もしわたさぬとおっしゃればただではすまぬ(安田成美)
コミック「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」(1953年)は後の藤子不二雄、現在の藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐによる共作である。
当時の近未来を舞台にしたファンタジーであり、東西冷戦による最終戦争の勃発と、その後の人工生命による地球支配と旧人類の反乱を描き、最終的には無力なものが勝利するという結末を迎える当時としては一大スペクタクルだった。
現代の人々と違い、夢の中の古書店を持つ者ならば一度はコレクションに加えたいと思う幻想のアイテムである。
「そこに行けばどんな本も購入できるというよ・・・」と鼻歌を歌いながら、夢の街角を曲がれば、獣の匂いのする老夫婦が営む暗い店屋があり、棚にはそれが並んでいるわけである。
それは確かに手にとることができ、小銭で購入できるのだが、目覚めれば何故か、消えてしまう類のものである。
だが、時にはその店にもない「もの」というものがあり、入荷の日を待ちわびるのだが・・・けして、それが手に入ることはない。
だが、今や現実の世界では銀行にある程度の残高があれば、手に入らないものはないのである。
庶民の夢が高じれば復刻版なんかも出版されるし、素晴らしいインターネットの世界では大抵のものが電子化されている。
夢は現実となり、現実は夢となる。
それが本当に素晴らしいことなのかどうかは別として。
有名な話だが、「UTOPIA 最後の世界大戦」には女性がただ一人も登場しない。若きクリエーターが最初からその存在を想定しなかったからだという。それを恐ろしいと感じるか、物哀しいと感じるかはそれぞれの感性によるだろう。悪魔としては微笑むばかりである。
今回のタイトルは最終兵器の受け渡しを拒む科学者に対する政府高官のセリフからの引用である。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第7回』(フジテレビ20130225PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。姑息な引きで連続ドラマ展開をしたためにやや、ドラマとしての格調が破綻したように感じる。まあ、視聴率的に14.3%↘12.2%↘12.0%↘11.6%↘11.5%↗11.7%と月9としてはやや低迷しているので編集で可能な小手先の技を使わざるを得なかったのだろう。まあ、しょうがないよね。昔の常套手段を楽しむのも一興なのである。↘10.4%で結果は出なかったけどね。
「晩年」を求める狂気の男・笠井菊哉(田中圭)は病院の屋上にビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)を追い詰める。
だが、男の目前で栞子は「晩年」を焼却して捨てるのだった。
ここで追いかけた笠井が屋上から墜落すれば・・・まあ、いいか。
病院の玄関では晴れ渡り陽光さえ射していたがアルバイト店員の五浦大輔(AKIRA)が屋上にかけあがると魔界と化した超時空間は吹雪が吹き荒れるのだった。
「なんてことをするんだ・・・」
「本のためなら人も殺せるのさ・・・俺はそういう人種なんだ・・・この女だって同じさ・・・奪われるくらいなら大切なものを燃やすんだからな」
「ちがいます・・・私には本よりも大切なものがある・・・あなたと一緒にしないで」
「じゃ・・・大人しく・・・よこせばよかったじゃないか」
「太宰は・・・この本を誰かのためによかれと思って書いたのに・・・時を経て・・・本の存在が凶悪なものに変じていた・・・消してしまうしかなかったの・・・あなたの呪いも解けたでしょう・・・もう、執着するものがなくなってしまったのだから」
「作家が何を思って書いたのかなんてどうでもいい・・・作品と作家は基本的には無関係だろう・・・」
「見解の相違です」
予算の関係で、「ハンチョウ」から二人の刑事が長期出張したかのように、何者かの通報でかけつけた警察関係者が傷害罪らしき罪で笠井を逮捕連行したらしい場面は省略される。貧乏な時代なのである。
笠井の動機は笠井一族の没落に原因があった。
