妹(平田薫)に面倒くさい女と言われてごんぼほる(だだをこねる)女(真木よう子)
面倒の意味が面倒くさいのだが、ストレートに考えれば顔面を倒すことである。
つまり、お辞儀である。
頭を下げることの意味は東洋人なら基本的に、感謝や陳謝、屈服、降伏、恭順などの態度を示すことである。
どうか、お気のすむまで頭ぶんなぐってくださいという気持ちを顕わにしているわけだ。
それが転じて、あやまりたくないのにあやまる。礼儀正しくしたくないのにしている場合に・・・面倒(おじぎ)を厭う気持ちが生じる。その気持ちが面倒そのものになってしまったのである。
なにしろ、面倒となれば面目を失うことになるのである。
つまり、面倒くさいということは感謝したくないのに感謝したり、謝罪する気もないのに謝罪するのが嫌だという気持ちの表現なのである。
面倒くさいでしょう。
この気持ちが高じると会釈すら面倒くさくなり、挨拶を返すのも億劫になります。
散歩していたり、乗り物に乗っていたり、買い物していたりすると時々、他人の子供が駄々をこねている場面に遭遇する。
もちろん、他人の子供のすることなので笑ってすませればいいのだが、時々、泣きわめく子供を恫喝したり、ぶんなぐったり、蹴り飛ばしたりしたい衝動にかられることがある。人前で感情を露わにすることなど面倒を心得ぬことだからだ。そういう面倒に縛られない自由な子供に嫉妬し、義憤にかられるからである。
もちろん、駄々をこねる子供を放置していた保護者は蒼白になって抗議してくるだろうから、それも場合によっては半殺しにしてもいい。しかし、そうなれば誰かが警察に通報したりするだろうから、警察官とも大立ち回りを演じなければならない。場合によっては殺すか殺されるかの事態になるだろう。
逮捕でもされたら「面倒をおかけします」と面倒をしなければならないのである。
それはあまりにも面倒くさいので耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ばねばならない。
生きて行くのは面倒くさいことだなあ。
で、『最高の離婚・第5回』(フジテレビ20130207PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。元夫の濱崎光生(瑛太)のコートを着て外出した元妻の星野結夏(尾野真千子)は擬似妻の紺野灯里(真木よう子)と擬似夫の上原諒(綾野剛)の婚姻届を発見してしまい、居合わせた擬似妻との気まずい空気をごまかすためにカラオケに誘い、その後で大学生に誘惑される。そこほ擬似夫と合流した元夫がやってきて、元妻への嫉妬に燃えた元夫は大学生と対決しようとして転倒、肋骨を骨折したのだった。
普通の人になれないのには二つの方向性がある。頑張っても普通のことができない方向と、普通であることを拒否している方向である。後者は人とは違うことをやって世界一を目指したり、人のしないことをして刑務所に入ったりする場合があるのだが、前者はかわいそうな人なのである。元夫は明らかに前者であるために・・・ものすごく面倒くさいけれど駄目なところが可愛いのである。
だから・・・元妻はその可愛さに免じて・・・男の面倒くさいところに構ってきたのだった。
しかし、介護によって蓄積した疲労に耐えかねてついに離婚に踏み切ったのである。
だが・・・基本的に元夫の世話をやきたい気持ちは残っていて自分をもてあますのだった。
けれど、知り合ったばかりの清掃員のアルバイト・初島淳之介(窪田正孝)に元夫の悪口を言い募っている時に「他の男の話なんて聞きたくない」などと甘えられるとウキウキしてくるのだった。
どうして、人は嫉妬されるとなんだかうれしい面倒な気持ちを持つのでしょうか。
