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2013年3月31日 (日)

あまちゃんを待ちながら・・・さよなら!純と愛(キッド)

「2013年春ドラマを待ちながら・・・」を書く頃あいなのだが・・・明日、「八重の桜」をレビューするともう、「あまちゃん」が始ってしまうのである。

(月)あまちゃん

(火)あまちゃん

(水)あまちゃん

(木)あまちゃん

(金)あまちゃん

(土)あまちゃん

(日)八重の桜

・・・これはある意味、すごいラインナップだよな。

しかし、いろいろな意味でもたないよな。

それはそれとして・・・土曜日はいろいろな意味で「最終回」だった。

「アテルイ」的に後篇だったし・・・「SP」も「革命編」まで来たわけである。

アテルイもマップの用意ができているし、SPも一応・・・ドラマからの流れをふまえて書きたいわけだが・・・それは四月の谷間を埋める記事にしたいのだった。

だから・・・今回は史上最悪の朝ドラマについて雑感を記すことにしたい。

で、『連続テレビ小説・純と愛・第1回~最終回(全26週)』(NHK総合20121001AM8~)脚本・遊川和彦、演出・梛川善郎(他)を見た。なんだかんだと全話見てしまったのである。だから「純と愛」と書いただけで遊園地のようなBGMや「信じていれば~」という主題歌が脳内に鳴り響くのだった。ヒロインの純を演じる夏菜は名作「モップガール」(2007年)で佐藤二朗の姪という設定の女子高校生だったわけだが・・・長い潜伏期間を経て映画「GANTZ」(2011年)で体を張って一発当ててここである。もう、応援したい気持ちでいっぱいのお茶の間だっただろう。しかし・・・基本的に拙いセリフまわしの上に・・・ある意味、ものすごく嫌な性格のキャラ設定である。拷問ですな。

ともかく・・・作者自らが・・・実の父親への怨みつらみをすべて注ぎ込んだと言うだけあって・・・ヒロインの父親・善行(武田鉄矢)が鉄也史上最悪の性格設定なのである。

しかし、それだけでなく・・・登場人物一同が全員、登場するだけで不快になるという奥深い展開なのだった。

女子より男子を明らかに贔屓する母親。妹を一度も可愛いと思ったことのない兄。いきあたりばったりでいきあたりばったりな弟。女を見れば寝ようとする異性の同僚。すべての女に嫉妬する同性の同僚。超能力者であるために就職できない恋人。そして、全員が超能力者であり、ヒロインを毛嫌いするその家族。これでもかといやなムードがたちこめるのである。

しかし・・・そんな番組が20%近い視聴率を常時獲得しているのである。

まさに・・・悪夢そのものだなあ。

そして、「二度と落ち込まない」と誓いながら、毎週、月曜日に落ち込んでは週末に立ち直る不屈のヒロイン・・・。

ホテルは倒産し、旅館は全焼し、ペンションは台風直撃である。

台風直撃の度に室内が泥だらけになるペンションに誰が泊るというのだ・・・などというツッコミはもはや・・・第三部になると言うだけ無駄な気持ちになるのである。

「認知症患者には優しく接してください」と言われても・・・介護に疲れ果てついきつい口調で世話を焼いたりしてしまい、「どうせ覚えてないからな」と投げやりになる瞬間を毎朝味わうのである。

みんな・・・もうやだよ~と思っていたらしい。

それなのに・・・ついに最後まで完走してしまう皆さまに、「あんたも好きね~ちょっとだけよ~」とカトちゃんに言ってもらいたい気分である。そんなことで気がすむのかよ。

せっかく、「笑止」で面白かった羽純(朝倉あき)は最後は人間ジュークボックスというそんなサービスは絶対いらない役になってしまうのだった。勘弁してくれよである。

アアアアキハバラのペペページ以来、それでも生きていくしかない特殊な若者を演じ続ける風間俊介が清涼剤という恐ろしさでしかも・・・最後は寝たきりになって一週間である。

ああああああ・・・と叫びたいよね。誰もがあああああって。

しかしだ・・・「演歌の女王」だって耐えられたのだから・・・人間なんとかなるものだ。

嵐の時はじっと身を伏せてやり過ごすしかないとテリー伊藤も言っていた。

そして・・・ついにその日は来たのである。

皆さん・・・終りましたよ・・・なんだか最後はメルヘンチックに幕を閉じてました。

いやな思い出しか残らないそんな人生もあるのです。

それでも必ず終りはきますから。

すべて忘れて、来週はクドカンを楽しむことができる。

人生はいいものです。

関連するキッドのブログ→梅ちゃん先生

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2013年3月30日 (土)

お助け屋☆陣八のかすみちゃん・・・的世界(有村架純)

なんということだろう・・・坂口良子さんが逝去してしまった。

1955年10月生れなので57歳である。

唐突な死に至る病の発症・・・。それにしても・・・早すぎるじゃないか。

16歳で「セブンティーン」のモデル、17歳で歌手デビュー、20歳の頃には「前略おふくろ様」のかすみちゃんだったわけである。

「サブちゃんの・・・つけてる香水教えて・・・」

「ヘチマコロンす・・・」

そして、「グッバイ・ママ」(1976年)なのか・・・。

このドラマの最終回を見ていた時・・・それを感じたのは偶然ではなかったんだなあ。

静かなる魂の放射と拡散・・・。

故人様のご冥福をお祈りします。

で、『お助け屋☆陣八・第1回~最終回(全12話)』(日本テレビ20130110PM2358~)原案・倉科遼、脚本・川嶋澄乃(他)、演出・山内宗信(他)を見た。主演の五代目・俥屋陣八(宮川大輔)を責めるのは気の毒だが浅草を舞台にして主人公が関西弁っていうのは木曜ミステリーシアター(この作品で枠消滅)ならではのだささ満開だな。だが、「怨み屋本舗」の脚本家が参戦する第3、第7、第11話はそれなりに楽しめるのだった。

第11話の北原佐和子・岡本玲の母娘などというそそるキャスティングもある。

東京の下町を舞台としていて・・・元キックボクサーの洋食店「キッチン時代屋」店主の娘というヒロインが神谷萌 (有村架純)である。

つまり・・・「前略おふくろ様」(1975年)で渡辺組の棟梁の娘・かすみ(坂口良子)を彷彿とさせるキャラクター設定なのだった。

あの頃、素晴らしいインターネットの世界があれば、毎週、「かわいいよ、かすみちゃんかわいいよ」だったに違いなく、ここでは同様に「かわいいよ、萌かわいいよ」なのである。

Kasumi2013 もちろん・・・こちらのドラマそのものはなんの奥行きもない勧善懲悪劇だが・・・少なくとも2013年のかすみちゃんは堪能できるわけである。

有村架純は四月からのドラマ「あまちゃん」のヒロインを演じる能年玲奈と同じ1993年生れだが、二月生れなので一つ上の1992年度に属している。この年代には成海璃子を筆頭に忽那汐里、本田翼、石橋杏奈、桜庭ななみ、岡本あずさなど強力なメンバーが揃っている。剛力彩芽もここである。関係ないがこのラインでいえば「ビブリアの栞子」のグラマーな美少女は成海璃子そのものなのだな。・・・いえ、深い意味はありません。とにかく、その中でもかわいい力では桜庭ななみと匹敵し、美少女力では本田翼といい勝負の逸材なのだな。・・・どういうパフォーマンスの数量化に基づく話なんだよ。

さて、有村架純は「ケイゾク~SPEC」シリーズの二代目みやびちゃん(初代・永田杏奈)ですでに可愛さ爆発させているわけだが「ハガネの女」とか、「11人もいる!」とか、「クローバー」とか、「ぼくの夏休み」とか、「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」の偽ムラサキとか・・・どこにいても抜群にかわいいという存在感を示していることは間違いないだろう。

とにかく・・・順調にかすみちゃんの道を歩んでいってくれることを祈りたいのである。

悪者に攫われてしまったら絶対無傷で取り戻したいと思わせるヒロインこそが由緒正しく魅力的なのだから。

可憐で清純なかわいい魂は永遠なのである。

ちなみに「あまちゃん」(NHK総合)では小泉今日子の若年期を演じるのが有村架純なのだった。

もう、すごく納得なのだなあ。

「お助け屋☆陣八」で語るべきことは以上である。

関連するキッドのブログ→SPEC

ぼくの夏休み

ハガネの女

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2013年3月29日 (金)

スイッチガール!!~地上波では一部パンツはお見せできません(西内まりや)

そこかよっ。

谷間だからな。

「あまちゃんを待ちながら」(能年玲奈)でもよかったんだけどな。

その待ち方は危険だろう・・・(月)~(土)「あまちゃん」(日)「八重の桜」で半年間、NHK総合だけをレビューするのかよっ。

いろいろあっていいんじゃないか・・・よくね~よ、第一、クドカンだから本編面白くて再現率の高い絶賛レビューだぞ・・・持たねえよっ。

ま、脳年齢なっ・・・じゃなくて能年玲奈(19)、西内まりあ(19)のニコモ戦線デッドヒートだよな。

この世代もひしめいているからな。

武井咲(19)の強力なライバルたちだよな。

そういう意味では・・・コメディーを目指す西内まりあ・・・ちょっと痛々しいところもあるが、健気な感じもするぞ。

正義の味方」で志田未来を平手打ちしていた子がこの日を迎えることになるとはな・・・。

で、『スイッチガール!!・第1話』(フジテレビ20130326AM0240~)原作・あいだ夏波、脚本・宇山佳佑、演出・葉山浩樹を見た。「ベルバラ」で「花男」の世界から生まれたお下品なラブコメである。ある意味、「マーガレット」は「女ジャンプ」だよな。少女マンガも冬の時代だけに・・・こういうキワモノだか、王道だか不明のものが生まれてくるわけである。

下ネタという流れがあるが・・・おならをプーしちゃうようなヒロインは一部愛好家を除いて男性側は受け入れがたい。そういう意味では同性に媚を売った展開なのである。

主人公・田宮仁香(西内まりや)は集英高校でカリスマ読者モデルと知られる人気者だが、家に帰ればオフ・モードになり、メガネ、ジャージ、手羽先好きのおやじギャルとなるのである。戦闘能力は高いが学校の成績は留年スレスレという硬派なのだ。ライバルは仁香によって人気ナンバーワンの座を奪われたと怨む城ヶ崎麗香(波瑠)である。

・・・さて、話は前後するが・・・この作品は2011年12月から2012年2月まで全8話がフジテレビTWOで放送されているお下がり番組である。

本放送では城ヶ崎麗香がパンティーまたの名をパンツを披露しているが地上波では微妙に修正されているのだった。

その他、下ネタ的な部分・・・たとえば原作者がスカートをめくってもらいたかったのにめくってもらえなかったトラウマがあるのではないかと妄想できるようなシーンが随所に散りばめられ一部愛好家であれば男子もそれなりに楽しめるわけである。

特に階下に住む憧れの男子・神山新(桐山漣)を自分の部屋に招き入れた仁香が母親(池澤あやか)に踏み込まれ、あわてて、うっかり騎乗位体制になってしまい、なんとかごまかそうと男子の股間の上で激しく腰を上下に運動させるシーンなど・・・ギリギリ、アウトの気配さえあるのだった。

表情も動作もオーバー・アクション気味で「お笑い」の域には達していないが、懸命にドタバタしようという姿勢はすごく好感が持てるのだった。

最終回までには、かわいいよ、仁香、かわいいよという線に達すると思う。

展開としては・・・恋の障害の基本、意中の人と悪意あるプレイボーイ・広田正宗(陳内将)との三角関係で揺れたり、幻想の悪の組織登場で、ヒロイン特性によって悪を浄化していくファンタジーもありである。

男はみんな犯ってやるのカップルつぶしの女・木崎明花(篠原愛実)は一つ上の年代だが、「黒の女教師」を経由して引退である。てれび戦士敗れたりなのだな。

魔女狩りの後は集団リンチである。ある意味、恐ろしいな。

立派にモラル・ハザードである。

まあ・・・女子小学生の夢の顕在化もこういう風に表現されるようになったということなのであろう。

そして、それは地上波お茶の間的には深夜でしか許されないものになってしまうということなのだなあ・・・である。

いざとなったら、大親友のニノ原(坂田梨香子)が頼りになる味方だったり、生娘なのでキスはお預けだったり・・・少女漫画的お約束は健在なのだな。

とにかく・・・西山まりあはこの方向で活路を見出す気なのだな。

路線を間違えると夜の世界に行ってしまいそうなのでご注意ください。

体を張っても汚されない・・・この境界線は透明だからね~。

とりあえず、キッドはすごく楽しめた~。

関連するキッドのブログ→シニカレ

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2013年3月28日 (木)

終電バイバイ(濱田岳)からの最終特快(三浦貴大)

~の関係で言うと濱田岳と三浦貴大は映画「永遠の0」(2013年公開予定)の共演者である。大日本帝国の海軍航空隊の搭乗員を演じている。作品はもちろん特攻がらみのベストセラーの映画化である。

谷間なので特に深い意図はない。じゃ、いつもはあるのかよっ。

三浦は言うまでもなく百恵と友和の遺伝子を持つ27歳。

濱田は言わずとしれた子役あがりでモデル・小泉深雪の夫の24歳である。

二人は終電に乗り損ねたり、終電で終点まで行っちゃったりするのだった。

乗り損ねるのは足が短かったり、眠っちゃうのはサラブレッドだったりするからだろう。

で、『ドラマNEO・終電バイバイ第1~最終回(全10話)』(TBSテレビ20130115AM0020~)脚本・平田研也(他)、演出・橋本光次郎(他)を見た。男(濱田学)が様々な駅で終電に乗り損ねるオムニバス・ドラマである。主人公は毎回、別人なので趣きが変わる。基本的には終電を大都市圏に特有のものと考えている傾向がある。都会ではタクシーや自家用車という交通手段もあるわけだが、経済的な問題を主とする事情から終電が去った後の空虚な解放感は都会ならではのものと言えるかもしれない。

今季は東日本大震災の後の帰宅難民たちの民族大移動の記憶から生まれたドラマ「最高の離婚」があったわけだが、「終電バイバイ」はそれとはあまり関係ない。「ある青年のスケッチ」というところである。キャストもスタッフもチェンジするので出来不出来(好みの問題もある)は結構あります。

ヒロインとの恋愛要素が濃いものもあり、第2話の「秋葉原」でテーブルトークRPG専門店の常連客・ミキ(入山法子)、第4話「鎌田」で地元アイドル・カマッチュのメンバーこずえ(小松彩夏)、第8話「下北沢」で小劇団 「飛ぶ鳥を落とすカンパニー」の女優・みずき(夏帆)、最終話「東京」で入社採用試験仲間の翔子(谷村美月)など、時には強力なゲストが登場する。まあ・・・あくまでキッドにとってです。

で、濱田岳はうらぶれたサラリーマンから修学旅行の高校生まで年齢不詳の俳優実力を発揮するのである。

その他の登場人物は小劇団の売れないキャストで埋められており、一部愛好家にはうれしいのかもしれない。

いつか、どかで見た話の連打だが・・・胸がときめく場合もあります。

第3話「南千住」では外人用宿泊所の風俗を描きつつ、フランス人の観光客・ソフィー(Noemie)と好きだった人の結婚式帰りで街を彷徨う会社員の正太の一夜の思い出が描かれるのだが・・・明日はフランスに帰るというソフィーのために正太がガイドを求められる名所というのが・・・南千住(小塚原)回向院である。深夜に観光する場所としては不適切すぎるのだった。

敷地内に首切り地蔵こと巨大な延命地蔵尊があり、幕末でおなじみ吉田松陰や、毒婦・高橋お伝、鼠小僧次郎吉などの墓がある。この地で処刑された罪人だからである。他にも安政の大獄。桜田門外の変、坂下門外の変などの関係者が多数永眠している。

かなりおタッキーなソフィーにとっては「憧れる~」場所なのであった。

まあ、全編を通じて・・・そんなところでときめいてしまう男の悲しさを演じる濱田岳が一番、心に沁みました。

「あれ・・・終電ないじゃん・・・どうすんだ、俺」は青春の1ページである。

関連するキッドのブログ→ドラゴン桜の中尾明慶

で、『最終特快』(NHK総合20130321PM8~)脚本・本河純子、演出・川野秀昭を見た。NHKや放送作家協会が催す第36回創作テレビドラマ大賞を受賞した脚本のドラマ化である。まあ、どうってことのない無難な仕上がりで選ばれやすい作品と言えるだろう。妻(中村ゆり)との離婚調停を明日に控えた食品メーカーのサラリーマン・南和彦(三浦貴大)が東京駅から最終の特別快速に乗って眠り込み、目覚めた時には終点の田舎の名も知らぬ駅だった・・・という幕開けである。

いわば・・・終電にバイバイもできない状態なのである。

和彦は・・・海外資本の証券会社をリストラされた後で失意の日々を送っていたのだった。

接待の席でカードを使おうとして使えず、現金を使い果たし、駅前からタクシーに乗り込んだものの運転手(戸次重幸)と支払いをめぐってトラブルとなり、見知らぬ路上に放置されてしまうのだった。

悪夢のような境遇である。

ようやくたどり着いた深夜営業のファミリーレストランでは不良少年にからまれ・・・妻との思い出のある腕時計まで奪われてしまう。

「なんじゃこりゃ・・・」と倒れ込むところへ・・・魔法少女のコスプレをした木村春菜(佐津川愛美)が軽自動車で通りかかる。

春菜は東京のコスプレ祭りに参加する途上だと言う。

東京まで送って行くという春菜。しかし、やぶれかぶれになった和彦は不良たちのたむろするコンビニに案内を乞う。

しかし、やはり逆襲されてしまう和彦。そこへ・・・実はボクサーだったタクシーの運転手がかけつけ、不良たちを退治してしまうのだった。

「これ・・・忘れ物・・・」

和彦が車内に投げ捨てた離婚調停についての書類だった。

「逃げてばかりじゃ・・・勝てないぜ」

運転手は去っていくのだった。

再び・・・春菜と和彦はドライブを再開するが・・・ガス欠である。

そこへ・・・春菜の夫(遠藤憲一)がトラックでやってくる。

二人は夫婦喧嘩の途中なのであった。

和彦は春菜の夫に間男の嫌疑をかけられてしまう。

しかし、修羅場を奇跡的に回避する和彦だった。

二人の喧嘩の原因は・・・工務店を経営する夫が多額の負債を抱えているのに・・・春菜にそのことを打ち明けてくれないというものだった。

「自分がみじめ過ぎると・・・それを誰かに話すことなんて・・・できないんだよ」と自分の境遇を重ね合わせてつぶやく和彦。

感じ合う和彦と春菜の夫だった。

しかし、春菜は「誰かじゃないよ・・・夫婦だよ」と応じる。

夫婦の縁を取り持った和彦は最寄りの駅まで送ってもらう。

そこは終点の駅だった。

駅員(柄本時生)は「もうすぐ始発です」と告げる。

和彦は妻と話をしようと・・・決意する。離婚調停に至ったのは夫婦の会話不足だったからである。

今日も・・・世界のどこかで犬も食わない不毛な戦いが続いているのだった。

「うわああああ、寝過ごした~。ここどこだああああ」は青春の1ページである。

関連するキッドのブログ→ゴーイングマイホームの佐津川愛美

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2013年3月27日 (水)

ドナー人間第1号(相葉雅紀)

谷間に突入である。

勝ちに行ったヨルダンで惨敗を喫したサッカー男子日本代表の試合。

だから・・・さっさと憲法改正をしないとな・・・といつもの感想が残るばかりだったな。

それにしても・・・遠藤はどうしてコロコロで勝負しないのだ。

そして、「このままじゃ・・・遠藤さんが責められる・・・」とチームはどうして必要以上に燃えないのだ。

本田と長友がいないとこうもスカスカな感じに・・・。

まさか・・・男装したなでしこが戦っていたんじゃないだろうな。

で、『ラストホープ(LAST HOPE)・最終回(全11回)』(フジテレビ20130326PM9~)脚本・浜田秀哉、演出・葉山裕記を見た。バランスって大切だよねえ・・・と思うドラマだったな。けしてけなすつもりはないが・・・主人公がカンペ読みまくっているような気がしたのはキッドだけなのだろうか。それが・・・最先端医療ドラマという特殊なカテゴリーの宿命なのかもしれない。

それはさておき、面白さの重要な要素にわかりやすさというものがある。

たとえば・・・原作付のドラマが多くの場合、原作を読んだ人に不評なのは・・・読者が原作をわかっているつもりになっていることに原因がある。小説やマンガにはかなりの部分で余白があり、いくらでも解釈が可能なのである。脚本家はその解釈の一つをドラマ化していてそれは間違っていないのだが・・・読者のそれぞれの解釈とは微妙に食い違うのである。読者はそれを「原作」をわかっていないドラマと感じるのである。

で、原作者が「私の言いたいことを見事にドラマ化してくれた」とでも言おうものなら・・・「えーっ」となるのである。挙句の果てには「原作者は原作を理解していない」と感じる読者も発生したりします。

で、オリジナルの場合はこういう心配はないのだが・・・「現実」という原作に準じた世界があってこれをどの程度。反映させるかが・・・厄介なところなのだな。

ラストホープには様々な奇病が登場するが・・・その病状の面白さを伝えることがあまり、上手くできていなかったように感じる。

「病気」を面白おかしく伝えるというのは心理的にはかなり抵抗があるのでここを突破しないと仕上がらない。

たとえば・・・このドラマでは核心的な治療方法は「臓器移植」である。

基本的に臓器移植は①生体移植(生きている人間の臓器を分離して移植)、②死体移植(死体から臓器を分離して生体に移植)の二種類で・・・死体移植はさらに(1)脳死移植、(2)心臓死移植の二種類になる。

これは常識だが・・・小学生の中には知らない人もいるかもしれないので、小学生に面白がってもらうためにはわかるように説明しなければならない。

そこからかっ・・・とつっこむこともできるが、それもそうだなと頷くこともできるのである。

さらに・・・臓器をもらう人(レシピエント)と臓器をあげる人(ドナー)の関係も説明する必要がある。当然、適合の問題も説明しないといけない。

で、そういうことが前提で・・・死体移植はまあ・・・そういうことがあってもいいかと考える人々が多数派であるというのが、このドラマの基本である。

つまり、「他人から臓器をもらってまで生きたいというのはなんだかあさましい」と考える人は対象外になるわけである。

いや、そういう人も見てもいいのだが・・・ドラマの中でそれを強く主張する登場人物がいると話が進まないのである。

さて・・・ここで重要なのは「シェア」の問題である。つまり、命は個人のものではなく、全体で共有されるべきものという考え方だ。

最も抵抗のないものは「輸血」であろう。血液は再生可能な生体の部分であり、それをあげたりもらったりすることはもはや日常になっている。

で、その延長線上に「生体移植」がある。

終盤の患者は両方の肺を交換する必要があり、二人の子供から片肺を提供してもらうのである。

親の延命のために・・・子供が寿命を削るわけである。

単純に考えて、両方の肺が揃っているのと片肺になるのとでは生存率は変わってくるのである。

子供が親に余命をプレゼントするわけだ。

それらはすべて提供者の意思にゆだねられるわけだが・・・「親に先立つ不孝」という通念からはかなり逸脱した医療行為と考える人も生じるはずである。

で・・・ドラマは「患者を助けることが最優先」の医師が主人公である以上、この抵抗を打破して「生体移植を完遂すること」が「成功」として語られるわけである。

それが・・・面白いかどうか・・・微妙なんだよな。

なぜ、そうなるかと言うと・・・チームのメンバーが皆・・・「究極の選択」を乗り越えた集団だから・・・なのだな。

都合が良すぎるのである。

もちろん・・・一人一人のエピソードにはそれなりの面白さがある。

研究医の古牧利明(小日向文世)は死んだ愛児のクローン人間制作を目指している。

救命医の橘歩美(多部未華子)は親がキメラ(例・ブタ人間)の研究に関与した疑いがあり、十字架を背負っている。

しかし、小出しなので判りにくい。

キャラクター造形に一番失敗しているのは・・・医師に母親を見殺しにされた萩原雪代(小池栄子)だろう。そのために患者に全力で立ち向かうという設定なのだが・・・そういう人は家庭を持つのも問題があり・・・ましてや、ギャンブルなんかしては駄目なのである。24時間医学のことを考えている必要があるからだ。勝ち馬予想している間にも最新医学を学ばなければならないほど医学は膨大な情報を抱えているからだ。

だから・・・雪代が競馬新聞を見ている時点でなんの説得力もないキャラになってしまうのである。

まあ・・・とにかく・・・もう少し、情報を絞り込むこと・・・。

それがこの脚本家の課題であると思う。

さて・・・主人公は移植医療に関して一種の免罪符を与えられていたというのがオチである。

卓巳(相葉雅紀)は死病に冒された兄のために、移植臓器提供者となれるように遺伝子操作を施されたデザイン・ベイビーだったのである。

つまり、生れついてのドナー人間であり、基本的に基本的人権が無視されたスペア部品としてこの世に出荷された存在なのだった。

実用化している一部海外では救世主兄弟と呼ばれる存在だ。

そして・・・ドナー人間卓巳は必要な部品を取り外された後で、養子に出され、人間として生きていたのである。

卓巳はいい子に育ったので特に問題はありませんが、ちょっとでも歪めば、関係者一同をぶっ殺す権利を生まれながらに持っていると言っても差支えないだろう。

まあ・・・そういう際どさを秘めながら・・・オブラートに包んでいるドラマなのである。

キッドとしては物足りない・・・という他はないのだった。

歩美と卓巳がお友達になったのは一種の奇跡であると思うしね。

本当はお互いの存在意義を懸けて殺し合う可能性があるくらいなんじゃないのかな。

そのくらいでないと延命業という危険なビジネスの面白さは描けないと考えます。

全医療関係者を敵に回しても平気な・・・・・・お前はな。

関連するキッドのブログ→第一話のレビュー

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2013年3月26日 (火)

ああ、あなたはわかってくださるかもしれません(剛力彩芽)

「押絵と旅する男/江戸川乱歩」(1929年)は雑誌「新青年」に掲載された幻想小説である。

ミステリを解明されるトリックだと誤解している人には「どこがミステリなんだ」と言わしめる作品だが、「これぞミステリ」と言うべき俗世間へのレジスタンスに満ち溢れた作品であるために乱歩の最高傑作の呼び声も高い。

1929年は昭和四年であり、大正十二年(1923年)の関東大震災(死者・行方不明者・10万人超)の記憶がまだ生々しい時代である。

物語に登場する浅草十二階こと凌雲閣も震災で半壊し、撤去されている。

その在りし日に一人の青年が双眼鏡で高層から下界を眺め、絶世の美女に恋をするのが発端で・・・青年の弟が怪奇な恋の顛末の語り部として登場する。

老人となった弟は一枚の押絵と旅をしている。押絵とは羽子板などに描かれるアップリケ的立体画のことである。

実は・・・絶世の美女は押絵に描かれた「八百屋お七」の絵姿だったのである。

物語の主人公は魚津の浜に蜃気楼を見物しに行って、「唖(おし)のようにだまっている海」を見た後で、「狂人が、われわれのまったく感じぬものごとを見たり聞いたりすると同じ」奇妙な体験談を黄昏を走る上野行きの汽車の車中で聞くことになる。

つまり・・・「押絵と旅する男」に出会うのである。

そこには過ぎ去りし色恋を拒絶する断固たる趣味の世界が怪しく展開していくのだった。

タイトルは怪しい老人が怪しい主人公に語るセリフなのである。

オセロの黒い方の人も今はそういう気分なのかもしれません。

たとえば、「火」を見ると落ち着く記憶遺伝子の妄想から「火事場の野次馬」の話や「炎の海」の話を連想してしまう自分の不謹慎さを恋人恋しさに放火して火刑に処せられる八百屋お七の心情に重ね合わせるがごとくでございます。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・最終回(全11回)』(フジテレビ20130325PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。娘のビブリア古書堂店主・篠川栞子(剛力彩芽)と母親で元の店主・智恵子(安田成美)との母娘対決は・・・古くは「巨人の星」、最近では「美味しんぼ」の父子対決のヴァリエーションである。まあ、冷たいお母様と温かい愛を求める娘の葛藤は少女趣味の基本とも言えます。乙女は残酷な神が支配する世界を求めてやまぬのですな。

で、鹿山明(須永慶)の遺した「江戸川乱歩コレクション」を巡って、実子の義彦(名高達男)サイドに立つ智恵子と・・・愛人の来城慶子(高樹澪)に味方する栞子とが争奪戦を繰り広げるわけです。

金庫の「鍵」を入手しかけた栞子ですが、智恵子の挑発にのって重要なヒントを与えてしまい・・・結局、「鍵」は智恵子の元に・・・。

「詰めが甘い・・・」と教育的指導を受ける栞子。

結局は「古書大好き人間」として母親に調教された栞子は智恵子の操り人形に過ぎないようです。

そんな栞子を智恵子はきっと愛おしく思っているに違いないのですが美貌の影に隠しているようです。

少年探偵団が不揃いだった理由を見落としていた栞子は漸く別の隠し場所に気が付きます。第一の隠し書庫とも言うべき場所に鍵は隠されていたのです。それは扉の中に仕掛けられていました。

栞子の味方になった直美(横山めぐみ)は鍵を渡すように求めますが、直美の兄・義彦から全権を委任されている智恵子はこれを拒否します。しかし・・・。

「さあ、これは何かな」と・・・今度は栞子に優しくヒントを投げかけるのです。

それは・・・二銭銅貨でした。

「二銭銅貨/江戸川乱歩」では二銭銅貨の中に暗号解読のヒントが仕組まれています。

栞子はコレクションの二銭銅貨の中から「暗号表」の入手に成功しました。

しかし・・・暗号表が原作通りの換字に用いる点字の一覧に符号しないのです。

そこで五浦(AKIRA)が「え」と言うだけでないところを見せつけます。

解読のための重要なヒント・・・「大正時代には点字の一覧が現代とは違うのでは」を口にするのです。

母の名前がよしの志田(高橋克実)が突っ込んで「新青年に発表された作品では江戸川乱歩は点字を間違っていた」ことを指摘します。

新青年版の「二銭銅貨」の間違った点字が最後のキーポイントとなり・・・ついに金庫の扉は開くのでした。

中にあったのは・・・智恵子の予想通り・・・「押絵と旅する男」の失われた第一稿らしきもの・・・「押絵と旅する女」だったのです。

何しろ・・・水洗トイレでなかった便所に捨てられた原稿なので少し黄味がかっています。

それを胸に抱くダンスが上手く踊れない来城慶子の姿に一部愛好家熱狂です。

栞子は鹿山明の最後の手紙を示し・・・智恵子に温情を求めます。

「せめて・・・一夜・・・遺品と慶子さんを一緒に過ごさせてください」

微笑んで同意する智恵子でした。

貴重な本を斜め立てして一部愛好家の顰蹙を買う演出の果てに「江川蘭子/江戸川乱歩・他」の位置取りから・・・妹・邦代(松田美由紀)の正体に気がつく栞子。

邦代こそが熊谷真美の妹じゃなかった・・・姉の慶子だったのです。

姉妹は入れ替わっていたのでした。

原稿を持って逃走する慶子を追う栞子。

先入観から原稿が偽物だと思いこんだ栞子は邦代の正体を見破ったことで大満足。

「すべては・・・江戸川乱歩の怪奇趣味の世界ごっこだったのですね・・・」

「そうよ・・・謎解きはほとんど探偵役におまかせだったけど・・・私は足も口も不自由な姉の妹に化けることができて・・・楽しんだわ・・・江戸川乱歩最高っなのよ」

「最高っですよね・・・」

趣味人同志の連帯感に取り残される五浦であります。

爽やかに慶子を見送った栞子でしたが、またしても母親にお灸をすえられるのです。

「甘いわね」

すべてが偽物とは限らない・・・栞子は偽物の中に一部本物が混じっている可能性を見落としていたのです。母親から見ればダメな子なのでした。

慶子の後を追う智恵子は最後に一言・・・謎を明かします。

「私は最高の本の狩人になったの・・・家庭を・・・夫を・・・子供たちを捨てても惜しくない最高の本の存在を知ったから・・・今のあなたなら・・・私の気持ちが理解できるでしょう・・・どう、一緒についてくる」

「いきません」

すれ違う母と娘の思いだったのです。

取り残されるのを恐れた五浦は・・・読書にチャレンジするのですが・・・あえなく挫折。

そんな五浦に栞子は優しく・・・本の内容を長々と語ります。

まあ・・・愛ですかね。

つまり、個人的な趣味なんて他人にとっては本当にどうでもいいということです。

関連するキッドのブログ→第10話

Ku001 妄想映画・まこちゃんの女怪盗シリーズ「セーラー服探偵くう」快調撮影中。

くう米倉ちゃんが着るなら私が着たっていいじゃな~い。妄想も大切だけどシナリオに沿ったレビューも大事なのです。なにがなにやらにならないように見取るわよっ。子供を捨てて趣味に走っただけらしい・・・悪い趣味の人・智恵子に・・・全世界の母娘を代表して結婚しないのにするショックものりこえるセーラー服探偵が正義の鉄槌を下すのです。さあ、少女クラブの乙女の夢にかけて、念仏唱えて懺悔しな。お乳ほしがるこの子が不憫じゃないのかよっ・・・あ~や~ま~れやあああああああっ

