今週は圧巻だったなあ・・・。
まさに夢は現実となり、現実は夢となる・・・である。
もっともキッドのブログでは夢も現実もフィクションに過ぎないというのが前提である。
起承転結起承転結で二度目の結となる第八週目。
もっとも、週末は引くという要素があるので常に結直前とか、起直後の感じも必ずあるわけである。
また、構成論的には六カ月を二ヶ月づつ序破急でまとめるという考え方もある。
来週は五月の終りが来るので序盤の終了にあたる。また・・・盛り上がるのだ。
今週はクドカン監督の映画があって宣伝のために古のブラウン管にクドカンが露出していたわけだが・・・ヒロインの失恋、親友との三角家系に批判の声ありである。「すみませんね・・・へっへっへ」と笑っている大きな中学生クドカン・・・なんだかかわいいぞ。
「何もいいことがなかった」とヒロインが思っていた東京から・・・北三陸にやってきて・・・「いろいろなものを入手した」と思ったここまで。
しかし・・・手にしたものが滑り落ちて行くのが今週のメイン・テーマである。
その喪失の連打にお茶の間は阿鼻叫喚なのであるが・・・それこそが青春の序章ですからな。
なにしろ・・・「あまちゃん」というタイトルのドラマなのである。
「あまちゃん」だからこそ・・・いろいろと楽しいし、「あまちゃん」だからこそダメージが大きいのである。
二度目の起承転結の本当のタイトルをおさらいしておく。
第5週「おら、先輩が好きだ!」
第6週「おらのじっちゃん、大暴れ」
第7週「おらのママに歴史あり」
第8週「おら、ドキドキがとまんねぇ」
そして次なる第9週は「おらの大失恋」である。トドメを刺しにくるのだな。
で、『連続テレビ小説・あまちゃん・第8週』(NHK総合20130520AM8~)脚本・宮藤官九郎、演出・吉田照幸を見た。1984年の夏・・・北三陸から東京に旅立った一人の女子高校生・天野春子(小泉今日子)・・・。そして2008年の夏。春子は一人娘のアキ(能年玲奈)を連れて故郷の街へ。東京で何があったのかは不透明ながら・・・アキは母親の故郷で祖母である海女の夏(宮本信子)に出会って海女の見習いになり、アイドル志望のユイ(橋本愛)に出会って春子がアイドル志望だったことを知る。そして南部ダイバーの種市先輩(福士蒼汰)と出会い初恋をする。17歳になったアキは長い幼年期を終えて・・・ついに青春の始りを感じるのだった。気がつけば祖父・忠兵衛(蟹江敬三)や父・正宗(尾美としのり)も集い、賑やかになった天野家。しかし・・・永遠に続くものなどこの世にはないことをアキは思い知ることになるのである。
月曜日 さよなら、大好きなおじいちゃん(蟹江敬三)
青葉茂る夏、実りの秋を通じて多くの収穫を得たアキ。北三陸に来てから半年が過ぎていた。そして・・・季節は十一月の終り。ここから・・・北三陸のアキの最初の冬が始るのである。「あまちゃん」の謎の一つである「春子の青春」の前半部分(家出するまでの真相)が明らかになり・・・おそらく後半のヒントになっているだろう1986年の架空のヒット曲「潮騒のメモリー」が披露される。家出した若き日の春子(有村架純)がその二年後にこの歌とどのように出会うのか・・・その謎解きはまだまだ先の話なのだろう。しかし、アキは初めて聞いた母の歌声に痺れるほどの感動を覚えるのだった。
送別会から一夜明けて終日休養した翌日、遠洋航海に出る忠兵衛の旅立ちの日が来た。羽織袴の正装で遺影を撮影する忠兵衛。せっかくだから家族撮影をすることに。しかし、別離が悲しい夏ばっぱである。
「一緒に写真撮ろうよ」とアキ。
「子供みたいに拗ねて」と春子。
「しょうがねえ・・・夏さんが来ないなら家族写真は中止だ・・・家長の夏さんがいなくちゃ・・・意味がない」と忠兵衛。
漸く気持ちを抑えて夏はウニ丼工場から出てくるのだった。
「パパも早く・・・」とアキに呼ばれて「え・・・いいの」と正宗。
「なに・・・遠慮してんのよ」と春子に言われ、恋のライバル大吉(杉本哲太)や、漁協の組合長(でんでん)や海女のかつ枝(木野花)、事務員の花巻珠子(伊勢志摩)らに背中を押されて天野一家に加わる黒川正宗だった。
向かって左から春子、忠兵衛、夏、アキ、正宗・・・五人の記念撮影だった。
この五人が再び会う日が来るのだろうか・・・それは新たなる謎である。
しかし、まだまだ幼いアキにはそれほどの不安はない。
「死なないで帰ってきてけろ」と明るい笑顔を心臓に不安のある忠兵衛に向けるのだった。
送別会で聞いた娘の歌声を思い出しながら、大吉の運転する車で北三陸の海辺を走る忠兵衛。向かうは遠いインド洋なのである。
忠兵衛の去った北三陸の街にもクリスマス・シーズンがやってきた。
夏は孫と一緒にはじめてクリスマス・ツリーを飾る喜びに一瞬、淋しさを忘れる。
アキは潜水士の資格を取るための勉強を頑張っていた。
しかし、鰤(ぶり)を(ししょう)と読んでいるようでは筆記試験の道は険しいのである。
「頑張っている天野は好きだ・・・でもテストは百点満点で三点だ」と磯野先生(皆川猿時)に言われて「じぇじぇっ」となるアキだった。
その頃、アキの恋の行方を案じたユイは種市先輩を待ち伏せていたのだった。
「ちょっと・・・アキのこと・・・どう思っているのよ」
「そっちには関係ないべ」
「関係あるわよ・・・私たちはいちれんたくおなんだから」
「一蓮托生(いちれんたくしょう)だろ」とツッコミを入れる通りすがりのヒロシことユイの兄・足立洋だった。ユイ・・・アキのアホの子が感染したのか。
