夜行観覧車で僕は震えている(中川大志)
唐揚げじゃないのかよ。唐揚げ、唐揚げ、植木鉢の土のついたレタスで娘を黙らせる母とかで。
だって、はじめて関係者が観覧車の乗客になったんだぜ・・・何を書くのか・・・これでしょ。
お前、観覧車好きだもんな・・・。
そうだよ。のんびりしているようで・・・あんなこわい乗り物はないだろう。あれは絶対横倒しになってもおかしくないし、途中でトイレに行きたくなってもものすごくゆっくりなんだぜ。まして、故障でもして止まったりなんかして。想像するだけでスリリングだ。エレベーターに匹敵する恐ろしい乗り物だよ。
あれだよな。ヘレン・ケラーの「奇跡の人」だったよな。
観覧車の話じゃないのかよっ。
馬のりになって「食べ物」を詰め込むからな。だけど・・・アン・サリヴァンは教えようとしたんだよな。こっちはただ黙らせたかっただけだからな。三倍恐ろしいよな。
それでも・・・「母親」より「娘」が悪いと感じる人もいるんだよなあ。
まあなあ・・・その人が「母親」ならなおさらなあ。
あの「娘の賢さ」を認めてしまうといろいろと恐ろしい感じになるもんな。
親にとって子供が自分より正しかったり、優れていることは実に恐ろしいことだからな。
人の親になった猿の気分だからなあ。
とにかく・・・今季は面白いドラマが多すぎるよな。谷間が欲しいよねえ。去年の夏が懐かしいよねえ。
で、『夜行観覧車・第7回』(TBSテレビ20130301PM10~)原作・湊かなえ、脚本・奥寺佐渡子、演出・棚澤孝義を見た。初々しく、力のこもった演出だったよね。遠藤真弓を演じる鈴木京香の狂気が見事に炸裂していたしな。突然、狂ったわけではなくて・・・ずっと一定して狂ってたわけだよね。しかし、その狂い方を感じないお茶の間もあったわけで・・・これで思い知ったんじゃないかな。いやいや・・・まだまだあそこは狂って当然だという根強い真弓は別に悪くないという信念の人はいるんじゃないのかな。だからこそ・・・子を殺す親もいるし、子に殺される親もいるんだからな。まあ、そういう場合も「やむにやまれぬことだった」とか、「例外」とかを考えたりするわけだが。
まあ、人間なんていつ誰に殺されてもおかしくないと思って生きている人は少数派だからな。
そうだよねえ。殺される人が少数派だからねえ。まだまだ、この国では。
ついに、整形外科病院開業医・高橋弘幸(田中哲司)殺害事件の容疑者として妻の淳子(石田ゆり子)が逮捕される。しかし、行方不明の次男・慎司(中川大志)はまだ逃亡を続けているのである。
取り調べに対して、犯行を自供した淳子だったが・・・凶器や動機については口を閉ざしている。
お茶の間的には「凶器」は長男・良幸(安田章大)が獲得した全国大会の優勝トロフィーであるらしいことが分かっている。
事件当日に・・・妻と娘の諍いを厭い帰宅恐怖症になってしまった遠藤啓介(宮迫博之)は自家用車の車内で高橋家の騒ぎを聞きつける。最初に慎司が外出し、次に高橋家を小島夫人(夏木マリ)が訪問し・・・その後で啓介が高橋家を訪ねるのである。自分の家の騒ぎには介入できなかったのに・・・他人の家の出来事に関わろうとする啓介が異常なのかどうかは断定しないでおく。
高橋淳子はただならぬ様子で手下げ袋に入れた血のついた凶器らしきものを「誰にも内緒で捨ててください」と啓介に託すのである。
なんで・・・そんなことを淳子が頼み、啓介が頼まれてしまうかはまだ明らかにされていないが・・・なんとなく男と女の問題と、隣の芝生は青い、一千万円の借金などが思い浮かぶわけである。
