アレックスはなぜデボチカをフィリーしてトルチョックするのか?(生田絵梨花)
「時計じかけのオレンジ/アンソニー・バージェス」(A Clockwork Orange/Anthony Burgess)が発表されたのは1962年である。
アンソニー・バージェス(1917-1993)は英国の作家で母は早世し父親はろくでなし、彼は酒と煙草の店を営む叔母によって育てられたという。
1960年代初頭、合衆国の大統領はジョン・F・ケネディであり、東西は冷戦中。ソ連では広島に投下された原爆3300発分の威力があるというツァーリ・ボンバという人類史上最大の水素爆弾の実験を行っていた。ドイツでは東ベルリンと西ベルリンを隔てるベルリンの壁が「時計仕掛けのオレンジ」発表前年の1961年に建設されている。暴力と貧困そして戦争が世界を恐怖のどん底に叩き落としていたのである。
そのような時代に、暗い近未来を描いたのがこの小説である。
そこでは全体主義の匂いが漂い、ロシア語と英語は融合している。
英国の若者は暗黒時代を生きているのである。
若者たちはナッドサット(ティーンズ)と呼ばれるスラングで会話を交わす。
デボチカと言えばたわわな巨乳と濡れたご機嫌な穴を持つ性器の所有者であり、フィリーはそれを仲間たちと交互に堪能すること、トルチョクは使用済みの性器の所有者を容赦なく撲殺すること・・・というような暗示を含んだ描写がてんこ盛りされている。
そんなものを小学生時代に堪能していたヒロインに萌えるか萌えないかはそれぞれの感性によるだろう。
削除された最終章があった方がいいのか、なくても別にかまわないのかもそれぞれによるのである。
スタンリー・キューブリックによって1971年に映画化されているわけだが、それが不朽の名作なのかどうかも人それぞれなのである。
とにかく、あらゆる表現になんらかの制限をかけようとするバカは死ねばいいとキッドが考えることだけは間違いない。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第5回』(フジテレビ20130211PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。情報入手の適齢期の問題である。しかし、個人差がある以上、適齢期の規定は非常に困難だ。そして、小学生の責任能力を問うのも困難である。つまり、人は何歳になったら聖書を読んでいいのか。何歳になったら殺せるようになるのか。そういう問題なのである。・・・その辺にしておいたらどうかね。中学生じゃないんだからな。
篠川栞子(剛力彩芽)は聖桜女学館の図書館に書籍を寄贈するために出張して・・・ついでに必要図書の注文を受けるのだった。地道な営業活動なのである。
担当職員の杉浦(阿南敦子)は中高生に「読ませたくない本」を選別する。
栞子としては「読ませたい本」を選別してきたために些少の摩擦が生じる。
「時計じかけのオレンジ」は有害図書に指定されてしまった一冊だった。
「文学的評価が高い作品を性描写や暴力描写があるだけで除外するのは検閲的じゃないですか」
「公序良俗を守る立場からある程度の情報制限は必要でしょう」
「その限度は誰が決めるのでしょうか」
「私が神なのです」
栞子は大人なので図書館警察相手の無用な抗争は避けるのだった。
搬入を手伝った中等部の図書委員はアイドル歌手のような美少女・田辺美鈴(生田絵梨花)だった。栞子は一目見て彼女が「毒入りオレンジ」であることを直感する。美しいものはそれだけで悪だからである。
ビブリア古書堂の常連客となったらしい小菅奈緒(水野絵梨奈)は悩み相談をもちかける。
売春婦になったら一財産稼げるほど大人気になるらしい外見の持ち主である高校生の奈緒にはちびまる子ちゃんが似合う地味な中学生の妹・結衣(森迫永依)がいた。その妹が「時計じかけのオレンジ」の読書感想文で「悪を肯定」した問題生徒になり、その上、万引きをしてしまったというのである。
それほど勉強の得意でなかった姉にとって妹は成績がよく自慢の存在だった。
そんな妹が不良化してしまい、姉としては困惑しているのであった。
せどり屋(古書転売業者)の志田肇(高橋克実)や、その他のレギュラーを交えてさっそく結衣の感想文をチェックする。
もちろん、書物が読めない五浦大輔(AKIRA)のためには誰かが読んできかせる必要がある。しかし、栞子は黙読すると顔を赤らめるのだった。