「天野は・・・頑張ってると思ってる」
「は、出たよ。私、頑張ってるって言葉が嫌い。頑張ってるってことは報われていないってことでしょ。アキちゃんはあんたのことが好きなのに・・・頑張ってるって言葉でごまかして・・・」
「・・・」
「・・・」
交渉決裂だが・・・なんだか妙なムードが二人の間に漂うのだった。
そして・・・終電なので二人は一緒の電車で帰っていったのである。
スナック「梨明日」ではアキが試験勉強に打ち込む横で大人たちが下世話な会話を楽しむのだった。
「誰よ・・・」と水口琢磨(松田龍平)の存在が気になる春子ママだった。今夜のシフトは春子と美寿々(美保純)が接客である。琥珀掘りの小田勉(塩見三省)の弟子と聞き・・・眉をひそめる春子。
「怪しい・・・勉さんに学ぶことなんてないでしょ」
「いや・・・ないこともないだろ」と保(吹越満)・・・。
「何よ」
「すぐにはさっと出てこないけどな」
「水口琢磨って・・・ミズタクか・・・」と春子。
「水炊きみたいだな」と大吉。
ちょっと受ける客一同。
「そんなに面白いですか」
「いや・・・それほどでもない」と吉田(荒川良々)
「ねえ、独身なの・・・」と美寿々。
「がっついちゃだめよ~」と春子。
「僕・・・年下駄目なんですよ」
「え~。私年下に見える~?」
下世話に盛り上がる一同だった。
「うっせえな」とアキ。「人が勉強してるんだから静かにしてけろ」
「スナックで受験勉強してる方がおかしいんだよ」と保。
唇を尖らせるアキに話しかけるミズタク。
「潜水士の資格をとって将来どうするの」
「わかんね・・・一年中海に潜っていたいから資格とるんだ」
「でも・・・君、すごい人気でしょう・・・訛りすぎる海女とかってテレビにも出ていたし、もったいないと思うな。普通に可愛いし・・・もっと知らない世界を見てみたいと思わないの」
「なんだこいつ・・・」
「こいつって・・・」
「何言ってるのか・・・さっぱりわかんね」
「普通にかわいいって言われて喜ぶ親はいないわよ・・・異常にかわいいって思ってんだから」
ついこの間、娘にむかって「ブス」って言っていた情緒不安定な母だった。
「そのぐらいにしてください」と割って入るヒロシだった。
「君は・・・」
「マネージャーです」
なんとなく火花散る二人だった。
何気なく磨いていた琥珀から8500万年前の樹液に包まれた蟻を発見するミズタク。
「初めて見た」と感動する勉に「やめちまえ」とつぶやく吉田だった。
そこへ・・・正宗がやってくる。
「アキ、お待たせ~」
「おそいよ~」
「ごめ~ん、また道間違えちゃった・・・」
アキのお迎えに来た正宗だった。すっかり天野家にいついている正宗なのである。
さりげなく正宗について聴きこむミズタク・・・やはりアキに異常な関心を抱いているのだった。
いつの間にか・・・アキと仲良しのパパに戻っている二人を見て・・・春子の不可解な破壊衝動が噴火するのである。
次の日・・・朝食時にお迎え場所の相談をするベッタリ父娘に釘を刺す春子。
「ちゃんと電車で帰ってきなさい・・・ママはパパと大事な話がありますから・・・」
どこまで行ってもよくわからない春子の離婚願望が・・・ついに審判の日を設定したらしい。
不安に慄く・・・正宗だった。
お茶の間にもほとんどわからない春子の心の闇・・・その全容が解明されるのは一体いつのことなのだろうか。
まさか・・・正宗はアキの本当の父親ではなかったりして・・・。
まあ・・・すべての愛妻家にとって妻に離婚を言い出されることほど恐ろしいものはないのだが。そして・・・不安定な女心はクドカンの基本的な主題でもある。二重人格のこけし(加藤あい)、情緒不安定の女教師(薬師丸ひろ子)、男になっちゃう女(篠原涼子)、よろめき続けるバスガイド(伊東美咲)、スーパー戦隊になっちゃうタクシー運転手(小泉今日子)・・・枚挙にいとまがないのである。基本、こわいものみたさなんだな。
火曜日 さよなら、大好きなお父さん(尾美としのり)
「君に、胸キュン。/イエロー・マジック・オーケストラ」で始るアキの夢。
いきなり、夢だとことわるナレーション(宮本信子)である。準備室で「ずぶんとつきあってくれ・・・ずぶんは天野が好きだ・・・」と種市先輩に告白されるアキ。「おらも先輩が好きだ」と応じたアキに種市先輩がキスしようとすると場面は真っ白い水中に変わり南部ダイバーの潜水服着用のためにヘルメットが邪魔で口付けできない二人。例によって磯野先生が天野~天野~と叫ぶと・・・覚醒するアキだった。
目覚めれば喫茶「リアス」のカウンターである。シフトは夏ばっぱ。
「おら・・・夢見てた」
「どんな夢・・・」と訊くユイ。
「えへへ・・・種市先輩に告白されてキスしそうになった・・・」
カウンターでニヤニヤする吉田くん。血相を変えるヒロシ。
「いい加減に目を覚まして・・・」
「おら・・・今、目が覚めたとこだ」
「そういう意味じゃくて・・・今は大事な時でしょ」
「そうだ・・・一月に試験がある・・・」
「それも大事だけど・・・私たちJJガールズのことよ・・・」
「知名度があがって一段落したんだよな・・・ここで人気が低迷するのはジモドル(地元アイドル)にはありがちなことなんだ」と分析するのはヒビキ一郎(村杉蝉之介)である。
とあるネットの掲示板には・・・書き込みがあった。
【訛りすぎる海女~アキちゃん~★3】
621:名無しのウニさん
朝、目が覚めたらウニの言葉が理解できるようになった・・・
622:名無しのウニさん
アキって誰・・・?
