書店員ミチルの犯罪者の烙印と長距離バスの旅(戸田恵梨香)
「私の妻ミチルは・・・」(大森南朋)が聞けるのも今回を入れて二回か・・・春が来るのだなあ。
現実の世界でもいたるところで人は死んでいく。
なにもフィクションで人を殺さなくてもいいのではないか・・・という考え方もある。
しかし、豪雪で死ぬ人も中国の反日映画で死ぬ人も命に代わりはないのである。
人間はないものねだりの生き物であるから・・・時々、なくなったことにしないと命の大切さがわからないのである。
だから・・・嘘っぽい殺人よりも・・・リアルな殺人の方が好ましい。
「遊ぶ金目当てで殺す」よりは「気が付いたら殺していた」方が味わいがある。
だが、罪深い人に殺されても、罪を罪とも思わない人に殺されても、大自然の猛威に殺されても、ちょっとした事故で殺されても・・・死んだ人はもういないのである。
ただ、それだけのことなのである。
そして、人々は順番を待ちながら今日も生きるのだ。
どうか、誰もが最終回にたどり着きますようにと祈らずにはいられない。
で、『書店員ミチルの身の上話・第9回』(NHK総合201303052255~)原作・佐藤正午、脚本・演出・合津直枝を見た。ミチル(戸田恵梨香)は偶然買った宝くじで2億円が当たり、高倉恵利香(寺島咲)が上林久太郎(柄本佑)をフライパンで殺害して、豊増一樹(新井浩文)は消息不明、そして恵利香は自殺。次々に人を消していく幼馴染の竹井(高良健吾)がおそろしくなったミチルは彼をフライパンで殴打して夜の街へと飛び出すのだった。
「逃げなくちゃ逃げなくちゃとにかく逃げなくちゃ・・・竹井から逃げなくちゃ、竹井は死んだかしら、死んだとしたら人殺しだから逃げなくちゃ、竹井は人殺しかしら、誰を殺したのかしら、久太郎を殺した恵利香さんを殺したのかしら、手切れ金の500万円を渡した一樹さんも殺したのかしら。死体は埋めずに捨てたのかしら。逃げなくちゃ。死体の群れから逃げなくちゃ。なぜなら、私は二億円を持っている女なのだから。みんなにお金を狙われているのだから逃げなくちゃ・・・古川・・・誰、私を呼ぶのは誰?・・・初山(安藤サクラ)だ。初山が来てくれた。初山が長崎から来てくれた。私は初山に抱きつき、とりあえずカラオケ店に落ち着いたのです。・・・あれから・・・二か月もたったと初山は言います。痩せたねと初山は言います。おだやかな声。本当に本当に初山は私の親友だったのです。しかし、そんな初山に私は嘘をつかなければなりません。なにしろ私は二億円が当たった女。私の女友達が私の婚約者を殺した時に死体遺棄に同意した女。不倫相手が行方不明になったり、女友達が自殺したり、幼馴染に怯えて殺すつもりでフライパンを振りあげた女なのです。罪が重なりすぎてなにもかも正直に言える立場ではないのです。初山の傘を宝くじ売り場に忘れたとしても自分の分は買わなかったと言う他ないのです。久太郎がどこにいったのかは知らないと言う他ないのです。それが今、私のできる精一杯なのです。私は仕方なく罪を告白したのです。香水の匂いのする消しゴムを文房具屋で万引きしたことを・・・そのために母親が私のために天にまします主に祈りを捧げたことを。そして・・・風の向くままで気の向くままのなかった私が・・・なんとか自分で歩こうとしたけれど・・・何もかもうまくいかないことを涙ながらに懺悔したのです。初山は黙って私の話を聞いてくれました。できれば何もかも話してしまいたかったけれどそれは無理な相談です。こればかりは初山を頼るわけにはいかないのです。初山を巻きこむわけにはいかないのです。もしも・・・竹井が死んでいたら私は人殺しだし、竹井が死んでいなかったら・・・秘密を知ったものはすべて殺されてしまうからです。初山は一緒に帰ろうと誘ってくれましたが・・・私は首を横にふりました。お金はあるのかと初山は聞きました。私は首を縦に振りました。あります。二億円あるのです。困ったことがあったら連絡しな・・・と言う初山。ありがとう。初山。ありがとう、初山。ありがとう・・・。私は一人で踏切に行きました。恵利香さんが亡くなったという踏切です。私に優しくしてくれただけなのに・・・思わず人を殺し、死体を捨てて、罪の意識に苛まれ、死んでしまった恵利香さん。ごめんなさい、恵利香さん。ごめんなさい。恵利香さん、ごめんなさい・・・私は当てもなく新宿のバスターミナルにたどり着きました。そこで長崎からやってきたタテブー(濱田マリ)に遭遇したのです。リアル・鬼婆です。おそろしい、タテブーは恐ろしい。女の勘が冴えわたり、中年女の欲望・妄想・願望丸出しで私の罪を暴く恐れがあります。ひっと叫んでしまいそうです。私は逃げるように出発間際の京都行きのバスに乗り込む他はないのでした。