書店員ミチルの東京の休日の責任の所在はありません(戸田恵梨香)
ラブ・ストーリーの金字塔「ローマの休日」で24時間の「自由と青春と恋」を得たプリンセスは生れついての義務を選択して・・・緊縛された日常へと戻っていく。
あらゆる「恋の話」はこの映画の「話」から逃れられないのだが・・・書店員ミチルもまた同様である。
ミチルは地元・長崎の御曹司との婚約、地元の書店員としての地位、地元の父親の庇護を離れて、東京貴族との一夜の夢に「青春」のすべてを捧げたのである。
しかし、ミチルは日常への帰還を拒み、休日の延長を申請する。
その結果、ささやかな幸せは破綻し、「2億円の貯金」という身に危険が及ぶほどの幸運、犯罪と背中合わせの生活という悪夢を手に入れる。
もちろん、その方が面白いのである。
で、『書店員ミチルの身の上話・第6回』(NHK総合201302122255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。気がつけば東京の書店員ミチルなのである。書店員はどこにいても書店員なのだな。しかし、2億円の貯金を持つ女なのである。それがあれば無敵のように見えるが、実力が上がれば敵の実力も上がるのがこの世の真理なのである。2万円を狙うこそ泥と2億円を狙う怪盗とでは用意周到さの次元が異なるのである。息子を愛する母は偉大だが、年間一億円超のお小遣いを与えられたりすると息子次第では日米間の信頼関係を損ね、日中間の緊張状態を過熱させ、国家存亡の事態を招くハトポッポを育成したりするわけである。親バカは死ななきゃ治らないということだな。その危うさを草葉の陰で反省したりはしないだろうと邪推できるところがまた一同爆笑ポイントである。
「従順な家来だったはずの竹井(高良健吾)がなんだかこわいんです。忠実な下僕が実は傷付きやすいモンスターだったなんてことがありえるのでしょうか。王女の前では伯爵夫人だって跪くべきなのに・・・それとも、私がプリンセスとして一番大切なものを失ってしまったとでも言うのでしょうか。竹井の自称・交際相手の恵利香(寺島咲)が私の可愛いフライパンで衝動にまかせて久太郎(柄本佑)をぶっ殺した時に気が動転してガクガクブルブルしすぎてしまったことがよくなかったのかも知れません。奴隷の前で主人がビビるのは禁物だと悪魔を使役するエクソシストが深夜アニメで言っていたことをもっと真面目に考えるべきでした。でも、自分の部屋で自分と体を重ねたことがある男が死んでいるとなるといろいろと穏やかではないのです。私がうろたえても仕方なかったと思います。プリンセスはソルジャーでもナイトでもないのですから。それでも竹井は家来として面倒な後始末は引受けてくれたのです。私が殺したわけでもないのでなんだか腑に落ちない気もしましたが、宝くじの高額当選の秘密がばれることには注意しなければならないと高額当選者の手引きに書かれていたのでそうする他はないのでした。警察だって2億円を前にすればどんな悪人に変貌するかわかったものじゃないのですから。そうなのです。貯金が2億円あるということは世界に信じられる人が一人もいなくなるということなのです。たとえ、お互いの秘部をぬらぬらと濡らし、時々昇天するほどの快楽を共有した相手だって心を許せないのです。それはそれとして死体や血ぬられた部屋で一人寝できるほど私は大人ではありません。こわくて一人じゃトイレにもいけない気分です。竹井はとにかく竹井の部屋に私を避難させました。私としては新しい部屋に引っ越したいと願いましたが、引っ越したばかりの部屋をまた引っ越すというのは不自然だと言われると確かにそうです。久太郎が死んだことよりも2億円のことがバレてはならないからです。竹井の部屋につくといろいろなことがあってすっかりくたびれた私はぐっすりと眠っちゃいました。それでも夢は見ました。何故か夢の中で久太郎を殺していたのは私でした。久太郎をぶんなぐって殺してやりたいと心の中では願っていたんだなあ・・・と私はびっくりしました。目覚めると竹井が久太郎の死体の始末を終えて戻っていました。本当の人殺しである恵利香は姿を消しています。私としてはカッとなって人を殺すような人間にはなるべくかかわりたくないのです。なにしろ、私の下僕である竹井と交際していると言うような女の子です。私がいつぶっ殺されてもおかしくないではないですか。とにかく・・・竹井の指示通りにいつもと変わらない日常を送るしかないようです。夜にはとても怖くて近寄れない死体のあった部屋に風を通しに行き、洗濯物を干し、ミステリーでおなじみのルミノール反応との虚しい戦いを展開して、新しいクーラーの取り付け作業を見守ったりします。