623:名無しのウニさん
彼氏できたらしい
624:名無しのウニさん
終了~
625:名無しのウニさん
ブスwwwwww
「・・・天狗になってんじゃないの・・・ブス」と掲示板を読み上げるヒビキに襲いかかるアキ。
「なに言ってんだ・・・まだ彼氏なんていねえし・・・お前にブスって言われる筋合いはねえ」
「お、おれじゃないよ・・・書き込みだよお」
「なんとかしないと・・・来年は北三陸鉄道リアス線開通二十五周年だし・・・」と吉田。
「ところで・・・駅長(大吉)は・・・」とヒロシ。
「なんだか・・・きたてつより大事な会議があるそうだ」
大吉は・・・天野家で・・・春子と正宗の離婚協議に参加していた。
離婚届を前に春子を問い糺す正宗。
「未だに・・・いつ春子さんに嫌われたのかわからない」
「正宗さんは・・・そのままでいいの・・・変わらなくちゃいけないのは私なの」
「だったら・・・僕も一緒に変わるよ」
「だめなのよ・・・正宗さんは東京での本当の私を知ってるもの・・・24年前に捨てた故郷に戻って母親や地元の人と向き合うためには・・・東京の本当の私を一度捨てなければならないの・・・」
「さっぱりわからない」
「だって・・・正宗さんは私のこと全部知ってるでしょ」
「確かに・・・君のことを知っているのは世界で僕一人だろう・・・」
「だから・・・私のことは嘘でもいいから忘れてください・・・」
相変わらず何を言っているかまったく不明の春子だったが・・・大吉にとっては何故か・・・敗北感が湧き上がる二人の会話である。
(俺の知らない春子ちゃんのことをこの癖っ毛の童顔野郎はすべて知っている・・・俺の知っている春子ちゃんのことはこの間、こいつに全部話してしまった・・・ああ、俺はなんておしゃべり豚野郎なんだ・・・・)
大吉の苦悩・・・面白すぎるのだった。
「じゃ・・・せめて・・・クリスマスイヴまでは三人で・・・」
「だめ・・・」
「だって・・・サンタクロースどうするの・・・」
「あ」・・・はっとする春子であった。
その頃、喫茶「リアス」でも・・・アキの言葉に一同が腰を抜かしていた。
「今年もサンタさんにお手紙書いたけど・・・引っ越したんで来てくれるかどうか、心配だ」
「本気で言ってるの・・・アキちゃん」
626:名無しのウニさん
サンタがいるとか・・・天然ボケかましてんなよ
この天然ブスwwwwww
やはり書き込んでいたヒビキだった。
「サンタはいるもん・・・信じていれば来てくれるもん」
「そんなこといったら河童はどうなんだよ」と吉田。
「河童は関係ないべ」
「河童も天狗もUFOもツチノコも関係あるよ」
「おら、海坊主を見た」と夏ばっぱ。
「じゃ、心霊写真は・・・」とヒロシ。
「金縛り、金縛りは」とアキ。
「私・・・なんにもみてない」と落ち込むユイ。
「なんだこれは・・・何の話だ」とまとめつつ叫ぶ吉田だった。
そして・・・2008年のクリスマスイヴがやってきた。
夏ばっぱが腰を抜かすほどに・・・サンタクロースに特殊メイクで仮装した正宗。
春子に離婚届を渡すと・・・秘密の小部屋に向かう正宗サンタ。
アキはアホの子全開で寝ていたが気配に気づき、正宗のマフラーを攫む。
「サンタさん・・・よく・・・ここがわかったね」
「サンタが知らない道なんてないよ・・・アキちゃん」
「プレゼントありがとう・・・」
「君のお父さんからメッセージを預かっています・・・アキ、お父さんとお母さんは別れて暮らすことにしたよ・・・」
「それが・・・二人のためにいいことなら・・・」
「サンタはそう思わないけどな・・・とにかく・・・お母さんのことをよろしく頼む・・・それからお父さんはいつだってアキのお父さんだから・・・困ったことがあったらすぐに頼りなさい・・・メリー・クリスマス、アキ・・・」
正宗サンタの言葉をこっそりと盗み聞きする春子だった。
「何もこんな夜更けに・・・」と敵に塩を送る大吉。
「だめよ・・・気がかわるかもしれないから」と春子。
正宗は夏ばっぱにマラソンランナーの遺言のような別れのあいさつをする。
「ウニ・・・おいしゅうございました・・・ブリ大根おいしゅうございました・・・まめぶ汁おいしゅうございました・・・」
「春子ちゃんのことは俺にまかせてくれ」
「まかせはしませんが・・・」の言葉に何故か激しく頷く春子。「これからも天野家を見守ってやってください」
「俺・・・明日からあんたのことはマサって呼ぶ」
「いませんけどね」
「心で呼ぶ」
リュックを背負って玄関に立つ正宗。
「また・・・個人に逆戻りか・・・」
「そんなこと言わないで・・・」
「春子さん・・・幸せにしてあげられずごめんなさい」
「私こそ・・・身勝手な女ですみません・・・なんだか泣けて来た」
もう・・・超銀河的に意味不明な春子だった。
正宗が去った後で・・・起き出してくるアキ。
「サンタさんは・・・」
「ソリに乗って帰っちゃったよ」
「なんだあ・・・ママはプレゼントもらったの・・・」
「うん・・・」
正宗・・・春子にも毎年プレゼントしてたのか・・・。
