入ったりする場合があるのだが、前者はかわいそうな人なのである。元夫は明らかに前者であるために・・・ものすごく面倒くさいけれど駄目なところが可愛いのである。

だから・・・元妻はその可愛さに免じて・・・男の面倒くさいところに構ってきたのだった。

しかし、介護によって蓄積した疲労に耐えかねてついに離婚に踏み切ったのである。

だが・・・基本的に元夫の世話をやきたい気持ちは残っていて自分をもてあますのだった。

けれど、知り合ったばかりの清掃員のアルバイト・初島淳之介(窪田正孝)に元夫の悪口を言い募っている時に「他の男の話なんて聞きたくない」などと甘えられるとウキウキしてくるのだった。

どうして、人は嫉妬されるとなんだかうれしい面倒な気持ちを持つのでしょうか。

一方で入院した元夫を見舞ったり、元夫の前で他の男と食事をしたりして、元夫の心をくすぐる歯科衛生士・海野菜那(芹那)が現れると元妻とやりなおしたいとか、昔の同棲相手である擬似妻への未練があるとかなどという面倒を忘れてニヤニヤとデートの約束をしてしまう元夫だった。なにしろ・・・面倒を面倒と思えない男なのである。

元夫は性欲だけは人並みなのである。

しかし、擬似夫の性欲は人並み外れている。しかも性の狩人なのである。だが・・・その生い立ち・・・どうしてそうなってしまったのか・・・擬似妻の他に第2の女・有村千尋(小野ゆり子)、第3の女・光永詩織(大谷英子)、第4の女・日野明希(遊井亮子)と同時並行テトリス三昧をしながら・・・自分をつまらない男と自嘲するに至る物語はまだ秘密なのである。

なんと・・・すでに過去は明らかになったと思われた擬似妻には裏の顔が隠されていたのだった。

元夫の素敵な思い出が「死ねばいい」という思いに炎上したように・・・浮気がちな擬似夫を愛しているから許しまくる緩い女も表の顔だったのだった。その菩薩な顔の裏には嫉妬に燃えあがる夜叉が潜んでいたのである。ある意味、自他共に物凄く面倒くさい女なのだった。

しかし・・・人間というものはある程度、面倒くさいことにも折り合いをつけて生きて行くものなのである。

そういう人生を生きて来た元夫の祖母・濱崎亜以子(八千草薫)の提案で熱海温泉に夫婦でないのにダブル夫婦旅行に出かけた濱崎・星野・上原・紺野の四氏であった。

じっくりつかった温泉で心身ともにリフレッシュした四人、秘宝館にてクジラの性器、四十八手フィギュア、おお歌麿呂な浮世絵コーナー、おサスリ弁天、ラブラブサイクリングでしっとり濡れて、数の子天井ほいさっさ、「ごめんなさい」と過去を詫びる擬似夫にほだされて燃えあがる熱海の夜を満喫した擬似妻。

元夫婦を保証人として、婚姻届提出の再チャレンジを目指すことに合意したのである。

しかし・・・めぐる因果か、血縁の切っても切れない腐れ縁。

突如、来襲して、姉のおしゃれな東京生活に妬み心が燃えあがる妹・実里(平田薫)に凶器と化した故郷訛りで心の暗部をえぐられて精神的鮮血ほとばしる擬似妻なのであった。

一方、秘められたままの過去と決別せんと、手切れ話の連打にて悪口雑言のりこえて、紅茶でやけどもなんのその、濡れたシャツも新調し、結婚指輪を購入して竜の顎に乗り込む擬似夫も風前の灯なのだった。

「私は父が好きでした。湊湊に女あり。けれどもいつかは必ず帰ってくる。そんな父が好きでした。しかし、母には地獄の苦しみ。他の女を抱きまくり、他の女の匂いをふりまき、他の女の影に身もだえて眠れぬ夜を泣き暮らす。そんなみじめな母が嫌いでした。父のことは嫌いになれなかったのです。だけんじょ、あだじの半分さおっ母の血は流れでんだべ。あんだの帰らね夜さ枕さ涙で濡れちょびれ、こんつけて(いじけて)まいね(駄目)女になっじまうんだ。お父を恨んで怨んで生きたおっ母のようにあんださ怨んで生きる女になっぢまう・・・だはんで、あんだと結婚できね・・・あんな女になりだぐね・・・へば、触んねで」

擬似夫は自分が苦しめた女に泣いた。そしてそんな自分自身に泣いた。

そして耐えきれずに家を出る。

しかし・・・ここが辛抱の時かもしれぬと足を止める。

そこにかかるは第四の女の誘いの電話。

「紅茶熱かった?・・・火傷してない?・・・今晩逢える?」

「・・・今、どこにいるの」

全国の家計が苦しい皆さま絶叫、値段もわからぬ指輪は投げられたのだ。

擬似夫の秘密、今夜も据え置き・・・まあ、最後に残った秘密だもんねえ。

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2013年2月 7日 (木)

冬の大三角という疑似家族と冬のダイヤモンドという本当の家族について(川口春奈)

スターの中のスターといえば太陽である。

もちろん、銀河の中で太陽はちっぽけな恒星にすぎない。

しかし、地球という太陽系第三惑星の住人である人類にとっては最も近い恒星であり、その見かけ上の大きさは天空中最大であり、その輝きは他の星々を圧倒する。

その太陽が地平線に落ちると漸く星々が姿を見せる。地球の衛星であり、昼でも太陽の反射で肉眼で視ることのできる月や太陽系のその他の惑星を別にすれば・・・最も明るい星といえばおおいぬ座のシリウスである。

大犬の青き瞳シリウスを一つの頂点として、大犬の先駆けとされるこいぬ座プロキオンと女神によって放たれたさそりに刺されて致命傷の赤き血の星オリオン座べテルギウスを結ぶことで冬の大三角が形成される。

これがドラマにおける三人の登場人物を暗示しているわけである。

主人公の汐はシリウス、その片思いの相手がプロキオン、そして、いつ超新星爆発を起こしてもおかしくないペテルギウスが宇宙人である。

ちなみに太陽を除き九番目に明るい恒星であるペテルギウスは地球からの距離は640光年、太陽の20倍の質量を持つ赤色超巨星で変光星でもある。英語ではビートルジュースとも発音され、和名は平家星だ。

プロキオンからはふたご座ボルックス、ぎょしゃ座カペラが結ばれ、これは主人公の片思いの相手の妻子を示している。

シリウスには狩人の足であるオリオン座リゲルが結ばれ、獲物の心臓であるおうし座アルデバランにつながっている。汐の弟とその恋人である。

シリウス、プロキオン、ボルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルを結べばすべてが一等星の冬のダイヤモンドとなる。

ダイヤモンドを立体にするのがもう爆発しているかもしれないベテルギウスであることは言うまでもない。

ベテルギウスが今夜、爆発してもその光が届くのは640年後である。

ちなみにアルデバランはプレアデス星団(昴)を追う星でもある。そういう意味では不特定多数の相手とキスをする弟の恋人の暗喩にもなっている。

で、『シェアハウスの恋人・第4回』(日本テレビ20130206PM10~)脚本・水橋文美江、山岡真介、演出・中島悟を見た。前回はおおいぬ座を構成する星であるアルドラ(乙女)がシリウスの職場の同僚である望月メグ(木南晴夏)として活躍したのだが・・・今回は出番なしである。このドラマでは二等星扱いらしい。変わって火星人の孫である福井大(鈴木福)がゲスト子役として登場する。ボルックスがふたご座である以上、兄弟であるカストルがこれにあたる。そのために福井大は櫻井雪哉(谷原章介)と擬似父子関係を醸し出すわけである。

タイトルバックの光景は路上に座り込み途方にくれた津山汐(水川あさみ)からスタートする。これに異星人である川木辰平(大泉洋)が加わり、雪哉を呼びとめる。汐の弟の凪(中島裕翔)が恋人の錦野カオル(川口春奈)を連れてやってきて通行人を無視した青空一家団欒が完成するのである。彼らが底辺の人々であることは間違いないだろう。

まあ、自由っていうものは失うものがなにもないことだとジャニスが歌っているから、これはこれである程度幸せな場面なのかもしれない。キッドは寒そうだなとしか思わないが。