そして・・・一樹さん(新井浩文)の紹介してくれた街の書店で働く。夜は竹井の部屋で過ごす。ほとぼりがさめるまではそういう窮屈な生活も仕方ありません。なぜなら、私は預金額ほぼ2億円の貯金通帳を持つ女なのです。しかし、さすがに殺人事件の現場に居合わせた後遺症は大きいのです。大好きだったワインもあの日にたまたま飲んでいたというだけでおえっとなっちゃう対象になってしまいました。ワインを注いだ竹井にその無神経さを指摘すると・・・一緒にすんでいた竹井が仕事を変えたのにも気付かない私の方が鈍感なんだと言われてしまいました。家来にそんなことを言われるとは心外です。飼い犬に手をかまれるとはこういうことなのでしょうか。まるで使用人に対等な人間として扱ってくれと言われたマダムになったような気がしました。部下に命令を無視されたら独裁者もこんな気持ちになるのかもしれません。日本にもディズニーランドがあるんだから平壌にも作れと命令したのにそれは無理ですと拒否されたみたいな。そんな時に一樹さんから連絡が入ったのです。私は久太郎に私の新居を教えた一樹さんに不信感をもっていました。信じていた人に裏切られた気分です。私の下半身はまだ一樹さんを受け入れ可能でしたが上半身が拒否反応を示すのです。だってそうでしょう。一樹さんが久太郎に私の部屋を教えなければ、久太郎も死なずにすんだのだし、私は今でもワインを美味しく飲むことができたのですから・・・私を久太郎と逢わせて、①別れ話をさせるつもりだった②長崎に連れ戻させるつもりだった・・・どっちなのと私がクイズを出すと・・・それは君が選ぶことだからという一樹さん。なんだよ、それ、責任回避かよ。臭いものには蓋かよ、私は漬物かよ。きゅうりかよ。大根かよ。エンディングのスローモーションでそれなりに揺らせてみせる努力は無視かよ・・・とまでは詰りませんでしたが・・・妻と別れたいと思っているという言葉を吐いた口から自分は家庭がある身だからとか言っちゃう一樹さんは心底腐った男なのです。腐ったその心身でどうやらタテブー(濱田マリ)も抱いちゃってるみたいなのです。私はまたしても吐き気におそわれました。おえ~~~っなのです。私は知る由もなかったのですが・・・使いこみが発覚し、それが奥さんにもばれて離婚を迫られ、すべておわったと愚痴る一樹さんにタテブーは嘔吐するような汚い行為の後で・・・私には2億円の高額当選金を盗んだという噂があるなどと・・・とんでもないことを言いだしていたのです。自分が確かにハズレクジを受け取っているのにその底辺の人間の悪意たるや恐ろしいものではありませんか。だって当たっているんですもの~~~っ。故郷の長崎にはのほほんと私の帰りを待つ父親(平田満)がいます・・・そして、一番の理解者かもしれない堅実な妹(波瑠)もいるし・・・そこそこ信頼できる元同僚の春子(安藤サクラ)もいます。できれば故郷にかえってそういう身近な家来たちに囲まれて一息つきたい気分の私でした。しかし・・・2億円の銀行預金がある以上・・・そういう人たちに近付くこともうかつにできません。困り果てた私は・・・タテブーが私に宝クジのことや久太郎のことや一樹さんのことを攻め立てる悪夢までを見る始末。宝くじが当たったのは私の幸運だし、久太郎を殺したのは恵利香だし、一樹さんは生まれつき不実な男なのです・・・最高の離婚でいえば擬似夫です・・・テトリスのような性行為というよりはぷにょぷにょみたいな性行為かもしれませんが・・・私はなにひとつすごく悪い事はしていません。宝くじの当たりくじとハズレクジを分けたことが罪ですか、久太郎のことをうざいと思った事が罪ですか、妻子ある一樹さんと不倫したのが罪ですか・・・でも、私にはそういうことも罪だと思っている良心があるみたいなんです。そうでなければ悪夢なんてみないですから。できれば悪夢ちゃんに頼んでいろいろなことをなしにしてもらいたい・・・私は本気でそう思いました。少し、テレビの見過ぎなのかもしれませんが・・・自分の部屋で人を殺されたら大人しく竹井の部屋でテレビを見るくらいしかないのです。それなのに・・・竹井ったら・・・恵利香と一緒に暮らしたいと言い出したのです。人殺しだから精神が不安定になって・・・自首とかされたら・・・確かに困ります。死体の遺棄を知っている私も共犯を疑われますし・・・なにしろ、高額当選のことが表沙汰になるかもしれません。私はほとほと困ってしまったのです。どうして・・・こんなことになってしまったのでしょうか・・・誰か助けてくださいよお」
関連するキッドのブログ→第5話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の書店員ミチルの身の上話
| 固定リンク
コメント