仕方なく「CAFE甘庵」の店長・藤波(鈴木浩介)が代読するのだった。
「暴力と音楽を愛する中学生アレックスは仲良し四人組と麻薬に溺れ、ウルトラヴァイオレンスを競うために悪の限りを尽くすのです。敵対グループを襲撃し、ホームレスの老人を襲撃し、白い天狗面をかぶって人妻を凌辱した上で撲殺してしまいます。しかし、仲間に裏切られついに逮捕されてしまいます。警察で薬物を使用した洗脳処理を施されたアレックスは歩く植物人間に改造されてしまうのです。暴力にも音楽にも激しい拒絶反応を起こす体となり人畜無害になったアレックスは釈放されますが・・・非暴力体質になったためにかっての被害者からリンチなどの復讐を受けることになります。そしてついには自殺に追い込まれるのです。しかし、一命をとりとめたアレックスは政治家の美談に利用されて再び悪の人格を取り戻すことになります。物語はここで終ります。無理矢理、時計じかけのオレンジにされるよりもオレンジジュースに麻薬をまぜて飲む方が人間らしいかもしれない。私は善は強制されて行うものではないと教えられたような気がしました。暴力と音楽を失ったら人間なんて面白みがない時計じかけのオレンジなのですから・・・まあ、恐ろしい中学生だわ」
「猫カフェとかにいくようになるのよ」
「悪いアプリで人をおとしめるようになるわね」
「最後は多量摂取でおだぶつね」
「・・・私の妹を勝手に殺さないでください」と涙ぐむ奈緒だった。
しかし、奈緒が妹のために買った「時計じかけのオレンジ・完全版」を見た栞子は疑惑が確信に変わるのを感じたのだった。
「妹さんは・・・その本を読んでいないし・・・おそらく・・・読書感想文も書いていないと思います・・・」
唖然とする一同だった。
「なぜなら・・・完全版では最後にアレックスが・・・昔の俺は結構ワルだった・・・と懐かしむつまらない大人になるために悪行からの卒業を決意する・・・今なら少年Aですむ・・・的世間とのおりあい部分があるからです。それを読むと読後感は全く違うものになるはずです。ひょっとしたら感想文なんて書く気もおこらない蛇足のような結末ですからね」
「そ、それは人それぞれだけどね」
「ある意味、その方が本当に悪なのかもよ」
やがて、栞子の母校の小学校で読み聞かせのボランティアをやっている田辺美鈴と再会し、田辺美鈴と奈緒がクラスメートだと知ると・・・ヒロインは事件の真相に迫っていくのだった。
二人の中学生を呼び出した栞子は追求を開始する。
「美鈴さんは小学校の文集で・・・奈緒さんの感想文とそっくりの感想文を発見したのですね」
「え・・・私がなんでいちいちそんなものを読むんですか」
「おそらく、暇だったのでしょう」
「そして美鈴さんは万引きをしたのですね」
「え・・・なんで私が」
「犯人は逃げ足が速かったのです・・・奈緒さんはどんくさいので逃げ切れません」
「・・・」
「そして・・・感想文の盗作を内密にする代わりに万引き犯役を奈緒さんに押し付けたのです」
「・・・」
「何の証拠があって・・・」
「あの感想文は小学生の時に私が書いたものだからです・・・どうして・・・盗作を隠して万引き犯になったのか・・・教えてください」
「中学生なのに・・・小学生の作文を盗作したなんて・・・最高にみじめじゃないですか」
「まあ・・・ちびまる子ちゃん的にはそうかもしれませんね・・・」
「そうですよ・・・ちびまる子ちゃんがある程度幸せなのは・・・自分よりお姉ちゃんの方が美人だと気がつかない時までなんですよ」
「え・・・私のせいなの」と絶句する妹より美しい姉だった。
「じゃ・・・私はこれで・・・」と一番美しいかもしれない真犯人は去ろうとした。
「彼女にはおとがめなしですか」
「証拠がない以上・・・優等生と問題生徒では・・・ね・・・本当の悪は常に裁かれることはないのよ」
「あの・・・」と姉の方が美しい妹が言った。「私も帰っていいですか・・・私、潔癖症なんで・・・この古本の匂いが・・・もう、限界なんですけど・・・」
古本の匂いが平気な人々はうつむくしかないのだった。所詮、臭いものが平気な人間の集まりなのだから。
作家たちは皆思っている。図書館で借りたり、古本屋で購入せずに・・・新刊を買ってください・・・と。
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