前回、名もなき男友達(吉沢亮)とキスをして、そのまま退場しかねないカオルだったが、キャスティング的にありえないために・・・さやあてのキスというキャラクターとしてはギリギリの展開で残留するわけである。書店員カオルなら、津山凪はかわいいフライパンで殴られてもおかしくないほどうざいキャラ設定なのだが・・・処女の老いた雌犬がヒロインであるこのドラマでは・・・そういうレトロな唐変木(偏屈で気の利かない人のこと)も存在を許されるのだろう。なにしろ・・・恋愛偏差値的にも底辺の話なのである。

無理矢理あて馬にされて、「俺の女に手を出すな」と言われる名もなき男友達には迷惑な話で・・・彼にとって凪は「うざい」というよりは「意味がわからない」レベルに違いない。まあ、キスだけでなく一夜を共にしていればそれはそれでやることやってるからいいかなのかもしれないのである。

「なんだよ・・・あんなところでキスさせておいて・・・それだけかよ」

「うーん・・・」

「ほら・・・もう、こんなになってるんだぜ」

「あらら」

「これはなんとかしてもらわないとねえ」

「しょうがないなあ・・・もう」

「しょうがないじゃすまないだろ・・・そっちだって・・・ほら」

「あ・・・」

「・・・」

「・・・」

「はあはあはあはあ」

「はあはあはあはあ」

「おりゃ・・・涅槃じゃ」

「あ~ん・・・極楽、極楽、極楽」

・・・いい加減にしておけよ。

まあ、とにかく実生活はおろかドラマ内でも肉体的恋愛禁止であるかのような帝国の方針を感じさせる童貞の弟がそんな感じなので処女の姉なんか片思いの相手が気まぐれで「いってきます」と言えば「いってらっしゃい」と応じてそれだけで擬似夫婦感覚が生じて天にも昇る気持ちになるらしい。

貸してもらったハンカチを洗たくしてアイロンかけて返したくても返せないもどかしさなのだった。

しかし、雪哉のものと思っているハンカチは実は宇宙人のものだったのである。

遠い宇宙の彼方で滅びた故郷の星を後にして放浪していた「彼」は汐の孤独を感知してそれを慰めるために人間化している存在なのだ。

もちろん、「彼」自身が孤独なので最終目的は汐との融合にあるのだが、そのためには片思いのように見えるプロセスを経由しなければならない宇宙人なりのルールがあるのだろう。

おそらく、最終回ではゲル状に実体化した辰平が汐を抱擁し溶解させ一体化するものと思われる・・・断じてそれだけはないと思うぞ・・・ええええええええええっ、そうなの?

火星人(もたいまさこ)から1/4火星人の孫・大の面倒を押しつけられた辰平。

武力侵略征服万歳童話「ももたろう」の勝者ももたろうを学芸会で演ずるという大を疑似家族一同はもてはやすのだった。

しかし、実際は・・・大の役どころは占領軍司令官ももたろうではなく、重戦車部隊のいぬでも、偵察・空爆部隊のきじでも、略奪暴行専門の歩兵部隊さるでもなく、あわれな戦争の犠牲者・敗戦国民のおにの三等階級(下層民)なのであった。軍事的にも底辺なのである。

妻・櫻井真希(須藤理彩)に詰られ子・空知(君野夢真)を含めたすべてを捨てて出奔した雪哉は「ゲリラ戦で徹底抗戦」ではなく「立派に玉砕」することを大に指導するのだった。

つまり「底辺には底辺の生き方がある」ということなのであろう。

ご褒美として辰平とのプラネタリウムでデートをゲットした雪哉。

満点の星空の下で恋人気分を満喫しようとするが、星座の中にすでに滅んだ故郷の主星を見出した辰平は涙にくれる。

仕方なく、雪哉は堕落する前に得た教養で18世紀、ドイツのヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテにより書かれた教養小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の第二巻第十三章の一節、「涙とともにパンを食べた者でなければ人生の味は分からない」を引用して慰めの言葉に代えるのだった。

ちなみにヴィルヘルムは貴族の息子で役者を目指して放浪したり女に溺れたり宗教に目覚めたり幼女を養女にして可愛がったりします。

涙の味のするパンの他には「ベッドで一晩泣き続け夜明けを迎えたものでなければ神の恩寵を受けることはできない」などともつぶやいています。

悩み多きものは「ゲーテってすげえ」と応ずる他はありません。

もちろん、本人は苦悩の果てに悪魔に地獄に引きずり込まれ光を求めて死んでいくわけですが。

とにかく、汐がハンバーグから肉詰めピーマンに進化した頃・・・ついに夫を精神的に殺した妻が来襲してきたのだった。

汐は雪哉を再生して、息子の処に送り届けるという夢想を抱いているが、その中には妻の存在は含まれない。

つまり、汐はお腹を痛めないで息子とその父親を得ようとしている夢見がちな乙女なのである。

その幻想を粉砕すべくあらわれた恐ろしい妻がどのような言動を展開するかは次週のお楽しみです。まあ・・・それを楽しめる人がいるかどうかは別として。

年下の男の子と共作する脚本家の脳内に悪いものが湧きだしている傾向が伺えますな。

しかし、それはそれで妄想的には面白いのですな。

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2013年2月 6日 (水)

フライパン殺人事件に国家権力が介入したら宝くじで2億円が当たったことがバレるのです(戸田恵梨香)

書店員ミチルの父親は・・・ミチルの婚約者がミチルの長めの夏休みを終わらせることに期待した。しかし、終ったのは夏休みではなく彼だったのである。

ミチルは平凡な女だと言うが・・・相当に依存心が強いくせに頑固な一面を見せるという・・・かなり厄介な女である。

ヒロシマはよしだたくろうを生み、ナガサキはさだまさしを生んだ。フクシマが誰かを生むのは確実だが・・・ナガサキはミチルも産んだのだった。

しかし、ミチルを責めるのは酷なのである。

宝くじ高額当選者という重荷を背負った上に、自分の部屋でなんとなくうとましい男がちょっとした女友達に殺されちゃったのである。

もう、どうしていいのかわからないのが普通だ・・・そうなのか。

まあ・・・「嫌なこと」を人にまかせたらそのうち「とんでもないこと」になるよという警句なのである。

だが・・・人々はつい専門家という他人に頼りたがるのだな。

殺人をゴルゴ13に頼んだり、耳掃除を恋人に頼んだりする。

どちらもそれなりのリスクがあることにご注意ください。

で、『書店員ミチルの身の上話・第5回』(NHK総合201302052255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。ここまで不完全で自堕落な女ミチルを完璧なまでに緻密に描いているこのドラマ。実によどみないのである。だからミチルのだらしなさが、無責任さが、自分勝手な恐怖や不安が・・・脈打って・・・ミチル、かわいいよ、ミチルに終始するのである。戸田恵梨香の魅力炸裂なのだった。