春子は離婚届けを握りしめ・・・そっと結婚指輪を外す。
そして・・・なぜか隠した指で愛おしげにリングを撫でるのだった。
水曜日 さよなら、初恋の先輩(福士蒼汰)
このタイトルがおかしいと思う人は多いかもしれないが・・・お茶の間的には・・・もっと早く、アキの初恋が実らないことを悟っていたはずである。種市先輩はいつだって・・・アキではなくユイを見ていたのだから。
それよりもさよならしたのは2009年の一月である。前日の泣き笑いのクリスマスから一挙に2009年の二月に話は進み、五月まで続くという雪景色に北三陸市は装いを新たにしているのである。大晦日とか、除夜の鐘とか、お正月とかの描写は加速の最中に消え失せたのだな。お年玉をめぐってアキが「お年玉・・・お年玉」とアホの子全開であたふたわななく姿は妄想で補完しなければならないし・・・「絶対合格」「絶対デート」と秘密の部屋に貼られたアキの猛勉強・・・そして試験本番なども・・・すべてスルーなのだった。そういう時間稼ぎが必要ないほど・・・クドカンワールドは面白全開なのだな。
しかし・・・失われてしまった「あまちゃん」の2009年一月・・・なんだか惜しい気持ちがします。一日眠り込んで一曜日すっとばした気分です。
とにかく・・・アキがサンタにもらったプレゼントは携帯音楽プレーヤーで・・・すっかりアキのお気に入りのアイテムになっているのである。授業中も平気で愛用なのである。
そして・・・潜水士の試験の合否の発表から話は再開する。
「青木、大野、坂本以外は全員合格」と物凄い発表方式を選択した磯野先生。
「おらは・・・おらは・・・」とアホの子。
「不合格でねえんだから合格だべ」
「わーい、やった~」と教室を飛び出すアキだった。
「そこまで・・・自由かっ」と茫然とする教室内の一同だった。
プールにやってきたアキは種市先輩の元へ駆け寄ろうとして水中に没するのだった。
「天野?・・・天野~」
磯野先生に髪を拭いてもらうアキ。制服はびしょぬれである。
「よくやったな・・・」とアキの合格を讃える種市先輩。
アキは慌てふためきながら先輩に接近する。
「しょれより・・・合格・・・やくしょく・・・約束・・・デートしてけろ」
「あ・・・ああ・・・そのうち」
「今日がいいです・・・おら・・・しょのために・・・がんばったんで・・・」
その時・・・種市先輩の脳裏に閃くユキのフラッシュカット。
≪頑張れってなんですか・・・アキちゃんのことどう思っているんですか≫
「頑張ればいいってもんじゃないべ」と思わず口走る種市先輩だった。
この時点でアキの初恋は玉砕したわけだが・・・無論、アキ自身はアホの子なので全く気がつかないのである。
アホの子をこよなく愛する人々は涙を流しつつアウトの赤い旗を掲げるのであった。
制服から滴り落ちる水滴は時の涙なのである。
かわいいよ、アキかわいいよなのだな。
一方、北鉄では存立の危機に追い込まれた大吉があせっていた。
「廃線ってどういうことですか」
「いや・・・決定したわけじゃないよ・・・そういう話がね・・・出たってだけで」と応じるのは岩手県議会議員であり、ヒロシとユイの父である足立功(平泉成)である。
「誰がそんなことを・・・」
「市長だよ・・・彼はモータリゼーション推進派だから・・・」
「しかし・・・北三陸の足がなくなります」
「バスで賄えるそうだ」
「バスガス爆発」とバスを呪う吉田だった。
そこで・・・大吉は・・・かって足立議員と勉が話していた「雪景色の北鉄・お座敷列車構想」を想起する。
「アキちゃんと・・・ユイちゃんを」
「また・・・あの娘たちに頼る気」と血相を変える春子だった。
「今度だけだから・・・」と哀願する大吉だった。
「とにかく・・・アキは三月一杯でアイドル活動やめさせますから」
「どうです・・・足立先生・・・」と春子を無視して必死の形相の大吉である。
「お座敷列車か・・・もうかるよ・・・もりあがるよ・・・」
足立先生・・・なんだか生臭いぞ。
緊急招集されたアキとユイ。アキはずぶ濡れの制服をジャージに着替えて・・・真っ赤な真っ赤な女の子サービスである。
「というわけで・・・お座敷列車でアキちゃんとユイちゃんが・・・日頃の感謝の思いを伝えます・・・実行までのドキュメントを・・・」と大吉。
「5時だべわんこチャンネルで特集します」と岩手こっちゃこいテレビのディレクター・池田一平(野間口徹)がすでにカメラを回しているのだった。
「北鉄に畳をひいてお座敷に改造するの」と説明する観光協会の栗原しおり(安藤玉恵)・・・。映画「探偵はBARにいる」のお色気担当がこの辺りから助走を始めています。
「北鉄に誰か住むのけ?」とアホの子で快調に飛ばすアキ。
「座敷わらし・・・座敷わらしが走るんでしょ」と必死に対抗するユイだった。
「私・・・そんなに難しいこと言った?」
「今の座敷わらしの件はカットでお願いします」とボケに失敗したことを冷静に判断するユイだった。