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2013年3月25日 (月)

おおやまのみねのいわねにうづみけり わがとしつきのやまとだましひでごぜえやす(綾瀬はるか)

オオヤマツミ(大山祇神)はスサノオの妻となったクシナダの祖父である。

山崎天王社は祇園神の牛頭天王を信仰の対象としており、牛頭天王の権現はスサノオであるから、現在、オオヤマツミとスサノオが共にまつられている自玉手祭来酒解神社が天王山に鎮座しているのである。

水天宮総本宮の神主であった真木和泉守保臣は当然のこととしてイザナギとイザナミの子であるオオヤマツミを祖先神として崇拝の対象にしていただろう。

おなじくイザナギとイザナミの子であるスサノオは荒ぶる神である。

真木は自らにスサノオへの感応を持っていただろうと察する。

宗教的情熱をもって源氏徳川政権の打倒を目指した平氏真木和泉は敗軍の将として天王山にて自害して果てる。

大和の国は魂のまほろばである。吉田松陰と同様に・・・愛国者の憧れの地であるそこへ・・・魂の回帰を願った辞世の句となっている。

久留米生れの真木和泉もまた・・・まだ見ぬ大日本帝国誕生の夢を見ていたのだった。

で、『八重の桜・第12回』(NHK総合20130324PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は禁門の変の勲功によって出世する弾丸を見切る男・山本覚馬の第二ヴァージョンといよいよ登場、幕末の火炎魔神にして日本一の将器である薩摩藩士・西郷吉之助の二大描き下ろしイラスト展開でございます。まさに蛤御門の勝利の立役者二人・・・。英雄伝説誕生でございますな。実話であるところが・・・近代ですなああああああっ。妄想もそろそろおっかなびっくりでしておりますぞーーーっ。

Yaeden012 元治元年(1864年)七月十九日、前日に真木和泉の主張が通り、京都包囲の体制に入っていた長州諸隊は洛中への進軍を開始する。京都山崎の天王山長州六隊、山崎八幡の家老・益田右衛門隊、嵯峨天龍寺の来島又兵衛遊撃隊、後発で伏見に陣を張った家老・福原越後守隊である。長州の進軍開始を知った幕府軍は内裏の各門の警備を固めるとともに参集した各藩兵に迎撃を命じる。寅の刻(午前四時)に伏見街道を北上中の福原隊と大垣藩(藩主・戸田氏彬)が藤森付近にて遭遇。福原隊が発砲し、戦闘に突入した。大垣藩は大砲を連射、至近弾を受けた福原越後守が落馬し昏倒、主将を失った福原隊は混乱し、たちまち敗走する。嵯峨天龍寺遊撃隊は二派に分かれ黒田藩が守備する中立売御門と会津藩守備の蛤御門を目指す。長州勢は五門の大砲で宮中への砲撃を開始する。黒田藩は簡単に突破され、長州兵が突入を開始。十字砲火を浴びた会津藩は窮地に落ちる。しかし、ここで西郷吉之助の率いる乾御門守備の薩摩軍が参戦。遊撃隊は逆に十字砲火を浴びることになり壊滅。白兵戦となれば会津藩士と薩摩藩士はほぼ無敵であった。門内に入った長州兵はたちまち殺戮される。一方、合流した山崎の天王寺軍、八幡軍は西街道、松原通、烏丸通と進撃し、前関白鷹司屋敷へ侵入する。そこで宮中への発砲を開始したところを越前藩兵が急襲し、乱戦に突入。まもなく蛤御門の戦闘を終えた会津・薩摩連合軍が到着し、長州の実質上の司令官・久坂玄瑞は自害。長州軍は崩壊する。長州軍は各地に放火しながら退却し、幕府軍も敗兵籠城家屋に放火したために北は一条通から南は七条の東本願寺に至る広い範囲でどんどん焼けと呼ばれる大火災が発生した。軍師・真木和泉は天王寺まで逃亡して果て残念さんとなった。こうして勝敗は十九日中に決したが大火は二十一日まで燃え続けたのだった。

「なんでこないなことになったのや・・・」

「そりゃ・・・会津様が守護職におなりになったからやろ」

焼け跡で口やかましい京雀は囁きを交わす。もちろん、野望を秘めた天皇のしのびたちが流言の術を駆使しているのである。真木和泉も死を賭して妖術・カムロを放っていた。

天皇が会津藩主を寵愛しすぎたために周囲のものが危機感を持ったことは言うまでもない。この街に棲むものは上下を問わず陰謀家であり、陰謀家というものは基本的に中立を保つのである。勝者というものをけして認めない気質なのだ。

もちろん・・・その背後には次の時代を読む闇の公卿たちの暗躍がある。

焼失を免れた祇園の遊女街は戦勝景気でにぎわっていた。

しかし、その片隅でくのいち朝日から報告を受ける山本覚馬の表情は暗い。

「お傷の加減はどないでしょう」

「大事ない・・・それより・・・我が藩の人気はどうだ・・・」

「よくありませんなあ・・・会津藩は勝ったのに吝い・・・ともっぱらの評判です。長州は相当に大盤振る舞いをしていましたから・・・」

「向こうは密貿易でしこたま儲けて景気がいい・・・会津は米にも困る有様だ・・・」

「とにかく・・・銭どす。銭がなければなんともなりませぬ・・・。もっとも薩摩藩は銭を落しても人気ありませんけど・・・」

「結局、薩摩は南国、会津は東北・・・京都の衆から見れば蛮人も同然ということか」

「悲しいけれど・・・それが現実どす」

「望月(斉藤一)からは何か報告があるか」

忍んでいた壬生浪しのびが影から姿を見せる。

「お預かりした・・・佐久間様の遺児のお方ですが・・・」

「ああ・・・三浦敬之助殿か・・・」

「一応、新撰組に入隊なさいましたが・・・あれは使えませんぜ・・・気位ばかり高くて」

「そうは言わずに面倒みてやれ」

「焼け跡には童の幽霊が現れて会津や幕府の悪口を言いふらしていると噂があります。しかし、新撰組の巡回ではそのようなものについては報告がありません」

「面妖な・・・あやかしの術か・・・」

「それにしても残党狩りは厄介ですな・・・やればやるほど怨みを買います」

「それが・・・過激派の手なのだ」

「それから、大沢の清八親分のところに妙なのがいついてます・・・会津小鉄というヤクザなんですが・・・」

「ああ・・・それは会津のくさだ・・・ぬしらとは別のお役目で動いている」

「気をつけてくださいよ・・・あれはなんか腹に一物ありますぜ・・・」

「会津の古い家柄の方々の御用をしているからな・・・俺も一度刺客をけしかけられてるよ」

「ご存知ならようございます・・・」

「そういえば・・・岩倉村に・・・瞽女(ごぜ)の集団が参っておりました・・・あれはくのいちではないかと・・・」

「岩倉様は・・・皇子様を握っておられる・・・目配りを頼むぞ・・・」

「承知しております」

覚馬は祇園を後にする。京の街はもはや廃墟と化していた。

悪いのは長州だとどう言いわけしても・・・会津藩が京都守護職を受けた結果がその光景を生んでいるのである。

御所へと向いながら焼け跡の匂いを嗅ぎ、覚馬の気持ちは暗澹としてくるのだった。

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龍馬伝→禁門の変

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2013年3月24日 (日)

私のベイビーになってください(長瀬智也)

越前さんとはらちゃんがこちらに戻ってきた時に・・・実ははらちゃんはもうマンガ世界には戻れないと思っていた。戻そうとして戻らないハッピーエンドである。

しかし、神様としての越前さんだけが・・・やはり、特別な存在だったわけである。

越前さんはマンガの世界でも記憶を失わない。

はらちゃんたちはあくまで越前さんの空想の産物だったのである。

だから・・・越前さんは自分の意志でマンガの世界に転移できるが・・・はらちゃんは神の定めたルールに従うのである。

もちろん、越前さんは無から有を生み出す超絶サイキックではあるので・・・物語の辻褄はあっている。

この凄い設定のドラマが最後まで「なんでもあり」ではないところが・・・素晴らしいと考える。

もちろん、はらちゃんが実在の人間化しないのはいつでも続編ができるという含みがあるわけだ。

ちなみに無から有を生み出す越前さんの能力をもってすれば、はらちゃんが人間化した場合の戸籍の処理などたやすいことだと推定できる。

なにしろ・・・越前さんはこちらの世界でも・・・実はそこそこ神様なのである。

で、『泣くな、はらちゃん・最終回(全10回)』(日本テレビ20130323PМ9~)脚本・岡田惠和、演出・菅原伸太郎を見た。越前さん(麻生久美子)がこの世界の中のマンガの世界に逃避して、ふなまる水産三崎工場は正社員が田中くん(丸山隆平)と悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)だけになってしまったのだが、パート・リーダーの実は矢東薫子だった百合子さん(薬師丸ひろ子)が残留しているので操業に問題はないのだった。

「私がいなくたって世界は回る」という越前さんの感慨はもっともなことなのである。

悪魔さんは「越前さんってすごい勇気・・・」と思う。

しかし・・・神様の神様である百合子さんは「それは・・・どうかな」と考える。

田中くんは「悪魔さんまで向こうに行ったら・・・正社員は自分だけになってしまう」と怯えるのだった。

「この世界は落ち着く・・・」と【越前さん】はマンガの世界に馴染んでいた。

そんな【越前さん】をユキ姉(奥貫薫)は思わしげに見守る。

ユキ姉は神様の神様である百合子さんの影響を強く受けているキャラクターなのである。

同じように【神様の世界】の影響を強く受けたはらちゃん(長瀬智也)も【越前さん】に問いかける。

「しかし・・・越前さんがいなくなったら・・・【世界】の皆さんが困るのではないですか」

「そんなことないよ・・・私なんかいなくても・・・世界は何一つ変わらない」

しかし、越前さんがいなくては生活設計が立たない男がいたのだった。

ひろし(菅田将暉)である。「姉ちゃんがいなくなったら・・・オレが働かなきゃならないじゃないか」と【越前さん】さんの強制帰還を即するのだった。

「いや・・・帰りたくない」

「越前さん・・・戻りましょう」

「はらちゃん・・・」

「越前さん・・・どんな世界にもいやなことがあるんじゃないでしょうか」

「・・・」

「だけどあの世界にはすばらしいことがたくさんあります」

「・・・」

「すばらしいことがある世界を嫌いな越前さんのことは・・・私は嫌いです」

「え」

「自分のことをどうでもいいなんていう越前さんは嫌いです」

「はらちゃん・・・」

「越前さん・・・自分と両思いになってください・・・世界と両思いになってください。私の好きな世界を・・・私の好きな越前さんを・・・好きになってください」

キャラクターズは賛同の意志を示す。

「いってらっしゃい」

こうして越前さんは【はらちゃん】に抱かれて二次元/三次元境界線を越えてしまうのだった。

そこはふなまる水産三崎工場前だった。

越前さんの帰還を下心から喜ぶひろしだった。

「越前さん・・・新婚さんになりましょう」

「なりません」

「どうしてですか・・・」

「さっき・・・私のこと・・・嫌いっていったじゃないですか」

「でも、私たちは両思いですから」

「もう・・・」

そんな二人に悪魔さんはおかしさとせつなさを同時に感じるのだった。

帰宅した越前さんと【はらちゃん】を大喜びで迎える越前さんの母親の秀子(白石加代子)・・・。

「私たち・・・新婚さんなんです」

「まあ・・・新婚さんなのね」

喜色満面の秀子だった。

越前さんの超絶的な時空連続体転移によって時間軸は変動している。

夜は昼となり・・・昼は夜となり・・・春は冬となり・・・秋は夏となるのだった。

「ところで・・・新婚さんとはなんですか」

越前さんのハートはチクチクと痛む。

「あなたは誰なんですか・・・」

「はらちゃんです」

「ふふふ」

祭囃子が聞こえて来た。【はらちゃん】の心は躍り出す。

子供神輿がやってくる。長沼さん(稲川実代子)は【はらちゃん】を誘うのだった。

【はらちゃん】は振り返り越前さんの許しを求める。

越前さんは微笑んで頷くのだった。

【はらちゃん】の好きな世界を越前さんは自分も好きなことに気がついた。

世界は変貌していく。

「越前さんを日夜守ってください」と【はらちゃん】は警官(小松和重)に頼みこむ。

「奮励努力します」と応じるいつもの警官。

「越前さんをよろしくお願いします」と【はらちゃん】は悪魔さんにお願いする。

悪魔さんは「私は悪魔だからそれは無理だ」と告げるのだった。それは譲れない一線なのである。

三浦半島に雪がふる。三崎口に雪がふる。城ヶ島大橋に優しい雪が降る。

秀子は【はらちゃん】に傘を渡す。

「体が濡れないようにね」

「風邪をひいたら大変ですから」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

長沼さんはまたしても手抜きの作業をするのだった。

その時、射撃管制レーザーが自衛艦に照射される。

「艦長」

「長沼さん」

「なんだい・・・やる気か」

「こっちも狙ってやれ」

「挑発的日本」

「戦争は嫌いですが・・・守るべきことはやります」

「了解」

「専守防衛を貫徹する」

越前さんは正社員のやるべきことをやったのだった。

長沼さんは謝罪して我が国領海から撤退した。

田中くんの車で【はらちゃん】は平和な街を走る。

「もっと・・・聞いてください」

「田中さん・・・あれは何ですか」

「鳥です・・・またの名はかもめです」

「あれは何ですか」

「うさぎです・・・またの名はバニーちゃんです」

「あれは何ですか」

「パンダです・・・え・・・パンダ?」

「田中さん・・・私は田中さんが好きです」

「ボクも【はらちゃん】が大好きです」

「私たち・・・両思いですね」

【はらちゃん】は越前さんと布団を並べて横になった。

「マンガの世界に戻るつもりなの・・・」

「はい・・・」

「胸がチクチクするわ」

「私もチクチクします」

「一緒ね」

「一緒です」

夜は明けて夜は更ける。

いつものおでん屋で百合子さんは「新婚さんいらっしゃい」を楽しむ。

「もしもよ・・・もしも越前さんが他の人を好きになったらどうする」

「越前さんが幸せなら・・・うれしいです」

「およよ・・・それは愛だね」

「愛ですか・・・」

「越前ちゃん・・・お楽しみはこれからよ」

そして別れの時は来た。

「どうしても帰るの」

「みんなが待っていますから」

「わかった・・・」

二人は魔法のノートに手をかけた。

「新郎新婦によるケーキの入刀みたいね」

「にゅうとうってなんですか」

「それは・・・また・・・今度ね」

「はい・・・私たちは」

「いつも一緒ですものね」

そして、【はらちゃん】はマンガの世界に帰還した。

越前さんは工場長になった。田中くんは副工場長になった。大橋さんの息子(ビブオ)が臨時採用になった。

百合子さんは矢東薫子として現役に復帰した。

悪魔さんの歌は近所で評判になっている。

「で・・・片思いの相手は誰なんですか・・・」

「あんただよ・・・」

「えええええええええええええ」

「・・・」

「すいませええええええええん」

越前さんは今日もマンガを描く。おつまみも増えたし、あっくん専用の犬もいる。ユキ姉のファッションにも気を使う。そして・・・笑いおじさんのセリフを書く。

「ふふふ」と越前さんは微笑む。越前さんが笑えば世界は輝くのである。

私たちはあの夜に出会って

最初から二人は求めあって

私がその気になったなら

あなたを虜にしてしまう

だから愛をささやいて

私を自慢に思ってよ

お願いするわ

私のベイビーになってくださいな

「逢いたいよう・・・」と越前さんは思う。しかし、理想の恋人は毒なのである。

ゲームは一日30分が鉄則なのだった。

会えない時間が愛を育てるのだ。

でも・・・雨の日に転んでしまったら・・・。

【はらちゃん】がきっと現れて黄色い傘をさしかけてくれるだろう。

越前さんは世界に片思い中でも・・・【はらちゃん】とはずっと両思いなのだから。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

Mk005 まこ様ご愛読「泣くな、たけちゃん」妄想連載中。

まこラブラブなのに胸キュンで・・・ニヤニヤしながら泣かされて・・・マンガの世界は素晴らしいのでしゅ~。まこには専用マンガ家のチームがいてどんな願いもかなえてくれるのでしゅが・・・庶民の皆しゃんは違うと聞いてびっくりだじょ~。お気に入りのキャラは即座にロイド化してもらいましゅ~・・・じいや、片思いってなんじゃろか~?」

くうありのままの世界を好きになるか・・・好きな世界を作るのか・・・人はいつもそれぞれに悩むよね。世界を好きでいるためには・・・結局、自分が何かしないといけないんだよね~。幸せな三ヶ月にありがとうを言うよ。世界は素晴らしいし、愛であふれているんだよねえ。それが世界で、それが愛なんだよねえ。だから大切にしないとだよねええええっ

シャブリはたらけ、ヒロシ・・・全国のひろしのみなさん、涙目でありました~

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2013年3月23日 (土)

真昼の観覧車と夜行観覧車の間に暮れなずむ街がありました(鈴木京香)

私たちは・・・夜行観覧車に乗りこみました。

その時、横浜港にゴジラが上陸したのです。

のほほんとしていた私たちは各所であがる悲鳴に驚いて周囲をきょろきょろと見回し、その巨大な怪獣がまっすぐこちらに近づいてくることに気が付きました。

「お母さん・・・なにあれ・・・」

娘はゴジラのことを知らないようです。

「やばい・・・やばいよ・・・観覧車を敵だと思ってる」

「あなた・・・逃げましょう」

しかし、観覧車は廻り続け、飛びおりて逃げるにはすでに高過ぎる位置に私たちのゴンドラは浮かびあがっていました。

見下ろすと責任感の強いらしい係員が必死に到着したゴンドラから客を誘導しているのが見えます。

ゴンドラから降りた客は一目散に逃げて行くのです。

そうです。私たちは乗ったばかりなので一周しなければ逃げられないのです。

見ていると、事態に気がつかない呑気な客がゴンドラに乗り込もうとして制止されたりしています。

馬鹿なの。

「一悶着起こしている場合かよっ」

夫のぼやきがゴジラの吠え声でかき消されました。ゴジラは立ち止まっています。気がかわって方向を変えるのかと思うと口から火を吐くのです。

「すごい、火を吐いた」

「いや、あれ、放射能だから・・・」

「えー、そうなの」

ゴジラは一息つくと、再び、こちらへ向かってズシンズシンと近づいてきます。

「お父さんなんとかしてよ」

「できるかっ」

高熱の放射能で市街地が燃えあがります。私の勤務先のスーパーマーケットの辺りです。

勤務中でなくてよかった・・・と思わずにはいられません。

ゴンドラはまた一段、上がりました。

「あ・・・志保ちゃんちのあたり・・・踏みつぶされちゃった」

そうです・・・ゴジラは私たちが昔住んでいたところを蹂躙しながらやってくるのです。

引っ越したことは不幸中の幸いだったのです。

夫は電卓を取り出してなにやら計算しています。

「何してるの・・・」

「観覧車の回転時間とゴジラの速度とここまでの距離を計算してる・・・ギリギリ、セーフかもしれんぞ」

「本当・・・」

いざとなったら頼りになる夫だと私は誇らしく思いました。

ようやく、私たちのゴンドラは頂上にたどり着きました。

その瞬間、信じられないことに私はゴジラと目が合ってしまったのです。

ゴジラは悲しい目をしている・・・と私はなんとなく思いました。

そして、ゴンドラが下りに向かって進み始めた時、とてもきれいな街の灯りが一斉に消えました。

停電です。ガクッと観覧車のゴンドラが停止して・・・私は悲鳴をあげました。

周囲で絶叫が聞こえます。

周囲の炎に照らされてゴジラがニヤリと笑ったような気がします。

私は口を大きくあけていました。私も絶叫していたのです。もう逃れる術はありません。

せまくて暗いゴンドラの中で私たちはしっかりと抱き合いました。

家族と一緒なら・・・こわいものなんかないと私は必死に自分に言い聞かせました。

しかし・・・どうしても震えがとまりません。

夫も娘も泣きながら震えています。

その時、太平洋の彼方から・・・モスラがやってきたのです。

私たち家族が「九死に一生スペシャル」に出演したのはそれから一年後のことでした。

ゲストのインファント島の小美人はザ・ピーナッツよりマナカナに似ていました。

で、『・最終回(全10話)』(TBSテレビ20130315PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・塚原あゆ子を見た。自ら、記者会見を開いた良幸(安田章大)の意図は父親に家庭内暴力者の汚名を着せることで加害者であるかもしれない母親や弟を護ることだった。被害者を加害者にすることで加害者を被害者に見せかけ・・・世間の同情を買おうとしたのである。

純情な比奈子(宮﨑香蓮)は無実の父親に濡れ衣を着せることにどうしても納得がいかない。

「父さんは死んだんだ・・・でも、僕たちは生きていかなければならない・・・きっと、父さんは許してくれる・・・優しい父さんだもの・・・」

「兄さん・・・兄さんはそれでいいの・・・」

「いいわけないだろう・・・でも仕方ないんだ」

保護施設でテレビを見ていた慎司(中川大志)はあわてて自宅に迎う。

「兄さん・・・どうして・・・嘘つきになるのはボクだけでよかったのに・・・」

「口裏を合わせるしかないだろう・・・家族なんだから・・・」

居合わせた遠藤夫人(鈴木京香)は口をつぐむしかないのだった。自分が入り込む余地はないと悟ったのである。

「でも・・・どうして・・・あんなにいい母親で・・・いい奥さんだった彼女が・・・」

「そんなに完璧な人間なんて・・・いないってことですよ・・・義母もまた・・・その一人だったんです」

「でも・・・彼女が人を殺すなんて・・・」

「殺しちゃったものは仕方ないじゃないですか・・・きっと、魔が差したんでしょう。誰だって殺そうと思えば人を殺せるし、殺したくなくたって殺しちゃうことだってあるんじゃないのかな」

娘を殺そうとしたばかりの遠藤夫人は言葉を失った。

真相は闇の中に葬られつつあった。

しかし、七瀬は留置施設にいる高橋夫人(石田ゆり子)の心象風景を読みとることができた。

≪夫が息子を殴った≫≪私の息子を殴った≫≪長男は殴らなかったのに≫≪前の奥さんの子供は殴らなかったのに≫≪私の息子には勉強しなくてよいと言った≫≪私の息子には医者にならなくていいって≫≪バカだから≫≪私が前の奥さんよりバカだから≫≪バカな私の息子がバカだから≫≪憎い≫≪前の奥さんが憎い≫≪前の奥さんを愛している夫が憎い≫≪前の奥さんの子供が憎い≫≪トロフィーなんか飾って≫≪前の奥さんの息子の頭の良さを誇って≫≪私をバカにして≫≪憎いこの男が憎い≫≪このトロフィーが憎い≫≪必死になって≫≪なんのために≫≪息子にバスケットボールをやめさせて≫≪ユニフォームを切り刻んで≫≪心を鬼にした≫≪私の努力を無駄にして≫≪なぜなの≫≪なぜ私の完璧さを認めないの≫≪私の完璧な家族を壊すの≫≪許せない≫≪前の奥さんの子供のトロフィー≫≪憎い≫≪私だけを愛さない夫≫≪前の奥さんを愛している夫≫≪死人に負けるなんて≫≪そんなの≫≪絶対に認められない≫≪死ね≫≪私の邪魔をする奴は死ね≫≪?≫≪??≫≪???≫≪私≫≪やっちゃった≫≪何してくれてんのよ・・・私≫≪私だ≫≪救急車≫≪もし夫が死んだら≫≪子供たちは≫≪父親を殺した母親の子供≫≪そんな≫≪そんなことって≫≪いや≫≪いや≫≪いやいやいや≫≪トロフィー≫≪知られる≫≪前の奥さんの子供を憎んでいたことを知られる≫≪かわいいあの子に知られる≫≪前の奥さんの子供にも知られる≫≪だめ≫≪それはだめ≫≪なんとか≫≪しなくちゃ≫≪とりかえしのつかないことをとりかえす≫≪息子を外に≫≪できれば私がしなかったことに≫≪もしも無理なら≫≪あのトロフィーで殺したことだけは知られたくない≫≪仲の良い兄弟だから≫≪ああ≫≪私≫≪バカだ≫≪バカだったんだ≫≪将来のことなんて何一つ考えられない女だったんだ≫

ついに高橋夫人は起訴に必要な供述を始めた。

結城哲也刑事(高橋克典)は遠藤氏(宮迫博之)を呼びだした。

「凶器が見つからないんですよ」

「・・・」

「でも・・・起訴はできますから・・・もう来ません」

「・・・そうなんですか」

「素人のやる殺しなんて・・・ほとんど衝動的にするもんなんですよ。だから・・・何がどうなったかなんて・・・当事者にだってわからないことはよくあることなんです・・・だから・・・凶器が所在不明でも・・・本人が捨てたと言っている以上・・・それでいいってことにするしかないんです」

遠藤氏は刑事の温情を悟った。

「あなたはあなたの家族を大切にしてください」

「・・・」

結城刑事は遠藤夫人に奨学金の案内書を渡した。

「これ・・・被害者の長男に渡してくれないかな・・・被害者遺族っていうのは一瞬、我を忘れるもんなんだ。なにしろ、肉親を突然失ったんだから・・・そのまま、立ち直れない人だっている。でも・・・できれば彼には立ち直ってもらいたい」

「ありがとう・・・あなたの息子さんに重ねているのね」

「いや・・・あれは・・・尋問の常套手段だよ・・・俺の家は家庭円満なんだ・・・もうすぐ娘が生まれる予定だ」

「刑事って・・・うそつきなの・・・」

「すまない」

バカな女に殺された父親に似て賢い長男の嘘に世間は欺かれ・・・風向きは変わった。

高橋夫人の妹(堀内敬子)は子供たちの面倒をみる気になった。

良幸は大学に戻ることになり、比奈子は学費の安い公立高校に転校する。

慎司は受験高校の学力レベルを落した。

遠藤夫人は娘に向き直った。

「私・・・引っ越しの多い子供だったから・・・安住の地を求めていたみたい。この街に来たのは・・・あなたのためじゃなかった・・・私のためだった・・・ごめんなさい・・・」

「もう・・・いいよ・・・家族なんだから・・・この三人で生きるしかないじゃん」

遠藤夫人は小島夫人(夏木マリ)を訪ねた。

「お願いがあります・・・私を助けてくれたように・・・高橋さんの子供たちを助けてください」

「昔は・・・あの子たちもよく家に遊びに来たのよ・・・マー・・・私の息子が勉強を教えたりして・・・そういう時代もあったのよ」

「新参者で・・・すみません」

「いいのよ・・・若い人を育てなかったら・・・街なんて続いていかないもの」

彩花(杉咲花)のカバンを志保(吉田里琴)が投げ捨てた事件は噂になっていた。

「友達の私がそんなことをするわけないじゃない」

「ちがう・・・あなたは私の友達じゃない」

「昔・・・いじめから護ってあげた恩を忘れるの」

「だからって・・・私をいじめるのは違うと思う」

「言うわね・・・私の実力を思い知らせてやる」

「親に殺されかかった私をなめるなあ」

「や・・・やめなさいよ」

教室での暴力沙汰に蒼白となる教職員一同だった。

志保の母親は体罰連発主義者だった。

「どつかんとわからんのか・・・このぼけ」

どうやら関西出身らしい志保の母親の躾の厳しさに遠藤夫人と彩花は唖然とするのだった。

「彩花は・・・大丈夫」

「あれじゃ・・・お母さんがお高くとまってるように見えるのも仕方ないということがわかった」

「そうね・・・私たち・・・これでもハマトラだもんね」

「これからは・・・じゃんじゃん言いたいことを言うよ」

「それ・・・いいじゃん」

母親にどつかれまくりながら退場する志保は微笑んだ。

殺人事件のあった街にも春は来る。

ロミオとジュリエットは同じ高校に入学したらしい。

二人は仲良く坂を下りて行く。

「友達できた・・・」

「まあまあ・・・そっちは・・・」

「なんとかね・・・」

「部活おわったら・・・どっかよらない」

「夜行観覧車・・・乗ってみたいな」

「え・・・」

ドキドキする二人だった。

ゴジラが上陸する二週間前のことである。

七瀬は小島家の呼び鈴を押した。

「あらあら・・・よくきてくれたわね・・・広いでしょう・・・私も年だし・・・なにかと大変なのよ・・・住み込みのお手伝いさんなんて・・・いまどき、なかなかいないから・・・」

「ふつつかものですが・・・よろしくお願いします」

春の風が吹きわたって行った。

高橋夫人は殺人の罪で服役中である。

遠藤夫人は前科者の友達の帰りを待つ。

それが真の友情だと信じて・・・。

なにしろ・・・殺したものと殺さなかったものが一枚の紙の裏表のようなものだと遠藤夫人は思い知っているのだから。

八方丸くおさまったので通りすがりの斉藤さんの出番はなかった。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

レビューの各話目次

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2013年3月22日 (金)

好きだと言いなさい(瑛太)

ゼブラーマン」関連の記事にアクセスが入っていたらおめでただった。

で、相手はつるかめのサミーである。

なんていうか・・・お似合いだな。

それにしてもスポーツ紙・・・サミーを一般人レベルの扱いである。

まあ、購買層・・・男だからな。・・・お前もな。

サミーは今度は「みんな!エスパーだよ!」(テレビ東京)に出るのか・・・何役なんだよ。

できちゃった結婚を別のカップルで使ったけど・・・重ねてくるのかと思ったら・・・。

猫は鎹・・・。

だじゃれかよっ。

ポエムです・・・ポエムです・・・ポエムです。

で、『最高の離婚・最終回(全11話)』(フジテレビ20130321PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。墓参りにTシャツで行ったと思ったら寒くてダウンを再び取り出し・・・と思ったら汗ばんで寒暖の行きつ戻りつに春を感じる今日この頃である。綺麗にカレンダーと寄り添ったこのドラマ・・・目黒川の滸の桜の開花にもきちんとシンクロしたな。神が微笑むとはこういうこと。つまり、冬来たりなば春遠からじなのだ。

妻が去った後の寂寥感をでんぱ組.incで埋めた濱崎さん(瑛太)・・・。

そこはかとなく・・・廃墟と化した部屋からは愛猫たちが消えていたのである。

おそらく・・・最後の別れとやってきた星野さん(尾野真千子)がずさんパワーで窓を開けっ放しにしたままだったのだろう。

猫たちは放たれたのだった。

あわてて、「金魚カフェ」にやってきた濱崎さんは最後まで空気だった姉の智世(市川実和子)が匿っていた星野さんを発見する。

二人の愛猫家は早春の夜の街へと猫探しの旅に出るのだった。

みんなアソビでしょ

恋の始めは

その後で泣くのは嫌よ

見かけよりも臆病だし

その頃、紺野さん(真木よう子)と上原さん(綾野剛)は再び、婚姻届の準備に入っていた。

「どうして・・・前は出してくれなかったの」

「出そうとしていたら・・・友達の飼ってた犬がいなくなって一緒にさがしてくれって頼まれて・・・捜しているうちについ・・・」

「そういう・・・ついって・・・ありなの」

「・・・」

そこへ・・・結婚の保証人になる予定の濱崎さんがやってくる。

「猫がいなくなっちゃって・・・一緒に探してくれませんか」

「いや・・・それは」と口ごもる上原さん。しかし、紺野さんは「すぐに行きます」と即断するのだった。

結局、見つからないまま部屋に戻った二人。

明日、女優の道を踏み出すという星野さんにあわてる濱崎さんだった。

「それは駄目だよ・・・タオルなしで温泉に入ったら・・・もうただの女優じゃないよ。バナナの皮だって平気で剥くようになるよ。危険な一線を越えちゃうよ」

説明しよう。結婚は一種の国家管理の売春行為なので、あらゆる「女を売りにする行為」とは相容れないのである。「混浴温泉人妻しっぽり濡れ濡れ」で生だし、丸出し、顔射、いろいろまみれになって一部愛好家を喜ばすようでは倫理的に問題がある。当然、その発想は一部職業婦人に対する差別意識に満ちている。

元夫の懇願に・・・隠された愛を感じた元妻はちょっと折れてみた。

「わかった・・・今回はやめとく」

ほっとした濱崎さんはうっかり、ご愛用のでんぱ組.incグッズを発見されてしまうのだった。

「ちょっと・・・なによ・・・これ」

元妻は元夫の自分より若い女への拘泥に憤慨するのだった。

説明しよう。結婚は一種の国家管理の売春行為なので、あらゆる「女を売りにする行為」とは相容れないのである。「ねむきゅんで水玉オンラインでグラビアクイーンバトルでピコッピクッピカッて恋してよでビリビリのでんぱでふと気づいたらここで笑ってた」的なアイドルに夢中になってグッズを大人買いしちゃうような大人は人間性そのものを問われるのだった。当然、その発想は一部職業婦人に対する差別意識に満ちている。

こうして・・・お互いの些細な欠点が気になり、衝突しあう結婚時代の最悪な状況に回帰する二人だった。

翌日、「離婚は家族の問題だ。東京都では良くても山梨県や静岡県では認められない」という濱崎さんの父親(山崎一)の主導により、星野さんの実家で家族会議の開催が決定するのだった。

