洋製に倣ひ船艦を造り、専ら水軍の駆引を習はせとの仰せだべし(綾瀬はるか)
佐久間象山(しょうざん)は松代藩士として藩主・真田幸貫に「海防八策」を献じている。
その五番目は「西洋の造船技術を学んで軍船を作り、海軍によって運用させること」という単純明快な作戦である。
もちろん、明治維新後、大日本帝国はこの路線を邁進するのだった。
前後を見てみよう。
その一は「沿岸における砲台の構築」である。
その二は「銅の海外流出を抑えて大砲の原料とすること」
その三は「商船の洋式化」
その四は「海上における国境警備の組織化」
ここまで、「敵軍上陸阻止」「そのための資産運用」「洋式化による海難事故防止」「密貿易の摘発」と実に経済を重視した献策になっている。
象山は実利主義者だった。
あるいは、そういう方が上が喜ぶと知っていたのである。
そして、漸く「海軍の創設」を進言するわけである。
その六「全国津々浦々に学校を創設」
その七「有能なものに褒美を与え、無能なものは罰すること」
その八「人事において身分を問わない」
人材育成にあたって貴賎を問わず、優劣を極め、機会の平等を与える。
こうなってくると・・・いろいろと差しさわりが出てくるわけである。
しかし、本人が有能な天才である以上、無能で高貴な人々の心証など知ったこっちゃなかったのだった。
最も有能な弟子である吉田松陰が処刑され、本人が暗殺、そして最強の弟子である坂本龍馬が暗殺。
象山の理念に根本的な間違いがあったことは間違いないとも言えるのだった。
世の凡人たちは都合の悪い実理を認めたがらないからである。
で、『八重の桜・第11回』(NHK総合20130317PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の子孫にして安徳天皇の菩提を弔う水天宮の神官で幕末最悪の軍師・久留米藩士・従五位下真木和泉守保臣と、佐久間象山の弟子・吉田松陰の弟子にして英国公使館焼き打ち実行犯で奇兵隊の前身・光明寺党の創設者である長州藩士・久坂玄瑞の二大イラスト描き下ろしでお得です。元治元年夏はスローペースなので順調に主役先取りでございますなーーーーっ。
元治元年(1864年)六月二十四日、長州藩は赦免を願う嘆願書を朝廷に奉る。長州藩に同情的な有栖川宮をはじめとする在京藩主や公卿もいたが、朝廷を支配する関白・二条斉敬、前々関白・近衛忠煕らは公武合体派の公家であり、補佐を務める中川宮ともども孝明天皇自身が長州を嫌悪していたのである。言わば長州は熱烈な片思いをしているのであった。長州の暴発を恐れた禁裏御守衛総督・徳川慶喜は佐久間象山を召喚し、孝明天皇の彦根城遷座を実現せしめんとする。先代井伊直弼暗殺以来、石高を減らされていた彦根藩第16代藩主・井伊直憲は汚名挽回の機会に喜んだ。しかし、開国して富国強兵して攘夷という佐久間象山の発想が理解できないとりあえず攘夷の人々、とにかく、京から天皇が離れることを断固反対する人々は凶刃を振るうのだった。七月十一日、象山暗殺である。下手人の一人とされる河上彦斎は肥後藩士であり、池田屋で死んだ象山の弟子の一人で肥後藩士の宮部鼎蔵の仇討ちの側面もあった。幕末の皮肉な様相の露呈である。象山の夫人は勝海舟の妹であったが幕臣の勝は海軍創設をめぐって反主流になりつつあった。一方、長州の久坂玄随は象山の弟子・吉田松陰の妹を夫人としている。松陰門下生は佐久間象山の教えを受けたものが多数おり、久坂もその一人だった。象山暗殺は幕末戦争の幕開けとなる禁門の変(蛤御門の変)の呼び水となった。七月十八日、孝明天皇は長州掃討を禁裏御守衛総督・徳川慶喜に申しつけた。
真木和泉にとって源氏である徳川家は不倶戴天の敵である。幕末の動乱期にあって倒幕こそは平家の怨念を晴らす絶好の機会であった。最初は薩摩を、次には長州を唆し、ついに壇ノ浦の雪辱を果たす機会を得たのであった。長州軍の兵力は増強されつつあった。このまま、対峙が続けば戦力差は長州に有利となり、日和見を決め込んでいる諸藩も倒幕に傾くはずであった。
もちろん、それは真木和泉の神がかった妄想であり、倒幕の機が熟すのはまだ数年の歳月が必要であった。しかし、人心を惑わすためには陰謀家自身がある程度、狂う必要があったのである。
真木和泉は河童である久坂玄瑞に水神衆の出動を命じた。天皇遷座を画策する佐久間象山を討つためである。万が一にもそのようなことがあっては戦略が崩れるからである。
水神衆は淀川を遡上し、御所を出た佐久間象山を三条木屋町で待ち伏せる。
一方、畏れ多い天皇の遷座を回避するべく、天皇のしのびたちも象山の抹殺を企てていた。潜伏中の過激派浪士残存部隊を誘導したのである。彼らは誅する対象に飢えていた。殺すことで報償を得ることができれば誰でもよかったのである。
象山は科学忍者である。
当然その配下は科学忍者隊だった。しかし、急進派である象山に対する真田家中での権力闘争は陰湿であった。不運なことにその日の護衛当番は反象山派に属していたのである。
馬上で象山は真田しのび科学忍者隊の気配が消えたのを察する。
「刺客か・・・護衛の者どもが・・・退散しおった・・・」
象山の顔に憤怒の形相が浮かぶ。
「この国難に際し・・・お家騒動か・・・情けなや・・・」
象山は懐からスミス&ウエッソン・ナンバー・ツー(32口径)を引きぬいた。
敵の気配は川面から発していた。
「ふ・・・水中の術に特化したものと水中で戦う理があるかよ」
象山は川から離れるべく馬を御する。
水神衆は銛を構えて、水中から飛翔した。
「愚か者」
ふりかえった象山は南北戦争両軍使用の量産型リボルバーを連射した。
百発百中の妙技である。全弾を撃ちつくすと、路上には六人の水神衆の死体が転がっていた。
「見たか、科学忍法、連射早打ちの術」
笑みを浮かべた象山の背後から河上彦斎が必殺の伯耆流居合術・飛燕逆袈裟斬りを放ったのはその時である。
象山は無惨な死体となった。
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