地獄のベルトコンベアーを越えて、恋人よ我に帰れ(忽那汐里)
忘れてはいけないことが多すぎるこんな世の中である。
北アフリカの貧困とテロリズムの温床化を忘れてはいけないらしい。
沖縄の一部の人間が基地問題が解決されないのはいじめのようだと怨んでいることも忘れてはいけないらしい。
原子力発電の恩恵を忘れてはいけないし、フクシマの原発事故も忘れてはいけないらしい。
韓国がいつまでも歴史認識を変えないことも忘れてはいけないらしい。
中国が偏西風で公害を散布していることも忘れてはいけないらしい。
北朝鮮がいつまでもいつまでも拉致被害者を返さないことも忘れてはいけないらしい。
農業人口の高齢化とか、待機児童とか、特許庁のシステム更新失敗とかも忘れてはいけないらしい。
レスリングが失われそうだからと言ってソフトボールのことも忘れてはいけないらしい。
確定申告も忘れてはいけないらしい。
醤油とみりんを買うのを忘れてはいけないらしい。
忘れてはいけないことが多すぎて、一番大切なことを忘れてしまいそうだ。
だけど土曜日だということを忘れても録画予約があるから安心だ。
ニュース・ショーのコメンテーターみたいに・・・その場その場で忘れていないフリをしていれば人間なんて生きていけるんだけどさ。
それから愛らしい人がいれば問題ない。
で、『泣くな、はらちゃん・第7回』(日本テレビ20130302PM9~)脚本・岡田惠和、演出・狩山俊輔を見た。善良な人々で構成されるこっちの世界。その中ですべての禍々しさを一身で引き受けるのが・・・越前さん(麻生久美子)の弟、ひろし(菅田将暉)である。凶悪な朝ドラマと評判の「純と愛」の善人対悪人比率が1:100なのに対し、こっちの世界では100:1に設定されているわけである。もちろん、悪魔にとってはどちらも同じなのである。善は悪に誘導し、悪はさらに悪くするのが任務なのである。
ひろしによって資源回収車に乗せられる運命となった「泣くな、はらちゃん」の世界を封入した大学ノート。開いた引き出し、失われた古新聞古雑誌の山、ひろしと母・秀子(白石加代子)の証言から・・・越前さんは「とりかえしのつかないことをしてしまった・・・」と絶望する。
能動的ではない・・・越前さんには失われたものを取り戻す気力はわかないらしい。
試みに別のノートに【はらちゃん】を描いてみたが、例の現象は起こらないのだった。
現象のことを知る百合子(薬師丸ひろ子)と悪魔さんこと紺野清美(忽那汐里)に事情を知らせる越前さん。
悪魔さんは「・・・マキヒロ(賀来賢人)にもう・・・逢えないの・・・神様、だめじゃん」と越前さんを詰る。
しかし、百合子は「しょうがないんじゃない・・・これでよかったのかも・・・だって所詮は結ばれない恋だもの・・・だから、あなたも結婚できないって言ったんでしょう」と慰める。
唇をかみしめる越前さんだった。
青くて高い澄み切った夜空
新月の暗闇で結ばれた二人
でもあなたはいなくなってしまった
あなたのどんなに小さなしぐさも
私は忘れない
やっと実った恋だから
私の孤独は恐ろしく深いのよ
帰ってきて
私の愛しい人
その頃、はらちゃんたちはノートの中で車に揺られている。
たどり着いたのはこの世の果てで資源が処理される工場だった。
焼却炉に向かって絶体絶命のはらちゃんの世界・・・。
しかし、採用されたばかりの職員がひろしだったことにより、九死に一生を得るのだった。
【はらちゃん(長瀬智也)とマンガ世界の愉快な仲間たち】は全員まとめてこちらの世界に放出されたのだった。
「ここは・・・どこですか・・・」
「資源を再利用するためにドロドロになるまで燃やして溶かす施設だよ」
親切だが任務に忠実な職員にノートを奪われそうになり、警備犬の群れに追われる【仲間たち】・・・。
リーダーシップを発揮する【ユキ姉】(奥貫薫)は「逃げるわよっ」と号令をかける。
なんとか脱出したはらちゃん。
【笑いおじさん】(甲本雅裕)はノートを開いて安全なマンガの世界に帰還することを提案するが・・・それでは「神様のところに帰れなくなる」と【はらちゃん】はノートを越前さんのところまで運ぶことを宣言する。【マキヒロ】は賛同し、【あっくん】(清水優)や【たまちゃん】(光石研)も追従する。しかし【ユキ姉】は「私たちは神様に地獄に捨てられたのよ・・・」と反対するのだった。
