平等のルールを守るのは自由の翼を守るためなのです。(香取慎吾)
法とは制度であり、制度とは社会であり、社会とは人間である。
そして人間とは人と人である。
人にはルールは無用である。
人はどこまでも平等でどこまでも自由な存在だからだ。
人と人間の果てしなき戦いは今日も続いていく。
なぜなら、人間の自由と平等を守るために法が存在するからである。
で、『幽かな彼女・第2回』(フジテレビ20130416PM10~)脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。やはり、ゲーム性に富んだ脚本家なのだな。もちろん、この場合は筋立ての話である。クイズはゲームの一種である。ちなみに、ゲームがクイズの一種であると言う場合もある。すべての言葉は「鶏が先か卵が先か」という問題を孕んでいるからだ。とにかく、一つの主題が提示される。今回は「信頼」ということでいいだろう。
筋立ての基本は構成である。主題である「信頼」から問いと答えで成立する二分割の構成を作ってみる。「人が人を信頼するのはいかなる時か」と問い、「お互いが信頼する時である」という答えを想定して見る。
そこでは・・・「人と人がいて、同時に信頼し合うことの可能性」が問われることになる。
構成者はここで手掛かりを求めてしばらく彷徨うであろう。
時には古き命題の森を訪問する。
今回は「鶏が先か、卵が先か・・・」という問題が浮上する。
この問題は「無限」にまつわっている。
「鶏が卵を生む。卵が鶏を生む。鶏卵鶏卵鶏卵鶏卵・・・」という「流れ」である。
ここに「信頼」を挿入すると・・・「先生が生徒を信頼するのが先か、生徒が先生を信頼するのが先か」という新たなるテーマが生まれるのである。
この脚本家はそういうゲームを楽しむタイプなのである。
教育評論家の後藤田(ふせえり)がテレビで「現代の教師へアドバイス」をしている。
授業中に生徒を注意して肩に手を置くのは「体罰」だし、男性教師が女子生徒を見つめたら「セクハラ」で、生徒一人と教師一人が同じ部屋にいる場合、教師が扉を閉じたら「監禁」となる。
「生徒と教師が信頼しあっていた時代」に生きていた女教師の幽霊であるアカネ(杏)にはそのアドバイスが意味不明すぎるのである。
熊本城・姫路城・名古屋城のプラモデルの箱が背後に積まれた棚をアカネの向こうに透視しつつ、霊感教師・神山暁(香取慎吾)はアカネの疑問に反発する。
「今はそういう時代なんだよ」
新しい経済成長を模索するこの国では当然のこととして貧富の差が拡大することが予想される。
しかし、経済の停滞中にはある程度の経済的豊かさが共有されており、逆に貧困層が少数化している場合がある。
経済的な豊かさはある程度まで社会的強者であることを保証する。
小学生時代に家庭が貧困であるがゆえに「着たきりすずめ」であることを俗悪な教師に揶揄されて心に傷を負い、その言動によって同級生からの迫害を経験した3年2組の女子生徒・岡本香奈(未来穂香)は・・・安全保障策としてクラス内で高い地位につくグループに所属することを必要としていた。
しかし、小料理屋を経営する母(春木みさよ)の懐具合は相変わらずさびしく、店を手伝う香奈にもそのことは充分に判っている。父親は政治家、母親はPTA会長である京塚理沙(山本舞香)をリーダーとするグループでの交際費の捻出は香奈にとってかなりの負担であった。お揃いのアクセサリーを購入するにも、一緒にお茶するにもお小遣いは不足気味なのだった。
そんな香奈の苦肉の策が、校内の生徒用ロッカーの空間使用権を切り売りすることだった。
理沙の私物を香奈のロッカーに置かせることで貧困による「つきあいの悪さ」の「埋め合わせ」をしていたのである。
ここで・・・「校則を遵守させることが生徒の将来のためであるという信念」を持つ学年主任で3年3組の岩名先生(高嶋政宏)の教育的指導が波紋を投げかけることになる。
共有スペースに置かれたロッカーの私物を没収することで知らぬ間に香奈を窮地に追い込むのだった。
早速、弁護士同伴で学校にやってくる理沙の母親(宮地雅子)は「校則というローカル・ルールよりも憲法で保障された基本的人権を守るべき」という論理で理沙に対する処分の取り消しと岩名先生の謝罪を要求する。
校長や、3年2組の担任である神山先生や、副担任の河合千穂(前田敦子)が対応に屈する中、副校長の霧澤和泉(真矢みき)だけは「校則違反を反省できないようでは転校を視野に対応を考えたい」と言葉穏やかに恫喝で攻撃的姿勢を見せる。
母親の権力が通じないと知った理沙は没収された香水「ワルキューレ」(市価・7200円相当)の弁償を香奈に求めるのだった。
