夜行観覧車のロミオとジュリエット(高橋克典)
ラブ・ストーリーの金字塔である「ローマの休日」はもちろん「ロミオとジュリエット」の系譜に属する。
王女と新聞記者が敵対関係にあることはあの王妃とパパラッチの関係からもあきらかである。
当然のように・・・坂の上の男の子と坂の下の女の子はすれ違う運命にあるわけである。
しかし、殺人事件を捜査する刑事と事件の起きた家の向かいの家の主婦もロミオとジュリエットなのだ。
あえて言えば愛し合う息子と母親は全員、ロミオとジュリエットなのである。
「ローマの休日」が偉大なのはそういう特殊な愛はあまり推奨しないことなのだな。
つまり、ロミオとジュリエットが恋をしたとしても・・・調子にのらないで良い思い出にした方がいいという手引きになっているのである。
しかし・・・夜行観覧車の人々にはそういう賢さは無縁なのである。
友達がずっといなかった母親の娘に友達がいないのは・・・王女の娘が王女であるのと同じようによくあることなのである。
せめて・・・母親はそのことを娘に伝えないとなあ。王女が王女の生き方を伝えるように。
まあ、結局、男と女はみんなロミジュリだし、男と男でも女と女でも基本は変わらないのであるけどね。
「ああ、娘よ、私の娘、どうしてあなたは私の娘なの」
母親と娘はいつでも敵対しているものなのである。
星と星なんて引力で魅かれあうだけで大惨事なのである。
観光客と現地人だって一瞬即発なのである。
放射性廃棄物と処理施設も、日本の国境と中国の国境も、核なき世界と核保有国もみな、「ローマの休日」見習うべきだと考える。・・・もう、いいんじゃないか。
で、『夜行観覧車・第5回』(TBSテレビ20130215PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・塚原あゆ子を見た。遠藤真弓(鈴木京香)の学生時代の友人である結城哲也警部補(高橋克典)は聴きこみを続ける。情報の獲得は常に取引である。情報を得るためには情報を与えなければならない。
結城刑事は真弓の学生時代の思い出を餌として投げる。
「君は人の嫌がることを引き受ける優しい人だったね」
「優しいなんて・・・私は他にやる人がいなかったから仕方なくやっただけ・・・本当に優しい人って高橋淳子(石田ゆり子)さんみたいな人のことよ・・・あの人は私をいつも助けてくれた・・・あの人のおかげで私がどれほど助かったか・・・私、恩返しがしたいの・・・」
「やはり・・・君は優しい人だ」
真弓と別れた結城刑事は同僚と連絡を取る。
「遠藤夫人は高橋夫人を友達と思っていたようだ・・・昔から・・・友情を求め過ぎて利用されるタイプだったからなあ。結局、いつも友達がいない人だったけどね。文化祭でゼミの屋台を担当して焼きそば焼いてたな・・・ずっと一人で・・・」
結城刑事は真弓に対して特に感情を持つことはない。
犯罪者を追うのが仕事で、そのために利用できるものは利用するのである。
高橋夫人が遠藤夫人を援助していた以上、その貸しを取り立てようとすることはあり得るだろう。高橋夫人の身柄を確保するために遠藤夫人は手掛かりの一つにはなるはずだと結城刑事は考える。
小島さと子(夏木マリ)は町内の有力者の一人である。
新興住宅地を開拓してきた夫人たちは住まいのステータスを高めて来た自負がある。
周囲の地域住民から憧れられる土地にすることが生きがいだったのである。
小島夫人たちの作りあげたひばりヶ丘は一種の輝きを放ち、誘蛾灯に誘われるように高橋夫人はやってきた。
結局、高橋夫人が夫や娘を燃やし焦がすように・・・小島夫人も家族を燃焼させているのだろう。
小島夫人の最愛の息子・マーくんこと小島雅臣(小泉孝太郎)は帰国し、ホテルに滞在している。本格的に帰国するにあたり・・・妊娠中の妻の実家に滞在することを望んでいるらしい。「リナさんに問題があって孫ができないと思ってた」などと息子の顔をしかめさせる過干渉ぶりを示す小島夫人。マーくんは明らかに母親よりも妻を優先している気配である。しかし・・・母親を説得するためにあえて「殺人事件がこわいから・・・」などとひばりヶ丘に戻ってこない理由をつけるのである。
小島夫人も息子が自分を疎んじる気配を感じているが・・・だからこそ・・・高橋家にすべての責任を押し付けたいと感じるのだった。
そして・・・それは第三者から見れば狂態なのである。
遠藤啓介(宮迫博之)はおっとりとした妻に失望し、娘を生贄として捧げる。そして・・・高橋夫人に憧憬を感じる。その手には「凶器のようなもの」が握られている。いかにも誰かから預けられてしまったようである。流れからその相手は高橋夫人なのだろう。
遠藤彩花(杉咲花)は警察の捜索を逃れている高橋慎司(中川大志)を恋する女の直感で発見してしまう。
小学生時代に初めて会った時に一目惚れをして以来、三年間、片思いしてきた相手である。もしも・・・清修学院に入学出来ていたら・・・もっと親密になれたかもしれなかった。一緒にキャンプに行き・・・浦浜中学の村田志保(吉田里琴)にも気楽に紹介できただろう。メールも頻繁に交換し、志保にも余裕でメルアドを教えてやったに違いない。しかし・・・メールは打てなかったし、メルアドを志保に教えるのも憚られたのである。母親がずっと同性の友人を得られなかったように・・・娘もまた友人関係の距離感がつかめないタイプなのであった。しかし、結局、今は・・・慎司は父親が殺害されたのに家に戻らない息子なのである。