「久太郎(柄本佑)が突然やってきたんです。私の中ではすっかり昔の男になっていた生れ故郷・長崎のしがない時計屋の息子です。私のことが好きだって言うのですが、一緒に寝てもファミレスでハンバーグを食べるほどの味気ない思いが残るばかり。自分がおかわり自由のコーヒーになったようなみじめな気分を感じさせる男なのです。それでもかっての私には私のような女にとってはそんな男がお似合いなのかもしれないという気分がありました。いざとなったらこいつでもいいやみたいな。しかし、私は昔の私ではありません。みつば銀行に2億円預金している女なのです。しかも、妻のある東京の男・一樹さん(新井浩文)に田舎に埋もれさせておくのは勿体ない宝石のような人と言われたほどの女なのです。私の秘密の部屋に突然、おしかけてきて長崎に帰ろうとか言われても困惑するばかりの私でした。私が気になったのはどうして久太郎がこの部屋のことを知ったのだろう・・・そればかりなのでした。ところが久太郎は肝心のことにはなかなか答えません。私の魚臭い父親(平田満)が心配しているとか、自分のどこが悪かったのかとかどうでもいいことを話し続けるのです。久太郎にいいも悪いもありません。私にとっては何もないから食べるカップラーメンのようなものなのです。探偵でも雇ったのかしら・・・それとも犬のように嗅ぎつけたのかしら・・・私には久太郎がこの部屋にたどりついた方法がちっとも思い浮かばないのです。すると久太郎は幼馴染の竹井(高良健吾)の後輩の恵利香(寺島咲)が引っ越し祝いにプレゼントしてくれたクリスタルの果物鉢を灰皿代わりに使いながら煙草を吸って言うのです。一樹さんからこの部屋のことを聞きだしたというのです。一樹さんのことを教えたのはタテブー(濱田マリ)だというのです。確かにタテブーも一樹さんに憧れているようでしたからありえないことではありません。でも、あしたまなあーなって言っちゃいそうなタテブーを一樹さんが抱いている姿はあまり想像できませんでした。おえって感じです。久太郎は一樹さんがほんの遊びで私と付き合っているのに東京に引っ越したりして迷惑している風なことまで言うのです。私はまさか、久太郎が一樹さんの家に乗り込んで一樹さんをぶんなぐって私の居場所を白状させたとは思いませんでしたが、勝手な思い込みで私と一樹さんの愛を踏みにじるような久太郎の口調に腹が立ちました。その上、久太郎はさもそれが正しいような口ぶりで私を長崎に連れ戻そうとするのです。一緒に帰ろう・・・一緒に帰ろうって・・・私は久太郎は乱暴なことはしない男だと見くびっていたのですが・・・息を荒げて私に迫ってくる久太郎を初めて恐ろしいと思ったのです。帰ってどうなると言うのでしょう。そこには退屈で空虚な長崎の生活が待っているだけなのです。私はたまらなく嫌な気持ちになりました。その時、ガンと音がしてドサッと何かが倒れました。何かの足しになるだろうと一緒にいてもらった恵利香が可愛いフライパンを持って立っていました。どうやら可愛いフライパンで久太郎を一撃したようです。私はフライパンがへこんだりしなかったか・・・それが心配になりました。ふと気がつくと久太郎が倒れています。久太郎はクリスタルの器で頭を打ったのでしょう。その頭からはドクドクと血が流れています。せっかくの新居が血で汚れてしまうと思ったと同時に大変なことがおこったような気持ちも感じました。後頭部を損傷した久太郎は脳が破壊されてビクビク痙攣したかと思うとまるで死んだように静かになったのです。こういう時はどうするんだっけと思いました。ああ、救急車を呼ぶんだっけ。でも私は生れてから一度も救急車なんか読んだことはありません。そういうことは億劫です。私は億劫なことは面倒くさく感じる性質で面倒くさいことは嫌なのです。だから、誰か救急車を呼んでくれたらいいのになあと思いました。フライパンを握りしめて震えている恵利香がそうするべきだとも思いました。だって当事者なんですもの。そこへ竹井がやってきました。東京では部屋にいる時にも鍵をかけなきゃだめだよと優しい声で言う竹井ですが、私だってそのくらいのことは分かります。私はようやく用事を頼める家来が来たことにホッとして救急車を呼んでほしいと言いました。ところが竹井は死んだ人間を病院に運んでも仕方ないと言い出すのです。わたしは久太郎が死んだことよりも竹井が私に逆らったことがショックでした。それなら警察に通報させようとすると竹井はそれもだめだと言います。そんなことをしたら私にとってよくないことになると言うのです。私には意味がわかりません。確かに私の部屋で人が死んでいるけれど殺されたのは久太郎で、殺したのは恵利香です。私には何の関係もないではないですか。しかし、竹井は私の心を読んだように言うのです。警察というのは何もかも調べる。久太郎のことも。久太郎が何しに来たのか。部屋を教えたのは誰か。部屋の中に何があったのか。部屋の持ち主のかばんに何が入っているか。かばんの中には2億円の貯金通帳が入っています。高額当選者の手引きには当選したことは秘密にするべきだと書かれていました。テレビや新聞や雑誌があることないことを書きだすとひょっとしたら秘密がバレてしまうかもしれません。私は初めて恐怖を感じました。久太郎が死んだことよりも宝くじに当選したことがバレることの方がこわいことなのです。とてもとてもこわいことなのです。私は困ったことになったことが理解できたのです。すると竹井はすべてなかったことにしようと言い出すのです。久太郎が来なかったことにすれば・・・久太郎がこの部屋で死ぬことはなかった。確かにそうすれば警察に何も言う必要はありません。宝くじに当選したことがみんなにバレずにすむことになります。でもそんなことができるでしょうか。しかし、恵利香は早速、久太郎の死体に靴を履かせました。まるで人殺しのような眼つきをして果物鉢と灰皿の区別のつかないような男は死んでもしょうがないなどとつぶやいています。それから竹井と恵利香は部屋を掃除してくれました。竹井は久太郎の死体はどこかに捨ててしまえばいいのだと言いながら久太郎の携帯電話でなにやらメールを打っています。お茶の間の人は指紋が指紋がとざわついているでしょうが私には思いもよらないことでした。私が学習教室の車で運ぶのかと聞くと・・・恵利香が竹井が今、働いているのは料理関係の仕事だと言うのです。竹井は竹井のことに興味のない私について自嘲してから・・・これからは自分に頼るしかないのだと私に言いました。その時、私は竹井の中に何か太くてたくましいものが眠っていることに気がついたのです・・・女の子だったような竹井が男の部分を隠しているようなのです。・・・そのためでしょうか・・・私はこれから先何か恐ろしい事が待っているのではないかと心が震えるのでした」

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2013年2月 5日 (火)

それは雪の日のアイスクリームと同じ・・・おれたちには見られない(剛力彩芽)

心象スケッチ「春と修羅」(初版)には「小岩井農場」と「無声慟哭」に「アイスクリーム」が登場する。

嘆きの天使である宮沢賢治は愛しの妹である宮沢トシのために牛乳、卵、塩を用意して病院の製氷機を使い、「重湯の代わり」としてアイスクリームを作らせたという。

妹萌えの賢治にとって当時は高価だったアイスクリームを与えることはせつない喜びだったことだろう。

こたつで食べる氷菓の贅沢さ・・・それが庶民に普及することを明治生れの賢治は予見していたようである。

質屋の息子に生まれた賢治は「金銭」の有り難さと禍々しさを「生命」のはかなさと美しさと同様に見極めている。

「雪」と「アイスクリーム」はその象徴と言えるだろう。

宮沢賢治は死者行方不明者二万人超の明治三陸地震の直後に生れ、死者行方不明者三千人超の昭和三陸地震の直後に死去した。享年37。地震と津波は忘れた頃にやってくるのである。

奇妙な符号というものは一種の偶然である。

ドラマに登場するスケッチに描かれた鶴岡八幡宮の大銀杏の倒壊は2010年の3月10日で、そのほぼ一年後の2011年3月11日に東日本大震災が発生する。

そういう偶然に神木の告げる予兆を読みとることができるかどうか・・・悪魔にはあずかり知らぬことである。

だが、宮沢賢治の死後・・・生前には経済の対象とならなかった著書が高額取引されることはなんとなく邪推できる。

まあ、ダ・ヴィンチのノートをビル・ゲイツがおよそ24億円で買ったようには・・・宮沢賢治の自筆手入れ本が発見されたとしても・・・それほどの高額にはならないように思う。

しかし・・・一部愛好家は一億円だしても惜しくないと思うかもしれません。結局、日本語文化圏の相場の問題だからな。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第4回』(フジテレビ20130204PM9~)原作・三上延、脚本・岡田道尚、演出・宮木正悟を見た。フジテレビヤングシナリオ大賞出身作家の起用である。無難にまとめあげたと考える。ただし、ドラマとしてはやや弱い部分もある。なにしろ・・・姉妹の確執が説明不足なのである。姉・小百合(峯村リエ)と妹・聡子(森口瑤子)の存在感だけで押し切っているよね。もう一点、原作と違いすぎるキャスティングでなにかと物議を醸している栞子(剛力彩芽)の所作の問題である。これはクレジットのタイトル・バックで本を散乱させてしまった演出とも関係するが・・・栞子が書物を持ち上げて置く時の「バサッ」という感じである。この物語の根本的なテーマである「書物を愛する人々の物語」が完全否定されているような気がいたします。もちろん・・・かよわい女の子が重たい本の重量に耐えかねるということはあると思うが・・・一生懸命、ゆっくりと丁寧に扱おうとする震えを演技プランに加えるべきですな。