「そこで・・・君たち二人には・・・」とヒロシが口を出す。
「JJガールズで~す」とどうやら一月に練習したらしい二人。
「その・・・JJガールズには・・・」
「なんだか・・・JJガールズってださくない」とユイ。
「どうして・・・」
「なんだかお兄ちゃんが口にしたら急にださく思えて来た」
「なんだとっ」
「なに・・・きれてんのよ」
「きれてない」
長州小力をはさみながら兄妹喧嘩を始める二人を諌める足立先生。
「そういうことは家でやりなさい」
突然、泣きだす大吉。
「どうしたんですか」
「みんなが・・・北鉄のために・・・あんなに熱くなってくれていると思うと泣けて来た」
茫然とする一同だった。
「とにかく・・・女子高校生なんでお酌とかはできませんが・・・」
「なんだ・・・つまらんな」と足立先生・・・娘の前なのに生臭いのだった。
「ゲームをしたり・・・最後に歌を・・・」
「歌ですって・・・」と会議場はスナック「梨明日」にチェンジする。
すでに懸命に選曲を開始するユイである。
「おら・・・じいちゃんの送別会でママが歌った歌がいい」とアキはユイの家でネットから合法ダウンロードした「潮騒のメモリー」が携帯音楽プレーヤーに入っていることを示すのだった。
「あなた・・・歌えるの・・・小学校の学芸会以来じゃない・・・」何故か・・・難癖をつけ始める春子だった。まだまだ心の傷は深いらしい。
「歌えるもん・・・」と意地を張るアキ。
♪・・・来てよ その火を 飛び越えて
砂に書いた アイ ミス ユー・・・
何とも言えない・・・アキのはじめてのカラオケだった。
木曜日 さよなら、初めて好きになってくれた人(小池徹平)
スナック「梨明日」でアキが歌い終わると吉田はつぶやく。
「なんか・・・笑えるほど下手ではないっていうか」
「ありがとうございます」
「いや・・・誉めてないぞ」
しかし、勉だけは熱狂的な拍手を送るのだった。
そこへ弥生(渡辺えり)がやってくる。
「誰が歌ってたの・・・ジャイアンリサイタルかと思った・・・あ、アキか」
口をとがらせるアキ・・・気不味い雰囲気にユイが割り込む。
「あの・・・私の歌も聞いてください」
流れ出す「時をかける少女/原田知世」(1983年)・・・。
「これは期待できそうだ・・・」
「なにしろ妹はボイス・トレーニングのレッスン受けてますから」
♪・・・あなた私のもとから
突然消えたりしないでね・・・
これは・・・原田知世のものまねとしてはかなり完成度が高いけどな~。
特に体の揺れ方・・・ポリゴンのお人形さんみたいだ・・・。
頭をかかえるスタッフたち・・・。
しかし、勉さんは熱狂。笑顔で応えるユイだった。
「もうとにかく・・・明日からここで特訓だ」と急に張り切りだす弥生。
「弥生さん・・・」
「弥生さんはね・・・北三陸の越路吹雪って呼ばれているのよ」と春子。
♪・・・あなたの燃える手で
私を抱きしめて・・・
越路吹雪が「愛の賛歌」を紅白歌合戦で歌ったのは1969年のことだった。渡辺えりは当時、中学生である。
こうして・・・歌の特訓が始ったのだった。
アキは高音になると白目をむく・・・ユイは基本的に声量に問題があるという設定らしい。
三月になり・・・アキは不安だった。
種市先輩があの日から素っ気ないのである。
授業で指導にきてくれた種市先輩の排気のための首ふり運動も上手くまねられず、ビートたけしのものまねになってしまうのだった。
「だれが肩をゆすれって言った・・・コマネチか」とツッコむ磯野先生。
アキのビートたけしのものまねも片手コマネチ付でかなりの完成度の高さだった。
アキからそのことを聞かされたユイは種市先輩に待ち伏せ攻撃をかけるのだった。
壁にもたれて潜むユイはかなり妖艶である。
「なんで、アキちゃんに・・・努力すればいいってもんじゃないなんて往ったの」
「それは・・・そっちが・・・」
「そっちってなによ。ずぶんのことはずぶんって言ってそっちって・・・私は場所かっ」
「じゃ・・・ユイ・・・」
「・・・はい・・・」
「俺と・・・」
アキの失恋のダメ押しであり・・・次なる喪失の前触れだった。
今日も「歌の特訓」は続く。しかし・・・種市先輩の呼び出しに応じて飛び出すアキだった。
「どうしたの・・・」
「デート・・・デート」
「デートって・・・」ユイの表情は曇るのだった。
そして・・・ヒロシは蒼ざめるのである。
ヒロシが観光協会に立ち寄ると・・・そこには幻のサウンドに乗って「Get Wild/TM NETWORK」(1987年)を踊る栗原しおりの姿があった。
「あの・・・違うんです・・・これは・・・あの・・・すごく開放的な気分になって・・・頭の中に音楽がシティー・ハンター的に・・・死にたい・・・」
一方、アキと種市先輩は改装中のお座敷列車の車庫に来ていた。
「勝手に入っていいのか」
「下見ですから・・・」
「下見って」
「ここで・・・ユイちゃんと二人で歌うんです」
「お前たち・・・本当に仲がいいのな・・・」
