ともだちはみんなあちこちのとおりでいなくなってしまったの(剛力彩芽)
「チェブラーシュカとなかまたち/ウスペンスキー」は1974年に日本で翻訳刊行された絵本である。
原典はソ連時代の1966年に児童文学家エドゥアルド・ウスペンスキーによる「ワニのゲーナ」シリーズである。
日本では大橋のぞみがチェブラーシカ役の声優を担当したアニメ「チェブラーシカ あれれ?」(2009年テレビ東京)や、劇場用人形アニメ「チェブラーシカ」(2010)年で、「ワニのゲーナ」の友人であり、熊と猿のハーフのような正体不明のキャラクター・チェブラーシカ(すってんころりんちゃん)が広く知られるようになったと思われる。
1966年のソ連はレオニード・イリイチ・ブレジネフ書記長の時代である。体制批判に対する言論活動への弾圧は激しく、多くの作家が収容所送りになっている。発禁となった書籍を読みたいものは手製で複製し隠密に流通させなければならない・・・サミズダート(地下出版)の時代でもあった。
この年には「裁判は始った」のアンドレイ・シニャーフスキーと「贖罪」のユーリー・ダニエルという二人の作家が「反ソビエト活動」の罪状で投獄されている。
そういう状況を背景にミッキー・マウスのようなかわいいキャラクター・チェブラーシュカが登場する「ワニのゲーナ」シリーズは刊行されたのである。
そして・・・「かわいさ」を隠れ蓑に結構、際どいセリフを連打するのだった。
タイトルはいつの間にか孤独になってしまったキリンのセリフである。
1991年のソ連崩壊後にウスペンスキーは「社会主義体制は、人と人を切り離してしまうシステムだった。しかし、どんな環境でも心を持たない子供に育てるべきではない。小さな子供を持つ親にはそれを知っていてもらいたかった」とインタビューに応えている。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第9回』(フジテレビ20130311PM9~)原作・三上延、脚本・早船歌江子、演出・長瀬国博を見た。第三話に続いて、鉄のカーテンの向こうから届いた本の話である。どちらにしろ、言論を弾圧するような国家はいずれ滅びるという話なのである。有害図書などという愚かな言動を展開する人々は胆に命ずるべきなのである。また、どんな体制下でもやる人はやるという教訓も含んでいる。
そして、やがて悪魔の帝国は滅びるべくして滅びるのである。どうか、中華人民帝国も同じ道を進みますように。・・・日本原子力帝国もな。
月9なので、ヒロインであるビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)の意中の人、本が読めない障害を持つアルバイト店員・五浦大輔(AKIRA)の昔の恋人・高坂晶穂(矢田亜希子)が登場する。カメラマンをやっている晶穂は、野上司(望月章男)という気鋭のカメラマンと一緒に写真集専門の古書店で写真展を開いているのだった。大輔と晶穂は高校時代の恋人だったが自然消滅したらしい。微妙な空気が漂う栞子と大輔だったが、晶穂は自由奔放な性格らしく・・・栞子が本に詳しいと知ると・・・「タヌキが登場する絵本」を捜してもらいたいと依頼するのである。実はその本は「チェブラーシュカとなかまたち」(新読書社)なのであるが・・・幼い時に大好きだった絵本について晶穂は断片的な記憶しか持っていないのである。
・・・タヌキのような動物が出てくる。
・・・たくさん動物が出てくる。
・・・舞台は外国だったような気がする。
・・・作者はカタカナの人。
・・・ワニも出てくる。
・・・みんなでなかよしの家を作る。
ヒントは多いが・・・栞子にも正解がわからない。
一方で、晶穂は私生活で問題を抱えているようだと栞子は推察する。
やがて・・・晶穂は母親の未亡人(かとうかず子)と折り合いが悪いことを明らかにする。
