書店員ミチルのでんぐりがえる胃の腑と呪いのフライパン(戸田恵梨香)
幸運と凶運は背中合わせだと考えるものがいる。
しかし、世の中には幸運に恵まれ続けて天寿を全うするものがいないわけではない。
そういう事実を前にすると・・・運命論者は「でも、結局、死んじゃうわけでしょ」とつぶやいたりもする。
あらゆる物語はどこかで運命論者に迎合するのである。
生れて以来、ずっとずっと幸福でした・・・では話にならないからだ。
宝くじの高額当選者であるにもかかわらず、この物語のヒロインは毎日、地道に働いて、その上、神経をすり減らし続けるのである。
そのストレスに精神失調する勢いなのである。
悪魔としてはニヤニヤするしかないのですなーーーっ。
で、『書店員ミチルの身の上話・第8回』(NHK総合201302262255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。長崎の宝クジ売り場の女(大島蓉子)は「この売り場から高額当選者が出ました」の貼り紙を恨めしく思う。奇妙な妄想にとりつかれた人々が次から次へとやってくるのだ。「私が当選したんですけど宝クジが見つからないんです。私、確かにここで買いましたよね」「私なんです。私が当選者なんです」「あなたでしょう。あなたが当たりくじを着服したんでしょう」「ははははは」「当選したのは誰なんですか」「この女が来ませんでしたか」「この女が宝くじを持ち逃げしたんです」
妄想にとりつかれた中年女・立石武子(濱田マリ)には「宝くじ売り場の女が言うのもなんですけど幸せはお金じゃ買えませんよ」とアドバイスしてみるのだった。
そして、「この傘・・・」と問う女・初山春子(安藤サクラ)には「忘れ物だよ・・・ずっと取りに来ないんだ・・・欲しけりゃあげるよ」と投げやりになるのだった。
職務として当選者情報はもらせないし・・・宝クジを買わないなら気安く声をかけないでほしいのである。
しかし、春子は疑問を感じる。「ミチル(戸田恵梨香)は東京で買ったと言ったのに・・・なぜ、ここにミチルの傘があるの・・・」
竹井輝夫(高良健吾)の叔母である沢田早苗(浅田美代子)が永年介護してきた老母が死んだ。早苗はたった一人の肉親である甥に電報・・・ではなくてメールを送った。
「ソボシンダ、スグカエレ」
「私は新聞を買いました。最近は新聞を定期購読しない人が多いと思いますが、知人が自殺したことを記事で確かめられないと困るので新聞は存続してほしいものです。ああ・・・竹井が電話で言った通りに高倉恵利香(寺島咲)さんが踏切で渋谷行きの特急電車に飛び込んだことが報じられています。どうやら自殺とみなされているようです。かわいそうな恵利香さん。私を守るために久太郎(柄本佑)をうっかりフライパンで殴り殺してしまい、そのために精神を病んでしまったのです。飛び込み自殺をするなんて他人の迷惑を考えない人だとばかり思っていたのですが。私には飛び込みたくなる理由がある人が身近にいたことに驚いて興奮したのです。恵利香さんはもういないのです。体はバラバラになってしまったのでしょうか。恵利香さんの首や手や胴体がそこらじゅうに撒き散らされたのでしょうか。私はおえっとなりました。恵利香さん・・・恵利香さん・・・どうか、神様、恵利香さんを御救いください。恵利香さんは確かに人殺しですが・・・悪気はなかったと思います。それなのにあんなに気を病んで・・・もう充分ではありませんか。どうか、天国の扉を開いてください。ふとうしろをふりかえるとそこには夕焼けがあるように天国の扉を開いてくださいますように。恵利香さん、ああ、憐れな恵利香さん。・・・そういえばと、私は竹井の部屋に恵利香さんの荷物があることに気が付きました。ひょっとしたら遺書のようなものがあるかもしれないと・・・私は荷物を開いてみました。すると・・・そこには私が一樹さんに渡した銀行の袋と・・・一樹さんのものとばかり思っていた置き手紙が入っていたのです。なぜ・・・こんなものが・・・私は眩暈をかんじました。クラクラと世界が廻っています。なんでなんでなんでなんでなんで・・・私は疲れ果ていつしか、眠ってしまったようです。ふと気がつくとタテブーが鬼の形相で立っています。私にはわかっていました。嫉妬にとりつかれたタテブーは生きながら地獄に落ちて生霊となってやってきたのです。タテブーは悪魔の蛇を体にまきつけながら私を呪詛するのです。アンタ、アンタガイナケレバ、一樹(新井浩文)サンハ、ワタシノモノダッタ、一樹サンニダカレルコトガワタシノ、タッタヒトツノ快楽ダッタノニ、ドウシタノ・・・ワタシノ一樹サンヲドウシタノ。知らないわ。知らないわ。ジャ、久太郎サンハドウシタノ。知らないわ。久太郎には会ってないもの。ウソツキ。久太郎サンハ死死死死死死死死・・・殺殺殺殺殺殺殺殺・・・ちがう、私は殺してない・・・ジャ、一樹サンモ殺シタノネ。知らない。私は知らない。死死死死・・・殺殺殺殺・・・遺棄遺棄遺棄遺棄・・・私は恐ろしくて覚醒しました。しかし、悪夢の恐怖よりも現実の恐怖はもっと恐ろしいのです。一樹さんも殺されてしまったのか。竹井と恵利香さんが始末してしまったのか。