出会った頃と変わらずに妻を美しいと思う夫を疑うなかれ(剛力彩芽)
短編小説「たんぽぽ娘/ロバート・F・ヤング(The Dandelion Girl/Robert=F=Young)」(1962年)はタイム・トラベルもののファンタジーである。人によってはSF小説のジャンルに分類するだろう。なにしろ、「年刊SF傑作選2」ジュディス・メリル編(創元SF文庫)に収録されているくらいである。
話の分類としては「奇妙なはなし」文藝春秋編(文春文庫)の方がふさわしいだろう。
今回の題材となるのは「たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2」風見潤編(集英社コバルト文庫)である。
三冊とも現在、絶版(ぜっぱん)らしい。
絶版とは書店で注文しても問屋に在庫がなく出版社も版を重ねない方針であるために新品の入手が困難なことである。書籍は嵩張るからである。書棚に限りがあるからだ。だからといって電子版じゃ満足できない人がいる時代はいつまで続くのだろうか。
44歳の法律事務所経営者で大学生の息子のいるマークは妻のアンの留守中に白いドレスの美少女・ジュリーに出会う。
息子とさほど年の変わらぬ娘に夢中になったマークは「タンポポ色の髪」をしたジュリーと人気のない丘の上でデートを重ねる。
ジュリーは「240年の時の流れを越えてやってきた」と言う。「父親の自家製タイムマシンで違法な時間旅行をしているのだ」と言う。
マークは自分が妻子ある身だとか年齢差があるだとかには全くこだわらずジュリーに情熱を傾ける。しかし、突然、少女は姿を見せなくなってしまう。
恋しさで身悶えるマークだったが・・・屋根裏で妻の古いカバンから白いドレスを発見してすべてを悟る。
逢いたいと思っていた人とずっと一緒にいたと知ったマークは深い安堵に包まれるのだった。
少女が若い頃の妻だったことに気がつかなかったマークのうかつさはけして責めないでください。
ちなみに・・・とある少女が自分の母親の若い頃の写真を見ながら現在の姿と見比べて「一種の詐欺だよね」とつぶやいたのをキッドは耳にしたことがあります。
たんぽぽの花言葉は「思わせぶり」「別離」「飾り気のなさ」「真心の愛」である。
で、『ビブリア古書堂の事件手帖・第8回』(フジテレビ20130304PM9~)原作・三上延、脚本・岡田道尚、演出・宮木正悟を見た。まあ、ロマンチックでスイーツな話なのであれですが、妻が妊娠出産してから初夜を迎えた男の話と言えるのです・・・言えるのかよっ。ちなみに非合法タイムマシンを作っていた病弱な父親・・・明らかに危険人物だよな。逆に想像して見てください。夫の留守中に美青年との恋に落ちた妻を・・・夫が美青年のなれの果てだと知った時の妻の気持ちを・・・コバルト文庫収録作品にそんなこと言ってもな。
未来世界では兎も鹿も中年男も絶滅危惧種だったらしい。
「おとといはウサギをみたの・・・昨日は鹿、今日はあなた。未来ではもういなくなってしまった動物たちを見ていると時間がたつのを忘れてしまいます」
さて、月9にふさわしく、恋のライバル登場である。
ビブリア古書堂の店主・篠川栞子(剛力彩芽)の幼馴染であり、古書籍商業の先輩でもある古書市場の経営員・滝野蓮杖(柏原収史)である。
狂気の男・笠井菊哉(田中圭)が退場したので交代かっ。
本が読めない新人古書店員・五浦(AKIRA)の噂を聞きつけ、栞子にアドバイスをするためにやってきたのだ。
「どう考えても・・・古書店向けの人材じゃないだろう」
「でも・・・私は五浦さんがいいのです」
恋のライバルとしていきなり撲殺される滝野だった。
その時、常連客の吉見(大倉孝二)がやってきて・・・「絶版商品にあまりいい本がない」と嫌味ともとれるつぶやきを残して去っていく。
そこで・・・栞子は古書市場で新しい古書を入手する決意をするのだった。
古書市場では古書業者が言わば品物の交換会を行うのである。
ビブリアは出品せずに入札して商品を競り落とすために参加するのだった。