「そんなことはありません・・・神様が私たちを捨てることなんてありません・・・私たちは両思いですから・・・」と【はらちゃん】は越前さんを疑うことはしないのだった。
【ユキ姉】も【はらちゃん】に従う他はないのである。なにしろ。他に行くあてなどないのだから。しかし、【ユキ姉】にはこっちの世界に対する不信感があるらしい事が暗示される。
お金もなく食事もできない【はらちゃんと仲間たち】、しかし、路上販売の農家のおばさんが大根の収穫作業を手伝う代わりに大根スティックを支給してくれたのだった。働く喜びと食べる喜びを満喫する【一行】・・・「働くことは生きること」と玉田工場長の言葉を再発信する【はらちゃん】に【たまちゃん】は「それは俺のセリフ」だとは言わない・・・姿は玉田工場長でも心はあくまで【たまちゃん】なのである・・・そこへ【あっくん】と両思いになった子犬チビの飼い主が現れる。
さすらいのディスメタル・ロッカー(安田顕)の父子だった。
飼いならされた豚には用はない
この世の終りを祝福するのだ
理解できない豚どもは餌でも食ってやがれ
ああああああああああああああああああああ
ロッカーの新しい音楽に触れ、魂を揺り動かされる【一同】である。【ユキ姉】さえもいつしかシャウトするのだった。
はじめてのエレキギターで「世界中の敵に降参さ戦う意思はない世界中の人の幸せを祈ります」を披露する【はらちゃん】・・・。
ロッカーは「いいね・・・君が作ったのか・・・」と問う。
「言葉は神様からいただき、メロディーは悪魔さんから頂きました」と答える【はらちゃん】・・・。
「神と悪魔のロックか・・・」と頷くロッカーだった。
「あなたはお父さんですよね・・・お母さんはいないのですか」
「いるけど・・・住む世界が違いすぎて別れちゃった・・・」
「私の両思いの相手も・・・住む世界が違うのです」
その時、落陽が荒野を照らす。
こっちの世界の大自然に感涙する【はらちゃんと愉快な仲間たち】・・・。
「関係ないよ・・・【はらちゃん】・・・世界があーだとかこーだとか、マジ関係ねえ。世界がどうなろうと知ったこっちゃねえ。それがロックさ。そんで、何があっても好きな女だけは放しちゃダメなんだぜ」
【はらちゃん】はロックの神様の教えを素直に受け取った。【はらちゃん】のノートが開かちゃうんじゃないかとか、悪い人にだまされちゃうんじゃないかとか、ロックの神様は放しちゃってるじゃないかとか・・・いろいろとドキドキするわけだが・・・地獄のハイウエイを辿ってふなまる水産三崎工場に送り届けてもらった【はらちゃん】だった。
冒険の一日は終り、夜の帳が下りていた。
元気のない越前さんを励まそうとするがまったく相手にされない田中くん(丸山隆平)である。
越前さんは「揚げかま」の営業ノルマ達成を工場長代理として指示するのである。
悪魔さんも田中くんのことはもうどうでもよくなっている。
あなたとたどった道を歩いても
淋しさがつのるだけ
あなたはいない
あなたはいない
今も私の愛は燃えあがる
帰ってきて
帰ってきて
私のところへ
私の愛しい人
越前さんは窓の外に【はらちゃん】を発見する。
一目散でかけつけるのだった。
そして・・・【愉快な仲間たち】に挨拶するのももどかしく【はらちゃん】を見つめる・・・。
憚ることもなく【マキヒロ】と悪魔さんは熱い抱擁を交わすのだった。
「私は・・・神様を苦しめるから・・・逢わない方がいいのではないかと考えました」
「そんなの・・・嫌・・・嫌・・・嫌よ」
「私もです・・・私もこの世界でいつまでも越前さんと・・・」
そこで【笑いおじさん】は提案する。
「ノートを開かなきゃいいんじゃないの」
決心した越前さんはガムテープでノートを封印する。
田中くんは単なる年上の女好きだったらしく・・・ユキ姉に一目惚れである。
【はらちゃん】→越前さん
【マキヒロ】→悪魔さん
田中くん→【ユキ姉】
【あっくん】→チビ
愛の花盛りである。
しかし・・・物陰で百合子は何やら思い悩む。
一人はぐれた【たまちゃん】はまたしても長沼さん(稲川実代子)に工場長の幽霊と間違えられてしまうのだった。
はたして・・・こっちの世界の女と【マンガ世界の男】は結ばれるものなのか・・・。
戸籍、生殖能力、老化の有無、排泄の有無・・・様々な疑問点でお茶の間を不安にさせつつ・・・物語は終局へと向かって行く。
もう・・・春はそこまで来ているのである。
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