一方で入院した元夫を見舞ったり、元夫の前で他の男と食事をしたりして、元夫の心をくすぐる歯科衛生士・海野菜那(芹那)が現れると元妻とやりなおしたいとか、昔の同棲相手である擬似妻への未練があるとかなどという面倒を忘れてニヤニヤとデートの約束をしてしまう元夫だった。なにしろ・・・面倒を面倒と思えない男なのである。
元夫は性欲だけは人並みなのである。
しかし、擬似夫の性欲は人並み外れている。しかも性の狩人なのである。だが・・・その生い立ち・・・どうしてそうなってしまったのか・・・擬似妻の他に第2の女・有村千尋(小野ゆり子)、第3の女・光永詩織(大谷英子)、第4の女・日野明希(遊井亮子)と同時並行テトリス三昧をしながら・・・自分をつまらない男と自嘲するに至る物語はまだ秘密なのである。
なんと・・・すでに過去は明らかになったと思われた擬似妻には裏の顔が隠されていたのだった。
元夫の素敵な思い出が「死ねばいい」という思いに炎上したように・・・浮気がちな擬似夫を愛しているから許しまくる緩い女も表の顔だったのだった。その菩薩な顔の裏には嫉妬に燃えあがる夜叉が潜んでいたのである。ある意味、自他共に物凄く面倒くさい女なのだった。
しかし・・・人間というものはある程度、面倒くさいことにも折り合いをつけて生きて行くものなのである。
そういう人生を生きて来た元夫の祖母・濱崎亜以子(八千草薫)の提案で熱海温泉に夫婦でないのにダブル夫婦旅行に出かけた濱崎・星野・上原・紺野の四氏であった。
じっくりつかった温泉で心身ともにリフレッシュした四人、秘宝館にてクジラの性器、四十八手フィギュア、おお歌麿呂な浮世絵コーナー、おサスリ弁天、ラブラブサイクリングでしっとり濡れて、数の子天井ほいさっさ、「ごめんなさい」と過去を詫びる擬似夫にほだされて燃えあがる熱海の夜を満喫した擬似妻。
元夫婦を保証人として、婚姻届提出の再チャレンジを目指すことに合意したのである。
しかし・・・めぐる因果か、血縁の切っても切れない腐れ縁。
突如、来襲して、姉のおしゃれな東京生活に妬み心が燃えあがる妹・実里(平田薫)に凶器と化した故郷訛りで心の暗部をえぐられて精神的鮮血ほとばしる擬似妻なのであった。
一方、秘められたままの過去と決別せんと、手切れ話の連打にて悪口雑言のりこえて、紅茶でやけどもなんのその、濡れたシャツも新調し、結婚指輪を購入して竜の顎に乗り込む擬似夫も風前の灯なのだった。
「私は父が好きでした。湊湊に女あり。けれどもいつかは必ず帰ってくる。そんな父が好きでした。しかし、母には地獄の苦しみ。他の女を抱きまくり、他の女の匂いをふりまき、他の女の影に身もだえて眠れぬ夜を泣き暮らす。そんなみじめな母が嫌いでした。父のことは嫌いになれなかったのです。だけんじょ、あだじの半分さおっ母の血は流れでんだべ。あんだの帰らね夜さ枕さ涙で濡れちょびれ、こんつけて(いじけて)まいね(駄目)女になっじまうんだ。お父を恨んで怨んで生きたおっ母のようにあんださ怨んで生きる女になっぢまう・・・だはんで、あんだと結婚できね・・・あんな女になりだぐね・・・へば、触んねで」
擬似夫は自分が苦しめた女に泣いた。そしてそんな自分自身に泣いた。
そして耐えきれずに家を出る。
しかし・・・ここが辛抱の時かもしれぬと足を止める。
そこにかかるは第四の女の誘いの電話。
「紅茶熱かった?・・・火傷してない?・・・今晩逢える?」
「・・・今、どこにいるの」
全国の家計が苦しい皆さま絶叫、値段もわからぬ指輪は投げられたのだ。
擬似夫の秘密、今夜も据え置き・・・まあ、最後に残った秘密だもんねえ。
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