「最初に会った時は近寄りがたくって・・・ここで本を読んでて・・・話してみたら気が合って・・・親友になりました・・・」
「天野・・・大事な話があるんだ・・・」
その時、突然消える証明。
「キャッ・・・」と種市先輩に飛び付くアキだった。
吉田が車庫を閉めたのだ。
折しもスナック「梨明日」ではデート場所談義が・・・。
勉「ないよなあ・・・国道沿いはモーテルばっかだし」
春子「ちょっとやめてよ・・・高校生いるんだかから」
ユイ「別に平気ですよ」
保「デートかあ・・・モーテルしかないよな」
春子「ちょっと・・・」
ユイ「平気です」
吉田「モーテル」
春子「ちっ」
ユイ「ちょっとイラっとしてきた」
そして・・・ヒロシは・・・「飲みませんか」としおりを誘う。
これはもう・・・二人は国道沿いに向かって・・・。
錯綜する場面。スナック「梨明日」の話題は東京のデートスポットに・・・。
保「東京だと原宿とか・・・」
春子「東京にいると・・・原宿とか・・・特にはねえ」
ユイ「原宿には裏と表があるって本当ですか。芸能人は裏に住んでいるんですよね。クレープ屋で並んでいるとスカウトされるんですよね」
春子「それは・・・どうかな」
ミズタク「クレープ屋周辺はキャッチも多いから気をつけた方がいい」
ミズタクを見つめるユイ。
車庫に閉じ込められた二人。一斗缶でたき火である。
突然、「潮騒のメモリー」を歌い出すアキ。
「おい・・・アキ」
「この歌・・・ユイちゃんと歌うんです」
「たまげた・・・ぶっ壊れたかと思ったべ・・・」
「潮騒のメモリーっていうんです」
「潮騒って三島由紀夫の小説だべ。火を飛び越えてこいってその中のセリフな。火を飛び越えて恋人同志が抱き合うんだ・・・」
予告編のこの場面・・・すっかり妄想シーンと思いきや・・・現実である。ものすごくもっていった感じがあります。してやられてますな。
その時、突然鳴りだす携帯電話の呼び出し音。吉田の忘れものだった。
あわてて・・・携帯電話を拾う・・・種市先輩。
ふりむけばアキがたき火の向こう側にいる。
「先輩、アキは今、たき火を飛び越えて・・・先輩の腕の中に飛び込みます」
「おい・・・天野・・・それは違・・・」
「アキ、いきまあす」
助走に入ったアキ。しかし・・・忘れ物を取りに来た吉田が三倍のスピードで追い抜いていく。
その頃、スナック「梨明日」では大吉が「ジャンプ/ヴァンヘイレン」(1984年)を披露していった。
「ああああああああああああああああ」
「おらをおしのけて・・・」
「ジャンプ!」
勢いで種市を突き倒す吉田。
携帯ライトで照らす先には「火の用心」のポスターが貼られていた。
「すみません・・・」と謝罪する種市先輩。
こうして・・・アキの潮騒ジャンプは未遂に終わったのだった。
とにかく・・・アキの中ではせつない恋心が爆発寸前らしい。
その気持ちを抑えきれないアキがかわいいよ、アキかわいいよなのである。
金曜日 さよなら、はじめての親友(橋本愛)
相変わらず白目が治らないアキだった。
「ユイちゃんはもっと声を張れ・・・アキはもっと押さえろ」
弥生の歌唱指導にも熱がこもる。
「アキ・・・いい加減に白目直しなさいよ・・・テレビに映せないわよね」と春子。
「ギリギリアウトですね」と池田ディレクター。
何故かレッスンをじっくりと観察するミズタク・・・。
3月18日に運行が決定した開通25周年記念のお座敷列車。
その日は北三陸高校の卒業式の翌日で・・・種市先輩の上京の日でもあった。
お一人様5000円のチケットは発売数時間で完売し、臨時便の増発が決定。三往復でのべ210名の乗客を動員。売り上げは105万円で・・・スパルタンXでプロジェクトAの大吉は悪い笑顔が止まらないのだった。
そして・・・会議に遅刻してきたヒロシとしおりは吉田に関係を疑われる。
「昨日と同じ服で同伴出勤、お二人は出来ているんですか」
「・・・」
「そんなのどうだっていいでしょう」
ちょっと不満そうなしおりだった。
そんな生臭いカップルを完成間近のジオラマの山の青葉は静かに見つめるのだった。
歌うことの難しさに悩む「潮騒のメモリーズ」のユイ。
「上手く歌おうとしすぎてもダメだし・・・下手過ぎれば寒いし・・・難しいのよねえ」
悩み過ぎである。一方のアキは携帯電話をチェック中。
「でも・・・おら・・・楽しみだ・・・」
「楽しみ・・・」と何かのスイッチが入る。
「だってきれいな景色みながら北鉄さ乗って、歌を歌ったりするんだべ・・・楽しいに決まってる・・・ああ、種市先輩も見に来ればいいのに・・・先輩は東京さ行くけど・・・いつか帰ってくるって言うし・・・」
「ちょっと・・・もっと真面目にやってよ。アキちゃんにとっては青春の思い出作りかもしれないけど・・・あたしにとってはこれがスタートラインなんだ・・・遊びじゃないんだーっ」
ユイにはじめて怒鳴られたアキはびっくりしてしまうのだった。
「・・・ごめん」