ついに登場する濱崎さんの母親(浅茅陽子)だった。

単なる発達障害ではなくて濱崎さんは父親譲りの潔癖症だったらしい。濱崎家の車は原則土足厳禁である。しかし、母親は・・・平気でイカの姿焼のタレを車内にこぼす女だった。

こうして、濱崎家の両親、星野さんの両親とその他の親戚一同の集った家族会議と言う名の宴席が始る。

「夫婦だって顔も見たくないことだってあるわよ」

「顔は見れます」

「じゃ、どこまでだと駄目なのよ・・・空気が吸えないの、手が握れないの、キスはどうなの」

「キスはちょっと・・・」という星野さんに「えーっ」と絶望する濱崎さんだった。

「じゃ、だめねえ」と同意する両家の母親だった。

後は飲めや歌えの宴会である。問題なのは山梨県側と静岡県側のどちらから見える富士山が表側なのかなのである。まあ、東京都側から見えるのが表に決まっているのだが。

「いいものみせてあげる」と濱崎さんの母親は星野さんに「離婚届」を見せる。

「男と女と夫婦と家族は違うんだ・・・夫婦には紙を役所に出せばなれる・・・けれど家族はな・・・ある日突然・・・」と星野さんの父親(ガッツ石松)は濱崎さんに最後の説教をしつつ酔い潰れる。

その喧騒を抜けて二人になる元夫婦。

「とりあえず・・・居場所ができたよ」

濱崎さんは祖母の亜以子さん(八千草薫)の言葉を思い出していた。

「幸せにするって言ったんでしょう・・・少なくとも幸せになれるところまで連れて行ってあげなさいよ・・・」

「じゃあ・・・明日、仕事があるんで最終電車で帰るよ・・・」

「じゃ、送って行く・・・」

こうして二人の新たなる旅が始るのであった。

いじめてあげる

「嫌われたいの?」と冷たく聴いて

いじめてあげる

最終バスの去った田舎路、小さな駅の改札口、普通列車を待つプラットホーム。

二人で閉めたドアの鍵。

そして発車のベルが鳴り響くと・・・濱崎さんは星野さんの手を引いたのだった。

持ち合わせがなかったので新横浜からは目黒まで徒歩での帰宅だった。

それは・・・あの震災の夜。

出会ったあの日へと続いていくのだった。

「私たち・・・駄目な夫婦だったよねえ」

「ボクはそう思わないな・・・星野さんと出会って・・・よかったと思ってる」

語られてきたセリフだったものが回想シーンとして色彩を取り戻す。

嫌だったこともすべてなつかしい思い出になっていることに気がつく二人。

どこにでもいる屋台の親父(時任三郎)も出現して・・・忘れていた何かを思い出す二人だった。

「お二人は恋人同志なのかな」

「いいえ・・・私たち結婚したんです」

「そうなんだ・・・悲しいことがあっても二人で乗り越えて幸せになれたら・・・悲しい事もきっといい思い出になるんじゃないかな」

公園の老人(山谷初男)と並んで愛の守護天使らしい。

そういう意味では歯科衛生士の奈菜(芹那)やフリーターの淳之介(窪田正孝)もそういう属性なのだろう。

そして、ついに星野さんの唇を不器用に奪う濱崎さんだった。

本気になったら負けそうだから

あなたから先に

好きだと言いなさい

二人のよりが戻ったのを確認して・・・猫も塒に戻るのだった。

夫婦喧嘩は猫も食わないのである。

そして・・・再び、四倍苦痛な結婚生活が始るのだった。

「どうも女の子らしいんですよ・・・世の中には悪い男であふれているんで心配で心配で」

「他人を好きになることで自分が好きになるってことありますね」

「カレーを作ったらかぶとむしの味がしました」

「ボクは最近変わったんです・・・ハマザキでもハマサキでもどっちでもいいかな・・・みたいな」

そして・・・人々の営みとは無関係に桜の花は咲く。

まあ・・・一生で百回も見れたら・・・それはそれで凄いと思える人々の話なのである。

二人では達成不可能だったりして。

もちろん・・・一人でだって桜は見れるけれど。

ちなみにライブでは・・・。

あなたから先に・・・と歌って、「さん、ハイ」で客席にマイクがむけられると・・・。

好きだと言いなさ~い・・・と男の子たちが応ずる。

在りし日の「好きと言いなさい」の発展系はちょっと微笑ましい。

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2013年3月21日 (木)

赤い・・・青い国から来たスパイを愛した私(星野真里)

「シェアハウスの恋人」終了のため、連夜の谷間なのであるが・・・恒例の「相棒」チェックなのだった。

今回、サブタイトルとなっているのは「酒壺の蛇」で・・・「今昔物語集」第十九巻・二十一話「以佛物餅造酒見蛇語(寄進された餅で造りし酒のくちなわとみえたる話)」からの引用である。

此叡の山で修行した僧が故郷の摂津国に戻り、妻帯して、それなりの住職に収まった。まあ、基本的に生臭坊主である。で、寄進された餅を夫婦で独占して食べていたが食べきれず、酒造りを思いつく。いざ、飲もうとすると酒壺の中に蛇がわいている。仕方なく捨てるが通りがかりの酒好きな男たちが酒壺を覗くとそこには酒があるばかり。飲み明かすわけである。噂を聞いた件の住職は「これぞ仏罰」と己の吝嗇を恥じるというわけである。

邪であるがゆえに美酒を味わえぬものと・・・純粋に酒好きなために酒があればとりあえず飲むものの対比が面白いわけなのだな。・・・結局、まむし酒だよなあ。

教訓、酒飲み万歳なのである。

しかし、落し物を無暗に飲むと毒入りの場合があるのでご注意ください。

で、『相棒Eleven最終回スペシャル酒壺の蛇』(テレビ朝日20130101PM9~)脚本・櫻井武晴、演出・和泉聖治を見た。幽霊譚の多かった今回の相棒シリーズ、最後は工作員ものである。もう、特命係だけでなく、シリーズ自体がなんでもありの自由な感じだな。冒頭は甲斐享巡査部長(成宮寛貴)が父親である警察庁次長の甲斐峯秋警視監(石坂浩二)から嫌がらせの電話を受けるところから始まる。

汚れた官僚である父親は純粋な息子が疎ましくて仕方がないのだった。

「もういい加減に警察をやめないか」

「ほっといてくれよ」

・・・という父子喧嘩である。

父親が官僚であることを無視しようとして、結局、拘泥してしまう享だった。

そういう享を温かく見守る右京(水谷豊)がついに指名の理由を最後に語ります。

事件の幕開けは組織犯罪対策第5課角田課長(山西惇)と同期である組織犯罪対策第2課の恩地課長が自宅で「毒キノコ」をあやまって食べて事故死・・・という捜査一課の伊丹刑事(川原和久)の見立てによってはじまる。

キノコ好きの享とともに駆けつけた右京は・・・恩地夫人の証言から・・・不審な匂いを嗅ぎつける。

「料理をしたことない夫が・・・なんで・・・突然、キノコ鍋なんて・・・しかも・・・一人で・・・」なのである。

さらに、恩地課長には女の影があったと恩地夫人は語るのだった。

通話記録から・・・AJファイバーという炭素繊維を扱う企業が浮上する。

角田は恩地が「でかい事件(ヤマ)を追っていた・・・」と指摘して・・・右京は「輸出制限されている炭素繊維を国外に持ち出した外為法違反容疑の捜査」を念頭に置く。

AJファイバーはその嫌疑をかけられた会社ではないかと捜査を開始した右京と享。

炭素繊維の担当者である我孫子とその部下のいずみ(星野真里)に接触を試みるのだった。

航空関連の会社ということで・・・たまたま・・・いずみは享の恋人・悦子(真飛聖)のCA養成スクールの後輩だった。

しかし、なかなかいずみとコンタクトをとれない右京は・・・工作員の暗躍を直感したのだった。

我が国の民間企業の持つ軍事的に利用可能な技術を狙っている国はどこか・・・即座に答えが思いつける常識的問題である。

こちらの世界では赤い国旗の中華人民帝国があるわけだが、相棒の世界では青い国旗の東亜民主共和国があるらしい。略して中国・・・ではなくて東国である。

いつの間にか享のスマートフォンは遠隔操作ウィルスが感染し、特殊なアプリケーションによって盗撮盗聴器に改変されてしまっていたのだった。

あえて、享と別行動をとることによって中・・・東国の極悪な工作員の裏をかくことに成功する右京。鑑識課の米沢(六角精児)の協力で危険なアプリは削除される。

いずみと接触した右京はたちまち・・・いずみの交際相手である自称・アドリア大使館勤務の井川の存在を嗅ぎつける。

警視庁警務部首席監察官大河内警視(神保悟志)や警視庁サイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月(田中圭)らの協力を得て井川の正体が中・・・東国のスパイ・王であることを突き止める特命チームだった。

右京の追及にいずみは恩地課長との接触そのものを否定する。

しかし、証言の矛盾をつかれ・・・恩地課長がいずみをストーカーしていたと証言するのだった。

いずみへの追及にプレッシャーを感じた上司の我孫子はついに投身自殺をしてしまう。

我孫子は老母の高級介護施設入所のために・・・800万円で中・・・東国に炭素繊維を売り払ったのだった。

色と金・・・スパイの常套手段である。

やがて・・・いずみは井川がスパイだと知っていたことまで右京に看破されてしまう。

「私は・・・難しいことなんか・・・わかりません・・・ただ、彼を愛しているだけです」

「しかし、彼は日本人二人の死に関与しているのですよ」

「そんなこと・・・私には関係ありません」

ここで・・・外交官特権で国外逃亡を図る王と右京との頭脳合戦が開幕する。

そんな折、いずみは王が右京と会うと言ってきたと告げる。

廃墟に導かれた右京たちはスマホを発火装置とする爆殺トラップの洗礼を受ける。

「奴はあんたまで殺そうとしたんだぞ」と怒りを示す享。

「彼は・・・素晴らしい中・・・東国に私を呼んでくれると言ったんです」

「・・・」右京は無言だった。

王は成田、羽田を避け・・・茨城空港の国際便、上海じゃなくて・・・大連じゃなくて・・・上連行きによって・・・どこだよっ・・・中・・・東国への逃亡をはかる。

しかし・・・たまたま、居合わせたCA悦子に発見されてしまうのだった。

右京は警察庁長官官房付の神戸(及川光博・・・未登場)を通じて秘策・領空内誘導によって王を確保しようとする。

しかし・・・東国国内で拘束中の米国中央情報局(CIA)工作員と王を交換することで米国捜査当局に恩を売ろうとする甲斐峯秋警視監の画策によって・・・作戦は発動されなかった。

中国(仮名)なのになんで米国(実名)なんだよっ。

享は父にうっかり作戦内容を漏らしてしまっていたのだった。

このままでは・・・恩地の死は変死として闇に葬られてしまうとお茶の間が肩を落とした瞬間・・・右京の静かなる追及が始るのだった。

「いずみさん・・・あなたは彼を追いかけることはできませんよ」

「・・・」

「なぜなら、あなたは殺人犯として逮捕されるからです・・・」

「そんな・・・なんの証拠があって・・・」

「あなたは・・・自宅で死んでいた恩地さんが・・・他の場所で死んだことを知っていた・・・それをうっかり私に話してしまったのです」

「そんなの証拠にならないでしょう」

「恩地さんが本当に死んだ場所で・・・薬物の痕跡のある袋が発見されました・・・そして、その袋にはあなたの指紋がついているのですよ」

スパイとの愛に溺れたいずみは恩地を毒殺していたのだった。

散ってしまった同期の桜が・・・単なる不審死から殉職に格上げされたことを慰めにはりきって棺桶を担ぐ角田課長。

唇をかみしめるいずみの元へ王からの別れの手紙が届く。

「あなたはバカな日本の女・・・

難しいことを考えることが許されているのに何も考えず・・・

判らないことを調べることが許されているのに調べず・・・

ただ・・・愛という快楽に溺れるだけ・・・

私はだからあなたのことが

最初から最後まで嫌いでした・・・」

手紙を握りつぶすいずみだった。

星野真里・・・愚かで悲しい悪女・・・絶品である。

「そんな手紙を出すなんて・・・スパイのくせに変な男だ・・・」

右京は日本人二人の死に関与した中・・・東国のスパイにちょっと好意を示すのだった。幽霊も好きだがスパイも嫌いではないらしい。

しかし・・・私腹をこやした甲斐峯秋警視監には厳しいのだった。

「あなたは息子さんと違って警察官として最も大切なものを持っていない・・・」

「何・・・」

「酒壺の蛇の話に出てくる吝嗇で愚かな生臭坊主と一緒ということです・・・汚らわしい」

右京と友達になりたい甲斐峯秋警視監はまたしてもふられてしまうのだった。

しかし、逃亡に成功した王の工作行為をすべて国賊・我孫子に押し付けるストーリーの捏造を警視庁刑事部長・ 内村(片桐竜次)に命じることは忘れない。

右京に「自分のことよりも他人の心配をする男」として高い評価を受けた享には「犯人を逃がした責任」が重くのしかかる。

しかし、優しい恋人と一夜を過ごすことでふっきるのだった。

そんな享を右京は微笑んで見つめるのである。

とにかく・・・日本は今も昔もスパイ天国という物語。

もしかすると・・・さっき、パスタを買ったコンビニの店員の王さんも・・・。

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2013年3月20日 (水)

沖の鴎ととんびと鷹はどこで散るやら果てるやら(常盤貴子)

「書店員ミチル」が終了して2013年彼岸の谷間である。

久しぶりだなー。

冬ドラマはカレンダー的には成人式ドラマだったり、節分ドラマだったり、バレンタインデー・ドラマだったり、ひな祭りドラマだったりするわけだが、なんといっても春のお彼岸ドラマなのである。

そういう意味では「とんび」は最高のお彼岸ドラマと言えるだろう。

なにしろ、市川美佐子(常盤貴子)という故人を偲んで偲んで偲びまくるのだ。

それにしても・・・常盤貴子みたいな嫁に死なれたら、もう一生やる気でないのが普通だよな。

そこを乗り越えて行く主人公・市川安男(内野聖陽)は男の中の男なのだな。

まあ、そういう、荒唐無稽な話なので・・・レビューはしなかったわけだが・・・仏壇の死んだ嫁の写真がいつまでもいつまでも美しいので結局、毎週見て滂沱の涙を流すのだった。

で、『とんび・第1回~最終回(全十話)』(TBSテレビ20130113PM9~)原作・重松清、脚本・森下佳子、演出・平山雄一郎(他)を見た。とんびが鷹を生むのはやはり、とんびの見果てぬ夢なのかもしれない。人間を生んだ猿はあまり深く考えなかっただろう。とにかく・・・学歴的に不自由だった親から早稲田大学に入学した息子・市川旭(榎本城之助→五十嵐陽向→荒川槙→福崎那由他→佐藤健)が出たことがそうならそうなのかもしれません。とにかく、生んだ母・美佐子は我が子を庇って死亡・・・美佐子の超絶的理想の嫁ぶりとその早世に視聴する気がなくなったものは多いはずである。だから視聴率は17.0%↘16.1%↘16.0%↘12.0%↗12.8%↘12.6%↗12.9%↘12.6%↗18.3%↗20.3%と・・・死後しばらくは凋落したものと思われる。

とにかく・・・毎回、姑息な展開で涙を誘ったわけだが・・・終盤の盛り上がりはなんといっても息子の嫁である坂本由美(吹石一恵)が頑張ったからだろうと思われる。

そして、最後の最後は安男を支え続けた小料理屋「夕なぎ」主人のたえこ姉ちゃん(麻生祐未)が持って行ったのだった。

第9話は・・・七歳年上でコブつきの女・由美が結婚の挨拶に来る話である。

一般的に些少容貌に問題があっても、マザー・コンプレックス(母親についての記憶複合体)によって男子の母親に面影が似ている女子は結婚可能の法則があるわけだが、幼児において母を失った旭には母の記憶がない。安男が父親であり母親なのである。そのために・・・旭は、ある意味で父親そっくりの女である由美に惚れてしまうのである。なにしろ、由美は離婚後、仕事をしながら息子を育てているわけで・・・旭にとっては「オヤジそのもの」なのだった。

で、安男としては旭の嫁イコール自分の嫁の再来という妙な発想に呪縛されて、由美を受け入れることができなくなってしまうのだった。

厄介な男なのである。

結婚の挨拶に来た旭と由美を追い返す安男。

しかし、由美は安男のような女なので引き下がらない。

「私を娘にしてください」と頭を下げる。

娘・・・娘ができるのかとグラッときた安男だが・・・甘くみてはいけないほど馬鹿なので婚姻届を食べてしまうのだった。

それでも引き下がらない由美は「夕なぎ」で待ち伏せ攻撃である。

ここで、安男の幼馴染である曽根崎照雲(野村宏伸)が臭い芝居を打って安男の本心を引きだすことになる。

「この結婚には反対だ・・・もしも、美佐子さんが生きていたら大反対するだろうし・・・」

そこで安男の男気が爆発するのである。

「・・・なことはねえ。美佐子が生きていたら賛成するに違いない。よくも離婚してくれたと由美さんの前の旦那に感謝するとかなんとか頓珍漢なことを云うにきまってんだ」

そこにはいない美佐子の存在感が膨張して、涙腺が決壊するポイントである。

何回でも泣かされてしまうのだった。

墓の中の姑と長い会話をする嫁。

そこで・・・安男は息子の嫁に自分の嫁と似たところを見出す。

女はおしゃべりだからである。

そして・・・階段に並んで腰かける息子と嫁にかっての自分たち夫婦を見出すのだった。

そして・・・最終回である。

安男を東京に呼ぼうとする旭と・・・紆余曲折の末にやはり、故郷に戻る頑固な父親。

安男としては・・・姉代わりのたえ子を一人にすることはできなかったのだった。

一方で弟ができたことによって不安になり由美の連れ子である健介(黒澤宏貴)が家出したりして右往左往なのである。

結局、すべては丸く収まり・・・故郷の海で・・・息子一家は波と戯れる。

家族に縁のなかった安男と美佐子の夫婦。

二人が結婚した時、美佐子が「ふたりになったね」と笑ったのを安男は思い出す。

「二人どころじゃねえ・・・今じゃ五人家族だ・・・」

とんびとか鷹とかの問題ではなく・・・家族がいることで寂しさがまぎれる。

ただ・・・それだけのドラマである。

そして・・・それは多くの家族のいる人々の共感を誘い・・・家族のいない人の憧憬を誘うのである。

このコンテンツの威力がここにあります。

そして・・・素晴らしい嫁であり、妻であり、母である美佐子がずっと不在であることがその魅力の秘訣なのです。そうでないと安男は単なる馬鹿野郎ですから。

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ロスタイムライフ

天地人

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2013年3月19日 (火)

愛人の家の金庫の中へ大切にしまっているのです(剛力彩芽)

「魔法人形/江戸川乱歩」(1957年)は「少女クラブ」に連載された少女向けの「少年探偵団」シリーズの一作である。

少女向けであるために少女探偵・花崎マユミが大活躍するし、小林少年は「身体に合う女の子の洋服も和服もいつでも使えるように事務所にちゃんと用意してある」ので女装します。・・・一部婦女子ってやつは時代を越えて腐ってやがるぜ。

冒頭部分を妄想キャストでお届けすると・・・。

小学生の宮本ミドリちゃん(芦田愛菜)と甲野ルミちゃん(谷花音)は下校中に怪しい腹話術人形使いに出会う。

「ルミちゃん・・・ボクと遊ぼう・・・ボクはルミちゃんが好きなんだ・・・ミドリちゃんはそんなに好きじゃないから・・・ルミちゃんに声をかけたんだ・・・」と人形が話しかける。

で、ムッとしたミドリちゃんは「知らない人とお話したら・・・だめだよ・・・帰ろうよ」とルミちゃんに言う。

しかし、いい気になったルミちゃんは「あたしはもう少し、お話するわ・・・先に帰ってもよくってよ」と言うのである。

もちろん、ルミちゃんはまんまと誘拐されてしまうのだった。

怪しい西洋館に連れ込まれたルミちゃんは紅子人形(吉田里琴)に出会う。

「紅子お姉さまは本当に人形なの?・・・本当は生きているんでしょ?」

「ええ、生きているの・・・でも半分しか生きていないのよ・・・もうすぐ残り半分も死んで・・・本当のお人形になるの・・・美しいまま年をとらないという口車にのせられて・・・魔法の薬を注射されて・・・とうとうこんなことになってしまったの・・・」

なんという萌える展開であることか・・・いい趣味してるよなあ。

ちなみに「魔法人形」で金庫にしまわれているのはダイヤモンドやルビーのちりばめられた黄金のかんむり「ほのおの王冠」である。

・・・もう、いいか。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第10回』(フジテレビ20130318PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・宮木正悟を見た。今回は聖なるミステリ作家・江戸川乱歩(1894~1965)であるために・・・乱歩作品が乱打されていく。デビュー作は「二銭銅貨」(1923年)だが処女作は「火縄銃」(1915年)と言った具合である。「名探偵・明智小五郎」と「怪人二十面相」の対決から生まれた「少年探偵団」シリーズの一作、「魔法人形」は単行本化において「悪魔人形」に改題・・・なのである。ちなみに・・・「魔法人形」連載時に乱歩は六十代である。「逃げようたって・・・もうだめだよ・・・おとなしくしておいで・・・いま、可愛いお人形さんにしてあげるからね・・・いっひっひ」と執筆する姿を妄想するだけで涙を禁じ得ないのだった。

聖夜・・・余命宣告をされた老人・鹿山明(須永慶)は愛人の来城慶子(高樹澪)に手紙を郵送した後でうっかり階段を踏み外し死亡してしまう。

死の直前、明はダイイング・メッセージとして「1915」を残すのだった。

「金庫の中に贈り物があります」という手紙を受け取ったおどろおどろしい慶子は喉頭がんのリハリビ中のため、世話役として同居していたおどろおどろしい妹・邦代(松田美由紀)に相談を持ちかける。

「肝心の金庫の開け方がわからない」のである。

それは「鍵のかかった部屋」の主人公の出番だと思うが、古書に詳しいと名高いビブリア古書堂店主・篠川栞子(剛力彩芽)の出番なのだった。

五浦大輔(AKIRA)とともに来城慶子の屋敷を訪問した栞子は明の残した膨大な「江戸川乱歩コレクション」を見て涎を垂らすのだった・・・妄想上ではな。

「金庫を開けてくれたら・・・コレクションはすべて譲る」という展開に栞子は古書売買業者魂が燃えるのだった。

金庫は、「鍵」「ダイヤル」「暗唱コード」の三段構えであった。

不意の死によって「開け方」を教えることのできなかった故人の遺志を尊重したい栞子だったが・・・来城慶子が愛人だったために事態は複雑化するのだった。

鹿山明は有名な政治学者であり、厳格な鹿山家の婿養子だった。

明は江戸川乱歩をこよなく愛したが、士農工商ミステリ作家の時代に・・・その猟奇的な趣味は愛人宅でしか堪能できなかったのである。

金庫解錠のヒントの眠る本宅には明の遺児であるミステリアスな義彦(名高達男)とミステリアスな直美(横山めぐみ)の兄妹が住んでいたのだった。

「え・・・父に愛人が・・・え・・・江戸川乱歩を愛読してた・・・」と唖然とする義彦。

しかし・・・死者に鞭打つことはできないと協力を約束する義彦。

だが、一夜明けると・・・義彦の態度は豹変していた。

その裏に・・・栞子は10年前に消息不明になっていた母・智恵子(安田成美)が介在していたことを知る。

古書入手のためには手段を選ばない猟奇的な女・智恵子・・・ついに登場なのだった。

栞子の手持ちの手掛かりは・・・コレクションの中から、少年探偵団シリーズの一部と、乱歩全集の特典グッズである少年探偵手帳が消えていること。そして、コレクションの売り手にヒトリ書房の井上太一郎(佐野史郎)が存在していること。

それにしても五浦の書籍を扱う手つき・・・呪われるレベルである。

栞子は井上を訪ねるが、不在であった。留守番の女店員が少年探偵団の愛読家であったために「魔法人形」の話題で意気投合するのだった。

その腐ったムードの中・・・意外にも女店員が鹿山直美であることを知るのだった。

栞子は直美に協力を求めるが・・・父親に対する怨みがある直美は拒絶する。

手詰まりになった栞子だったが・・・井上はそこで・・・栞子の母・智恵子との確執を明らかにするのである。

井上は直美と幼馴染であると同時に、鹿山から経済的援助を受けていた。乱歩コレクションのために鹿山が金に糸目をつけなかったのである。

そして、結婚生活が破綻した直美に密かに想いを寄せていた井上は十五年前にも直美を店員として雇用していたことがあったのだった。

当然、父親の愛人のことを直美に伏せていた井上。そこに目をつけた智恵子は井上を脅迫して・・・鹿山相手の仕事を奪っていたのである。

「お嬢様に父親の愛人のことをばらしたら・・・彼女、傷付くでしょうね・・・」なのだった。

しかし・・・栞子は・・・禁じられていた「乱歩」を直美が愛読していたことを見逃さない。

そして・・・一計を案じたのである。

井上が・・・「娘さんを私にください」という手紙を鹿山に送っていたと直美に伝えたのだった。

想い当たることのあった直美は鹿山家の椅子の下の秘密の書庫へ栞子たちを導くのだった。そこには少年探偵団シリーズが隠されていた。

「私はこれを発見すると・・・父に隠れて乱歩を乱読したのです」

「それは違います・・・お父様は・・・あなたのために・・・この秘密の書庫を用意したのです・・・そして、死期を悟ったお父様は・・・あなたに最後のプレゼントを贈りました」

そこには「直美へ」と書かれた少年探偵手帳が置かれていたのだった。

そして・・・持ち主の氏名欄には「井上直美」と書かれていた。

それは・・・井上と直美の再婚を承諾する印だった。

見つめ合う・・・井上と直美だった。

とりあえず・・・高樹澪、松田美由紀、横山めぐみ、名高達男、佐野史郎、安田成美の怪しさ抜群の豪華キャスティングにより、AKIRAその他は空気と化していたことは間違いない。栞子は主人公としてよく頑張ったと思う。

父へのわだかまりが解けた直美は鍵の入ったケースを栞子に託す。

しかし・・・ケースは空だった。

「母・・・母だわ・・・母に先を越されてしまった」

唇をかみしめる栞子。

①鍵、②ダイヤル番号「1915」・・・残すは③五十音の暗唱コードの謎を残すのみである。

はたして・・・栞子と智恵子の古書好き母娘対決の行方は・・・そもそも、智恵子はなんで出奔したのか・・・盛り上がっているのかどうかは別としていよいよクライマックスである。

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シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様のビブリヤ古書堂の事件手帖

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2013年3月18日 (月)

洋製に倣ひ船艦を造り、専ら水軍の駆引を習はせとの仰せだべし(綾瀬はるか)

佐久間象山(しょうざん)は松代藩士として藩主・真田幸貫に「海防八策」を献じている。

その五番目は「西洋の造船技術を学んで軍船を作り、海軍によって運用させること」という単純明快な作戦である。

もちろん、明治維新後、大日本帝国はこの路線を邁進するのだった。

前後を見てみよう。

その一は「沿岸における砲台の構築」である。

その二は「銅の海外流出を抑えて大砲の原料とすること」

その三は「商船の洋式化」

その四は「海上における国境警備の組織化」

ここまで、「敵軍上陸阻止」「そのための資産運用」「洋式化による海難事故防止」「密貿易の摘発」と実に経済を重視した献策になっている。

象山は実利主義者だった。

あるいは、そういう方が上が喜ぶと知っていたのである。

そして、漸く「海軍の創設」を進言するわけである。

その六「全国津々浦々に学校を創設」

その七「有能なものに褒美を与え、無能なものは罰すること」

その八「人事において身分を問わない」

人材育成にあたって貴賎を問わず、優劣を極め、機会の平等を与える。

こうなってくると・・・いろいろと差しさわりが出てくるわけである。

しかし、本人が有能な天才である以上、無能で高貴な人々の心証など知ったこっちゃなかったのだった。

最も有能な弟子である吉田松陰が処刑され、本人が暗殺、そして最強の弟子である坂本龍馬が暗殺。

象山の理念に根本的な間違いがあったことは間違いないとも言えるのだった。

世の凡人たちは都合の悪い実理を認めたがらないからである。

で、『八重の桜・第11回』(NHK総合20130317PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の子孫にして安徳天皇の菩提を弔う水天宮の神官で幕末最悪の軍師・久留米藩士・従五位下真木和泉守保臣と、佐久間象山の弟子・吉田松陰の弟子にして英国公使館焼き打ち実行犯で奇兵隊の前身・光明寺党の創設者である長州藩士・久坂玄瑞の二大イラスト描き下ろしでお得です。元治元年夏はスローペースなので順調に主役先取りでございますなーーーーっ。

Yaeden011 元治元年(1864年)六月二十四日、長州藩は赦免を願う嘆願書を朝廷に奉る。長州藩に同情的な有栖川宮をはじめとする在京藩主や公卿もいたが、朝廷を支配する関白・二条斉敬、前々関白・近衛忠煕らは公武合体派の公家であり、補佐を務める中川宮ともども孝明天皇自身が長州を嫌悪していたのである。言わば長州は熱烈な片思いをしているのであった。長州の暴発を恐れた禁裏御守衛総督・徳川慶喜は佐久間象山を召喚し、孝明天皇の彦根城遷座を実現せしめんとする。先代井伊直弼暗殺以来、石高を減らされていた彦根藩第16代藩主・井伊直憲は汚名挽回の機会に喜んだ。しかし、開国して富国強兵して攘夷という佐久間象山の発想が理解できないとりあえず攘夷の人々、とにかく、京から天皇が離れることを断固反対する人々は凶刃を振るうのだった。七月十一日、象山暗殺である。下手人の一人とされる河上彦斎は肥後藩士であり、池田屋で死んだ象山の弟子の一人で肥後藩士の宮部鼎蔵の仇討ちの側面もあった。幕末の皮肉な様相の露呈である。象山の夫人は勝海舟の妹であったが幕臣の勝は海軍創設をめぐって反主流になりつつあった。一方、長州の久坂玄随は象山の弟子・吉田松陰の妹を夫人としている。松陰門下生は佐久間象山の教えを受けたものが多数おり、久坂もその一人だった。象山暗殺は幕末戦争の幕開けとなる禁門の変(蛤御門の変)の呼び水となった。七月十八日、孝明天皇は長州掃討を禁裏御守衛総督・徳川慶喜に申しつけた。

真木和泉にとって源氏である徳川家は不倶戴天の敵である。幕末の動乱期にあって倒幕こそは平家の怨念を晴らす絶好の機会であった。最初は薩摩を、次には長州を唆し、ついに壇ノ浦の雪辱を果たす機会を得たのであった。長州軍の兵力は増強されつつあった。このまま、対峙が続けば戦力差は長州に有利となり、日和見を決め込んでいる諸藩も倒幕に傾くはずであった。

もちろん、それは真木和泉の神がかった妄想であり、倒幕の機が熟すのはまだ数年の歳月が必要であった。しかし、人心を惑わすためには陰謀家自身がある程度、狂う必要があったのである。

真木和泉は河童である久坂玄瑞に水神衆の出動を命じた。天皇遷座を画策する佐久間象山を討つためである。万が一にもそのようなことがあっては戦略が崩れるからである。

水神衆は淀川を遡上し、御所を出た佐久間象山を三条木屋町で待ち伏せる。

一方、畏れ多い天皇の遷座を回避するべく、天皇のしのびたちも象山の抹殺を企てていた。潜伏中の過激派浪士残存部隊を誘導したのである。彼らは誅する対象に飢えていた。殺すことで報償を得ることができれば誰でもよかったのである。

象山は科学忍者である。

当然その配下は科学忍者隊だった。しかし、急進派である象山に対する真田家中での権力闘争は陰湿であった。不運なことにその日の護衛当番は反象山派に属していたのである。

馬上で象山は真田しのび科学忍者隊の気配が消えたのを察する。

「刺客か・・・護衛の者どもが・・・退散しおった・・・」

象山の顔に憤怒の形相が浮かぶ。

「この国難に際し・・・お家騒動か・・・情けなや・・・」

象山は懐からスミス&ウエッソン・ナンバー・ツー(32口径)を引きぬいた。

敵の気配は川面から発していた。

「ふ・・・水中の術に特化したものと水中で戦う理があるかよ」

象山は川から離れるべく馬を御する。

水神衆は銛を構えて、水中から飛翔した。

「愚か者」

ふりかえった象山は南北戦争両軍使用の量産型リボルバーを連射した。

百発百中の妙技である。全弾を撃ちつくすと、路上には六人の水神衆の死体が転がっていた。

「見たか、科学忍法、連射早打ちの術」

笑みを浮かべた象山の背後から河上彦斎が必殺の伯耆流居合術・飛燕逆袈裟斬りを放ったのはその時である。

象山は無惨な死体となった。

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2013年3月17日 (日)

神様はどこへ行ったの?(麻生久美子)