「慎司・・・逃げないで・・・私・・・あなたを助けたい・・・私、何をすればいいの」
「・・・」
父親の死についてなんらかの事情を知っている慎司は・・・おそらく彩花を巻きこむことはできないと考えていたようである。
事件の前日、心がすれ違い口論した時が最後のチャンスだったのだろう。
慎司と彩花は・・・少なくともその夜は結ばれない運命だったらしい。
翌日、彩花は我を忘れて慎司に初めてのメールを打とうとする。
しかし・・・それを村田志保は許さない。
「なんだ・・・慎司のメルアド知ってるじゃない」
「ごめん・・・でも」
「慎司の住む家も知ってたよね」
「ごめん・・・」
「慎司の事知らないとか言って一緒に写真に写って」
「ごめん・・・」
「別に・・・慎司はもうどうでもいいのよ・・・犯罪者だし」
「・・・」
「あんたが・・・ともだちに・・・嘘ついてた・・・ってことがマジやばいじゃん」
「ご、ごめん」
「ごめんごめんごめん・・・あんた、本当にあやまってるの・・・口だけじゃないの」
「そ、そんなこと」
「じゃ・・・あんたのあの空気読めない母親のパートしているスーパーから・・・私にお詫びの品物を取ってきてよ・・・そのぐらいはしてくれるでしょ・・・友達なら」
彩花にはそれを断る理由はない。志保を最初に裏切ったのは彩花なのだ。
母親に乗せられて坂の上に行き、坂の下の仲間を捨てようとしたのは彩花だった。
結局、坂の下に戻るしかなかった彩花がどうして志保に逆らうことができるだろう。
今でも充分、みじめな彩花だが・・・志保の気分次第ではもっとひどいことにもなりかねない。彩花にはそれが充分予想できたのである。
そして・・・万引きはみじめな失敗に終わった。
彩花には恋も友情も家庭もなかった。ただ昇るのも苦しい坂道があるだけだ。
そのすべての現況は現実を見ない自分の母親が作り出している。
母親は彩花の帰りを待ち伏せていた。
そして・・・こう言う。
「万引きなんか・・・してないわよね」
(目の前でみていただろう・・・私が万引きするのを見ていただろう・・・どうしてそれをなかったことにしようとするのだ)
真弓の言葉は娘を傷つけるために紡がれる。
「私は知りたいの・・・あなたが何に怒っているのか」
(あんたにだよ・・・あんたのすべてに・・・あんたの存在そのものに・・・何一つわかろうとしないあんたのおろかさにだよ・・・)
彩花の胸は張り裂けた。
突き飛ばされて泣き崩れる真弓。
彩花の顔に母親への憐れみが浮かぶが・・・それを上回るやりきれなさが感情を突き動かす。
(嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌・・・・・)
真弓は結局、母親にはなれない。なぜなら・・・真弓が求めているのは娘ではなくて・・・ともだちなのである。
だから・・・明らかに真弓を駒として考えている淳子から連絡が入ると・・・娘の存在も忘れ・・・女友達という甘い幻想に飛び付くのである。
「私・・・あなたを助けたいの・・・私・・・何をすればいい」
似たもの母娘なのである。
優秀な若者はテレビのワイドショーを見ない場合がある。ネットのワイドショー的なニュースもクリックしない。だから・・・研究に没頭していた医学生の高橋良幸(安田章大)は父親の死を妹・比奈子(宮﨑香蓮)のメールを盗み読みした野上明里(滝裕可里)から聞かされる羽目になるのだった。
「どういうことなのよ」と問い詰められても良幸は茫然とするしかない。
そこへ・・・学校の担任教師(大谷英子)、親友の歩美(荒井萌)、叔母の晶子(堀内敬子)とその夫(榊英雄)、向かいの家の母と娘から・・・様々なプレッシャーを受けて居たたまれず深夜バスで京都に逃げて来た比奈子がやってくる。
動揺した良幸は研究室に逃げ戻るのだった。
「なんか・・・いろいろな人が君を捜しているようだ」と呑気な仲間が言う。
「ああ・・・父親が死んだみたいなんだ・・・」
「・・・え」
良幸には家庭の事情を推察していた気配がある。そしてその面倒から逃げ出した様子であった。
そこへ・・・弟の慎司から着信がある。
「兄さん・・・」
「慎司・・・」
「もう・・・家に帰れない・・・」
「どうした・・・慎司・・・今、どこにいる」
「もう・・・帰れない・・・」
「やめろ・・・慎司・・・どこにも行くな・・・そこにいろ・・・」
兄は弟の目前に「死」が横たわっているのを直視した。
マーくんの偽りの理由を信じるしかない小島夫人は狂気に包まれる。
たったひとりの女友達から呼び出された遠藤夫人は玄関を出ると唖然とする。
高橋家は悪意による中傷アート表現で包まれていたのだった。
どこまで面白くすれば気がすむのか。
もちろん・・・ひばりヶ丘にはまあまあの悪魔が棲んでいる前提で。
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まこ「ラスト・シーンが遠藤家だったのか、高橋家だったのか、わからなかったという全国のみなしゃんの疑問をテッテイ的に追及するのでしゅ~。ポイントはシンジくんご愛用のバスケットのゴールをチェックだじょ~・・・真弓の外出時をよく見ると遠藤家の車は無事なのデス」
くう「ずいぶん高いところまでイタズラしてるんだね~」
シャブリ「悪質なのでありました~」
ろーじー「サキの仕業やないねん・・・」
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