家族ゲーム~朝目が覚めたら息子は悪魔の飼い犬に~(櫻井翔)
幼子が母親に殺されて埋められる世界である。
すぐそこにある危機は本人にとっては死ぬか生きるかの瀬戸際なのである。
死んだ方がマシだと思うほどの人生もなく消えて行く命。
認知症の母親はそういうニュースを見るとつぶやく。
「こんな母親、ぶち殺してやりたいわ」
「どうやって殺すの・・・」
「本当には殺さないわよ。そんなことしたら、あなただって困るでしょう」
「そうでもないよ」
「恐ろしい子ねえ」
とにかく、それでも地球は回るのである。
すべての終焉を迎えるまでは・・・。
で、『家族ゲーム・第2回』(フジテレビ20130424PM10~)原作・本間洋平、脚本・武藤将吾、演出・佐藤祐市を見た。「東大合格率100%」のキャッチコピーに魅かれ、家庭教師・吉本荒野(櫻井翔)と契約した沼田家。大手企業に勤める沼田一茂(板尾創路)は謎の女・浅海舞香(忽那汐里) と社内恋愛中。家族にはあまり興味がない。妻の佳代子(鈴木保奈美)は前世紀の専業主婦である。ネットでの株取引を趣味として生きているのか死んでいるのかわからないような生き方をしている。最上飛鳥(北原里英)というセックスフレンドがいる長男の沼田慎一(神木隆之介)は県内トップの成邦館高校2年生で陸上競技でも好成績をおさめ優秀な人間としてもてはやされてる。しかし、自分以外の人間に対して冷淡な性格である。そんな家族に囲まれて、吉本が勉強を教えるのは登校拒否をしている問題児・沼田茂之(浦上晟周)・・・中学3年生の次男だった。
授業中に下痢をして脱糞してしまったことからいじめの対象となった茂之はこわくて学校にいけないのだった。
吉本は尾行や盗撮などによって家族のプライバシーを調査した後で、茂之に暴行を加え、「一週間、学校に休まずに行けたら家庭教師を辞める」と約束させる。吉本は茂之の父親とは「違約金1000万円」の契約を取り交わし、家族の退路を断つことに余念がない。
「先生は本当に人を殺したことがあるんですか」
「あるよ」
吉本は地獄の気配を漂わすのだった。
登校一日目、机には罵詈雑言が悪戯書きされており、椅子は瞬間接着剤で固定された無数の画鋲で針山地獄となっていた。茂之は凶悪な同級生たちが恐ろしくて教師に報告することもできないのだった。休憩時間には因縁をつけられ三万円を要求される。
茂之は「不気味な家庭教師を追い出すために一週間だけ耐える覚悟」だった。
しかし、吉本は凶悪な同級生たちに入れ知恵をして暴行行為をエスカレートさせるのだった。
茂之はそんなこととは知らずに「今日された凶悪な虐待行為についての作文」を国語の課題として家庭教師に命じられる。
茂之は慎一に借金を申し込む。恐喝行為を感じ取る慎一だったが黙って五千円を貸し与えるのだった。
朝食時に慎一は「茂之はまたいじめられている」と両親に報告する。
しかし、両親は特に何かをするわけではなかった。妻は夫に頼り、夫は妻に一任したからである。
登校二日目、茂之に対する残虐な非道な行為は「残金徴収」と称する肉体的暴行に変っていた。
傷だらけで戻った茂之を見て、母親は悲鳴をあげるが、吉本は課外授業と称して茂之を連れ出す。
二人を尾行した慎一は茂之に頭突きを伝授する吉本を見て両親に報告する。
「やられたらやりかえせか」と興奮する兄弟の父親だった。
吉本は暴力を伴う教育的指導を行う。
「領海侵犯をされても黙っていれば・・・いつかは相手が飽きると思うか」
「・・・」
「相手に恐怖を与えなければ滅亡するまで続くんだよ・・・お前でたとえるなら・・・おまえが死ぬまでやつらは楽しむんだ」
「死」をおそろしいことと感じるタイプの茂之はついに頭突きを会得するのだった。
登校三日目、狂犬たちの暴行に対し、一撃を加えた茂之は吉本の用意した逃走ルートを死に物狂いで逃げるのだった。
逃げ切った茂之を誉めた吉本は飼育が次の段階に入ったことを感じ、狂犬たちに新しい暴行現場を示唆する。
茂之への飼育計画を順調に進めながら、吉本は両親に対する調査も怠らない。
父親の浮気の気配をつきとめ、母親の空虚な近所付き合いを詰る。
「友達親子とか言うじゃないですか・・・あれって要するに育児放棄ってことですよね」