子供たちはいつ自由を手にいれるのだろうか。

小さな小さな自由である。

はいはいをする自由。

立ちあがる自由。

歩く自由。

そして、一人で家を出る自由。

親たちはいつ子供の自由を許すのだろうか。

自分の目が届かない場所へ向かう子供たちをどんなタイミングで見送るのだろうか。

愛しさが強いほど強い痛み。

慈しむがゆえの不安。

これはそのような幸福の在り処である。

で、『泣くな、はらちゃん・第9回』(日本テレビ20130316PМ9~)脚本・岡田惠和、演出・狩山俊輔を見た。複雑なこの世界の自由は主観と客観の間で揺れ動く。職業選択の自由は教育の自由に支配され、個人の自由は管理の自由に侵食される。テリトリーの自由、インナースペースの自由、恋愛の自由、一日中ゲームをする自由、食事制限からの自由、無免許からの自由、支配する自由、不自由な人の自由、指定されない自由、悪魔の自由などが果てしない自由戦争を繰り広げているのだった。

ハッピーエンドの後の世界を描く自由もまた憲法によって保障されているのだった。

眠る必要のない【キャラクターズ】の一員、【ユキ姉】(奥貫薫)は目をつぶってじっとしていた。神様である越前さん(麻生久美子)のやすらかな寝息を聞きながら・・・。

その頃、【男たち】はテレビのニュース番組を通じて悲惨な世界の実情を朝まで垣間見たのだった。

翌朝、越前家のにぎやかな食卓で・・・【男たち】は不安を隠して明るく振る舞う。

神様の所属する世界を批判することは畏れ多かったからである。

「今日は明るいですね」と【はらちゃん】(長瀬智也)がつぶやく。

「いい御天気ですねって言うのよ」と教える越前さん。

「悪い天気もあるのですか」

「あいにくの雨ですねとか言いますよ」

「雨は悪いのですか」

越前さんの母親の秀子(白石加代子)が割り込む。「悪いっていうわけじゃないのよ。雨が降らないと困るしね。雨を待っている人もいるの」

「必要悪ってことですか」と【あっくん】(清水優)が理解力を示す。

「俺はわかったよ・・・あんたたち宇宙人だろう」と話の腰を折る越前さんの弟のひろし(菅田将暉)はレベルEレベルで断定する。

越前さんは曖昧に頷くが、秀子は「違うわよ、はらちゃんたちはマンガの世界から出て来たのよねえ」と正鵠を射るのだった。

「なんだ・・・そうか」と納得するひろし、越前さんもあきれるほど自由なキャラクター設定の母と弟だった。

「自由行動でもいい」と許可した越前さんだったが、【キャラクターズ】は出勤する越前さんに附いてふなまる水産三崎工場にやってくる。

工場前の堤で道路にお絵かきをする【キャラクターズ】たち。

それを見た悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)と微笑む。

しかし、【キャラクターズ】たちは不安を抱えて話し合っていたのだった。

「大きな車のような空飛ぶ機械で人が人を殺すんだ・・・戦争っていうらしい」と車が大好きな【マキヒロ】(賀来賢人)が言う。

「犬や動物たちを檻に閉じ込めたり、ガスで殺したりするらしい」とかわいい動物を愛する【あっくん】が言う。

「たくさんおいしいものを食べる人間と何も食べるもののない人間がいるらしい」と酒のつまみにこだわる【笑いおじさん】(甲本雅裕)が言う。

「食べるものがあまってもわけあったりしないらしい」と【笑いおじさん】にキャラがかぶっている【たまちゃん】(光石研)が言う。

「この世界がこわくなりました・・・マンガの世界へ帰りたい」と【あっくん】・・・。

しかし、【はらちゃん】は「でも、私はこの素晴らしい世界で神様と一緒にいたいのです・・・もう少し頑張ってみましょうよ」と仲間たちを励ますのだった。

現実世界のマンガの国の住人である田中くん(丸山隆平)は不安を口にする。

「僕はこういう話が好きでした。みんなスヤスヤ眠る頃、おもちゃが箱を飛びだす話です。だから、眠ったふりをして玩具箱を見張ったりしたものです・・・でも、そういうお話の最後はこちらの世界にさわやかな感動を残して・・・おもちゃたちは元に戻って行くっていうか・・・」

「なんでそんな不吉なことを言うの」と田中さんに詰め寄る悪魔さん。

「だって・・・心配なんです。そうなったら・・・越前さんや悪魔さんが・・・傷付くことになるんじゃないかって・・・片思いよりも・・・両思いの人が相手を失う方がつらいじゃないですか」

「なんで・・・そんなこと言うのよ」・・・またしても、田中くんにぐっときてしまった悪魔さんだった。

【キャラクターズ】の前に地元の子供たちが現れた。

子供たちは無邪気に大きなお友達にサッカーを教える。

ボールをゴールに入れるのは男の子たちの本能を刺激するのだった。

もちろん、女の子だって相手のボールをゴールに入れるのを邪魔するのは大好きなのである。

さらにいえばボールをけり上げるのが大好きな女の子だっているのだった。

それはともかくとして【キャラクターズ】たちはサッカーが大好きになってしまう。

主人公設定の【はらちゃん】はたちまちボールとトモダチになってしまうのだった。

子供たちは【はらちゃん】の運動能力の高さを評価する。そして徒競争の勝負を挑むのだった。

その頃、大橋さんの息子さんの噂話が一段落した長沼さん(稲川実代子)は「百合子さんの退職と退去の噂」を越前さんに伝える。

「百合子さん、工場やめるってよ」

あわてて、工場を出た越前さんは徒競争の嵐に巻き込まれる。

【キャラクターズ】の暴走に越前さんは立腹するのだった。

「徒競争は嫌いです」

「足が遅いんだ」

「そうですよ」

「サッカーも嫌いです」

「サッカーが下手なんだ」

「どうせ、そうですよ」

いつまでも聞いていたい越前さんと【キャラクターズ】の愉快な漫才はさておき、実は矢東薫子だった百合子さん(薬師丸ひろ子)を追いかける一同。

疲れを知らない子供たちのような【キャラクターズ】とは違い、へとへとになる越前さんだった。

「どうして・・・出て行くんですか」

「私、みんなにひどいことしちゃったから」

「逃げないでよ」とオリジナル版の匂いを強く残す【ユキ姉】は言う。

「私、あなたの作った世界が好きだったよ。いろいろと事件があったし、居酒屋の外にも出られたし、絵も上手だったし、素敵なファッションも着れたし・・・今の神様よりももっといいセリフがあったし・・・」

間接的に自分の描いたキャラクターに苦言を呈される越前さんだった。

「私を許してくれるの」

「責任とってよ・・・神様の神様なんでしょう。私たちの行く末を見守ってよ」

承諾するしかない百合子さんだった。

そして・・・つかのまの平穏が訪れる。

【キャラクターズ】は捨てられたサッカーボールを拾ってサッカーに興じる。

しかし、そのボールがついに出現した地元の不良たちに当たってしまうのだった。

不良たちは【キャラクターズ】を弱者とみなし、たちまちいじめ始めるのだった。

「いたい・・・なぜ、そんなことをするのですか」

「うるせえ・・・バカじゃねえの」

一方的に実力を行使される【キャラクターズ】・・・。

かけつけた越前さんまで殴り倒されてしまうのだった。

実は無敵のヒーロー機能を内蔵していた【はらちゃん】は不良たちに鉄拳制裁を加える。

一度、解放されたパワーは暴走し、限度を知らないのだった。

「もう、やめなさい」と泣きながら【はらちゃん】を抱きとめる越前さん。

不良たちが逃げ去った後で【はらちゃん】がつぶやく。

「これが・・・この世界・・・」

「ごめんね・・・こんな世界でごめんね」

工場で秘密を知る人間たちの手当を受ける【キャラクターズ】・・・。

自分に潜む凶暴性を知った【はらちゃん】はショックを受ける。

「ぼくは・・・もうマンガの世界に帰りたい・・・」と【あっくん】・・・。

次々と【あっくん】に同意する【キャラクターズ】・・・。

しかし、【はらちゃん】は神様の心が気がかりだった。

「嫌いにならないでください・・・」

「嫌いになんかなりません・・・私たちは両思いですから・・・」

しかし、【はらちゃん】の【涙】を見た越前さんはある決意をする。

そして、優しく言うのだった。

「泣くな、はらちゃん・・・」

越前さんは魔法のノートの封印を解き、【キャラクターズ】を回収する。

悪魔さんも田中くんも矢東薫子もそれぞれの想いを秘めて儀式を承認するのだった。

その夜・・・いつものおでん屋で昼間の結末を回想する矢東薫子は恐ろしい可能性を思いつく。クオリティーが高いからである。

「これは・・・本当の最終回とは違うわね・・・神様の神様の神様はツイストもう一回なのだわ」

【キャラクターズ】が消え、少し、寂しくなった越前家の夕食。

「冴えない娘でごめん、冴えない姉でごめん」と越前さん。

「バカな弟でごめん」とひろし。

「変な母親でごめん」と秀子さん。

和む母親と弟を残し・・・越前さんは自分の部屋へと籠る。

越前さんの恐ろしい魔法使いとしての素質はとどまることを知らないのである。

越前さんは魔法のノートに【越前さん】を描きこむ。

そして一度閉じたノートを開くのだった。

矢東薫子が駆け付けた時・・・越前さんはすでに消滅して・・・マンガの世界に引き籠ってしまっていた。

「こっちへ来ちゃいました・・・」と【越前さん】は言う。

「それでいいの・・・」とユキ姉。

「私は子供の頃からずっとこっちの世界に来たかったんです・・・はらちゃん・・・ずっと一緒だよ」

「・・・・はい」と設定通りに笑顔になるはらちゃんだった。

神様はどうなったの。

共産主義者が殺したよ。

共産主義者はどうなったの。

転向して資本主義者になったよ。

資本主義者はどうなったの。

ロシアンマフィアになったよ。

ロシアンマフィアはどうなったの。

法で裁かれて囚人になったよ。

囚人はどうなったの。

死刑になって神様にあったよ。

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銭ゲバの最終回

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2013年3月16日 (土)

希望の光が死の陰の谷にさし汝にわざわいとなぐさめを贈る(吉田里琴)

人は罪を犯すことから逃れようとする。

それは法から身を護るためである。

そして、人は身を守るために罪を犯す。

人は罰から免れようと嘘をつく。

しかし、何人たりとも罪から逃れることはできない。

罪は魂に刻まれて人を苛むからである。

それを信じぬものは暴く力を自ら行使する。

彼らは救いを求めないからである。

悪魔はそっと彼の耳元で囁くだけである。

神などはいないと。

信じるものは己のみであると。

復讐こそが正義であると。

で、『・第9回』(TBSテレビ20130315PM10~)原作・湊かなえ、脚本・清水友佳子、演出・山本剛義を見た。娘を殺そうとした母と母に殺されかけた娘の関係修復は絶望的だと思うが、母親の狂気を許容する聖なる娘ならば可能である。そのためには娘が母の懊悩を察し、人の魂の不条理を認めなければならない。それは険しい道であるが、よき指導者に恵まれ、娘は希望の光さす道を見出す。それがこの世の正しき修羅の道を諭す幼馴染であることは言うまでもない。苦しみを知るには苦しむ他ないからである。

夜行観覧車の呪いによって「聖なるひばりヶ丘天国」の夢を見た遠藤夫人(鈴木京香)は清修学院中等部不合格の烙印によって異物と化した娘・(杉咲花)を殺害しようとして失敗する。聖なる防犯ブザーによって覚醒した遠藤夫人は「とりかえしのつかないことをしてしまったこと」を悟るが、同時に漸く己の非を知るのだった。

裏の家での殺人未遂を制止した小島夫人(夏木マリ)は子育ての難しさについて考察する。

「昨日はありがとうございました」

「月に二回も殺人事件があったら・・・たまらないのよ」

「・・・私、どうしていいのか、わからなくなってしまって」

「正解なんてないのよ・・・何が大切なのかを忘れないこと・・・それだって失敗するときは失敗する。そうでなくっちゃ、ワイドショーがネタに困るんだから」

殺人未遂犯の娘となった彩花は恐ろしい母親から逃れるために坂の下の浦浜中学に登校する。母親の呪いによって地獄と化した校舎では中立地帯の保健室でさえ、身を落ち着かせることができない。坂の上の子供でもなく、坂の下の子供でもない彩花は出稼ぎの中国人労働者のように抑圧されるのだった。

かっての友達であった彩花を幼馴染の村田志保(吉田里琴)は憐れむのだった。

≪いつまでも、いつまでも昔をなつかしんでも駄目よ・・・あなたはどこにもいない子になったのだから・・・どこにもいない子として強く生きていかなければならないの≫

しかし、うつろな魂に支配された彩花は志保の聖なる足を飲みものによって汚すのだった。

≪ああ、憐れな子、憐れな子よ・・・ここにはいないことを思い知らなければならないわ≫

志保はあの世とこの世を隔てる川での禊を彩花に促すのだった。

≪一度、死んでおしまいなさい≫

志保に内在する神の御心を知らぬ、一般人の佐伯南(岡本夏美)たちは怯えるのだった。

「それは・・・やりすぎなんじゃないの」

「死んじゃったらどうするの・・・」

≪彼女はすでに死んでいるの・・・これは慈悲なのよ≫

志保の神の目には車に乗って近づいてくる遠藤夫人が見えているのだった。

≪さあ、最後のチャンスをものにするのよ・・・来週は最終回なんだから≫

遠藤夫人は冷たい一月の川を進む彩花を発見した。

川の水の冷たさの予感が一瞬、身をすくませる。

志保は声をあげて励ました。

「お母さん、彩花ちゃんが大変なんですよ」

遠藤夫人は勇気を得た。

「待って、彩花、行かないで」

「私は行くのよ」

「行かないで」

「離してよ」

「離さない」

遠藤夫人は抱きしめなければいけないものを漸く抱きしめた。

志保は苦笑しながらその場を後にした。

底知れぬ闇の中から

かすかな光のきざし

探し続ける姿は

勇気という名の船

娘を連れ帰った遠藤夫人は言うべき言葉を口にする。

「ごめんなさい」

殺人未遂の妻と証拠隠滅の夫はお互いの罪から目をそらしながらとりあえずコーヒーを飲むのだった。

罪の在りかを明らかにしないことがただひとつの救いの道だからである。

あの夜のなんらかの事情を知っている慎司(中川大志)は犯行を自供するが、信憑性が問われ、容疑を認められない。

慎司は回想する。

母は僕のユニフォームをハサミで切り裂いた。

僕は愛しているあの娘のように暴れてみた。

そんな僕を父は殴った・・・。

しかし、犯行の場面はどうしても思い出せないのだった。

勉強のできない次男の無意味な自首によって高橋夫人(石田ゆり子)は追い詰められていた。

無力な己の力を悟った慎司は良幸(安田章大)と比奈子(宮﨑香蓮)から距離を置く為に保護施設に入所する。

高橋夫人の妹(堀内敬子)からも見放された良幸と比奈子はもはや、自宅に戻るしかないのだった。

その頃、ひばりヶ丘には斎藤さんが通りかかっていた。

そして、高橋家の悪意に満ちた貼り紙をはがし始めたのだった。

思わず、家を出る遠藤夫人。

「何してるんですか」

「嫌いなんですよ・・・こういうの・・・」

「・・・」

遠藤夫人は為すべきことを思いつかない自分というものを思い知ったのである。

「そうですよね」

「そうなんです・・・」

遠藤夫人は為すべきことをした。これ以上なく落ちてしまった友達のために・・・何かしてこそ・・・友達なのである。

「じゃ、私はこれで・・・」

斎藤さんは名も告げず去って行った。

遠藤氏もやってきた。その道のプロなのである。

彩花はまたもや・・・自分の家を捨て他家に手を出す偽善的な態度の母親を見出した。しかし・・・と彩花は思いなおす。この心のない母親の娘である宿命からは逃れることはできないのである。それを受け入れるしか道はないのだった。それが光の天使である志保のおしえてくれたことだった。

そこへ・・・良幸と比奈子が帰ってきた。

彩花は思う。坂の下には素晴らしいともだちがいた。

坂の上には素晴らしいともだちがいるのだろうかと。

彩花は苦しみを知らずに育ち、幼いままの少女のために志保から与えられた菩薩の力を試すのだった。

なぜなら・・・彼女もまた苦界に沈んだ身の上だからである。

殺人未遂犯の娘と殺人容疑者の娘は魂の姉妹と言って差し支えないだろう。

彩花は憧れの清修学院高等部に行って叫んだ。

「ここに・・・高橋比奈子さんのお友達はいますか・・・お話があります」

慈愛に満ちた世間知らずの鈴木歩美(荒井萌)たちは仕方なく召集に応じるのだった。

もちろん、それなりに世間体を計算したのである。

こわいもの知らずの中学生には逆らえないからだ。

比奈子は浅い友情を修復してくれた彩花に謝辞を献ずる社交性は心得ていた。

「ありがとう・・・」

彩花は底辺の人間としてまだまだ自覚の不足している比奈子の前途を危ぶみつつ、その言葉を受け入れるのだった。

所詮は他人だからである。

変わらないこの世界

いつも愛が足りてない

このキケンなゲームも

終わらせたい でも止まらない

素晴らしいインターネットの世界の誹謗中傷に対応するために世間知らずの良幸は情報戦を仕掛ける。マス・メディアを利用して、会見を開き、事態の鎮静化を図るのである。

悪をもって悪を駆逐する一手である。

まあ、龍の顎に頭っこんでしまったという見方もできる。

はたして、事件発生から九日目に夜行観覧車に誰が乗車してくるのか・・・。

そして・・・誰かの罪ははたしてそれなりに暴かれるのか・・・。

妙に暖かく、関東でも桜が開花してしまいそうで不気味な最終回シーズンなのだった。

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2013年3月15日 (金)

恋の奴隷が生きる場所なんてどこにもなかったんだ(尾野真千子)

本当に欲しいものは手に入らないものなのだ。

なにしろ、手に入ったら欲しくなくなってしまうから。

人間て本当に面倒くさいものだなあ。

14世紀のイタリアの詩人・フランチェスコ・ペトラルカは歌う。

「愛は魂の牢獄

しかし、扉に鍵はない

虜になって縄に縛られて

市場に立てども買い手はつかず

殺されもせず生かされもせず

何も持たずに世界を抱いている

死のうともせず生きようともしない

魂は愛の奴隷」

愛ほど厄介なものはない。

それなのに人間は愛をあきらめきれないものだ。

愛を求めて彷徨う人々は愚かしくもあり、そして、愛おしくもある。

愛を求められ、愛を与える幸せな人々の夜は更けて行く。

で、『最高の離婚・第10回』(フジテレビ20130314PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。前の男の子供を妊娠していると告げられた濱崎さん(瑛太)だった。紺野さん(真木よう子)は躊躇せずに未婚の母を決意するのだった。濱崎さんは「愛しているから君の子供の父親になりたい」などという心にもないことを言える器用さは持っていないからである。もちろん、濱崎さんだって、そのまま、なし崩し的に紺野さんと結婚して子供が生まれれば飼っている猫のように他人の子供が可愛くなるに決まっているのだが、紺野さんはそれが双方の心の負担になるのではないかと計算するのである。特に濱崎さんに心の負い目を持つことが我慢ならないのだった。だから、濱崎さんとの恋は終ったのである。

血縁ということについてのこだわりにも個人的な差違がある。

両親に育てられた子供は・・・漠然とした親との同一化、母親から生じたという母親への依存に至り、父親よりも母親に同族意識を感じるのが普通である。母親になれる女性と、母親になれない男性の認識の差異はここで生じる場合がある。やがて、性についての知識を得ることにより、父親とも血縁であったという再発見があり、母親と父親の間に生まれた血縁という認識に至る。

知能の発達段階によって、これらは男女それぞれの愛についての固定観念を形成するのである。

それでも・・・女性は「子供は自分のもの」という実感が強く、男性は「子供なんて誰の子かわからない」という懐疑心が強い・・・というのがこのドラマの世界観・・・つまり、脚本家の主観に色濃いように思われる。

もちろん・・・孤児であり、そもそも両親の味なんていうこととは無縁で育ったものにはどうでもいいことなのである。

とにかく・・・濱崎さんには「他人の子の父親になる」という未来は難しすぎるのだった。

思わず・・・離婚して「妻を紺野さんほど愛していなかった」という惨い扱いをした星野さん(尾野真千子)に電話しちゃうほどなのである。

「あのさ、紺野さん、上原さん(綾野剛)の子供を妊娠しちゃったみたいなんだ」

「あなたが紺野さんの子供の父親になってあげればいいじゃない」

「そんなことできない。だって僕は君に子供が欲しいって言われた時にいらないっていったのに・・・紺野さんの子供ならいいなんて・・・そんな君に対してひどいことできない」

「い、意味がわかりません」

濱崎さんの気持ちはなかなか理解されにくいらしい。

もちろん、濱崎さんの恋の奴隷になりたかったのに捨てられてしまった星野さんにだって女の意地はあるのである。むしろ、意地しかないのである。

星野さんは母子家庭の女友達(入山法子)の部屋にベビーシッターとして転がり込んでいた。他人の子供の面倒を見るのは嫌ではないが・・・心からは楽しめない。濱崎さんから愛されている上で上原さんの子供を妊娠している紺野さんがうらやましくてうらやましくて今夜も泣きたい気分なのである。

まだまだメイド喫茶のウエイトレスぐらいはこなせると考える星野さんの主観と世間の客観はまったく折り合わない。そこへ、温泉人妻アダルトものの女優にならないかと勧誘するスカウトマンの都並さん(佐藤祐基)が現れるのだった。

一千万円でどうかと言われて女心は揺れるが人間として「そこまで堕ちたくない」と考える星野さん。

しかし、いかにも夜の世界で生きる女友達は「私ならやっちゃうなあ」と星野さんの考えの甘さに釘を刺すのだった。

さらに、星野さんと濱崎さんをつなぐ命綱の濱崎さんの祖母・亜以子さん(八千草薫)が河口湖に転居すると知った星野さんは目の前が真っ暗闇になるのだった。

あなたと逢った その日から

恋の奴隷に なりました

だからいつも そばにおいてね

邪魔しないから

あなた好みの あなた好みの

女になりたい

たったそれだけの望みも敵わないのか・・・とうつむく星野さんである。

まあ、妥協して・・・それほど愛してくれない夫を愛せばいいんですが・・・それだけはできないドラマの世界なのです。

星野さんが性欲処理産業の坂道を転げ落ちて行くのも知らず、人として悩む濱崎さん。

濱崎さんは・・・上原さんに紺野さんの懐妊を知らせようとするのだが・・・すでに女の園に咲く花となっている上原さんに嫉妬やら警戒心が生じてただでさえ、上手く言えない言葉がつかえまくるのだった。

上原さんは上原さんで・・・濱崎さんと紺野さんの交際が順調だと思い、マラカスで攻撃するのだった。

タンバリンで応じる濱崎さん。

材質にもよりますが、筆者の経験からマラカスの方が殺傷力が上と思われます。

ただし、タンバリンでも殺ろうと思えば殺れます。

背後から接近して押し倒しシャンシャンシャン・・・以下、自主規制。

濱崎さんにもわかっているのです。自分が紺野さんを忘れることができなかったように、上原さんも高校時代の初恋の人が忘れられないだけだったと・・・同じなんだと。だから、間違いに気がついてやりなおしたいと云うのなら助けてやりたいと・・・。

しかし・・・どうしても紺野さんが別の男と幸せになるのが嫌だし、そもそも女に不自由しない上原さんが紺野さんを幸せにできるか疑問なのである。

だが、一度、考え始めると止まらない濱崎さん。上原さんの愛人の一人、有村千尋さん(小野ゆり子)さんから彼が三階の教室の窓から酔って落ちたと聞き・・・ついに決断する。

「死んじゃったらどうするんです」

「・・・」

「紺野さん・・・あなたの子供を妊娠しています・・・」

「・・・ありがとう、濱崎さん、ありがとう」

こうして、上原さんは紺野さんにあの素晴らしい愛をもう一度を歌うのだった。

「君の子供に逢いたい。きみの子供の父親になりたい。そして・・・二人で老いていきたいんだ」

「・・・面倒くさい男」と思いつつ、ついに折れる紺野さんだった。

再出発をするという二人を祝うために星野さんを呼び出し食事会を企画する濱崎さん。

一人で先にやってきた紺野さんは「私はあの人を愛していないけど・・・うまくやっていけるから」と仮面夫婦宣言をするのだった。

「本心なのか・・・それともボクを慰めるために・・・」などとは思わない濱崎さん。

愛している女の意外な冷たさを見ると同時に・・・二人が丸く収まってホッとするのだった。

そして、濱崎さんの孤独な夜がやってくる。やっと星野さんとつながる電波。

「どうしてるかな・・・と思って・・・」

「私、女優になるんだ」

「そりゃ・・・無理だろう」

「なれるって言う人がいるんだもん」

「それ・・・騙されてるよ・・・」

「もう・・・いい」

愛している男にかわいい女と言ってもらいたいだけの星野さんは癇癪をおこすのだった。

眠れない夜に突入する濱崎さん。そこにはいない星野さんに話しかける。

「オレは君に相談したいことがある・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・盆栽を片付けようと思う・・・君がベランダでお茶を飲みたいって言ってたから」

いつまでもいると思うな祖母。いつまでもあると思うな色鉛筆。大切なものから消えて行くという「亜以子の言葉」が心に重くのしかかる濱崎さんだった。

星野さんに「ごめん」と言いたい。星野さんに会いたい。

しかし、一般人とは違う時間の流れを生きる知的障害者の濱崎さんの前にはでんぱ組.incが立ちはだかるのだった。

いじめられ 部屋にひきこもっていた

夢破れ やぶれかぶれになってた

ラジオだけが 友達だった

生きる場所なんて どこにもなかったんだ

でん!でん!でん!でん!でん!でん!でん!でん!

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2013年3月14日 (木)

希望の虹をおいかけて果てない宇宙へ煩悩の舟でトモダチと(水川あさみ)

(木)は「離婚」、(金)は「夜行」、(土)は「はらちゃん」、(日)は「幕末」、(月)は「古書」、(火)は「ミチル」・・・緊張感みなぎる一週間で・・・(水)は振り返れば息継ぎポイントだったのだな。

いまさらの「シェアハウス」、ヒロインは「ホタルノヒカリ」の焼き直し、いい大人が幼児のように「恋」をして、センス・オブ・ワンダーのかけらもない「宇宙人」登場・・・。脱力しないではいられない擬似SF展開である。

しかし・・・まあ、「SF」のようなものは・・・テレビドラマの常套手段なのである。

「ファンタジー」としては初回と、最終回間際の二話でしか、具体的に語られない小心ぶりで・・・レーティングも青息吐息だった。

ただ・・・トータルで考えれば・・・それなりのチャレンジはあったわけで、何よりも・・・「空気」のようなドラマもあってもいいのだという主張は一部愛好家にはフィットしたかもしれない。

滅んでしまった異星の人と地球人女性の恋の成就という・・・ものすごく感情移入しにくい主題である。

もちろん、最初に触れた「ロングロングケーキ」の完成度には遠くおよばない出来ではあったが、アニメ「レインボー戦隊ロビン」(1966年)のヴァリエーションとしてはそれなりに楽しめたと思う。

で、『シェアハウスの恋人・最終回(全9話)』(日本テレビ20130313PM10~)脚本・山岡真介、水橋文美江、演出・南雲聖一を見た。「レインボー戦隊ロビン」では天変地異によって破滅することが判明したパルタ星の人々が移住の地として地球を選定し、侵略という手法で作戦を開始する。スパイとして地球に送り込まれたパルタ星人が地球人女性を愛してしまったことで異星人/地球人ハーフのロビンが誕生するのである。子供には難しいメロドラマ展開があまり受けなかったのでコミックは恐ろしいことに未完である。しかし、紆余曲折あってパルタ星の民主化勢力が独裁者を倒し、ロビンと協力して消滅する惑星から住民たちを脱出させ、拉致監禁されていたロビンの両親の生死などともに一大スペクタクルを展開するアニメは衝撃的だった。

その衝撃の余波は主題歌「ロビンの宇宙旅行」を戸川純が替え唄にして「恋のコリーダ」(1994年)として発表するほどだったのである。時差28年である。

単純に願望の話だが・・・辰平が誰も信じないが本当に宇宙人だったという姑息なギャグよりも、最初からSFXを駆使して、一つの惑星の消滅と・・・阿鼻叫喚の地獄絵図をはっきりとみせて・・・ただ一人、生き残り、百光年の孤独の旅路を進む宇宙人が地球のたった一人の女性に精神感応して・・・ヒューマノイドに擬態・・・そして、とんでもなく淡々と地球の暮らしを始めるという展開が見たかった。

まあ、日本テレビ史上、そういう願望が実現したことはないのだが。

単純に考えれば、「レインボー戦隊ロビン」のパルタ星は半島の独裁者国家がモデルだし、その滅亡によって生じる難民問題は今も国際関係を複雑にしているわけだし、発表から世紀をまたいで拉致被害者の実在が明らかになるなど・・・フィクションの真髄を提示している傑作なのである。それと肩を並べるのはかなり困難な話なのである。

・・・さあ、もういい加減にチャンネルを修正しろよ。

かなたに赤く 太陽燃えて

遥かに広がる バラ色の雲

故郷の惑星を失い、同胞がゼロという想像するだに恐ろしい宇宙人の孤独に匹敵するほど、さびしい電波を放射していた独身OL・津山汐(水川あさみ)と擬似地球人・川木辰平(大泉洋)はいろいろあってついに相互通信可能な両思いとなったのである。

朝からイチャイチャがとまらないので、かっての汐の憧れの人で、辰平をプラトニックに愛していた櫻井雪哉(谷原章介)は微笑みながら教育的指導を行うのだった。

「いいから、さっさと朝食を作れ・・・仕事に遅刻するぞ」

異常な繊細さによって妻の心ない一言で妻子を捨て出奔していた雪哉だったが、自分より「さびしい二人」によってすっかり癒されていたのだった。

雪哉は食品サービスの正社員となり、辰平はスーパーマーケットのアルバイト、そして、汐には危機に瀕したコピー機販売の営業所の仕事がある。

閉鎖を免れるために目標50件の新規開拓掲げる汐の営業所。しかし、特技・新規開拓をマスターした本社の専務の娘のメグ(木南晴夏)の活躍により、前途に希望の光が見えて来たのだった。

「有能だねえ」と杉ノ原所長(半海一晃)と一同が絶賛するが「皆さんが無能すぎるんです」とかわいいよ、メグかわいいよなのだった。

正気を取り戻した雪哉は妻の真希(須藤理彩)と話し合いの場を設ける。

同席した汐と辰平は恋愛の初歩段階では何をすればいいのかと素朴に質問する。

その結果、なんとなく、ダブル・デートになだれ込む四人。もう脱力してしまっているのでどんな緩い展開でもなし崩し的に受け入れるお茶の間なのだろう。

み、みんな生きてるか・・・。

お、おう・・・なんとかな。

い、生きてまーす。

・・・なのだな。

サーカスを楽しむ四人・・・。

汐と辰平は純粋にデートを楽しみ、真希は雪哉の表情に夫の知らない一面を発見してしまう。

「私・・・あなたにもっと苦労を分けてほしかった」

「家族には苦労をかけたくなかった」

「・・・一人で出て行くなんて」

「・・・つまらない男だったから」

案の定、バカヤローな櫻井夫妻だった。

辰平がサーカスの象にマフラーを奪われたために「私が手編みで新しいのを作ってあげる」と約束する汐。

そんな二人を心配そうに見つめる雪哉。

なにしろ・・・故郷の同胞の生存者と連絡がついて・・・次の満月の夜に辰平は地球を去る予定なのである。

そうとは知らない汐はマフラーを編みつつ、「捨てた息子」の幼稚園の卒園式に出席することを逡巡する雪哉に「抱きしめてあげればいいじゃないですか」とアドバイスするのだった。

雪哉は空知(君野夢真)を抱きしめるのだった。

汐は「お父さんを返す」という空知との約束を厳守したのである。もますごくなんとなくだが・・・人柄の勝利というものなのだろう。

「ものすごくシャイで・・・少子化がすすんでいる同胞との合流」をあっさりと打ち明ける辰平。

「私と宇宙人仲間のどっちを取るの?」とは言わない汐。

あっさりと「別れ」を受け入れるのだった。

これは一種の難病ものの変形と言えるだろう。「宇宙人が宇宙に帰還する」のは「不治の病の人が死ぬ」のと同じことなので・・・愛するものは受け入れるしかないのである。

ウソの火星人・香苗(もたいまさこ)との別れの儀式、下半身はお見せできませんのイニシエーションを交わした辰平は転移ポイントへと向かう。

やはり、別れがつらくて素直になれない汐を雪哉が励ます。「人を愛した喜びがあるなら相手にそれを伝えるのは人としての礼儀なのだ・・・」なのである。

黄昏の河口で・・・顔を傾け、唇を突き出しファースト・コンタクトをする二人の異星人。

「ボクの星ではチューは三回するのが作法なんだ・・・」

・・・と言い残し、ビーム転移してしまう辰平だった。

「いつでも君を見守っている」という辰平の言葉を信じて営業に励む汐はついに目標を達成し、奇跡の営業所の一員となったのである。

櫻井夫妻も再スタートを切り・・・シェアハウスには出戻りの山吹さん(三浦理恵子)と・・・同居人の不在の間に恋人のカオル(川口春奈)を連れ込んでイチャイチャしているに違いない凪(中島裕翔)が入居していた。

