ああ、あなたはわかってくださるかもしれません(剛力彩芽)
「押絵と旅する男/江戸川乱歩」(1929年)は雑誌「新青年」に掲載された幻想小説である。
ミステリを解明されるトリックだと誤解している人には「どこがミステリなんだ」と言わしめる作品だが、「これぞミステリ」と言うべき俗世間へのレジスタンスに満ち溢れた作品であるために乱歩の最高傑作の呼び声も高い。
1929年は昭和四年であり、大正十二年(1923年)の関東大震災(死者・行方不明者・10万人超)の記憶がまだ生々しい時代である。
物語に登場する浅草十二階こと凌雲閣も震災で半壊し、撤去されている。
その在りし日に一人の青年が双眼鏡で高層から下界を眺め、絶世の美女に恋をするのが発端で・・・青年の弟が怪奇な恋の顛末の語り部として登場する。
老人となった弟は一枚の押絵と旅をしている。押絵とは羽子板などに描かれるアップリケ的立体画のことである。
実は・・・絶世の美女は押絵に描かれた「八百屋お七」の絵姿だったのである。
物語の主人公は魚津の浜に蜃気楼を見物しに行って、「唖(おし)のようにだまっている海」を見た後で、「狂人が、われわれのまったく感じぬものごとを見たり聞いたりすると同じ」奇妙な体験談を黄昏を走る上野行きの汽車の車中で聞くことになる。
つまり・・・「押絵と旅する男」に出会うのである。
そこには過ぎ去りし色恋を拒絶する断固たる趣味の世界が怪しく展開していくのだった。
タイトルは怪しい老人が怪しい主人公に語るセリフなのである。
オセロの黒い方の人も今はそういう気分なのかもしれません。
たとえば、「火」を見ると落ち着く記憶遺伝子の妄想から「火事場の野次馬」の話や「炎の海」の話を連想してしまう自分の不謹慎さを恋人恋しさに放火して火刑に処せられる八百屋お七の心情に重ね合わせるがごとくでございます。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・最終回(全11回)』(フジテレビ20130325PM9~)原作・三上延、脚本・相沢友子、演出・松山博昭を見た。娘のビブリア古書堂店主・篠川栞子(剛力彩芽)と母親で元の店主・智恵子(安田成美)との母娘対決は・・・古くは「巨人の星」、最近では「美味しんぼ」の父子対決のヴァリエーションである。まあ、冷たいお母様と温かい愛を求める娘の葛藤は少女趣味の基本とも言えます。乙女は残酷な神が支配する世界を求めてやまぬのですな。
で、鹿山明(須永慶)の遺した「江戸川乱歩コレクション」を巡って、実子の義彦(名高達男)サイドに立つ智恵子と・・・愛人の来城慶子(高樹澪)に味方する栞子とが争奪戦を繰り広げるわけです。
金庫の「鍵」を入手しかけた栞子ですが、智恵子の挑発にのって重要なヒントを与えてしまい・・・結局、「鍵」は智恵子の元に・・・。
「詰めが甘い・・・」と教育的指導を受ける栞子。
結局は「古書大好き人間」として母親に調教された栞子は智恵子の操り人形に過ぎないようです。
そんな栞子を智恵子はきっと愛おしく思っているに違いないのですが美貌の影に隠しているようです。
少年探偵団が不揃いだった理由を見落としていた栞子は漸く別の隠し場所に気が付きます。第一の隠し書庫とも言うべき場所に鍵は隠されていたのです。それは扉の中に仕掛けられていました。
栞子の味方になった直美(横山めぐみ)は鍵を渡すように求めますが、直美の兄・義彦から全権を委任されている智恵子はこれを拒否します。しかし・・・。
「さあ、これは何かな」と・・・今度は栞子に優しくヒントを投げかけるのです。
それは・・・二銭銅貨でした。
「二銭銅貨/江戸川乱歩」では二銭銅貨の中に暗号解読のヒントが仕組まれています。
栞子はコレクションの二銭銅貨の中から「暗号表」の入手に成功しました。
