恋の奴隷が生きる場所なんてどこにもなかったんだ(尾野真千子)
本当に欲しいものは手に入らないものなのだ。
なにしろ、手に入ったら欲しくなくなってしまうから。
人間て本当に面倒くさいものだなあ。
14世紀のイタリアの詩人・フランチェスコ・ペトラルカは歌う。
「愛は魂の牢獄
しかし、扉に鍵はない
虜になって縄に縛られて
市場に立てども買い手はつかず
殺されもせず生かされもせず
何も持たずに世界を抱いている
死のうともせず生きようともしない
魂は愛の奴隷」
愛ほど厄介なものはない。
それなのに人間は愛をあきらめきれないものだ。
愛を求めて彷徨う人々は愚かしくもあり、そして、愛おしくもある。
愛を求められ、愛を与える幸せな人々の夜は更けて行く。
で、『最高の離婚・第10回』(フジテレビ20130314PM10~)脚本・坂元裕二、演出・加藤裕将を見た。前の男の子供を妊娠していると告げられた濱崎さん(瑛太)だった。紺野さん(真木よう子)は躊躇せずに未婚の母を決意するのだった。濱崎さんは「愛しているから君の子供の父親になりたい」などという心にもないことを言える器用さは持っていないからである。もちろん、濱崎さんだって、そのまま、なし崩し的に紺野さんと結婚して子供が生まれれば飼っている猫のように他人の子供が可愛くなるに決まっているのだが、紺野さんはそれが双方の心の負担になるのではないかと計算するのである。特に濱崎さんに心の負い目を持つことが我慢ならないのだった。だから、濱崎さんとの恋は終ったのである。
血縁ということについてのこだわりにも個人的な差違がある。
両親に育てられた子供は・・・漠然とした親との同一化、母親から生じたという母親への依存に至り、父親よりも母親に同族意識を感じるのが普通である。母親になれる女性と、母親になれない男性の認識の差異はここで生じる場合がある。やがて、性についての知識を得ることにより、父親とも血縁であったという再発見があり、母親と父親の間に生まれた血縁という認識に至る。
知能の発達段階によって、これらは男女それぞれの愛についての固定観念を形成するのである。
それでも・・・女性は「子供は自分のもの」という実感が強く、男性は「子供なんて誰の子かわからない」という懐疑心が強い・・・というのがこのドラマの世界観・・・つまり、脚本家の主観に色濃いように思われる。
もちろん・・・孤児であり、そもそも両親の味なんていうこととは無縁で育ったものにはどうでもいいことなのである。
とにかく・・・濱崎さんには「他人の子の父親になる」という未来は難しすぎるのだった。
思わず・・・離婚して「妻を紺野さんほど愛していなかった」という惨い扱いをした星野さん(尾野真千子)に電話しちゃうほどなのである。
「あのさ、紺野さん、上原さん(綾野剛)の子供を妊娠しちゃったみたいなんだ」
「あなたが紺野さんの子供の父親になってあげればいいじゃない」
「そんなことできない。だって僕は君に子供が欲しいって言われた時にいらないっていったのに・・・紺野さんの子供ならいいなんて・・・そんな君に対してひどいことできない」
「い、意味がわかりません」
濱崎さんの気持ちはなかなか理解されにくいらしい。
もちろん、濱崎さんの恋の奴隷になりたかったのに捨てられてしまった星野さんにだって女の意地はあるのである。むしろ、意地しかないのである。
星野さんは母子家庭の女友達(入山法子)の部屋にベビーシッターとして転がり込んでいた。他人の子供の面倒を見るのは嫌ではないが・・・心からは楽しめない。濱崎さんから愛されている上で上原さんの子供を妊娠している紺野さんがうらやましくてうらやましくて今夜も泣きたい気分なのである。
まだまだメイド喫茶のウエイトレスぐらいはこなせると考える星野さんの主観と世間の客観はまったく折り合わない。そこへ、温泉人妻アダルトものの女優にならないかと勧誘するスカウトマンの都並さん(佐藤祐基)が現れるのだった。
一千万円でどうかと言われて女心は揺れるが人間として「そこまで堕ちたくない」と考える星野さん。
しかし、いかにも夜の世界で生きる女友達は「私ならやっちゃうなあ」と星野さんの考えの甘さに釘を刺すのだった。
さらに、星野さんと濱崎さんをつなぐ命綱の濱崎さんの祖母・亜以子さん(八千草薫)が河口湖に転居すると知った星野さんは目の前が真っ暗闇になるのだった。
あなたと逢った その日から
恋の奴隷に なりました
だからいつも そばにおいてね
邪魔しないから
あなた好みの あなた好みの
女になりたい
たったそれだけの望みも敵わないのか・・・とうつむく星野さんである。
まあ、妥協して・・・それほど愛してくれない夫を愛せばいいんですが・・・それだけはできないドラマの世界なのです。
星野さんが性欲処理産業の坂道を転げ落ちて行くのも知らず、人として悩む濱崎さん。
濱崎さんは・・・上原さんに紺野さんの懐妊を知らせようとするのだが・・・すでに女の園に咲く花となっている上原さんに嫉妬やら警戒心が生じてただでさえ、上手く言えない言葉がつかえまくるのだった。
上原さんは上原さんで・・・濱崎さんと紺野さんの交際が順調だと思い、マラカスで攻撃するのだった。
タンバリンで応じる濱崎さん。
材質にもよりますが、筆者の経験からマラカスの方が殺傷力が上と思われます。
ただし、タンバリンでも殺ろうと思えば殺れます。
背後から接近して押し倒しシャンシャンシャン・・・以下、自主規制。
濱崎さんにもわかっているのです。自分が紺野さんを忘れることができなかったように、上原さんも高校時代の初恋の人が忘れられないだけだったと・・・同じなんだと。だから、間違いに気がついてやりなおしたいと云うのなら助けてやりたいと・・・。