爽やかで寂しい休日の昼下がり。

「妻が料理をさせてくれないから台所を借りに来た」と雪哉がやってくる。

そして・・・「生き残った同胞がカップルで・・・イチャイチャしまくるんで・・・帰ってきました・・・」と辰平が登場する。

ほのぼのと嬉しい汐なのである。もちろん・・・某建設関連会社がスポンサーのこのドラマがシェアハウスのステマであることは言うまでもない。

良心に従い「誰もがシェアハウスで幸せになれるわけではないこと」は断言しておきたい。

何があったか覚えてないの

右手にハンマー握りしめ

朝の光が眩しくて

横たわった男を照らす

床の血痕拭いつつ

子供の頃を思い出す

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第7話「ロッキー・ホラー・ショー」

第6話「巴里のアメリカ人」

第5話「ローマの休日」

第4話「冬の星座」

第3話「ハビタブルゾーン」

第2話「エッグベネディクト」

第1話「ロングロングケーキ」

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2013年3月13日 (水)

書店員ミチルの甘い生活と贖罪の終点と孤独な検索魔(戸田恵梨香)

つまり・・・こういうことだな。

妻を轢殺したバスの運転手は死体を埋めて日常生活を続けていると戸田恵梨香似の美人を後妻にして子宝にも恵まれると・・・素人は危険なので真似しないでください。

平凡な日常を送っていた田舎の美少女が、妻子ある男と不倫をして、宝くじの高額当選者になり、地元の婚約者ががさつなのでうっかり殺されて、幼馴染のストーカーが死体を遺棄し、婚約者殺害者が自殺、不倫相手が破滅して消息不明となり、不倫相手の愛人が消息不明となり、偶然知り合ったバスの運転手と結婚して妊娠して、恐怖の殺人バスの運転手は前妻を殺害して死体遺棄していた秘事をストーカーに恐喝されたために自首。妻とストーカーを告発して、優秀な警察が捜査したところ・・・妻は微罪となり、ストーカーは連続殺人犯として精神鑑定を受けたが責任能力ありということで死刑。もちろん、二億円は優秀な弁護士を雇用したために消費。殺人の前科のある夫の無事の出獄を神に祈りながら待つという・・・世間の悪意をなめるなよ展開である。

すべてが他愛ないのだな。

だが・・・もちろん、そこがいいのである。

世間を騒がせる猟奇的な犯罪なんて実はそういうどこにでもいる人々のよくある話にすぎないからだ。

そして、誰もが・・・連続殺人犯になれるし、その犠牲者になれるのだが・・・それは宝くじの高額当選者になるのと同じことなのである。

で、『書店員ミチルの身の上話・最終回(全10話)』(NHK総合201303122255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。2時間ドラマなら、恐喝にきた竹井(高良健吾)を香月憲剛(大森南朋)が殺人バスで轢き殺すことから始るところである。しかし、恐喝されたので自首という腕利き刑事泣かせの犯人によって事件はあっさりと解決してしまうのだった。もちろん、竹井が完全黙秘をすると・・・見つかりにくいところにある死体がなかなか発見されず、捜査は難航することが予想される。状況的には古川ミチル(戸田恵梨香)の主犯説も浮上しておかしくない。また、竹井のおばである沢田早苗(浅田美代子)は別として唯一登場する被害者遺族・上林久太郎(柄本佑)の父親が上林宝飾店の全力をあげて古川家に嫌がらせをすることは充分に妄想できるのだった。そして生れてくる子供は両親ともに前科ありで・・・それなりにいわれなき差別を受けるだろう。・・・しかし、まあ、そういうことは本人の幸不幸とは別問題なんだな。素晴らしいドラマでございました。

「家に帰ることもできず・・・適当なバスに乗って適当に終点に着いて・・・適当にベンチに座り込んでいたら・・・知らないおじさんに声をかけられて・・・一万円もらいました。しかし、私は一億円九千万円以上の貯金がある女なのです。それなのに一万円って・・・私は久しぶりにてへっと笑いたい気分でした。人間は人それぞれに笑いのツボが違うのです。それに・・・どこか疲れて崩れた感じのある男に私は弱いのです。一樹さんより、このおじさんの方がさらに私の好みだったのです。おじさんは下心なんてないんだ・・・まったくないということを示すためにひたすら無表情をとりつくろっていたようにもみえましたが、本当に優しい人なのかもしれないと思うと私はなんだかうれしくなりました。好みのタイプの異性から優しくされればうれしくなるのは自然な感情なのでしょう。すると、おじさんは泊るところがなければ紹介すると云うのです。それで関係を持ったら売春です。私は売春は犯罪だと思うのでお金を返すことにしました。そしておじさんの車で深夜営業のドライブ・インに行きました。おじさんは言いました。・・・バスの運転手は困っている人に気がついてもバスを降りるけにはいかないんだ。バスを目的地まで運転するのが仕事だから。妻にそう言われたことがある・・・さりげなく妻の存在をアピールするおじさん。しかし、私は不倫にはあまり抵抗はないのです。しかし、一樹さんのこともあるのでこりごりした気分も感じていました。すると、おじさんは・・・妻はもういないんだ。離婚届を置いて出て行った・・・同情してもらいたいのか、自嘲しているのかよくわかりませんが、とにかく、独身だとわかると私は急におじさんに親しみを感じました。この人に話を聞いてもらいたい。私は心からそう思ったのです。だって女は誰かとおしゃべするりるために生きているのですから。私はすべての一部を話しました。長崎の小さな町で生まれたこと、書店で働いていたこと、田舎の街で生きることのものたりなさ、都会の男にだまされて東京に出たこと、妻子ある男との関係へのいら立ち、故郷から追いかけてきた男の鬱陶しさ、そして幼馴染だと思っていた男がしつこいストーカーだとわかったときの驚き・・・そういう男たちから逃れ・・・いろいろと噂の立つ故郷にも帰れず・・・行くあてもない一人旅をしていることを話したのです。気がつくと・・・夜が明けていました。おじさんが紹介してくれた宿はおじさんの実の母親である聖子さん(吉村実子)の経営する民宿でした。私は心が安らぐのを感じました。私のことを知らない人たち。私のことを知らない町。私のことを知らない空気。私に必要なものはこれだったのです。そして、二億円の入ったバッグを置いておける場所があればそれだけで幸せになれるような気がしたのでした。毎日、毎日、バスを運転するおじさん。毎日、毎日、民宿を切り盛りするおじさんのお母さん。いつしか、私はおじさんのお嫁さん気分になり、民宿の食堂を手伝うようになっていたのです。毎日、毎日、同じような仕事をしていても、お客さんも変わりますし、同じお客さんでもその日によって違います。私にはそういうことが楽しいようなのです。おじさんの前の奥さんは同じ道を走ってばかりでつまらないとおじさんに言ったそうですが・・・私はそうは思いません。同じ道でも雨の日もあれば風の日もあるでしょう。春もあれば夏もある。中学生だって三年もたてば卒業です。毎日毎日鉄板でやかれるタイヤキは元の水にあらずなのです。毎日、仕事が終わると民宿の食堂で食事をするおじさんは同じでも、おじさんに対する私の気持ちは変化していくのです。私はおじさんがどんどん好きになっていくのでした。おじさんのお母さんをお母さんと呼べばもうすっかり後添えにおさまった気分でした。こんなにいいおじさんを捨てるなんて前の奥さんはなんて見る目のない女だったのかと思うほどです。しかし、おじさんは年齢差を気にしているのか、いい人のポーズをくずせないのか・・・なかなか、その気になならないようです。そこですっかり私のことを気に言ったらしいお母さんが気をきかせてくれました。お客をたくさん受け入れて・・・私の部屋まで客室にしてしまったのです。まあ、基本的に私が客室に長逗留していたわけですが。私はおじさんの家でようやくおじさんと二人きりの夜を過ごすことになりました。もうすっかり覚悟はできています。おじさんは蜜柑の皮をむいたりしてくれました。きっと私も裸にしちゃうぞというサインだったのでしょう。しかし、グズグスされても困るので私の方から脱いじゃいました。ああ、久しぶりです。久しぶりにこの描写です。そもそもこのドラマは幕開けでこのネタで引っ張っておいて後はずっと羊たちの沈黙展開ですからたまったもんじゃありません。本来、私は下半身を解放するタイプなのです。とことん、むさぼりつくすタイプなのです。私はこたつでおじさんを押し倒すとそのまま、のしかかって行ったのです。おじさんも独身生活が長かったので、年齢の割には準備万端、起立、屹立、ハイオク満タン、持久力それなり、回復力ありで、お腹の上で暴れる私をはっけよいよい、まわしてついて、受け止めて、灯りも消さずに若い私の身体をなめまわすように堪能するのです、ちょっとスレンダーなのでムネには自信のない私ですが、男の人にはその方が好きだ、好きだ大好きだという人がいるのも知っています。気をつけないと女の子よりも男の子が好きだという人もいまずが、おじさんはとにかく私のことを可愛い可愛いと言いながら出したい放題し放題の夜を過ごしたのです。もう何発やったのかも記憶がありません。気がつくとまた夜が明けていました。・・・そして私たちは結婚しました。バスの運転手の後妻さんになり、姑さんの民宿を手伝いながらいざという時の貯金が二億円ある女。こんな満ち足りた生活が他にあるでしょうか。私にはちっとも思いつきません。そして毎日、甘く、潤いに満ちた性生活を送った私は当然のように妊娠したのでした。すっかり、幸せになった私はうっかり、悪夢の日々を忘れてしまったのです。だっていつまでも昔のことでくよくよしていたら人間はいつまでも幸せになれません。そのためにミチルという名前と・・・食堂で働く姿がお客さんの撮った写真で素晴らしいインターネットの世界にアップされてしまったことに気がつかなかったのでした。そして・・・あの竹井がそれを見逃すはずはなかったのです。きっと竹井は毎日、毎日、・・・ミチルで検索・・・の果てしない作業を続けていたのでしょう。その作業は毎日、検索結果が変わるというもののかなり退屈と思われますが・・・ハンター竹井にはきっと喜びにあふれた作業だったに違いありません。私には見えるのです。・・・骨まで溶けるようなテキーラみたいなキスをして~夜空もむせかえる激しいダンスを踊りましょう~と口ずさみながらついに私の姿を発見した竹井の地獄の天使の微笑みが・・・。そして・・・竹井は私を竹井の籠の鳥に戻すためにネチネチと陰湿にリサーチを開始したのです。ほっておいてもらいたかったのですが・・・頭のおかしい人に何を言っても無駄なのです。やがて、竹井の影は夫の周囲にもちらほらし始めて・・・ついに民宿の電話で私は呼び出されてしまったのです。・・・ミチルちゃん、捜したよ・・・・竹井、竹井、竹井、竹井、竹井、竹井、竹井だ、竹井なのです。竹井竹井竹井竹井竹井竹井竹井竹井です。竹井竹井竹井竹井竹井竹井竹井だ~。私はうろたえて・・・荷物をまとめると逃げ出しました。しかし、どこに逃げると云うのでしょう。せっかく幸せを手に入れたのに・・・それを捨てるなんてできない。私は夫が見つけてくれことを祈って思い出のドライブ・インに身をひそめました。お義母さんから話を聞いた夫はすぐに私を見つけてくれたのです。・・・君は竹井という男から逃げているんだね・・・私はもはや、秘密にしておくことはできませんでした。私は隠していた私の人生の残りの部分を話したのです。二億円に当選したこと。婚約者が女友達に撲殺されたこと。その死体の遺棄に同意したこと。不倫相手に手切れ金を渡したこと。不倫相手がお金と一緒に行方不明になったこと。そのことを竹井が知っていたこと。女友達が自殺したこと。不倫相手の愛人が行方不明になったこと。竹井をフライパンで殴って逃げ出したこと・・・夫は黙ってすべてを聞いてくれました。私は心の重荷がおりたような気分になりました。なにしろ身重の体です。余計なことを考えている余裕はないのです・・・夫は優しくいいました。・・・大丈夫だ。君はそんなに想い罪を犯したわけではない。間違いは間違いだけれど・・・人がついうっかり間違ってしまう程度のことだ。その時が来たら・・・すべてを正直に話すんだ。こうして・・・私は安住の地に戻りました。そしてその時はすぐにやってきたのです。竹井がやってきて夫を脅迫したのでした。・・・あなたはミチルちゃんを守ることができるのはボクだけだということを知りません。あなたは離婚を申し出てあなたをつまらない男とののしった前の奥さんをバスで轢き殺して死体を埋めてしまいましたね。そんな人がミチルの夫になったりしてはいけません。すぐに責任をとって自殺してください。できないのなら・・・ボクが上手く処理するのでまかせてください・・・そう言われた夫は自首を決意したのでした。同じ殺人者でも竹井のことは不気味で怖くて気持ち悪くて恐ろしいのに、夫が人を殺したことは仕方ないと思える私でした。だってあんなにいい人を捨てちゃうような女は殺されたって文句が言えないんじゃないかと思うからです。そして、なによりも私は夫を心から愛しているのでした。愛している以上、人を殺していようがいまいが関係ないのです。少なくとも私はそういう女なのです。そして、夫は決断したのです・・・自らの罪を償うために出頭し、そして、私と竹井の犯した罪を弁護士を通じて告発したのでした。どれだけ・・・長い裁判になるのか、想像もつきません。夫は一人殺しただけなので・・・すぐに結審しそうです。しかし、私には二億円があるのです。教会に寄付したつもりでお金を使えばどんな罪でも無罪にしてくれる弁護士さんというものがいることはちょっとテレビを見ていれば子供でも知っていることなのです。私が殺人に関わったとか殺人を教唆したとか実は実行犯だったとかいうややこしい冤罪にならず・・・すべては異常人格の幼馴染に脅されて仕方なくしたことだった・・・しかも、したのは死体遺棄に同意したことと、ストーカーから逃れるためにフライパンをふりまわしたこと、それがたまたま相手に当たってしまったこと・・・だけで実刑判決にさえならなかったのでした。今、私は生れてくる子供と夫の出所を待っています。夫は自動車運転過失致死が適用されたので模範囚で過ごせばこの子が小学校に上がる頃には戻ってくるでしょう。そうしたら、どこかでひっそりと親子三人生きていけばいいのです。別に私たちは特に悪い事をしたわけではありませんから。人間なら誰だって犯してしまうような罪を犯しただけなのです。しかし、これだけは言わなければなりません。もし、宝くじに高額当選したら絶対に貯金しておくことです。なぜなら・・・人間はいつ罪を犯すかわからないし裁判にはとてもお金がかかるからです。そして勝訴するためには貯金はあればあるほどいいのです」

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2013年3月12日 (火)

ともだちはみんなあちこちのとおりでいなくなってしまったの(剛力彩芽)

「チェブラーシュカとなかまたち/ウスペンスキー」は1974年に日本で翻訳刊行された絵本である。

原典はソ連時代の1966年に児童文学家エドゥアルド・ウスペンスキーによる「ワニのゲーナ」シリーズである。

日本では大橋のぞみがチェブラーシカ役の声優を担当したアニメ「チェブラーシカ あれれ?」(2009年テレビ東京)や、劇場用人形アニメ「チェブラーシカ」(2010)年で、「ワニのゲーナ」の友人であり、熊と猿のハーフのような正体不明のキャラクター・チェブラーシカ(すってんころりんちゃん)が広く知られるようになったと思われる。

1966年のソ連はレオニード・イリイチ・ブレジネフ書記長の時代である。体制批判に対する言論活動への弾圧は激しく、多くの作家が収容所送りになっている。発禁となった書籍を読みたいものは手製で複製し隠密に流通させなければならない・・・サミズダート(地下出版)の時代でもあった。

この年には「裁判は始った」のアンドレイ・シニャーフスキーと「贖罪」のユーリー・ダニエルという二人の作家が「反ソビエト活動」の罪状で投獄されている。

そういう状況を背景にミッキー・マウスのようなかわいいキャラクター・チェブラーシュカが登場する「ワニのゲーナ」シリーズは刊行されたのである。

そして・・・「かわいさ」を隠れ蓑に結構、際どいセリフを連打するのだった。

タイトルはいつの間にか孤独になってしまったキリンのセリフである。

1991年のソ連崩壊後にウスペンスキーは「社会主義体制は、人と人を切り離してしまうシステムだった。しかし、どんな環境でも心を持たない子供に育てるべきではない。小さな子供を持つ親にはそれを知っていてもらいたかった」とインタビューに応えている。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第9回』(フジテレビ20130311PM9~)原作・三上延、脚本・早船歌江子、演出・長瀬国博を見た。第三話に続いて、鉄のカーテンの向こうから届いた本の話である。どちらにしろ、言論を弾圧するような国家はいずれ滅びるという話なのである。有害図書などという愚かな言動を展開する人々は胆に命ずるべきなのである。また、どんな体制下でもやる人はやるという教訓も含んでいる。

そして、やがて悪魔の帝国は滅びるべくして滅びるのである。どうか、中華人民帝国も同じ道を進みますように。・・・日本原子力帝国もな。

Cheburashka 月9なので、ヒロインであるビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)の意中の人、本が読めない障害を持つアルバイト店員・五浦大輔(AKIRA)の昔の恋人・高坂晶穂(矢田亜希子)が登場する。カメラマンをやっている晶穂は、野上司(望月章男)という気鋭のカメラマンと一緒に写真集専門の古書店で写真展を開いているのだった。大輔と晶穂は高校時代の恋人だったが自然消滅したらしい。微妙な空気が漂う栞子と大輔だったが、晶穂は自由奔放な性格らしく・・・栞子が本に詳しいと知ると・・・「タヌキが登場する絵本」を捜してもらいたいと依頼するのである。実はその本は「チェブラーシュカとなかまたち」(新読書社)なのであるが・・・幼い時に大好きだった絵本について晶穂は断片的な記憶しか持っていないのである。

・・・タヌキのような動物が出てくる。

・・・たくさん動物が出てくる。

・・・舞台は外国だったような気がする。

・・・作者はカタカナの人。

・・・ワニも出てくる。

・・・みんなでなかよしの家を作る。

ヒントは多いが・・・栞子にも正解がわからない。

一方で、晶穂は私生活で問題を抱えているようだと栞子は推察する。

やがて・・・晶穂は母親の未亡人(かとうかず子)と折り合いが悪いことを明らかにする。

今季は「夜行観覧車」という母親と娘の折り合い悪いドラマの金字塔があるわけだが、このドラマも栞子と消息不明の母親・千恵子(安田成美)の葛藤がベースにあり、さらにこのエピソードである。母娘関係の危機がブームなのかっ。

実は晶穂は母親から呼び出されたのだが、本の調査を口実に栞子たちに実家への同行を求めるのだった。

判で押したように反発しあいギスギスする晶穂と母親。

優しい母親(松坂慶子)しか知らない大輔は晶穂に同情してしまうのだった。

しかし、高坂家の書籍を見た栞子は晶穂の母親の隠された一面を発見してしまうのだった。

「なんだか・・・晶穂がかわいそうになってきたよ・・・晶穂が子供の時になかよしの家って命名した犬小屋のことをともだちの家とか適当に言っちゃうし・・・」

「ともだちの家・・・って言ったのですか」

栞子の目がキラリと光るのだった。

今回、実は栞子は「チェブラーシェカとなかまたち」を未読であった。しかし、ドラマオリジナルのキャラクターであり、常連客の女子高校生・小菅奈緒(水野絵梨奈)と無理矢理、恋愛モードに突入している弟の文也(ジェシー)から映像化された「チェブラーシカ」について話を聞かされていたのだった。エピソードなどに記憶があったのはそのためであり、映像作品では「ともだちの家」だったものが絵本では「なかよしの家」だったとピンと来たのである。

当然、未読でも書籍としての「チェブラーシュカとなかまたち」の知識を栞子は保有しているのである。

「でも・・・チェブラーシカはタヌキじゃないよ」

「原作ではかなり、タヌキっぽいのです」

「なるほど・・・大橋のぞみちゃんが・・・買い物に来たのにお財布忘れちゃったって言うセリフがお気に入りで・・・アレ?・・・アレレレ?って言うアレか・・・」

「一部愛好家ですかっ」

「僕は正体不明なんで動物園にも入れないの・・・で胸きゅんだしね」

「・・・」

「僕が君の荷物を持つから君が僕を持ってよ・・・とかなかなかに不思議の国のアリス的なおしゃれなセリフもあるしねえ」

「ちゃっかりさんですかっ」

「友達になるワニのゲーナは兵隊として召集されたりするんだ」

「のらくろですかっ」

「チェブラーシェカは電話ボックスに住んでるんだ」

「ソビエト連邦の敵、アメリカン・ヒーロー、ああ憧れのスーパーマンですかっ」

「きりがないので・・・この辺で・・・」

冷たい母親に見えた晶穂の母親はただ厳しいだけで・・・独立心旺盛の娘を野放しにしていただけだったのである。

晶穂が妊娠し、未婚のまま、出産するかどうか悩んでいることまでお見通しだったのである。

「実は・・・娘を影から見守っていた・・・三丁目の夕日の茶川の父親パターンだ」

「今季、かぶりますね・・・とんびとか」

「まあ…ヤクザな創作家はみんな・・・そうだったらいいなと思っているんだわね~」

捜していた本を晶穂に手渡した栞子は・・・「本当は娘のことが心配で心配で仕方のない母親からのメッセージ」も伝えるのだった。

母と娘は和解し・・・娘は母になることを決意するのである。

絵本はそのために必要だったのだ。

幼いあの日・・・誰が絵本を読んでくれたのか。

人はすっかり忘れてしまったりするものだから。

「結局・・・親の心、子知らずですか・・・」

「それが・・・物語というものですから・・・」

「それで・・・原作はどういう話なんですか」

「一人一人はみんな孤独な存在なんです。でも召集されて軍隊に入って、同じ敵と戦うことによって・・・いつしか、心は一つになって・・・気がつけば戦友になっていたという・・・」

「せ、戦死者は帰らないじゃないですか・・・ウソですよね」

「ウソです」

「キリンはどうして仲間を失うんですか」

「視野が広すぎて・・・足元をすくわれるっていうか・・・秘密警察に」

「収容所群島ですかっ」

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2013年3月11日 (月)

天然理心流・近藤勇、沖田総司、神道無念流・永倉新八、北辰一刀流・藤堂平助だべし(綾瀬はるか)

第14代将軍の継承問題に端を発した幕府の政争は黒船来航という外圧によって右往左往したのである。

その結果、江戸と京という二つの政治の中心を生んでしまう。

幕府が京の治安を維持するために出動させた軍が会津藩兵であり、将軍の上洛親衛隊としたのが浪士組である。

将軍が江戸に戻った後に残留した壬生浪士組は弱体化した京都奉行所に代わって会津藩が警察行動をとるために飼われて新撰組となった。

その一つの党派だった天然理心流剣術道場・試衛館宗家の近藤勇は内部抗争の末に主流派となる。

そもそも、浪士組は家督を継げない武家の次男、三男や、腕に覚えのある武士にあらざるもので構成されていたが、農民であった近藤勇が頂点にたったことがすでに下剋上であった。

文久三年の尊皇攘夷派の同時多発クーデーター(天狗党の乱・天誅組の変)が失敗し、追い詰められた生き残りの過激派が京に潜伏したことを察知した新撰組は京都守護職の会津藩に通報。

会津藩が所司代など関係機関と協議中に独断専行した新撰組が強制捜査に踏み切ったのが池田屋事件である。

潜伏先が特定できていなかった新撰組は分派行動をしており、近藤勇率いる十名が池田屋で尊皇攘夷派を発見する。二名が別働隊への連絡に走り、裏口に四名を派遣。

突入したのは近藤勇と沖田総司の試衛館師弟、試衛館食客で神道無念流剣術道場・撃剣館出身の永倉新八、そして北辰一刀流伊東道場の藤堂平助だった。

多勢に無勢であったために新撰組は先制攻撃をかける意図はなかったかと思われるが脱出を図った志士たちと乱戦に突入。

藤堂平助が負傷し、沖田総司が喀血するなど、近藤勇と永倉新八の奮戦の舞台となった他、裏口では新撰組四人中三人が死傷した。

やがて、当局側の応援が駆けつけると十数名の脱出者の他、志士の9名が慙死し、4名が捕縛され、池田屋の騒動は鎮圧されたのである。

翌日は市中で掃討戦が行われ、志士の最後の抵抗によって参加した会津藩・桑名藩・彦根藩からも十数名の死者が発生した。

多数の死傷者を出したことで会津藩は監督責任を問われたが、任務を遂行した新撰組には恩賞を与えずにはいられなかった。騒乱の抑止が騒乱を呼び、官による鎮圧の実行に政治が介入する・・・この矛盾に純情可憐な会津藩主は困惑するのだった。

で、『八重の桜・第10回』(NHK総合20130310PM8~)作・山本むつみ、演出・清水拓哉を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は信濃国松代藩士にして吉田松陰の師匠、勝海舟の妹の夫、幕末の天才総合科学者・佐久間象山と、出地不明瞭な天才剣士にして、新撰組の粛清暗殺担当者、後の警視庁警部・斉藤一、そして、会津藩山川家出身の横山主税常守を養子とした江戸家老・横山主税常徳の三大イラスト大展開でお得です。横山主税は帰郷してまもなく没するので・・・別のヤング横山主税(山川大蔵の従兄弟)が出てくるのか・・・。幕末の二人の横山主税・・・まぎらわしいのですなーーーっ。でも画伯奥義・退場駆け込みイラストなので養父主税なのでございますねーーーっ。もしも、このままで横山主税が戊辰戦争まで登場したら爆笑ですけれどーーーっ。

Yaeden010b 文久三年(1863年)に長州の桂小五郎から軍師金を援助され、関東で挙兵した水戸天狗党。そして大和で挙兵した天誅組・・・しかし、八月十八日の政変で双方鎮圧を余儀なくされる。関白は長州派の鷹司輔熙から水戸派の二条斉敬に変更され、明けて文久四年(1864年)二月、陰陽道的に元治元年に改元される。都を駆逐された尊皇攘夷志士は巻き返し狙う長州藩のバックアップを受けて再び京に潜伏。京都炎上天皇強奪計画・祇園祭作戦を立案。しかし、六月上旬、首謀者の一人で安政の大獄で獄死した梅田雲浜の弟子・古高俊太郎が新撰組に捕縛されたため、善後策を協議するために池田屋に集合したところを新撰組に察知され、池田屋騒動に発展する。尊皇攘夷志士、治安維持勢力の双方に多数の死傷者が発生。死傷者が多くの藩にまたがったために言わば過激派アジトに強行突入した新撰組とその監督役である会津藩は責任を問われることになるのだった。また、陸奥国の片隅の貧しい会津藩は財政的にも困窮し、お役御免を願い出るが幕府首脳はこれを慰留。一方、薩英戦争によって攘夷の実行の困難さを悟った薩摩藩は兵一千名で上洛。密貿易などで経済的に豊かな薩摩藩は再び朝廷を取り込む画策を開始する。同様に長州藩も公卿の買収工作を再開。再び、会津藩は苦境に陥っていく。穏便な解決を求める幕府は念願の開国の勅許を得るために佐久間象山を京に派遣する。池田屋での密議に連動するように長州藩は兵力一千名を東上させ、七月に洛外に布陣。一部が洛中に侵入した。退去を命ずる京都守護職と長州への恩赦を主張する一部勢力の間で朝議は紛糾するのだった。

旧暦・六月は祇園祭の季節である。

京の人々は心騒ぐ日々を送っている。しかし、すでに尊皇攘夷という宗教的情熱に冒された過激派志士は特別な祭りの熱気に支配されていた。

吉田松陰の盟友であった肥後熊本藩の医師・宮部鼎蔵は計画の実行を主張したが、長州藩兵との到来を待つ長州藩士・桂小五郎は自重を促していた。

議論が平行線となったために桂小五郎は一度、盟友である対馬藩邸に移った。

この間隙をついて新撰組が池田屋に到着したのである。

近藤勇以下、数名の手勢と知った志士たちは逆襲を決した。

「壬生浪など・・・返り討ちにしてくれるわいな」

柳生新陰流の名手であった長州の吉田稔麿は桂小五郎を見送った帰りに騒動に出くわした。路上でいきなり、抜刀し、永倉新八に斬りかかる。しかし、槍を構えていた永倉は振り向きざま槍先を繰り出した。吉田は自分から串刺しになっていった。

「む、無念」

赤穂浪士の大高忠雄の子孫である大高又次郎は抜刀して階段下の近藤勇に向かって跳躍する。近藤は上段からの攻撃に応じるのが得意である。踏み出すと抜きざまに又次郎の胴体を薙ぎ払った。

真っ二つになった大高の上半身と下半身の脇をすり抜けて近藤は階段を駆け上がる。

「御用でえ。御用改めでえござる。逆らえば斬る」

わめきながら突進する近藤に土佐脱藩の望月亀弥太をたまたま訪ねていた土佐藩足軽の石川潤次郎が制止のための手を伸ばす。

「わしは・・・ちが・・・」

問答無用で振り下ろされた一撃で潤次郎は顔面を割られ即死した。一瞬で二人を殺処理した近藤に続き、沖田総司が階段を駆け上がる。

それに続こうとした藤堂平助の背後から階下にいた宮部の弟子で肥後藩士・松田重助が斬りかかる。しかし、犬神の血を引く藤堂は殺気を感じて身を交わし、空を斬った重助はそのまま、壁に激突して昏倒する。

屋内に入り込んだ近藤と沖田と入れ替わるように階段に姿を現した大高又次郎の弟・忠兵衛は兄の上半身を踏みつけて抜刀したまま転落する。そのために重助に留めをさそうとして側面を剥けた藤堂平助は不意打ちを食らって額を割られてしまう。

「不覚・・・」

転がり落ちた忠兵衛は背を打って悶絶する。

「平助・・・退け・・・」

吉田を串刺しにした槍を捨て、抜刀して店内に入った永倉新八は流血した平助に手ぬぐいを渡しながら命じた。

「血が入った・・・目がみえん」

「俺だ、永倉だ・・・俺を斬るなよ」

平助は鼻をひくつかせた。人狼聖剣士だからである。

沖田総司は長州藩士・広岡浪秀と対峙していた。広岡は陰陽師である。

「毛利流神術・・・黒猫」

広岡の術中に堕ちた総司は黒猫の群れに囲まれ身動きができなくなった。

広岡は二階の窓から飛び降りて足をくじく、しかし、立ち上がると足を引きずりながら逃げ出す。しかし、沖田総司が術に陥る寸前に放った一閃で広岡は腹を斬られていた。みるみる下半身が血にまみれて行く。

裏口から脱出しようとしたくぐつ遣いの望月亀弥太は包囲を突破したものの救援に駆け付けた土方歳三の凶刃に倒れた。

すでに決着の着いた池田屋階上では近藤勇が宮部鼎蔵と対峙していた。

「壬生浪士か・・・おいどんももはやこれまでたい・・・」

「おとなしく・・・お縄につかれよ・・・」

「ふ・・・人斬りどもに拷問されて死ぬつもりなどなか・・・」

「拙者は武士でごさる・・・」

「ふ・・・いくら武士の真似ごとをしても・・・百姓は百姓よ」

頭に血が昇った近藤は剣を振り上げた・・・しかし、鼻先に漂った匂いがその動きを制する。近藤もまた人狼剣士なのである。

考えるより先に身体が動く。

近藤が身を伏せた瞬間。

地雷火を爆発させ、宮部は痕跡を残さずに爆散した。

土方隊の一員として惨状を見た会津の隠密・斎藤一は心の中で舌打ちする。

(派手にやっちまったなあ・・・)

祇園祭の夜に聖なる王城を血で汚された京の人々が激昂したことは言うまでもない。

「壬生浪士は迷惑やなあ」

「ほんまに」

気ままな人々の心はいつものように揺れ動いていく。

再び、会津、薩摩、長州の軍事力が拮抗し・・・暑い夏が巡ってきたのだった。

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2013年3月10日 (日)

世界が悲しいので、泣きました(長瀬智也)

ど真ん中のストレートなのである。

打てるものなら打ってみろなのだな。

こういうたとえも野球というものを知らなければ一切不明だったりする。

基本的にこのブログではノンフィクション/フィクションの境界線は曖昧である。

すべてはキッドの妄想だからという理由だからだ。

多くの子供たちの親は思うだろう。

この世界が子供たちにできるだけ優しくしてくれるようにと。

しかし、多くの親は知っている。

この世界がそれほど優しくないことを。

芸術家たちは世界を模倣する。

時にはまるで別の世界を生みだすように。

芸術家の生きる世界と芸術家の生みだした世界の区別がつかなくなった場合、人はそれを狂気と呼んだりもする。

この世のものではない人々の幸せを願うのはそういうことなのである。

で、『泣くな、はらちゃん・第8回』(日本テレビ20130309PM9~)脚本・岡田惠和、演出・菅原伸太郎を見た。封印された【泣くな、はらちゃんの世界】の魔法のノート。キャラクターがいなくなって背景だけになったのだった。そして・・・【キャラクターズ】は越前さん(麻生久美子)の家に居候中である。神様のいる世界つまり天国にやってきた【キャラクター】は期待に胸をふくらませているのだ。

