ああ、もう僕を信ずるな。僕の言ふことをひとことも信ずるな(田中圭)
死にたがる人、太宰治の処女短編集「晩年」(1936年)の一編、「道化の華」は服毒心中に失敗して一人だけ生き残った男の物語である。太宰治は1930年に鎌倉の海岸で銀座のカフェ「ハリウッド」の女と心中をはかり、自分だけ生き残った実体験がある。彼は自殺未遂、心中未遂を繰り返し、1948年に38歳でようやく目的を達成するのだった。
そういう人の「自信モテ生キヨ 生キトシ生クルモノスベテ コレ 罪ノ子ナレバ」という言葉にどんな説得力があるのかは・・・謎である。
「鴎」(1940年)では「罪の子」を「おれは悪い事を、いつかやらかした、おれは、汚ねえ奴やつだという意識」を消すことのできないものとして語っている。
悪魔としては同意せざるを得ない。こういうところがこの困った男の魅力なのであろう。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第6回』(フジテレビ20130218PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・長瀬国博を見た。ビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)が何者かによって階段から蹴り落とされる。物凄い階段落ちなので「はぐれ刑事」シリーズなら致命的だったが、足首の骨折のみで助かったのである。
しかし、入院中の栞子は何故か、「事件」ではなく「事故」を装うのだった。
それにはなんらかの秘密の事情があるはずなのだが、秘密を隠しているという演技・演出が未熟なために・・・なぜ、警察に通報しないのか・・・という疑問で一部お茶の間は騒然とするのである。まあ、基本的に作り手が警察の介入を面倒くさいと感じているからと解する他はないのである。
だが・・・栞子は犯人に心当たりがあって・・・その推察を何故か、アルバイト店員の五浦大輔(AKIRA)にだけは語るのだった。それにも理由があるはずだが、現時点では「月9」だからと邪推するしかないのだった。
とにかく、栞子は正面から蹴り落とされているので犯人を見ている可能性まである。
そうでなければ、単に若い女性を狙って階段から蹴り落とすのが趣味の異常性欲者の犯行かも知れず、第二、第三の犠牲者を出さないためにも警察に届けるのが市民の義務というべきであろう。それを怠るのなら・・・栞子もまたちょっと異常な人になってしまうわけである。
栞子は「私が個人的に所蔵している太宰治の自筆献辞付の『晩年』、自己評価額400万円を狙っている・・・謎の人物からの脅しだったと思うのです」と例によって奥歯にもののはさまったような推測を述べるのだった。
大輔は「場合によっては死んだかもしれないのに・・・何、呑気なこと言ってるんですか・・・警察に通報しないのなら・・・もう、『晩年』売っちゃえばいいじゃないですか・・・たかが本なんですから・・・」と意見する。
この言葉に栞子はあきらかに反発を覚えたようだった。
「この本を失うくらいなら・・・私は殺されてもかまいません・・・それもやはり異常なんでしょうね」
大輔は「本のためなら死ねる」と言われてもピンとこない様子だった。
栞子の内心は「道化の華」で言えば「青年たちはいつでも本氣に議論をしない。お互ひに相手の神經へふれまいふれまいと最大限度の注意をしつつ、おのれの神經をも大切にかばつてゐる。むだな侮りを受けたくないのである。しかも、ひとたび傷つけば、相手を殺すかおのれが死ぬるか、きつとそこまで思ひつめる。だから、あらそひをいやがるのだ」と言うところだろう。
ついには・・・あえて秘匿していた本を売りに出して犯人をおびきよせるという意味不明の罠を仕掛ける栞子だった。新たな犯人候補を増やしてどうする。
犯人についての情報が少なすぎるために・・・周囲の人間たちに疑いの眼差しを向け始める大輔である。
「何が何でも欲しい」とメールをする男を求めて、大輔が目星をつけたのは失神した栞子を発見した「CAFE甘庵」の店長・藤波(鈴木浩介)だった。
その後、「ビブリア古書店」に放火しようとした犯人を目撃したのも藤波だったのである。
藤波なら人を見下す眼付で「犯人は俺にきまってるじゃあああああああん」と叫びそうな気がする大輔だった。
しかし・・・放火犯は第2話で女子高校生・小菅奈緒(水野絵梨奈)の告白を一蹴した男・西野(浅香航大)だった。
西野は女子高校生に対する悪行を噂好きの藤波に言いふらされ、学校で孤立してしまったのだった。そして、その元凶を大輔だと勘違いして・・・逆恨みし、恋人風な栞子ともども抹殺しようと謀ったのだった。
再び、犯行に及んだ西野を・・・格闘の末に緊急逮捕した大輔だった。
これにて・・・一件落着と思った大輔だが、居合わせたせどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)の仲間である笠井菊哉(田中圭)の一言が新たな疑惑を生じさせるのだった。
「階段から突き落とすなんてひどいことをするな・・・」
その事実は・・・栞子と大輔の秘密だったのである。
栞子への脅迫メールが途絶えたのが三ヶ月前。
志田と笠井が知り合ったのも三ヶ月前。
そして・・・笠井は古CD、古ゲームソフトにしか興味がないフリをしながら、小説『せどり男爵数奇譚』(梶山季之)が連作短編であることを知っていた。
せどり男爵こと笠井菊哉と同姓同名なのは・・・偽名だから。
うかつにも笠井に「栞子の病室の金庫」に「晩年」があることを話してしまった大輔はあわてて笠井を追う。
大輔の連絡を受けた栞子は何故か、病院の屋上に退避するのだった。
「魔王」では魔王に殺され、「銭ゲバ」では銭ゲバに殺された男である。その名を見ればすでに殺されるのか・・・と連想される男である。
「俺だってたまには殺したい」と決意を秘めてドジっ娘・栞子が屋上から落したストールを拾い上げる男だった。
「人間失格」とか叫びながら屋上から落ちるのか・・・。まさかな。
「晩年」を求める二人の男と女の秘密は次回に持ち越しである。連続ドラマか・・・連続ドラマだよ。
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