栞子に連れられてやってきた五浦に滝野が再びアプローチ。
「何も古書店で働くなくてもいいんじゃないか」
「栞子さんがいいんです」
滝野、連日の斬殺である。
何故か、参加者の一人が「君がビブリアの新人さんか・・・昨日も来てたよね」と謎の発言をする。もちろん、五浦は初参加なのである。
そこへ・・・栞子の消息不明の母親・智恵子(安田成美)となにやら因縁があるらしい古書店・ヒトリ文庫店主の井上太一郎(佐野史郎)が登場する。
滝野が出品した「古書パッケージ」をめぐって栞子と井上は入札合戦を繰り広げるのだった。
結局、入札に敗れた栞子は・・・家の蔵書を売却することにする。
そのうちの一冊が「たんぽぽ娘」だった。
「たんぽぽ娘は愛する人が突然いなくなってしまう話なんです。母がいなくなった後、父はくりかえしこの本を読んでいました・・・きっと消えてしまった母を呪っていたのだと思います」
「呪い・・・ですか」
「あくまで想像ですけどね」
「僕は本を読んだことはありませんがなんとなく思うんです・・・読んだ人にとって受け取り方は千差万別なんだと・・・僕にとってはいい人が・・・他の人には悪い人ってことがあるように・・・栞子さんとお父さんでは感じ方が違うかもしれませんよ」
「原作もののドラマの批判にありがちですよね。自分の解釈が絶対に正しいという思い込みがあって・・・それ以外を認めない人って・・・結局、視野がせまいんですよね」
「まあ、長髪をショートカットにしたのは誤解の仕様がない事だと思いますけどね」
話が危険な方向になったので・・・井上がどなりこんでくる。
栞子が井上の落札した商品から貴重な一冊を盗んだと言うのである。
それがよりによって「たんぽぽ娘」だった。
あわてて・・・篠原家の蔵書である「たんぽぽ娘」を書棚に隠す五浦である。
結局、真犯人を捜すことになる栞子と五浦。
しかし、出番確保のために弟の文也(ジェシー)とひやかしの小菅(水野絵梨奈)、さらには謎の運送業者(岡田義徳)の連携プレーで「たんぽぽ娘」の存在は井上に伝送されてしまうのだった。
文也と小菅はなんとなく月9モードなのだが・・・原作的には同性愛になってしまうのだった。
必死に聞き込みをかけた五浦によって・・・市場には出品予定のなかったビブリア書店の商品が何者かによって持ち込まれていたことが判明する。
ここまで犯人候補は・・・。
①恋のライバル滝野
②なぞの運送業者
③井上の自作自演
④常連客・吉見
⑤レギュラーその他の皆さん
・・・結局、部外者の吉見が犯人だった。
吉見は五浦になりすまし、井上が入札した後で「たんぽぽ娘」を抜き取ったのである。
そこへ・・・自首してくる吉見だった。
「この本は僕が妻にプレゼントした本です。離婚した妻がその本を売ってしまったのです。僕はその本をとりもどせたら・・・妻の愛も取り戻せるような気がして・・・こんなことをしてしまいました・・・でも・・・結局、そんなことで妻がもどってくるはずはありません・・・そのことに気がついて・・・本を返すことにしました・・・」
悲惨な男の告白に井上は黙って本を回収するのだった。
「あの本は・・・前の店主さんから買ったんです。愛しい人に何かプレゼントしたいというと・・・前の店主さんはたんぽぽ娘を勧めてくれたのです・・・愛しい人にそれをもらって嬉しかったから・・・とおっしゃってました・・・いや、店主さんがプレゼントしたんだったかな・・・なにしろ、十年前のことなんであれですけど・・・まあ、人間の記憶なんてそんなもんですよね」
さびしい男が去り滝野が反省の言葉を口にする。
「実は・・・あの本をあの人の元・奥さんから買ったのは僕なんだ・・・あの人が買い戻したいと電話してきたんだけど・・・高く売れそうだったんでもう売れちゃったと云っちゃった。こんなことになるなら・・・あの人に高く売りつければよかったな・・・まあ、今となっては高価なプレゼントだけど絶版前の古書を婚約者のプレゼントにするって・・・どうなんですかね。つりざおをプレゼントするレベルですかね・・・同好の士だとしてもねえ・・・めでたしめでたしにならない感じ」
