南北戦争が駄目なら普墺戦争があるさでごぜえやす(綾瀬はるか)
南北戦争で使用された新型銃・スペンサー銃は画期的な後装式連発ライフル銃であったが、スペンサー社の倒産、権利を買ったウインチェスター社の思惑があり、輸入が困難な状態にあった。
薩摩や長州はこれに準じたミニエー銃(仏国)、スナイドル銃(英国)への武装更新に着手していたために、価格は高騰した。
出遅れた感のある会津藩が・・・プロイセンのシュンドナールドゲベール銃(ドライゼ銃)に着目したのは山本覚馬の面目躍如というところだろう。
1866年にヨーロッパではドイツ連邦を離反したプロイセン王国と連邦の中核であったオーストリア帝国との間で普墺戦争が勃発した。
この時、威力を発揮したのがプロイセンのドライゼ銃である。
オーストリア軍の銃歩兵が立ったまま、戦闘したのに対し、ドライゼ銃は伏射ち連射が可能であり、オーストリア軍に壊滅的打撃を与え、戦争を早期に集結させたのである。
これによって匍匐前進、伏射狙撃という戦術が生まれたのだった。
しかし、地球の反対側に発注した新型銃は会津軍の戦争には間に合わなかった。
後に銃代金の未払いを巡ってレーマンハルトマン商会と旧会津藩には一悶着生じるのだった。
しかし、陸軍省を通じての交渉などを経てドイツの死の商人たちは日本軍部に食い込んでいく。
黒い幽霊たちは転んでもただでは起きないのである。
で、『八重の桜・第17回』(NHK総合20130428PM8~)作・山本むつみ、演出・一木正恵を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は山本覚馬、八重の弟・山本三郎描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。戦死順で父・権八に先立つ不孝をお許しくださいなのですな。いよいよ、登場人物たちが死んで死んで死にまくる季節がそこまで・・・。しかし、あくまでマイペースでお願いいたします。
慶応二年(1866年)十二月、孝明天皇の崩御により、一年の間に将軍と天皇が死亡するという事態が生じる。明けて慶応三年(1867年)一月、明治天皇が即位する。16歳(満14歳)の少年天皇の誕生である。実母・中山慶子の父・権大納言忠能はかって長州藩と呼応した疑いで蟄居処分となっていたが朝廷に復帰。新帝誕生とともに長州藩の巻き返しは確実なものとなったのである。幕府も新将軍・慶喜の時代となり、前帝の妹であり、前将軍の正室である皇女和宮の公武合体のための降嫁は虚しいものとなった。徳川慶喜の父は水戸・徳川斉昭であり、母は有栖川宮吉子女王である。関白・二条斉敬の母は斉昭の姉であり、慶喜とは従兄弟となる。また和宮の元婚約者・有栖川宮熾仁(たるひと)親王は吉子女王の兄・韶仁(つなひと)親王の子・有栖川宮幟仁(たかひと)親王の子であり、血縁であった。宮家・公家の血族を持つ慶喜は幕末の混迷をさらに深める要因となっていく。慶喜の異母弟であり斉昭の十九男の喜徳は慶応三年三月、会津藩主・松平容保の養子となって会津藩の運命をより過酷なものに追いやって行く。五月、土佐藩士・乾退助は京都・小松帯刀の屋敷で薩摩藩士・西郷吉之助と密会。薩摩土佐討幕の密約を契する。土佐藩主・山内容堂はこれに同意したとされる。長州薩摩同盟に続き、薩摩土佐同盟が成立したことにより、討幕はついに現実の色彩を帯びてきたのである。
山本覚馬は瀬戸内海を東に向かう船上にあった。岩倉友山暗殺失敗の後でもはや、開戦は必至と悟った藩主・容保の命を受け、新型銃の調達を長崎で果たした帰路である。すでに視力回復は絶望的なものとなり、忍び頭の任は解かれていた。会津在京忍びの生き残りである斉藤一が護衛を勤めている。
乗客に見慣れた顔を発見する。
科学忍者隊の坂本龍馬だった。同道しているのは薩摩のくのいちであり、大奥しのびでもある仲野である。
「これは・・・山本様・・・」と声をかけてきたのは龍馬だった。
「・・・」相手に気がついて覚馬は苦虫をかみつぶした顔となった。
「勝様が残念がっていましたぞ・・・覚馬め、曇っているのは目だけではなかったかと」
「・・・」揶揄された覚馬には返す言葉はなかった。藩内でも知る者の少ない眼病のことを指摘されたことに軽い驚きを覚えただけである。
「人はつまらぬものですな・・・家に縛られ、藩に縛られ、国家に縛られる」
「家を守り、藩を守り、国家を守ってこそ・・・人ではないのか」
「さあ・・・それで守れるものならば・・・忍びたちの死は無駄死にではなかったと申せましょうな」
「・・・」覚馬は龍馬の口調に単なる揶揄ではなく義憤があることを感じ取った。龍馬は覚馬を責めているのである。
「主命じゃ・・・あの者たちはみな・・・藩命に殉じたのだ・・・」
「つまらんのう・・・拙者のように・・・家も捨て、藩も捨て、国家も捨ててこそ・・・面白く生きることができるとは思わんかのう・・・」
「それが・・・科学忍者の道か・・・」
「山本様の師匠でもある象山先生の教えじゃき・・・」
「・・・」
「このくのいちは・・・大奥の忍びじゃが・・・山本様より、よほど道理がわかっちょる」
くのいちは目で龍馬を牽制しつつ、覚馬にむかって微笑んだ。
「このくのいちの主は恐ろしいお方やき・・・薩摩藩も幕府もない世の中を生みだそうとしておるんじゃ・・・しかも・・・そうなると知っちょるお方じゃ」
「なんだと・・・」
「長崎で・・・山本様が贈られたハルトマン商会のスペンサー銃はのう・・・拙者からのプレゼントじゃ・・・兄弟子に申し上げる・・・御身大切になされよ・・・」
茫然とした覚馬が目を龍馬に戻すと、その姿は消えていた。
はっとした覚馬が目を転じるとくのいち仲野の姿もない。
二人の天才忍者は船上から姿を消していた。
舷側から身を乗り出した覚馬は海上に立つ二人を見た。
何か・・・黒いものがその足元にあった。
「科学忍法・・・海中戦艦くじら丸」
龍馬の言葉を残して二人は海中に没するのだった。覚馬は白昼夢を見ている気になった。
・・・覚馬から贈られたスペンサー銃を構え、八重は樹上にいた。
一人、また一人と会津くのいち衆に追い立てられた草の者が射程距離に現れる。
八重は淡々とそれらのものを一撃で仕留めて行く。
「兄上・・・この銃はいい銃です・・・発射の後の煙と反動が凄いのは惜しいところでごぜえやすが・・・」
八重は手作りの弾装を入れ替えた。
会津の山野に轟音が響く。
「しかし・・・これほどの忍びのものが里に入り込んでいるとは・・・油断なんねえな」
八重が引き金を引く度にまた一人、異国の忍びが散って行く。
そして八重の心には冷え冷えしたものが入り込んでくるのだった。
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