しかし・・・どうしても紺野さんが別の男と幸せになるのが嫌だし、そもそも女に不自由しない上原さんが紺野さんを幸せにできるか疑問なのである。
だが、一度、考え始めると止まらない濱崎さん。上原さんの愛人の一人、有村千尋さん(小野ゆり子)さんから彼が三階の教室の窓から酔って落ちたと聞き・・・ついに決断する。
「死んじゃったらどうするんです」
「・・・」
「紺野さん・・・あなたの子供を妊娠しています・・・」
「・・・ありがとう、濱崎さん、ありがとう」
こうして、上原さんは紺野さんにあの素晴らしい愛をもう一度を歌うのだった。
「君の子供に逢いたい。きみの子供の父親になりたい。そして・・・二人で老いていきたいんだ」
「・・・面倒くさい男」と思いつつ、ついに折れる紺野さんだった。
再出発をするという二人を祝うために星野さんを呼び出し食事会を企画する濱崎さん。
一人で先にやってきた紺野さんは「私はあの人を愛していないけど・・・うまくやっていけるから」と仮面夫婦宣言をするのだった。
「本心なのか・・・それともボクを慰めるために・・・」などとは思わない濱崎さん。
愛している女の意外な冷たさを見ると同時に・・・二人が丸く収まってホッとするのだった。
そして、濱崎さんの孤独な夜がやってくる。やっと星野さんとつながる電波。
「どうしてるかな・・・と思って・・・」
「私、女優になるんだ」
「そりゃ・・・無理だろう」
「なれるって言う人がいるんだもん」
「それ・・・騙されてるよ・・・」
「もう・・・いい」
愛している男にかわいい女と言ってもらいたいだけの星野さんは癇癪をおこすのだった。
眠れない夜に突入する濱崎さん。そこにはいない星野さんに話しかける。
「オレは君に相談したいことがある・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・オレは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・盆栽を片付けようと思う・・・君がベランダでお茶を飲みたいって言ってたから」
いつまでもいると思うな祖母。いつまでもあると思うな色鉛筆。大切なものから消えて行くという「亜以子の言葉」が心に重くのしかかる濱崎さんだった。
星野さんに「ごめん」と言いたい。星野さんに会いたい。
しかし、一般人とは違う時間の流れを生きる知的障害者の濱崎さんの前にはでんぱ組.incが立ちはだかるのだった。
いじめられ 部屋にひきこもっていた
夢破れ やぶれかぶれになってた
ラジオだけが 友達だった
生きる場所なんて どこにもなかったんだ
でん!でん!でん!でん!でん!でん!でん!でん!
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
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コメント
キッドさん☆こんばんは(*^o^*)
このドラマ 個人的には結夏の思いに感情移入して見ているので居酒屋で長々と光生をくどく灯里を見ているとイライラして 早くこのシーン終わらないかと感じ 誘惑に負けなかったのは 結夏に多少は遠慮したんだと思いたくなってしまいます(^^)
もしも 子供ができなかったら…二人は恋人になってしまっていたのかと思うと悔しい(笑)
脚本家さんは灯里みたいな女性が好みなんでしょうか?男性はみんな そうなのかな?
結夏のキャラがキス魔だったり女優の誘惑に負けそうになったり…なんだかなーって思っちゃいます
カラオケ店での喧嘩 光生の独白 楽しくってあっという間の一時間でした
投稿: chiru | 2013年3月15日 (金) 22時09分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃ いませ・・・大ファン
ふふふ・・・人妻の皆さまは基本的に
結夏の味方でございますよね。
なんと申しましても登場人物中
唯一の人妻でございましたから。
そして、結夏は「かわいい女」・・・。
「グラマーで豪華な美女」の灯里には
なかなか思い入れしがたいかのかと存じます。
子供と言う一方にとっては鎹。
一方にとっては障害がなければ
光生と灯里はゴールイン間違いなしでしょう。
美男と美女のお似合いの夫婦ですな。
性格はどちらにも問題ありますが
経験を積んだ灯里は光生の美点を
再発見しているのでいい夫婦になったことでしょう。
しかし、そうは問屋がおろさないのですな。
つまり、脚本家としては
お茶の間に迎合するわけでございます。
人の好みは十人十色なので
「かわいい女」が好きな人もいれば
「グラマーでゴージャスな美女」が好きな人もいると
推察いたします。
一瞬だった結夏と諒のカップルは
「mother」の不良夫婦
「カーネーション」の不倫カップルと
おなじみの名作カップルなので
歴史にまた1ページを刻んだ感じです。
光生は一家全員も認める結婚生活に向かない
発達障害者。
それを抱擁するためには
結夏のようにひたすら愛を求める純情可憐な女が
必要なわけです。
しかし、結夏はまだ・・・光生の本質が
わからないのですねえ。
ちょっと冷たい男ぐらいに思っている。
そして、そういう男にぞっこんなわけです。
まあ、愛なんて基本的に錯覚ですからね。
とにかく毎週、最高の「最高の離婚」・・・。
最終回も最高に違いないと考えます。
投稿: キッド | 2013年3月16日 (土) 04時45分