どうやらレギュラーらしいスピン泥棒の小菅奈緒(水野絵梨奈)がせどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)の遺体を発見するが・・・単なる二日酔いによる転倒で、しかも生きていた。

だが・・・志田は酔った勢いで高価な古書を安価で売り払ってしまったらしい。

その転売先を捜索する旅が始る。相棒は志田の友人である笠井菊哉(田中圭)である。

一方、栞子と五浦大輔(AKIRA)は宅買いに赴いた出張先で玉岡聡子(森口瑤子)から奇妙な依頼を受ける。

他界したばかりの父親の蔵書の中でも特別な一冊である「詩集・春と修羅/宮沢賢治」(初版本)が紛失した真相を突き止めてほしいというものだった。

Harutosyura183 ドラマでは表面的にしか描かれないが聡子には父親との確執もあり、遺産である屋敷を売り、蔵書を売るのもその事と無関係ではない。聡子は父親の裏切り行為に憤慨しているのである。

それはある意味、自分が一番父親に愛されているべきであるという病的なまでの欲求に基づいている。

そのために・・・「紛失した春と修羅」が自分以外の父親の子供である兄の一郎(大河内浩)か、姉の小百合に盗まれたと盲信し、捜査を依頼したのだった。

しかし、兄は「春と修羅」の「無声慟哭」の「永決の朝」の一節を暗唱しあったほど次女の聡子とは仲が良かったと言い犯人は長女の小百合だと決めつける。

ここで・・・一郎と小百合の確執も窺がわれる。というよりも・・・父親の会社の経営を後継した一郎と小百合の確執である。同時に・・・一郎は聡子に対してはある種の愛情を持っていることが暗示されている。つまり、美貌の妹と美貌ではない妹における差別の問題なのである。小百合が父親の愛した小説や詩を聡子ほどには愛さなかったのもそこに原点があると勘ぐれるのである。

とにかく・・・ドラマでは・・・「盗まれた本」の価値は様々に変わっていく。栞子は最初は「100万円」と値をつけるが・・・それが世界に一冊しかない希少価値を持つと気が付き顔色が変わるのである。

やがて・・・真犯人である小百合の息子・昴(今井悠貴)が登場することで聡子の父親への異常な愛情が明らかになっていくわけである。

なぞの解明の過程はかなり複雑で・・・そちらを追いかけるのが中心となり・・・この聡子の異常さがちょっと分かりにくい構成になっている。

志田が「金メダル」「星のマークのスタンプ」「モモンガ」の謎を解いて本を売りつけた相手が聡子であると判明。

売りつけた本の中に直木賞受賞作「錯乱/池波正太郎」があり、その夜以後にしか存在しない書物の存在を昴が知っていたことが判明。

母親とは違い、祖父と同じように書物を愛した昴が「祖父の蔵書が売却される」と知って「春と修羅」を盗み出したことが判明。

昴は「春と修羅」の「昴」に特殊な思いを抱いていた。

あてにするものはみなあてにならない

ただもろもろの徳ばかりこの巨きな旅の資糧で

そしてそれらもろもろの徳性は

善逝(スガタ)から来て善逝(スガタ)に至る

善逝とは梵語スガタの漢訳で、智慧の力で煩悩を断ち、悟りの境地に達した仏の意である。

昴は「いじめ」に悩んでいたが「涅槃にいたればそんな苦しみもなくなる」という境地を感じ取ったらしい。限りなく自殺の勧めに近いので注意が必要である。

栞のあくなき探究心は・・・「春と修羅」の発見・回収ではネバー・エンディングだった。

なぜなら・・・その本には秘密があり、秘密を解明した暁には昴に贈与されることになっていたトロフィーだったからである。

しかし・・・憎むべき姉の子供に秘密の「春と修羅」が与えられることを憎悪した聡子は昴に偽物のトロフィーである「昴の生れた年に描かれたという曰だけれど本当は最近描かれた鶴岡八幡宮のスケッチ」を与えていたのである。

それは宮沢賢治が愛読した「レ・ミゼラブル/ビクトル・ユゴー」に登場する落ち武者狩りの小悪党・テナルディ軍曹とあだ名されるのにふさわしい悪行三昧だった。

「なぜ・・・そんなことをしたんです」

「決まってるでしょう・・・お父様に一番愛されるべきは私なのよ・・・お父様の蔵書の中で一番価値がある・・・なにしろ・・・この世で一冊しかない賢治自筆の手入れ本なんだから・・・。それは私が贈られるべきもの。それを甥っ子なんかに渡せるものですか」

「それで・・・お父様は喜ぶでしょうか・・・お父様は・・・愛する娘と愛する孫に仲良くしてもらいたかったのでは・・・」

「そんなの無意味よ・・・私のものは私のもの・・・」

「それでは・・・あなたの亡き後はこの本を受け継ぐものがいなくなってしまいます」

「私が死んだ後のことなんか・・・私に何の関係があるの・・・さあ、早く返しなさい。その本の所有者は私なんだから」

栞子は唇をかみしめた。自分のことしか愛さないものに何を言っても無駄だからである。

どうかこれが天上のアイスクリームになって

おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに(初版)

・・・・・・・・・・・・・・

どうかこれが兜卒の天の食に変って

やがてはおまへとみんなとに

聖い資糧をもたらすことを(改訂後)

宮沢賢治が最初の言葉に手を入れるように・・・スガタは移ろいやすきものなのである。

こうして・・・「春と修羅の手入れ本」は再び、幻となったのだった。・・・おいっ。

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悪夢ちゃんと「雪渡り/宮沢賢治」

もう一度君に、プロポーズと蛙のゴム靴

坂の上の雲の子規と律

風のガーデンとカンパネルラ

Around40と注文の多い料理店

ROOKIESと永訣の朝

ホタルノヒカリと春と修羅

ファースト・キスと賢く勤勉な兄と病弱で健気な妹

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2013年2月 4日 (月)

はなれ瞽女おいち親思う心にまさる親心けふのおとずれ何ときくらん~掩ふべき袖の窄きをいかにせん行道しげる民の草ばに必殺剣(綾瀬はるか)

「掩ふべき袖の窄きをいかにせん行道しげる民の草ばに」(歓迎してくれる領民たちに相応しくない馬鹿殿は合わせる顔もなくはずかしくて顔を覆いたいのに袖は縮んでいる)・・・と詠んだ井伊直弼を吉田松陰は領民を慈しむ名君であると評した。

その吉田松陰を「老中間部詮勝暗殺計画」立案のテロリストとして井伊直弼は斬首に処した。

小塚原回向院に葬られた吉田松陰は「親思う心にまさる親心けふのおとずれ何ときくらん」(僕が愛するより深く愛してくれる父上母上ごめんなさい)と先立つ不孝を詠む。

親を思う忠臣が・・・民を思う名君が殺し合い・・・幕末維新の幕があがるのである。

歴史は血で塗られていくものだからだ。

で、『八重の桜・第5回』(NHK総合20130203PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は「身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」でおなじみの吉田松陰の描き下ろしイラスト大公開。首切り地蔵もご照覧あれ・・・でございます。死んだのは小伝馬町だ、最初に埋められたのは南千住だ、松陰神社は若林だ、いや故郷は萩だと・・・終焉の地をめぐって今日も虎視眈々と町おこしの嵐が吹きすさぶのですな。無慙でございますなあ。

Yaeden005 安政六年(1859年)、長州で獄中にあった吉田松陰は幕府の命により江戸に護送され、伝馬町牢屋敷にて再度の取り調べに対し幕政批判を供述。老中暗殺計画など危険思想を越えた発言で斬首となる。熱狂的な吉田信者の心に火がついて「尊王攘夷」「天誅」「知行合一」「愛国無罪」「陽明学万歳」などと「殺ろうと思えば殺れる」思想が花開き徳川幕府の太平の夢は崩れ去っていく。将軍継承問題で敗れ去った水戸藩では穏健派と過激派が抗争し、その結果、脱藩浪士が水戸藩にとっての最大の政敵である大老・井伊直弼の暗殺に踏み切る。安政七年(1860年)一月、日米修好通商条約の批准書を交換するため遣米使節団一行はアメリカ軍艦ポーハタン号と咸臨丸で日本を出発、渡米の途につく。勝海舟の乗艦する咸臨丸は二月にサンフランシスコに入港する。吉田松陰が夢にまで見た海外渡航の実現である。そして三月。大老襲撃が実行に移される。世に言う桜田門外の変である。薩摩藩士一名を含む水戸脱藩浪士は襲撃に成功し、譜代代表筆頭の大名を親藩の浪士が殺害するという幕藩体制の根底を揺るがす事態となる。これを受けて安政七年は万延元年へと改元となった。