岩名先生は霧沢副校長に恩義を感じるが、弁護士出身の副校長は「あなたのためにやったことではありません・・・親も親なら、教師も教師なのでは・・・」と疑問を呈する。
つまり、「生徒、親、教師の信頼関係の崩壊」について言及しているわけである。
これがまた別のゲームであることが今回の結末で明らかになる。
幽霊たちの協力で神山先生との信頼関係を構築した相田(神宮寺勇太)はクラス内での香奈の窮状を読みとり、神山先生に支援要請を行うのだった。
浮遊霊の吉岡さん(佐藤二朗)から事情を聞いた地縛霊のアカネは早速、神山先生に対応を促すのだった。しかし・・・かって生徒のいじめ問題の処理を誤った過去を持つ神山先生を逡巡する。
「俺は生徒から信頼されてないし、生徒を信頼することもできないんだ」
「そんな・・・鶏が先か卵が先か・・・みたいなこと言ってないで親子丼にして食べちゃいなさい」
「なんだよ・・・それ」
どちらが突然変異をしやすいかという遺伝形質的な問題ではなく、複雑な問題を論理の飛躍で処理する「彼女」の言動に唖然とする神山先生だった。
しかし、「死んでいるから何もできない」アカネの心情に心を動かされてしまう神山先生なのである。あるいは・・・アカネの特技である「食べ物の味を抜く呪い」に対する「対スピリッツ霊魂防御姿勢」を取らざるをえなかったのかもしれない。よせ鍋で肉団子のうまみを抜かれてはたまらないのだ。
家庭訪問をして・・・アカネの事情を知る神山先生。
「香水を返してよ」
「それは京塚理沙さんが心から反省しないと・・・」
「先生は私たちの事情を甘く見過ぎだよ」
「しかし、香水を返しても根本的な解決にはならないと思う」
「私には京塚グループの庇護が必要なの」
「それが・・・負担になってるんじゃないのか」
「よりよい選択の問題じゃないんだよ、どちらが最悪じゃないかの問題なの」
状況は複雑で「生徒をとことん守る」難しさを感じる神山先生。
やがて・・・追い詰められた香奈は学校を欠席する。
アパートの家賃の使い込みを考える香奈だったが・・・最後の最後で思いとどまるのだった。学校よりも家庭を選択する苦渋の決断だった。
ここまでが・・・ミステリにおける状況の提示である。
事件をどのように解決するか・・・はお茶の間の楽しみの一つになっている。
もちろん、多くのお茶の間は「意外な結末」を期待するだけでよいのである。
「持ち物検査」「没収された香水」「香奈への救済」がヒントになっている。
このゲームに対する神山先生のファール・プレイは「抜き打ちの持ち物検査の実施」であった。
学校の暗黙の了解による「持ち物検査」は「予告して実施」という「信頼関係不在のための妥協的骨抜き案」を逸脱する行為だった。
それを神山先生は「一人の生徒を守りきる」ために敢行するのだった。
香奈の鞄にさりげなく香水を戻し・・・再び没収する神山先生。
これによって・・・香奈は理沙に対して弁償の意志があったことを示すことができたのである。
理沙は香奈の「貢献」に報いる。そして神山先生を憎むのだった。
副担任の河合先生は神山先生の投じた一石に舌うちをする。自分が面倒なことに巻き込まれるのは厄介なことだからである。
「一体、誰を信じようというのよ・・・私を信じるのだけはやめて」なのである。
何も知らない岩名先生は「嫌われ役を買って出るのは教師の役目だ」と一応の好意を示す。自分の心情に一致したからである。
副校長は生徒に対し「教師の評価についての無記名アンケート」を実施する。
神山先生には・・・「最悪」という評価も「いい先生」という評価も寄せられる。
副校長は主題を解説する。
「教師は親や生徒のモラルの低下を嘆き、親や生徒は教師の質の低下を呪う・・・そして信頼関係は失われていった・・・しかし、どちらが先にそうしたのか。それは鶏が先か卵が先かと論じるのと同じ、食料として考えれば親子丼は問題なく食べられるってこと」
そして、もう一つのゲームの「ヒント」を出す。
「昔、ある人がそう言ってた」
可能性として・・・アカネが副校長の関係者であることが暗示されるのである。
もしも・・・アカネが副校長の恩師であれば・・・享年25のアカネはかなり昔の先生だったことになる。
一件落着の後で・・・ついに霊感生徒であるらしい・・・森野小夜(森迫永依)は自分の能力を神山先生に顕示するのであった。
しかし、キャスティング的に・・・この世のならぬものを共有する禁断の教師と生徒の関係に発展する可能性はあまりないと思う。
とにかく、「幽かな彼女」は「空飛ぶ広報室」や「35歳の高校生」を抑えて(火)を確保したのだった。
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