冬の大三角という疑似家族と冬のダイヤモンドという本当の家族について(川口春奈)
スターの中のスターといえば太陽である。
もちろん、銀河の中で太陽はちっぽけな恒星にすぎない。
しかし、地球という太陽系第三惑星の住人である人類にとっては最も近い恒星であり、その見かけ上の大きさは天空中最大であり、その輝きは他の星々を圧倒する。
その太陽が地平線に落ちると漸く星々が姿を見せる。地球の衛星であり、昼でも太陽の反射で肉眼で視ることのできる月や太陽系のその他の惑星を別にすれば・・・最も明るい星といえばおおいぬ座のシリウスである。
大犬の青き瞳シリウスを一つの頂点として、大犬の先駆けとされるこいぬ座プロキオンと女神によって放たれたさそりに刺されて致命傷の赤き血の星オリオン座べテルギウスを結ぶことで冬の大三角が形成される。
これがドラマにおける三人の登場人物を暗示しているわけである。
主人公の汐はシリウス、その片思いの相手がプロキオン、そして、いつ超新星爆発を起こしてもおかしくないペテルギウスが宇宙人である。
ちなみに太陽を除き九番目に明るい恒星であるペテルギウスは地球からの距離は640光年、太陽の20倍の質量を持つ赤色超巨星で変光星でもある。英語ではビートルジュースとも発音され、和名は平家星だ。
プロキオンからはふたご座ボルックス、ぎょしゃ座カペラが結ばれ、これは主人公の片思いの相手の妻子を示している。
シリウスには狩人の足であるオリオン座リゲルが結ばれ、獲物の心臓であるおうし座アルデバランにつながっている。汐の弟とその恋人である。
シリウス、プロキオン、ボルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルを結べばすべてが一等星の冬のダイヤモンドとなる。
ダイヤモンドを立体にするのがもう爆発しているかもしれないベテルギウスであることは言うまでもない。
ベテルギウスが今夜、爆発してもその光が届くのは640年後である。
ちなみにアルデバランはプレアデス星団(昴)を追う星でもある。そういう意味では不特定多数の相手とキスをする弟の恋人の暗喩にもなっている。
で、『シェアハウスの恋人・第4回』(日本テレビ20130206PM10~)脚本・水橋文美江、山岡真介、演出・中島悟を見た。前回はおおいぬ座を構成する星であるアルドラ(乙女)がシリウスの職場の同僚である望月メグ(木南晴夏)として活躍したのだが・・・今回は出番なしである。このドラマでは二等星扱いらしい。変わって火星人の孫である福井大(鈴木福)がゲスト子役として登場する。ボルックスがふたご座である以上、兄弟であるカストルがこれにあたる。そのために福井大は櫻井雪哉(谷原章介)と擬似父子関係を醸し出すわけである。
タイトルバックの光景は路上に座り込み途方にくれた津山汐(水川あさみ)からスタートする。これに異星人である川木辰平(大泉洋)が加わり、雪哉を呼びとめる。汐の弟の凪(中島裕翔)が恋人の錦野カオル(川口春奈)を連れてやってきて通行人を無視した青空一家団欒が完成するのである。彼らが底辺の人々であることは間違いないだろう。
まあ、自由っていうものは失うものがなにもないことだとジャニスが歌っているから、これはこれである程度幸せな場面なのかもしれない。キッドは寒そうだなとしか思わないが。
前回、名もなき男友達(吉沢亮)とキスをして、そのまま退場しかねないカオルだったが、キャスティング的にありえないために・・・さやあてのキスというキャラクターとしてはギリギリの展開で残留するわけである。書店員カオルなら、津山凪はかわいいフライパンで殴られてもおかしくないほどうざいキャラ設定なのだが・・・処女の老いた雌犬がヒロインであるこのドラマでは・・・そういうレトロな唐変木(偏屈で気の利かない人のこと)も存在を許されるのだろう。なにしろ・・・恋愛偏差値的にも底辺の話なのである。
無理矢理あて馬にされて、「俺の女に手を出すな」と言われる名もなき男友達には迷惑な話で・・・彼にとって凪は「うざい」というよりは「意味がわからない」レベルに違いない。まあ、キスだけでなく一夜を共にしていればそれはそれでやることやってるからいいかなのかもしれないのである。
「なんだよ・・・あんなところでキスさせておいて・・・それだけかよ」