軍事取調役兼大砲頭取の山本覚馬は会津藩の兵制改革を急ピッチで進めていた。改革には既得権益者の抵抗がつきものである。基本的に非成長安定を旨とする幕藩体制においては何事も世襲が基本である。他国(藩)の人材を登用することなどもっての他であった。覚馬自身が大抜擢の身の上である。その上で川崎尚之助なる但馬国出石藩出身の浪人の仕官を推挙するというのは思い上がりも甚だしいことだ・・・と思うものたちがいる。

その中にはもちろん、覚馬の出世を妬む暗い心がある。

そういう男たちは徒党を組むものである。

男たちは「実力主義」というものが理解できない。もちろん・・・無能だからである。

異国の言葉を解し、異国の武器を用いる覚馬そのものが魔性に見えるのである。

「山本覚馬斬るべし」はそういう者たちの酒の席でなんとなく口に昇る愚痴であった。

しかし、実際には藩主のおぼえめでたい山本覚馬を斬ることはできない。何よりも覚馬自身が武名高き武者である。

そのうちの一人が言った。

「下賤のものを斬るには・・・下賤のものがよい」

「何か思案があるのか・・・」

「人殺しのやくざ者がいる」

男が口にしたのは後に会津の小鉄と呼ばれる侠客だった。水戸藩子の落胤を自称する流れ者で最初は会津藩京都藩邸の中間となり、博打好きの不良藩士に気に入られ、嘉永年間には江戸藩邸に移り、博打で成した財で一家を構えている。

小鉄に命じて暗殺者を雇うというたくらみが・・・自堕落な男たちを熱中させた。

屑というのはどこにでもいるものなのである。

江戸から刺客が送り込まれてきて・・・男たちの屋敷に匿われる。安政六年の秋のことであった。

各地には食い詰めた浪人がそろそろと現れ始めていた。

小鉄自らが依頼者である上士の元へやってくる。人を殺めることに慣れたような冷徹な眼差し・・・と上士は怖気を感じる。

小鉄自身は小者の装束であり、伴ったのは三人の武士である。両刀をさすものでありながらどこかくずれた気配が漂う浪人たちだった。

三人はいずれも剣客だったが酒、女、博打で身を持ちくずしていた。

「江戸の蘭学塾で山本を見たことがある」というのは水戸藩の浪人だった。

帰宅時を狙い、水戸の浪人が覚馬を呼び出すという手筈が整った。

・・・夕暮れの会津若松城(鶴ヶ城)下街を一人の瞽女が渡っていく。名を盲御前おいちと言う。

三味線を弾きながら謡うのは「葛の葉」である。門付巡業をしながら、時にはオシラサマの神がかりを行うこともある。会津地方ではこの土着の家神を「シンメイサマ」と呼ぶ。土地土地で神の呼び名が変わることは常のことであった。瞽女は芸人であり、陰陽道的な宗教者なのである。

小鉄の母もまた瞽女であった。小鉄が単なるヤクザと異なるのはこの瞽女のネットワークと繋がりを持っていることである。

おいちは小鉄の身内のようなものであった。

おいちの役割は山本覚馬の帰路を尾行し、その帰宅を小鉄に知らせることである。盲目でありながらおいちは足音で人間を区別することができた。

小鉄に合図を送ると山本家に向かって三人の刺客が接近する。

おいちは心眼を開いた。音と匂いで目開きの見えないものを見ることができる・・・それがおいちの特技である。

家には三人の女がいた。帰宅した夫を迎えたのが妻であろう。炊事をするものが母であろう。もう一人はまだ幼い・・・妹か。屋敷の裏には下男と下女そして童がいるようだった。

やがて三人の刺客が案内を乞う声がする。

妻が夫を呼び出す。・・・刺客たちが殺気を露わにした。

その刹那・・・女たちが殺気に応えて殺気立ったことがおいちにわかった。

夫は無防備であった。男たちは抜刀した。しかし、次の瞬間には三人は討ち果たされている。

手裏剣と小太刀そして鉄砲。

おいちは刺客を一瞬で倒した女たちの獲物を感じ取った。

いずれも恐るべき使い手たちだった。

おいちはゆっくりと道をたどる。結果を待つ小鉄の前を通りすぎながら囁く。

「よしな・・・あのお家にさわるのは・・・命がいくつあっても足りやしねえよ」

唖然とする小鉄を残し、おいちは夜の闇に消えて行った。

夜も昼もない身の上である。

男たちの悪事は露見することもなく終った。

ただ名もなき三人の男が死んだだけだ。

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2013年2月 3日 (日)

神様の瞳に恋してる(長瀬智也)

マンガを越えたドラマなのである。

もうたまらないほど、好きになっちゃったのである。

所詮、レインボーかまぼこを選ぶ世界にはわかるまい。

そういう気持ちが痛いのである。

今は亡き渋谷ビデオスタジオの喫茶店ジュルビアンのエビピラフに再会したい気分である。

そして「泣くな、はらちゃん」から目が離せないのである。

で、『泣くな、はらちゃん・第3回』(日本テレビ20130202PM9~)脚本・岡田惠和、演出・狩山俊輔を見た。・・・面白れええええええっ・・・ていうかなんだこの気持ち。久しぶりにドラマを見てドキドキしちゃった。マンガとドラマを一度に楽しめるってアイディアでこれほどのものを見せられようとは・・・なんか、ぶっちぎりでトップな感じである。頂点を極めた感じである。もはや絶賛の言葉がありません。・・・どんだけ好きになっちゃったんだよ。

こちらの世界の人間にとって知的障害者か・・・ふざけているのか・・・二つに一つの「はらちゃん」(長瀬智也)的言動。それに戸惑う引っ込み思案の越前さん(麻生久美子)・・・。

「あなたはなんなんですか・・・」と問う越前さんは「はらちゃん」の正体を知りたいのである。それは興味があるから。それはちょっと好きになりかけているから。

しかし・・・「はらちゃん」の答えは「はらちゃんです」なのである。

もう、カッとなるしかないのである。

レインボーかまぼこを選んじゃう人の中にはそれがわからない人がいる可能性があるので言っておきたいのですな。

世界の五分の一が吹き飛ぶと、東アジア消滅するくらいなのだな。中国が新型爆弾の実験かなんかで蒸発して日本が奇跡的に巻き込まれなかったら・・・少しは寂しい気持ちになるかもしれないじゃないか。ああ・・・もう領海侵犯をしたりしてちょっかいかけるあの民族はいないのか・・・せいせいするけど、ちょっと懐かしい感じだよね。

そんな・・・「はらちゃん」が四人の登場人物を残してこちらにやってくる。

現実の世界では用心のために自家製「泣くな、はらちゃん」ノートと愛読するコミック「矢東薫子漫画全集」を携えて出勤する越前さんが・・・性悪な弟・ひろし(菅田将暉)によるひったくり犯に遭遇する。あわやというところで「はらちゃん」が二次元→三次元転移して越前さんのピンチを救うのである。

「はらちゃん」は当然のように越前さんにつきまとって「かまぼこコンクール」の説明会に出席するのだった。

ほぼ、矢東薫子本人であるらしいパートリーダー・矢口百合子(薬師丸ひろ子)の支援でふなまる水産玉田(光石研)の暗黙の了解を得、越前さんと職場に乗り込む「はらちゃん」・・・。

越前さんに好意を寄せる田中くん(丸山隆平)に片思いの悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)の敵愾心はメラメラと燃えあがるのだった。