「因果はめぐる糸車なのですね」
頷いて滝野も去った。残された栞子に五浦は言う。
「栞子さんのお父さんは・・・ただ・・・行方不明になってしまった人を懐かしがっていただけなのかもしれませんよ・・・」
「それは・・・心あたたまる解釈ですね」
「それじゃ・・・たんぽぽ娘の話をしてくださいよ・・・」
「えーとね、これはおっさん好きの女の子と、女の子好きのおっさんの話なのですよ」
「うーん、なかなかのロマンスですね」
「まあ、240年後の世界ではものすごく整形技術も進歩しているでしょうしねえ」
「きっと若返りもですね」
「まあ・・・そういうツッコミも原点あっての話ですからね、古典にあれこれ言うのは無粋というものなのです」
「なるほど・・・」
すべての出来事は確定しているという不確定性原理不在のロマンスを話して聞かせる栞子、耳を傾ける五浦。
こうして月9的な夜が更けて行くのだった。
結局、吉見の用意したダミーの商品、栞子がちゃっかりゲットしてるみたいなんですけど。
「君は何を恐れていたんだい?」
「さあ、・・・なんのことかしら」
関連するキッドのブログ→第7話のレビュー
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コメント
キッドさん☆
こんばんは(^^)
ラストのたんぽぽ娘の説明を読んで少女は妻だったのかと思いましたが本の内容が気になって気になって一晩たったらこの本を子供の頃に読んだ気さえしてきました
なーんだ で終わってしまったような…
今なら ラストの一回を若い頃の夫に会いに行くのに使ったたんぽぽ娘にロマンを感じます
この解釈でいいんでしょうか?
妻が美青年に恋をし実は夫だったら…
これは絶対に駄目でしょう(笑)アウト
このお話は栞子のお母さんの失踪に関係があるのでしょうか?
ラスト劇的な展開が待っているのか マッタリ終わるのかわかりませんが 最後まで楽しみたいと思います(^^)
投稿: chiru | 2013年3月 7日 (木) 00時53分
シンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃ いませ・・・大ファン
記事の最後のセリフは例によって妄想でございます。
本当の最後は・・・夫の心の中に・・・老いた妻への裏切りが潜んでいるのではと・・・疑いの心を隠せない妻と真実を知った夫が雨の降る路上で見つめ合うシーンになっています。
次のような描写です。
彼女のもとへとたどり着くころには、彼の目はもう涙でかすんではいなかった。そして彼ははてしない時間を飛び越えて彼女の雨にぬれた頬に再び触れた。その時、彼女は彼の気持ちを理解し、彼女の恐怖は永遠に消え去った。そして雨の中、彼らは手と手を取りあって家へと歩き始めた。
あま~い・・・感じでございますな。
まあ、古きよき時代の・・・
女はリアリスト・・・。
男はロマンチストという展開と言えるでしょう。
そして、女の賢い選択は結局男を支配するものなのでございます。
そういう計算高さをロマンチックと感じるのが
乙女というものなのですなーーーっ
そして、過去の夫に未来で出会うのはアウトという
容赦のない判断・・・さすがでございます。
栞子の母親の失踪については
まだ謎が深いですからねえ。
そもそも、原作がシリーズの途上なので
結末はドラマなりになると考えます。
突然、失踪してしまったので
殺されている可能性もありますが
残された夫は・・・「時代屋の女房」的心情だったのではないかと推察しています。
栞子は捨てられた気持ちと
自分の中にある母親似の部分で
葛藤しているのですよね。
それは基本的に文学的・・・と言えるのではないでしょうかね。
ライトという前提があったとしてもでございます。
ドラマとしては非常に拙い部分もあるのですが
キッドは基本的にこのドラマは楽しめています。
解明の楽しさがございますからね。
投稿: キッド | 2013年3月 7日 (木) 03時22分