「うーん・・・」
「ほら・・・もう、こんなになってるんだぜ」
「あらら」
「これはなんとかしてもらわないとねえ」
「しょうがないなあ・・・もう」
「しょうがないじゃすまないだろ・・・そっちだって・・・ほら」
「あ・・・」
「・・・」
「・・・」
「はあはあはあはあ」
「はあはあはあはあ」
「おりゃ・・・涅槃じゃ」
「あ~ん・・・極楽、極楽、極楽」
・・・いい加減にしておけよ。
まあ、とにかく実生活はおろかドラマ内でも肉体的恋愛禁止であるかのような帝国の方針を感じさせる童貞の弟がそんな感じなので処女の姉なんか片思いの相手が気まぐれで「いってきます」と言えば「いってらっしゃい」と応じてそれだけで擬似夫婦感覚が生じて天にも昇る気持ちになるらしい。
貸してもらったハンカチを洗たくしてアイロンかけて返したくても返せないもどかしさなのだった。
しかし、雪哉のものと思っているハンカチは実は宇宙人のものだったのである。
遠い宇宙の彼方で滅びた故郷の星を後にして放浪していた「彼」は汐の孤独を感知してそれを慰めるために人間化している存在なのだ。
もちろん、「彼」自身が孤独なので最終目的は汐との融合にあるのだが、そのためには片思いのように見えるプロセスを経由しなければならない宇宙人なりのルールがあるのだろう。
おそらく、最終回ではゲル状に実体化した辰平が汐を抱擁し溶解させ一体化するものと思われる・・・断じてそれだけはないと思うぞ・・・ええええええええええっ、そうなの?
火星人(もたいまさこ)から1/4火星人の孫・大の面倒を押しつけられた辰平。
武力侵略征服万歳童話「ももたろう」の勝者ももたろうを学芸会で演ずるという大を疑似家族一同はもてはやすのだった。
しかし、実際は・・・大の役どころは占領軍司令官ももたろうではなく、重戦車部隊のいぬでも、偵察・空爆部隊のきじでも、略奪暴行専門の歩兵部隊さるでもなく、あわれな戦争の犠牲者・敗戦国民のおにの三等階級(下層民)なのであった。軍事的にも底辺なのである。
妻・櫻井真希(須藤理彩)に詰られ子・空知(君野夢真)を含めたすべてを捨てて出奔した雪哉は「ゲリラ戦で徹底抗戦」ではなく「立派に玉砕」することを大に指導するのだった。
つまり「底辺には底辺の生き方がある」ということなのであろう。
ご褒美として辰平とのプラネタリウムでデートをゲットした雪哉。
満点の星空の下で恋人気分を満喫しようとするが、星座の中にすでに滅んだ故郷の主星を見出した辰平は涙にくれる。
仕方なく、雪哉は堕落する前に得た教養で18世紀、ドイツのヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテにより書かれた教養小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の第二巻第十三章の一節、「涙とともにパンを食べた者でなければ人生の味は分からない」を引用して慰めの言葉に代えるのだった。
ちなみにヴィルヘルムは貴族の息子で役者を目指して放浪したり女に溺れたり宗教に目覚めたり幼女を養女にして可愛がったりします。
涙の味のするパンの他には「ベッドで一晩泣き続け夜明けを迎えたものでなければ神の恩寵を受けることはできない」などともつぶやいています。
悩み多きものは「ゲーテってすげえ」と応ずる他はありません。
もちろん、本人は苦悩の果てに悪魔に地獄に引きずり込まれ光を求めて死んでいくわけですが。
とにかく、汐がハンバーグから肉詰めピーマンに進化した頃・・・ついに夫を精神的に殺した妻が来襲してきたのだった。
汐は雪哉を再生して、息子の処に送り届けるという夢想を抱いているが、その中には妻の存在は含まれない。
つまり、汐はお腹を痛めないで息子とその父親を得ようとしている夢見がちな乙女なのである。
その幻想を粉砕すべくあらわれた恐ろしい妻がどのような言動を展開するかは次週のお楽しみです。まあ・・・それを楽しめる人がいるかどうかは別として。
年下の男の子と共作する脚本家の脳内に悪いものが湧きだしている傾向が伺えますな。
しかし、それはそれで妄想的には面白いのですな。
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