しかし、警察に追及された啓介はあっさりと「パチンコに行っていた」という嘘の供述を翻し・・・母娘の不仲という家庭の恥を晒しつつ、「証拠隠滅」をしつつある事実は隠蔽するのだった。
啓介は警察の監視の目をかいくぐり、トロフィーを土中に埋めることに成功したらしい。
「俺は何やってんだ・・・」と自嘲しつつ、「こんなことになったのは・・・妻と娘のせいだ」と呪うのだった。「俺をいたわってくれよ・・・いたわってくれたら・・・こんなことにはならないんだよ」なのである。
夫が嘘をついており、借金一千万円のうち三百万円を使い込んでいることを知った真弓は追求せざるを得ない。
しかし、夫は「ボーナスが減ったのでローンの返済にあてた」と説明する。なんとなく、遊興費にも些少は消えている気がするが・・・鈍い妻はそれで納得するしかないのである。
だが、夫は言わずにはいられない。「この街に家なんか建てなければよかった」と。
この期に及んで、高橋家の家族を案じる素振りの真弓に神奈川県警察坂留警察署の刑事で真弓の同窓生でもある結城は「他人の家のことより、自分の家のことを考えろ」と初めて事件抜きの助言をするのだった。
そのために・・・真弓は行き先も告げずに外出した娘の彩花(杉咲花)を捜しに出かける。
そして・・・浦浜中学バスケ部の志保(吉田里琴)を発見してしまう。最初は娘のことを訪ねていた真弓だったが・・・突然、慎司のことに話題を変え、さらには「万引き」の件について言葉を濁しながら問いただすのであった。
自分のやることなすことがすべて娘を苦境に追いやっているとは全く想像できないのだから仕方ないのである。
やはり・・・真弓は人としての大切な何かが欠けているのだろう。
だが、それは普通のことなのかもしれない。
完璧な人間なんていないという前提で。
たちまち・・・志保たちに呼び出される彩花だった。
「万引きのこと・・・密告したの・・・」
「してないよ・・・」
「そうかなあ・・・なんか、あんたの母親が私たちが悪い事してる的な感じで問い詰めてきたけど・・・」
「・・・」
「あんたの母親ってさ・・・小学校の時からうちの娘は私立に行くんですよ的な。意味もなく上から目線のオーラ発してくるよね。あんたもわたしたちのことバカにしてたんでしょ。すっごくむかついたよ」
「そんなことないよ・・・」
「ひばりヶ丘に棲んでいるのがそんなに偉いわけ・・・」
彩花は眩暈を感じた。
そして、床に倒れ込みポップコーンを散乱させた。
「あ・・・なんてことするんだよ」
「ポップコーンが」
「食べられないじゃん」
「あやまってよ」
「ごめんなさい」
カラオケ店の前を通りかかった七瀬(今週、シェアハウスの恋人で出番のなかった木南晴夏)は悲痛な叫びを聞いた。
≪ひばりヶ丘なんか嫌いだ・ひばりヶ丘なんか嫌いだよ・ひばりヶ丘なんて消えてしまえばいい・・・でもあの人に何を言っても無駄・・・私よりひばりヶ丘が大切だから・・・ひばりヶ丘に住んでいることが生きがいだから・・・私よりもお向かいの家の人たちを愛しているのだから・・・消えたい・・・消えてしまいたい・・・私なんかいる意味がない≫
七瀬はあわてて心の掛金をおろした。
自殺したい中学生にいちいち関わっていてはキリがないからである。
事件当夜、友人宅に外泊していた高橋家の長女(宮﨑香蓮)と、京都にいた長男・良幸(安田章大)に家庭内の問題について事情聴取が行われる。
「弟の成績が悪いことが・・・私のせいにならないように・・・外泊していたのです」
「弟は中学の授業についていけずに悩んでいたようでした」
兄と姉は・・・父親の殺害に・・・弟がなんらかの関与をしているのではないかと思わずにはいられないのだった。