逃げなくちゃ、とにかくタテブーから逃げなくちゃ。バスに揺られて私は二か月前に長崎から旅立った日を思い出します。わくわくと希望に燃えて、ウキウキと浮かれて・・・なんて幸せだったことでしょう。なんて世間知らずだったでしょう。親に言われるまま、地元の学校に進学し、親に言われるまま、地元の書店に就職し、地元の時計屋の息子と結婚する・・・それがただなんだかいやだったという理由で・・・なにもかもを失った私です。そして、リアル・逃亡中です。リアル・犯罪者です。リアル・世間の裏街道なのです。そして夢に逃げてもそこにはただ死体が放置してあるだけなのです。死体が仲良く並んでいるばかりなのです。ふと目が覚めるといかにも妖しい大浦さん(石橋蓮司)が立っていました。休憩エリアで眠っていた私のために大浦さんの奥さんが私に肉まんを買ってくれたのです。見ず知らずの老夫婦の親切に私の心では警戒警報が鳴り響きます。しかし、あまり用心深いのも不味いのです。なにしろ、怪しいといえば私もそうなのです。不吉な心のBGMを聞きながら勧められるままに肉まんを食べた私でした。気がつけば私はずっと何もたべていなかったのです。よかったら京都で一緒に観光しないかと申し出る大浦夫妻。しかも費用まで持ってくれると言うのです。私は詐欺、霊感商法、真理で原理で新興宗教、くいこむばかりのばばあのふんどし的な「だまされたらあかんで」疑心暗鬼の虜になりました。しかし・・・どうせ、流される私です。この老夫婦にとって殺されるのも運命なのかもしれません。いつしか、私は大浦さんと行動を共にしていたのです。大浦さんは上等な旅館に宿泊し、上等な夕食で私をもてなしてくれました。壺もお札も売りつけるそぶりはありません。しかし、ひょっとしたら夜になったら私のお金とか身体とかを狙ってやってくるのかもしれません。結局、私は何がどうあっても心が休まることのない女なのです。しかし、何事もなく一日は過ぎて行きました。薬師如来やら日光菩薩やら月光菩薩やら長谷川等伯やら、なにやらありがたいものをたくさん拝むことになりました。もちろん、どんな国宝も私の心をいやすわけではありません。大浦夫婦の正体が気になってしかたないからです。そんな私の気持ちが伝わったのでしょう。・・・娘を交通事故でなくしたのです・・・多額の保険金がおりたのです・・・どうして、そんなお金がつかえるでしょうか・・・娘と一緒に行くはずだった京都旅行になんとはなしに出てみたのです・・・と語る大浦さん・・・私は娘さんのかわりですか・・・それは本当ですかとは私には聞けません。大浦さんの悲しみをどうして踏みにじることができるでしょう。踏切に添えられた花のように振る舞うしかないのです。考えてみれば恵利香さんのご両親はひょっとしたら大浦さんのような苦しみを抱いているかもしれない。久太郎の両親だって・・・心配しないはずはない・・・ひょっとしたら私の家族だって・・・。私は里心がついてしまったようです。帰りたい。帰りたい。私の家に帰りたい。そしてぐっすり眠りたい。私は長崎にやってきました。家を見下ろす道路まで帰りついたのです。そこでは父(平田満)が私のために自転車を修理していました。ただいまと言いたかったけれど、言えませんでした。・・・私は罪を犯した女なのです。もう・・・お父さんの手にあまる娘なのです。私は来た道を引き返しました。そこで妹の千秋(波瑠)に見つかってしまったのです。妹は私の持っていた写真を見て・・・それが妹の写真だと指摘しました。私はどこまでバカだったのでしょうか。そして・・・父親が私が帰れなくなったのは自分のせいだとくやんでいるというのです。ああ、ごめんなさい、お父さん。ミチルは本当に悪い子でした。でも・・・もう帰れないのです。悪い子だから帰れません。私は妹に・・・来たことは内緒にしてくれと頼むしかありませんでした。そこへ・・・初山から着信がありました。今度はタテブーが東京に行ったまま帰ってこないと云うのです。私は確信しました。竹井。竹井だ。竹井がまたやっちまったんだ。タテブーも殺されて捨てられちまったんだ。私はあわてて故郷から立ち去らねばなりませんでした。私が近寄れば・・・父も妹も竹井に殺されてしまうかもしれないからです。逃げなくちゃ・・・でもどこへ・・・どこへ行けばいいのだろう。私は疲れ果ててしまいました。この世界に自分の居場所がどこにもないのです。二億円持ってるのに・・・もう、何をするのも億劫な気持になったのです。そして・・・野ざらしのベンチに力なく腰かけた背中のまがった私に・・・あの人が声をかけてきたのです・・・お譲さん、どうしましたか・・・と」
序・タテブーの上京
破・竹井の復活
急・タテブーの背後に竹井
絶叫の序破急です。
ついでに・・・ミチルと千秋は同母妹だったのか。