今季は「夜行観覧車」という母親と娘の折り合い悪いドラマの金字塔があるわけだが、このドラマも栞子と消息不明の母親・千恵子(安田成美)の葛藤がベースにあり、さらにこのエピソードである。母娘関係の危機がブームなのかっ。
実は晶穂は母親から呼び出されたのだが、本の調査を口実に栞子たちに実家への同行を求めるのだった。
判で押したように反発しあいギスギスする晶穂と母親。
優しい母親(松坂慶子)しか知らない大輔は晶穂に同情してしまうのだった。
しかし、高坂家の書籍を見た栞子は晶穂の母親の隠された一面を発見してしまうのだった。
「なんだか・・・晶穂がかわいそうになってきたよ・・・晶穂が子供の時になかよしの家って命名した犬小屋のことをともだちの家とか適当に言っちゃうし・・・」
「ともだちの家・・・って言ったのですか」
栞子の目がキラリと光るのだった。
今回、実は栞子は「チェブラーシェカとなかまたち」を未読であった。しかし、ドラマオリジナルのキャラクターであり、常連客の女子高校生・小菅奈緒(水野絵梨奈)と無理矢理、恋愛モードに突入している弟の文也(ジェシー)から映像化された「チェブラーシカ」について話を聞かされていたのだった。エピソードなどに記憶があったのはそのためであり、映像作品では「ともだちの家」だったものが絵本では「なかよしの家」だったとピンと来たのである。
当然、未読でも書籍としての「チェブラーシュカとなかまたち」の知識を栞子は保有しているのである。
「でも・・・チェブラーシカはタヌキじゃないよ」
「原作ではかなり、タヌキっぽいのです」
「なるほど・・・大橋のぞみちゃんが・・・買い物に来たのにお財布忘れちゃったって言うセリフがお気に入りで・・・アレ?・・・アレレレ?って言うアレか・・・」
「一部愛好家ですかっ」
「僕は正体不明なんで動物園にも入れないの・・・で胸きゅんだしね」
「・・・」
「僕が君の荷物を持つから君が僕を持ってよ・・・とかなかなかに不思議の国のアリス的なおしゃれなセリフもあるしねえ」
「ちゃっかりさんですかっ」
「友達になるワニのゲーナは兵隊として召集されたりするんだ」
「のらくろですかっ」
「チェブラーシェカは電話ボックスに住んでるんだ」
「ソビエト連邦の敵、アメリカン・ヒーロー、ああ憧れのスーパーマンですかっ」
「きりがないので・・・この辺で・・・」
冷たい母親に見えた晶穂の母親はただ厳しいだけで・・・独立心旺盛の娘を野放しにしていただけだったのである。
晶穂が妊娠し、未婚のまま、出産するかどうか悩んでいることまでお見通しだったのである。
「実は・・・娘を影から見守っていた・・・三丁目の夕日の茶川の父親パターンだ」
「今季、かぶりますね・・・とんびとか」
「まあ…ヤクザな創作家はみんな・・・そうだったらいいなと思っているんだわね~」
捜していた本を晶穂に手渡した栞子は・・・「本当は娘のことが心配で心配で仕方のない母親からのメッセージ」も伝えるのだった。
母と娘は和解し・・・娘は母になることを決意するのである。
絵本はそのために必要だったのだ。
幼いあの日・・・誰が絵本を読んでくれたのか。
人はすっかり忘れてしまったりするものだから。
「結局・・・親の心、子知らずですか・・・」
「それが・・・物語というものですから・・・」
「それで・・・原作はどういう話なんですか」
「一人一人はみんな孤独な存在なんです。でも召集されて軍隊に入って、同じ敵と戦うことによって・・・いつしか、心は一つになって・・・気がつけば戦友になっていたという・・・」
「せ、戦死者は帰らないじゃないですか・・・ウソですよね」
「ウソです」
「キリンはどうして仲間を失うんですか」
「視野が広すぎて・・・足元をすくわれるっていうか・・・秘密警察に」
「収容所群島ですかっ」
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