かまぼこ量産対決に応じる越前さん。しかし、その闘志はたちまち燃え尽きる。

無暗にベストを尽くさないのが越前さんのポリシーだからである。

神様の神様であるらしい百合子は越前さんと語らう。

「越前さんの漫画ってさ・・・誰かに読んでもらいたくて描いてるんじゃなくて自分のために描いてるんでしょ?・・・そんな野心ないもんね越前さんには・・・別に それが悪いって言ってるわけじゃないよ・・・まぁ・・・ 褒めてもいないけど・・・矢東薫子のまねだよね・・・っていうか出て来るキャラは全部パクり」

「ずっとずっと友達でした。親友でした。恋人でした。いつもいつも読んでました。現実世界の人はあまり好きじゃないけど。私は・・・はらちゃんやマキヒロ、あっくん、笑いおじさんや ユキ姉がいたから生きて来れたんです」

「へえ~・・・」

「でもマンガが好きなわけじゃなくて・・・」

「だから・・・マンガ家にはならなかったと・・・」

「才能もないですし・・・」

「夢が叶ったって幸せとは限らないしね」

「・・・え」

「似てるよね・・・あの男の子とはらちゃん・・・」

「・・・」

「どうなるんだろうねえ・・・彼の片思いは・・・諦めるってことを知らないみたいだしねえ」

「はらちゃん」は田中くんが連れ出して亀やピラフな遭遇する。

そして越前さんに片思いしている田中くんに「越前さんに好きになってもらう方法」を問うのである。

「はらちゃん」をライバルとして認識できない田中くんは・・・。

「あなた好みの男になりたいというのは失敗する可能性が高い・・・けれど助けられると女の子は弱い」などと恋愛マニュアルの基本を教授するのだった。

早速、越前さんを助けることに全力を注ぐ「はらちゃん」・・・。

そんな「はらちゃん」を明らかに可愛いと思う越前さんだったが・・・困惑も高まるのだった。

「あなたは・・・誰なんですか・・・」

「はらちゃんです」

ああ、もどかしい。なぜか真相を見極めている百合子は「はらちゃん」と語らう。

「どうしたら・・・越前さんに好きになってもらえますか」

「越前さんに必要なのは恋じゃなくて・・・自分自身をもう少し好きになることかもね」

「そうなんですか」

「あの人・・・可愛いのに自己評価が異常に低いんだよね」

その時、越前さんの創作意欲・・・自己表現・・・鬱屈が臨界量に達し、ノートは開かれる。

消失する「はらちゃん」を受け入れるタダものではない百合子だった。

「恋なんて・・・ありえない・・・大体、私は私が嫌いなのに・・・私を好きだっていうことは私が嫌いなものを好きっていうことじゃない。価値観が違うってことじゃない。そういう人と恋なんてありえないじゃない。人のこと好きだなんで言う奴は・・・殺すしかないね」

片思いの「はらちゃん」を慰めるユキ姉(奥貫薫)だった。

外の世界を知っているユキ姉はおそらく、矢東薫子の女性的分身であり越前さんの女性的分身なのである。

現実世界の悪魔さんと内的宇宙の「はらちゃん」に唆されて、なんとなく「かまぼこコンテスト」出品作品に挑む越前さん。

そこへ「はらちゃん」再登場である。

越前さんの母・秀子(白石加代子)は「はらちゃん」が娘の知り合いだと知ると好意があふれるのだった。

「わさび風味のかまぼこって意外と盲点なんじゃないかな」

「かまぼこにわさびをお好みでつけたい人が断固拒否するんじゃないかな」

「あればあったでものぐさが食べると思うけどね」

「一応あるみたいだけど・・・やはりすごく人気にはならないみたいね」

「本気度が足りないだけじゃないのか」

「とにかく何か・・・好きなものと組み合わせるといいのよね」

「あなたの好きなものはなに?」

「越前さんです」

「それ以外でお願いします・・・」

「猫・・・犬・・・亀・・・クルマ・・・マンガ・・・ピラフ・・・かまぼこ」

「猫か・・・」

そして・・・寝食も忘れて「かわいい猫のイラストかまぼこ」に取り組む越前さん。

そして睡眠したことのない「はらちゃん」だった。

眠り方も分からないし・・・帰り方もわからないのである。

だが・・・越前さんのノートを開いた「はらちゃん」は世界の真実に気がつくのだった。

「かまぼこコンテスト」で「ホワイトスネークかまん」を作った悪魔さんは越前さんの「かわいいかまぼこ」に敗北感といい勝負をした感を感じる。

しかし、本当の勝者はどぐされパートの長沼さん(稲川実代子)だった。量産向きでもあり、大衆的でもある「レインボー」の勝利だったのである。

自分が生きていることを神様に感謝したい

あなたと同じ世界にいることが奇跡みたい

だからあなたをじっと見つめてしまう

あなたが消えてしまうのがこわいから

「はらちゃん」は自分が越前さんの描くマンガの登場人物だと知って・・・叫ぶのだった。

「ええーーーーっ」

「はらちゃん」はゼベット爺さんに恋をしたピノキオなのである。

そしてピノキオの願いはただ一つなのである。

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2013年2月 2日 (土)

夜行観覧車を見て夜の街を見ず(鈴木京香)

自分の鈍感さに気がつかない女を演じさせたら一、二を争うよなあ。

もう、ひょっとしたら本当に鈍感な女なんじゃないかと思うくらいである。

しかし、東北の生れで水着のキャンペーンガールで、演技派の美人女優なんだから・・・そんなことはないのである。

ここまでのしあがるには相当な繊細さが要求される。

同時に大胆である必要もある。

黒澤明的に言えば「悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!」なのである。

今回で言えば、自分自身のことは万事細心にできるが他人のことが全く理解できない女を大胆に演じていると思う。

前向きすぎて背後が見えない、自尊心が強すぎて失敗を認めない、すべてを自分の尺度でしか見られない、自分の見たいものだけを見、聞きたいことだけを聞く・・・だから・・・大切な娘を自分がないがしろにしていることに気がつかない。

本人が「全部あんたのせいなんだよ」と指摘しているのにも関わらず・・・だ。

「何言ってるの・・・」なのである。

まあ、完璧な人間はいないというお手本のような人物造形である。

思わず、「こら、死ね、バカッ」と体罰を施したくなる・・・愚かな女を堪能するのは甘美ですなあ。

で、『・第3回』(TBSテレビ20130201PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・塚原あゆ子を見た。そういう母親に育てられて苦しい思いをしている子供は多いだろう。だからといって母親に期待するのは無理である。なにしろ・・・母親の年齢になるとある程度人格は完成している場合が多い。それではどうするか・・・「かわいそうな人」と母親を憐れみ、慈しむしかない。自分が大人になってしまうのである。「もっといい母親になってほしい」と訴えても無駄なので、自分がしっかりしないと駄目だと思うのである。そして、適度な距離を保ち、経済的な自立を目指すしかない。その後は・・・優しく面倒を見てもいいし、さっさと縁を切るのも本人のお好み次第なのである。

観覧車は完成し、廻り、廻り続けてその日の朝がやってくる。

遠藤彩花(杉咲花)と高橋慎司(中川大志)の中学の卒業が・・・そして高校進学が迫る1月22日。

慎司と彩花は坂の下と坂の上の中学のロミオとジュリエットなのだ。

その日は慎司の中学時代最後のバスケットボールの試合の日だった。

遠藤夫人の眼からは理想であり目標でもある高橋家の見せかけの幸福が破綻する日でもあった。

朝・・・慎司はバスケットボールの用具一式を捜していた。

それは・・・ゴミ捨て場に捨てられていた。

これまでの経過では・・・それが慎司の母親の淳子(石田ゆり子)の仕業であると疑われる。後妻である淳子は先妻の息子の長男・良幸(安田章大)に比べて慎司の学力が劣っていることにわだかまりをもっていることが示されている。クラブ活動よりも学業に専念してほしい・・・その意志表示である可能性は大きい。

少なくとも慎司はそれを察したのだろう。母親が捨てたゴミを小島夫人(夏木マリ)から提示され・・・彼は最後の試合を諦めた。

清修学院中等部への受験に失敗し、公立の浦浜中学での三年間、「坂の上で一番小さな家」の住人であることを揶揄され続けた彩花は同級生・村田志保(吉田里琴)をリーダーとする仲良しグループから陰湿な迫害を受ける日々を過ごしていた。