【笑いおじさん】(甲本雅裕)は「酒のつまみ」に興味津々で、キャラがかぶってる【たまちゃん】(光石研)は激しく同意する。【あっくん】(清水優)は「こわくない犬」とともだちになりたいし、【マキヒロ】(賀来賢人)は「車」が無性に欲しいのである。

この世界に何か含むところのある【ユキ姉】(奥貫薫)は多くを望まない。

そして、【はらちゃん】(長瀬智也)は「越前さんと一緒にいられれば満足」なのだった。

越前さんは「神様お願い」を禁止するが、「自由行動」も禁止する。

神様(生みの親)というのはいろいろと禁止するものだからである。

そして【キャラクターズ】は基本的に神様に従順なのである・・・今のところは。

「いってきます」と工場長代理としてふなまる水産三崎工場に出勤する越前さん。

「いってきてください」と無垢な魂で送り出す【キャラクターズ】なのであった。

朝一番で大量な発注を受ける工場長代理。

しかし、パートリーダーの矢口百合子(薬師丸ひろ子)を始め、長沼さん(稲川実代子)らパートたちが全員病欠(仮病)という非常事態が発生する。

噂の大橋さんの息子も役者として参加する映画の撮影が近所であるために見学に出かけてしまったらしい。ただし、矢口は釣りである。

正社員である田中くん(丸山隆平)と悪魔さんこと清美(忽那汐里)では人手不足なのである。

「どうしましょう・・・」

「そんなんだからアレなんだよ」

「すいません」

「元はと言えばあんたのせいなんだから責任とってよね・・・工場長代理」

「私ですか・・・」

動員される【キャラクターズ】なのである。働かないほうが食べ物がおいしい弟のひろし(菅田将暉)は当然、不参加なのであるが・・・【はらちゃん】に電話の使い方を教えるという善行をするのだった。ひろしは何日かに一善するようだ。

何も知らないようで・・・意外とつかえる【キャラクター】たち。指導を的確にすればキャラクター設定に応じて作業ができるらしい。

【はらちゃん】は不器用。【あっくん】は繊細。【マキヒロ】はワイルドなのである。

【ユキ姉】に一目惚れした田中くんはM気質らしく、「田中さんくん」から「くん」となり、「チッ」と舌打ちされても萌えるのだった。

期限時間を気にする越前さんを元気づけようと「私の世界」・・・「世界に降参の歌」を歌い出す【はらちゃん】・・・作詩・神様、作曲・悪魔さんの歌は「ワーク・ソング」と化すのだった。

歌は古くから労働効率を上げる作用があるのである。

神様のためならえんやこ~らなのである。

そっとしといてくださいな・・・とそれぞれの作業に没頭し・・・納期はクリアされるのだった。

配達に向かう営業者の中で田中くんは【はらちゃん】に今日が「ホワイトデー」であることを教える。

【キャラクターズ】の初めての給料は一律五千円である。

はじめて・・・お年玉をもらった子供のように【キャラクターズ】はお買いものに出かけるのだった。

【笑いおじさん】と【たまちゃん】は酒のつまみ。【あっくん】は動物のぬいぐるみ。【ユキ姉】は田中くんとアクセサリーを購入。【マキヒロ】は悪魔さんと予算内で買えるミニカーを買う。

そして、【はらちゃん】はいつもの警官(小松和重)に教えを乞い、越前さんのために大量のキャンデーを購入する。

「無駄遣いして・・・バカなんだから・・・」

「バカということはいけないことなのですか」

「怒ってなくてもバカっていうのよ」

「そうなのですか」

「うれしいよ・・・ありがとう、はらちゃん」

ホワイトデーのキャンデーに縁がなかったのは越前さんだけではなかった。

一応手作りのキャンデーを一応田中くんからもらった悪魔さんも一応初めてだったらしい。

ワイルドというよりも男の子のような【マキヒロ】には物足りない部分もあるのかもしれない悪魔さんである。

生きるために働いて、給料で買い物をして大満足の【キャラクターズ】と帰宅する越前さん。そこへ矢口がやってくる。

「お疲れ様・・・あれれ・・・こんなことになってるんだ・・・久しぶり・・・ユキ姉・・・」

しかし・・・【ユキ姉】は矢口を避けるように家に入ってしまう。

いつものおでん屋に越前さんと【はらちゃん】を連れ出す矢口だった。

「・・・もしもし、私、誰だかわかる・・・薬師丸ひろ子でえす・・・」

「えええええええええええええ・・・」・・・じゃなかった。

「実はさ、私、矢東薫子なんだ」

「きょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」(越前さん)

憧れの漫画家・矢東に出会ってテンションあがりまくりの越前さんだった。

「そこ・・・乗り越えてもらっていいかな・・・話進まないんで・・・」

やがて・・・矢東薫子物語が語られる。

一世を風靡した漫画家・矢東だったが・・・スランプに陥り、ついには高層マンションから原稿を投げ捨ててしまうまでに精神的に追い詰められる。

そして・・・オリジナルの【ユキ姉】が出現したのだという。

「ユキ姉・・・」

「神様・・・」

「どうして・・・」

「私たちのこと・・・捨ててしまうの・・・忘れないでよお・・・」

おそらく放棄されたマンガ世界で越前さん版「泣くな、はらちゃん」の動揺と同様の展開があったのだろう。そしてオリジナル版では【ユキ姉】がフィクション/ノンフィクション境界線を突破したのである。

自分の正気を疑った矢東・・・。しかし、自分の生みだしたキャラクターが実体化したことに嬉しさも感じたのだった。

【ユキ姉】と矢東は交流を重ねる。その記憶が越前さん版の【ユキ姉】に受け継がれていたのだった。

しかし、精神的に病んでいた矢東は「神様の重責」に耐えかねて・・・作品の世界でキャラクターを全員殺害してしまうのだった。

まったく、描けないほど追いつめられていたのだからそういうこともあるのである。

PTAに弾圧されて「ハレンチ学園」の登場人物を殺した永井豪の如しである・・・かなり違うぞ。

矢東は「キャラクター殺し」の前科を背負って世捨て人となり・・・かまぼこ工場のパートタイマーとなったのだった。

「だから・・・ユキ姉は私のことを許してくれないかもしれない・・・そのことだけは越前さんに言わなきゃ・・・って」

矢東の衝撃の告白・・・しかし、越前さんは動じないのだった。

【キャラクター】たちは【ユキ姉】からオリジナルの虐殺を伝え聞いていた。

「神様は残酷だから・・・越前さんだって・・・」

そんな【キャラクターズ】に越前さんは宣言するのだった。

「先代の不始末について・・・ユキ姉からお聞きのことと思いますが、不肖、越前、けして、可愛いキャラを傷つけたりはいたしません」

「本当・・・本当に殺さない・・・?」

「そんなことしません・・・だってみんなは・・・みんなだけが私の友達だもの・・・私にはみんなしかいないんだもの・・・」

神様のある意味、悲しい告白に・・・【キャラクターズ】は感動するのだった。

そして・・・神様の善意を信じるのである。

なにしろ・・・基本的に無垢だから。

夜も更けて・・・男女に別れて就寝する一同。

越前さんと【ユキ姉】は枕を並べる。

「どうして、私は別なの」

「女子は二人だけだからです」

「そういうものなの・・・なんだか・・・うれしい」

【キャラクターズ(男子)】たちはテレビに夢中だった。

しかし・・・深夜にありがちな憂鬱なドキュメント番組が放映されるのだった。

「これが世界なのですか」

【はらちゃん】の問いかけに越前さんの母・秀子(白石加代子)は答える。

「そうよ・・・いやな世界よねえ」

戦争、貧困、飢餓、疫病、そして大震災。

「これが・・・この世界」

涙のとまらない【はらちゃん】だった。

なぜ、太陽は今日も輝いているの

なぜ、海では波が打ち寄せているの

知らないのかしら

愛が消えてしまったから

世界が終わってしまったことを

なぜ、小鳥たちは歌い続けるの

なぜ、星たちは夜空でまたたくの

わからないのね

愛が遠く去って

世界が終わってしまったことを

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

Mk004 まこかま工場のホワイトデー。まこウルルンでいっぱいの世界の果てで涙するはらちゃんたちはさておきーーーっ。本日はたけちゃんロイドにでっかいキャンデーもらったどーーーって日記に書くのでしゅ~。ありがとう、たけちゃん・・・さあ、お彼岸、お花見とかまぼこ増産体制は続くのだじょ~。まこちゃんのためならえんやこらのピュアなハートでヨロシク~!」くう揚げまこかまセット、500万個はオーダー受け過ぎよ~。田中くんさんロイドを大量投入するしかないね!・・・楽しいのにそれが重くて怖くて殺してしまう、そして逃げる・・・人間って時々、バカをするんだよね・・・越前さんは・・・重みに耐えられるのか・・・頑張れ、神様~シャブリ東京大空襲、そして東日本大震災・・・真夜中のドキュメント・・・真実は結局、闇に葬られて・・・ひっそりと流されるのでありました~・・・録画するから大丈夫ですけれど~

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2013年3月 9日 (土)

苦渋は強きより弱きに迸り、死者を招きて泊る(安田章大)

夜行観覧車はどうしたっ・・・。今回は・・・何も知らない幸せ(宮﨑香蓮)でもよかったけどな。

死人に口なしなので・・・どんだけ悪辣に描かれても反論できない恐ろしさもあるよね(田中哲司)は・・・却下。

手芸よりフラワー・アレンジメントよね(長谷川稀世)もあったがな・・・いくら長谷川一夫ブランドでもそれは・・・。

君からのメール、ずっと待っていたんだよ(中川大志)・・・泣ける。本筋だしな・・・でも二回連続だからああああっ。

ロミオとジュリエット(杉咲花)を継続中なのは好感もてるよね。

急な坂道駆け降りたなら・・・とまらないけどな(宮迫博之)・・・残念だけどな。

夜行観覧車と坂道病を見つめて(鈴木京香)・・・まだ、二回あるからな。

で、『・第8回』(TBSテレビ20130308PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・棚澤孝義を見た。なでしこピンチだな。スポーツは勝ってナンボの世界。せっかくの築きあげたステータスが崩壊の危機である。そういう非情さが世界の背景にある上でのドラマである。この世には友人関係などというものはなくて・・・どこまでいっても主従関係と敵対関係だけがある世界。その殺伐な感じから目をそむければたちまち捕食されてしまうのだ。だが・・・一方で・・・窮した時に手を差し伸べる優しさを意地でも貫く戦略というものがある。そして・・・そういうことを夢見る権利は誰もが持っているのである。

言葉の上では何度も火の海になっている東京やソウルがどうか無事でありますように。

このドラマの最終回を楽しみたいから~。

≪静かにして。私のひばりヶ丘の夢の家で騒がないで。ひばりヶ丘のご近所の皆さまにこれ以上迷惑をかけないで。私のひばりヶ丘の家の窓を壊さないで。なんなの。あなたは誰なの。ひどいことをして。暴れて。騒いで。やめて。死んで。死ね。死ね。死ね。死んでしまえ≫

「やめなさい」

我が子である彩花(杉咲花)を窒息死せしめんとする遠藤夫人(鈴木京香)の白目部分から狂気を察した小島夫人(夏木マリ)は彩花によって密かに命名されたニックネーム・ラメポの語源であるラメラメのポシェットから親離れした息子のマーくん/雅臣より送られし防犯ブザーを取り出した。

ピロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ・・・。

一瞬、遠藤夫人は我に帰る。

そして、娘を殺そうとしている自分に気がつくのだった。

「何をしているの・・・死んじゃうじゃない」

彩花はのしかかる母親の身体の下から脱出する。

「自分の子供を殺す気・・・」

「そんな・・・私はただ・・・口をふさごうとしただけです」

「息ができなきゃ・・・死ぬのよ・・・何があったの」

「お、おとなりの家に娘が石を投げて窓ガラスを割って・・・」

「やったのは・・・私だよ」

「え・・・ひ・・・そんな」

「だから・・・私じゃないって言ってるだろう」

「う、疑ってごめんなさい」

「それにしたって殺すことはないじゃない」

「この人に・・・何言っても無駄だよ」

「あなたもね・・・自分の母親にむかってこの人とか・・・やめなさいよ。自分のお腹を痛めた子供にうんざりだとか、うっとおしいとか、言われたら・・・何がなんだかわからなくなるものよ。あなたがお母さんを追い詰めたんでしょ・・・」

≪音楽会であんなに私を辱しめたあんたが言うのか≫

≪ピアノもヴァイオリンも弾けないのがそんなに悪いのか≫

≪育ちの違いを思い知らされた≫

≪好きな人の前で屈辱≫≪好きな人の前で凌辱≫≪消えて≫≪消えてしまいたかった≫≪くそばばあ≫≪くそばぱあ≫≪くそばばあ≫

「・・・もう、帰ってよ」

「・・・彩花」

「家族だと思って甘えていると・・・とりかえしのつかないことになるわよ・・・あなたも母親ならなんとかしなさいな・・・」

≪どうすればいいんですか≫≪どうしていいのかわからない≫≪何がいけないのかわからない≫≪私は何もしていないのに≫≪私は何も悪くないのに≫

≪友達みたいな親子っていうけど・・・あなたは母親で・・・この子は子供だってこと・・・忘れないことよ・・・友達なんかじゃないのよ・・・仲良しごっこじゃ無理なのよ≫

≪わからない≫≪何を言われているのかわからない≫≪子供と仲良くして何が悪いのよ≫

彩花は震えながら自分の部屋に引き籠るのだった。

遠藤夫人は取り残された。

≪さびしい≫≪さびしい≫≪一人はさびしい≫

淋しさに耐えかねて遠藤夫人は娘の後を追う。

「お願い・・・何があったの・・・お母さんに教えて・・・」

「私の気持ちなんて・・・わからない」

「言ってくれなきゃ・・・お母さん・・・わからないよ」

「私なんかが子供じゃなければよかったと思ってるでしょ」

≪そんなことない≫≪本当に≫≪思った≫≪思ってない≫≪そんなことないって≫≪言えばいいの≫≪言えない≫

「私は・・・私は・・・」

「こんなところ・・・引っ越してこなければよかった」

≪どうして≫≪どうしてそんなこと言うの≫≪どうして≫

「毎日、坂を下りて行くと・・・地獄に向かって歩いているような気がする。学校では身体が傾いて立っているのも辛い・・・それでもまっすぐに立とうとすれば身体がゆがんでいくような気がするの。坂をのぼって家に帰ろうとすると息がくるしくなっていく。家にたどり着いても少しも楽にならない。だって私はこの家の子供にふさわしくないんだもの・・・殺してくれればよかったのよ・・・いない方がいいんでしょ。私は・・・病気・・・坂道病患者なんだから」

≪病気≫≪身体じゃなくて≫≪心が病気≫≪私の娘が≫≪いや≫≪そんなのいや≫≪嘘だと云ってよ、彩花≫

遠藤夫人は自殺してもおかしくない娘を一人残して家を出た。

≪助けて≫≪誰か助けて≫≪私を助けて≫

気がつくと遠藤夫人は夫の会社にたどり着く。

遠藤氏(宮迫博之)はテレビを見ながら弁当を食べてくつろいでいた。

「どうして・・・お父さんはここでテレビをみているの」

「なんで・・・お前はここに・・・」

「私・・・彩花を殺そうとしたの・・・」

「ええっ・・・」

≪おいおい≫≪やめてくれ≫≪せっかくのんびり≫≪大げさな≫≪俺には秘密が≫≪すべてお前たちのために≫≪面倒くさいことは嫌だ≫≪なぜほっといてくれないんだ≫

「小島さんが止めてくれなければ・・・本当に殺していたかもしれない」

≪マジなの≫≪うひゃあ・・・勘弁してくれよ≫≪冗談だろ≫≪嫌になる≫≪俺のつかのまのひととき≫≪ジ・エンド≫

「ねえ・・・お父さん、助けて・・・帰ってきて・・・お願いよ」

「わ・・・わかった」

≪やれやれ≫≪やれやれ≫≪やれやれ≫≪やれやれ≫

「ひばりヶ丘医師殺人事件」に続いて「学習塾立てこもり事件」が発生した。

慢性的な人手不足にあえぐ神奈川県警はシフトチェンジを余儀なくされる。

「応援要請だ」

「高橋家の張り込みは・・・」

「容疑者が確保できているからな・・・行方不明の息子は後回しだ」

「ホテルの兄妹は」

「逃走の恐れもないしいいだろう」

新たなる事件の発生にマスメディアも転出していく。

慎司(中川大志)が・・・良幸(安田章大)と比奈子(宮﨑香蓮)が荒れ果てた我が家に舞い戻ってくる。

鬱屈したストレスは水が高きから低きに流れるように高橋家に充満している。

悪意は常に弱きものを求めている。

人殺し!エリート一家がいい気になってからだよ!バーカ!

これまでたまたま護られていただけの比奈子は苦渋への免疫がない。

勉強ができて運動にも恵まれ、それほどの美人でもなく、それほどの醜女でもなく、同じような箱入り娘たちに囲まれて不自由なく生きて来た。

彩花が比奈子によってどれほどまでに傷付いていたのかにも思いが及ばない。

中学三年生の彩花が、高校三年生の比奈子に精一杯の意趣返しをしたことも理解できない。

まして、本音は慎司だけが心配だったにせよ・・・母親に言われて比奈子たちにも優しくしようとした彩花をはねつけて・・・兄がいる安心感からすべての元凶を彩花に押し付けて鬱憤を晴らしたりもする。

「あんたが暴れるからうちの慎司までおかしくなって・・・私は学校にもいけなくなったし友達もいなくなった・・・あんたがいなければこんなことにはならなかったのよ」

兄は妹の攻撃性に・・・母親の遺伝を感じる。父親を殺したかも知れない継母。その血が流れる妹の理不尽な怒り。自分が京都に行っている間になんてことになっているんだ。しかし、恋人の事件発覚後の暴走も合わせて考えると・・・女性そのものへの不信感も芽生えてくるのだった。

しかし、京都大学に合格する知性は父親以上に冴えている。

≪なにもそこまでいわなくても≫≪しかし妹のそういうところは好きだ≫≪彩花ちゃんは大人しすぎる≫≪好みのタイプではない≫≪意外と慎司はこういう子がタイプ≫≪比奈子とは違う子だから≫≪比奈子は少し鈍いところがあるから≫

「きっと慎司は家に帰っていると思ったよ」

「むかいのおばさんから借りたお金・・・使い果たしたから」

「遠藤さんから・・・一体、あの夜・・・何があったんだ・・・」

「兄さんは・・・頭がいいし・・・きっと父さんに似たんだよね。僕がバスケットボールが得意なのは母さんに似たんだ・・・そして姉さんは運動神経は母さんに似たし、頭のいいところは父さんに似たんだよね・・・でも・・・僕は勉強ができないんだ」

「そんな・・・清修学院に入れたじゃない」

「ギリギリだったんだよ・・・最初から最下位でどこまでいっても最下位なんだ・・・そんな僕をお父さんは・・・罵ったんだ・・・高橋家の恥だって・・・」

「嘘・・・お父さんがそんなこと言うはずはない」

「比奈子・・・黙って」

「なんで・・・なんで・・・お兄さんに怒られなきゃいけないの・・・私たちのお父さんがそんなこと・・・」

「僕だってお父さんは好きだ・・・でもだからこそ・・・なんでお父さんが殺されなくちゃならなかったのか知りたいんだ・・・」

「お父さんは時々、僕を殴ったんだ」

「やめてよ・・・」

慎司は服を脱いで痛々しい打撲痕を兄と姉に披露するのだった。

≪うそ≫≪お父さんがそんなこと≫≪何かの間違い≫≪慎司が≫≪嘘をついて≫≪でもなんのために≫≪なんのために≫≪殺したの≫≪お父さんに暴力をふるわれて≫≪殺しちゃったの≫≪誰が≫≪お母さん≫≪慎司≫≪うそ≫

夜行観覧車に一人で乗る乙女は坂の上の街から放射される思念に追い詰められたものの叫びを聞いた。

抑圧された欲望は常に出口を求めて彷徨っている。

そして・・・犠牲になるのは常に弱者なのであった。だが、作用には反作用がつきものなのである。老婆が虎を噛み殺すことだってあるのだから。

「家族なら・・・手をつなげばいいのに」

乙女は人々の喜怒哀楽とは無関係に回転しつづける夜行観覧車のゴンドラの中ででため息をついた。

乙女は表層意識を追い続けるだけでは難解な事件の様相について考察する。

人は自分自身に対して嘘をつくし、時には無意識に本質から目をそらす。

入り組んだ記憶と感情の複合体は歪んだ意志を生む。

少女の感覚に同胞としての痕跡を感じる乙女だったが・・・それは精神感応と呼ぶにはあまりに未発達な能力であるようだった。

ネガティブな感情だけを選別的に感知してしまう。人間の暗部を敵意として感じる少女には同情を感じるが、救いの手を差し伸べることはできないのだった。

工務店に勤める遠藤氏は窓を速やかに修復した。

「壊れたものは修理すればいいのさ」

遠藤氏は会社を休み・・・妻をパートに送りだした。

ようやく・・・父親らしく娘と向き合おうとしていたのだった。

娘の部屋は荒廃していた。自分が顔をそむけている間に事態が深刻になっていることに遠藤氏はたじろぐ。

「焼きそばつくったぞ・・・お前、なんだか・・・におうぞ」

「吐いたから・・・」

「お風呂に入りなさい」

「ほっといて・・・」

父親は退散した。

彩花に息を吹き込んだのは・・・弘幸から遠藤夫人を経由して届いた「慎司無事」の知らせだった。

娘は父親の作った焼きそばを口にした。

「お母さんに殺されそうになったって言うけど・・・大袈裟にいってるんだよな」

「口に唐揚げつめこまれて手でおさえられて目の前が暗くなったよ」

「・・・」

「昨日・・・比奈子ちゃんに死ねって言われたし・・・このまま死ぬのもいいかもと思った」

「・・・お父さんは・・・死ななくてよかったと思ってるぞ」

「・・・」

「何があったのか・・・話してみろよ・・・逃げてても問題は解決しないから」

またしても彩花は傷口に塩をすりこまれるのだった。

「一番、逃げてたくせに・・・何言ってんの」

「いや・・・お父さんだって・・・人と言い争うのは苦手だから・・・」

「いいわけしてるの・・・」

彩花は再び、引き籠るのだった。

遠藤夫人は家に帰れなくなっていた。

夫から電話がかかる。

「私・・・彩花と一緒にいると・・・いつも笑っていられた・・・でも、今はどんな顔していいかわからない」

「俺も・・・彩花のことがわからないよ・・・でも、親だからな。親はやめるわけにいかないからな。母さん・・・ごめんな・・・逃げてばかりで・・・お隣から借金したのも黙ってて・・・」

すべてを告白したかった遠藤氏だが・・・高橋夫人(石田ゆり子)から凶器を預かり、証拠隠滅を実行したことは話せなかった。家族を守るために・・・家族を巻き込むことはできなかった。

「母さん・・・帰っておいでよ・・・一緒に彩花を・・・」

夫婦はその夜、久々に合体したのだった。

夫は愛人宅に入り浸り、最愛の息子にも裏切られ、頼みの飼い犬にも手をかまれた小島夫人は永く続く一人の夜を過ごす。

虹の彼方に行こう

魔法の国が

待っているから

小島夫人にとってもはや、ひばりヶ丘はそうではなくなってしまったらしい。

警察には弘幸から慎司の出頭の報が入る。

人の口には戸が立てられないのでちょっとした金銭によってすべてのメディアや悪意のある人々が高橋家に集合するのだった。

事件発生から七日目の朝。

罵声を浴びながら、慎司は兄に手を引かれ・・・警察車両に乗り込む。

(母さんは・・・三人で力をあわせる時がきっと来るって言ってた・・・兄姉がいることのありがたさを思い知る時が・・・そんなこと・・・知らなくてすむ方がみんな幸せだったんじゃないかな・・・ああ・・・彩花じゃないか・・・そんなに心配そうな顔をして・・・僕なら大丈夫だよ・・・もう・・・君より下に堕ちていくんだから・・・どうか気に病まないでくれ)

慎司はずっと好きだった女の子に微笑んだ。

結城刑事は息子の無事を高橋夫人に知らせた。

自分の家庭の事情を餌に揺さぶりをかける。

「やり直せるならやり直していい父親になりたいですよ・・・」

「・・・」

「お宅はどうだったんです・・・」

「・・・」

その頃、慎司は「母さんを釈放してください・・・父親を殺したのは僕です」と言って一部原作愛好者を絶句させていたのだった。

なにしろ・・・まだ残り二回あるのでいろいろとツイスト&シャウトされるらしい。

どうか・・・彩花と慎司がフレンズになれますように・・・祈るばかりである。

来週は吉田里琴が炸裂する模様・・・。ラス前だからな。

淀みなく流れるみにくいあひるの子の物語である。

ただし、白鳥の群れにまざっているあひるのね。

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2013年3月 8日 (金)

別れても好きな人(瑛太)

別れても好きな人(尾野真千子)じゃないのかよ。別れても好きな人(真木よう子)でも別れても好きな人(綾野剛)でも成立するところがミソなんだな。別れても好きな人(窪田正孝)もまぜてやれよ。

「結局、ふられた方がひきずる確率高いよなあ」

「まあ、もっといい人が現れればそうでもないけどね」

「いやいや、ごめんね、去年の人とまたくらべている・・・ってこともあるぞ」

「歌謡曲から離れなさいよ」

「毎日、毎日、聞いてたからな」

「結局、思い出の数だけ忘れられないのよねえ」

「攻撃しているようで援護しているってかっこいいよな」

「言いたいことを言えない人だらけだから」

「そして、いろいろと生々しい」

「別れた人は遠きにありて思ふもの」

「そして悲しくうたふもの」

「幻滅することの方が多いから帰らない方がいいってこと」

で、『最高の離婚・第9回』(フジテレビ20130307PM10~)脚本・坂元裕二、演出・宮脇亮を見た。手は握った濱崎さん(瑛太)と紺野さん(真木よう子)だった。その頃、星野さん(尾野真千子)と上原さん(綾野剛)は濃厚なキスを交わしていたのだった。しかし、そのキスは酔った勢いで交わしたキスであり、星野さんにいたっては記憶がないのである。星野さんに残ったのは二日酔いの頭痛とカツオダシが沁みる肝臓だったのだった。一方、またしても据え膳に手を出さない濱崎さん。やれる時にやっとかないとやれない法則発動中なのだった。明日、首都圏直下型が来たらどうするつもりなのだ。

濱崎さんの心情は・・・ずっとずっと好きだった人に再会してたまたま離婚したんだし、もう一度、愛を育んで紺野さんとやり直したいのだが、それにはきちんと段取りを踏みたいと考えているのである。

紺野さんの心情は・・・上原さんによって傷付いた心を濱崎さんにとりあえず癒してもらいたかったのだが、大人になってみれば別れた男にも美点があったのに気がついて、新しい恋を始めるなら濱崎さんでもいいのではないか、というか、もう五分五分で恋に向かって歩き出しているのだった。五分五分なのにか・・・。

星野さんは・・・玉砕戦法で・・・愛してもらえない人に愛してもらおうとしたわけだが、本当に玉砕してしまい、死んでも死にきれないのである。

上原さんは心の底から紺野さんとやり直したいと思うのだが、集中力にかけるし、求められればつい応じてしまう自分をもてあましているのだった。インドに行かなければと思うほどに追い詰められていたのである。インドに行けば人生観変わる人もいるが・・・上原さん、ある意味、インド内蔵型だからな。

新たなステップを踏み出そうとする濱崎さんは「憧れのダイヤモンド・リング」に向かって助走体制に入るのだが、口内炎が立ちはだかるのである。しかし、新たなる歯科衛生士は「歯科は話をする場所ではありませんよ」とつれないのだった。

競馬場で逢いましょう

いいですよ

・・・ということで大井競馬場にでかける濱崎さんと紺野さん。生れてから一度も勝ち馬投票券を現金に換えたことのない奇跡のエピソードを披露する。動物園では単独行動を主張するが競馬場では別行動でなくてもいいらしい。

紺野さんははずれた勝ち馬投票券をサイフに残しているところがまだまだ乙女なのである。

コンタクトレンズと代官山ヘアサロンスタイルで変身した濱崎さんをひやかす「金魚CAFE」一同。

星野さんは「異性を意識して変身した上原さん」にショックを感じるのだった。

濱崎さんも星野さんを「上原ガールズ」、上原さんを「紺野さんに死ねばいいと思われている男」と敵意をむき出しにしてみせる。

しかし、淳之介(窪田正孝)から「泥酔の醜態」を指摘された星野さんは・・・上原さんとの濃厚キスを思い出し、自己嫌悪の虜となるのだった。

上原さんも元の亭主の濱崎さんに謝罪する気持を芽生えさせる。

一方で・・・濱崎さんも上原さんになんとなく後ろめたい気持ちを抱えるのだった。

お互いの秘事を打ち明けた結果、上原さんが人殺しの目になったことを意識する濱崎さんだった。

ワインを飲みながら、鍋を食べることを計画する濱崎さんと紺野さんは前向き。

結婚していた男と結婚しようとした女を忘れられない星野さんと上原さんは後ろ向きなのである。

上原さんとのキスについて紺野さんに謝罪する星野さんは馬券を発見してさらにショックを感じる。

「私が別れてもあの人が好きだって・・・判ってくれてると思ってた」という星野さん。

「え・・・そうだったの」と思う紺野さんである。

星野さんは紺野さんは見て見ぬフリをするタイプだし、自分よりも直観力に優れていると断定していたわけであるが・・・紺野さんは見て見ぬフリはできないし、論理的なタイプなのである。

星野さんは敗北感に襲われてスリッパで逃走するのだった。

仕方なくブーツを持って追いかける紺野さんだった。

そこへ・・・やってくる濱崎さんと上原さん。

日本でも指折りの気まずい橋の上である。

ブーツを履いた星野さんは・・・濱崎さんが追いかけてくるのを期待するが・・・呼び止めたのは上原さんだった。

紺野さんの家でまたもや集結する四人組だった。

まとめ役は・・・上原さんなのでまとまるものもまとまらない気配である。

そこへ割り込む「女装した河合さん逮捕、退職送別会のLINE」である。

ポニョン

「四人とも言いたいことがあると思うんですよね」という上原さん。

しかし、濱崎さんと紺野さんは・・・「ないよね」「そうだね」と仲睦まじい感じを醸し出す。

たちまち、嫉妬によって燃えあがり炎上する星野さんだった。

やっぱり忘れられない

変わらぬ優しい言葉で

私をつつんでしまう

だめよ弱いから

別れても 好きな人

ついに四つん這いになって敗北宣言をする星野さんだった。

ポニョン ポニョン

そのために傾きかける濱崎さんの動物飼育係的保護欲モード。

紺野さんの女としてのプライドが燃えあがるのだった。

「自分で離婚しておいてなぜ泣きごとなんですか」

「いや・・・それは僕が悪かったんだ」

「濱崎さんに感謝やねぎらいの言葉をかけてあげたんですか、濱崎さんは浮気しましたか、濱崎さんは婚姻届を出しませんでしたか、愛情をうまく表現できないのは濱崎さんの性格でしょう。夫婦なのにそんなこともわからないんですか。自分で捨てておいて清掃車を追いかけるなんて恥ずかしくないんですか」

「・・・」

「なんて・・・理屈ならべたって女は聞く耳もたないんですよね」

ポニョン ポニョン ポニョン

「こんなつもりじゃなかったんです。紺野さんは好きだけど・・・紺野さんが幸せならそれでよかったんです。ちょっと寂しいかもしれないけど、そしたら・・・四人でキャンプに行ったりしたかもしれないじゃないですか。レンタカー借りてバーベキューとかしたかもしれなかったじゃないですか。小仏トンネルで渋滞にはまったりして、子供がワイワイ騒いで、うんざりして鳥になりたいと思ったりして・・・そんなこんなでなんだか楽しかったり・・・そんなキャンプに行けなくて・・・ごめんなさい」とある意味、星野さんの傷口に塩をすりこむ濱崎さんだった。

ポニョン ポニョン ポニョン ポニョン

「・・・鍋でも食べましょう」と鍋を取り出す上原さん。

「そういう場合かよ」という全員の重い空気を断ち切るのだった。

「いつわりの結婚よりも離婚の方がマシですよ・・・灯里(紺野さん)・・・ありがとう・・・今度は幸せな結婚をしてください」

正論である。インドだけにセイロンなのか。

星野さんの命綱は仲間だった上原さんによって切断されてしまったのだった。

遥かな地表に向かって滑落する星野さん。

もう、鍋をつつくしかないのである。

「寝る子は育つよね・・・もやしのようにほっとけば立ち直るよね」

紺野さんを残して三人。

上原さんと別れて二人。

それでも「やはりやりなおしたい」と言えない星野さん。

橋の袂で右と左に別れて行くしかないのである。

しかし、紺野さんは容赦なくとどめの一撃を送る。

今度、映画を見ませんか。

このメールでニヤニヤしてしまう人は正直な人だと思います。

このメールで逡巡する人は真面目な人だと思います。

六時半でいいですか。

了解です。

濱崎亜以子さん(八千草薫)は猫の画像を送って星野さんをサルベージしようとしますが、濱崎さんはさばさばとした態度です。

星野さんが濱崎さんを思うように濱崎さんは紺野さんを思っているのです。

上原さんのようにはなれないのです。

ホームレス寸前の状態でベンチに残骸化する星野さん。

魂の故郷であるインドへ向かう上原さん。

しかし・・・濱崎さんの前には母なる大自然がたちはだかるのです。

なぜか、待ち合わせに遅れてくる紺野さん。

そして・・・動揺をかくせない紺野さん。

その背後には妊娠検査薬が・・・。

辛うじて壁面にへばりつく星野さんの背後でもつれたロープが揺れているのです。

別れても好きな人

別れても好きな人

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2013年3月 7日 (木)

ピンクの部屋の女(木南晴夏)、図書室の女(川口春奈)、そしてビジネス・ホテルの女(水川あさみ)

異星の人をめぐるラブロマンスの歴史は古い。

日本には「かぐや姫」があるし、天孫が降臨して現地女性とまぐわいまくるのが神話の主題だったりする。

異文化コミュニケーションは変化をもたらすので刺激的なのである。

アニメ「レインボー戦隊ロビン」では惑星衝突により、故郷の惑星が滅びる異星人が地球侵略に乗り出す背景で、異星人のスパイと地球人が恋におちる。

広大な銀河に散開した地球人型宇宙人の子孫が地球人であるという仮説の元、交尾繁殖可能な宇宙人がゴロゴロしていたりする。

まったく、DNA配列は異なるが快感と言う点で、性交のようなものが可能であるという話もある。

「未知との遭遇」や「2001年宇宙の旅」では宇宙人こそが神である。

「ET」では宇宙人の迷子が地球の子供たちにひろわれる。

「マクロス」では地球人の歌姫は汎銀河系規模でモテモテである。

そういう意味で宇宙人と地球人が恋におちたってなんの問題もない。

問題なのはそれをよくあることとしない感性なのである。

まあ、好きな異性を異星の人に奪われたりすればその怨みは深く、戦争に突入する場合もあるかもしれないが。

で、『シェアハウスの恋人・第8回』(日本テレビ20130306PM10~)脚本・山岡真介、水橋文美江、演出・中島悟を見た。自分が常識と思っていることが常識ではないことはよくあることである。私の知人には「UFOって何?」と根本的な質問をする人もいるし、「中国も地球にあるの?」と聞く人もいる。そういう人に「星には恒星と惑星と衛星があってね」と一から説明しても無駄なのである。「月は太陽に照らされていて」と説明している途中で「そんなことを知らなくても生きていける」とか言われると納得するしかない。まあ、「学校で教えてくれることを学ばないで教えてくれないことばかりに興味がある人は多い」としか言いようがないのである。

「頭の上を危険なオスプレーが飛んでいる」ことが不快だと吐き捨てる能天気なニュース・ショーのコメンテーターがいるわけだが、それに乗っている人は戦場で命のやり取りをする人々である。なぜやりとりをするかといえば、それは自国の権益と平和を守るためなのである。一国をあげて隣国の国民を苛め対象にするための洗脳教育をしている国家があるこんな世の中でいざというときのために味方が訓練をすることに異議を唱えるのは地球に住んでいるのに地球の自転を否定することに匹敵する愚かな行為だと考える。

世界のいたるところで現実に戦争が行われているのにいつまで無縁のことだと考えているのだ。

・・・的にあなたの隣に宇宙人がいる話である。・・・そうなのかっ?