「・・・あ・・・私の方こそ・・・ごめんなさい。今のなしにして・・・また・・・やっちゃった・・・私、いつもこうなのよね。本番に弱いっていうか・・・プレッシャーに弱いっていうか・・・てんぱっちやって・・・本当にごめん・・・」
「あの・・・おら・・・」
「おい・・・大丈夫か」観察していた大吉が二人に声をかける。
「あ・・・あのなんでもねえ」と精一杯とりつくろうアキ。
「電車くるぞ・・・」
「うん」
「アキちゃん・・・ちょっと一人になりたいから・・・先に帰って・・・」
「・・・うん」
親友のアキに怒鳴られてうろたえまくるアキ。なにしろ・・・アキにはユイがなぜ怒っているのか理解できないのである。
(潮騒のメモリーズってグループ名が気に入らないのかなあ)
いろいろと考えるアキは気が着くと帰宅。気が着くと秘密の小部屋に。
(ひょっとして浮かれて種市先輩の話したから・・・)
しかし、種市先輩の顔を思い出すとたちまち気分がなごむアキだった。
スーパー早打ちで「友達とケンカして凹んでます」とメールを送信するアキ。
しかし・・・待てど暮らせど返信はないのだった。
階下から母の呼ぶ声がする。
ユイの母の足立よしえ(八木亜希子)が来ていた。
「なんで・・・」
「これ持ってきてくれたの・・・」と春子は潮騒のメモリーズの手作り衣装を見せるのだった。
「サイズ直すので・・・」
「早く着てみて・・・」
母親に急かされて着替えるアキ。
「サイズどうかしら・・・」
「ピッタリです」
「でも・・・ちょっとスカート短いかしらね・・・パンツが見えたら大変だし」
「見せパンはいとけば大丈夫よ・・・アキ、そうしなさい、見せパンはきなさい」
「これ・・・デザインもユイちゃんのお母さんが・・・」
「ううん・・・ユイが絵を描いたのよ」
ユイが描いたデザイン画を披露するよしえだった。
「ユイはねえ・・・アキちゃんにとっても感謝してるのよ・・・毎日歌ってるしね・・・あの子も殻をこわそうと頑張ってたけど・・・あの顔でしょ・・・お人形さんていうか、蠟人形の舘みたいな。でもアキちゃんがいてくれて信じられないような恥ずかしいことを平気でするから自分も恥ずかしさを忘れられるみたいな・・・ユイと友達になってくれて本当にありがとう」
「友達・・・友達・・・うばっ・・・」
感激のあまりジャイアント・ロボ化するアキだった。
泣きだしたアキをなだめる春子とよしえ・・・すっかりママ友である。
「え・・・おら・・・え・・・がんばる・・・え・・・」
「ほら・・・そんなとこで鼻水拭かないで・・・泣くなら衣装着替えなさい」
「ちょっと待ってユイに写真送るから・・・あの子喜ぶと思うのよね」
「いいわね。撮ってもらいなさい、撮ってもらいなさい」
「え・・・おら・・・え・・・おら・・・ありがと・・・え」
秘密の部屋に戻り、ユイに電話するアキ。
「うん・・・送られてきたよ」
「変な顔してるでしょ・・・」
「うん・・・変な顔・・・お母さんはもう帰った」
「ううん・・・下で振付の練習している」
ピンクレディー世代の二人の母親はノリノリだった。
「私たちも踊るの?」
「おら・・・明日から・・・もっと頑張るから」
「ううん・・・いいのよ・・・アキちゃんは今のままで・・・」
「じゃ・・・また明日」
「うん」
電話を終えたユイは立ちあがる。
駅には・・・種市先輩が待っていた。
「おまたせ・・・」
そして二人は国道方面に消えて行ったのだった。
いつまで待ってもアキには返信が届かない・・・。
こうして・・・アキは大好きな祖父、アキを大好きな父、初恋の人、アキを初めて好きになった人、そして親友をすべて失ったのだった。北三陸でアキが掴んだ幸せをすべて失くしたようなものである。まさに・・・ふりだしにもどる。
そして恐ろしい事にそのことにアキは全く気がついていないのである。
そして・・・「信じられないことばかりあるの」・・・なのである。「もしかしたらもしかしたらそうなのかしら」・・・なのだった。ああ・・・どうなる・・・ビューティーペアの駆け巡る青春。
お昼のリアクション担当高瀬アナウンサーも眉をひそめ唇をかみしめる展開である。
土曜日 世界の裏側でアキが叫ぶ(能年玲奈)
ある晴れた日の午後・・・アキはかわいい北三陸鉄道を自転車で抜き去っていた。
世界では同時多発的にあらゆることが起きている。
今、この瞬間に生まれるものがいれば死ぬものもいる。
世界を滅亡させるスーパーフールのウイルスが今、突然変異を起こしたのかもしれないし、街角の向こうに未来の恋人が佇んでいるかもしれない。
同じように見える出来事も視点を変えればまったく違う意味を持つかもしれない。
ドラマではありふれた趣向だが・・・クドカンはその名手である。
「木更津キャッツアイ」では巧妙に世界の裏表が仕組まれていた。
今、アキは自転車を疾走させている。それには理由がある。
アキが現実だと思っていた世界のその裏側にアキとともにお茶の間は導かれていくのです。
お座敷列車の出発進行まで残り一週間。雪深い北三陸にも春の気配が忍びよっていた。
春は恋の季節である。大吉はついにフリーになった春子に猛然とアタックをする。