そのために身も心も疲れ果てていたのである。

その卓抜な描写が・・・彩花の廊下での歩き方に示される。

壁沿いにあるく彩花はゆらゆらと体を揺らして壁にもたれかかりそうになる。

ストレスによって内蔵が不調になり、バランス感覚が崩れているのである。

一分一秒も絶えることのない気持ちの悪さが心身を刻む。そして・・・そのすべてが「分不相応なひばりヶ丘への引っ越しをした母親の身勝手さ」に原因があるという確信が不快さを一層募らせる。一番の味方であるべき存在が諸悪の根源という悪循環なのである。

その苦渋が彩花の精神を曇らせ・・・頼るべき母親を憎悪の対象へと転じさせていた。

彩花は孤独だった。

村田志保はそういう彩花の不安定さを弱点としてとらえ、隷属させることを試行している。

やりすぎれば仲良しグループのクーデターもありえるので志保は彩花とはつかずはなれずの関係を保っているのである。

彩花にしてみればそれが辛うじて疎外から救われる細い命綱のように見えるのである。

「今日の・・・慎司の活躍楽しみだよね」

「うん」

しかし、慎司は試合場に姿を見せなかった。

「どういうことよ・・・」

「知らない・・・」

「じゃ・・・聞いといてよ」

「そんな・・・」

「あなた・・・まさか慎司のこと好きだったりして」

「そんなことないよ」

「じゃ・・・応援してくれるでしょ」

「うん・・・」

もはや・・・彩花には坂道を自転車で漕ぎあがる体力も気力もなかった。

帰路に慎司の姉で清修学院高等部に通う高橋比奈子(宮﨑香蓮)を目撃した彩花は遠回りをする。比奈子の憧れの制服姿を見ることは彩花にとって苦痛そのものだった。

寄り道をしたことで慎司と遭遇する彩花。

慎司はそれほどのこだわりなく彩花に声をかける。

夜毎母娘喧嘩を繰り広げている彩花の荒れぶりを慎司は少なからず耳にしているはずである。

そこにはなんらかのシンパシーが感じられる。

「どうしたの・・・何か用?」

「今日、どうして試合にこなかったの・・・具合が悪かったの」

「別に・・・なんとなくさ」

「あんたがいないから清修学院・・・弱かったよ・・・」

「・・・」

「今朝・・・なんかあったの・・・」

「言わなきゃいけない・・・?」

「別に私はいいけど・・・友達がおっかけだから」

「ああ・・・あの子でしょ・・・志保って子・・・しつこいよね」

「しつこいって・・・少し高木俊介(劇中アイドル)に似ているからって調子に乗ってるんじゃない?」

「よくいわれるけど・・・全然似てないよ」

彩花の中で・・・慎司への思い、慎司への諦め、坂の上での、坂の下での孤立が渦を巻く。

「自分の方が頭もいいし・・・かっこいいとか思ってるの」

「なんだそれ・・・いいががりだろ」

「そうやって人を見下すのやめてよ」

「見下してなんて・・・」

「清修だからって親が医者だからってそんなに偉いの?」

「なに言ってんだ」

「あやまってよ・・・あんたが向かいにすんでるおかげですごく迷惑してるんだから」

「そっちが・・・後から家を建てたんだぜ・・・迷惑なら引越せばいいだろ」

「バカ・・・」

悲しい青春である。

表情に乏しい顔で遠藤夫人(鈴木京香)は分不相応な社交のために重なる出費を賄うためのパート勤めをしていた。

小島夫人から・・・娘の行状について小言を言われ・・・高額な自治会費を納入し・・・坂の上の住人にはけして許されないパート勤めである。

遠藤夫人はその場その場を生きる性質なのであまり内省は得意ではない。

ただなんとなく鈍く重く思うのである。

(私はただ・・・ワンランク上の幸せを手に入れようとしただけなのに・・・だって幸せは上にしかないから・・・そんなに高望みではない・・・ただのワンランク上・・・それなのに・・・坂の上の仲間には入れない・・・それなりの装いを整えれば夫に文句を言われる・・・娘は私立に合格しない・・・気遣って優しくすればつけあがる・・・前の家も隣の家も裏の家も・・・私より何ランクも上の幸せを手に入れているのに・・・観覧車が出来上がる前には・・・素直だった娘・・・頼りになった夫・・・私はこんなに一生懸命なのに・・・みんなどうして失われていくの・・・ワンランク上の幸せはどこへ行ってしまったの・・・)

同僚の田中晶子(堀内敬子)・・・実は高橋夫人の妹・・・は懐妊してしばらくパートを休むと言う。

幸せそうな晶子を遠藤夫人は心から祝福しない。

(子供なんていたってワンランク上の幸せを手に入れることはできないのよ)

小島夫人に指示され・・・レトルトではなく手作りのグラタンを彩花に作る遠藤夫人。

折しも・・・テレビには例のアイドルが登場する。

ポスターをネット・オークションで一万円で落札し、娘の機嫌を取ろうとする日々。

しかし、何かを言えば言うほど娘の機嫌は損なわれていく。

「こんなところに来たくはなかった・・・」

「どうして・・・なぜ・・・なの」

「そんなこともわからないの・・・」

自明の理をわかろうとしない母親に娘は絶望し・・・錯乱する。

母親がガラスの器の破片で指を切っても嘲笑する娘。

獣のように吠える娘。

一体・・・何がどうなってしまったのだろう・・・もしかしたら・・・この家は呪われているのでは・・・とふと思う遠藤夫人だった。

その夜・・・高橋家では慎司の咆哮と高橋夫人の悲鳴が響く。

その声を憑かれたように聞き続ける遠藤夫人。

娘に生理用品を買うように命じられた遠藤夫人は・・・コンビニエンスストアで慎司と出会い・・・サイフを忘れて来たという慎司に一万円を貸し出す。

停車した車には夫(宮迫博之)が潜んでいる。

そして、事件は起こった。

高橋弘幸(田中哲司)殺害事件の発生である。

おそらく・・・高橋家への配慮から嘘を重ねる遠藤夫人。

しかし・・・コンビニの防犯カメラは遠藤夫人と慎司の姿をとらえていたし、高橋家の出来事は付近の住民から伝えられてしまう。

そういうことに思い及ばないのが遠藤夫人なのである。

自分だけの世界をいつも見ているからなのだ。

やがて・・・結城刑事(高橋克典)は遠藤氏が高橋から多額の借金をしていたことを遠藤夫人に問いただす。遠藤夫人には寝耳に水の知らせだった。

その頃・・・遠藤氏のもとへは失踪中の高橋夫人から電話がある。

小島夫人は・・・遠藤夫人に忠告する。

「隠し事はいけないわ・・・私、見てしまったの・・・高橋家から人が出てくるところを・・・あれはあなたのご主人だった・・・」

遠藤夫人が見た犯人らしい人影・・・それは自分の夫だったのだ。

観覧車の有無による回想表現は終り・・・事件はついに廻りはじめる。

乗り込めば冥い夜景の見える夜行観覧車さながらに・・・。ああ、素敵。

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2013年2月 1日 (金)

最高の離婚はアロエ(苦い)、最高の離婚はアロマ(芳しい)、最高の離婚はアロハ(瑛太)

アロハは優しい気持ちである。

突き詰めれば愛はすべて自己愛なのだが、そもそも自己というものが曖昧なものなのである。

たとえば母親と子供の自己は限りなく一体化している場合がある。

体に重きを置けば、子は母の自己の一部だし、母は子の一部なのである。

それが心の形成にもおよび、未分化の母子という関係が生じる。

自己と他者が限りなく境界線を曖昧にすれば・・・そこには自己を愛するように他者を愛する状態が記録される。

そのメモリーこそが愛の原型と言えるだろう。

人々はその成長過程で、様々な個性化の道をたどる。極めて短い母子連帯のものもあれば、愛を育む方向を失うものもいる、原点に執着するものもいれば、独立を志向するものもいる。時には自己愛を捨て慈愛に目覚めるものもいる。