しかし・・・暗号表が原作通りの換字に用いる点字の一覧に符号しないのです。
そこで五浦(AKIRA)が「え」と言うだけでないところを見せつけます。
解読のための重要なヒント・・・「大正時代には点字の一覧が現代とは違うのでは」を口にするのです。
母の名前がよしの志田(高橋克実)が突っ込んで「新青年に発表された作品では江戸川乱歩は点字を間違っていた」ことを指摘します。
新青年版の「二銭銅貨」の間違った点字が最後のキーポイントとなり・・・ついに金庫の扉は開くのでした。
中にあったのは・・・智恵子の予想通り・・・「押絵と旅する男」の失われた第一稿らしきもの・・・「押絵と旅する女」だったのです。
何しろ・・・水洗トイレでなかった便所に捨てられた原稿なので少し黄味がかっています。
それを胸に抱くダンスが上手く踊れない来城慶子の姿に一部愛好家熱狂です。
栞子は鹿山明の最後の手紙を示し・・・智恵子に温情を求めます。
「せめて・・・一夜・・・遺品と慶子さんを一緒に過ごさせてください」
微笑んで同意する智恵子でした。
貴重な本を斜め立てして一部愛好家の顰蹙を買う演出の果てに「江川蘭子/江戸川乱歩・他」の位置取りから・・・妹・邦代(松田美由紀)の正体に気がつく栞子。
邦代こそが熊谷真美の妹じゃなかった・・・姉の慶子だったのです。
姉妹は入れ替わっていたのでした。
原稿を持って逃走する慶子を追う栞子。
先入観から原稿が偽物だと思いこんだ栞子は邦代の正体を見破ったことで大満足。
「すべては・・・江戸川乱歩の怪奇趣味の世界ごっこだったのですね・・・」
「そうよ・・・謎解きはほとんど探偵役におまかせだったけど・・・私は足も口も不自由な姉の妹に化けることができて・・・楽しんだわ・・・江戸川乱歩最高っなのよ」
「最高っですよね・・・」
趣味人同志の連帯感に取り残される五浦であります。
爽やかに慶子を見送った栞子でしたが、またしても母親にお灸をすえられるのです。
「甘いわね」
すべてが偽物とは限らない・・・栞子は偽物の中に一部本物が混じっている可能性を見落としていたのです。母親から見ればダメな子なのでした。
慶子の後を追う智恵子は最後に一言・・・謎を明かします。
「私は最高の本の狩人になったの・・・家庭を・・・夫を・・・子供たちを捨てても惜しくない最高の本の存在を知ったから・・・今のあなたなら・・・私の気持ちが理解できるでしょう・・・どう、一緒についてくる」
「いきません」
すれ違う母と娘の思いだったのです。
取り残されるのを恐れた五浦は・・・読書にチャレンジするのですが・・・あえなく挫折。
そんな五浦に栞子は優しく・・・本の内容を長々と語ります。
まあ・・・愛ですかね。
つまり、個人的な趣味なんて他人にとっては本当にどうでもいいということです。
関連するキッドのブログ→第10話
妄想映画・まこちゃんの女怪盗シリーズ「セーラー服探偵くう」快調撮影中。
くう「米倉ちゃんが着るなら私が着たっていいじゃな~い。妄想も大切だけどシナリオに沿ったレビューも大事なのです。なにがなにやらにならないように見取るわよっ。子供を捨てて趣味に走っただけらしい・・・悪い趣味の人・智恵子に・・・全世界の母娘を代表して結婚しないのにするショックものりこえるセーラー服探偵が正義の鉄槌を下すのです。さあ、少女クラブの乙女の夢にかけて、念仏唱えて懺悔しな。お乳ほしがるこの子が不憫じゃないのかよっ・・・あ~や~ま~れやあああああああっ」
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コメント
キッドさん、お疲れ様でした。
今期も楽しませて貰いありがとうございました。
笑いどころ満載レビューの中、コメントを
どこで書くか?