「今夜、お座敷列車の試運転に・・・春ちゃんを招待したい・・・」
しかし・・・春子にはまったくその気がないのである。いや・・・その気があったとしても・・・その気があるのかどうか・・・全く読めない女・・・それが春子なのだ。
しかし、大吉のアプローチは吉田が「世界で一番有名なネズミ」に似ているかもしれないネズミの絵をお座敷列車車両に発見したことでチャラになるのだった。
試運転中止である。
ネイルアートで小指が「白」のしおりはヒロシといい感じになっている。
ヒロシが退廃的な感じなのかどうかはもはや不明な感じになっている。
そして・・・不倫、略奪愛、駆け落ちのキャリアを持つ美寿々は自称年上好きのミズタクに狙いを定め・・・せっかくの弟子を奪い取られないかと勉の心に波風をたてるのであった。
そういう恋の風が吹き始めている北三陸で・・・アキとユイは振付の練習に集中しているのだった。
春子が「そこはもっと激しい方がいいんじゃないの」と口出ししても・・・「そんな相撲みたいなポーズはいらない」と聞く耳もたないアキだった。
生れてからずっとサンタがいないとは思わないアキである。世界には一度もクリスマスプレゼントをもらえない子がいるとは夢にも思わない幸せな子供。
いじめられているのに気がつかないある意味幸せな子供。
好きな人に好きな人がいるなんて思いもつかないとんでもなく幸せな子供である。
「ユイちゃんは・・・高校卒業したら東京行くの・・・」
「うん」
「いいなあ・・・」
「アキちゃん・・・東京は嫌いなんじゃ」
「うん・・・でも、今、ちょっぴり懐かしい・・・」
「種市先輩・・・」
「うん・・・でも・・・今更、東京に戻るなんて言えないし・・・おら、遠距離恋愛なんかできるんだろうか」
「・・・種市先輩の気持ち・・・確かめた方がいいよ・・・あの人、なかなか本音を言わない人だから・・・」
「え」
なんでユイがそんなことを言うのか・・・全くわからないアキだった。
ユイはいろいろな意味で言いたいことが言えず・・・困り果て・・・退散するのである。
だから・・・アキは種市先輩を準備室に呼び出すのだった。
それは夢にまで見た・・・告白のシーンである。
「あの先輩・・・おら・・・先輩のことが好きだ」
夢と違って告白するのはアキだった。
「そうか・・・ありがとう・・・」
「だから・・・先輩が東京に行く前に・・・安心してえ・・・正式に付き合ってるって先輩の口から聞きたい」
「それは・・・無理だ」
「じぇ・・・」
「天野の期待にはこたえられない」
「そう・・・そうだよね・・・せっかく東京さ行くのに・・・故郷に彼女がいちゃ・・・重いから」
「それは違う・・・好きな子がいる・・・そう言えば誰だかわかるべ」
いや・・・種市・・・それはアキには無理な相談だ。
「わかんね」
「ユイだ・・・俺はユイが好きなんだ。っていうかユイとつきあっている。もうバリバリ交際中だ・・・」
「そんな・・・いつから・・・」
「あれは・・・俺が高校二年のことだ・・・電車で見かけてバリバリ可愛くておったまげた」
「そんなに前から・・・」
「でも・・・学年も違うし・・・話すきっかけもないし・・・遠くから見ているだけでいいと思っていた」
「おらと同じ・・・」
「そしたら・・・天野がやってきて・・・一緒にユイが来て・・・話せるようになってバリバリうれしかった・・・」
「じぇ・・・」
「クリスマスの日に・・・俺の態度が煮え切らないと怒られた」
「じぇじえ・・・」
「そして・・・お座敷列車の下見をした日・・・思い切って告白した」
「じぇじぇじぇ・・・」
もはや立っていられないほどの衝撃を感じるアキだった。
あの日・・・種市先輩は・・・。
「俺とつきあってくれ」と言った。
「そんなの無理」とユイは言った。
「アキのことがあるから・・・我慢しようと思った。でも、アキがいるからユイと付き合えないのはアキに失礼だと思った。だって・・・それはアキさえいなくなればと思うのと同じだから」
「やっぱり無理よ」
「・・・」
「東京・・・どこに住むの・・・練馬とか・・・」
「お台場だ・・・会社の寮があるから・・・」
「・・・お・・・お台場・・・」
ユイは目がくらんだのだった。
「いいわ・・・つきあう・・・でも・・・アキちゃんには内緒よ・・・それから・・・付き合うのは東京に行ってから・・・」
それから何があったのか・・・アキには記憶がない。
ただ「ばか~」と叫んでいた。
先輩を好きになったなら・・・先輩も好きになってくれると思っていたアキ。
今、アキは世界が残酷な顔をしていることを生まれて初めて知ったのである。
アキの漕ぐ自転車は物理の法則を越えて離陸し、滑空を始める。
これは夢・・・それとも幻・・・。
(種市先輩の馬鹿。ユイちゃんのバカ。私のバカバカバカ~)
そして・・・アキは・・・またもまたもまたも海に落ちちゃいました。
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