関連するキッドのブログ→第8話のレビュー
| 固定リンク
コメント
キッドさん、ご無沙汰しております
なかなかコメントできませんが、日参させていただいています
薩摩、土佐からの観点が分かる、「篤姫」「龍馬伝」へのリンクがありがたい日曜日
ただただキッドさんの博識に敬服する月曜日
戸田さんも高良さんも凄い、と震える火曜日
ある意味「はらちゃん」より不思議世界な水曜日
リアルに光生以上にめんどくさい人が身近にいるんだよなー、な木曜日
リアルに小島夫人以上にめんどくさい人が身近に・・・な金曜日
無性にかまぼこが作ってみたくなる土曜日
と、一週間、キッドさんに楽しませていただいていますわ。
ありがとうございます。
この中では「ミチル」と「はらちゃん」が私の一押しですね。
両方、まったく雰囲気は違いますが、
登場人物たちのハッピーエンドを願わずにいられません
河野P×岡田さんでは、「銭ゲバ」も好きでした。
こちらも港町でのお話でしたね。
春一番も吹きましたね。
それぞれに面白い冬ドラマでしたが、
(レビューはないけど「カラマーゾフ」「まほろ」も好きです)
春ドラマも面白いと良いですよね。
キッドさんもお忙しいとは思いますが、
レビュー、楽しみにしております
投稿: mi-nuts | 2013年3月 7日 (木) 12時15分
ご愛読ありがとうございます。
とても励みになりまする。
「篤姫」「龍馬伝」に続きこのブログ開始以来、
三度目の幕末。
重層的な歴史ですので
視点が変わるだけでまったく別のドラマに
なるところが醍醐味ですよねえ。
「組」ファンだといつのまにか
芹沢さん死んじゃた~などと
絶叫が聞こえてきたりしますな。
月曜日はなんだかんだでなつかしいのでございますよ。
「ミチル」は「ハリーポッター」クラスの
面白さでございます。
水曜日できれば谷間にして
「まほろ」とか「コドモ警視」とか「カラマーゾフ」とか「終電バイバイ」とか「ミエリーノ」とかも
レビューしたかったのですが
なんか捨てがたいドラマです。
木曜日は「最高」ですし
金曜日は「爆笑」ですし
土曜日は「万歳」です。
楽しんでいただいて幸いです。
「ミチル」の完成度の高さというか
よどみない展開には毎回、舌を巻いてます。
キッドにとっては最高のエンターティメントです。
「はらちゃん」はしてやられた感がありますな。
「銭ゲバ」は原作ありですが
オリジナルでこれほど圧倒されたのは
久しぶりだな~という感じです。
クドカンなみのオリジナリティーを感じました。
まあ、主人公のキャラは些少かぶってますけれど。
そして、どちらも演劇的だと考えますけれど。
「相棒」を除けば視聴率的には
どれも10%前後で・・・「シェフ」とか「おトメ」とか
「あぽ」とか「ラスホ」とか「らくだ」とか「かそ」とか「とんび」とか「D」とかどれもこれもそれなりにがんばっているのが微笑ましいですな~。
とてもBSドラマまで手がでません。
「金田一」とか「チープ」とかスペシャルドラマも
スルーするしかないのが残念です。
冬ドラマが終わる頃、
お墓の掃除をして一息つきたいなあと
考える今日この頃です。
季節の変わり目ですのでご自愛下さりませ。
投稿: キッド | 2013年3月 7日 (木) 14時59分
相変わらずのキッドさんですが、
ホント凄いですわぁ(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
ミチルの心がそのまま、
最後まで一気に読ませてしまう…
キッドさんのタッチを想像しながら
萌え~(人´∀`)ヾ(゚∇゚*)ナンデヤネン
いやぁ、私の読解力不足が見事に埋まってスッキリ♪
最終回になると…
もう読めなくなるのが寂しいです(笑)
順番を待ちながら今日も生きます!
では≡≡≡ヘ(*゚∇゚)ノ
投稿: mana | 2013年3月 8日 (金) 10時15分
萌えていただき恐悦至極でございます。
のだめの千秋先輩になりきるときは
時々、学芸会で指揮に失敗した苦い思い出が
蘇るのですが
ミチルの場合は
お前、男だろう、というツッコミが
連打されます。
その指摘に負けないために
無呼吸になりキーボードを叩いて
窒息寸前になったり
過呼吸になって
救急車を呼ばれそうになる火曜深夜(水曜早朝)で
ございます。
もう、週に一回
ミチルになれないなんて・・・
欲求不満で
女装して逮捕されたらどうしよう・・・
などとあらぬ妄想にかられます・・・。
最終回は何がどうなるのか・・・


まったく読めません・・・
クリスタルのフライパンを入手したミチルが
竹井を魔界に封印して
世界に平和が戻る可能性だけは
あまりないと考えますが~
投稿: キッド | 2013年3月 8日 (金) 14時42分