弁護士でもないのに面会を許された五浦は拘置所の笠井の語りを聞く。
「あの晩年は俺の祖父の持ち物だった・・・経済的危機がその流出を許した。あの本を回収することは一族の悲願だったのだ・・・もはや、その願いもむなしくなったよ」
「なんか・・・今年の正月に相棒で同じような話を聞きました」
「偶然ってこわいよな」
しかし・・・すべては栞子の罠だったのである。栞子は複製本を燃やし、「晩年」の喪失を擬装していたのだった。
真相を聞かされた五浦は戸惑うのだった。
「どうして・・・そこまで本にこだわるんです・・・」
「たかが・・・本だとあなたは思うんでしょう・・・」
「いいえ・・・そうは思いません・・・たかが栞子さんとは思いませんから・・・栞子さんが大切だと思うものは・・・尊重したいと思います」
「月9ですものね」
「月9ですから・・・」
家族や恋人よりも趣味が大切だという人は抹殺される運命なのである。
だが・・・結局、栞子は命より大切な「晩年」を凶悪なライバルから守りきったのだった。
しかし、そんなことであの笠井が騙されたかどうかは疑問である。
本をそれほど愛していない五浦のわだかまりを残して話は進んでいくのである。
ビブリア古書堂に新しい客がやってきた。
古書の買い取りを希望する須崎(井浦新)は栞子が店主だと知ると、「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」の初版本をいくらで買い取るかと問う。
「状態にもよりますが・・・100万円単位になりますね」
すると、男は書きかけた住所と古書を残し、立ち去ってしまう。
栞子は謎めいた男の言動に興味を持ち、男の家を探り当てる。
須崎が狂気の上皇クラスのハンサムであったために心中穏やかでない五浦だった。
いつの間にか、栞子の体が目当ての男になったらしい。
須崎は栞子の来訪を待ちかねていたのである。
「実は・・・あなたの母上は私の初恋の相手だったのです・・・」
五浦はよからぬ妄想にかられたのだった。
「あなたが・・・あの人にそっくりだから・・・きっと娘さんだと思ったのです」
栞子は十年前に家を出て消息不明になった母親・千恵子(安田成美)を思い出した。
キッドが安田成美を初めてみたのは彼女が18歳の頃だった。「風の谷のナウシカ」のイメージ・ソングを歌っていたころである。宣伝材料の視聴盤を受け取りながら・・・これはただならぬ美少女だと思ったことを今でも覚えている。
とてもじゃないが・・・千恵子と栞子の親子関係は直感できないと思うが、狂気の上皇様クラスのハンサムが断言するのだから従う他はないのだった。
須崎は栞子の母親との出会いを語りはじめる。
・・・須崎の父親(でんでん)は藤子不二雄のコミックのコレクターだった。須崎が少年だった頃、「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」がかなりの高額で売りに出されたことがあった。須崎の父親にはそれを買うだけの経済力がなかった。そんなある日、父子はビブリア古書堂に古書を売りに出かけた。そこで父親は法外な安値で売られている「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」初版本を発見し、興奮して店を飛び出してしまう。栞子の母親は栞子と同様に、須崎の父親が置き忘れた本を届けてくれたのである。須崎の父親は栞子の母親を「善意の第三者だ」と言い、須崎は美貌の千恵子に懸想したのだった。
栞子は微笑んで・・・「UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄」は形見として残すがそれ以外の死んだ父親の残したコレクションを買い取ってほしいという須崎に同意する。
店に戻った五浦は「素敵なお母さんだったんですね」と栞子に語りかける。
「いいえ・・・そんなことはありません。あれは盗品です」
「え・・・」