結城刑事は記念写真と事件現場の比較から・・・トロフィーが消えていることに気付き、淳子を追及する。
「このトロフィーは・・・どうしたんですか」
「殺したのは私です・・・しかし・・・何も覚えていないのです」
曖昧な供述を繰り返す淳子だった。
ひばりヶ丘に執着する真弓と同じようにひばりヶ丘に執着する小島夫人は・・・事件を境に急速に孤立を深めていた。婦人部の仲間にも距離をおかれ・・・焦燥した小島夫人は帰国中の息子・マーくんこと雅臣(小泉孝太郎)の職場を急襲する。しかし・・・雅臣はすでに母親の異常さに辟易していたのだった。
息子に言われたくない言葉ベスト3
①一緒にいると息が詰まる
②嫁の家の二世帯住宅に住むことにする
③もうウンザリなんだよ
小島夫人は自分にはひばりヶ丘しかないことを悟るのだった。
何者かが高橋家の窓ガラスを割った。
あわてて飛びだした真弓は彩花がそれをしたと決めつける。
彩花は我慢して冷凍食品の唐揚げで夕食を真弓ととっていた。
「明日・・・病院に行きましょう・・・具合が悪いんでしょう」
「普通に・・・食べているだろう・・・あんたの都合で手抜きの唐揚げをさ・・・」
「高橋さんちに石を投げるなんて最低よ」
「やってないよ・・・」
「慎司くんたちのことを考えてあげなさいよ」
「なんで・・・いちいち他の家の子供と私を比較すんだよ」
「そんな・・・比較なんてしてないわ」
「みんなあんたが悪いんだよ」
「私が何をしたっていうの」
「今日だってあんたが余計なことをして私がどんな目にあったと思ってんの」
「何のこと」
「ひばりヶ丘に家なんか建てるからバカにされてるってわかんないの」
「なんで・・・私は三人で穏やかに暮らしたかっただけなのに」
「自分の勝手な夢に私を巻き込むなよ・・・私はひばりヶ丘なんて大嫌いなんだよ」
ついに自分を抑えることができなくなった彩花は暴れて室内をメチャクチャにするのだった。
娘に言われたくない言葉ベスト3
①ばばあ
②クソババア
③死ねばいいのに
ついに窓ガラスを割った彩花。
その時、通りすがりの七瀬は母親の絶叫を聞いた。
≪私のひばりヶ丘の家の窓・私のひばりヶ丘の家の窓の窓ガラス・私のひばりヶ丘の家の窓の窓ガラスが大変なことに・やめて・やめて・私のひばりヶ丘の家を壊すのはやめて・私のひばりヶ丘の家の中で大声を出さないで・静かにして・黙って・黙れ・黙れ・黙って・だまれだまれだまれだまれだまれ≫
七瀬は耳をふさいだ。
自分の家の前で啓介は立ちすくんでいた。そこへ小島夫人がやってくる。
「どうして止めないの・・・家に帰れなくなるわよ」
「帰れませんよ・・・こんな夫や父親をいたわってくれない家なんかに・・・帰れるわけないじゃないですか」
七瀬は足早に通り過ぎた。崩壊しそうな家庭にいちいち付き合ってはいられないからだ。
真弓は娘の口に何かを押し込んでいた。
娘は母親の殺意を感じ取った。
≪お腹を痛めて・・・母乳・・・ミルク・・・離乳食・・・ひばりヶ丘の素敵なお家・・・唐揚げ・・・サラダも食べないとだめよ≫
七瀬は狂気の匂い立つ思考の断片に付きまとわれていた。
やがて・・・別の意識が割り込んできた。
≪寒い・・・寒い・・・寒い・・・どうして僕を誰もみつけてくれないんだ・・・≫
坂の下にそびえる色鮮やかな夜行観覧車からは憐れな少年の声が放射している。
七瀬はコートの衿をたてて逃げるように坂を下りて行く。
事件開始から五日が過ぎ去っていた。
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