鹿児島海ノ侵犯アリ赤間関ノ入寇アリ、夷狄猖獗ノ極、切歯扼腕シ国ヲ憂ウでごぜえやす(綾瀬はるか)
天皇の妹である和宮を14代将軍・徳川家茂に嫁がせ、公武合体を推進させた司令塔として・・・佐幕派とみなされ、攘夷志士の暗殺対象となった岩倉友山は長州勢の京からの駆逐によってようやく一息ついた。
そして、再び天才的な政治家としての力量を発揮し始める。そして朝廷への意見書「叢裡鳴虫」を示すのだった。
その冒頭で・・・「攘夷の未だならざること」を「朝廷を欺瞞する幕吏の処置の失策」と断定する。
そして、自ら推進した和宮の婚姻について、「皇妹の江戸にあるは誠に無用の事たり」と断じるのである。
この辺りのことが「変わり身の早さ」を疑われる要因になるのだが、早い話が情勢を分析し、その時期に最も適切な判断を下しているにすぎない。
凡夫がそれについていけないだけなのである。
とにもかくにもこの鋭利な刃物のような策略家がいなければ、明治維新などなかった・・・と言えるのだった。
「異国の船によって、鹿児島や下関は攻められっぱなしではないか、ああ、何をやっているのだ」
岩倉卿は憂国の思いで猛烈に時世を痛むのだった。
で、『八重の桜・第14回』(NHK総合20130407PM8~)作・山本むつみ、演出・加藤拓を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに花嫁となり、本作品のヒロインとして春爛漫の表舞台に躍り出る山本八重の新妻ヴァージョンと正四位下前左近衛権中将にして村上源氏の血を引く暗黒公卿・岩倉友山こと岩倉具視の二大イラスト描き下ろし展開でワンダフルでございます。八重、かわいいよ八重でございまするな~。次々とフラグがたちまくるので追い立てられる気分でございましょうが、画伯におかれましてはあくまでマイペースでお願いいたします。
1865年4月、南軍の首都リッチモンドが陥落し、リー将軍が降伏。米国における南北戦争は北軍の勝利によって集結した。武器商人たちは無用になった中古商品の転売先を求めることになる。元治二年四月(1865年5月)、政情不安を受けて慶応に改元。慶応元年となり閏五月、第14代将軍・徳川家茂が三度目の上洛。第二次長州征伐の名目上の出馬のためであった。これより家茂はその逝去に至るまで大坂城に留まることになる。前年に将軍後見職を免ぜられ、禁裏御守衛総督となった一橋慶喜はこの年に政務輔翼を命じられている。孝明天皇を補佐する中川宮と関白・二条斉敬を中心とした朝廷と、一橋慶喜、京都守護職・松平容保、京都所司代・松平定敬の幕府代理は京都政権とも言える複雑な立場に置かれ、江戸における幕府官僚には疑心暗鬼による危機感が芽生えることになる。しかし、この体制によって開国法案ともいえる安政五カ国条約の勅許も得られ、公武合体は一応の成果を収めるのである。しかし、幕府と朝廷による権力抗争が本格化すると、朝廷と幕府のパイプ役である一橋・会津・桑名体制はたちまち、その存在意義を失うのであった。そうした矛盾を内包しつつ、第二次長州征伐の準備に朝廷と幕府は束の間の合意をもって邁進して行く・・・。しかし、将軍家茂の余命は半年、孝明天皇は一年を残すのみなのである。
大坂城の居室で・・・家茂は一人になった・・・。
この年、家茂は数えで二十歳となる。十三歳で将軍となってから七年の月日が過ぎていた。皇女和宮を正室に迎えてから五年になるが、未だ二人の間に子はない。それどころか家茂にはまだ後継者が一人もいないのである。養子とした徳川茂承は二歳年上である。そのために上洛中も将軍としての勤めを果たさなければならなかった。
大奥を支配する天璋院によって選抜された大奥側女衆が大坂城の奥の間に待機している。しかし、家茂は疲れていた。
家茂は懐中から呼子を取り出し、一振りする。
音もなく忍びのものが現れた。
当代の公儀隠密頭・服部半蔵である。
「三蔵・・・」
家茂は当代半蔵のあだ名を呼んだ。養母・篤姫から受け継いだ隠密頭の支配権によってもっとも心を許せるものが・・・忍びの三蔵だったのである。
「ここに・・・」
「物語などせよ・・・」と家茂は命じた。
「何をご所望なされるか」
「上方の忍びどもはいかにあるか・・・」
「この三蔵・・・上様のご警護をつかまつりますれば・・・噂話ほどにしか存じませぬ」
「それでよい・・・」
「上方には・・・もはや、公儀隠密の手は及びませぬ・・・」
「そうか」
「しかしながら・・・天璋院様の支配による薩摩忍びが代理を務めまする。大奥くのいちの仲野はその一人でござりまする」
「おお・・・あの女か・・・」
家茂は一度、伽ぎを命じた仲野の味を思い浮かべる。
「京の町には薩摩忍びの他に、長州しのび、土佐しのびなども潜んでおりますが、やはり天皇しのびが力をもっておりまする・・・」
「一橋や・・・会津はどうじゃ・・・」
「ふふふ・・・水戸しのびも壊滅し、会津にいたっては・・・所詮、国許の隠し目付け程度のもの・・・児戯に等しゅうございましょう」
「さようか・・・」
「憐れにも・・・ただ踊らされるのみ・・・と申しましょう」
「会津藩預かりの新撰組などは浮き名を流していると聞くぞ・・・」
「あれは・・・所詮ははぐれた忍びのふきだまりのようなものですからな・・・川面に浮かぶ木の葉のようにやがて消えゆく宿命でございましょう」
「はかないのう・・・」
「天皇の忍びとやらはそれほどに・・・手強いか・・・」
「内裏には古来、四鬼と申す忍びが潜んでいるそうでございます」
「うむ」
「家康公以来・・・数多くの公儀隠密が挑みましたが・・・未だその正体を暴いたものはありませぬ」
「隠密たちは・・・どうなったのじゃ」
「帰ったものは一人もおりませぬ・・・」
「それは・・・おそろしいの・・・」
「御意」
「余は不思議であった・・・なぜ・・・徳川の世にあって・・・朝廷が存続しておるのか・・・それが理由か・・・」
「さようでございます。将軍家も上忍である以上、後に先にも実力があるばかりなのでございます」
「義母上様の実力があってもか・・・」
「さあ・・・上に立つものはそれぞれの思惑がございましょうからな・・・」
「ふふふ・・・三蔵・・・上にたっているのは余であるぞ・・・」
「これはしたり・・・三蔵めの口がすべりました・・・」
「よいわ・・・余が飾り物であることなど・・・先刻承知のことじゃからのう・・・」
「・・・」
「さて・・・飾り物は飾り物の勤めをしなければならぬ・・・さがってよいぞ・・・」
将軍が奥の間に向うために立ちあがった時、すでに居室には三蔵の姿はない。
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