「盗んだのは須崎さんのお父様だったのです。故人はうっかり、売却古書の中にあれを混ぜてしまったのでしょう。そして、あわててあれを持って逃げ出したのです。私の母はあれを見逃さなかったのです。母は須崎家を訪ね・・・取引を持ちかけたのです。窃盗罪を見逃す代わりに・・・おそらく・・・須崎さんのお父様のコレクションの一部を譲り受けたのです。その見返りとして盗品に安い値段をつけたのです。現在のように古物売買の規制が厳しくなかった時代に・・・盗品で商売をするのは普通のことでしたから。須崎さんのコレクションはそれなりに充実していましたが・・・ある時期のものが欠けていました。おそらく、それは母が引き取ったのでしょう。何より、母がそんな安値を・・・UTOPIA 最後の世界大戦/足塚不二雄・・・につけることはありません。母は私よりもっと厳しい古書商人だったのです」
「・・・」
「幻滅したでしょう」
「そんなことはないですよ・・・なんだか、プロフェッショナルな感じで憧れます」
「・・・」
「ところで・・・足塚不二雄って・・・他にはどんな作品を描いてるんですか・・・」
「・・・・・・・・・ドラえもんとか」
「えーっ」
「ドラえもんは知っているのですね」
「アニメで見ました」
「なるほど」
世界最終戦争における恐ろしい最終兵器「氷爆」により、凍りついた世界。
様々な苦難の果てに主人公の少年は死んだとばかり思っていた父親に再会する。
父親は息子に問いかける。
「科学も必要だが・・・大自然の理想郷(ユートピア)もなくてはね・・・戦争のない大自然の・・・」
息子は呑気に応じる。
「銀座のようなにぎやかな通りもよいけれど・・・月の田舎道を歩くのも人間にとっては必要だと・・・」
父親がパイプ煙草の煙を燻らせる。古き良き幼年期だった。
栞子と行方不明の千恵子との母娘関係はもう少し、緊張しているらしい。
関連するキッドのブログ→第6話のレビュー
シナリオに沿ったレビューをお望みの方はコチラへ→くう様のビブリア古書堂の事件手帖
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コメント
キッドさん☆こんばんは(^^)
たびたびお邪魔しちゃって恐縮ですm(_ _)m
今までラストの本の紹介が読みたくて毎週 なんとはなしに見てました
先週のラストはこのドラマにしてはドラマチックだった気もしますが屋上に逃げる行動が??で今週も期待してなかったんですが すごく面白かったです!話そのものが興味深かったし第3者の善意の意味も足塚不二雄の名前も知りませんでした
UTOPIAの内容も詳しく教えて下さってありがとうございます
やっと面白くなったのに右肩下がりの視聴率みたいですね
ラストにお母さんとの再会があるのかどうか興味深いです☆
投稿: chiru | 2013年2月26日 (火) 18時03分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃ いませ・・・大ファン
いえいえ、いつも御来訪には感謝しておりまする。
紅茶とアーモンドドーナッツでもお召し上がりくださいませ。
ラストの本の紹介はなかなか丁寧でよろしゅうございますな。
ネット上で簡単に読める作品もありますが
そうでないものもございますからね。
ドラマは単体でも楽しめる内容になっていますが
原作を含めて主題となる古書と
物語がそこはかとなく連動している醍醐味もありますので。
「読書人」や「書籍愛好家」が
必ずしも孤独を愛するとは限りませんが
その傾向は高いと言えましょう。
なにしろ、読書内容を共有することは
かなり困難なことですから。
また、今回で言えば
善悪の相対性とか
幸福な世界の暗黒性とか
そういうものが
このドラマがどこか不気味なものを秘めていることを
暗示しているような気がいたします。
ある程度・・・視聴率上昇は難しいかもしれませんねえ。
キッドはヒロインに対してはまあまあだと思っていますが
今回は安田成美と似ているというセリフが
妄想修正の域を越えてしまったのですな。
それは・・・いくらなんでも無理があるだろうと考えます。
安田成美は純然たる美少女。⇒吉永小百合系
剛力彩芽はファニーな小悪魔。⇒吉田日出子系
まったくタイプが違うではありませんか。
いや・・・右目はちょっと似ているかな。
まあ、それはそれとして・・・。
栞子と千恵子の母娘関係の秘密が
いかなるものであるのか・・・。
はたして千恵子は生存しているのか・・・。
とても楽しみでございます。
投稿: キッド | 2013年2月26日 (火) 20時56分