そして、恵利香さんも殺されてしまったのか・・・竹井が殺してしまったのか。私は急に竹井が恐ろしいモンスターであるように思えてきました。そして・・・私はそのモンスターの巣窟に潜んでいるのです。私は腰を抜かしそうになりましたが、やっとの思いで立ちあがりました。私も殺されてしまう。逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。とりあえず、誰かに助けを求めなければなりません。もう、頼りになるのは春子さんくらい。私は電話で助けを求めました。そして、荷物をまとめて逃走したのです。しかし、私はあっさり竹井につかまってしまったのです。・・・どうしてそんなに怯えた顔をしているの・・・と竹井が尋ねます。あんたがこわいからに決まってるでしょ。・・・などとは言えません。恐ろしくて恐ろしくて私はおえっとなりそうです。殺殺殺・・・殺殺殺・・・狂凶恐狂驚愕狂人嗚咽恐慌凶悪狂凶怯脅恐・・・・私は我を忘れて竹井を問い詰めました・・・恵利香さんは本当に自殺したの・・・僕は彼女の部屋で彼女を待っていただけだよ・・・あなたが殺したんじゃないの・・・僕はそんなひどいことはしないよ・・・じゃ、一樹さんをどうしたの・・・みんな、ミチルちゃんを守るためだよ・・・あの男はミチルちゃんのお金を狙っていたんだよ・・・お金って・・・ミチルちゃんが持ってる二億円だよ・・・私はもう我慢できませんでした。内臓が痙攣していました。私は嘔吐したのです。もうすべてゲロしてしまったのです。反吐を吐く私の耳に幼い歌声が聞こえてきました。おそろしげにのしかかる夜の闇の中で私は竹井の正体を思い知ったのです。・・・ほねまでとけるようなてきーらみたいなきすをしてよぞらもむせかえるはげしいだんすをおどりましょう・・・昔、ミチルちゃんが家に遊びに来た時に録音して遊んだでしょう。これはぼくの一番のおきにいりだったんだ。高倉さんに聞かせたら彼女も気にいってくれたみたい。いやされるよね、これからもずっとミチルちゃんを守ってあげる。ぼくとミチルちゃんはずっとずっと一緒だよ・・・はなびはまいあがりすこーるみたいにふりそそぐきらきらおもいでがいつしかおわってきえるまで・・・私はいつの間にか呪いのフライパンを手にしていたのです・・・恐怖は私を突き動かしていました・・・さよならずっとあもーれあもーれこのよであなたひとり・・・殺される前に殺すしかなかったのです・・・気がつくと竹井が床によこたわっていました。私は手ごたえを感じました。金属と骨がぶつかる音を聞きました。彼女もまたこんな気分だったのだろうか・・・私は息をするのも忘れて立ちつくしていたのです」
騎兵隊のようにかけつける春子。そして・・・ミチルへの敵意をむき出しにしていたタテブーは竹井の殺すリストにのり、チェック済なのか・・・どうか。そして一部、お茶の間待望のミチルの夫の職業は・・・。真犯人を殺したとしたらミチルは連続殺人犯になってしまうのでは・・・。次週、絶対に見逃せません。
関連するキッドのブログ→第7話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様の書店員ミチルの身の上話
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コメント
竹井は本当に死んだのでしょうか?
死んだはずの竹井がやあミチルちゃんとか言ってつきまとって来る展開なのかな(?_?)
ミチルはやはり破滅ですかね。
なんか結婚はしてるみたいですけど。
これがドッキリでもないかぎりハッピーエンドはなさそうですが。竹井役の高良さんの演技がとても素晴らしかったです。
投稿: 出雲 | 2013年2月27日 (水) 13時15分
久太郎の時と違って
血がドクドクとながれませんでしたからね。
ミチルは恵利香ほど腕力なさそうですし、
フライパンは凶器としては
二人も三人も殺すアイテムではないような気がします。
だから・・・竹井は生存していると妄想いたします。
キッドはミチルの妄想の中で
恵利香が一樹殺しの凶器として
フライパンを振るってるところが
今回の最大の爆笑ポイントでございました。
フライパンの地位下落なのか向上なのかは
それぞれの感性によると思いますが
キッドの中では
フライパンの価値が赤丸急上昇中。
ミチルは結局、一人では生きていけない女・・・。
頼りになる誰かが必要なのですが
その誰かは自分で選びたいし
好みはきびしい。
そういう人を得られればハッピーエンドなのでしょうな。
冤罪が生じなければ
ミチルの罪は・・・
たとえ、竹井が死んでいたとしても
それほど重くないので
刑期を終えればそれなりに幸福になってもおかしくありません。
竹井は死んだとしても亡霊としてミチルにつきまとうことは間違いないでしょう。
生きていてもつきまといますがーーーっ。
まあ、NHKのドラマなので

「人なんて殺したって幸せになれる」というブラックな展開はないと考えますけれどもーーーっ。
しかし、情状酌量的な陽のあたる場所はあるかもしれません
投稿: キッド | 2013年2月27日 (水) 15時30分