恋愛に不自由な女・汐(水川あさみ)は好きな人に振り向かれず、そうでもない人から好きだと言われてちょっといいかなと思ってしまう自分をもてあまし、複雑な人間関係のシェアハウスから逃亡してビジネスホテルで一夜を明かす。

汐が消えた夜、股間が光り出した辰平。まさにホタルノヒカリ状態である。

ついに・・・雪哉(谷原章介)は宇宙人あるいは妖怪人間の実在を信じることになった。

そして、凪(中島裕翔)は辰平が汐が好きで、汐は雪哉が好きで、雪哉が辰平を好きと言うシェアハウスの三角関係の実態を漸く把握するのだった。

今回は一部愛好家が視聴する最大の要因であるメグ(木南晴夏)とカオル(川口春奈)が両輪で活躍する。本来なら、メグのターンであるがおそらく無理矢理、一話に二話分詰め込んだのである。そのためにテンポはいい感じだった。

汐の勤めるコピー機販売のための営業所が閉鎖勧告を受ける事態が発生する。

汐は空元気を出すのだが、メグにはそれがいかにも無理しているように見えるのだった。メグは汐になついて少し好意を持っているのである。

雪哉は紡ぎ出されたシェアハウス的連帯感に動かされたのか・・・辰平の異常事態を汐に知らせるために汐の職場までやってくる。

しかし、混乱している汐は頑なに「辰平に対する恋心」を否定し、「シェアハウスなんて何の意味もなかった」と断言してしまうのだった。

汐にとって「雪哉への恋」に続いて「仕事」も失うのは耐え難いことであり、藁にもすがる思いで営業をかけるのだが、あきらかに性的欲望処理的な目的の水曜だけにどうでしょう的な男(戸次重幸)にひっかかる。男は意味不明な楽屋落ちを連発し、一部ファンを満足させるという最悪な展開をするが、「他人とは思えない」辰平がやってきて、汐の貞操の危機を救うのだった。

汐を憐れに思ったメグは本社専務の娘として豪邸に連れ帰り、ピンクでベビーエロな自室で汐の心の整理をするのだった。

「私も、好きな人がいたのに別に好きな人ができて困惑したことありますよ・・・幼稚園の時ですけどね」

違う恋愛時間軸を過ごすメグと話のかみ合わない汐は仕事の話に逃避するのだった。

「なんとか・・・本社の人に話できないかしら」

「パパなら下の階にいますよ」

汐は上司の立場を利用し、部下の親である雲の上の人にコンタクトするのだった。

「どのくらい新規契約がとれたら閉鎖回避ができますか」

「50件くらい」

淡々として笑顔を絶やさないメグパパは無理難題をふっかけるのだった。

しかし、汐によってビジネスの面白さに開眼したメグにとってそれは些細なことだったらしい。

無敵のお嬢様オーラで新規契約とりまくりなのである。

♪~メグは「新規契約」の特技を身に付けた。

こうして、営業所には希望の光が灯ったのである。

一方、辰平の光は同胞からの呼び出しスーパー光信号だったらしい。

再び、発光した辰平は宇宙の彼方からのメッセージを受け取る。

「イキテルカ」

「イキテル」

「ワレワレモイキテル」

「ゼンメツシタカトオモッタ」

「ドッコイイキテイル」

「タクサンカ」

「タクサンダ」

「ウレシイ」

「ゴウリュウスルカ」

「シタイ」

「ムカエヲマテ」

孤独な宇宙人は孤独ではなくなったのだった。

事情を聞いた雪哉は春の近さを感じ取った。

「一話短縮の勢いで卒業シーズンなんだな」

「おって知らせがあってピックアップしてもらうつもりです」

「別れの季節って事務的になりがちだよな」

辰平との別離を覚悟した雪哉はとりあえず連絡先を聞くのだった。

圧縮されて、次の展開に入ったドラマは凪とカオルのパートに移行する。

ムニャラクティイキリャ

チャスカクナタイスカイニンチス

カワリムスンノカマキキタ

ハピラニチャイツタニャウパクタ

・・・という辰平の星のヒット曲を録音した凪はカオルに相談をもちかける。

「はぴらきって聞いたことあるよな」

「ハピマテとラキスタみたいな」

「いや、ハピラニだった」

「なんだか・・・ケチュア語みたい・・・」

「けつあご・・・」

「誰がミスター・ジャイアンツじゃ・・・古代インカ帝国の言語よ」

「ケーナとか、アルパカとか、コンドルとか、マテ茶とかのあれか・・・」

「インカを作ったアヌンナキは宇宙人とも言うわ」

「アヌンナキは中東のシュメールとかバビロンの神だよ・・・インカはヤナムカ・トゥタニャムカだよ・・・太陽神インティの息子のパチャカマック、マンコカパック、ウィラコチャとかね」

「ナスカの地上絵的に宇宙人万歳だ」

辰平故郷星と南米降臨星の同祖説に基づき、カオルが神田の古書店で購入した「ケチュア-スペイン辞書」で翻訳を試みる凪。

一話短縮の展開高速化によってなし崩し的にわだかまりがとけた二人ははじめてのくちづけを図書室で交わすのだった。

カオル、キス・シーン・サービスの無駄使いである。

どんだけ貢献するんだよ。帝国相手なので前回よりオブラートな演出。

もしも、時間があったなら

少し、お話しませんか

もしも、お急ぎでないのなら

星でも見ながらお茶しましょう

あの星がきっと運命の星

二人の愛を永遠にする印

大地が滅んでいく夜に

二人は愛を確かめた

・・・凪から辰平の歌の意味を知った汐は「最初の夜にプレゼントしたマフラーのこと」を思い出すのだった。

突然、素直になった汐はシェアハウスに戻ることを決意する。なにしろ、ホテル代がかかりすぎるのである。

「私、辰平さんが好きです」

「僕は汐ちゃんが好きだ」

「これって・・・両思いですよね」

「はらちゃんか」

「どうしたらいいんでしょう」

「抱きしめろ」と指導する雪哉だった。

「ただいま」

「おかえり」

バカヤローな二人を見つめて雪哉もまた自分のことを「つまらない」と言った妻に真意を確かめる決意をしたのだった。

「つまらない男だからつまらないと云ったのよ」とミもフタもなかったらどうしようと思うと震えの止まらない・・・繊細で臆病で傷付きやすい雪哉だった。

しかし・・・スーパー光通信は現地到着時間を伝えてくるのだった。

「マンゲツノヨルニムカエニイキマス」

はたして・・・どんな結末が待っているのか・・・ここまできたら仕方ない気分で付き合うのである。

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2013年3月 6日 (水)

書店員ミチルの犯罪者の烙印と長距離バスの旅(戸田恵梨香)

「私の妻ミチルは・・・」(大森南朋)が聞けるのも今回を入れて二回か・・・春が来るのだなあ。

現実の世界でもいたるところで人は死んでいく。

なにもフィクションで人を殺さなくてもいいのではないか・・・という考え方もある。

しかし、豪雪で死ぬ人も中国の反日映画で死ぬ人も命に代わりはないのである。

人間はないものねだりの生き物であるから・・・時々、なくなったことにしないと命の大切さがわからないのである。

だから・・・嘘っぽい殺人よりも・・・リアルな殺人の方が好ましい。

「遊ぶ金目当てで殺す」よりは「気が付いたら殺していた」方が味わいがある。

だが、罪深い人に殺されても、罪を罪とも思わない人に殺されても、大自然の猛威に殺されても、ちょっとした事故で殺されても・・・死んだ人はもういないのである。

ただ、それだけのことなのである。

そして、人々は順番を待ちながら今日も生きるのだ。

どうか、誰もが最終回にたどり着きますようにと祈らずにはいられない。

で、『書店員ミチルの身の上話・第9回』(NHK総合201303052255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。ミチル(戸田恵梨香)は偶然買った宝くじで2億円が当たり、高倉恵利香(寺島咲)が上林久太郎(柄本佑)をフライパンで殺害して、豊増一樹(新井浩文)は消息不明、そして恵利香は自殺。次々に人を消していく幼馴染の竹井(高良健吾)がおそろしくなったミチルは彼をフライパンで殴打して夜の街へと飛び出すのだった。

「逃げなくちゃ逃げなくちゃとにかく逃げなくちゃ・・・竹井から逃げなくちゃ、竹井は死んだかしら、死んだとしたら人殺しだから逃げなくちゃ、竹井は人殺しかしら、誰を殺したのかしら、久太郎を殺した恵利香さんを殺したのかしら、手切れ金の500万円を渡した一樹さんも殺したのかしら。死体は埋めずに捨てたのかしら。逃げなくちゃ。死体の群れから逃げなくちゃ。なぜなら、私は二億円を持っている女なのだから。みんなにお金を狙われているのだから逃げなくちゃ・・・古川・・・誰、私を呼ぶのは誰?・・・初山(安藤サクラ)だ。初山が来てくれた。初山が長崎から来てくれた。私は初山に抱きつき、とりあえずカラオケ店に落ち着いたのです。・・・あれから・・・二か月もたったと初山は言います。痩せたねと初山は言います。おだやかな声。本当に本当に初山は私の親友だったのです。しかし、そんな初山に私は嘘をつかなければなりません。なにしろ私は二億円が当たった女。私の女友達が私の婚約者を殺した時に死体遺棄に同意した女。不倫相手が行方不明になったり、女友達が自殺したり、幼馴染に怯えて殺すつもりでフライパンを振りあげた女なのです。罪が重なりすぎてなにもかも正直に言える立場ではないのです。初山の傘を宝くじ売り場に忘れたとしても自分の分は買わなかったと言う他ないのです。久太郎がどこにいったのかは知らないと言う他ないのです。それが今、私のできる精一杯なのです。私は仕方なく罪を告白したのです。香水の匂いのする消しゴムを文房具屋で万引きしたことを・・・そのために母親が私のために天にまします主に祈りを捧げたことを。そして・・・風の向くままで気の向くままのなかった私が・・・なんとか自分で歩こうとしたけれど・・・何もかもうまくいかないことを涙ながらに懺悔したのです。初山は黙って私の話を聞いてくれました。できれば何もかも話してしまいたかったけれどそれは無理な相談です。こればかりは初山を頼るわけにはいかないのです。初山を巻きこむわけにはいかないのです。もしも・・・竹井が死んでいたら私は人殺しだし、竹井が死んでいなかったら・・・秘密を知ったものはすべて殺されてしまうからです。初山は一緒に帰ろうと誘ってくれましたが・・・私は首を横にふりました。お金はあるのかと初山は聞きました。私は首を縦に振りました。あります。二億円あるのです。困ったことがあったら連絡しな・・・と言う初山。ありがとう。初山。ありがとう、初山。ありがとう・・・。私は一人で踏切に行きました。恵利香さんが亡くなったという踏切です。私に優しくしてくれただけなのに・・・思わず人を殺し、死体を捨てて、罪の意識に苛まれ、死んでしまった恵利香さん。ごめんなさい、恵利香さん。ごめんなさい。恵利香さん、ごめんなさい・・・私は当てもなく新宿のバスターミナルにたどり着きました。そこで長崎からやってきたタテブー(濱田マリ)に遭遇したのです。リアル・鬼婆です。おそろしい、タテブーは恐ろしい。女の勘が冴えわたり、中年女の欲望・妄想・願望丸出しで私の罪を暴く恐れがあります。ひっと叫んでしまいそうです。私は逃げるように出発間際の京都行きのバスに乗り込む他はないのでした。逃げなくちゃ、とにかくタテブーから逃げなくちゃ。バスに揺られて私は二か月前に長崎から旅立った日を思い出します。わくわくと希望に燃えて、ウキウキと浮かれて・・・なんて幸せだったことでしょう。なんて世間知らずだったでしょう。親に言われるまま、地元の学校に進学し、親に言われるまま、地元の書店に就職し、地元の時計屋の息子と結婚する・・・それがただなんだかいやだったという理由で・・・なにもかもを失った私です。そして、リアル・逃亡中です。リアル・犯罪者です。リアル・世間の裏街道なのです。そして夢に逃げてもそこにはただ死体が放置してあるだけなのです。死体が仲良く並んでいるばかりなのです。ふと目が覚めるといかにも妖しい大浦さん(石橋蓮司)が立っていました。休憩エリアで眠っていた私のために大浦さんの奥さんが私に肉まんを買ってくれたのです。見ず知らずの老夫婦の親切に私の心では警戒警報が鳴り響きます。しかし、あまり用心深いのも不味いのです。なにしろ、怪しいといえば私もそうなのです。不吉な心のBGMを聞きながら勧められるままに肉まんを食べた私でした。気がつけば私はずっと何もたべていなかったのです。よかったら京都で一緒に観光しないかと申し出る大浦夫妻。しかも費用まで持ってくれると言うのです。私は詐欺、霊感商法、真理で原理で新興宗教、くいこむばかりのばばあのふんどし的な「だまされたらあかんで」疑心暗鬼の虜になりました。しかし・・・どうせ、流される私です。この老夫婦にとって殺されるのも運命なのかもしれません。いつしか、私は大浦さんと行動を共にしていたのです。大浦さんは上等な旅館に宿泊し、上等な夕食で私をもてなしてくれました。壺もお札も売りつけるそぶりはありません。しかし、ひょっとしたら夜になったら私のお金とか身体とかを狙ってやってくるのかもしれません。結局、私は何がどうあっても心が休まることのない女なのです。しかし、何事もなく一日は過ぎて行きました。薬師如来やら日光菩薩やら月光菩薩やら長谷川等伯やら、なにやらありがたいものをたくさん拝むことになりました。もちろん、どんな国宝も私の心をいやすわけではありません。大浦夫婦の正体が気になってしかたないからです。そんな私の気持ちが伝わったのでしょう。・・・娘を交通事故でなくしたのです・・・多額の保険金がおりたのです・・・どうして、そんなお金がつかえるでしょうか・・・娘と一緒に行くはずだった京都旅行になんとはなしに出てみたのです・・・と語る大浦さん・・・私は娘さんのかわりですか・・・それは本当ですかとは私には聞けません。大浦さんの悲しみをどうして踏みにじることができるでしょう。踏切に添えられた花のように振る舞うしかないのです。考えてみれば恵利香さんのご両親はひょっとしたら大浦さんのような苦しみを抱いているかもしれない。久太郎の両親だって・・・心配しないはずはない・・・ひょっとしたら私の家族だって・・・。私は里心がついてしまったようです。帰りたい。帰りたい。私の家に帰りたい。そしてぐっすり眠りたい。私は長崎にやってきました。家を見下ろす道路まで帰りついたのです。そこでは父(平田満)が私のために自転車を修理していました。ただいまと言いたかったけれど、言えませんでした。・・・私は罪を犯した女なのです。もう・・・お父さんの手にあまる娘なのです。私は来た道を引き返しました。そこで妹の千秋(波瑠)に見つかってしまったのです。妹は私の持っていた写真を見て・・・それが妹の写真だと指摘しました。私はどこまでバカだったのでしょうか。そして・・・父親が私が帰れなくなったのは自分のせいだとくやんでいるというのです。ああ、ごめんなさい、お父さん。ミチルは本当に悪い子でした。でも・・・もう帰れないのです。悪い子だから帰れません。私は妹に・・・来たことは内緒にしてくれと頼むしかありませんでした。そこへ・・・初山から着信がありました。今度はタテブーが東京に行ったまま帰ってこないと云うのです。私は確信しました。竹井。竹井だ。竹井がまたやっちまったんだ。タテブーも殺されて捨てられちまったんだ。私はあわてて故郷から立ち去らねばなりませんでした。私が近寄れば・・・父も妹も竹井に殺されてしまうかもしれないからです。逃げなくちゃ・・・でもどこへ・・・どこへ行けばいいのだろう。私は疲れ果ててしまいました。この世界に自分の居場所がどこにもないのです。二億円持ってるのに・・・もう、何をするのも億劫な気持になったのです。そして・・・野ざらしのベンチに力なく腰かけた背中のまがった私に・・・あの人が声をかけてきたのです・・・お譲さん、どうしましたか・・・と」

序・タテブーの上京

破・竹井の復活

急・タテブーの背後に竹井

絶叫の序破急です。

ついでに・・・ミチルと千秋は同母妹だったのか。

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2013年3月 5日 (火)

出会った頃と変わらずに妻を美しいと思う夫を疑うなかれ(剛力彩芽)

短編小説「たんぽぽ娘/ロバート・F・ヤング(The Dandelion Girl/Robert=F=Young)」(1962年)はタイム・トラベルもののファンタジーである。人によってはSF小説のジャンルに分類するだろう。なにしろ、「年刊SF傑作選2」ジュディス・メリル編(創元SF文庫)に収録されているくらいである。

話の分類としては「奇妙なはなし」文藝春秋編(文春文庫)の方がふさわしいだろう。

今回の題材となるのは「たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2」風見潤編(集英社コバルト文庫)である。

三冊とも現在、絶版(ぜっぱん)らしい。

絶版とは書店で注文しても問屋に在庫がなく出版社も版を重ねない方針であるために新品の入手が困難なことである。書籍は嵩張るからである。書棚に限りがあるからだ。だからといって電子版じゃ満足できない人がいる時代はいつまで続くのだろうか。

44歳の法律事務所経営者で大学生の息子のいるマークは妻のアンの留守中に白いドレスの美少女・ジュリーに出会う。

息子とさほど年の変わらぬ娘に夢中になったマークは「タンポポ色の髪」をしたジュリーと人気のない丘の上でデートを重ねる。

ジュリーは「240年の時の流れを越えてやってきた」と言う。「父親の自家製タイムマシンで違法な時間旅行をしているのだ」と言う。

マークは自分が妻子ある身だとか年齢差があるだとかには全くこだわらずジュリーに情熱を傾ける。しかし、突然、少女は姿を見せなくなってしまう。

恋しさで身悶えるマークだったが・・・屋根裏で妻の古いカバンから白いドレスを発見してすべてを悟る。

逢いたいと思っていた人とずっと一緒にいたと知ったマークは深い安堵に包まれるのだった。

少女が若い頃の妻だったことに気がつかなかったマークのうかつさはけして責めないでください。

ちなみに・・・とある少女が自分の母親の若い頃の写真を見ながら現在の姿と見比べて「一種の詐欺だよね」とつぶやいたのをキッドは耳にしたことがあります。

たんぽぽの花言葉は「思わせぶり」「別離」「飾り気のなさ」「真心の愛」である。

で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第8回』(フジテレビ20130304PM9~)原作・三上延、脚本・岡田道尚、演出・宮木正悟を見た。まあ、ロマンチックでスイーツな話なのであれですが、妻が妊娠出産してから初夜を迎えた男の話と言えるのです・・・言えるのかよっ。ちなみに非合法タイムマシンを作っていた病弱な父親・・・明らかに危険人物だよな。逆に想像して見てください。夫の留守中に美青年との恋に落ちた妻を・・・夫が美青年のなれの果てだと知った時の妻の気持ちを・・・コバルト文庫収録作品にそんなこと言ってもな。

未来世界では兎も鹿も中年男も絶滅危惧種だったらしい。

「おとといはウサギをみたの・・・昨日は鹿、今日はあなた。未来ではもういなくなってしまった動物たちを見ていると時間がたつのを忘れてしまいます」

さて、月9にふさわしく、恋のライバル登場である。

ビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)の幼馴染であり、古書籍商業の先輩でもある古書市場の経営員・滝野蓮杖(柏原収史)である。

狂気の男・笠井菊哉(田中圭)が退場したので交代かっ。

本が読めない新人古書店員・五浦(AKIRA)の噂を聞きつけ、栞子にアドバイスをするためにやってきたのだ。

「どう考えても・・・古書店向けの人材じゃないだろう」

「でも・・・私は五浦さんがいいのです」

恋のライバルとしていきなり撲殺される滝野だった。

その時、常連客の吉見(大倉孝二)がやってきて・・・「絶版商品にあまりいい本がない」と嫌味ともとれるつぶやきを残して去っていく。

そこで・・・栞子は古書市場で新しい古書を入手する決意をするのだった。

古書市場では古書業者が言わば品物の交換会を行うのである。

ビブリアは出品せずに入札して商品を競り落とすために参加するのだった。

栞子に連れられてやってきた五浦に滝野が再びアプローチ。

「何も古書店で働くなくてもいいんじゃないか」

「栞子さんがいいんです」

滝野、連日の斬殺である。

何故か、参加者の一人が「君がビブリアの新人さんか・・・昨日も来てたよね」と謎の発言をする。もちろん、五浦は初参加なのである。

そこへ・・・栞子の消息不明の母親・智恵子(安田成美)となにやら因縁があるらしい古書店・ヒトリ文庫店主の井上太一郎(佐野史郎)が登場する。

滝野が出品した「古書パッケージ」をめぐって栞子と井上は入札合戦を繰り広げるのだった。

結局、入札に敗れた栞子は・・・家の蔵書を売却することにする。

そのうちの一冊が「たんぽぽ娘」だった。

「たんぽぽ娘は愛する人が突然いなくなってしまう話なんです。母がいなくなった後、父はくりかえしこの本を読んでいました・・・きっと消えてしまった母を呪っていたのだと思います」

「呪い・・・ですか」

「あくまで想像ですけどね」

「僕は本を読んだことはありませんがなんとなく思うんです・・・読んだ人にとって受け取り方は千差万別なんだと・・・僕にとってはいい人が・・・他の人には悪い人ってことがあるように・・・栞子さんとお父さんでは感じ方が違うかもしれませんよ」

「原作もののドラマの批判にありがちですよね。自分の解釈が絶対に正しいという思い込みがあって・・・それ以外を認めない人って・・・結局、視野がせまいんですよね」

「まあ、長髪をショートカットにしたのは誤解の仕様がない事だと思いますけどね」

話が危険な方向になったので・・・井上がどなりこんでくる。

栞子が井上の落札した商品から貴重な一冊を盗んだと言うのである。

それがよりによって「たんぽぽ娘」だった。

あわてて・・・篠原家の蔵書である「たんぽぽ娘」を書棚に隠す五浦である。

結局、真犯人を捜すことになる栞子と五浦。

しかし、出番確保のために弟の文也(ジェシー)とひやかしの小菅(水野絵梨奈)、さらには謎の運送業者(岡田義徳)の連携プレーで「たんぽぽ娘」の存在は井上に伝送されてしまうのだった。

文也と小菅はなんとなく月9モードなのだが・・・原作的には同性愛になってしまうのだった。

必死に聞き込みをかけた五浦によって・・・市場には出品予定のなかったビブリア書店の商品が何者かによって持ち込まれていたことが判明する。

ここまで犯人候補は・・・。

①恋のライバル滝野

②なぞの運送業者

③井上の自作自演

④常連客・吉見

⑤レギュラーその他の皆さん

・・・結局、部外者の吉見が犯人だった。

吉見は五浦になりすまし、井上が入札した後で「たんぽぽ娘」を抜き取ったのである。

そこへ・・・自首してくる吉見だった。

「この本は僕が妻にプレゼントした本です。離婚した妻がその本を売ってしまったのです。僕はその本をとりもどせたら・・・妻の愛も取り戻せるような気がして・・・こんなことをしてしまいました・・・でも・・・結局、そんなことで妻がもどってくるはずはありません・・・そのことに気がついて・・・本を返すことにしました・・・」

悲惨な男の告白に井上は黙って本を回収するのだった。

「あの本は・・・前の店主さんから買ったんです。愛しい人に何かプレゼントしたいというと・・・前の店主さんはたんぽぽ娘を勧めてくれたのです・・・愛しい人にそれをもらって嬉しかったから・・・とおっしゃってました・・・いや、店主さんがプレゼントしたんだったかな・・・なにしろ、十年前のことなんであれですけど・・・まあ、人間の記憶なんてそんなもんですよね」

さびしい男が去り滝野が反省の言葉を口にする。

「実は・・・あの本をあの人の元・奥さんから買ったのは僕なんだ・・・あの人が買い戻したいと電話してきたんだけど・・・高く売れそうだったんでもう売れちゃったと云っちゃった。こんなことになるなら・・・あの人に高く売りつければよかったな・・・まあ、今となっては高価なプレゼントだけど絶版前の古書を婚約者のプレゼントにするって・・・どうなんですかね。つりざおをプレゼントするレベルですかね・・・同好の士だとしてもねえ・・・めでたしめでたしにならない感じ」

「因果はめぐる糸車なのですね」

頷いて滝野も去った。残された栞子に五浦は言う。

「栞子さんのお父さんは・・・ただ・・・行方不明になってしまった人を懐かしがっていただけなのかもしれませんよ・・・」

「それは・・・心あたたまる解釈ですね」

「それじゃ・・・たんぽぽ娘の話をしてくださいよ・・・」

「えーとね、これはおっさん好きの女の子と、女の子好きのおっさんの話なのですよ」

「うーん、なかなかのロマンスですね」

「まあ、240年後の世界ではものすごく整形技術も進歩しているでしょうしねえ」

「きっと若返りもですね」

「まあ・・・そういうツッコミも原点あっての話ですからね、古典にあれこれ言うのは無粋というものなのです」

「なるほど・・・」

すべての出来事は確定しているという不確定性原理不在のロマンスを話して聞かせる栞子、耳を傾ける五浦。

こうして月9的な夜が更けて行くのだった。

結局、吉見の用意したダミーの商品、栞子がちゃっかりゲットしてるみたいなんですけど。

「君は何を恐れていたんだい?」

「さあ、・・・なんのことかしら」

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2013年3月 4日 (月)

朕の存念貫徹の段、全くその方の忠誠、深く感悦と申されたのです(綾瀬はるか)

「堂上以下、暴論をつらね、不正の処置増長につき、痛心堪え難く、内命を下せしところ、速やかに領掌し、憂患をはらってくれ、朕の存念貫徹の段、全くその方の忠誠、深く感悦の余り、右一箱これを遣わすものなり」

朝廷の公卿たちが勝手にふるまい、天皇をないがしろにして、政治をみだしていることに心を痛めていたので、奸臣の一掃を命じたところ、ただちに行動し、不逞の輩を退治してくれて、天皇の心の憂さを晴らしてくれた会津公の忠誠の心に深く喜ばしさをかんじたので、ここにこれをつたえる・・・と八月十八日の政変に感激した孝明天皇は会津藩主兼京都守護職の松平容保を褒め称えた。

ご宸翰には御製が添えられていた。

「たやすからざる世にもののふの忠誠の心をよろこびてよめる 」

「やわらくも たけき心も 相生の まつの落葉の あらす栄えん」

「もののふと こころあはして いはほをも つらぬきてまし 世々の思ひて」

困難の多い世の中であるのに・・・武士の忠誠心というもののありがたさを感じ歌にした。

天皇家も武家も共に不滅である・・・相生の松のようにお互いが支え合い永遠に栄えたいものだ。

武士と心を一つにして、厳しい状況を打破することは、天皇家代々の方針である。

・・・公武合体を推進しつつ、天皇親政を夢見る孝明天皇の率直な気持ちがあふれている。

言わば、公家も将軍家も飛ばして、会津公こそ天皇の側近だと告げられたようなもので会津公の畏れ多さは尋常ではなかったと思われる。

で、『八重の桜・第9回』(NHK総合20130303PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はひな祭り大特集・ついにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!女性陣で会津藩主・松平容保の義理の姉にして上総飯野藩主の娘、豊前中津藩主の元妻、美貌の姫君・松平熈姫様と主人公・山本八重の近所の娘にして熈姫様の御祐筆、後に斎藤一の妻となる高木時尾の二大描き下ろしでお得でございます。「篤姫」の滝山と「龍馬伝」の千葉佐那が再び幕末に降臨、万歳三唱でございます。

Yaeden009 過激な尊皇攘夷志士である久留米藩出身の真木和泉守の画策により文久三年(1863年)八月に孝明天皇が大和国春日大社に行幸することが計画された。攘夷の即時決行を目指す三条実美を盟主とする公家や長州を主とする攘夷派武士はこれを機に天皇親政による軍事クーデターを決行し、さらには倒幕実行を目論んだのである。朝廷は三条らの過激派と、孝明天皇の父・仁孝天皇の猶子であり、孝明天皇の後見役でもあった尊融法親王(中川宮)らの穏健派に二分されていた。三条らの計画に不穏なものを感じた尊融法親王は孝明天皇の意向を受けて薩摩藩・会津藩に行幸阻止の命を下す。孝明天皇の目指していたのは親政であって親征ではなかったのである。八月十五日、薩摩藩の高崎正風と会津藩の秋月悌次郎は中川宮と面談。十六日、中川宮が参内して天皇に奏上。十七日、天皇から密勅が下された。十八日未明、会津藩を中心とした薩摩藩、淀藩、徳島藩、岡山藩、鳥取藩、米沢藩などおよそ二千名の武士が御所とその周辺を制圧し、夜明けとともに開かれた朝議にて大和行幸の延期と長州藩主・毛利敬親ら行幸主導派の処罰を決議する。長州藩は御所警護の任を解かれ、三条実美ら七人の公卿とともに藩士千名が都を追放されるという事態となった。こうして、京都の大規模兵力は会津藩のみとなったのである。この日から会津藩主は名実ともに京都守護となったのであった。一説によればこの時の警備に参加したことにより浪士組に正式に新撰組の名が与えられたと言う。やがて、九月になると新撰組内部で尊皇攘夷色の濃い水戸派は一掃され・・・近藤勇を頂点とする新撰組が発足することになる。

岩倉村には前年に三条らに「佐幕派」として蔑まれ、朝廷を追われた村上源氏久我流の下級公卿である前左近衛権中将・岩倉具視がいた。現在は蟄居し、出家したため友山と法名を名乗っている。