ここでしょ(笑)
>ダンスが上手く踊れない来城慶子の姿に一部愛好家熱狂です。
(≧∇≦)ノ彡バンバン!
ジャガー横田さん?って、
何度も見直してしまった私ですヾ(゚∇゚*)オイ
あ~思い出す『スチュワーデス物語』('▽'*)。。oO
『ラスト・ホープ』も読ませて貰ってスッキリしたので、
もう良しとしよう。時間の節約に感謝(^人^)
キッドさん、私と新婚さんにはなれませんが、
両思いになって下さい。。。
って軽くスルーして下さい(笑)
それでは、来期もよろしくお願いしま~す(^o^)丿
投稿: mana | 2013年3月29日 (金) 17時33分
お楽しみいただき、ありがとうございました。
レビューはmana様を口説くラブレターでございまする。
しかし、使い残した白菜に黄色い花を咲かせたことはありませんぞ・・・食べきるからでございます。
勉強しかとりえがないなんて
ある意味、イヤミでございます。
誰が看板講師の話をしろと・・・。
笑いなんて誰でもとれるようになる・・・
一度は言ってみたいですな。
ジャガー横田さん・・・。
格闘技界きってのクール・ビューティーでしたぞ。
ロケバスで発熱した時に
スポーツドリンクを恵んでもらったことがあるので
生涯悪口を書かないと心に誓っておりまする~。
少なくとも北斗さんより美人だっ。
ふふふ・・・手袋を口でくわえて脱いでも
木村拓哉の真似をしているとは限らない・・・
ということですな。
そして合言葉はいつでもどこでも「やるっきゃない」のですな。
「ラストホープ」は
やればいいってもんじゃないだろうっ・・・
というセリフが似合いますけれど~。
mana様が美しい片思いをしてくだされば
いつだって両思いでございますよ。
なにしろ・・・悪魔というものは
いつでも人間の魂に片思い中なのですから~。
短い新婚生活そして・・・永遠の食物連鎖ですからねえ。
季節の変わり目でございます。
なにとぞご自愛くださりますように。
投稿: キッド | 2013年3月30日 (土) 03時00分
セーラー服探偵くう!参上っっ!
まぁ母親だって好き勝手な事してもいいし、私だってしてるけどさっ。
古本追いかけて何年も蒸発したことを一言くらい詫びんかい、ごらっ!
月に変わって……
と、散々ツッコみまくりましたが、このドラマ自体は好きでしたわ。
古書と本解説、アンティークな雰囲気にアンニュイな店主…
で、ございますわね^^
GTOでは潰れた声でがなりまくってたAKIRAさんの普通の青年演技もとても好感持てました。
こういう月9にはまた会いたいと感じてしまいます^^
面白うございました^^
投稿: くう | 2013年3月31日 (日) 01時44分
セーラー服探偵くう様の必殺技は
「背中に突然花咲き乱れ乙女チック崩し」
・・・でございます。
財閥の花園からトラックで出荷しておりますぞ~。
悪人は花の雪崩に巻き込まれて改心するのですな。
花粉症の方には特に効果ありでございます。
じいめは・・・この役は
本当は成海璃子にやってほしかったのですが
懸命にこらえて記事を書いておりましたぞ~。
安田成美との母娘対決も
美しい構図になったものを・・・と
凄く残念なのでございました。
基本的にはノスタルジーで彩られた
古書の世界・・・
お茶の間はさておき・・・
じいめは毎回うっとりでございましたぞ~。
原作のタネが尽きたとしても・・・
脚本家が持ち回りで・・・
愛読書を用いて続編をすればいいのに・・・
と思いますが・・・
最近の若い人は読書しないからダメか・・・。
きゃ、脚本家なのに・・・。
ご時勢ですな。
とにかく言いたいことはただ一つ~。
ぐっすりおやすみなさいませ~。
投稿: キッド | 2013年3月31日 (日) 02時32分