愛はゲームである。

「自分以外には誰も愛さないもの」が「誰かに愛してもらいたいと願う」ゲームなのである。

で、『最高の離婚・第4回』(フジテレビ20130131PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。濱崎光生(瑛太)は明らかに発達障害者である。光生と結婚するということは身体障害者と結婚するのと同じなのである。自覚していようがいまいが、濱崎結夏(尾野真千子)の離婚届提出は・・・夫の介護に疲れた果てなのだろう。もちろん、夫婦の立場が逆転していることもあり、男女雇用機会均等法の時代でもあり、離婚は急増するし、孤独死は当然の帰結なのである。実に合理的な成り行きと言える。

しかし、個体としての生存能力の高さは別問題なのである。

優秀な個体同士で再度、巣を作り直すもよし、とりあえず、何もかも忘れて朝まで歌い騒ぐのもよしなのだ。

そして、そういう集合離散の果てに発達障害の子供たちはどんどん増えて行くのだな。

発達障害のものが自分が発達障害だと認めることはある。

心が乱れないものもいれば、痛切な悲哀に襲われるものもいる。

持病なのでそれなりに対処する方法もある。

光生は「好きな人に好かれず、好かれた人を好きになれない自分が普通でないことを認めようとして認められず、好きな人に謝罪と同時に好意を受け入れてもらおうとしたのに好きな人(上原灯里=)の好きな人(上原諒=綾野剛)を好きな人(有村千尋=小野ゆり子)が上原家に投げ込んだ石が自分のものではないと言えば好きな人が入籍してないので上原という姓じゃなくてコンノさんのままなんだと自分のこだわりを言い出しかねず、そうなると好きな人にもっともっと嫌われかねず、優先順位も決断もあったものじゃないのでいろんなことがちゃんとできない。つらいつらい。自分は人間じゃない。ガラクタのロボットだ」と灯里から返された石を握りしめ雪の降る街を去っていくのだった。

灯里は光生のストーカー行為がエスカレートして、「刺されたらどうしよう」と不安に思うのだった。

結夏は静岡県的基本人格が全国標準の大村(KEIJI)に通用しないことに驚愕しているところを清掃員のアルバイト・初島淳之介(窪田正孝)に発見され、何故か意気投合する。なぜならば淳之介は静岡県人だったのである。二人で痛飲したあげくに初島家に宿泊した結夏はどう考えても理由ありで身を寄せ合って暮らす父親・妹などの淳之介一家に安らぎを感じるのだった。どういう経緯で静岡から東京へこの一家が流れついたのか問わないのが富士山を静岡県側から見て育った人々の美点らしい。幸せを求めて何かを始めてこうなってる可能性は大なのである。

しかし、淳之介の妹・果歩(信太真妃)・・・「モテキ」の林田尚子の娘・由真である・・・シャブリ様、ありがとうございます・・・に「おばちゃん」と呼ばれることだけは我慢できないらしい。

第四の女・日野明希(遊井亮子)とのテトリス的情事を終えて朝帰りする諒は通りすがりの老夫婦と語らう。

「とりあえず坊主にしちゃうっていうのはどうなんでしょうね」

「空気になっちゃえばいいんですよ」

「そうですねえ」

「夫婦生活もビジネスである以上、上手にマネジメントしないとね」

「でも擬似恋愛をビジネスにしているものがマジ性交しちゃダメなんでしょうねえ」

「でも・・・ほら・・・夢のような恋愛気分も、地獄のような失恋気分もサービスだと思えばサービスなんじゃありませんか」

「そういう心境に至るのはやはり亀の甲より年の功ですよね。僕にもずっと一緒に暮らしたい人がいるんです」

朝帰りした諒は擬似妻の灯里が希望する温泉旅行のパンフレットをお土産に持って帰ってきたのだった。

一方、元妻が勝手にブラシを使うなどの様々なストレスを抱えた光生の頭頂部付近には500円玉クラスの円形脱毛が発症していた。

帰宅した元妻はそれを発見するや大喜びをするのだった。

なぜならば・・・自分との離婚で夫がストレスを感じていると思いこみ、ちょっと嬉しかったからである。

元夫は出勤し、元妻は元夫の祖母の亜以子(八千草薫)とプロレス観戦に出かける。

諒が大学に戻ると第二あるいは第三の女である千尋が待ち構えている。千尋は諒と灯里の関係に割り込もうと攻撃的な行動にでるが、諒が反応しないために「私は二番目でいいの」と折れる。しかし、そこに第三あるいは第二の女である光永詩織(大谷英子)の着信があったために暗い嫉妬の炎を燃やすのだった。

千尋は詩織の働く雑貨屋に出向くと、詩織を灯里の営むアロマテラピー&古式マッサージの店「Se Terang」に誘導するのだった。

詩織は灯里が諒の擬似妻とは知らずに「アロマオイルに恋人を思い出す」などとのろけるのだが・・・そこへ諒が帰宅してすべてを悟って涙にくれるのである。灯里も詩織の正体を悟り「きっと新しい恋人が現れますよ」と慰めつつ引導を渡すのである。女の直感恐るべしなのだった。

お茶の間の男性一同、灯里と千尋と詩織と明希と他に何人いるんだか知らないがとにかくうらやましいのだった。そして今度生まれ変わったら諒になりたいとそこはかとなく思うのだ。

光生はいつもの歯医者で歯科衛生士・海野菜那(芹那)相手に頭の上のミステリーサークルを公開する。

「片思いの人に関わるのはやめた方がいいですよ」

「片思いじゃありません」

「とにかく、関われば関わるだけどんどん大きくなるかもしれません」

「しかし結婚していないのに結婚してるなんて・・・」

「不祥事を隠しとおせる時代じゃないと・・・みんな知っておくべきなんですよね」

「僕は監督じゃありません」

まさに不毛な話だった。

まあ、柔道やってなきゃただのデブに「柔道やってなきゃ、ただのデブ」って言われてもお前が言うなって話だよな。

姉(市川実和子)が働く「金魚CAFE」で諒と遭遇する光生だった。

「なんで・・・婚姻届を出さないんですか」

「その日、家内が熱を出しまして、僕一人で出そうとしたら、知り合いの犬が行方不明になったって電話がありまして、捜すのを手伝ったら日が暮れちゃいまして、家に帰ったら家内が凄く喜んだので提出してないことを言い出し損ねまして・・・今も持っているんです」

「意味がわかりません・・・結婚する気がないならなぜ結婚するなんて言ったんです」

「家内に結婚したいって言われたので・・・」

そこに灯里が諒を迎えに来て、光生は自分が結婚したかった女に結婚したいって言われた男の婚姻届を期せずして入手してしまうのだった。

灯里はなんとなく光生のためにアロエを買ってしまう。

アロエを買ってくれた元妻の好意を感じることのできない光生は戸惑う。

「ありがとう」の一言が言えない元夫に元妻は絶望を感じるのだった。

しかし・・・元夫は妻の好きなロールキャベツを作って恩を返そうと思うのだった。

だが、妻は仲良しになった淳之介一家のためにロールキャベツを作ろうとしていたのである。

すれちがう・・・人との接し方を知らない男と人と接することのできない男との接し方を知らない女だった。

それでも・・・元妻は・・・人生の喜びを・・・幸せのおすそわけを元夫に持ち帰る。

しかし、喜びを分かち合うということがわからない元夫はひたすらにいら立つのだった。

「最初から合わないと思っていた・・・でも、一緒に暮らしているうちに・・・私があなたのことをいつも思い出すように・・・あなたが私のことを思い出すようになってほしかった。でもあなたは変わらない。子供がほしかったからそう言えばあなたはいらないと言った。結局、あなたは自分のこと以外はどうでもいい男だった」

「やりなおそう・・・もう一度、結婚しよう・・・子供も作ろう」

「何言ってんの・・・テディベアを見て熊の死体を連想するような男と何をどうやり直せばいいのよ」

「死体じゃないよ・・・獲物だよ」

相互伝達機能の不全だった。

その頃・・・擬似夫の度重なるテトリス的男女関係についに耐えきれなくなった擬似妻も家を飛び出していた。

ラーメンで暖をとる二人の女たち。元妻のポケットから転がり落ちる擬似妻の婚姻届。

孤独な男女は何故か性風俗的規制の対象となるソシアルダンスを踊り続けるのだった。

夜毎、地震が続くので、住居倒壊の夢を見るかのように。

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