しかし、実際は天皇の忍びの棟梁の一人であった。

その任務はもちろん天皇家の守護である。孝明天皇には嘉永五年(1852年)に典侍の中山慶子が生み、女御である九条夙子(後の英照皇太后)の養子となった睦仁親王がいる。その警護が岩倉友山の役割であった。同時に皇太子としての地位を睦仁親王が得るための画策も担うことになる。夙子の生んだ第一皇子が早世したために直系男子は睦仁親王がいるだけだが、皇位継承を狙うものは場合によってはその命を狙ってくるものなのである。

実際に暗殺者が出現し、岩倉友山は幼子を抱え、この岩倉山に避難したこともあった。

今は御所において健やかに養育されている睦仁親王を守護するのは岩倉の育てた四人の忍びたちであった。

岩倉村で友山が経営するのは賭博場である。

客には町民もいれば武士もいて、時には公卿さえもが噂を聞きつけ、訪れる。

大金を落す客には酒席や女も用意するのである。

いわば・・・岩倉友山は京の闇の帝王なのであった。女たちは時には祇園の芸妓を呼び寄せることもある。祇園の支配者の一人は友山の下忍であった。

その夜、やってきた新入りの芸妓に友山は目を留めた。

「ほほう・・・知らん顔やな・・・」

「朝日と申します」

「ふふふ・・・気に行った・・・今夜は客をとらんで・・・麿の元へ参るがよい・・・」

「旦那様の元へ・・・」

「そうや・・・まだまだ男を知らんやろ・・・面白いお伽噺でも聞かせたるわ・・・」

友山は寝処で朝日の初心い身体を堪能した。

「・・・ふふふ・・・まだまだやな」

「堪忍どすえ・・・」

「おまえ・・・どこぞのくのいちやろう・・・」

「くのいち・・・」

「隠さんでもええで・・・くのいちなんぞ・・・珍しくもない・・・」

「・・・」

「なら・・・あててみせよか・・・江戸なまりが残っておるしな・・・その上に幽かに陸奥の匂いがするわ・・・会津に朝日山があると聞く・・・名はそこからとったのやな・・・どや・・・」

朝日は闇の中で自分の顔色が変わっているのを意識した。

「ふふふ・・・都はだいぶ落ち着いたでおじゃろう」

「・・・はい」

朝日は声に緊張が出てしまっていることに気付く。

「祇園でな・・・薩摩藩士と会津藩士を密会させたのは・・・麿でおじゃるよ・・・」

「・・・」

「攘夷攘夷と騒ぐのはいいが・・・帝を矢面に立たせようなどとは不忠の極みというもの。小僧たちにお灸をすえてやったんや・・・」

「・・・」

「会津もようやく・・・忍びやらくのいちやらを放ったが・・・都での諜報合戦では児戯のようなもの、手とり足とりしてやらねばどないもならん・・・」

「・・・」

「長州にはだいぶ手を焼かされたが・・・これでしばらくは大人しくしとるやろ・・・どうや・・・なかなか面白い噺やろ・・・」

「おそれいりましてございます」

「ええのや・・・今、おそろしいのは江戸城におられるんや。薩摩の姫と宮様が嫁姑の睨みあいやで・・・想像するだけで震えるわ・・・まあ・・・都にもまだまだ物騒な輩が忍んでおるんやけどな・・・そんなわけで・・・お前のような初心なくのいちは・・・可愛がる他はようしまへん」

「・・・あ・・・」

「そんなわけで・・・時々は楽しませてもらうで・・・それ・・・ここはこうや」

「あふ・・・」

朝日はくのいちの技も忘れて快楽におぼれ始める・・・。

「ふふふ・・・可愛いで・・・ほんにうい子や・・・」

文久三年の暑い夏は終ろうとしていた。

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2013年3月 3日 (日)

地獄のベルトコンベアーを越えて、恋人よ我に帰れ(忽那汐里)

忘れてはいけないことが多すぎるこんな世の中である。

北アフリカの貧困とテロリズムの温床化を忘れてはいけないらしい。

沖縄の一部の人間が基地問題が解決されないのはいじめのようだと怨んでいることも忘れてはいけないらしい。

原子力発電の恩恵を忘れてはいけないし、フクシマの原発事故も忘れてはいけないらしい。

韓国がいつまでも歴史認識を変えないことも忘れてはいけないらしい。

中国が偏西風で公害を散布していることも忘れてはいけないらしい。

北朝鮮がいつまでもいつまでも拉致被害者を返さないことも忘れてはいけないらしい。

農業人口の高齢化とか、待機児童とか、特許庁のシステム更新失敗とかも忘れてはいけないらしい。

レスリングが失われそうだからと言ってソフトボールのことも忘れてはいけないらしい。

確定申告も忘れてはいけないらしい。

醤油とみりんを買うのを忘れてはいけないらしい。

忘れてはいけないことが多すぎて、一番大切なことを忘れてしまいそうだ。

だけど土曜日だということを忘れても録画予約があるから安心だ。

ニュース・ショーのコメンテーターみたいに・・・その場その場で忘れていないフリをしていれば人間なんて生きていけるんだけどさ。

それから愛らしい人がいれば問題ない。

で、『泣くな、はらちゃん・第7回』(日本テレビ20130302PM9~)脚本・岡田惠和、演出・狩山俊輔を見た。善良な人々で構成されるこっちの世界。その中ですべての禍々しさを一身で引き受けるのが・・・越前さん(麻生久美子)の弟、ひろし(菅田将暉)である。凶悪な朝ドラマと評判の「純と愛」の善人対悪人比率が1:100なのに対し、こっちの世界では100:1に設定されているわけである。もちろん、悪魔にとってはどちらも同じなのである。善は悪に誘導し、悪はさらに悪くするのが任務なのである。

ひろしによって資源回収車に乗せられる運命となった「泣くな、はらちゃん」の世界を封入した大学ノート。開いた引き出し、失われた古新聞古雑誌の山、ひろしと母・秀子(白石加代子)の証言から・・・越前さんは「とりかえしのつかないことをしてしまった・・・」と絶望する。

能動的ではない・・・越前さんには失われたものを取り戻す気力はわかないらしい。

試みに別のノートに【はらちゃん】を描いてみたが、例の現象は起こらないのだった。

現象のことを知る百合子(薬師丸ひろ子)と悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)に事情を知らせる越前さん。

悪魔さんは「・・・マキヒロ(賀来賢人)にもう・・・逢えないの・・・神様、だめじゃん」と越前さんを詰る。

しかし、百合子は「しょうがないんじゃない・・・これでよかったのかも・・・だって所詮は結ばれない恋だもの・・・だから、あなたも結婚できないって言ったんでしょう」と慰める。

唇をかみしめる越前さんだった。

青くて高い澄み切った夜空

新月の暗闇で結ばれた二人

でもあなたはいなくなってしまった

あなたのどんなに小さなしぐさも

私は忘れない

やっと実った恋だから

私の孤独は恐ろしく深いのよ

帰ってきて

私の愛しい人

その頃、はらちゃんたちはノートの中で車に揺られている。

たどり着いたのはこの世の果てで資源が処理される工場だった。

焼却炉に向かって絶体絶命のはらちゃんの世界・・・。

しかし、採用されたばかりの職員がひろしだったことにより、九死に一生を得るのだった。

【はらちゃん(長瀬智也)とマンガ世界の愉快な仲間たち】は全員まとめてこちらの世界に放出されたのだった。

「ここは・・・どこですか・・・」

「資源を再利用するためにドロドロになるまで燃やして溶かす施設だよ」

親切だが任務に忠実な職員にノートを奪われそうになり、警備犬の群れに追われる【仲間たち】・・・。

リーダーシップを発揮する【ユキ姉】(奥貫薫)は「逃げるわよっ」と号令をかける。

なんとか脱出したはらちゃん。

【笑いおじさん】(甲本雅裕)はノートを開いて安全なマンガの世界に帰還することを提案するが・・・それでは「神様のところに帰れなくなる」と【はらちゃん】はノートを越前さんのところまで運ぶことを宣言する。【マキヒロ】は賛同し、【あっくん】(清水優)や【たまちゃん】(光石研)も追従する。しかし【ユキ姉】は「私たちは神様に地獄に捨てられたのよ・・・」と反対するのだった。

「そんなことはありません・・・神様が私たちを捨てることなんてありません・・・私たちは両思いですから・・・」と【はらちゃん】は越前さんを疑うことはしないのだった。

【ユキ姉】も【はらちゃん】に従う他はないのである。なにしろ。他に行くあてなどないのだから。しかし、【ユキ姉】にはこっちの世界に対する不信感があるらしい事が暗示される。

お金もなく食事もできない【はらちゃんと仲間たち】、しかし、路上販売の農家のおばさんが大根の収穫作業を手伝う代わりに大根スティックを支給してくれたのだった。働く喜びと食べる喜びを満喫する【一行】・・・「働くことは生きること」と玉田工場長の言葉を再発信する【はらちゃん】に【たまちゃん】は「それは俺のセリフ」だとは言わない・・・姿は玉田工場長でも心はあくまで【たまちゃん】なのである・・・そこへ【あっくん】と両思いになった子犬チビの飼い主が現れる。

さすらいのディスメタル・ロッカー(安田顕)の父子だった。

飼いならされた豚には用はない

この世の終りを祝福するのだ

理解できない豚どもは餌でも食ってやがれ

ああああああああああああああああああああ

ロッカーの新しい音楽に触れ、魂を揺り動かされる【一同】である。【ユキ姉】さえもいつしかシャウトするのだった。

はじめてのエレキギターで「世界中の敵に降参さ戦う意思はない世界中の人の幸せを祈ります」を披露する【はらちゃん】・・・。

ロッカーは「いいね・・・君が作ったのか・・・」と問う。

「言葉は神様からいただき、メロディーは悪魔さんから頂きました」と答える【はらちゃん】・・・。

「神と悪魔のロックか・・・」と頷くロッカーだった。

「あなたはお父さんですよね・・・お母さんはいないのですか」

「いるけど・・・住む世界が違いすぎて別れちゃった・・・」

「私の両思いの相手も・・・住む世界が違うのです」

その時、落陽が荒野を照らす。

こっちの世界の大自然に感涙する【はらちゃんと愉快な仲間たち】・・・。

「関係ないよ・・・【はらちゃん】・・・世界があーだとかこーだとか、マジ関係ねえ。世界がどうなろうと知ったこっちゃねえ。それがロックさ。そんで、何があっても好きな女だけは放しちゃダメなんだぜ」

【はらちゃん】はロックの神様の教えを素直に受け取った。【はらちゃん】のノートが開かちゃうんじゃないかとか、悪い人にだまされちゃうんじゃないかとか、ロックの神様は放しちゃってるじゃないかとか・・・いろいろとドキドキするわけだが・・・地獄のハイウエイを辿ってふなまる水産三崎工場に送り届けてもらった【はらちゃん】だった。

冒険の一日は終り、夜の帳が下りていた。

元気のない越前さんを励まそうとするがまったく相手にされない田中くん(丸山隆平)である。

越前さんは「揚げかま」の営業ノルマ達成を工場長代理として指示するのである。

悪魔さんも田中くんのことはもうどうでもよくなっている。

あなたとたどった道を歩いても

淋しさがつのるだけ

あなたはいない

あなたはいない

今も私の愛は燃えあがる

帰ってきて

帰ってきて

私のところへ

私の愛しい人

越前さんは窓の外に【はらちゃん】を発見する。

一目散でかけつけるのだった。

そして・・・【愉快な仲間たち】に挨拶するのももどかしく【はらちゃん】を見つめる・・・。

憚ることもなく【マキヒロ】と悪魔さんは熱い抱擁を交わすのだった。

「私は・・・神様を苦しめるから・・・逢わない方がいいのではないかと考えました」

「そんなの・・・嫌・・・嫌・・・嫌よ」

「私もです・・・私もこの世界でいつまでも越前さんと・・・」

そこで【笑いおじさん】は提案する。

「ノートを開かなきゃいいんじゃないの」

決心した越前さんはガムテープでノートを封印する。

田中くんは単なる年上の女好きだったらしく・・・ユキ姉に一目惚れである。

【はらちゃん】→越前さん

【マキヒロ】→悪魔さん

田中くん→【ユキ姉】

【あっくん】→チビ

愛の花盛りである。

しかし・・・物陰で百合子は何やら思い悩む。

一人はぐれた【たまちゃん】はまたしても長沼さん(稲川実代子)に工場長の幽霊と間違えられてしまうのだった。

はたして・・・こっちの世界の女と【マンガ世界の男】は結ばれるものなのか・・・。

戸籍、生殖能力、老化の有無、排泄の有無・・・様々な疑問点でお茶の間を不安にさせつつ・・・物語は終局へと向かって行く。

もう・・・春はそこまで来ているのである。

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2013年3月 2日 (土)

夜行観覧車で僕は震えている(中川大志)

唐揚げじゃないのかよ。唐揚げ、唐揚げ、植木鉢の土のついたレタスで娘を黙らせる母とかで。

だって、はじめて関係者が観覧車の乗客になったんだぜ・・・何を書くのか・・・これでしょ。

お前、観覧車好きだもんな・・・。

そうだよ。のんびりしているようで・・・あんなこわい乗り物はないだろう。あれは絶対横倒しになってもおかしくないし、途中でトイレに行きたくなってもものすごくゆっくりなんだぜ。まして、故障でもして止まったりなんかして。想像するだけでスリリングだ。エレベーターに匹敵する恐ろしい乗り物だよ。

あれだよな。ヘレン・ケラーの「奇跡の人」だったよな。

観覧車の話じゃないのかよっ。

馬のりになって「食べ物」を詰め込むからな。だけど・・・アン・サリヴァンは教えようとしたんだよな。こっちはただ黙らせたかっただけだからな。三倍恐ろしいよな。

それでも・・・「母親」より「娘」が悪いと感じる人もいるんだよなあ。

まあなあ・・・その人が「母親」ならなおさらなあ。

あの「娘の賢さ」を認めてしまうといろいろと恐ろしい感じになるもんな。

親にとって子供が自分より正しかったり、優れていることは実に恐ろしいことだからな。

人の親になった猿の気分だからなあ。

とにかく・・・今季は面白いドラマが多すぎるよな。谷間が欲しいよねえ。去年の夏が懐かしいよねえ。

で、『・第7回』(TBSテレビ20130301PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・棚澤孝義を見た。初々しく、力のこもった演出だったよね。遠藤真弓を演じる鈴木京香の狂気が見事に炸裂していたしな。突然、狂ったわけではなくて・・・ずっと一定して狂ってたわけだよね。しかし、その狂い方を感じないお茶の間もあったわけで・・・これで思い知ったんじゃないかな。いやいや・・・まだまだあそこは狂って当然だという根強い真弓は別に悪くないという信念の人はいるんじゃないのかな。だからこそ・・・子を殺す親もいるし、子に殺される親もいるんだからな。まあ、そういう場合も「やむにやまれぬことだった」とか、「例外」とかを考えたりするわけだが。

まあ、人間なんていつ誰に殺されてもおかしくないと思って生きている人は少数派だからな。

そうだよねえ。殺される人が少数派だからねえ。まだまだ、この国では。

ついに、整形外科病院開業医・高橋弘幸(田中哲司)殺害事件の容疑者として妻の淳子(石田ゆり子)が逮捕される。しかし、行方不明の次男・慎司(中川大志)はまだ逃亡を続けているのである。

取り調べに対して、犯行を自供した淳子だったが・・・凶器や動機については口を閉ざしている。

お茶の間的には「凶器」は長男・良幸(安田章大)が獲得した全国大会の優勝トロフィーであるらしいことが分かっている。

事件当日に・・・妻と娘の諍いを厭い帰宅恐怖症になってしまった遠藤啓介(宮迫博之)は自家用車の車内で高橋家の騒ぎを聞きつける。最初に慎司が外出し、次に高橋家を小島夫人(夏木マリ)が訪問し・・・その後で啓介が高橋家を訪ねるのである。自分の家の騒ぎには介入できなかったのに・・・他人の家の出来事に関わろうとする啓介が異常なのかどうかは断定しないでおく。

高橋淳子はただならぬ様子で手下げ袋に入れた血のついた凶器らしきものを「誰にも内緒で捨ててください」と啓介に託すのである。

なんで・・・そんなことを淳子が頼み、啓介が頼まれてしまうかはまだ明らかにされていないが・・・なんとなく男と女の問題と、隣の芝生は青い、一千万円の借金などが思い浮かぶわけである。

しかし、警察に追及された啓介はあっさりと「パチンコに行っていた」という嘘の供述を翻し・・・母娘の不仲という家庭の恥を晒しつつ、「証拠隠滅」をしつつある事実は隠蔽するのだった。

啓介は警察の監視の目をかいくぐり、トロフィーを土中に埋めることに成功したらしい。

「俺は何やってんだ・・・」と自嘲しつつ、「こんなことになったのは・・・妻と娘のせいだ」と呪うのだった。「俺をいたわってくれよ・・・いたわってくれたら・・・こんなことにはならないんだよ」なのである。

夫が嘘をついており、借金一千万円のうち三百万円を使い込んでいることを知った真弓は追求せざるを得ない。

しかし、夫は「ボーナスが減ったのでローンの返済にあてた」と説明する。なんとなく、遊興費にも些少は消えている気がするが・・・鈍い妻はそれで納得するしかないのである。

だが、夫は言わずにはいられない。「この街に家なんか建てなければよかった」と。

この期に及んで、高橋家の家族を案じる素振りの真弓に神奈川県警察坂留警察署の刑事で真弓の同窓生でもある結城は「他人の家のことより、自分の家のことを考えろ」と初めて事件抜きの助言をするのだった。

そのために・・・真弓は行き先も告げずに外出した娘の彩花(杉咲花)を捜しに出かける。

そして・・・浦浜中学バスケ部の志保(吉田里琴)を発見してしまう。最初は娘のことを訪ねていた真弓だったが・・・突然、慎司のことに話題を変え、さらには「万引き」の件について言葉を濁しながら問いただすのであった。

自分のやることなすことがすべて娘を苦境に追いやっているとは全く想像できないのだから仕方ないのである。

やはり・・・真弓は人としての大切な何かが欠けているのだろう。

だが、それは普通のことなのかもしれない。

完璧な人間なんていないという前提で。

たちまち・・・志保たちに呼び出される彩花だった。

「万引きのこと・・・密告したの・・・」

「してないよ・・・」

「そうかなあ・・・なんか、あんたの母親が私たちが悪い事してる的な感じで問い詰めてきたけど・・・」

「・・・」

「あんたの母親ってさ・・・小学校の時からうちの娘は私立に行くんですよ的な。意味もなく上から目線のオーラ発してくるよね。あんたもわたしたちのことバカにしてたんでしょ。すっごくむかついたよ」

「そんなことないよ・・・」

「ひばりヶ丘に棲んでいるのがそんなに偉いわけ・・・」

彩花は眩暈を感じた。

そして、床に倒れ込みポップコーンを散乱させた。

「あ・・・なんてことするんだよ」

「ポップコーンが」

「食べられないじゃん」

「あやまってよ」

「ごめんなさい」

カラオケ店の前を通りかかった七瀬(今週、シェアハウスの恋人で出番のなかった木南晴夏)は悲痛な叫びを聞いた。

≪ひばりヶ丘なんか嫌いだ・ひばりヶ丘なんか嫌いだよ・ひばりヶ丘なんて消えてしまえばいい・・・でもあの人に何を言っても無駄・・・私よりひばりヶ丘が大切だから・・・ひばりヶ丘に住んでいることが生きがいだから・・・私よりもお向かいの家の人たちを愛しているのだから・・・消えたい・・・消えてしまいたい・・・私なんかいる意味がない≫

七瀬はあわてて心の掛金をおろした。

自殺したい中学生にいちいち関わっていてはキリがないからである。

事件当夜、友人宅に外泊していた高橋家の長女(宮﨑香蓮)と、京都にいた長男・良幸(安田章大)に家庭内の問題について事情聴取が行われる。

「弟の成績が悪いことが・・・私のせいにならないように・・・外泊していたのです」

「弟は中学の授業についていけずに悩んでいたようでした」

兄と姉は・・・父親の殺害に・・・弟がなんらかの関与をしているのではないかと思わずにはいられないのだった。

結城刑事は記念写真と事件現場の比較から・・・トロフィーが消えていることに気付き、淳子を追及する。

「このトロフィーは・・・どうしたんですか」

「殺したのは私です・・・しかし・・・何も覚えていないのです」

曖昧な供述を繰り返す淳子だった。

ひばりヶ丘に執着する真弓と同じようにひばりヶ丘に執着する小島夫人は・・・事件を境に急速に孤立を深めていた。婦人部の仲間にも距離をおかれ・・・焦燥した小島夫人は帰国中の息子・マーくんこと雅臣(小泉孝太郎)の職場を急襲する。しかし・・・雅臣はすでに母親の異常さに辟易していたのだった。

息子に言われたくない言葉ベスト3

①一緒にいると息が詰まる

②嫁の家の二世帯住宅に住むことにする

③もうウンザリなんだよ

小島夫人は自分にはひばりヶ丘しかないことを悟るのだった。

何者かが高橋家の窓ガラスを割った。

あわてて飛びだした真弓は彩花がそれをしたと決めつける。

彩花は我慢して冷凍食品の唐揚げで夕食を真弓ととっていた。

「明日・・・病院に行きましょう・・・具合が悪いんでしょう」

「普通に・・・食べているだろう・・・あんたの都合で手抜きの唐揚げをさ・・・」

「高橋さんちに石を投げるなんて最低よ」

「やってないよ・・・」

「慎司くんたちのことを考えてあげなさいよ」

「なんで・・・いちいち他の家の子供と私を比較すんだよ」

「そんな・・・比較なんてしてないわ」

「みんなあんたが悪いんだよ」

「私が何をしたっていうの」

「今日だってあんたが余計なことをして私がどんな目にあったと思ってんの」

「何のこと」

「ひばりヶ丘に家なんか建てるからバカにされてるってわかんないの」

「なんで・・・私は三人で穏やかに暮らしたかっただけなのに」

「自分の勝手な夢に私を巻き込むなよ・・・私はひばりヶ丘なんて大嫌いなんだよ」

ついに自分を抑えることができなくなった彩花は暴れて室内をメチャクチャにするのだった。

娘に言われたくない言葉ベスト3

①ばばあ

②クソババア

③死ねばいいのに

ついに窓ガラスを割った彩花。

その時、通りすがりの七瀬は母親の絶叫を聞いた。

≪私のひばりヶ丘の家の窓・私のひばりヶ丘の家の窓の窓ガラス・私のひばりヶ丘の家の窓の窓ガラスが大変なことに・やめて・やめて・私のひばりヶ丘の家を壊すのはやめて・私のひばりヶ丘の家の中で大声を出さないで・静かにして・黙って・黙れ・黙れ・黙って・だまれだまれだまれだまれだまれ≫

七瀬は耳をふさいだ。

自分の家の前で啓介は立ちすくんでいた。そこへ小島夫人がやってくる。

「どうして止めないの・・・家に帰れなくなるわよ」

「帰れませんよ・・・こんな夫や父親をいたわってくれない家なんかに・・・帰れるわけないじゃないですか」

七瀬は足早に通り過ぎた。崩壊しそうな家庭にいちいち付き合ってはいられないからだ。

真弓は娘の口に何かを押し込んでいた。

娘は母親の殺意を感じ取った。

≪お腹を痛めて・・・母乳・・・ミルク・・・離乳食・・・ひばりヶ丘の素敵なお家・・・唐揚げ・・・サラダも食べないとだめよ≫

七瀬は狂気の匂い立つ思考の断片に付きまとわれていた。

やがて・・・別の意識が割り込んできた。

≪寒い・・・寒い・・・寒い・・・どうして僕を誰もみつけてくれないんだ・・・≫

坂の下にそびえる色鮮やかな夜行観覧車からは憐れな少年の声が放射している。

七瀬はコートの衿をたてて逃げるように坂を下りて行く。

事件開始から五日が過ぎ去っていた。

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2013年3月 1日 (金)

とりあえず殴る人(ガッツ石松)

「ああ、これはもうやっちゃってるな」

「どうしてよ」

「だって要領の悪い男がここまで進んでるんだぜ、要領のいい方はもうやっちゃってるだろう」

「とにかく、今を楽しみなさいよ」

「ガッツ石松を見ていると、土手を思い出す」

「・・・」

「レポーターがガッツさんの初恋の思い出の場所を探訪して・・・この土手でガッツさんはドーテーを喪失しましたと言ってドテッと言いながらこけるんだ」

「どうでもいいことを覚えている人よね」

「ガッツさんを見る度に思い出すから忘れようとしても忘れられない」

「因果よねえ」

「最近、昔、熱気球で結婚式をあげた友達がいたことも思い出した」

「そうなったり、そうならなかったりするのはただのタイミングの問題よね」

「わざわざ、落ちて行く人をアップにする必要があるのかとも思うが、そうしたい気持ちもわかる」

「・・・難儀よね~」

「あれ・・・意外ともたもたしてるな」

「相手のいることだからよ」

「さかりのついた猫みたいだけどな」

で、『最高の離婚・第8回』(フジテレビ20130228PM10~)脚本・坂元裕二、演出・並木道子を見た。「のび太の結婚前夜」(1993年公開)は実在する映画である。「彼は他人の幸せを願い、他人の不幸を悲しむことの出来る人物」は花嫁しずかの父がマリッジ・ブルーの娘に語るセリフである。・・・のび太はどんだけ他人頼りなんだ。とりあえず計算する人もいるよな。娘の恋人を目にして・・・自分とは違うタイプじゃないか。娘の奴、お父さんみたいな人と結婚したくないのかよ。顔はまあまあだし、スーツも若い割には着こなしている感じがする。些少、緊張しているが挨拶の言葉はよどみない。この顔で娘とやっちゃってるのかよ。妊娠してるってことはやっちゃってるんだよな。俺の娘を抱いちゃってるんだな。な、殴りたい。でも、殴れない。そんなことして気まずくなったら困るからな。この男、本当に娘を幸せにしてくれるのか。この男の会社は大丈夫なのか。この男、健康に問題ないのか。ちゃんと保険に入っているのか。うわあ、俺の娘と目配せなんかしやがって。なんだ、心と心が通じ合っちゃっているのか。体と体も通じ合ってるからか。愛し合っちゃってるのか。お、俺の娘とかあ。あ・・・しまった。殴っちゃった。マジで殴っちゃった。ど、どうしよう。

「今夜、研究室がふさがってまして」

「じゃ、友達の処にでも泊ればいいじゃないですか」

「だからきました」

「僕たち・・・友達ですか」

すっかりくつろぐ上原諒(綾野剛)に神経をとがらせる濱崎光生(瑛太)である。

そこに、葬儀のために上京した結夏(尾野真千子)の父親・健彦(ガッツ石松)がやってくる。

尿路結石が完治した健彦は娘夫婦の離婚を知らないが、娘が家出中であることはそれほど気にしない。諒がお清めの塩をかけすぎることはなめくじではないので気になるのだった。

一時間待ちくらいで当日券が購入できるようになった東京スカイツリーに昇る、元義理の息子とそうとは知らない元義理の父親である。

おのぼりさんよろしく「ヤッホー」と興奮する父に「東京スカイツリー」なんてと馬鹿にしていたのにやはり興奮する息子だった。

「最近知ったんだが・・・娘はあんたのことをのび太みたいな人だと思っていたらしい」

しみじみとした思い出話なのか判断に迷う光生だった。・・・今週はなんとなく藤子・F・不二雄をしのぶ一週間なのか。

しかし、義理の息子として愛されている気分になった光生は嘘をついていることに耐えきれなくなってしまうのだった。

結婚の挨拶の時には殴れなかった健彦は本懐を遂げるのだった。

顔面を冷やす光生に諒は語りかける。

「奥さんとケンカしたんですか」

「・・・」

「うちはケンカとかしなかったりがいけなかったのかなあ」

「おたくはあなたの浮気がいけなかったんですよ・・・だから終わっちゃったんです」

「僕は終ったと思ってないんです」

(終わったんだよ、いや終わっててほしい)と望む光生だった。

「奥さんに未練はないんですか・・・」

(っていうか・・・向こうがみれんがないんだよ)・・・大事なことがまったく洞察できない男なのである。

結夏は未練ありありなのだが・・・光生に愛されている気がしないので仕方なく離婚したのである。

結夏はただ「愛してると云ってくれ」と思っているだけなのだ。

神経質でもいいたくましく愛してほしいのである。

で、周囲のことには神経質ではないので、いつものように歯科で愚痴る光生なのだが、いつもの歯科衛生士・海野菜那(芹那)は寿退職していたのだった。

クリーニング屋で灯里(真木よう子)を発見した光生は灯里と諒が再燃するのを恐れて灯里の隔離を試みるのだった。

しかし、光生が据え膳食わなかったことに立腹していた菜那は光生を婚約者と待ち伏せしていて一矢を報いる。

「灯里さんですか・・・昔、同棲していて今も好きなんですよね。私、奥さんより灯里さんに嫉妬してました」

「光生さん・・・おしゃべりですね」

光生はぎゃふんと泣いたのだった。

しかし、このような状況でも・・・男の自分に対する好意を第三者から語られて悪い気がしない女は少なくないのである。

失敗だと思っていたことが意外に成功につながる所以である。

いそいそとでかける祖母の亜以子(八千草薫)を尾行する光生。もちろん、亜以子が光生を釣っているのである。

サービスでバックブリーカー(背骨折り)を決められた光生は結夏との再会を果たす。

改めて健彦に離婚を報告する光生と結夏。

「離婚しちゃったんだから仕方ないでしょう」

光生への愛を秘めてふてくされる結夏。

その気持ちには全く気がつかず、とりあえず謝罪する光生である。

「みんな僕が悪いんです・・・」

光生・・・愛されていることもわからないし、愛し方もわからないのである。どこが悪いのかもわからないままあやまるしかない男なのだ。

「あんな娘ですまない・・・」とすべてをこらえて頭をさげる健彦だった。

残された光生は・・・結夏に「幸せになってください」と未練ほこらえて言うのだが・・・その言葉が相手を傷つけているとは夢にも思わないのだった。

居場所のなくなった結夏をとりあえず保護する亜以子だった。

「結婚もスタートだけど・・・離婚もスタートなのよ・・・いろいろ面倒くさいのよ」

光生に愛されたいのに愛されている実感がわかない結夏は「あゝ無情」な気分だったのである。

そして・・・コンビニで健彦のパンツをたたみ終わり光生のハブラシを買いに来たと思われる諒と遭遇するのだった。

涙は塩っぱすぎるし 焼きもちは汚い

好きにさせてよ

燃えあがる二人だった。

一方、録画したダイオウイカ(「NHKスペシャル~世界初撮影!深海の超巨大イカ」」)を今夜こそ見ようと考えているうちに放心した光生を発見する灯里。

弱った者同士は魅かれあい身を寄せるのだった。

故郷に戻ろうとまで考えていた灯里だが、こらえて、逆に前向きに生きようとするスイッチが入っていた。

前向きということは否定せずに肯定しようとする姿勢であるる

なにもかも肯定する気持ちになった灯里は光生との過去まで肯定し始めたのである。

二人が暮らした思い出の街を訪ね、思い出の食事、思い出の暮らしを振りかえる光生と灯里。前向きな灯里は光生の数少ない美点を発掘するのだった。

「この間、励ましてくれてありがとう。すごく、感謝している。人付き合いが苦手なのにがんばってる光生さんはえらいなって思ってる。スーパーマンもパーマンに臆病な人間が勇気を出して頑張るのは勇敢な人よりも高評価だっていってたし・・・ミツ夫つながりで言ってるわけじゃないの、そんで、光生さんは眼鏡をはずしたら美少年ミツオくんに変身するのです」・・・狂ったように光生をほめちぎる灯里・・・もはや、光生は少女マンガのヒロインです。

生れてはじめて煽てられた光生は天国の階段を昇りはじめるのだった。結夏は口下手なのでこれができなかったのである。

あの日あの道に枯れてく

名もない花の色を思い出した

十年の時を越えて青春時代に遡行した二人である。あの日の二人でいるような「シアワセの沈黙」が待ち構えているのである。

灯里は本題に突入する。

「女って・・・どうでもいいけど・・・男が必要な時があるのよ。だって女なんだから。ミスター・グッドバーを捜しちゃうの。だって止まり木がないとくたびれちゃうでしょ。ずっと飛んでるけにはいかないの。だから、誰でも良いから抱いてほしいって思う。だまっていればきれいな顔の男なら申し分ないの・・・」

「そんなのだめだ・・・」とこの期におよんで自分が口説かれていることに気がつかない光生だった。

「だから、とりあえず寝ましょうよ」と仕方なく具体的に指示する灯里だった。

ようやく(・・・今夜もダイオウイカが見れないかもしれない)と予感する光生である。

据え膳も二度目なら少しは上手に召し上がってもらいたい。

しかし・・・その頃、諒と結夏は先行逃げ切り態勢に入っていた。

まあ、男と女なんてくっついたりはなれたり日常茶飯事なのである。

同時にスワッピングしたり乱交すれば異常な気もするが、長いスケールで考えれば人類は一家、皆兄弟なのである。

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