「私がそうだとおっしゃりたいの・・・」
「そんな風に聞こえましたか・・・最近、ご主人、妙に色気づいてますよね」
「何をおっしゃりたいの」
「ただ、感じたままのことを」
登校四日目、場所を変えた狂犬たちは茂之に対して電撃を食らわせるなど暴行の陰湿さを深めるのだった。もはや、リンチである。
興味本位で吉本を尾行した慎一は弟の集団暴行現場を目撃する。
「とめないのかよ」
「だまってろよ」
「死んだらどうすんだ」
「いいじゃないか・・・今までだって見て見ぬふりをしてたんだから・・・」
「・・・」
「殺されそうなやつの気持ち・・・お前にわかるのか」
「考えたこともないよ」
「そうだろうとも・・・」
暴行現場を微笑んで撮影する吉本。
「いいねえ・・・」
「狂ってやがる」
狂犬たちが去った後で、兄は弟の名前を呼んだ。
登校五日目・・・。体操をして朝食をご相伴に預かる吉本の日程が変わる。
「なんで・・・今日はこないんだ」といぶかる父親。
「もう・・・監視する必要がなくなったからだろう」と嘯く慎一。
思わしげに子供部屋を見つめる無力な母親。
しかし・・・吉本はやってきた。
「どうしたんだ・・・登校時間をとっくにすぎてるぞ」
「いかない・・・もう、負けでいいです・・・」
「そうか、じゃ、俺の犬になるんだな」
「はい・・・」
「じゃあ、学校に行け・・・」
「そんな・・・約束が違うじゃないですか」
「違わない。お前は犬だから・・・俺の言うことは何でも聞くんだ」
吉本は力づくで茂之を連れ出すのだった。
校門前で泣きじゃくり倒れ伏す茂之。
「やめて・・・死にたくない・・・先生の言う通りだよ・・・あいつら僕が死ぬまで・・・いじめを楽しむんだ・・・僕は殺される」
「そうか・・・死にたくないか」
「・・・」
「つまり、生きたいんだな」
「・・・」
「いいねえ・・・命を大切にするのは人として正しい事だよ・・・よく、理解したね。何かご褒美をあげないとなあ」
憐れな子犬を悪魔は撫でまわす。
教室に茂之とともに現れた吉本。
始業前のひと時を利用して・・・生徒たちに告知する。
「私は茂之くんの家庭教師です・・・」
そして、坂本は生徒たちの一人一人に宛名つきの封筒を渡すのだった。
「今日は、茂之くんの気持ちを代弁しにきました。大便といってもうんこはもらしませんよ」
おやじギャグに冷たい生徒たち。気を取り直す吉本。勝手に脱線するなよ。
「・・・今度苛められたら、茂之くんは自殺するそうです。皆さんの手元にあるのと同じ遺書を自宅に残します」
「・・・そんな、俺たちは無関係じゃないか」
「君たちは犯罪を黙認してたんだろう」
「犯罪ってなんだよ」
「暴行傷害は立派な犯罪ですよ・・・証拠もあります」
「これは脅迫じゃないか」
「そうですよ。しかし、私は君たちの親でもなければ教師でもありません」
「・・・」
「いいですか・・・今度、茂之くんが苦しむようなことがあれば・・・皆さんの人生が滅茶苦茶になることを覚悟してください・・・以上です・・・」
静まりかえる教室。茂之の椅子は壊れていた。茂之はそれを教師に報告することができた。
暴力教室は沈黙の教室に変わったのである。
もちろん、茂之がターゲットにならなくなった以上、次の生贄が選ばれるのだが、それは別の話なのだ。死ぬか生きるかの瀬戸際に他人の面倒を見てはいけないと津波が教えてくれただろう。てんでこに逃げるしかないのである。
地獄から生還した気分を味わう茂之。
「勘違いするなよ・・・お前は俺の犬なんだからな」
「・・・わん」
僕は知っている
僕は知っている
昔に戻ってやりなおすことはできない
昔に戻ってやりなおすことはできない
それだけは絶対確かなことなんだ
闇の中で誰かが吉本を訴追する。
父親は浮気をして、母親は浮気の証拠を噛みしめる。
とにかく、吉本よりも優位に立とうと・・・慎一はセックスフレンドの兄が東大生であることを利用して・・・吉本の学生時代の写真を入手する。
本当の吉本荒野は忍成修吾に似た男だった。
「あんた・・・一体誰なんだ」
しかし・・・吉本は少しも騒がない。
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